ドン・キホーテの創業者安田隆夫会長の自伝的ビジネス書。
ドン・キホーテの安田隆夫会長とイオンの岡田元也社長がトップ会談を行い、ドン・キホーテが買い集めた約46%のオリジン東秀株を、いわゆるホワイトナイトとしてTOBを掛けていたイオンに売ることを決定した。
多くの人が驚いた決着ではなかったかと思う。
筆者も驚いたが、このブログでドン・キホーテの安田隆夫会長が目指している標語を紹介していたので、なるほどと思う部分もあった。
それは下記で紹介している『粗にして野だが卑ではない』という言葉だ。
オリジン東秀の全店舗に、ドン・キホーテによる乗っ取り反対というビラが貼られる状態となったので、このままではオリジン東秀の従業員を敵に回してしまうことになり、安田会長が目指している『主権在現』が、とても実現できないと判断したのだろう。
そのまま強引に金任せで買収していては、乗っ取り屋=『卑』となってしまうおそれがあった。
山頂寸前で名誉ある撤退を選んだ安田会長の『美学』を理解するには、この『粗にして野だが卑ではない』という言葉が最も適当ではないか。
そんなことを感じさせられる展開だった。
ドン・キホーテ 闘魂経営
著者:安田 隆夫
販売元:徳間書店
発売日:2005-08-31
おすすめ度:
クチコミを見る
圧縮陳列、深夜営業で人気のディスカウントストアチェーンドン・キホーテの創業者安田隆夫氏の自伝的経営論。
安田さんは昨年ドン・キホーテの社長を後進に譲ったので、かなり年輩かと思っていたが、まだ56歳だ。
ドン・キホーテというと業界の異端児といった型破りのイメージが強く、タイトルも『闘魂経営』とか、『ケンカ商法』とか付いてはいるが、やはり消費者相手の商売の基本は変わらないのだと実感でき、面白く読める好著である。
オリジン東秀へのTOB
安田さんは昨年ドン・キホーテの社長を退きCEOとしてドン・キホーテグループの業容拡大に励んでおり、最近ピンクの看板のオリジン弁当のオリジン東秀にTOB(敵対的買収)をかけたことで一躍有名になった。(毎日インタラクティブの記事参照)
筆者はオリジン東秀の唐揚げチキンが好きで、時々買っている。ドン・キホーテの様に権限委譲が実現し、それぞれの店が定番メニューのほかに、自前の弁当メニューを出したら、さらに繁盛するのではないかと思っているが、はたしてどう展開するのか?
オリジン東秀のTOBはジャスコがホワイトナイトとして登場し、ドン・キホーテの買収提案金額を上回る友好的買収条件を提示したので、今後の安田さんの対応が注目される。
セブンイレブンの鈴木敏文さんとの共通点
この本を読んでいて驚くほどセブンイレブンの鈴木敏文さんとの共通点があることを感じた。安田さんは「小売業にとって最良の教師はお客様であり、現場は最高の教室だと確信している」と言う。
このブログでも鈴木敏文さんの『本当のようなウソを見抜く』とか、『商売の原点』、『商売の創造』を紹介しているので、ご興味のある方は見て頂きたい。
表現の違いこそあれ、消費者相手の商売の原点は同じなのだ。
カーネギーとの共通点
鈴木さんは「お客の立場に立って考える」と言い、安田さんは「自分を主語にするのではなく、相手を主語にして考えてみる。そうすると目からウロコが落ちて、今まで見えなかったものが、鮮明に浮かび上がってくる」と言っている。
安田さんは相手の立場に立って考えるということの説明のために、「主語は『自分』でなく『相手』に置け」という一つの章まで書いている。
これはカーネギーの『人を動かす』基本だ。
このブログでカーネギーに影響された有名ビジネスマンの藤田晋さん、角川秀樹さん、新将命さんなどを紹介したが、相手の立場に立つというのはまさにカーネギーの教えそのものである。
十字架を背負うが挑戦はやめない
2004年末に放火でドン・キホーテの従業員3名がなくなった事件が起き、茫然自失していた時に、ご遺族に「社長さん、うなだれてないで頑張ってください。悪いのは放火犯です。ドン・キホーテがこれでダメになってしまったら、それこそ兄は犬死にじゃないですか」と言われた。
十字架は背負うが、挑戦は辞めないと決意したのだと。
安田隆夫さんとドン・キホーテの軌跡
安田さんは1949年岐阜県大垣市に高校教師の家庭に生まれた。やんちゃな問題児でガキ大将だった。田舎から脱出するため慶応大学法学部に進学したが、金持ちの師弟揃いの同級生に強烈な劣等感と挫折感を抱く。
「サラリーマンになったら、永久にこいつらには勝てないだろう。」と思い、みずから起業して経営者になるしかないと決意する。
大学にはほとんど行かず、ボクシングジムに通い詰めたが、子供の時のケガが原因で片目の視力が低下しており、プロテストが受けられず2度目の挫折を味わう。
卒業し小さな不動産会社に就職したが、2年目で倒産。それ以降長く無頼の時期を過ごす。
新聞勧誘員のアルバイトなどをしながら、麻雀プロとして麻雀漬けの日々を過ごし、100戦すれば95勝以上はかたいというほど腕を上げたが、これではいけないと一念発起して、29歳の時に『泥棒市場』という小さな雑貨店を東京杉並に開店。
商売もやったことがなく、知識ゼロ、経験ゼロ、人脈ゼロでスタートし、質流れ品、サンプル品とか廃番品とかを激安価格で売り、苦肉の策として深夜営業までする『流通業の禁じ手のデパート』の様なものだったが、これで現在のドン・キホーテの原型ができた。
次にバッタ品の問屋を始めるが、最初の経験を生かすべく小売業に再参入し、府中にドン・キホーテ1号店を開店する。
ドン・キホーテの初期の苦闘
泥棒市場の経験を元に、流通業界という巨大な風車を相手に、たとえ孤軍奮闘でも突進するということで、ドン・キホーテという名前を付けたが、立ち上がり当初の数年は赤字で大苦戦する。
泥棒市場で成功した圧縮陳列を使って、『買い物の面白さ』が味わえる買い場創りを従業員に伝授しようとするが、どうしても伝わらない。
今思えば、長嶋監督が高校球児相手に「ボールをキッとにらみつけて、ググッと引き寄せてから、こうしてビュンと振り抜くんだ。どうしてできないの?」と指導していた様なものだったと。
あきらめて、もうどうにでもなれという気持ちで、教えるのではなく、丸投げして自分ですべてやらせることにしたことが、ドン・キホーテ経営の要の権限委譲のはじまりだ。しかし、これも苦肉の策だった。
最初の4年間は失敗と苦労の連続だったが、ドン・キホーテを今日の成功へと導いた要素がすべて凝縮されていると。
いくつか印象に残った点を紹介しておこう。
成功を掴むのは「勝ち」に敏感で貪欲な人
ビジネスは野球やサッカーのように1点差でも勝てばいいという戦いではない。どこまでも点の総量を競い合うエンドレスゲームだ。
自力で掴んだ幸運なら、その上昇気流に乗って強気にアクセルを踏み続け、いけるところまで一気に駆け上がらなければならない。
幸運時は幸運を120%使い切るつもりで、攻めに攻めて大量得点すべきで、もうこれくらいでいいやと守備固めに回ってはいけない。
本当に守らなければならない時の兵糧をせっせと稼いでおくべきなのである。
セブンイレブンの鈴木さんも欠品、機会損失を厳しく戒め(いましめ)ており、IT業界のCAキャピタルの西條さんのブログでも機会損失について語られていたが、安田さんも機会損失を強く戒める。
勝ちに敏感かつ貪欲な人がビジネスでは大きな成功を収めるのだ。
まず『はらわた』力を磨け
ドン・キホーテの成功の理由は「ひたすらお客様のニーズと時代変化という現実に、必死になって食らいついてきただけ」だと。
必要なのは『はらわた』である。
『はらわた』とはもがき苦しむ力であり、紆余曲折しながらも最後に這い上がろうとする一念であると。
勝つまで辞めない。これが『究極の必勝法』である。
ガッツあるいは信念と呼ぶべきか?
『はらわた』とは泥臭い言い方であるが、ベンチャー企業はただでさえ数%しか成功しないのだから、絶対できると信じ、勝つまで辞めないという強い信念が不可欠だ。
なぜ「第2のドン・キホーテ」が出ないのか?
深夜営業、スポット仕入れ、圧縮陳列などドン・キホーテの売り方はなにからなにまで常識はずれだが、極め付きは大胆な権限委譲のマネージメントそのものであると。
ドン・キホーテでは入社数ヶ月から1年の新入社員にも仕入れから値付け、陳列に至るすべての権限を与えており、店長ですら口を挟めない。
任せる金額も半端ではない。月2千万円程度をすべて買い切りで仕入れるのだ。
人は権限を与えられると、それに比例して責任感も思考力も判断力も自己管理能力も増大する。どうすれば売れるのか必死で考えるのだ。
様々な失敗と試行錯誤を繰り返すことによって、頭脳が活性化され、知恵が生まれ、さらに感性が磨かれて、お客様の心の動きを察知する洞察力が生まれるのだと。
ドン・キホーテは社員ではなく、商人を育てるのだ。
ドン・キホーテは本給一本の半年俸制で、自己申告した目標達成度の自己評価と、直属上司による評価によって本給が決まる。業績と待遇が完全リンクする賃金体系を取っているのだ。
従業員1,700人、パート・アルバイトを入れれば5,000人の大企業でありながら、個人商店の集合体が会社となっている。その個人が自ら成長し、他人と競い合いながら成長することで、企業としてのドン・キホーテの発展につながっていくのだ。
粗にして野だが卑ではない
昭和38年に78歳でヤング・ソルジャーと自称して国鉄総裁となった財界の重鎮石田礼助氏を描いた城山三郎氏の小説で有名な言葉だが、この本でこの言葉が出てくるとは思わなかった。
粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫)
著者:城山 三郎
販売元:文藝春秋
発売日:1992-06
おすすめ度:
クチコミを見る
安田さんはドン・キホーテが株式公開する前に会社のルールとして『御法度五箇条』を決めた。それは1,公私混同の禁止、2.役得の禁止、3.不作為の禁止、4.情実の禁止、5.中傷の禁止から成っている。
店頭はあやしげで猥雑だが、経営はクリーンで行こうとして、この五箇条を決めたのだ。めざすは『粗にして野だが卑ではない』であると。
この他にも参考になる話が満載である。いくつかタイトルだけ紹介すると:
小売業=大衆演劇論
理論や理屈でなく感性を磨け
ドンキ流EQ(Emotional Quotient=心の知能指数)経営とは?
流通心理学を確立せよ!
仕事より趣味が楽しくなったら即リタイアすべし
勝つまでやめない!
異色の経営者が本音で語っているが、決して奇をてらった本ではない。面白く、参考になる本である。一読をおすすめする。
参考になれば次クリックお願いします。
ドン・キホーテの安田隆夫会長とイオンの岡田元也社長がトップ会談を行い、ドン・キホーテが買い集めた約46%のオリジン東秀株を、いわゆるホワイトナイトとしてTOBを掛けていたイオンに売ることを決定した。
多くの人が驚いた決着ではなかったかと思う。
筆者も驚いたが、このブログでドン・キホーテの安田隆夫会長が目指している標語を紹介していたので、なるほどと思う部分もあった。
それは下記で紹介している『粗にして野だが卑ではない』という言葉だ。
オリジン東秀の全店舗に、ドン・キホーテによる乗っ取り反対というビラが貼られる状態となったので、このままではオリジン東秀の従業員を敵に回してしまうことになり、安田会長が目指している『主権在現』が、とても実現できないと判断したのだろう。
そのまま強引に金任せで買収していては、乗っ取り屋=『卑』となってしまうおそれがあった。
山頂寸前で名誉ある撤退を選んだ安田会長の『美学』を理解するには、この『粗にして野だが卑ではない』という言葉が最も適当ではないか。
そんなことを感じさせられる展開だった。
ドン・キホーテ 闘魂経営
著者:安田 隆夫
販売元:徳間書店
発売日:2005-08-31
おすすめ度:
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圧縮陳列、深夜営業で人気のディスカウントストアチェーンドン・キホーテの創業者安田隆夫氏の自伝的経営論。
安田さんは昨年ドン・キホーテの社長を後進に譲ったので、かなり年輩かと思っていたが、まだ56歳だ。
ドン・キホーテというと業界の異端児といった型破りのイメージが強く、タイトルも『闘魂経営』とか、『ケンカ商法』とか付いてはいるが、やはり消費者相手の商売の基本は変わらないのだと実感でき、面白く読める好著である。
オリジン東秀へのTOB
安田さんは昨年ドン・キホーテの社長を退きCEOとしてドン・キホーテグループの業容拡大に励んでおり、最近ピンクの看板のオリジン弁当のオリジン東秀にTOB(敵対的買収)をかけたことで一躍有名になった。(毎日インタラクティブの記事参照)
筆者はオリジン東秀の唐揚げチキンが好きで、時々買っている。ドン・キホーテの様に権限委譲が実現し、それぞれの店が定番メニューのほかに、自前の弁当メニューを出したら、さらに繁盛するのではないかと思っているが、はたしてどう展開するのか?
オリジン東秀のTOBはジャスコがホワイトナイトとして登場し、ドン・キホーテの買収提案金額を上回る友好的買収条件を提示したので、今後の安田さんの対応が注目される。
セブンイレブンの鈴木敏文さんとの共通点
この本を読んでいて驚くほどセブンイレブンの鈴木敏文さんとの共通点があることを感じた。安田さんは「小売業にとって最良の教師はお客様であり、現場は最高の教室だと確信している」と言う。
このブログでも鈴木敏文さんの『本当のようなウソを見抜く』とか、『商売の原点』、『商売の創造』を紹介しているので、ご興味のある方は見て頂きたい。
表現の違いこそあれ、消費者相手の商売の原点は同じなのだ。
カーネギーとの共通点
鈴木さんは「お客の立場に立って考える」と言い、安田さんは「自分を主語にするのではなく、相手を主語にして考えてみる。そうすると目からウロコが落ちて、今まで見えなかったものが、鮮明に浮かび上がってくる」と言っている。
安田さんは相手の立場に立って考えるということの説明のために、「主語は『自分』でなく『相手』に置け」という一つの章まで書いている。
これはカーネギーの『人を動かす』基本だ。
このブログでカーネギーに影響された有名ビジネスマンの藤田晋さん、角川秀樹さん、新将命さんなどを紹介したが、相手の立場に立つというのはまさにカーネギーの教えそのものである。
十字架を背負うが挑戦はやめない
2004年末に放火でドン・キホーテの従業員3名がなくなった事件が起き、茫然自失していた時に、ご遺族に「社長さん、うなだれてないで頑張ってください。悪いのは放火犯です。ドン・キホーテがこれでダメになってしまったら、それこそ兄は犬死にじゃないですか」と言われた。
十字架は背負うが、挑戦は辞めないと決意したのだと。
安田隆夫さんとドン・キホーテの軌跡
安田さんは1949年岐阜県大垣市に高校教師の家庭に生まれた。やんちゃな問題児でガキ大将だった。田舎から脱出するため慶応大学法学部に進学したが、金持ちの師弟揃いの同級生に強烈な劣等感と挫折感を抱く。
「サラリーマンになったら、永久にこいつらには勝てないだろう。」と思い、みずから起業して経営者になるしかないと決意する。
大学にはほとんど行かず、ボクシングジムに通い詰めたが、子供の時のケガが原因で片目の視力が低下しており、プロテストが受けられず2度目の挫折を味わう。
卒業し小さな不動産会社に就職したが、2年目で倒産。それ以降長く無頼の時期を過ごす。
新聞勧誘員のアルバイトなどをしながら、麻雀プロとして麻雀漬けの日々を過ごし、100戦すれば95勝以上はかたいというほど腕を上げたが、これではいけないと一念発起して、29歳の時に『泥棒市場』という小さな雑貨店を東京杉並に開店。
商売もやったことがなく、知識ゼロ、経験ゼロ、人脈ゼロでスタートし、質流れ品、サンプル品とか廃番品とかを激安価格で売り、苦肉の策として深夜営業までする『流通業の禁じ手のデパート』の様なものだったが、これで現在のドン・キホーテの原型ができた。
次にバッタ品の問屋を始めるが、最初の経験を生かすべく小売業に再参入し、府中にドン・キホーテ1号店を開店する。
ドン・キホーテの初期の苦闘
泥棒市場の経験を元に、流通業界という巨大な風車を相手に、たとえ孤軍奮闘でも突進するということで、ドン・キホーテという名前を付けたが、立ち上がり当初の数年は赤字で大苦戦する。
泥棒市場で成功した圧縮陳列を使って、『買い物の面白さ』が味わえる買い場創りを従業員に伝授しようとするが、どうしても伝わらない。
今思えば、長嶋監督が高校球児相手に「ボールをキッとにらみつけて、ググッと引き寄せてから、こうしてビュンと振り抜くんだ。どうしてできないの?」と指導していた様なものだったと。
あきらめて、もうどうにでもなれという気持ちで、教えるのではなく、丸投げして自分ですべてやらせることにしたことが、ドン・キホーテ経営の要の権限委譲のはじまりだ。しかし、これも苦肉の策だった。
最初の4年間は失敗と苦労の連続だったが、ドン・キホーテを今日の成功へと導いた要素がすべて凝縮されていると。
いくつか印象に残った点を紹介しておこう。
成功を掴むのは「勝ち」に敏感で貪欲な人
ビジネスは野球やサッカーのように1点差でも勝てばいいという戦いではない。どこまでも点の総量を競い合うエンドレスゲームだ。
自力で掴んだ幸運なら、その上昇気流に乗って強気にアクセルを踏み続け、いけるところまで一気に駆け上がらなければならない。
幸運時は幸運を120%使い切るつもりで、攻めに攻めて大量得点すべきで、もうこれくらいでいいやと守備固めに回ってはいけない。
本当に守らなければならない時の兵糧をせっせと稼いでおくべきなのである。
セブンイレブンの鈴木さんも欠品、機会損失を厳しく戒め(いましめ)ており、IT業界のCAキャピタルの西條さんのブログでも機会損失について語られていたが、安田さんも機会損失を強く戒める。
勝ちに敏感かつ貪欲な人がビジネスでは大きな成功を収めるのだ。
まず『はらわた』力を磨け
ドン・キホーテの成功の理由は「ひたすらお客様のニーズと時代変化という現実に、必死になって食らいついてきただけ」だと。
必要なのは『はらわた』である。
『はらわた』とはもがき苦しむ力であり、紆余曲折しながらも最後に這い上がろうとする一念であると。
勝つまで辞めない。これが『究極の必勝法』である。
ガッツあるいは信念と呼ぶべきか?
『はらわた』とは泥臭い言い方であるが、ベンチャー企業はただでさえ数%しか成功しないのだから、絶対できると信じ、勝つまで辞めないという強い信念が不可欠だ。
なぜ「第2のドン・キホーテ」が出ないのか?
深夜営業、スポット仕入れ、圧縮陳列などドン・キホーテの売り方はなにからなにまで常識はずれだが、極め付きは大胆な権限委譲のマネージメントそのものであると。
ドン・キホーテでは入社数ヶ月から1年の新入社員にも仕入れから値付け、陳列に至るすべての権限を与えており、店長ですら口を挟めない。
任せる金額も半端ではない。月2千万円程度をすべて買い切りで仕入れるのだ。
人は権限を与えられると、それに比例して責任感も思考力も判断力も自己管理能力も増大する。どうすれば売れるのか必死で考えるのだ。
様々な失敗と試行錯誤を繰り返すことによって、頭脳が活性化され、知恵が生まれ、さらに感性が磨かれて、お客様の心の動きを察知する洞察力が生まれるのだと。
ドン・キホーテは社員ではなく、商人を育てるのだ。
ドン・キホーテは本給一本の半年俸制で、自己申告した目標達成度の自己評価と、直属上司による評価によって本給が決まる。業績と待遇が完全リンクする賃金体系を取っているのだ。
従業員1,700人、パート・アルバイトを入れれば5,000人の大企業でありながら、個人商店の集合体が会社となっている。その個人が自ら成長し、他人と競い合いながら成長することで、企業としてのドン・キホーテの発展につながっていくのだ。
粗にして野だが卑ではない
昭和38年に78歳でヤング・ソルジャーと自称して国鉄総裁となった財界の重鎮石田礼助氏を描いた城山三郎氏の小説で有名な言葉だが、この本でこの言葉が出てくるとは思わなかった。
粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫)
著者:城山 三郎
販売元:文藝春秋
発売日:1992-06
おすすめ度:
クチコミを見る
安田さんはドン・キホーテが株式公開する前に会社のルールとして『御法度五箇条』を決めた。それは1,公私混同の禁止、2.役得の禁止、3.不作為の禁止、4.情実の禁止、5.中傷の禁止から成っている。
店頭はあやしげで猥雑だが、経営はクリーンで行こうとして、この五箇条を決めたのだ。めざすは『粗にして野だが卑ではない』であると。
この他にも参考になる話が満載である。いくつかタイトルだけ紹介すると:
小売業=大衆演劇論
理論や理屈でなく感性を磨け
ドンキ流EQ(Emotional Quotient=心の知能指数)経営とは?
流通心理学を確立せよ!
仕事より趣味が楽しくなったら即リタイアすべし
勝つまでやめない!
異色の経営者が本音で語っているが、決して奇をてらった本ではない。面白く、参考になる本である。一読をおすすめする。
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