時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

成功哲学

ライク・ア・ヴァージン リチャード・ブランソンの成功哲学



ヴァージングループ総帥のリチャード・ブランソンさんの成功哲学と、読者からの質問に答えるQ&Aをまとめた本。

ブランソンさんは現在でこそ「サー」・リチャード・ブランソンだが、バッキンガムの高校を中退して自分の雑誌を作り始めたころは、問題児だった。実は失読症と注意欠陥障害だったのだという。失読症(英語ではディスレクシア、Dyslexia)という病気の名前を初めて知った。

失読症とは、知的能力に異常がないにもかかわらず、読み書き学習に著しい困難を抱える障害である。トム・クルーズが告白して有名となり、レオナルド・ダヴィンチ、エディソン、アインシュタイン、ジャッキー・チェン、キアヌ・リーブスなども失読症だったという。

「マンガ・リチャード・ブランソン」という本にブランソンさんの子供のころの話が載っている。アマゾンの”なか見!検索”に対応しているので、ここをクリックして出だしのところを見てほしい。



ヴァージングループは現在世界に400社ある。ブランソンさんは高校を中退して「ストゥーデント」という雑誌の出版を始め、それからレコード店経営、レコード会社経営、さらには航空会社、フォーミュラ1レーシングチーム、宇宙旅行会社、失敗に終わったヴァージン・コーラなど様々な事業に乗り出していった。

この本では、自分の成功哲学を具体例を挙げて語るとともに、今まで受けた代表的な質問に対するQ&Aという形式で、ブランソンさんがヴァージングループの経営理念や、モーターボートでの大西洋横断、熱気球世界一周などの冒険に乗り出したことなどを自由に語っている。

この本はなんといっても翻訳がいい。いかにもブランソンさんが語っているような口ぶりで、頭にスッと入る。一部を引用しておこう。

「ぼくはだれかの下で働いたことがないので、この本は創業者の視点に立っている。でも、ここに書いたアドバイスは、企業で働くことの難しさに直面しているすべての人に当てはまるものだ。」

Q. 朝起きて、最初に考えることは?

A. 「普通の人と同じさ。『今何時かな?』って考えるよ。それから『どの国にいるんだっけ?』と。

Q. 朝、ベッドから起き上がる原動力となる言葉を一つ挙げると?

A. 「正確に言うと三つかな。『リチャード、いいかげん、起きなさい!』っていうグラスゴー訛りの妻の声だよ」

Q. 成功のカギとなる言葉を、三つ挙げてください。

A. 「ヒト、ヒト、ヒト」

Q. まだ手に入れたいものはある?

A. 「孫が欲しいよ。妻と一緒さ。どうか願いが叶いますように!」

Q. ヴァージン・ブランドを表現する単語を三つ挙げると?

A. 「革命的、おもしろい、お値打ち価格で質の高いサービス。最後のは単語じゃないけど、大目に見てもらえるかな」

というような具合で、テンポがよく軽妙だ。

参考になる話も多い。いくつか紹介しておく。


麻薬被害を減らす戦略

ブランソンさんは、もともと麻薬と戦うことが社会にとって最善の策だと思っていたが、「薬物政策に関する世界委員会」に加わったことをきっかけに考えが変わったという。

ポルトガルでは、2001年に薬物の使用と所持を非犯罪化し、ここ10年は麻薬犯を一人も刑務所に送っていない。ヘロイン使用者のための病院を設置し、注射や中毒治療用の合成麻薬剤メタドンを提供するとともに、医学的治療を施した。その結果、薬物使用者は大きく減少した。注射針を使いまわすことによるエイズも70%減少した。強盗の件数も大幅に減っている。

スイスも同様だ。通常は麻薬の使用者であり末端の売人でもあった中毒患者にヘロイン代替物を支給することにより、一般市民と麻薬組織とのパイプ役がいなくなったのだ。

ヴァージンでは他の国で成功した事例を研究し、どうすれば新しい市場に移植できるか考える。麻薬に対する戦いも同様だと。


CEOになりたいなら

CEOになりたいなら、会社のすべてを知り尽くす必要がある。ヴァージン・ブルー(今のヴァージン・オーストラリア)のCEOだったブレット・ゴドフレイは、幹部社員全員が航空会社のすべての業務を体験しなければならないというルールをつくった。ブランソンさんもチェックド・バゲージの積み込みをやって、整骨院に通うことになったという。

こうすることで、会社がどれだけ成長しても、適切な人材に仕事を任せられるようになる。部下が相談に来たときも、現場を直接知っていれば、適切なアドバイスができる。

それと、CEOは会社が振り出すすべての小切手に自らサインし、少なくとも6週間に1回はすべての発注書に目を通さなければならない。こうすることによって会社のお金の流れがわかる。

ブランソンさんはヴァージングループでも長年これを続け、半年のうち1か月はすべての小切手にサインする。グループ会社の社長にも同じことを求めているのだと。

会社のお金の流れをつかむというのは、基礎的だが重要なことだ。筆者の友人でも励行している人がいる。


量産可能な航空燃料プロジェクト

ブランソンさんは、工場のCO2を含む排ガスを利用して、航空燃料に変えるプロジェクトを紹介している。ニュージーランドのランザ・テックと開発しているのだと。

オーストラリアでは小型ユーカリ樹のマリーを使って、やはり航空燃料を生産するプロジェクトを推進している。これはヴァージン・オーストラリア、ダイナモーティブ・エナジー・システム、リニューアブル・オイルなどと組んでいる。


アップルのiPod, iTunesはエイプリルフールのジョークにインスパイアされた?

ヴァージンは世界各地にレコードショップのヴァージン・メガストアを経営していた。これの息の根を止めたのが、iPod, iTunesのアップル勢だ。

ブランソンさんは、ある年のエイプリルフールに、「イギリスに設置した巨大なコンピューターに、あらゆるレコード会社のあらゆる楽曲を保存し、音楽ファンがどこでも好きな音楽をダウンロードできるような”ミュージックボックス”という端末を発売する」と発表し、昼ごろにジョークだと発表した。

レコード会社の面々は真に受けて、「やめてくれ」と泣きついてきたという。ところが、スティーブ・ジョッブスはこれにインスパイアされて、数年後にiPod, iTunesをつくったのだという。

この話の教訓は、「エイプリルフールのジョークを仕掛けたら、最後まで自分でやれ」ということだと。

アップルのデザインやマーケティングはすばらしく、iPhoneによって携帯電話市場を席巻してしまった。それからiPadで出版業界に攻めてきた。


ヴァージンは新しいアイデアに対してオープンであり続ける

ヴァージン・レコードを始めたのは、マイク・オールドフィールドが、ほかのレコード会社に断られ続けた「チューブラー・ベルズ」を売り込みにきて、その価値に気が付いたからだ。マイクを助けるためにレコード会社をつくることにしたのだ。



ヴァージン・レコードは1990年代には世界最大の独立系レコード会社になった。今はヴァージンはレコード会社とレコード販売事業を売却してしまったが、音楽祭を主催するなど音楽との関係は保っている。



ヴァージン・メガストア事業からの撤退が遅れたことに関して、ブランソンさんは自分がタイムズスクウェアや、オックスフォードストリートなどの一等地に旗艦店を置くことにこだわったからだと語っている。

これらの旗艦店は知名度を上げるのに役立ち、グループの歴史にも深く結びついていたので、これらを失うことが怖かったのだと。


バーチャルネットワーク・モデルで事業展開

1990年代末には、携帯電話でTモバイルと組んでヴァージン・モバイルを立ち上げ、若者向けに割安な価格で提供し、同じモデルで世界各国でも事業展開した。

既存の会社と組んで、「ヴァージン」ブランドを冠したサービスを提供する”バーチャルネットワーク・モデル”がうまく機能した一例だ。


ABCD戦略

ブランソンさんはヴァージングループの戦略としてABCD戦略を挙げる。Always Be Connecrting Dots(ひたすら点と点を結べ)だ。故・スティーブ・ジョッブスの有名なスタンフォード卒業式スピーチを思い出させる。

次のスピーチの最初のテーマが"Connecting Dots"だ。ビデオの5分くらいから、"Connecting Dots"の教訓が語られている。



最初にヴァージン・アトランティック航空をスタートした時は、本業(ヴァージン・メガストア)と何の接点もなかった。

当時の航空会社のサービスはあまりにもお粗末だった。もっと質の高い仕事をすれば、大きなチャンスがあるはずだと思ったのが参入のきっかけだ。

実際に事業を始めて、機内エンターテインメントに最高の音楽と映画を持ちこみ、お客様の世話をするのが好きというスタッフを集め、居心地のよくモダンな内装を設計し、すべてを割安な値段で売り出すことにより、点と点がつながった。

ヴァージングループのカスタマーサービスで長年大切にしてきたルールは「最初に問題を知った者が、最初に対処する」というものだ。これの例が挙げられている。

サンフランシスコ空港でフライトの出発が遅れたとき、乗務員が飛行機から飲み物のワゴンを持ち出して、ゲートでお客様にサービスを始めた。数か月後、この乗務員にブランソンさんは年間優秀社員賞を授与したという。


事業化で考慮すべきポイント

最後にブランソンさんは事業化で考慮すべきポイントを挙げている。簡単だが参考になるので、紹介しておく。

1.価格は適正化か?

2.設備が古くないか?

3.顧客になりそうな人々をリサーチしよう

4.サービスの幅を広げられないか?

5.収入の一部を地域の慈善事業に寄付しよう



翻訳が良いこともあり、スラスラ読める。本人は大変な努力をして、ヴァージングループを作り上げたのだろうが、労働者階級出身の人ではないので、底辺から這い上がったという感じはない。

気軽に読める成功哲学である。


参考になれば次クリック願う。

仕事は楽しいかね? iPS細胞発見者・山中伸弥教授が助けられた本

仕事は楽しいかね?仕事は楽しいかね?
著者:デイル ドーテン
きこ書房(2001-12)
販売元:Amazon.co.jp

別ブログで紹介したiPS細胞の発見者・山中伸弥教授の「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」に、山中教授が自称”PAD”(Post America Depression)で、うつに悩まされていた時助けられた本として紹介されていたので読んでみた。

3冊ほどのシリーズで、他に「仕事は楽しいかね? 2」、「仕事は楽しいかね?最終講義」がある。これらも読んでみたが、ほぼ同様の内容なので、最初のものを紹介する。

仕事は楽しいかね? 2仕事は楽しいかね? 2
著者:デイル・ドーテン
きこ書房(2002-07-26)
販売元:Amazon.co.jp

仕事は楽しいかね?《最終講義》仕事は楽しいかね?《最終講義》
著者:デイル・ドーデン
きこ書房(2012-08-01)
販売元:Amazon.co.jp

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして目次を見て欲しい。

シカゴのオヘア空港で季節はずれの吹雪のために飛行機が欠航となり、26時間も空港に閉じこめられた主人公が、たまたま会ったマックス・エルモアという著名な企業家の話を聞くという設定だ。

マックスの質問が「仕事は楽しいかね?」だ。


明日は今日と違う自分になる

マックスは成功のための戦略に関して、「目標設定」に×(バツ)をつけ、「今日の目標は明日のマンネリ」となる、「明日は今日と違う自分になる」が唯一の目標だと語る。

そして「試してみることに失敗はない」と付け加えた。毎日”試すこと”を続けなければならないのだ。


偶然は発明の父

「必要は発明の母かもしれない。だけど、偶然は発明の父なんだ。」

コカ・コーラをつくったジョン・ペンバートンは、薬屋で従業員がたまたまシロップを混ぜ合わせた頭痛薬をつくっていたので、それを飲んでみて水を加え、ソーダ水を加えて売り出したのだ。

コカ・コーラの筆記体のロゴは、広告会社が考え出したものではなく、ペンバートンのパートナーが売り上げノートに書いていたものなのだ。

チョコチップ・クッキーも偶然の産物、リーバイス・ジーンズも余ったテント用の帆布を利用して使って作ったオーバーオールが金採掘に集まった人々にヒットしたものだ。

世界的なフルート奏者のジャン・ピエール・ランパルは「努力に努力を重ねて、コンサートで或る曲を『完璧』に演奏できたとします、そうすると、私はまた努力に努力を重ねて、翌日のコンサートでは『さらに素晴らしい』演奏をするんです。」と語っていたという。

ベスト・オブ・ランパルベスト・オブ・ランパル
アーティスト:ランパル(ジャン=ピエール)
EMIミュージックジャパン(2009-06-17)
販売元:Amazon.co.jp


ホーソーン効果

ある工場で照明、休憩時間を変えると生産高にどう影響するか調査したところ、どんな状況でも生産高が上がった。結局、労働者は調査に参加するのが好きだというのが結論だった。調査が行われているというだけで、普段より業績をあげてしまうのだ。

マックスの人生はホーソーン効果の連続だ。


ウォルト・ディズニーの細部へのこだわり

成功の秘訣として、マックスはウォルト・ディズニーが細部までこだわり、白雪姫の一シーンに多大な時間を費やしたことを紹介する。

次のYouTubeに載っている白雪姫のビデオの中程にある、願いを叶える井戸で王子と出会う場面で、井戸をのぞき込む白雪姫と王子の顔が、水に映って、しずくでできた輪でゆらゆら揺れるシーンだ。CGもなかった時代に、アニメーションで見事に再現している。YouTubeに載っているので、是非注意して見て欲しい。



ウォルト・ディズニーは、成功の秘訣を「ものごとを見事にやることだよ。もう一回それを見るためならお金だって払う、と言われるくらい見事に」と言っている。

それは”あるべき状態より、良くあること”なのだ。

心臓蘇生術を生み出したドクター・クーパーは、事切れた患者に怒りのパンチを食らわせたところ、心臓が動き出したので蘇生術に気が付いたという。まさに偶然の産物だ。


アイデアを生み出す三つのメモ

マックスはアイデアを生み出すヒントとして、次の3つのメモをつくれと言う。

1.仕事でやったミスをすべて書き出す

2.問題点を書き出す

3.仕事に関してやっていることを”あらゆること”を書き出す

売れ残ったテント用の帆布を使って何をすべきか考え続けてこそ、リーバースのジーンズを思いつくことができるのだ。

"Where there is a Will, there's an A"(やる気があればA(=優)が取れる)というインフォマーシャルで成功したクロード・オルニーは、息子の試験の成績を上げるために本を片っ端から調べた結果、綺麗な字を書き、計算は縦の列を揃えた方が成績が良いと気づいたという。

CBSの人気番組「60ミニッツ」は、テレビ番組には新聞に相当するニュースや、本に相当するドキュメンタリーやドラマはあるが、雑誌に相当する部分がないと気が付いたプロデューサーが思いついたものだ。

モハメド・アリは、プロになりたての頃、プロレスラーと一緒にテレビに出て、派手なパフォーマンス、ショウダウンの重要性に気づいた。自分の仕事を広い範囲で定義し、他のスポーツ選手からも学べることに気づいたのだ。

新しいアイデアは、新しい場所に置かれた古いアイデアだ。だからリストに書き続けることが重要になる。


間違いは気づきのもと

「ポスト・イットを思い出せ!」だ。

間違ったら、それが何か役に立つことを考える。間違いは気づきのもとだからアンチ・ミステイク、問題も気づきの元のアンチ・プロブレムなのだ。

マックスは最後に「きみが”試すこと”に喜びを見いだしてくれるといいな。」と言って別れた。

アイデアをいっぱい持って、あらゆることをやってみる。明日は今日とは違う自分になり、そして朝を待ちこがれる。単純な教えではあるが、このような毎日”試すこと”を探しながら仕事をすれば、仕事が楽しくなる。仕事が楽しくなれば、成果も上がり、評価も上がるだろう。

冒頭に書いた様に、山中伸弥教授が推薦していたので読んでみた。アマゾンでは現在売り上げ345位とよく売れているようだ。

平易な内容で、200ページ弱の本なのですぐに読める。

アクションを取らなければ何も変わらない。”試すこと”を始めるには、よいきっかけとなる本だと思う。


参考になれば次クリック願う。



課長になったらクビにはならない 30代からは「一所懸命」が原則

キャリアコンサルタントの海老原嗣生さんの就活生向けの「学歴の耐えられない軽さ」の次は、会社に入ってからのキャリアについての本を紹介する。

あらすじが長くなってしまったが、参考になる点が多かった。

課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2010-05-20
おすすめ度:3.5
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リクルートエージェントの転職誌「HRmics」編集長で、HRコンサル会社ニッチモ社長の海老原嗣生(つぐお)さんの最新作。

海老原さんは、マンガ「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人海老沢康生のモデルだ。

エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)
著者:三田 紀房
販売元:講談社
発売日:2008-01-23
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


前作「学歴の耐えられない軽さ」が良かったので、最新作を読んでみた。

「学歴の耐えられない軽さ」は”売らんかな”のタイトルが内容を表していない欠点はあるが、統計資料を駆使して大学進学率が50%を超えた事による大学のレベルの低下と、新卒/第二新卒の就職状況についてのわかりやすい説明は大変参考になった。

学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-18
おすすめ度:4.0
クチコミを見る



課長の壁

「学歴の耐えられない軽さ」が10代ー20代向けだったのに対して、この本は30代以降向けにどうするかを書いたという。結論としては、「目の前の仕事を頑張るだけで良いんじゃないですか」というものだ。つまり「一所懸命」のススメだ。

世の中には「課長の壁」というものがあり、日本でも35歳が転職の限界年齢だ。OECDの年代別転職率の統計を使って、熟年期に転職収束は世界共通の現象であることを説明している。

35歳以降に転職する人は、スペシャリストとして転職を繰り返し、一つの企業には定着しない傾向にある。会社としてもスペシャリストとして採用した人材は転用が効かず使いづらいのだ。

この結果、よく言うと特定分野のスペシャリスト、悪く言うとジョブホッパーになってしまうのだ。


IBM本社の人材開発部長の話

海老原さんがIBM本社の人材開発担当部長に聞いた話を紹介している。IBMでは30代のSE(システムエンジニア)に、技術やコンサルティング能力をつけさせるために社員教育に力を注いでいる。

それでは人材流出に繋がるのではないかと海老原さんが質問すると、IBMの最高の機材、設備を使い、IBM流に教育することが、最大の転職防止策になっているのだとIBMの部長は答えたという。

IBM流にローカラーズされた環境で学んだスキルや仕事のやり方が身に付くと、マッキンゼーやHPが好条件で迎えてくれるといっても、違った環境にあわすのがおっくうになるのだと。

つまりポータブルなスキルではなく、「企業内特殊熟練」の結果だ。これは自由闊達なリクルートグループでも当てはまると海老原さんは言う。

しかし天才はそれでもIBMを出て行くが、そういった天才は出て行ってIBM流を他でも広め、やがては業界標準になるので、むしろ好ましいのだという。


課長になったらクビにはならない

この本のタイトルの「課長になったらクビにはならない」というのは、「課長になったらリストラはされない。だから今の会社に居続ければ良い」という意味だ。ただし、つぶれそうな会社でないことと、最低査定でないことが必要条件だ。

世間一般で言われているリストラは、実は主に非正規雇用者をまず対象にしている。

正社員を対象にしている場合でも、本社から子会社への出向が含まれており、正社員をリストラする場合には、早期退職制度で手厚い退職金を支払う。

指名解雇によるリストラのようなことを正社員に実施するわけではなく、かえって優秀な社員が早期退職優遇制度で辞めていってしまうケースが多く出てくるという。


リストラは組織再生が目的

優秀な社員が辞めてしまうリスクがあっても、企業がリストラを行う最大の理由は、組織再生だ。

社員1万人を超す大手企業では、転職ゼロの社員の割合が8割ちかくいる。結果として能力を発揮できていない「しがみつきタイプのロー・パフォーマー」、「ぶら下がり社員」を多く抱えているという。

これが日本型雇用の最大の問題点であり、組織再生のために1割程度のローパフォーマーを主対象にリストラを実施するのだと。


人肌あわせ採用の減少

日本の採用は。かつてはOB訪問、リクルーターとの面談を経て、会社説明会からの採用ステップが始まる「人肌あわせ」型採用だった。

しかし、ネットによる大量エントリー時代になると「人肌あわせ」がなくなり、就職上位200社総なめ応募といった「モンスターアプリカント」が出現しているという。

昔は指定校制度というのがあった。一流企業ではMARCHあたりが多かったと思う。一万人も志望者がいて、指定校制度がなければ、はじめは機械的に落とすしかないだろう。


アメリカ型キャリアが良いですか?

海老原さんはアメリカ型キャリア礼賛を切って捨てている。アメリカ型だと次の質問のようになる。

★あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?
★あなたは、一つの仕事が肌にあわないと、辞めるしかない国がいいですか?
★あなたは、社内の4人に一人が、退職準備をしている国がいいですか?
★あなたは、社長や役員を外から採用する国でいいですか?
★あなたは、名門校のMBAがないと社内でのし上がれない国がいいですか?

アメリカ礼賛という「箱モノ」=職務主義と、今の日本の社員キャリアディベロプメント制度をよく比較して欲しいという。

最初の質問の「あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?」にまつわる話は、筆者にも経験がある。

最初にアメリカに駐在した時に、会社がパフォーマンスレビュー制度を導入することになった。そのときの部下面接のマニュアルで、経理部の部下が「MBA取ったのでマネージャーにして欲しい」と言ってきた時にどう対処するかという模擬設問もあった。

そのときの答えは、たしか「やっている仕事が同じならば、待遇は変わらない」と拒絶する。

ただ「今やっている仕事でMBA資格を生かして、能力を発揮すれば評価は上がり、昇進の道も開けるよ」とフォローするという様なものだったと思う。

統計を使ったアメリカの大学生の就職活動についての話も参考になる。アメリカも日本も大学生の就職についてはあまり変わらないのだと。


福島社民党党首の話

「アンチ箱モノ行政の社民党福島党首が箱モノ雇用論に終始する矛盾」というのも面白い。

海老原さんは14年ほど前に弁護士時代の福島さんにインタビューした経験があるが、男女別姓議論のなかで「お墓はどうするのか」といった現実論を聞いたら、「ディテールを今考えるのはおかしい」と言われて失望したという。

その福島さんが社民党党首として次をスローガンで掲げている。

★年収200万円以下のワーキングプアーが1022万人もいる!
★全国一律自給1000円以上に最低賃金法を改正すべき!
★同一価値労働同一賃金を徹底し、派遣労働者にも正社員並待遇を!

海老原さんは、このような耳障りだけ良いが、中身は空虚なものを「箱モノ雇用」と呼んでいるという。その理由は次の通りだ。

ワーキングプアーの正体は働く主婦(と高校生・大学生のバイト、年金をもらいながら働いている老齢者、個人事業者の家族専従者)だという。

ワーキングプアは641万人という厚生労働省発表があったので、紹介しておく。

最低賃金法改正は弱者切り捨てだ。最低賃金も払えない企業は、廃業するしか他に道がなくなるからだ。

同一価値労働同一賃金も、司法判断で正社員は監督責任があることと、転勤を拒否できないので、2割程度の差は容認されている。実際には企業は正社員と非正規雇用者とは仕事の内容を分けて、こういった議論が起きないようにしているという。


「手に職をつける」は誤解

「手に職をつけるための自己啓発が有効」という一般常識にも警鐘を鳴らす。むしろ「資格や語学を身につけても、キャリアにとってはそれほどプラスになることはない。逆にマイナスになることも少なくない」と語る。

たとえばSE(システムエンジニア)やウェブデザイナーだ。20代後半以降であれば、企業はたとえ学校に行って資格を取ってきても、未経験者は採用しない。SEやウェブデザイナー不足の現在でもこれは変わらない。

SEやウェブデザイナーは重労働で忍耐力が必要で、嫌な仕事も引き受け、クライアントの罵声にも耐え、同僚が脱落してもその穴を埋めるチームワーク良く働けることが必要だからだ。

資格や専門知識より経験が生きるのだ。

資格専門知識VS実務能力







出典:本書124ページ

IT企業の現場を経験した筆者には、この話はなるほどと納得できる。筆者はシステム関係の責任者だったことがあり、この時会社生活で初めて完徹(完全徹夜)をしたことがある。

ちょうど新システムスタート直前で、人手が足らずに、初級シスアド資格がある筆者も、商品データをひたすらインプットする作業を手伝ったのだ。

新システムスタート日は決まっており、まさに時間との闘いで、システムとマーケティング関係者の多くが完徹し、「人柱」状態だったが、このようなことがシステム開発ではありうるのだ。

SEやウェブデザイナーの資格を取ったら、面接では今までの仕事で、完徹のようながんばりを見せたことを強調すると面接で良い結果が出ると思う。これは筆者の私見だ。


英語で食っていくとしたらTOECI900点以上が必要

英語力も、外資系アドミはTOEIC900点以上、通関士は定型業務なので派遣で採用することが多いという。ちょっとぐらい英語ができるだけではダメなのだ。

英語で、丁々発止、外国人と交渉できるくらいの英語力がないと英語が出来るとはいえない。

これはTOEIC945点の筆者の意見だが、筆者が重視するのは文脈にあった単語を使えるかどうかだ。同じことを言うにも、この場面ではこれがぴったりという言葉がある。

ネイティブ並みの文章を書くには(書ければ話せる)この単語のストックの差が大きく、これはボキャブラリーを増やす努力を日々続けないと絶対に達成できない。

英語は短期集中型というやりかたもあるが、本当に英語で食っていくとしたら、日々の研鑽が欠かせない。


成果主義の本当の意義

成果主義という箱モノの最大の効果は、給与は上がるものというそれまでの考えを、給与は上がったり下がったりするものと変えたことだという。これが人事制度変更の本当の意味だ。

これも正しい指摘だと思う。たしかに昔はボーナスは別として、給料は上がることしか考えられなかったが、今は業績次第で上がり下がりがあるという考え方が定着している。


キャリアは才能なんかじゃ決まらない

最後の「キャリアは才能なんかじゃ決まらない」も面白い。

人材育成の専門家の立場から、リーダーシップ論の変遷を論じている。

1950年代まで : 個性、能力、人格、知能などの個人の持って生まれたものを研究対象としていた。

1950年代 : 「グレートマンズ・セオリーの破綻」=持って生まれたものでなく、行動や価値観、マネージメントスタイルに注目し、特に「達成動機の高い人」を選抜すればグレートマンが多く誕生するという考えが広まる。

「達成動機の高い人」の見分け方の一例が、ロールシャッハテストだという。あのわけのわからないテストの目的が、「達成動機」だったとは初めて知った。

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出典:Wikipedia(以下同じ)

しかし「達成動機の高い人」を大量に採用しても、多くは脱落していったという。

そして、2000年前後に登場した説が、リーダーに種はない、特性が共通しているのではなく、経験が共通しているのだというマッコールが「ハイ・フライヤー」で主張した説だ。

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法
著者:モーガン マッコール
販売元:プレジデント社
発売日:2002-01
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


「ハイ・フライヤー」も読んだので、今度あらすじを紹介する。


江副さんの名言

海老原さんはリクルートの江副さんの言葉として次を紹介している。

「10代、20代で名を残す名アーティスト、名選手は多い。しかし、10代、20代で名を馳せた経営者はいない」

当たり前のことではあるが、この言葉の意味は深い。

マッコールは「マトリョーシカモデルの崩壊」と呼んでいる。つまりマトリョーシカの様に、リーダーは初めからリーダーとしての素質を持っているのではなく、リーダーは経験を通して育つものなのだ。だから誰でもリーダーになれる。

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海老原さんが直接取材した時に、マッコールはリーダーシップを獲得する条件として次を説明していたという。

1.経験に飛び込んでいく勇気がある人は、成長が早い。
2.経験から物事を学ぶ姿勢が出来ている人は、成長が早い。

それだけでは、当たり前ではないかと海老原さんが食い下がると、マッコールは次を個人的信条として付け加えたという。

3.失敗や間違いを認められる謙虚な姿勢が必要。


ビジネスパーソン勝利の法則

たとえば営業に配属され、内向的な性格のせいで最初のうちは同期に差を付けられても、やがてはその内向性を生かした分析力を生かした提案型営業として成功する可能性がある。

だから弱気、人見知り、くよくよ気にするという性格でも、反省・熟慮・進歩を経て、情報収集・分析・企画力を生かして実績をつくれば、提案型営業ができる。

内向きな性格を、経験と工夫でカバーして、営業のエースになれるのだ。

コンピテンシーと適性の違い






出典:本書153ページ

昔のイチローのニッサンのコマーシャルではないが、「変わらなきゃ」が出来る人は、どんどん自分を変えていけるのだ。


課長になればリストラされない

中間管理職は転職はできないが、課長になればリストラされることは多分ない。

海老原さんの結論は、「30歳を過ぎているあなたは、目の前の階段をゆっくり上っていくだけで、いいんです。むやみに横道にそれるのは、百害あって一利なしです。とりわけ、日本はその傾向が強いですよ。」ということだ。

そして年代別に次の能力を身につけていくのだ。

キャリアを考える上で大切なこと





出典:本書160ページ

最後に筆者も好きなアップルのスティーブ・ジョッブスのスタンフォードでの卒業式スピーチを引用して、夢を求め続けること、そして目の前のことを真剣に毎日やることを勧めている。



ジョッブスのスピーチの日本語訳と日本語字幕のビデオが載っているブログを見つけたので、日本語版は参照してほしい。

結論は「目の前の仕事を真剣に取り組め」、つまり「一所懸命」という当たり前なことだ。

たとえば三木谷さんも「成功のコンセプト」で同じ事を言っている。

成功のコンセプト (幻冬舎文庫)成功のコンセプト (幻冬舎文庫)
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2009-12
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


三木谷さんは、興銀(現みずほコーポレート銀行)に入社し、最初は外国為替部というルーティンワークの典型のような職場に配属された。しかしクサらず、一所懸命仕事をこなし、効率を上げる努力をしたことが評価され、MBA留学生に選ばれ、ハーバードで学んだ。


奇抜なタイトルだし、書きっぷりも軽妙だが、内容は濃い。

なぜ今の仕事に真剣に取り組むことが社内での昇進に繋がるのか、なぜ社内調整役割が日本の会社でのキャリアーディベロプメントで重要なのかよくわかる。

30代といわず、20代の社員にも自分の会社でのキャリアディベロプメントの道筋を客観的に見るという意味で、お薦めしたい本だ。


参考になれば次クリック願う。




夢をかなえるゾウ 新しい形の自己啓発本

夢をかなえるゾウ夢をかなえるゾウ
著者:水野敬也
販売元:飛鳥新社
発売日:2007-08-11
おすすめ度:4.5
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以前紹介した「ウケる技術」の著者の水野敬也さんの大ベストセラー。

2007年8月の発売だが、筆者が手にした本は2008年11月5日付の39刷だ。今はもっと売れていると思う。

表紙のインドの神ガネーシャのイラストが面白く、ガネーシャがどぎつい大阪弁でしゃべりまくるという荒唐無稽な筋書きながら、自己啓発のために役に立つ内容を含んでいるので良く売れ、テレビドラマにもなった。

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ガネーシャはヒンドゥー教のゾウの姿をした手が4本ある神で、障害を取り除き、富をもたらすと言われている。

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この本では、突然現れたガネーシャが、「僕」のアパートの押入に住みついて、1日1善ならぬ、1日1回「ガネーシャの課題」として教えをたれるというストーリーだ。

教えは全部で29あり、毎日実践するものだが、主なものを紹介すると次のようなものだ。

*靴をみがく

*コンビニでお釣りを募金する

*トイレ掃除をする

*その日頑張れた自分をホメる

*1日何かをやめてみる

*毎朝、全身鏡を見て身なりを整える

*自分が一番得意なことを人に聞く

*自分の苦手なことを人に聞く

*運が良いと口に出して言う

*身近にいる一番大事な人を喜ばせる

*誰か一人のいいところを見つけてホメる

*人の長所を盗む

*人気店に入り、人気の理由を観察する

*やらずに後悔していることを今日から始める

*毎日、感謝する


このように書くとベタに見えるが、ニュートン、ロックフェラー、松下幸之助、本田宗一郎など、多くの偉人の言葉をガネーシャの教えということで、関西弁で語らせていて、わかりやすい。

前作「ウケる技術」同様、筆者には今ひとつ波長が合わない感じだが、この様なくだけたプレゼンテーションもアリかもしれない。

それがよく売れている理由なのだろう。

簡単に読め、そこそこ参考になる。

まずは立ち読みをおすすめする。




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