読売新聞記者としてヨミウリ・オンラインのワイン欄を担当。2014年に独立したワイン・ジャーナリスト山本昭彦さんの本。
山本さんはワイン・レポートというブログで多くのワインに関する記事を公開してするほか、ヴィノテーク、ワイン王国など専門誌に寄稿。アカデミー・デュ・ヴァン講師。シャンパーニュ騎士団オフィシエ・ドヌール。ボルドーのボンタン騎士にも叙任されている。ロック評論も専門誌に寄稿しているという、多芸の人だ。
ボルドーは世界最高クラスのワインを生産する。次は代表的なボルドーのトップクラスのワインだ。これらがワインバブルの投機対象となっている。
出典:本書34ページ
ボルドーの主要なワイン産地の地図は次の通りだ。
出典:本書56ページ
ボルドーのワインには「プリムール」という先物取引のシステムがある。生産者は毎年春、収穫から半年足らずのワインを試飲させて、熟成した時の品質を予想させ、収穫から3年先の納期で売りさばく。
定価はなく、ワインの出来や景気を考慮した上で、需要と供給のバランスによって売り出し価格を決める。このプリムール価格が2005年に暴騰したのだ。
出典:本書22ページ
それまでもフランスが熱波に襲われ、13,000人もの死者が出た2003年に収穫量が激減し、価格が急上昇した。しかし、2004年は平凡な年だったので、価格は下がった。
ところが2005年は、世界的ワイン評論家ロバート・パーカーが「過去28年間に試飲したどれとも違う例外的なヴィンテージ」と高く評価したことから、人気が急上昇した。
続く2006年、2007年は平均的な年だったので、過去の例からいけば価格は大きく下がるはずだったのが、2006年は逆に値上がりした銘柄もあった。2007年に若干下がったが、それでも2004年の4倍以上の価格だった。
この価格急騰の原因は、ロシア、中国、香港という新しいバイヤーがプリムール商戦に参入してきたからだ。
シャトー側も需要の変化に目ざとく気づき、たとえばMBAホルダーの社長が率いるシャトー・ラトゥールは、普通だと生産量の8〜9割を売るプリムールでの販売量を絞り込み、生産量の半分も売っていない。先高と予想しているのだ。ちなみにラトゥールは2012年からプリムール販売をやめた。
ワイン銘柄偽装も横行しだした。1級シャトーのいい年のワインの瓶に、同じ会社のセカンドワインや、悪い年の1級ワインを詰めるのはむしろ「良心的?」なほうで、ひどいものは全然違うワインを瓶だけ詰め替えている例もあるという。
古いワインは状態を保つために、リコルキングと言ってコルクを詰め替える作業をする。その時に、中身をすり替えるのだ。
オークションで売っているワインにはニセモノが多いと、山本さんは注意を喚起している。
リーマン・ショックで2008年ものはバブル崩壊 しかし翌年は急騰
2007年からの世界金融危機、2008年9月のリーマン・ショックでワインバブルは一時的に崩壊した。2008年の売出価格は2007年のほぼ半分の100ユーロ近辺にまで下がった。
しかし、2009年と2010年が2年続けて偉大な出来だったので、また価格は上昇し、2010年に過去最高値をつけた。その後は平凡な年が続いたので、2011年、2012年と価格は下がっている。
出典:43navi.com
2013年は天候のせいで生産量が大きくダウンしたため、平凡な出来にもかかわらず価格は小幅ダウンのみだ。
Bordoverviewというサイトで、ボルドーの全主要銘柄の生産年ごとのプリムール価格がわかるので、参照してほしい。
最後にボルドーワイン業界の有名人8人と、飲まずに死ねない10大シャトーを紹介している。そのリストは次の通りだ。
有名人8人
1.シャトー・コス・デストゥルネル支配人 : ジャン・ギョーム・プラッツ(現在はLVMHのワイン部門社長)
2.シャトー・ラトゥール社長 : フレデリック・アンジェラ
3.シャトー・シュヴァル・ブラン、シャトー・ディケム支配人: ピエール・リュルトン
4.シャトー・ムートン・ロートシルト醸造責任者: フィリップ・ダルーアン
5.醸造コンサルタント: ジャック・ボワノス
6.シグナチャー・セレクションズ代表: ジェフリー・デイヴィス
7.ワイン評論家: ロバート・パーカー
8.シャトー・ペトリュス当主: クリスチャン・ムエックス
飲まずに死ねない10大シャトー
1.シャトー・ラトゥール 2006年
送料無料!シャトー・ラトゥール 2006年750ml Chateau Latour【2006】【楽ギフ_包装】【楽ギフ_のし】
2.シャトー・ペトリュス 2006年
送料無料 シャトー・ペトリュス 2010年【2010】 Chateau PetrusPP98-100点 750ml【楽ギフ_包装】【楽ギフ_のし】
山本さんがペトリュスを訪問した時の話が載っている。高級ワインのいわば標準装備である温度調節の可能なステンレスの発酵タンクがなく、小さな建物の中にセメントで固めた発酵槽が10個あるだけだったという。そんな設備で世界最高級のワインが生産できるとは!
3.シャトー・オーゾンヌ 2006年
【初出し特価】シャトー・オーゾンヌ[2006](赤ワイン)[J]
4.シャトー・ディケム 2004年
シャトー・ディケム[2004]年・・ソーテルヌ・プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ・ソーテルヌ格付・特別第一級Chateau d'Yquem [2004] AOC Sauternes Grand Premiers Cru(Premier Grand Cru Classe en 1855)
5.ラ・モンドット 2006年
《PP97点》 ラ・モンドット[2006]【楽ギフ_包装】
6.シャトー・マルゴー 2006年
シャトー・マルゴー[2005](赤ワイン)[Y][J]
7.シャトー・ムートン・ロートシルト 2006年
シャトー・ムートン・ロートシルト[2005](赤ワイン)[J]
8.
シャトー・ラフィット・ロートシルト2006年
シャトー・ラフィット・ロートシルト[2006](赤ワイン)[J]
9.シャトー・オー・ブリオン 2006年
シャトー・オー・ブリオン(赤) 2004 (750ml)
10.シャトー・シュヴァル・ブラン 2006年
【送料・クール代無料】◆シャトー・シュヴァル・ブラン [2008]
ボルドーワインの値上がりは激しい。筆者は1級シャトーではラトゥール、ムートンとラフィット・ロートシルトは飲んだことがあるが、それは30年くらい昔の話だ。当時は店で買っても1〜2万円程度で買えた。
今の様に10万円程度に価格が上がっては、「死ぬまでに飲みたい」という気には到底ならない。むしろ1級格付け以外の値段が安くて、いいワインを見つけることの方がやるべきことだろう。また、ボルドーワインだけがワインではない。他の国やフランスの他の地方にもいいワインはいくらでもある。
筆者がピッツバーグに駐在していた時に、もう20年近く前になるが、シニア・ゴルフ・トーナメントがピッツバーグで開催され、有名なシニア・プロゴルファーの某氏がピッツバーグに来た。
筆者はその場に居合わせなかったが、ピッツバーグにある日本人経営の唯一の日本食レストランで、彼が取り巻きと食事して、「俺は20万円以下のワインは飲まないんだ」と豪語していたという話を他の駐在員から聞いた。(そのレストランには20万円以上のワインは置いていない。ペンシルベニアはワインは州営のリカーショップでしか買えないので、もともとそんな高いワインは買いたくても州内では買えないのだ)
そういう成金趣味の人が、高いワインほど良いと思って高い金でも買うから、ワインバブルは収まらない。
俳優の内田朝陽君のお父さんで、ソムリエでレストラン経営者の内田さんは、ボルドーの1級シャトーやロマネコンティなどのDRCのワインは高くて、ずっと買っていないと言っていた。
下がってきたとはいえ、本当にワイン好きの人には、ボルドーの超高値の1級シャトーワインは値段に見合う価値はない状態が続いている。
ワインバブルはまだまだ自壊していない。みんなが高い金を出して買わないことで、値段がリーズナブルな水準になってくるのを待つしかないだろう。
そんなことを考えさせられた本である。
参考になれば次クリックお願いします。