時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

小宮山宏

低炭素社会 小宮山前東大総長のCO2削減の処方箋

低炭素社会 (幻冬舎新書)低炭素社会 (幻冬舎新書)
著者:小宮山 宏
幻冬舎(2010-05)
販売元:Amazon.co.jp
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2009年4月に東大を退官して現在は三菱総研理事長を勤める小宮山前東大総長のCO2削減の現実的提案。

この本を読んで筆者もガス給湯器をエコキュートに変えるべく見積もりを取っているところだ。

小宮山さんの話は、ブログで紹介した東大の入学式の時に一度聞く機会があった。会社でも先日小宮山さんの講演を聞く機会があった。東大のアメフット出身で非常にエネルギッシュな人だ。

この本はたまたま知り合った幻冬舎の見城社長に「良い本なのに売れない」と相談したら、「それじゃあ売って見せましょうか」と応じられたのが出版のきっかけという見城さんはこのブログでも紹介したとおり、カリスマ・モーレツ編集者だ。

以下にあらすじを紹介する通り、大変参考になる本だが、アマゾンでは現在54,800位で、あまり売れていないようだ。見城さんとは売れなかったら「残念会」ということになっているという。


懇切丁寧な目次

この本はアマゾンのなか見、検索!に対応していないので、目次を簡単に紹介しておく。

第3章がメインの部分で、第3章の第1節から第9節まで、ほぼ4ページおきにサブタイトルがついているので、主要なサブタイトルも紹介しておく。大体の感じがわかる懇切丁寧な目次である。

第1章  「温室効果ガス25%削減」で新しい日本へ

第2章  そもそもエネルギーって何だろう

第3章  エネルギー消費量の正しい減らし方

 第1節 どこでどのくらい減らしていくか

  ・  エネルギー変換、ものづくり、日々のくらし(エネルギーの使い道)
  ・  もはや乾いたぞうきんを絞るようなもの?
  ・  「日々のくらし」のエネルギーは8割減らせる
  ・  年間30万円の光熱費が5万円に減った私の家
  ・  住宅環境改善だけで目標の約半分は達成可能

 第2節 高断熱住宅はいいことずくめ

  ・  日常生活で一番エネルギーを消費するのは暖房
  ・  諸外国に遅れをとっている日本の住宅の断熱性
  ・  防音効果が高く健康にもよい二重ガラス
  ・  住宅内の温度差解消で医療費・介護費も減る

 第3節 お湯づくりの常識が変わった
  
  ・  現在の30分の1のエネルギーでお湯が沸く
  ・  エアコンの性能は4倍になる
  ・  日本が拓く、給湯器の新市場
  ・  太陽電池は日本に最適のエネルギー

 第4節 自動車の常識も変わる
  
  ・  10年後、自動車の燃費は10分の1にできる
  ・  通勤・買い物には一人乗りの電気自動車
  ・  長距離物流をトラックから鉄道へ

 第5節 こんな考え方は古い

  ・  節約するよりエコ家電を買おう
  ・  安全・ハイリターンな「エコ投資」
  ・  もったいないのはモノよりエネルギー

 第6節 新エネルギーはどこまで有望か
  
  ・  原発は稼働率アップが第一
  ・  風力発電の適地はまだある
  ・  トウモロコシをエネルギーにしてはいけない
  ・  バイオマスエネルギーの有望株はクロレラ類
  ・  太陽電池の併用で電力の夜昼問題を解消

 第7節 損するリサイクル、得するリサイクル
 
  ・  金属のリサイクルは圧倒的に安くつく
  ・  新たに鉱山を掘る必要はなくなる
  ・  リサイクルが高くつく場合もあるプラスチック
  ・  プラスチックは燃やしてもよい
  ・  紙も最後には燃やすのが正しい

 第8節 総力戦で取り組む
  
  ・  森林資源を増やしてCO2を吸収する
  ・  排出権取引を有効に機能させるルール作りを

 第9節 ポジティブに取り組む
  ・  日本より劣るアメリカのエネルギー効率
  ・  2050年、世界のエネルギー効率を3倍に
  ・  エネルギー、鉱物、食料 ー どこまで自給できるか

第4章  町づくりで低炭素社会を実現

第5章  人類の知を構造化する


日本の先進国宣言

2009年7月に首相に就任した鳩山氏が、ニューヨークの国連気候変動サミットで、「2020年までに1990年比で25%の温室効果ガスを削減する」と宣言した。

小宮山さんはこの発言は日本の「先進国宣言」だと受け止めたという。日本が「課題先進国」として率先して世界の温室効果ガス削減のために動きだすという宣言である。


地球の平均気温15度というのは生物には理想的

大気がないと平均気温はマイナス18度になってしまうが、主に水蒸気とCO2の温室効果のために33度くらいプラス効果があるので、地球の平均気温は生物が暮らしやすい15度となっている。

地球の外側にあって薄い大気しかない火星はマイナス45度、水は氷でしか存在できない。探査機「あかつき」が周回軌道に乗れなかった金星は、地球より太陽に近いので90気圧というCO2主体の大気を持ち、平均気温は430度という高温である。

地球は大気があるので、水が液体として存在でき、それが水蒸気となって気温を保っているのだ。

ここ100年でCO2濃度は290PMMから380PPMに上昇した。これからもCO2濃度は上昇が見込まれ、温暖化の様々な影響が異常気象や海面上昇という形で現れてくる。


地球温暖化懐疑論批判

小宮山さんが初代代表を務めていたサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)では「地球温暖化懐疑論批判」という小冊子をインターネットで公開している。

水素エネルギーは無尽蔵というのは、水から水素を取り出すときに莫大なエネルギーが必要だという認識が欠落している。


CO2削減の処方箋

小宮山さんは学者らしく、CO2削減の処方箋を導くのに、まず「エネルギー保存の法則」の説明から入る。

「エネルギーは最後は熱となる。エネルギーの出入りがない領域全体ではエネルギーの総量は常に一定で変わりない」

だからできるだけ熱になるのを遅らせ、何回でも利用することがエネルギーの効率的な利用法だ。

小宮山さんが出題した東大教養学部の物理の試験問題を例としてあげている。

「同じ大きさの部屋が2つある。1キロワットの電気ヒーターを入れた部屋と、テレビ、冷蔵庫、掃除機を入れた消費電力量合計1キロワットの部屋で、同じ時間同じ電力をかけると、どちらの温度が高くなるか?理由とともに答えよ」

答は「同じ」である。東大の学生の正解率は50人中2人だったという。しろうと感覚では、ヒーターの部屋の方が暖かそうだが、理論は同じである。


用途別日本のエネルギー消費

小宮山さんはまず日本のエネルギー消費を用途別に分類している。それが次のグラフだ。
日本のエネルギー消費1







出典:本書53ページ

これをものづくり、輸送、オフィス、家庭でくくり直すと、次のグラフになる。

日本のエネルギー消費2








出典:本書55ページ

日本のエネルギー消費に占めるものづくり=産業用の比率は既に5割を切っている。

いままで日本の産業界は鉄にしろ、セメントにしろ世界でナンバーワンの省エネルギー生産を達成してきた。たとえばセメント1トン当たりの消費エネルギーは日本を1とすると、中国は1.6だ。産業界の「乾いた雑巾」を絞るようで、もはや大きな削減の余地はないというコメントは正しいのだ。

しかし日本のエネルギー消費の半分以上を占める、輸送、オフィス、家庭の分野はまだまだエネルギー消費削減の余地がある。いわば「濡れ雑巾」状態なのだ。

この本ではこれらの輸送、オフィス、家庭の分野に重点を置いた「チーム小宮山」のCO2削減策を紹介している。


チーム小宮山のCO2削減策

日本のCO2削減策







出典: 本書67ページ

上記目次のように、様々なエネルギー消費削減策をこの本で提案しているので、特に印象に残ったポイントを紹介しておく。

小宮山ハウスは、光熱費年間30万円が5万円になり、さらに太陽光発電の買電単価が倍になるので、光熱費ゼロになる日も近いという。

★高断熱住居にするため、窓ガラスを二重化する。講演で環境省は二重窓にしたので、冬に暖房を入れるのは月曜日だけだという話を紹介していた。熱が逃げないので、余熱で1週間暖かいのだと(ただし一部の職員は”ヤッケ”を着ているという話もある)。

★オフィスではグローランプ式蛍光灯をインバーター式蛍光灯に換えると、エネルギー消費が半減する。東大では34,000基の蛍光灯を入札でメーカーを決めて、すべて入れ替えたという。

★ガス湯沸かし器をエコキュート(ヒートポンプ)に換えるとエネルギー消費が大幅に減る。ヒートポンプなら理論値ではガス湯沸かし器の30分の1にまで下げられるという。既に200万台普及しており、価格も100~150万円だったのが、60万円程度にまで下がっている。

★エネファームは燃料電池給湯設備だ。燃料電池を給湯に使っているのは日本だけだ。価格は300万円くらいするが、国や地方公共団体が補助金をつけているので、大量生産できれば、エコキュートと同程度の価格まで下げることが可能かもしれない。

★自動車の世界最高燃費記録はガソリン1リッターで、なんと5,385キロである。電気自動車の導入などで、まだまだエネルギー消費削減の余地はある。小宮山さんはマークIIをプリウスに換えて、燃費が1/3になったという。

ちなみに筆者の車はブログで紹介しているとおりハリアーハイブリッドだ。燃費は旧型ハリアーに比べて2/3といったところで、プリウスの1/3までは行かないが、優遇措置や補助金があったのでガソリン車との値差は十分回収できた。

★輸送も鉄道を多用して、鉄道駅から目的地までをトラック輸送として棲み分けする。

★もったいないと古い家電を使い続けるより、最新型の省エネ家電に換えることにより、消費エネルギーが大幅に減って、数年でもとが取れる「エコ投資」となる。

★三菱総研は社内エコポイント制度を導入して、省エネ家電や自宅の省エネ改造には社内補助金を出すと講演で小宮山さんは言われていた。

たとえば製鉄会社など、これ以上の省エネが難しい会社は、社員の自宅でのCO2排出量削減を促進することで、企業としてアピールできる。その意味で、今後他の企業も社内エコポイント的な制度を導入するところが増えてくると思う。

★産業界では原発は稼働率アップが第一。日本は規制が厳しすぎて原発の稼働率は平均60%台だが、韓国は90%で、諸外国でも80%程度だという、

日本は年に1ヶ月の点検が義務づけられているが、諸外国は2年に一回だという。稼働率を80%に上げるだけで、原子力発電の発電シェアが3%上がり、CO2排出量をその分削減できる。

★小宮山さんの将来の日本の発電比率は、水力8%、太陽電池15%、バイオマスや風力発電が7%、原子力40%で非化石燃料で70%を占める。残り30%をガスや石油を使ったコージェネレーションでまかなうというものだ。

★金属のリサイクルが進めば、先進国では新たに鉱山を掘る必要はなくなる。

鉄鋼原料出身の筆者には、ありがたいような、困るような話で、いわゆるミックスドフィ-リングだ。

★プラスティックはリサイクルが高くつく場合もある。たとえばポリエチレンは、分子構造が石油と似ていて石油からつくってもリサイクル原料からつくっても、エネルギーコストはあまり変わらない。

ポリエチレンは生ゴミなどを燃やす良い燃料となるので、「サーマルリサイクル」=熱源として再利用するのも活用法だ。

それに対しPETボトルなどのポリエステルは何度も化学反応を経て作るので、PETは回収した方が良い。

★もし日本の省エネ技術や「もったいない」意識をそのままアメリカに持って行けば、CO2排出量はすぐに半分くらいに落とせるだろうと小宮山さんは語る。

筆者も米国に合計9年間駐在した経験がある。アメリカのセントラルエアコンは夏も冬も快適だが、誰もいなくてもすべての部屋を暖房するので、エネルギー消費が日本とは比べものにならない。

大体どの家でもボイラー室に、巨大なボイラーと温水タンクがある。筆者の友人は誰も使わない部屋はエアコンの吹き出し口を紙などで塞いで、省エネしている人もいた。

少なくとも部屋別暖房に換えるとかで、半分までは行かなくともかなりの省エネ効果が見込めると思う。

★日本の食糧自給率を上げるために、多収量米を遊休耕地でつくり、普段は家畜のえさ、緊急時には食料として活用することを薦めている。

★日本は活気ある高齢化社会をつくるべき。80歳以上の高齢者の8割は健常者だから、この8割の高齢者の社会参加が重要だ。

福井市では介護のデータとレセプト、健康診断のデータベースを統合しようという検討を三菱総研と始めているという。健康情報の一元管理だ。

★小宮山さんの提唱する「プラチナ構想」とは、高齢者が参加できるエコ、低炭素化社会だという。全国で地方自治体のプラチナ構想ネットワークができつつあるという。


すぐに実行可能で、具体的なCO2削減提案で、大変参考になった。

筆者の家は建て売り住宅で、断熱にはほぼ満足しているが、サッシの二重化やエアコンの交換、エコキュート導入を具体的に検討してみる。

数年で投資額が数年で回収できるのであれば、築18年の家で設備も古くなってきているので、やらない手はない。

上記の目次を参考にして、書店で手にとってパラパラと読み、自分でもやれそうなCO2削減策を考えて欲しい。

そしてみんなに言おう「地球に良いこと何かやってる?」


参考になれば次クリック願う。


課題先進国日本 前東大総長 小宮山さんの提言

会社で小宮山さんの講演を聞いたので、2007年に書いた「課題先進国日本」のあらすじを紹介する。(以下あらすじの肩書きは2007年当時)

講演は「課題先進国日本」という題で、以下に紹介する本の内容をさらに実際的にしたもので大変面白かった。

具体的には21世紀には必ず世界は高齢化するので、その先端に立って、「先進国モデル」としてエコロジカルで、高齢者が参加し、人が成長し続け、雇用がある「プラチナ社会」をつくろうというものだ。

日本のCO2排出量も、ものづくりで発生するCO2は45%以下で、家庭、オフィス、輸送でのCO2発生が5割以上だ。

政府が発表した2025年で1990年比CO2 25%削減というのは産業界から反対にあっている。産業界はたしかに「乾いた雑巾」といわれるように、CO2削減の減りしろは少ない。しかし家庭、オフィス、輸送は水がしたたり落ちている雑巾であると。

家庭では、省エネ型エアコンへの切り替えや、断熱でのエネルギー効率改善、ヒートポンプ型給湯(エネルギー80%削減)、燃料電池(エネファーム)を導入。

オフィスでは省エネ冷暖房と、蛍光灯をグローランプ型からインバーター型に切り替え(東大は35,000基の蛍光灯を入れ替えた)。

輸送はハイブリッド車ということで転換していけば、25%減は十分達成でき、しかもくらしが豊かになる。

小宮山さんは「ビジョン2050」ということで、1.エネルギー効率3倍、2.再生可能エネルギー2倍、3.物質循環(リサイクル)システムの構築の3つを20年前に提言したという。

今も「ビジョン2050」がそのままあてはまり、新しい構想名は「プラチナ構想」だ。

すでに80の全国の市町村が参加し、大学と企業も参加して、プラチナ構想ネットワークがスタートして、全国各地で「オンデマンドバス」や「企業エコポイント」(省エネ改築をした社員にポイントをあげる制度)などが動き出している。

今回の講演で得た新しい情報は、

1.電気自動車はアメリカや中国では現状のままではソリューションにならない。

アメリカや中国では石炭火力発電所に脱硫設備を付けていないので、電気自動車にすると、発電でCO2排出量が増え、大気汚染が悪化するからだ。電気自動車がソリューションになるのは、日本のように脱硫設備が完備した環境対策先進国に限られる。

発電量当たりのSOX発生量は、日本は2002年に0.2g/KWhで、これに対してアメリカは3.7、ドイツ0.7、フランス2.0とダントツの低さだ。中国の数字は示されていなかったが、脱硫設備が普及していないので、たぶん大変なSOX発生量になると思う。


2.リサイクルが進めばいずれは鉄鉱石などのヴァージン原料の需要が減ってくる。

当面は世界の需要が増えているので、高炉がいらないということにはならないが、いずれは高炉が減って電気炉が増えてくるのだろう。


3.家電やエコキュートなどの省エネは5−10年で目覚ましく進歩している

古いエアコン、冷蔵庫を買い替えると、5年前後で元が取れる。またヒートポンプ給湯(エコキュート)に変え、内窓を取り付けたりして窓を二重にすると、住宅のエネルギー消費は格段に下がる。

環境省は今年は月曜日にしか暖房を入れていないが、オフィスの断熱を強化したので、一週間暖房をつけなくても(厚着している人もいるという話もあるが)、いけるのだと。

また小宮山ハウスでは太陽光発電も入れたため改装したリターンは12年だが、電力会社の買電価格が上がったので、さらにリターンは短縮するという。


冷暖房の理論エネルギーはゼロだと小宮山さんは語る。筆者も内窓や、省エネ家電への切り替えなど、実際に検討してみようと思う。

たしか小宮山さんはアメフット部のOBだったと思うが、いわゆる「東大総長」、「象牙の塔」という感じでは全然ない。やはりアメフット出身だけに、チームプレーで仕事をこなすという発想が、唯我独尊タイプが多い他の学者と違うところだろう。

エネルギッシュで、実務的であり、大変参考になる講演だった。


「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ
著者:小宮山 宏
中央公論新社(2007-09)
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東大総長小宮山宏教授の日本改革の提言。

小宮山教授の専門は化学工学で、小宮山教授自身がCVD(Chemical Vapor Deposition)という半導体の薄膜製法を手がけ、CVD反応工学という新しい学問を生み出したという功績がある

小宮山教授は2003年に技術を生活に生かす「動け!日本」というプロジェクトを主宰しており、2006年、2007年と連続してダボス会議にも出席している。

東大総長がダボス会議に出席していたとは初耳だが、象牙の塔にこもらない行動派の総長という印象だ。


出羽の守

明治以来の学問は「出羽の守(かみ)」だったと。つまり米国「では」、イギリス「では」と外国の例を紹介するだけの論文を書いた人々だった。

今もこういう人は多い。ちょうど10月1日に郵政民営化が実現したが、マスコミに登場する評論家の多くは依然としてイギリス「では」、ドイツ「では」、スゥエーデン「では」と言っている「出羽の守」ばかりだ。

これからは、自分でゼロからモデルを創造しなければならないと小宮山教授は主張する。


東大総長としての訓辞

東大総長に就任して、小宮山教授は学生生活で獲得すべき目標として次を訓辞したという。

1.本質を捉える知
2.他者を感じる力
3.先頭に立つ勇気

筆者もかすかに記憶があるが、歴代の総長の訓辞はだいたい1が多い。有名な大河内一男総長の「ふとった豚よりやせたソクラテスになれ」というのも、1の路線だ。

つまり大学というアカデミズムのトップの自覚を持って、リーダーとして社会のために勉学に励めというものだ。

そんななかで、実社会で成功する上で不可欠なコミュニケーション能力や、リーダーとなる勇気を説いているのも、行動派総長小宮山教授の特徴と思える。


日本は課題先進国

小宮山教授は日本は課題先進国だという。

まだどの国も解決したことのない問題が山積だ。エネルギーや資源の欠乏、環境汚染、ヒートアイランド現象、廃棄物処理、高齢化と少子化、都市の過密と地方の過疎、教育問題、公財政問題、農業問題など。

これらは遠からず世界共通の問題となってくる。

日本のGDPは世界第2位で世界の11.2%を占めるが、二酸化炭素排出量では世界4位、4.7%にとどまる。日本には公害対策や、省エネ、太陽電池利用、ハイブリッド車開発という輝かしい歴史がある。

日本が課題解決先進国として世界をリードするのだ。

GDP規模ではいずれ人口が10倍の中国、インドに追い抜かれようが、エネルギーの効率的利用や公害問題で示したように、持続可能な世界をつくる課題先進国、21世紀のフロントランナーとして世界の範となるのだ。


サステイナブル・ソサエティ

小宮山教授は1999年に「地球持続の技術」という本で、「ビジョン2050」という環境と資源に関するトータルビジョンを提案した。

地球持続の技術 (岩波新書)
地球持続の技術 (岩波新書)


2030年には中国・インドが先進国の仲間入りをすると予想され、2050年には今の途上国を含め、世界中のすべての国が先進国並の生活水準となる。そのとき人口は90億人となり、それ以降は漸減する。エネルギーの消費は3倍まで増える可能性がある。

2050年を目標として、持続可能な(サステイナブル)社会をつくるためには、次の3つが必要となる。

1.徹底したリサイクルによる物質循環システムの構築
2.エネルギー効率を現在の3倍に引き上げる
3.自然エネルギーの利用を現在の2倍に引き上げる

ハイブリッド車から深夜電力が利用できるプラグインハイブリッド車、さらに電気自動車に向かうことによって自動車用のガソリン消費は2050年までにはゼロとすることができるという。

小宮山教授は廃材、モミガラ、麦わらなどを利用したバイオマスも提唱する。

バイオマス・ニッポン―日本再生に向けて (B&Tブックス)
バイオマス・ニッポン―日本再生に向けて (B&Tブックス)


小宮山教授は、自宅でも太陽光発電、アイシネンという断熱材、二重ガラス、エコキュートというヒートポンプ型冷暖房を導入して、自分でも実践している。


教育に関する提言

教師育成にも問題があると小宮山教授は主張する。

筆者も知らなかったのだが、以前は9割の高校生が物理を学んだが、今の高校ではわずか2割しか受講していない。

また以前は大学3年生からでも単位をよけいに取ることで、教員免許が取れたが、今は小学校の先生になるためには、事実上文系の教員養成コースに行かないと難しい。

物理も勉強したことがなく、文系で先生となるので、理科の嫌いな小学校の先生がどんどん増えていると。

小宮山さんは教員免許取得機会の多様化を主張しており、さらに教育院を設立して、多くの大学と教育委員会が共同して、新しい教師育成と現場の教師の研修にあたるべきだと主張する。


高等教育投資の財源

日本と米国の高等教育投資の差は大きいと小宮山教授は指摘する。

日本は2兆円だが、米国は15兆円で日本の7.5倍もある。これに加えてエンダウメントと呼ばれる寄付を基にした基金を高利で運用し、巨額の運営資金としているのだ。

たとえばハーバード大学の基金は3兆円弱、これを平均運用利回り15%で回して、2006年の利益は4,000億円にも上る。イェール大学は2兆円、平均運用利回りは20%に達するという。

日本では慶應大学のエンダウメントの規模が300億円で、全く勝負にならない。東大の年間予算が2,000億円なので、米国の一流大学は基金の運用益だけで東大の年間予算の倍の資金を得ているのだ。

米国の大学が豊富な資金によって、学費免除と奨学金を与えて、世界中から優秀な学生をリクルートしているのは知る人ぞ知る事実だという。

教育の質は予算規模だけでは決まらないが、理系などの実験装置・設備が必要な分野では、予算の差が高度な研究が可能かどうかを決めるファクターともなる。

小宮山教授は日本の大学への財政投資を今の倍の5兆円に増やすべきだと主張する。

財政事情が許さないのであれば、米国の様に個人の寄付を活用するために、税額控除を認めるべきだと主張する。

現在の日本の税制では、寄付は基本的に所得控除で税額控除ではない。

東大では2名の副理事に加え、10名以上をフルタイムで雇用して寄付集めに専念させているが、現状では限界があると。

発泡酒の例を見るまでもなく、税制は社会を動かす力がある。その意味で寄付を税額控除として、日本国民の1,500兆円の個人資産を教育に振り向けようという小宮山教授の主張は合理的だと思う。


東大の公開講座Podcasting

東大の知に関する公開講座がPodcastingで提供されている。iTunesで無料でダウンロードできる。

ノーベル賞受賞者の小柴昌俊教授が第1回に宇宙はどうやってできたかを講義している。

筆者もダウンロードして現在聞いているが、わかりやすく面白い。

便利になったものだ。


日本人への応援歌

日本は江戸時代に教育普及率が70〜85%に達し、当時の世界で圧倒的にトップだった。高い教育水準と識字率が文明の基盤でもあった。

明治になって、欧米に工業化の面で追いつくべく富国強兵を実現した。敗戦でほとんどすべての産業基盤、社会基盤を失ったが、再び欧米モデルを追いかけ、終戦から23年後の1968年に世界第2位のGDPを達成した。明治維新から100年後のことだった。

狭い国土で乏しい資源でありながら高い成長を達成し、なおかつ公害問題もエネルギー問題も解決した日本。

その国民性を持ってすれば、「課題先進国」として世界に先駆けて課題を解決することもできるはずだと小宮山教授は日本国民に対してエールを送る。

「課題解決先進国になれ、日本はそれができるのだ、日本はきわめて良い位置にあるのだ」と。

行動派総長の日本への応援歌。あらためて発見することも多い。是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリック願う。





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