時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

橘玲

大震災の後で人生について語るということ 日本を襲ったブラック・スワン

大震災の後で人生について語るということ大震災の後で人生について語るということ
著者:橘 玲
販売元:講談社
(2011-07-30)
販売元:Amazon.co.jp
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最新の海外投資やパーペチュアル・トラベラー(常に渡り歩いて、どの国にも税金を払わない)、サラリーマン法人など、ユニークな話題を取り上げている橘玲さんの最新作。このブログでも多くの橘さんの作品を紹介している

この本では日本で起こった二つのブラック・スワン(起きる前は誰も予想できなかったが、起こった後は誰もが”起こるべくして起こった”と見なしている「世界を変えた出来事」)として、今年の東日本大震災と1997年のアジア通貨危機を取り上げている。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
著者:ナシーム・ニコラス・タレブ
ダイヤモンド社(2009-06-19)
販売元:Amazon.co.jp
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ちなみに「ブラック・スワン」という2010年度アカデミー主演女優賞を受賞したサスペンス映画もあるが、ここでいう「ブラック・スワン」とは関係ない。



東日本大震災と福島第一原子力発電所の問題は、誰にでもわかりやすいブラック・スワンの例だが、1997年のアジア通貨危機とその後の日本の金融危機(北海道拓殖銀行、山一證券、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻)は言われてみなければわからない。

日本の自殺者は1998年から1万人/年増えていて、毎年減らない。

自殺者長期推移






次が男女・年齢別の自殺者数の推移だ。1998年以降男性が大幅に増えているのに対し、女性はほとんど変化が見られない。

自殺者男性年齢別











出典:「自殺対策白書」

政府が毎年発表している「自殺白書」では、1998年から男性の45歳〜64歳の自殺率が急増し、それが毎年1万人弱という大幅な自殺者の増加の原因であることを示している。

東日本大震災での死者・行方不明者は約3万人と言われているが、1998年からの金融危機後の自殺者増加数は12年間の累計で10万人にも上り、東日本大震災を上回るインパクトである。

中高年男性が自殺を選ぶ最大の原因は経済的な理由と見られている。

典型的なパターンは、リストラなどによる失業や賃金カットで、住宅ローンや教育費が払えなくなり、消費金融から金を借りるだけでは追いつかず、闇金にも手を出す。借金取りに追い立てられて挙げ句の果てには自殺して生命保険で借金を清算するほかなくなる、という悲劇の構造だ。

この金融危機後のブラック・スワンの原因は次の日本の4大神話が崩壊したことにあると橘さんは語る。

1.不動産神話 持ち家は賃貸より得だ
2.会社神話  大きな会社に就職して定年まで勤める
3.円神話   日本人なら円資産を保有するのが安心だ
4.国家神話  定年後は年金で暮らせばよい


これらがいずれも崩壊したことに気が付かないと、ある日突然自分の資産がマイナスとなり、窮地に追い込まれることとなる。

橘さんはマイホームを買うという夢は否定しないが、年収の数倍という大きな借金を背負って金融資本のすべてを不動産に投資することは、きわめて危険な選択だという。

米国のようにノンリコース(非遡及型)なら、住宅ローンが払えなければ、家を明け渡せばよいだけだが、日本の住宅ローンは属人型なので、不動産価値が下がると、たとえ家を換金売りしてもまだ借金は残る。

サラリーマンは一定の賃金が将来とも保証されているという「サラリーマン債券」という資産を持っていると見なせるが、会社が倒産したり、リストラにあって職の安全が保証されなくなるとサラリーマン債券を失う。「サラリーマンでいることのリスク」が顕在化してきているのだ。

リストラに遭うと、中高年サラリーマンが再就職するのは至難の業で、せいぜい非正規社員にしかなれない。収入は激減し、住宅ローンや教育費が重くのしかかってくるのだ。


日本人はリスクを嫌う

「リスクに背を向ける日本人」という本で引用されている、「世界価値観調査」によると”自分は冒険やリスクを求める”のカテゴリーに当てはまらないと思っている比率は日本人が世界でも最も高い。

リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)
著者:山岸 俊男
講談社(2010-10-16)
販売元:Amazon.co.jp
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世の中に錬金術はなく、国家財政の赤字を垂れ流し、国債を発行ばかりしていれば、人口減少・少子高齢化の日本の未来ははっきり見通せる。それは今と逆の世界で、高金利、円安、インフレだ。

日本人は元々リスクを嫌う国民で、安定した人生を送るために、偏差値の高い大学に入って大企業に就職することを目指し、住宅ローンを借りてマイホームを買い、株や外貨には手を出さずにひたすら円を貯め込み、老後の生活は国に頼ることを選んできた。

こうしたリスクを避ける伝統的な選択が、今はリスクを極大化する事になってしまう。この事態は1997年の金融危機から始まっていたが、多くの日本人は”不都合な真実”に眼をそむけ、3.11の東日本大震災ではじめて自らのリスクを目の前に突きつけられたのだと橘さんは語る。


伽藍からバザールへ

そしてこの本の結論として、橘さんは「伽藍からバザールへ」という言い方で、「出る杭は打たれる」ことを恐れ、目立つことをしない閉鎖的なネガティブゲーム社会から、自分の能力を売り物にするグローバルなポジティブゲーム社会へ生き方を変えることを提言する。

伽藍というのはあまりビジネス書では使われない言葉だが、いわば塀に囲まれた町のようなイメージだろう。

米国の労働長官も務めたUCバークレー教授・ロバート・ライシュは「ザ・ワークス・オブ・ネーションズ」で、これからの仕事は”マックジョブ”と””クリエイティブクラス”に2極化すると予言している(この表現は橘さんの用語で、元々の表現は”シンボリック・アナリスト”と”対人サービス業者”、”ルーティン肉体労働者”)。

ザ・ワーク・オブ・ネーションズ―21世紀資本主義のイメージザ・ワーク・オブ・ネーションズ―21世紀資本主義のイメージ
著者:ロバート・B・ライシュ
ダイヤモンド社(1991-10)
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マックジョブはマクドナルドのアルバイトのようにマニュアルにより誰でも出来る仕事で、製造業でもサービス業でも、この種の仕事の賃金はグローバルな競争にさらされる。

その一方で医者や弁護士などの専門家、俳優やクリエイターなどのスペシャリストは専門性あるいは他の人で置き換えられない価値を持っている。


読者が目指すべき道

日本の出版業界では、ながらく本を読む人は人口の10%と言われてきたという。「出版大崩壊」という本で、著者の山田純さんは、日本のビジネス・経済書を読む人口を400万人と推定している。

出版大崩壊 (文春新書)出版大崩壊 (文春新書)
著者:山田 順
文藝春秋(2011-03-17)
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その根拠は、日本の一流大学(MARCH,関関同立など)の卒業生は年間15〜20万人で、その人たちが40年間にわたって本を読むとして800万人。ビジネス書の読者は圧倒的に男性だから、その半分の400万人がビジネス・経済書の読者というものだ。

この本の読者はすでにその400万人の日本の知識層のうちの一人なので、転職や独立を意識しつつ、スペシャリストとして競合他社や他の業種でも評価してもらえる実績をつくることが重要だと橘さんは説く。

サラリーマン法人など前作「貧乏はお金持ち」で紹介したような(筆者はちょっとありえないと思うが)サラリーマンのフリーエージェント化の可能性もある。

貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
著者:橘 玲
講談社(2009-06-04)
販売元:Amazon.co.jp
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これが人的資本の伸ばし方の一例で、金融資本の伸ばし方(投資)については、インフレに強い投資(金EFTや商品EFTなど)、FX(ハイリスクなので筆者はお勧めしない)、世界株投資(ACWI=All Country World Index EFTやVT(Vanguard Total World Stock EFT)などを紹介している。

個人のバランスシートは4つの神話に基づいたものから、次のような新しいポートフォリオに変わるのだ。

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出典:本書

最後に橘さんは、東日本大震災の日にあてもなく街をさまよった自らの経験を語り、ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」の「最もよき人々は帰ってこなかった」という一節を引用している。

夜と霧 新版夜と霧 新版
著者:ヴィクトール・E・フランクル
みすず書房(2002-11-06)
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そして”カポー”(ユダヤ人のナチス協力者)は、暖房の効いた部屋で津波に押し流される家を見ていた自分だったと語る。

橘さんは地震の後、ショックを受け茫然自失に陥った。自分の本はいままで絵空事を書いてきただけではないかと悩んだ。しかしそうであれば絵空事を書くことに徹しようというということで、この本を2週間で書き上げたという。

地震で評価を挙げた経済人は、100億円を寄付したソフトバンクの孫さんや10億円を寄付した楽天の三木谷さんユニクロの柳井さんなどベンチャー企業経営者で、バザールの住人たちだった。大企業はほとんど存在感を発揮できなかった。

筆者自身の話となるが、筆者はいままで橘さんのいう「伽藍世界」の価値観で生きてきた。一流大学を卒業し、大企業に就職して、25年ローンで東京の郊外に一戸建てを買った。18年前に購入したマイホームは、住みやすく問題はない。しかし最初の米国駐在から帰ったバブル直後に購入したこともあり、マイホームの価値は買ってから半減した。

筆者がマイホームを購入したのは、会社の先輩の「年を取るとローンが借りられなくなる」というアドバイスがきっかけだ。橘さんの「サラリーマン債券」という発想そのものである。バブルの後で不動産市況は下落していたが、逆に非常にクオリティの高い住宅が以前より安く買えるようになったことが、現在の家を購入した理由だが、結局マイホーム投資では数千万円という資産価値の下落を経験した。

さいわいまだ個人バランスシート上は債務超過にはなっていなし、払い終えるめどはほぼついてきたが、あやうく債務超過に陥るところだった。

日本が少子高齢化・人口減少化社会に向かうことから考えても、年収の数倍のローンを抱えてマイホームを購入することは、今後は大きなリスクとなることは間違いない。橘さんの説く方向性は間違っていないと思う。なんらかの技能や資格を持ち”つぶしが効く”存在となり、家は極力賃貸することだ。

橘さん自身が書いているように、この本はこれまでの本と同じ路線で、あまり新規性はないが、これまで述べてきた主張を本にまとめて、日本をおそったブラック・スワンに対して日本人への警鐘を鳴らす本である。

この人は本当に文章がうまい。いつもながらテンポがよく、読みやすい本である。


参考になれば次クリックお願いします。





黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 目からウロコのオルタナティブ投資指南

+++今回のあらすじは長いです+++

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術黄金の扉を開ける賢者の海外投資術
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-03-07
おすすめ度:4.5
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軽妙なタッチと独特の視点で、資産運用・投資についての面白い本をいくつも出している、「海外投資を楽しむ会」のメンバーの橘玲(たちばなあきら)さんの2008年3月の作品。

橘さんの最新作はベストセラーになっている「大震災の後で人生について語るということ」だ。

大震災の後で人生について語るということ大震災の後で人生について語るということ
著者:橘 玲
講談社(2011-07-30)
販売元:Amazon.co.jp
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別ブログで紹介している「臆病者のための株入門」の続編である。

「金融2.0時代のグローバル運用法」と本の帯に書いてあるが、たしかに様々な海外投資法やジム・ロジャースなどの有名な投資家の考えがわかって、目からウコロのオルタナティブ投資指南本だ。

ただし、この本に書いてある投資戦略や節税手法は、著者の個人的な見解なので、実践するのは読者の自由だが、それによって損失を被っても著者及び出版社は一切責任を負わないと最後に書いてある。

当たり前であるが、それだけ内容が濃いものがある。

この本が書かれた2008年始めから世界金融危機を経て、株式、原油、新興国市場などが軒並み暴落した後、回復し、相場環境がかなり違っている。

円は対ドルは一旦円高となり90円台まで行き、100円弱に戻り、現在は90円を切っている。ユーロ等他の通貨に対しては大幅に上昇したが、また豪ドルなどの通貨も相場が回復している。株式市場や石油などは暴落したが、金は1050ドル前後まで上昇している。

日本株はバブル崩壊後の小泉内閣時代の2003年4月28日の7607円を昨年割って急反発し、現在は1万円前後まで回復した。資産ポートフォリオを考え直し、新たに投資するにはまだ良いタイミングではないかと思う。


金持ちかどうか判定する計算式

橘さんは「となりの億万長者」という本に載っている自分が金持ちかどうか知る計算式を紹介している。

期待資産額=年齢 x 年収/10

これによると筆者は全然金持ちではないが、世界一の大富豪バフェットもゴールドマンへの投資などで活発に買いあさっている今がチャンスだと思うので、できる範囲で投資をしようと思う。

その意味で、今読むには大変参考になる本だ。読んだ本しか買わない筆者が、読んでから買った今年4冊目の本である。


この本は次の構成となっている。

序章  さよなら、プライベートバンカー

第1章 究極の投資VS至高の投資

第2章 誰もがジム・ロジャーズになれる日

第3章 ミセス・ワタナベの冒険

第4章 革命としてのヘッジファンド

第5章 タックスヘイヴンの神話と現実

第6章 人生設計としての海外投資

終章  億万長者になるなんて簡単だ


序章の「さよなら、プライベートバンカー」では、プライベートバンカーの起源は十字軍の遠征までさかのぼり、財産を相続や放蕩などで失わない様に、執事に委託したことから始まると説明する。

財産保全を目的としていたので資産運用のノウハウは元々なく、強固な守秘性が売り物だったが、マネーロンダリング対策でスイス政府が守秘性を認めなくなると、運用成績で優れているゴールドマンサックスなどの投資銀行に取って代わられたという。

香港のプライベートバンカーは「私たちは絶滅していく人種なのです」、「プライベートバンクは、ベントレーのようなものです。今の時代に、好きこのんでこんな手のかかる車に乗る人はそれほど多くありません」と言っていたという。

「高級車に乗ったからと言って特別な目的地が用意されているわけではありません。電車やバスを使っても、同じ場所にたどりつくことができるでしょう」と。

この本では、金融業は元々情報産業であり、純粋にグローバルな産業なので、Web2.0情報革命とともに個人がエンパワーされ、機関投資家やヘッジファンドと対等の立場で、何億円も儲けられる「金融2.0時代」になったことを様々な切り口から説明しており、参考になる。

その切り口が、「美味しんぼ」の山岡の海原雄山(機関投資家などのプロフェッショナル)に対する「究極の投資」であったり、ジム・ロジャースだったり、ミセスワタナベという架空のFXに投資する主婦であったりして面白い。


究極の投資と至高の投資

「究極のメニュー」とはマンガ「美味しんぼ」で貧乏サラリーマンの山岡が実の父である美食家海原雄山の「至高のメニュー」に対抗するメニューだが、それになぞらえて橘さんは「究極の投資」を紹介する。

「至高の投資」がプライベートバンクなどのプロの投資であるのに対して、「究極の投資」はサラリーマンなど庶民ができる投資だ。

そのやり方はオーソドックスである。アセットアロケーションの3分割法、つまり債券・不動産・株式だ。

富裕層は豪邸などの不動産資産を持っているので、あとは日本・世界債券と日本・世界株式を組み合わせる。これがプライベートバンクがアドバイスする「至高の投資」だ。

これを300万円程度の資金で実現しようとするのが、庶民の「究極の投資」である。


サラリーマン債券?

まずはサラリーマンの人的資本を評価する。富裕層は働いていないので、彼らの人的資本はゼロだが、庶民は働いているので、サラリーマン債券を保有していると考える。

生涯賃金3億円(年収は入社時250万円、退社時1,300万円、退職金3,000万円とする)の標準モデルで考えると、入社直後の人的資本は1億4千万円、40歳で1億3千万円、50歳で1億2千万円と計算できる。

1億円のサラリーマン債券からサラリーという金利を得ていると考えても良い。

だからサラリーマンが債券に投資するのは不要で、全額株式に投資すべきだと橘さんは語る。またサラリーマン債券価値を毀損しないために、専門知識や特殊技能を身につけて人的資本の充実を計るべきだと。

金持ちでも全く仕事をしていない人は少ないはずなので、サラリーマン債券というのは奇抜な発想ではあるが面白い考え方だ。

そこで投資の基本法則1.だ。

金融資産に比べて、人的資本が圧倒的に大きい場合(つまりサラリーマンの場合ということだ)、全資産を株式で運用すべきである。


投資にはレバレッジをかける

山岡は1億円のサラリーマン資産を保有しているのに、投資額は300万円、つまり3%だ。保守的な機関投資家ですら、3割は株式投資しているので、山岡ももっとレバレッジを掛けてたとえば1,000万円くらいのリスクを取るべきだと論じる。

300万円しか貯金がないのに、1,000万円も投資して損をしてしまうと破産してしまうではないかと言う人がいるかもしれないが、これはマイホーム購入と同じだと橘さんは反論する。

新築の不動産の購入がそれだ。300万円の頭金で、3000万円の物件を買い、しかも新築物件は買ったとたんに1−2割価値が下がる。

これはレバレッジ10倍で、不動産に投資していると解釈でき、しかもほとんどの人が損をしている。

ワンルームマンションなども、本当に儲かるならワンルームマンション会社自身がやっているはずだ。

マイホームを購入した人はせっとと繰り上げ返済する以外にやるべきことはないと橘さんは語る。

同じ不動産投資をするなら、マイホームを売り払って、REITに乗り換えた方が経済合理的だと橘さんは言う。REITなら東京などの一等地の不動産に投資することができるからだと。

橘さんは不動産も車も持っていないそうだが、評価損がある自宅を抱える筆者などには耳が痛い話だ。

これが投資の基本法則2.である。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、投資にはレバレッジをかけるべきである。

株式の信用取引ではレバレッジ率は3.3が限度だが、金融先物を使えば最大25倍のレバレッジが賭けられる。


全資産を海外市場に投資?

さらに投資の基本法則3.は全資産を海外市場に投資せよというものだ。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、全資産を海外資産で運用すべきである。

プレイベートバンクでは、投資家の国籍に関係なく世界株ポートフォリオが勧められ、それは米国50%、欧州30%、日本15%、その他5%というようなものだ。

オーソドックスな分散投資は債券:株式=50:50が理想と言われているので、サラリーマン債券を1億円保有する山岡が1億円の株式ポートフォリオを持つのが理想と橘さんは言う。

サラリーマンの山岡はサラリーマン債券は日本で保有しているので、全額を海外株式で運用すべきだと。

日本株は1989年末のピーク終値38915.87円をいまだに越えられないが、株価は成長率が高い国では伸びている。

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世界株ポートフォリオを保有するには

世界株ポートフォリオを保有するのは子どもでもできるという。証券会社に行ってMSCIコクサイ株価指数に連動するインデックスファンドを購入すれば良いのだと。

MSCIワールドは北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの23の主要市場の大型株に投資するもので、これから日本株を抜いたものがMSCIコクサイだ、

インデックスファンドでは信託手数料がかかるので、もっとコストを安く投資したい場合には、EFTを買う。ETFは株式市場に上場されているが、相対取引なので、売りたいときに買い手がいない場合がありうる。このリスクを避けるためにできるだけ売買高の大きいEFTを購入するのだ。

代表的なEFTはS&P500に連動する「SPY(スパイダーズ)」とNASDAQ100社のインデックス「QQQQ」だ。世界投資ならバークレーズ・グローバルのiShareシリーズでMSCIに連動したEFTを上場させている。

MSCIコクサイに連動するEFTはiShare MSCI KOKUSAI(TOK)であり、これは日本の投資家にはきわめて利用価値の高いEFTである。

エマージング市場に投資するiShare MSCI Emerging Markets (EEM)を組み合わせるのも便利だ。

こうして「至高の投資」でプライベートバンクがやっていた世界株ポートフォリオが、EFTの登場で今や誰でも世界株ポートフォリオが保有できるようになったのだ。

EFTには中小型株EFTや不動産REITのEFT、石油や商品相場に連動する商品EFTもある。

EFTはまるでドラえもんの異次元ポケットの様だと橘さんは語る。「こんなことできたらいいな」と思っていると、それにあったEFTが上場されるからだと。

橘さんは国民に代わって国が年金を分散運用しているが、それを個人に返還すべきだと語る。すくなくとも個人が分散投資ができるまで金融市場は進化しているのだと。

山岡は300万円の金融資産に8倍のレバレッジをかけ、2,400万円のバーチャルポートフォリオで、海原雄山の至高の投資と対決する。このポートフォリオから8%のリターンが得られるとすると、金融資産は10年で5000万円、20年で1億円、30年で2億2千万円になる。

さらにボーナスと給料で毎年100万円積み立て、3年に一回やはり8倍のレバレッジをかけて追加投資したとすると、資産は10年で1億5千万円、20年で4億3千万円、30年で10億円となって富豪になる。

となりの億万長者」を思わせる話だ。

これを机上の空論と笑うだろうが、マイホーム投資で300万円の頭金で、2,400万円のマイホームを買うのも同じ投資だと。

金利3%で金を借りられるが、買ったとたんに不動産投資は1−2割価値を失い、30年後には上物の価値はゼロとなり固定資産税も毎年かかる。

日本人はこれまでマイホームの名のもとに、荒唐無稽な不動産投資を行い、異常とも奇妙とも思ってこなかったと橘さんは語る。考えさせられる指摘だ。

筆者はtoo lateだが、息子たちには借家で過ごすというのもアリかもしれない。一生借家で過ごす必要はなく、持ち家がどうしても欲しければ、50代くらいになるまでに資産を運用し、キャッシュで中古住宅(新築はすぐ減価する)を買えばよいのだ。


誰もがジム・ロジャースになれる日

ジム・ロジャースはジョージ・ソロスとともにクォンタム・ファンドを立ち上げた後、独立して大型バイクで世界を旅しながら中近東や西アジアなど自分の目で見つけた有望投資先や商品に投資している。

テンプルトン・エマージング・ファンドを立ち上げたスキンヘッドのマーク・モビアスも投資と旅にとりつかれた男だ。

ベトナムファンドを中小証券会社が売り出したところ、どうせなら自分で投資しようとベトナムの現地証券会社に個人投資家が殺到し、なんと証券口座の半分が日本人のものだったという。小ジム・ロジャースが何千人も集まったわけだ。

この時期ベトナム株は確実に儲かるギャンブルだったという。日本の証券会社が次々とベトナムファンドを設定し、資金が入ってくることがわかっていたからだ。

ベトナムファンドの手数料は高く、2割の成功報酬もあったので、2006年3月に設定されたファンドは60%上昇しているが、実はこの時期ベトナム株式市場のVN指数は100%上昇していたのだと。

割高な手数料のため、市場平均を40%も下回っているのだが、これは説明のどこを見ても書いていない。だからこの時期自分でベトナムで直接口座を持てば100%のリターンが得られたので、個人投資家が殺到したのだ。

これがジム・ロジャースの言うエマージング投資の報酬なのだと橘さんは語る。

第2のベトナムを求めて、モンゴルやカザフスタン、ドバイを投資家は訪れているという。

インドの株式市場は外国人を厳しく制限している。しかしニューヨーク市場に上場されているインド企業のADR(American Depositary Receipts)を買えば、インド企業にドル建てで投資できるのだ。

インド以外でもジョージ・ソロスが昨年約600億円を投資したブラジルの石油会社のペトロブラス(ソロスは相当な含み損を負っていると思う)、世界最大の鉄鉱石メーカーリオドセ、世界最大のダイヤモンド生産者の南アフリカのアングロアメリカン、世界最大の鉄鋼メーカーアセロール・ミッタルなどがADRを上場している。

アメリカの上場基準はSEC(証券取引委員会)が厳しくコントロールしているので、アメリカの厳しい上場基準を逃れロンドンで上場しているエマージング株もある。

例えばロシア最大の石油会社ルークオイル、世界最大のガス会社ガスプロムはGDR(Global Depositary Receipt)をロンドンで上場している。


エマージング投資法

エマージングマーケットに投資する方法は次の4つある。

1.日本の金融機関のエマージングファンドを買う 但し手数料が高い
2.アメリカ市場に上場されているEFTを買う i-Share MSCI Emerging Marketsなどだ。最も手軽でコストパフォーマンスが良い
3.ADRやGDRを利用してエマージングマーケットの優良銘柄に投資する 但し買える銘柄は限られ、一部の株は割高である。
4.現地の証券会社に口座を開く 時間も手間もお金もかかる

現地の証券会社に口座を開く問題を一挙に解決するオンライン証券会社が香港にできたという。

Boom証券は香港、深セン、上海、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、オーストラリアなど中国A株とベトナム株を除くと東南アジア地区のほとんどの株が購入できる。

橘さんの「至高の銀行・証券会社」という本に口座の解説方法などが詳しく紹介されている。

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-07-26
おすすめ度:3.5
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この他にも同様のマルチマーケット・マルチカレンシー投資のオンライン証券会社はいくつかあるという。

現地の証券会社に口座を開けば、オンライン証券会社の手数料分セーブできるので、最もコストパフォーマンスは良いが、そのためには現地に行かなければならない。

しかしエマージング投資のプロのマーク・モビアスは「あらゆる人々が投資に適切と考える頃には、本当のタイミングはとうの昔に過ぎ去っている」と語る。

実際ジム・ロジャースがアフリカのガーナの株式を買ったのは1990年代だったという。

技術的にはジムと同じ事をできるようになった。エマージング投資はブームを過ぎており、急落しているが、10年先のことを考えると依然として魅力的な投資だと思う。

ただし、プロは一般人よりは一歩も二歩も先を進んでいるので、本がいろいろ出回る頃には、しろうとはブームの終わりのババをつかまされる可能性が高いことにも注意しなければならない。


ミセス・ワタナベの冒険

ミセス・ワタナベとは、実在の人物ではなく、日本の主婦トレーダーの総称だという。投資のレバレッジ率は株の信用取引では3.3倍が普通だが、外貨FXだと大手で20倍、中小業者だと200−400倍というところもあるのだ。

いわゆる円キャリートレードで、たとえば100万円の資金でレバレッジ200倍で2億円を借り、200万ドルに両替してドル金利の5%を得る。

200万ドルのバーチャルな預金から毎年10万ドルのリアルマネーが入ってくるので、元手100万円で一生暮らしていけるのだ。

架空の人物ミセス・ワタナベは数兆円の円資産を売って、米ドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドルなどの高金利の通貨を買っているのだという。

外貨FXはクリック一つで終わり、後は金利が振り込まれるまで待てば良いだけで、手軽に不労所得が得られるので、主婦やフリーターに急速に広まった。

外貨FXで多くの巨額の脱税事件が発生したが、外貨FXは手数料率が0.05%程度と低く、かつ胴元が300倍までの資金を貸してくれるので、宝くじより非常に効率の良いギャンブルなのだという。

勿論資金が200倍、300倍のレバレッジをかけていると、ちょっとでも逆方向に動くとすぐに損失か利益が出る。

経済理論からするとデフレ+低金利の通貨は強く、インフレ+高金利の通貨は弱いはずだが、円に限ってはデフレ+低金利の円安が10年間続いている。

この理由の一つが外貨先物取引に於けるスワップポイントだ。ドルと円の金利差を、外貨FX業者は毎日のキャッシュ支払いに転換したのだ。1万ドルの円売りポジションを持っていれば、金利差年率5%とすると0.013%つまり、毎日1.3ドル入金する。

逆にドル売りポジションを持っていると、毎日1.3ドルが口座から差し引かれるのだ。

参加者は外貨FXは外貨預金の一種と考えていることもあり、この心理的効果は大きく、結果として円売りポジションばかり積み上がり、ドル売りポジションは少ないのだという。

この10年間円高にかけて円買いを敢行したプロ投資家はことごとく敗退し、苦杯をなめてきた。為替レートが一定以上の円高になると、必ず円売りドル買いの投資家が現れ、相場を押し戻すのである。

1998年のLTCM破綻でも、2007年のサブプライムショックでも、欧米の金融機関やヘッジファンドが損失を出し、円キャリートレードを手じまおうとして巨額の円買いが出た時でも、1ドル=105円の水準で必ず円売りドル買いが出て為替相場を円安に押し戻したという。

現在の90円まで行って、また100円近くまで急速に戻ってきた円相場を見ると、たしかに橘さんの言っていることが当てはまるような気がする。

LTCMは破綻時には60倍のレバレッジをかけていたとされるが、ミセス・ワタナベは300倍のレバレッジをかけることができる。

為替市場に於けるミセス・ワタナベの存在は謎につつまれているという。

自らの取引を外貨預金と信じているミセス・ワタナベはスワップ金利が受け取れる限り、円高で含み損がふくれあがっても容易にポジションを解消しようとしない。その結果外貨資産が根雪のようにふくれあがる。

かくして最新の金融工学で武装した日本の主婦が、機関投資家・ヘッジファンドと立ち向かう近未来活劇を我々は見ているのだという。しかも彼女たちはデリバティブ取引について全く理解していないのだ。


日本人全員が働かずに暮らせるユートピア

そして奇妙きてれつなおとぎ話が生まれたという。

デフレ+低金利の円安というマーケットの歪みが固定化し、為替が将来も一定範囲に収まるならば、もはや日本人は働く必要はない。

外貨FXで高金利の外貨を買い、あとはスワップ金利を受け取りながら遊んで暮らせばいいのだ。この投資法はなんの知識も技術も不要で、子どもから老人まで誰でもできる。

そうなると低金利と円安が永遠に続くことが望まれ、もっとも忌み嫌われるものは、金利の上昇と円高だ。

すなわち、日本を長い不況が襲い、改革は遅々として進まず、株価も不動産も下落する社会こそ日本人全員が働かずに暮らしていけるユートピアが実現するのだ。

公的年金や医療制度は破綻するかもしれないが、スワップ金利さえあれば何の問題もない。こうして賢明な有権者は無能な政治家を為政者に選ぶだろうと。

ミセス・ワタナベはとてつもない潜在力を持っている。レバレッジ300倍で、国民資産の1500兆円を運用すると、45京円という金額になる。これは地球上に存在するお金1.6京円の30倍である。

日本国が国として滅びることによってこの世に極楽浄土が到来するのだと。

「ミセス・ワタナベ」と言うこんな恐ろしい話があったとは知らなかった。しかしなるほどとここ10年来の円安の理由がうなずけるような気もする話である。

ミセス・ワタナベのFX取引のために、円安が続き日本の国民一人当たりのGDPが世界2位から22位まで落ちて、国民全体の資産が対外的に目減りしていたわけだ。

しかし最近の世界金融危機で、円は他通貨に対して大きく値を戻しており、ここ数日で値を戻しているが、それでも独歩高と言っても良い。

たぶん今まで為替FX取引で円安に賭けて円売りベースでやってきた人には、極楽ならぬ地獄になっていると思うが、いままでFX取引をやっていなかった人には新規参入のチャンスかもしれない。


革命としてのヘッジファンド

ミューチュアルファンドはバイアンドホールド(買い持ち)しか許されていなかったが、ショート(空売り)をはじめたのがヘッジファンドの始まりで、1949年にアルフレッド・ジョーンズが始めたA.W.ジョーンズが始まりだという。

それまでは持っている株しか売れなかったのが、今度は空売りもできるようになり相場が下落しても儲けられるようになったのだ。

アメリカの法律ではヘッジファンドのリミテッドパートナーを投資額100万ドル上の投資家100名以下、又は投資額500万ドル以上のポートフォリオを持つ投資家5,000名以下と定めている。

投資家が金融のプロか富裕層に限定されていれば、国家が介入することはないと考えたのだ。

ジョーンズは自分の報酬も成功報酬のみの20%とし、全財産をファンドに預けたという。高い成功報酬を取る以上、投資家とリスクを共有するのは当然と考えたのだ。

1966年4月「フォーチュン」誌に「ジョーンズには誰も追いつけない」という記事が出たという。

成功報酬の20%を差し引いても、ジョーンズのファンドが5年間で最高利回りのミューチュアルファンドのフィデリティを44%上回り、10年では最高のドレイファスファンドを87%も上回ったのだ。

この記事をきっかけに第一次ヘッジファンドブームが起こった。そのなかの一つがハンガリーから逃げてきたジョージ・ソロスの運営するクォンタム・ファンドだ。

ジョージ・ソロスはイングランド銀行を相手にポンド売りを仕掛けて勝利し、一躍有名になった。ソロスのファンドは1日で10億ドルを超える利益を手にしたという。

その後ヘッジファンドは増え続け、2007年には1万社を超え飽和状態に達したという。

ヘッジファンドが市場インデックスを上回るというのは統計の詐術であると。ファンドマネージャーが成功報酬をもらえないような運用実績を記録した場合、ファンドを解散するので、統計に反映されない。運用に成功したファンドだけ統計に反映されるからだという。こうして年間数百社のヘッジファンドが消えていく。

米国以外では投資家の制限はないので、ヘッジファンドは下限投資額を引き下げ、海外投資家を勧誘する。日本人に最もなじみのふかい老舗マン・インベストメンツは5万ドルから投資できる。

こうした個人向けヘッジファンドは手軽に購入できるが、販売は代理店に任せているので、5%程度の販売手数料と毎年0.3%程度の管理手数料が販売者にキックバックされる。販売代理店に資格は必要ないので、マルチ商法まがいの会社もいるので要注意だ。

ヘッジファンドの仕組みは簡単だ。たとえば自分の元手1億円を用意して、他の出資者99人から1億円ずつ集める。100億円をレバレッジ20倍の2,000億円で運用し、年率1%で運用すれば20億円の利益、つまり100億円の元手を20%のリターンで回したことになる。

だがもし損失を出すとレバレッジをかけている分、損失も大きくなる。たとえば1%のロスで、20億円の損失、マイナス20%の運用成績となるのだ。

ヘッジファンドのマネージャーは成功報酬だが、失敗したときは最悪は報酬ゼロであり、損は負担しなくてよい。だからファンドマネージャーにはモラルハザードが発生しやすい。


その他、詳しく紹介しているときりがないが、マレーシアのラブアン島やランカウイ島のタックスヘイブンの話とか、イラン革命の時、アメリカの共和党が秘密裏に、人質になっていた米国大使館の職員を解放しないようにイランに金を渡していた(?)ことが決済会社の社員によって暴かれた話とかが面白い。

マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部
著者:エルネスト バックス
販売元:徳間書店
発売日:2002-04
おすすめ度:4.5
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筆者はラブアン島に行ったことはないが、米国にいたときに、まさにラブアン島にあったマレーシアのガス会社の子会社の直接還元鉄の会社から、アイアンブリケットを米国に輸入していたので感慨深い。


パーペチュアルトラベラー

一ヶ所に定住することなく、常に世界中を旅していればどこの国でも税金を納めなくても済む可能性がある。

ところが日本の税務当局は海外に住んでいても、国内に住所を有すると推定されれば所得税を取り立てる。捕捉率は低いが、著名な人はしばしば税務調査ターゲットになる。

たとえば香港在住の武富士創業者の息子の相続税脱税裁判は、2007年5月東京地裁で判決が出て、1,300億円の追徴課税が取り消され、国税当局は還付加算金を含む1,715億円を返還することになったが、2008年1月の東京高裁では国側の逆転勝訴判決が出された。

ハリーポッターシリーズの翻訳者も2001年スイスジュネーブにマンションを購入して住民票を移していたが、2006年7月に3年間で35億円の申告漏れを指摘され、7億円の追徴課税を受けた。

これらは氷山の一角だ。

タックスヘイブンのマレーシアのラブアン島は日本人のリタイア層に人気だそうだが、日本人の現地業者が日本人向けに8万円で仕入れた部屋を25万円で貸してぼったくっているケースもあるという。海外移住者から甘い汁を吸おうとする業者には要注意だと。

オーストラリアの通貨高、物価高でオーストラリアに移住した人が日本に戻ってくるケースも続出しているという。日本円が安くなったので、もはやオーストラリアよりも日本の方が物価・生活費が安いのだと。

もっとも最近の円高で、かなり状況は変わっていると思う。

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ポンド高もあって、イギリスでは人口の約1割が海外移住しているという。円高になれば、また海外移住という話題も復活してくると思う。


前作「臆病者の株式投資」の上級編といった感じの本書だが、まさに目からうろこで、読み物としても面白く大変参考になる本だ。

この本が書かれた2008年初めと今とでは、かなり市場環境が変化しているが、逆にチャンスではないかと思う。

結構参考になる本なので、あらすじも長くなったが、市場は常に動いているので、この本を参考にして、現実の市場をチェックして欲しい。



参考になれば次クリックお願いします。





残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 橘玲さんの最新作

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
著者:橘玲
幻冬舎(2010-09-28)
販売元:Amazon.co.jp
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途上国債券投資やパーペチュアル・トラベラー(永遠の旅人 どの国にも税金を払わない)など、ユニークな話題を提供しており、このブログでもいくつかの作品を紹介している作家橘玲(たちばなあきら)さんの最新作。

橘さんの作品は、「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」に大変感心して以来ほぼ読んでいる。

お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門
著者:橘 玲
幻冬舎(2002-11-26)
販売元:Amazon.co.jp
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「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」は累計で30万部売れたベストセラーだ。

「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」のあらすじはえらく短いが、2005年1月は筆者がブログを書き始めたばかりの時なので勘弁いただきたい。

日本ではプラチナチケットだったワールドカップのチケットを海外で買って悠々日韓ワールドカップを観戦するという発想の転換には、驚かされたものだ。


勝間・香山論争

「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」では最初に勝間和代さんと香山リカさんの論戦を取り上げる。

筆者も勝間さんが登場した時は、「10倍シリーズ」など何冊か読んだが、そのうち飽きてきて、今はまったく手に取ることがない。「賞味期限切れ」だと感じている人は多いと思うが、それでも朝日新聞の土曜版に「勝間和代の人生を変える法則」というコラム連載を続けているのは立派というほかない。

橘さんは勝間さん自身が原点と呼ぶ「勝間和代のインディペンデントな生き方 実践ガイド」を取り上げている。

勝間和代のインディペンデントな生き方 実践ガイド (ディスカヴァー携書 022)勝間和代のインディペンデントな生き方 実践ガイド (ディスカヴァー携書 022)
著者:勝間 和代
ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008-03-01)
販売元:Amazon.co.jp
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勝間さんの主張は「努力をするとより幸せになれる」に尽きる。だから勝間さんは「自己啓発の女王」なのだと。


「やればできる」VS「やってもできない」

一方、精神科医香山リカさんは「努力したくないひとがいてもいいじゃないか」という立場だ。

これに対する勝間さんの反論は「やればできる」で、そのために本を一冊書いている。

やればできる―まわりの人と夢をかなえあう4つの力やればできる―まわりの人と夢をかなえあう4つの力
著者:勝間 和代
ダイヤモンド社(2009-12-04)
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結局勝間ー香山論争は議論がかみ合わないままだという。

勝間さん、努力で幸せになれますか勝間さん、努力で幸せになれますか
著者:勝間 和代
朝日新聞出版(2010-01-08)
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橘さんは、”こころは遺伝する”、”知能の70パーセントは遺伝で決まる”というような、一つ間違うと差別主義者としてバッシングされるような主張を注意深く展開し、「やってもできない」という事実を認め、そのうえでどのように生きていくのかの「成功哲学」をつくっていくべきだと主張する。

この議論には筆者も感じるところがある。


努力できることが才能である

というのは松井秀喜の「不動心」で紹介されていた話で、松井秀喜が父親から教わったモットーに、福井県加賀市で晩年を過ごした硲(はざま)伊之介という洋画家、陶芸家の「努力できることが才能である」という言葉があるのだ。

不動心 (新潮新書)不動心 (新潮新書)
著者:松井 秀喜
新潮社(2007-02-16)
販売元:Amazon.co.jp
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まったくその通りだと思う。

たとえば毎日電車で通勤していて、ほとんどの人が座ると寝るか、ゲーム機や携帯電話でゲームするかで、車両の中のせいぜい1-2割くらいの人しか本を読んでいない。

電車の中で寸暇を惜しんで勉強する「努力できる人」は、向上心があるので放っておいても成長するだろう。

だが残りの8割の人に「やればできる。通勤時間で本を読め!」と鼓舞しても、たぶんのれんに腕押しだろう。「ほっといてくれ。おまえのしったこっちゃない」と言われるのがオチだ。

だから勝間流の「やればできる」ではなく、香山さんや橘さんが言う「やってもできない」を基にした成功哲学という考えには納得してしまうのだ。


カーネギーの本だって読んでいる人は少数派

この本でもカーネギーの「道は開ける」と「人を動かす」が、自己啓発や自己コントロールの代表作として紹介されている。

道は開ける 新装版道は開ける 新装版
著者:デール カーネギー
創元社(1999-10)
販売元:Amazon.co.jp
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人を動かす 新装版人を動かす 新装版
著者:デール カーネギー
創元社(1999-10-31)
販売元:Amazon.co.jp
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以下は橘さんの議論に触発された筆者の意見だ。

カーネギーの本は、世界でベストセラーとなっており、たぶん全世界で数千万部売れていることだろう。

日本でもシリーズ合計で1千万部近くは売れていると思うが、それでも1億3千万人の1千万である。

知人にプレゼントするために一人で何冊も買っている筆者のような人もいると思うので、図書館で借りて読んだ人を入れても読者としては1千万人もいないかもしれない。

このブログの「カーネギー」の項目で、様々な人がカーネギーの本から多くを学んでいることを紹介しているが、これだけ多くの人が推奨していても読む人は少数派なのだ。

「道をひらく」で松下幸之助は「向上心のある人は必ず成功するな」と言っている。向上心のある人は少数派だから頭角を現し成功するのだ。

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
PHP研究所(1968-05)
販売元:Amazon.co.jp
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この本の目次

上記の論点がこの本の肝で、その他の点については目次をみれば、大体感じがわかると思う。ここをクリックしてアマゾンのなか見!検索で目次をみてほしい。

この本の結論の「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」とは何かは、目次をみれば大体わかると思う。「好きな仕事で、自分で事業をする」がキーワードだ。

「好きを仕事に」は決して楽ではなく、残酷な世界である。これについては、映画「アンヴィル!夢をあきらめきれない男たち」という50過ぎの売れないロックンローラーのドキュメンタリー映画を紹介している。
 


アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~ [DVD]アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~ [DVD]
出演:アンヴィル
SMJ(SME)(D)(2010-04-14)
販売元:Amazon.co.jp
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「好きな仕事」で儲けるのは至難の業だ。

橘さんは、前作「貧乏はお金持ち」を参考にして欲しいというが、「好きな仕事」で稼ぐ方法が「貧乏はお金持ち」や「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」に書いてあるわけではない。書いてあるのはヒントだけである。

貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
著者:橘 玲
講談社(2009-06-04)
販売元:Amazon.co.jp
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あくまで自己解決で、それゆえ世の中に成功者は少ないのだ。


最後に参考になった点を2点紹介しておく。

★能力主義が徹底している外資系の会社に応募するときには、履歴書には学歴、資格、職歴しか書かないという。これが世界の潮流となった「道徳的に正しい」能力主義の結果であり、それゆえ「自己啓発の女王」勝間和代が必然的に生まれたのだと。

★この本のなかで、「影響力の武器」というチャルディーニの本が紹介されている。面白そうな本なので、今度読んであらすじを紹介する。

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか
著者:ロバート・B・チャルディーニ
誠信書房(2007-09-14)
販売元:Amazon.co.jp
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あまり目新しい情報はないが、「やればできる」、「やってもできない」の議論は考えさせられる点が多く、参考になった。


参考になれば次クリック願う。


亜玖夢博士の経済入門 裏経済もわかる経済小説

亜玖夢博士の経済入門


小説「マネーロンダリング」でデビュー、別ブログでも紹介している「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」で、独自の境地を開き「永遠の旅行者=パーペチュアルトラベラー(どこの国の所得税もかからない旅行者)」を提唱している作家 橘玲さんの小説仕立ての作品。

橘玲さんの本を2冊紹介したが、この本も大変面白いので、あらすじを紹介しておく。

お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 ― 知的人生設計入門


元々別冊文藝春秋(月刊)に連載されていたシリーズだ。

新宿歌舞伎町に事務所を持つ身長150センチの老人 亜玖夢(あくむ)博士の経済相談所が舞台だ。

亜玖夢博士は小学生で論語を暗唱、神童と呼ばれる。16歳の時にアメリカに密航し、アインシュタインフォン・ノイマンと会う。青年の時にサンフランシスコの大学に招聘され、様々な心理学テストを経験し、「南極のペンギンに氷を売る」セールス技術を生み出したという設定だ。

事務所には中国人の超美人ファンファンと、彼女の弟で少女漫画に出てくる様なハンサムガイ リンレイが亜玖夢博士のアシスタントとして働いており、博士の指示に従い、中国人マフィアなどを使って数々の処置を行う。

筆者のポリシーとして小説のあらすじは詳しく紹介しないが、次の様なストーリーが取り上げられている。

1.債務者をさらにヤミ金融から借金を借りまくらせて自己破産させる(カーネマンの行動経済学

運転免許証と実印、それに戸籍謄本、住民票、印鑑証明の3種の神器を50通用意させる。

全情連(全国区信用情報センター)の加盟店でないのでオンラインでクレジット情報が取れないヤミ金融をはしごさせ、それぞれから30万円から50万円づつ借りさせる。

親の職業は教師というと信用されると。「日本は人権の国だから、親に子どもの借金を返済する義務はないだろ。最近の親子関係は薄情だから、下手に取り立てに行くと違法だって怒鳴られて、すぐに警察を呼ばれる。だから、親の職業が大事なのだ」という。

合計1,000万円借りさせて、半年逃げ回らせ、自己破産させる。なんなら戸籍も買ってきて、別人にならせてあげるというところでストーリーは終わる。

2.覚醒剤を資金源とするヤクザの利権争い(ノイマンのゲーム理論

手打ちをするか、抗争かで悩むヤクザを囚人のジレンマで戦略を検討。中国マフィアがやたら拳銃をぶっ放すところが、小説らしい。


3.学校でいじめられている小学生の対抗策(ワッツとストロガッツのネットワーク理論

マルタイの女」の一場面でもあったが、動物の生首がやたら出てくるのが、これまた非現実的で小説らしい。

4.水道水を奇跡の水として売るマルチ商法(チャルディーニの社会心理学

全身の体液をスーパー・バイオニック・ウォーターに入れ替えれば、どんな病気も治るとして、特殊浄水器を売るマルチ商法。

中国に展開し、日本では詐欺になって訴訟が続発するが、大気汚染、水源汚染のひどい中国では、日本の水道水でも大丈夫だというところが小説らしい。

「長崎あたりから漁船で沖に出て、高速船に迎えにこさせたらすぐにチンタオだ」という。

どんな過去を持ち、ヤクザに追われている者でもやり直せるのだというが、フィクションなのか、現実でありえるのか不明なところだ。

5.自分探し(ゲーデルの不完全性定理

「あたしってウソつき」という女の子は正直かウソつきか、と言うパラドックスが紹介される。


筆者自身もここに紹介されている経済原理を正確に理解している訳ではないが、小説ながらも、経済原則の事例勉強にもなるという設定は面白い。

オーソドックスな「日本国債」とか「タックスシェルター」とかの幸田真音さんの本格的経済小説とは、全くテイストが異なるが、読み物として面白い。

日本国債〈上〉 (講談社文庫)


タックス・シェルター


簡単に読め、参考になる。一読をおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。


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臆病者のための株入門 プロにカモられないために知っておくべきこと

臆病者のための株入門 (文春新書)臆病者のための株入門 (文春新書)
著者:橘 玲
販売元:文藝春秋
発売日:2006-04
おすすめ度:4.5
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前回「黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」のあらすじを紹介したら、アクセスする人が増加したので、橘玲さんの2006年の著作も紹介しておく。

投資の入門本としてベストセラー作家の勝間さんの「お金は銀行に預けるな」を別ブログで紹介したが、勝間さんの本は机上の議論という感じが強い。

これに対して橘さんは、1ヶ月で100万円を1億円に増やすべく自ら実行したり、実践の裏付けがあるので、説得力がある。

この本は「投資の専門家」とはどういう人たちかなど、独自の見方で解説しており、目からうろこの素人向け入門書である。

お金は銀行に預けるな   金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)
著者:勝間 和代
販売元:光文社
発売日:2007-11-16
おすすめ度:4.0
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アマゾンのなか見検索に対応していないので、目次を紹介しておく。

はじめに 臆病者には臆病者の投資法がある

第1章  株で100万円が100億円になるのはなぜか?

第2章  ホリエモンに学ぶ株式市場

第3章  デイトレードはライフスタイル

第4章  株式投資はとういうケースか

第5章  株で富を創造する方法

第6章  経済学的に最も正しい投資法

第7章  金融リテラシーが不自由な人たち

第8章  ど素人のための投資法
   1.アセットアロケーション
   2.国際分散投資
   3.為替リスク
   4.トーシロ投資法
   5.世界市場ポートフォリオ
   6.トーシロ投資法VSプライベートバンク

あとがき 追証がかかった日


株の本を読んでもわからない

筆者の橘玲さんは「海外投資を楽しむ会」の創設メンバーの一人で、Perpetual traveler(常に海外を渡り歩き、一つの国に半年以上滞在しないので税金も納めなくて良い?ライフスタイル)を追求している。

橘さんは元々サラリーマンだったが、阪神淡路大地震があった年にビルゲイツの「ビル・ゲイツ未来を語る」を読んで感銘を受け、マイクロソフトの株を買いに行ったら売ってくれなかったことから、それなら自分でやると決心して、株研究本を何十冊も読み株で大もうけしようとたくらむ。

ビル・ゲイツ未来を語るビル・ゲイツ未来を語る
著者:ビル・ゲイツ
販売元:アスキー
発売日:1995-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


しかし何冊読んでも全くわからなかったという。それぞれが違うことを言い、ファンドマネージャーは神のお告げの様に語り、ファイナンシャルプラナーはハイパーインフレが来ると脅す。

結局、株の本は理解できないように作られていることが分かったという。

株は欲望が生み出した迷宮で、次になにが起こるか誰にもわからない。だから臆病なしろうと向けにこの本を書いたのだと。


100万円を1億円に

最初に橘さんの経験談がある。

1999年のインターネットバブルの時に一念発起して1ヶ月で100万円を1億円に増やすという計画を思いつき、NASDAQの株価データを統計解析し、インターネットでアメリカの先物会社に口座を開き1999年10月に投資ポジションをつくった。

明らかなトレンドが存在するときに、上がり相場は買いまくり、下がり相場は売りまくるという「モメンタム戦略」を採れば、平均的な運用成績を10%以上上回れるという研究を知り、100万円をレバレッジ20倍で約20万ドルにしてシカゴの株先物で運用し、利益が出ればさらにポジションを積み増すという戦略で投資を開始した。

アメリカの証券会社を選んだ理由は、投資で損失が発生してもアメリカから日本まで追証を取り立てにくるわけないし、たとえ裁判に訴えられても家もマイカーもないので、儲けは無限大で、損失は最初の100万円に限られると思ったからだと。今から思えば恥ずかしいと橘さんは告白している。

当初の予定では儲かっていればシカゴの大引け前に追加で買い、損していれば自動的にストップロスを発動するというものだった。

空前の上がり相場の時だったので、利益が出ては、さらに信用買いで先物を積み増して買うということを続けて投資金額も順調に拡大したが、もしストップロスが発動しないと破産するとの強迫観念で眠れなくなった。

そして一晩中株価ボードを見つめ、1時間程度の仮眠の後会社に出るという生活を2週間続けていたら突如色彩のない白と黒の世界になって、このままでは死んでしまうと思ったので、結局その日のうちにポジションを手じまった。

そのまま続けていれば12月31日に運用額は80億円に達し、4億円近い利益を手にして、そして1月3日にはさらに2億円儲け、ポジションは100億円に達するが、翌1月4日の暴落で結局7億円損したはずだという。

筆者もちょうど1999年ー2000年に米国でインターネット関係で投資したことがあるので、この頃のことを思い出す。Janusのインターネットミューチュアルファンドを買い、インターネット株をIPOで取得したのだ。

ミューチュアルファンドは完全な高値づかみだった。結果的にピークで買ったので、それまでは年率40−50%のリターンだったものが、2000年は一挙にマイナスに転じ、結局平均30%のロスだった。

IPO株は約40ドルで買ったものが、1ヶ月弱でピークは300ドル超、半分は200ドル強で売り抜けたが、半分はそのまま持っていたので10ドル台となった。まさにローラーコースターである。


無職・無資産でないとできないこと

2005年12月のジェイコムの誤発注で20億円を儲けたジェイコム男は27歳無職男性だという。

要は最悪無一文になってもかまわない無職の若者でないとレバレッジをかけたハイリスク投資はやれないし、ハイリスク投資で勝ち残るのはほんの一握りだということだ。

ジェイコム男がプロを上回る実績を出せたということは、たまたまそうなったからであり、株式はじゃんけんと同様に本来プロもアマも同じだ。

多くの失敗した人は表に出てこないが、成功した人は珍しいので本を書けるまでになる。そうするとあたかも誰でも成功できるような錯覚に陥るので、またカモネギが増える。

本来「金融のプロ」なんていない、単なる確率の世界なのだ。


ホリエモンの冒険

しかし単なる確率の世界でも、降ってわいた儲け話もある。金融システムの欠陥を追求するのだ。

ホリエモンがやったのは、株式を100分割すると新たにつくられる99株は信用買いはできても、空売りはできないという規制を逆手に採った手法で、残りの1株は自動的に高値になるというシステムの欠陥を突いたものだ。

自社株買いは厳しく制限されているが、投資組合に適当な会社を買収させ、ライブドアの自社株と相手企業の株を交換すると、いくらでも自社株が発行できる。これはいわばお札を印刷しているようなものだ。

これは株式市場の歪みであり、彼らはこれを利用しただけなのだ。

ところでホリエモンが情報発信をを再開している。「六本木で働いていた元社長のアメブロ」というブログを再開している。

昔のようにアクセスNo.1になるはずもないが、何を書くつもりなのか、彼の人間性が判断できるだろう。


株式市場はゼロサムゲーム

株式市場はゼロサムゲームだ。誰かが得すれば、誰かが損する。

たとえばひところ株価が100円以下になると、機関投資家はストップロスの内規により自動的に売るので、必ず翌日は下落するという現象があった。いわばオンラインゲームのように、みんながインターネットで情報交換してターゲットを撃沈することをやっていたところ、機関投資家が裏をかく行動に出て、個人投資家を食い物にしだしたという。

債券投資は将来の金利を予想するゲームで、株式投資は会社の将来の利益を予想するゲームなのだ。だから使われる指標はEPS(一株利益)とPER(株価収益率)だ。

このゼロサムゲームというのは、筆者自身もふくめて株をやるうえで頭にたたき込んでおくべき事だろう。


バフェットの法則

オマハの賢人ウォレン・バフェット氏は昨日(9月24日)今の金融危機は「経済のパールハーバー(economic pearl harbor)」だから、政府も議会も一致団結して金融システムを守らなければならないとテレビで訴えていると豊島逸夫さんのブログに書いてあった

バフェット氏は2000年のインターネットバブルの時も、ネット企業に全く投資しておらず、その先見性で名声を高めたが、今回の中国株や新興国株の下落でも、11−14%保有していた中国最大の企業ペトロチャイナの全株をピークの2007年10月の直前の9月と7月に売りぬけ、またもや名声を高めた。

(もっともバフェットのペトロチャイナへの投資は、ペトロチャイナがスーダンのダルフールの石油開発に携わっているので、バフェットも20万人もの虐殺や強姦を支援していると非難されていたので、ある意味手を引く時期だったのかもしれない)


そのバフェットの法則は次の通りだという。

1.企業に関する原則
 ・その事業は簡明で理解しやすいか
 ・安定した業績の記録があるか
 ・長期の明るい展望があるか

2.経営に関する原則
 ・合理性を尊重できる経営者であるか
 ・株主に対して率直で誠実か
 ・横並びの強制力に負けないか

3.財務に関する原則
 ・1株当たり利益ではなく株主資本利益率を重視する
 ・「フリーキャッシュフロー(オーナー収益)」を計算する
 ・売上高利益率の高い企業を探す
 ・留保資産1ドル当たり、少なくとも1ドルの割合で株価に反映していることを確認する

4.マーケットに関する原則
 ・企業の真の価値を確定する
 ・企業の価値に対し大幅に割安な価格で買えるか

どれもオーソドックスなものばかりだ。


金融のプロとは

バフェットのもっとも嫌っているのが「金融のプロ」のアナリスト達であるという。彼らが投資家に損をさせているからだと。儲かる銘柄を知っている人は、人に教えたりせず、黙って自分で買う。

橘さんはバフェットのようにアナリスト達を全否定はしないが、彼らの機能は安心を売ることだ。だから「買い」と「中立」ばかりで、「売り」はほとんどないのだと語る。

カリスマ評論家になるには、当たったケースばかりを並び立て、はずれた予想は無視するのだ。そのうち人は忘れるからだ。


経済学的に最も正しい投資法

経済学的に最も正しい投資法について、マーコウィッツジェームズ・トービンウィリアム・シャープなどの歴代ノーベル賞受賞者の説を紹介している。

結論は簡単でインデックスファンドを買えというものだ。

橘さんは過去のデータを統計解析してノーベル賞学者の理論が正しいことを確認したという。市場平均を上回れるファンドは3−4割しかないのだ。

これに対してウォール街の金融マン達は、効率的市場仮説などはありえない、株式市場の歪みを利用して6兆円を稼いだバフェットがいるではないかと当然反論した。しかし運用実績の話になると、とたんに黙ってしまう。

手数料の差もあり、長期にわたってインデックスファンドを上回るファンドはほとんどないのだ。

日本の株式市場はバブルのピークに近づくことすらない。これは一国の株式市場だけに投資していてはダメなことを物語っている。

経済学的に最も正しい投資法は、世界市場全体に投資することだと。


銀行・生保にも気を付けよう

銀行の外貨預金や投資信託キャンペーンなども銀行に販売手数料が継続的に入る商品ばかりで、「ぼったくり」を目的としている商品ばかりだと橘さんは語る。だから金融リテラシーが必要だと。

元本保証型ファンドも手数料でがっぽり稼いでいる。ヘッジファンドは成功報酬制でプラスのパフォーマンスに対して通常20%の報酬が請求され、利益は実現していなくても良い。

生命保険も「家族の愛情」とか称して非常に分が悪い保険を売ると橘さんは語る。

筆者も生命保険では驚いたことがある。筆者は掛け捨ての生命保険しか掛けない主義だが、米国に駐在していたときに取った生命保険の見積もりでは死亡保障50万ドル、30年間料率固定で月々110ドル、30年間の保険料合計が37,500ドルというものだった。

当時アメリカの保険会社は空前の好決算を迎えていたので、こんな長期低料率の保険が出せたらしく、そのうちに最長でも10年までしか料率が固定できなくなったが、78歳まで同じ料率で、しかも漸増する追加料金を払えば95歳(!)まで延長可能というものだ。

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たぶん95歳までには死ぬと思うし、78歳までに死ぬ確率も結構あるのではないかと思うが、78歳までに死亡すると50万ドルが支払われる。

合計4万ドル弱の保険金で50万ドルの保障が得られるのである。

本当は現在価値に置き換える必要があるが、単純計算だと78歳までに死ぬ確率が7.5%を上回ると保険会社は損をするという計算になる。

日本人男性の平均寿命は79歳。平均余命だと2年ほど伸びるがそれでも78歳までには10%を超える人は亡くなっていると思う。筆者の高校の同級生でも50人のうち2人(4%)が亡くなっている。

喫煙者の場合は保険料は倍だった。それだけ喫煙者の死亡率が高いということだ。

日本の場合には高齢者になると死亡保険は掛けられなくなり、料率も極端に高くなる。最近ネットで生命保険の料率を見積るサービスもあるが、5千万円で70歳までの保障とすると保険料は月々5万円を超える。

「ぼったくり」とは言わないが、掛け捨てでも高すぎる様な気がしてならない。ましてや満期割り戻し保険をやだ。

世の中にフリーランチはない。誰かが得すれば誰かが損するのだ。


トーシロ投資術

最後にトーシロの投資法として、サラリーマンは自分自身が最大の資産なので、いわば数億円のサラリーマン債券を保有しているのと同じである。だから無鉄砲に上司と喧嘩して飛び出したり、痴漢や飲酒運転でクビになったりしてサラリーマン債券の価値を毀損してはいけないと橘さんは語る。

また新築マイホームは買ったとたんに値段が1−2割下がる非常に分が悪い不動産投資であると。

だから結論としては世界ポートフォリオに投資することだと。

橘さんの「黄金の黄金の扉を開ける賢者の海外投資術」に詳しく手法が書いてあるので今度紹介するが、MSCIコクサイ・インデックスTOPIXを85:15で組み合わせるか、信託コストを下げるならEFTでSPYとEFAを組み合わせることを勧めている。

もっとも橘さん自身は「経済学的に最も正しい」インデックスファンド投資をやっていないという。たしかにインデックスファンドでは投資の興奮は味わえないので、橘さんの言うこともわかる。

人には正しくないことをする自由もあるからだと。


みずから実践した者のみが語れる迫力があって面白い。目からウロコの投資入門書である。


参考になれば次クリックお願いします。



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