日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書 360)
著者:勝川 俊雄
NHK出版(2011-09-08)
販売元:Amazon.co.jp
ひとことでいうと「乱獲」に他ならない日本の漁業の実態を、するどく解明する三重大学准教授の勝川俊雄さんの本。
勝川さんは、ほかに「漁業と言う日本の問題」などの著書もある。
漁業という日本の問題
著者:勝川 俊雄
エヌティティ出版(2012-04-12)
販売元:Amazon.co.jp
両方読んでみたが、ほぼ同じ内容で、「日本の魚は大丈夫か」では放射能汚染についても触れているので、こちらを買った。ひさしぶりの読んでから買った本である。
勝川さんはYouTubeにも日本の漁業改革について英文で投稿している。説明している内容はこの本とほぼ同じだ。著者の勝川さん自身が吹き込んでいるわかりやすい英語なので、参考になる。
日本の漁業の最大の問題は、「乱獲」
日本では「オリンピック方式」で、日本の漁業者であれば誰でも「よーい、ドン」で参画できる。
それゆえ、いずれ高く売れる成魚になる幼魚でも、逃したら他の誰かが捕ってしまうので、肥料や飼料用にしか売れないような安い値段にもかかわらず、網で根こそぎ捕っていってしまう。
だから漁獲量が年々減少し、漁業者は自分で自分の首を絞めているのだ。
いままで漁業の問題については、韓国漁船や中国漁船が日本の排他的経済水域内に来て、勝手に魚を捕っていくことが問題だと思っていたが、実は乱獲を放置している日本の水産行政が最大の問題だった。
たとえば東シナ海の底曳(そこびき)網漁業の漁獲量の推移は次の通りだ。
出典:本書39ページ
最新の魚群探知機を備えた大型漁船による魚を文字通り「一網打尽」にする底曳網漁法で、漁獲量がこれだけ減少しているということは、漁業資源が乏しくなっていることに他ならない。
漁獲割り当ての絶大な効果
一方、たとえばノルウェーでは次の表のように漁業生産額が毎年増加している。
出典:本書118ページ
日本とノルウェーとの差は、漁獲量割り当てがあるかないかだ。
世界の水産先進国では当たり前の漁獲割り当て
ノルウェー以外でも、世界の水産先進国を見てみると、いまや資源保護のために漁獲割当制が当たり前となっている。
出典:60ページ
つまり漁業も管理漁業の時代になっているのだ。
ノルウェーでは漁船ごとに漁獲枠を配分しているので、他人をさしおいて自分だけ早く魚を捕りにいく必要がない。
だから日本のように早く魚群を見つけるためにエンジンを強化したり、強力なソナーを設置する必要がない。
魚の相場を見て、高く売れそうな時に捕りに行き、魚をできるだけ高く売るために、フィッシュポンプをつけたり、捕った魚を冷やしておく冷凍設備などを充実させている。
たとえばサバで比較してみると、ヨーロッパと日本では大きな差がある。
出典:本書
日本ではサバの漁獲量は激減しており、1970年代のピークの500万トンに比べて、近年では100万トンを割っている。
一方、ヨーロッパはピークの600万トンよりは減ったものの、400万トンくらいで安定しており、近年ではむしろ増加している。
漁獲の年齢構成でも大きな差がある。
日本では1980年ころまでは、漁獲の年齢構成はバランスが捕れていたが、1985年に漁獲高が激減して以降は、ほとんど0〜3歳の魚ばかりで、これでは親となって卵を産む前の幼魚を根こそぎ捕っている状態だ。
ヨーロッパでは、漁獲の大半を5〜6歳以上の成魚が占めており、日本の年齢構成とは大きな差がある。再生産ができる体制が維持できているのだ。
マグロについても同様だ。再生産のできない魚齢のものばかり日本では捕っている。
出典:本書
ノルウェーのニシンは復活、日本のニシンはほぼ絶滅した
ニシンについても、漁獲高が激減した1970年代後半に禁漁措置を取り、資源を増やす努力をした結果、ニシン資源は回復し、それ以降も厳しい漁獲制限を実施している。一方、日本のニシンは乱獲のためにほぼ絶滅した。
魚の価値を高め、高く売るための努力
ノルウェーの漁業者は成魚を中心に漁獲し、魚を高く売る為の努力をしている。
YouTubeに勝川さんがノルウェーの漁業協同組合にインタビューした内容が掲載されているので、紹介しておく。
ノルウェーの漁業協同組合は、漁船から漁獲重量と体重組成の連絡を受け、インターネットのオークションで世界中に向けて売りに出す。
成魚のみ漁獲し、一定基準以下の幼魚は捕らないのだ。
入札参加資格は、水揚げ設備を持っている水産加工場なので、ノルウェー以外にもスコットランドなどの水産会社も入札に参加し、スコットランドの会社が落札すれば、漁船は直接スコットランドに行って水揚げするという形だ。
成魚を最も高く売るシステムができあがっているのだ。
漁協の手数料は0.65%と非常に低い。日本の漁業協同組合が、旧態依然としたセリで魚を売り、セリの参加者同士の談合を見て見ぬふりをしながらも5%の手数料を取ることと大違いだと勝川さんは語る。
イカ釣り漁船の集魚灯
先日の円安による燃料費高騰に抗議して、一部のイカ釣り漁船が一斉に2日ほど休漁することがあった。
日本ではこのようなイカ釣り漁民の苦境が報道されるが、なぜそういった事態になっているのかは報道されない。
日本の漁業は「オリンピック方式」なので、イカ釣り漁船は他の誰よりも早く漁場に到着して、他の誰よりも強力な集魚灯でイカを集めて釣る必要がある。
そのために強力なエンジン、高性能魚群探知機、そして高出力の集魚灯が必要なのだ。だから燃料費が高騰すると、たちまち採算割れという事態に陥る。
集魚灯も現在はLED集魚灯に変わって、電力消費は減っている。それでも宇宙から日本近海を見ると、集魚灯の明かりで煌々と照らされていることがわかる。(次のビデオの1:28から1:40あたりが日本の夜景)
韓国漁船や中国漁船も中にはいるのかもしれないが、世界中でこれほど明かりをつけて夜に漁をしている地域はない。
そもそもこんな「オリンピック方式」で、高いコストを掛けて、漁獲を競いあって維持可能なのだろうかと思う。
いままであまり知らなかった日本の漁業の問題点がよくわかった。水産庁や漁協の圧力があるのかどうかわからないが、この種の漁業問題を取り上げた本は少ない。
筆者が読んでから買った本の一冊だ。大変参考になると思う。
参考になれば次クリック願う。
著者:勝川 俊雄
NHK出版(2011-09-08)
販売元:Amazon.co.jp
ひとことでいうと「乱獲」に他ならない日本の漁業の実態を、するどく解明する三重大学准教授の勝川俊雄さんの本。
勝川さんは、ほかに「漁業と言う日本の問題」などの著書もある。
漁業という日本の問題
著者:勝川 俊雄
エヌティティ出版(2012-04-12)
販売元:Amazon.co.jp
両方読んでみたが、ほぼ同じ内容で、「日本の魚は大丈夫か」では放射能汚染についても触れているので、こちらを買った。ひさしぶりの読んでから買った本である。
勝川さんはYouTubeにも日本の漁業改革について英文で投稿している。説明している内容はこの本とほぼ同じだ。著者の勝川さん自身が吹き込んでいるわかりやすい英語なので、参考になる。
日本の漁業の最大の問題は、「乱獲」
日本では「オリンピック方式」で、日本の漁業者であれば誰でも「よーい、ドン」で参画できる。
それゆえ、いずれ高く売れる成魚になる幼魚でも、逃したら他の誰かが捕ってしまうので、肥料や飼料用にしか売れないような安い値段にもかかわらず、網で根こそぎ捕っていってしまう。
だから漁獲量が年々減少し、漁業者は自分で自分の首を絞めているのだ。
いままで漁業の問題については、韓国漁船や中国漁船が日本の排他的経済水域内に来て、勝手に魚を捕っていくことが問題だと思っていたが、実は乱獲を放置している日本の水産行政が最大の問題だった。
たとえば東シナ海の底曳(そこびき)網漁業の漁獲量の推移は次の通りだ。
出典:本書39ページ
最新の魚群探知機を備えた大型漁船による魚を文字通り「一網打尽」にする底曳網漁法で、漁獲量がこれだけ減少しているということは、漁業資源が乏しくなっていることに他ならない。
漁獲割り当ての絶大な効果
一方、たとえばノルウェーでは次の表のように漁業生産額が毎年増加している。
出典:本書118ページ
日本とノルウェーとの差は、漁獲量割り当てがあるかないかだ。
世界の水産先進国では当たり前の漁獲割り当て
ノルウェー以外でも、世界の水産先進国を見てみると、いまや資源保護のために漁獲割当制が当たり前となっている。
出典:60ページ
つまり漁業も管理漁業の時代になっているのだ。
ノルウェーでは漁船ごとに漁獲枠を配分しているので、他人をさしおいて自分だけ早く魚を捕りにいく必要がない。
だから日本のように早く魚群を見つけるためにエンジンを強化したり、強力なソナーを設置する必要がない。
魚の相場を見て、高く売れそうな時に捕りに行き、魚をできるだけ高く売るために、フィッシュポンプをつけたり、捕った魚を冷やしておく冷凍設備などを充実させている。
たとえばサバで比較してみると、ヨーロッパと日本では大きな差がある。
出典:本書
日本ではサバの漁獲量は激減しており、1970年代のピークの500万トンに比べて、近年では100万トンを割っている。
一方、ヨーロッパはピークの600万トンよりは減ったものの、400万トンくらいで安定しており、近年ではむしろ増加している。
漁獲の年齢構成でも大きな差がある。
日本では1980年ころまでは、漁獲の年齢構成はバランスが捕れていたが、1985年に漁獲高が激減して以降は、ほとんど0〜3歳の魚ばかりで、これでは親となって卵を産む前の幼魚を根こそぎ捕っている状態だ。
ヨーロッパでは、漁獲の大半を5〜6歳以上の成魚が占めており、日本の年齢構成とは大きな差がある。再生産ができる体制が維持できているのだ。
マグロについても同様だ。再生産のできない魚齢のものばかり日本では捕っている。
出典:本書
ノルウェーのニシンは復活、日本のニシンはほぼ絶滅した
ニシンについても、漁獲高が激減した1970年代後半に禁漁措置を取り、資源を増やす努力をした結果、ニシン資源は回復し、それ以降も厳しい漁獲制限を実施している。一方、日本のニシンは乱獲のためにほぼ絶滅した。
魚の価値を高め、高く売るための努力
ノルウェーの漁業者は成魚を中心に漁獲し、魚を高く売る為の努力をしている。
YouTubeに勝川さんがノルウェーの漁業協同組合にインタビューした内容が掲載されているので、紹介しておく。
ノルウェーの漁業協同組合は、漁船から漁獲重量と体重組成の連絡を受け、インターネットのオークションで世界中に向けて売りに出す。
成魚のみ漁獲し、一定基準以下の幼魚は捕らないのだ。
入札参加資格は、水揚げ設備を持っている水産加工場なので、ノルウェー以外にもスコットランドなどの水産会社も入札に参加し、スコットランドの会社が落札すれば、漁船は直接スコットランドに行って水揚げするという形だ。
成魚を最も高く売るシステムができあがっているのだ。
漁協の手数料は0.65%と非常に低い。日本の漁業協同組合が、旧態依然としたセリで魚を売り、セリの参加者同士の談合を見て見ぬふりをしながらも5%の手数料を取ることと大違いだと勝川さんは語る。
イカ釣り漁船の集魚灯
先日の円安による燃料費高騰に抗議して、一部のイカ釣り漁船が一斉に2日ほど休漁することがあった。
日本ではこのようなイカ釣り漁民の苦境が報道されるが、なぜそういった事態になっているのかは報道されない。
日本の漁業は「オリンピック方式」なので、イカ釣り漁船は他の誰よりも早く漁場に到着して、他の誰よりも強力な集魚灯でイカを集めて釣る必要がある。
そのために強力なエンジン、高性能魚群探知機、そして高出力の集魚灯が必要なのだ。だから燃料費が高騰すると、たちまち採算割れという事態に陥る。
集魚灯も現在はLED集魚灯に変わって、電力消費は減っている。それでも宇宙から日本近海を見ると、集魚灯の明かりで煌々と照らされていることがわかる。(次のビデオの1:28から1:40あたりが日本の夜景)
韓国漁船や中国漁船も中にはいるのかもしれないが、世界中でこれほど明かりをつけて夜に漁をしている地域はない。
そもそもこんな「オリンピック方式」で、高いコストを掛けて、漁獲を競いあって維持可能なのだろうかと思う。
いままであまり知らなかった日本の漁業の問題点がよくわかった。水産庁や漁協の圧力があるのかどうかわからないが、この種の漁業問題を取り上げた本は少ない。
筆者が読んでから買った本の一冊だ。大変参考になると思う。
参考になれば次クリック願う。