時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

政治・外交

資源世界大戦が始まった 元NHK米総局長日高義樹さんの国際情勢分析

尖閣列島問題が中国のナショナリストのデモなどに繋がっている。歴史的に日本の領土ということが明らかな尖閣列島の領有権を中国が主張するのは、その付近の海底の天然ガス資源が関係してくるからだ。

「資源世界大戦」という言葉を使った元NHKアメリカ総局長で、在米30年あまり、現在はハーバード大学タウブマンセンター諮問委員、ハドソン研主任研究員を務める日高義樹さんの本を紹介する。「ウルトラダラー」など、作家として活躍する元NHKアメリカ総局長手嶋龍一さんの先輩だ。

2009年の政権交代前の本なので、自民党や民主党に関するの記述は、やや古いものもあるが、日高さんの言っていることが当たっている点も多いので、2007年12月の本とはいえ、参考になると思う。

資源世界大戦が始まった―2015年日本の国家戦略資源世界大戦が始まった―2015年日本の国家戦略
著者:日高 義樹
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-12-14
おすすめ度:4.0
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今はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、是非見て欲しいが、目次を見ると感じがわかると思う。

序章   21世紀の新しい世界戦争が始まった

第1章  世界は変わる
 第1部 温暖化で北極圏の石油争奪戦が始まった
 第2部 核兵器のない新しい抑制戦略が出現した
 第3部 30億人の一大経済圏が世界を変えた
 第4部 アメリカでは十年後に新聞がなくなる
 第5部 アメリカと北朝鮮が国交を樹立する

第2章  日本は「世界の大国」になる
 第1部 日本は世界の一流国になった
 第2部 ロボットが日本経済をさらに強くする
 第3部 日本の軍事力は世界一流になった
 第4部 大国日本には影の部分がある
 第5部 日本の指導者が中国を恐れている

第3章  米中の兵器なき戦いが始まった
 第1部 アメリカは中国を抱き込む
 第2部 中国とは軍事衝突したくない
 第3部 中国の分裂を恐れている
 第4部 中国にアジアを独占させない
 第5部 いつまでだまし合いがつづくか

第4章  ロシアの石油戦略が日本を襲う
 第1部 プーチンは石油を政治的に使う
 第2部 プーチンはアメリカを憎んでいる
 第3部 プーチン大統領とは何者なのか
 第4部 プーチンのロシアは混乱する
 第5部 日本とロシアは対立する

第5章  石油高がドル体制を終焉させる
 第1部 石油の高値がドルを直撃する
 第2部 サウジアラビアがドル本位制をやめる
 第3部 ドル体制は追いつめられている
 第4部 アメリカはなぜ嫌われるのか
 第5部 ブッシュのあとドルはどうなる

第6章  「永田町」の時代は終わる
 第1部 日米軍事同盟は幻想だった
 第2部 日米関係はなぜ疎遠になったのか
 第3部 自民党は3つの党に分裂している
 第4部 民主党はなぜだめなのか
 第5部 永田町の時代は終わった

最終章  日本には三つの選択がある

タイトルだけ見ると長谷川慶太郎さんの本かと思う。結構過激な内容だということが推測できると思う。


日高さんはハドソン研の主任研究員

日高さんはハドソン研の主任研究員だ。ハドソン研といえば、ハーマン・カーン氏を思い出す。PHPの江口克彦さんの「成功の法則」という本に、松下幸之助から「「ハーマン・カーンて人知っているか?」と3回質問されたという話が載っていた。

成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)成功の法則―松下幸之助はなぜ成功したのか (PHP文庫)
著者:江口 克彦
販売元:PHP研究所
発売日:2000-12
おすすめ度:5.0
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毎月1回「日高義樹のワシントン・リポート」というテレビ東京の番組でアメリカの要人と対談しているので、相当な情報ソースがあるのだろうが、2007年12月の本ながら、アメリカの大統領候補はヒラリー・クリントンとジュリアーニと予想していたりして、予想がはずれて興ざめな部分もある。

もっとも当時は大半がそう予想していたので、日高さんの予想が外れても責められないが、本に書いてあると証拠が残るのでダメージが大きいと思う。

日高さんはキッシンジャーと親しい様だ。日高義樹のワシントン・リポートの正月特集は常にキッシンジャー氏との対談だそうである。

キッシンジャー博士がいつも言うことがある。「日本には世界に友人がいない。アメリカがたった一人の友人だ。」だと。

日高さんは正確には日本にはもう一人の友人がいると。それは台湾だと。


日本ではあまり報道されない世界の動き

ワシントン在住だけに、日本ではあまり報道されない世界の動きがわかって面白い。

たとえば北極海では地下資源の存在が噂されていることもあり、デンマークとカナダの間で紛争が起こっているとか、アラスカの地下資源は1兆ドルを超す資産価値があり、石油資源だけで6千億ドルを超えるとか、北極の氷が溶けて、海上輸送が可能となると東京から欧州への海上運賃は1/3になるとかだ。

日本人の核アレルギーを不必要に刺激するのではないかと思うが、トマホークの様な正確な通常兵器で核施設を攻撃すれば、核兵器で敵を攻撃するのと同じことになるので、核装備をするべきかどうかという議論は古くなりつつあるという。

だから日本にとって必要なことは正確な攻撃のできる通常ミサイルを持つことだという。

北極圏やアフリカなど資源を求めての競争が激しくなってきている。スーダンのダルフールが有名になったのは、独裁者が石油資源を抑えているからで、反対する部族を虐殺している。アメリカは独裁者の非人道的な政治に介入を続けているが、中国は独裁者を支援している。

これがウォレン・バフェットがペトロチャイナ株を持っていた時に非難されていた理由だ。

世界の石油生産量は1日8千万から9千万バレル。今後10年間で世界の石油需要は20%増えると見込まれているが、増産できるのは一部のOPEC諸国に限られる。

インドネシアは石油の輸入国となり、今年12月にOPECから脱退する。OPECは現在13ヶ国だが、新規加入候補はノルウェー、メキシコ、スーダン、ボリビア、シリアなどである。産油国も新顔が増えたものだ。


キャノン機関

日高さんはマッカーサーがつくった秘密組織のキャノン機関のヘッドだったキャノン中佐にインタビューしたことがあるという。

キャノン機関は新しくできたCIAとの抗争の末、権限を取り上げられ解散させられたが、全盛時は本郷の岩崎邸にオフィスを構え、占領時の様々な工作を担当していた。

そのキャノン中佐からアルバムを見せられ、「これは白洲次郎だ、われわれの活動にとって重要な人物だった。」と説明されたのだという。

白洲次郎 占領を背負った男白洲次郎 占領を背負った男
著者:北 康利
販売元:講談社
発売日:2005-07-22
おすすめ度:4.5
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「いろんな政治家がやってきた。吉田茂も来ていた。彼は他の政治家や役人のように砂糖やバターが欲しいなどとは言わなかったがね」とキャノン氏は語っていたという。

キャノン機関と白洲次郎、日本の政治家がちがどう関わっていたのか資料があるわけではないが、写真を見る限り白洲次郎はキャノン機関の一員といってもおかしくない雰囲気であると。

日高さんはキャノン中佐が自殺した後、夫人からキャノン中佐のアルバムを貰ったという。戦争に敗れた日本がいかにみじめな存在であったか、日米友好の始まりがどういうものであったかを、日高さんはこのアルバムの中に見るという。

日高さんは当時(1981年頃)は白洲次郎を知らなかった由だが、思わぬ処から白洲次郎が出てきたものだ。


中国の指導者を支えるアメリカ政府

2007年にハドソン研究所で中国に関するセミナーが開かれたが、テーマは「中国には強い指導者が必要である」というものだったという。

2007年始め中国軍部は衛星攻撃ミサイルの実験を成功させて世界を驚かせたが、胡錦涛主席が全く知らされていなかったのは明らかであると。

アメリカ政府は胡錦涛主席の知らないところで、中国軍がアメリカに対立的な姿勢を強めているのではないかと疑っているという。

世界の景気が悪くなると中国はこれから失業者が増え続ける。

急激な経済拡大のひずみがひどくなると混乱が起き、中国に内乱でも起こると、混乱がロシアや朝鮮半島に波及し、アジア全体が収拾のつかない状態になることをアメリカは懸念しているという。

中国社会は依然として共産党と軍が動かしているが、経済発展で優秀な若者はビジネス分野に行き、人材が不足してきている。官僚と軍人の質が低下すると優秀な指導者は出てこなくなる。中国の指導者の力が弱くなっているのは、共産党や軍の衰退が原因だとアメリカの中国専門家は見ているという。

世界経済、米国経済の好況は中国経済の成長なくしては考えられないので、アメリカはなんとしても中国の崩壊を防がなければならない。アメリカ政府が中国との間に多くの問題を抱えていても、中国政府を非難せず中国の指導者を助けようとしているのは、ひとえに中国を混乱させたくないためだと日高さんは語る。

こうした状況は第二次世界大戦前のドイツの状況と似ていると日高さんは語る。当時のドイツは第一次世界大戦の敗戦後、経済が不振で失業者が増え、共産党が強くなりつつあった。

ヨーロッパの中心であるドイツが共産化すれば、ヨーロッパ全体が共産化してしまうと考えたアメリカの指導者は、共産党に対抗して登場したヒットラーを支援した。

歴史に明らかなようにヒットラーを強く支持したのは、ヘンリー・フォードやジョン・ロックフェラーであると。彼らはシーメンスやクルップなどの大企業と協力してヒットラーの台頭を助けたと日高さんは語る。

アメリカがヒットラーと戦いを始めたのは、日本がバールハーバーを攻撃したことがきっかけで、日独伊三国同盟に基づきドイツがアメリカに宣戦布告したからだ。

筆者は寡聞にして、フォードやロックフェラーがナチスを助けたとは知らなかったが、共産党の台頭を考えると当然の動きといえるかもしれない。ちなみにロックフェラー家はドイツ出身だ。

アメリカ経済は世界経済を拡大させることによって、自己増殖を続け、繁栄をつづけてきたという。だから中国の経済拡大を続けさせ、中国とうまくやっていくことが米国政府の基本政策なのだと。

アメリカの指導者は基本的には中国は本当の意味での脅威とは捉えていないという。

「われわれはあの強大なソビエトを軍事的に追いつめ屈服させた。中国のことなど心配していない」とアメリカ国防総省の幹部はよく言うという。

日高さんはこのアメリカ人の考え方と中国に対する評価が間違っていないことを望むと書いているが、筆者も日高さんに同感だ。このままでは行かないと思う。先週の「神舟7号」の宇宙遊泳の成功など、中国は米ソに対抗し着実に技術力を付けてきている。


ロシアのプーチン大統領はこき下ろし

プーチン大統領のロシアを日高さんはこき下ろしている。

暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤは「ロシアン・ダイアリー」に、プーチンが大統領に就任した直後に母親、父親、メンターが相次いで死亡したのは、「プーチンが自分の過去を消し去ろうとしたからだ」と書いているという。

ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳ロシアン・ダイアリー―暗殺された女性記者の取材手帳
著者:アンナ・ポリトコフスカヤ
販売元:日本放送出版協会
発売日:2007-06
おすすめ度:5.0
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別ブログに「ロシアン・ダイアリー」のあらすじを紹介しているので、参照して欲しい。

KGB出身のプーチン大統領自身の経歴は不明だが、プーチンが大統領就任後KGBは復活している。プーチンは、核大国としてロシアをよみがえらせ、石油マネーを使って軍事力を強化している。

プーチンは資源が豊富な極東を手放さないし、北方領土も手放さない。北極海の氷が溶け、本格的に航行可能になったら、ロシアは自国の権益を守るために日本をはじめ他の国と対決するに違いないと日高さんは予想している。ヒットラーと同じだと。


石油高がドル体制を終焉させる

アメリカ社会は安い石油を湯水のように使うことになれており、国民は貯金をすることが嫌いで、借金を重ねながら生活している。

今までは石油が安かったので、借金をしながらでも経済を拡大してきたから、世界の人もアメリカ経済の拡大を信じてアメリカに投資してきた。

ところが石油の高値によってインフレが起き、ドルが弱くなっては、アメリカ経済への信頼がゆらぎ、ドルへ体制を維持することができなくなってくる。

現在ではサウジアラビア、中国がドルペッグ制をとっており、日本もドルを支えているが、2007年9月のサウジアラビアの新聞にサウジアラビアはドル本位制から脱退するのではないかとの観測記事が出た。

ドルがユーロに対してあまりにも下落したことが原因である。

ブッシュ大統領の考えは極めて単純だという。

「ドルが強ければ世界中の人がアメリカに投資し、アメリカの株や土地が高くなる。土地や株が高くなればアメリカ人の資産が増える」

アメリカの民主党はドルを安くして輸出を増やしたいと考えている。アメリカの労働者の職を確保することを最も大事だと思っているからだと日高さんは語る。

このブログで紹介したルービン回顧録などにも書かれている通り、筆者は誰が大統領になろうとも、ドル体制の維持はアメリカの利益の源泉だと考えている。

今やドル紙幣10枚のうち7枚は海外で流通していると言われており、紙幣を印刷するだけで富がつくれる既得権をアメリカが逃すはずがないと思う。

そのためにスタンスとしてドル高維持は変わらないと見ているので、必ずしも日高さんの意見には同意しないが、誰が大統領になるのかの影響はあるだろう。


日米軍事同盟は幻想だった

日高さんはニクソン大統領からはじまる歴代の大統領、政府高官にインタビューしたが、彼らの答えは常に同じで、次の言葉を繰り返すのみだったという。

「日本はアメリカの重要な同盟国だ。日米安保条約はアメリカにとってかけがえのないものだ」

日米安全保障条約は片務条約で、アメリカの本音は「日本に勝った。アメリカは占領が終わっても基地を使い続けるぞ」というものであると。

日本も同様で、基地は提供しているが、アメリカを軍事的同盟国とは思っていない。アメリカ側も台湾問題でアメリカが中国と戦争を始めても、日本が参戦するとは思っていない。

日高さんは日米関係が疎遠になってきていると指摘するが、その最大の理由は日米安保条約なのだと。

安倍元首相や当時の麻生外務大臣が言い出した「戦後レジームの解体」という言葉に、アメリカは国家主義の台頭を感じ、敏感に反応しているのだという。

アメリカの指導者は中国についてしきりに言う言葉は、「中国は世界のステークホルダーである。中国と関わっていくのがアメリカの政策である」ということだ。

朝鮮半島や台湾で戦争でも起こらない限り、アメリカは中国と対決するつもりはなく、日本と共同で中国の脅威に対抗する気はないと日高さんは語る。

つまり日米とも本音は基地提供条約なのに、安保条約というから建前と本音の差が生じ、これが日米関係が疎遠になっている理由なのだと。

アメリカは中国がアジアの覇権を握るのには強い警戒心を持っているが、だからといって積極的に阻止するつもりはない。中国と友好関係を持つことが重要となっているのは間違いない。

長年の同盟国であるアメリカが、日本とともに中国の脅威に立ち向かってくれるというのは、幻想にすぎないと日高さんは語る。日米安保条約は崩壊寸前なのだと。


自民党と民主党

日高さんは自民党と民主党につき面白い見方している。自民党は小泉アメリカ党、安倍保守独立党、福田中国党の3つから成っている、アメリカのある学者の見方であると。

そうなると麻生新首相は安倍保守独立党の一員ということになると思う。

民主党がだめな理由は次の3つであると。

1,安易な移民政策 

移民を入れての治安悪化、社会不安、不法移民問題など、アメリカ、そして特にヨーロッパで起こっている問題を考えていない

2.老後資金を税金によってまかなうという考えから脱却できていない

そもそも年金をすべて税金でまかなうのであれば、北欧並の高税率が必要だし、国民の納得が必要だ。

アメリカではソーシャルセキュリティを払うが、払った額に応じた年金を受け取るシステムである。老後資金をすべて年金でまかなうという考えではないのだ。

3.国家は自らの力で自らを守るべきだという原則を全く理解していない

国連は紛争後の平和維持までが限界で、局地的紛争ならともかく、大きな紛争を武力をもって解決する力はない。何でもかんでも国連至上主義は誤りであると。


日本の3つの選択肢

最後に日本の3つの選択肢として次を挙げている。

1.憲法を変え、核兵器を持ち、経済力にみあう軍事力を保有して独立独歩で行く

軍事力によってアジアと世界情勢の方向を決める国際的な指導力を持つ。アジアを自らのやり方で動かし、世界に於ける日本の利益を確保する。

2.アメリカと対等の協力関係をつくりあげる 

上下関係のある安保体制をやめ、大国日本にふさわしい軍事力を持ち、国際社会における自己責任を全うする一方、民主主義と人道主義を広めるために、アメリカと協力体制をとり続ける

3.おんぶにだっこのアメリカがいなくなったら中国に頼るという、これまでと同じ外交姿勢をとり続ける

日高さんの意見は2.だ。

安保条約については、元外交官でノンフィクション作家の関榮次さんも「日英同盟」の中で、「日本国民が必ずしも納得しない米国の世界戦略に奉仕することを求められることもある現在の安保条約を、国民的論議も十分に尽くさないまま惰性的に継続することは、日米の真の友好を増進し、世界の平和と繁栄に資する道ではない」と語っている。

日高さんも同様の提言をしているが、これからの日本を考え、中国とアメリカの動きを見ていると、たしかに日米安保条約の継続について真剣に議論すべきだろうと筆者も考える。

日高さんはロシアはこき下ろしているが、筆者はプーチンロシアやEUの台頭は打ち手として使えるのではないかと思っている。

余談になるがF−22の輸入につき防衛庁の制服組が熱心なようだが、F−22でもF−35でも、もはや人が乗って敵戦闘機に対決して防衛する時代でもないのではないか?

潜水艦、無人機とミサイル防衛網で国を防衛すべきではないか?飛行機がいるにしても、せいぜい陸上支援用の軽装備のもので十分ではないか?

アメリカのオハイオ級最新鋭原子力潜水艦ミシガンは154発のトマホークミサイルを搭載しているという。

もし飛行機やミサイルで攻撃を受けた場合、人が戦闘機に乗って数分掛けて急上昇し、敵を見つけて迎撃したりするよりも、潜水艦や艦船からミサイルで迎撃するか、あるいは敵飛行機が飛び立った基地を、トマホークでボコボコにして無事に着地できなくして二度と飛び立てないようにしてしまう方が、よほど確実で効率的なのではないかと思う。

F-22は一機155億円もするという。トマホークミサイルは1発7千万円と言われている。どちらも国産したらもっと高いのだろうが、F-22一機でトマホークが200発買えるのだ。

ハリネズミのようになった国に戦争を仕掛けようと言う国もないはずだ。


在米30年以上ということで、日本人の感覚と違う点が目に付くが、拝聴すべき意見だと思う。

必ずしも日高さんの意見には賛成できない部分もあるが、日本の国家戦略についての議論は盛り上げていくべきであると思う。

国家戦略についての議論がないのが、今の政治に対する筆者の最大の不満である。民主党政権になっても結局変わらないが、それで良いのだろうか?

そんなことを考えさせられる参考になる本だった。


参考になれば次クリック願う。




ドナウの東 1989年の東欧革命まっただ中からのレポート

東欧革命1989―ソ連帝国の崩壊東欧革命1989―ソ連帝国の崩壊
著者:ヴィクター セベスチェン
販売元:白水社
発売日:2009-11
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「東欧革命1989」という本が最近出版されているが、もっとずっと前に日経新聞の当時のウィーン特派員山下啓一さん(現日経ヨーロッパ社長)が東欧革命についてレポートされているので紹介する。

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ドナウの東―内側から見た東欧革命
著者:山下 啓一
販売元:日本経済新聞社
発売日:1990-12
クチコミを見る


実は筆者は、以前英国に出張した時に山下啓一日経ヨーロッパ社長とご一緒したことがある。

山下さんはウィーン特派員時代に、各国で連鎖反応的に起こった東欧革命をレポートした本を書かれているので読んでみたものだ。


仕事と執筆活動を両立

山下さんは当時はウィーン・ワルシャワ特派員として、仕事を深夜までしてから、朝まで執筆したそうで、睡眠時間を切りつめてこの本を書いたと。さすがに体がもたず、その後は執筆活動は抑えているとのことだった。

やはり現役のビジネスマンが本を出すのは大変なことだと思う。

現在は絶版だが、アマゾンのマーケットプレースやオークションなどで手に入れることができるのは幸いだ。


1989年の東欧革命

時代は1989年から1990年。今から20年近く前のことである。

筆者は当時米国に駐在していたが、1989年6月の中国の天安門事件や、1989年11月9日(2001年のワールドトレードセンター攻撃の9.11に対してベルリンの壁崩壊は11.9と呼ばれる)のベルリンの壁崩壊前後に、東欧で共産党政権が倒れていった一連の政権交代をCNNで毎日見ていた記憶がある。

筆者は以前は鉄鋼原料を担当しており、1980年にウィーンと当時のユーゴスラビア、1992年からはアルバニア、スロバキアを毎年のように訪問していたので、この本を読んでなつかしく感じられた。


同時多発革命の謎 「ソ連の法則」

1989年の後半に集中してポーランド、チェコ、ハンガリー、東ドイツ、ブルガリア、ルーマニア(独裁者チャウシェスク大統領夫妻は処刑された)の6ヶ国で連鎖的に政権交代が起きた理由は謎だ。

一説にはソ連のゴルバチョフ改革が東欧市民を目覚めさせ、近隣国の政変が波及したためだといわれているが、そうだとすれば、各国の政変にもう少し間が空いてもおかしくない。

山下さんはソ連、ユーゴスラビア、アルバニアでは革命が起こらず、ソ連の影響下にあった東欧6ヶ国だけに革命がおこった理由は「ソ連の法則」があったのではないかと推論する。

ソ連が経済力、軍事力、秘密警察の力で、改革派もコントロールしていたのではないかという議論だ。東欧の民主化はゴルバチョフ改革の方向に沿う活動だったので、ソ連も容認していたのが背景だ。

デモが厳しく規制されている体制下では、3万人を超える反政府主義者が立ち上がると、後は弾みがついて反政府運動が広がるという「3万人の法則」があると山下さんは語る。

しかし中国で革命が起こらず、東欧で革命が起こったことは、大衆の大規模デモだけではだめであり、なにか他の要因が必要である。

それゆえ各国の共産党政権とソ連が危機管理のために政変(書記長など指導者の交代)シナリオをあからじめ用意していたのではないかと山下さんは推論する。これが「危機管理の法則」だ。

ポーランドのヤルゼルスキー大統領などは、たしかに用意された政変シナリオと見えなくもないと筆者も思う。

最初の政変は共産党により用意されたものだったが、勢いがつきすぎて結果的に反政府運動を鎮めるどころか火に油を注ぐ結果となって、結局共産党は政権を失ったのではないかと山下さんは語る。

たしかにこう考えると6ヶ国で同時多発政権交代が起きた理由も納得できるところである。

今後紹介する関榮次さんの「ハンガリーの夜明けー1989年の民主革命」でも、この辺の事情が語られている。

共産党員も「愛国者」だったので、一党独裁を崩すと自分たちは政権を失うと分かっていながらも民主化を進めたのだと。


ドナウ川沿いの東欧各国

この本で山下さんはドナウ川の川下りの豪華客船モーツアルト号の黒海への旅に沿って各地の風景・風物と、政治体制の変化を国別に紹介しており、読み物としても面白い。

ちなみにモーツアルト号クルーズの旅行記をブログに書いておられる方がおられるので、紹介しておく。

1990年前後の東欧は景色はきれいで、物価も安かった。

筆者も1992年にスロバキアを訪問したときに、ホテルでは外貨はドイツマルクしか通用しなかったことと、レストランで3人でワインを飲んで食事したが、全部で35ドルだったことに驚かされた記憶がある。

1989年当時はヤミ為替レートがあって広場で売人が旅行者に声を掛けていたこと、あちこちでバナナを露天で売っていたこと、外貨持ち出し制限が厳しく空港で身体検査をしていたこと、東欧圏から西欧に数万人単位で大量逃亡が起きていたことなどの話が紹介されており、なつかしく思い出される。


東欧の最貧国アルバニア

筆者が毎年のように訪問していたアルバニアでは、ちょっと遅れて共産主義が崩壊し民主主義になったが、国としてはボロボロで、国民の約半分が巻き込まれたというネズミ講騒動で政府が崩壊してしまった。

最初にアルバニアに行った時は、首都ティラナに2軒しかない外国人用のホテルのレストランが夜9時頃で閉まってしまい、夕飯を食べ損ねて、持っていった機内食のパンを食べた経験がある。

同行した駐在員に言われて非常食として機内食の食べ残しのパンを持ち込んでいたのだ。

スイス航空でもらったアッペンツェラーというチーズも持ち込んだ。夏の間だったので、部屋の冷蔵庫に置いておいたが、部屋に帰ってみるとチーズは見事に溶けていた。

長い伝統のあるスイスチーズアッペンツェール【お買い物マラソン1215セール】
長い伝統のあるスイスチーズアッペンツェール【お買い物マラソン1215セール】

部屋にコンセントが一つしかないので、ルームメーキング係が冷蔵庫のコンセントを抜いて、テレビを見ながら掃除して、中にチーズが入っているにもかからわず冷蔵庫のコンセントを抜いたままにしていたのだ。だいたい共産圏のサービスの質はこんなものだった。

どうでも良いことだが、食い物の恨みはおそろしいというか、筆者もこのことはいまだに覚えている。


東欧や旧ソ連のユダヤ人

この本ではユダヤ人の存在が「東欧社会の極めて微妙な要素となっている」とだけ記され、深く触れられていないが、東欧の反ユダヤ主義とか旧ソ連のユダヤ人(この本ではソ連のユダヤ人人口は約180万人と記されている)の動向に興味を抱いたので、今度図書館で調べてみようと思う。

ちなみに佐藤優氏「国家の罠」などの著書でイスラエルからロシアの情報を得ていたと語っている。旧共産圏のユダヤ人はかなりの力を持っていたはずだが、他の国民や体制側とどう折り合いをつけていて、現在どうなっているのか興味あるところだ。


旧ユーゴスラビア

筆者が訪問したことがある旧ユーゴスラビアやアルバニアもいずれ民主化は避けられないと山下さんは予想している。

ところで先日欧州に出張した時の取引先とのディナーの席で、何ヶ国に行ったことがあるかという話になった。

筆者は38ヶ国に行ったことがあると言うとみんな驚いていたが、ユーゴは1ヶ国じゃなくて分けてカウントしなければならないという話になり、それならクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ(サラエボが首都)、セルビア・モンテネグロ(ベオグラードが首都)、マケドニアの4ヶ国で、合計41ヶ国だというジョークとなった。

昔はユーゴスラビアは、「7つの隣国、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字により構成される1つの国」と言われたものだが、本当に6つの国と一つの自治州となってしまった。


1990年12月発刊の本なので、ゴルバチョフのノーベル賞受賞までで終わっており、1991年8月の政変後、ソ連が崩壊することなど、その後のソ連の動きは勿論書かれていない。

しかし、「保守化のパラドックス」という話で、ゴルバチョフ退任を予想していたり、ソ連の経済改革は多難で、コメコン解体、独ソ接近、東欧がマルク圏となると予想していたり、予想がぴったりあたっている。

(注:「保守化のパラドックス」=改革派として最年少のメンバーがトップとなって改革を進めるが、保守派を排斥して改革派を入れすぎて、そのうち改革派の中ではトップが最も保守的になってしまう傾向のこと)。

さすが日経新聞の特派員として各国の首脳とのインタビューなどを通じて一級の情報を得ていただけある。山下さんの慧眼には敬服する。

「ソ連の法則」、「3万人の法則」、「危機管理の法則」、「保守化のパラドックス」などの分析も大変参考になる。

やや古い本ではあるが、東欧の簡単な歴史から、風物、1989年の東欧革命の舞台裏などがよくわかり興味深い。ドナウ川の川下りもいつかは行ってみたいものだ。一つの川下りで、これだけ多くの国を訪問できるのも世界でドナウ川だけだろう。

是非近くの図書館などで探して、手にとって欲しい本である。


参考になれば次クリックお願いします。




政権交代 民主党政権になると活躍が予想される榊原英資さんの政権交代必至論

政権交代政権交代
著者:榊原 英資
販売元:文藝春秋
発売日:2008-04-23
おすすめ度:4.0
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元大蔵省財務官で、「ミスター円」と呼ばれた榊原英資さんの政権交代必至論。

2008年4月の本だが、榊原さんの書いたことがいよいよ実現しそうな勢いだ。

本の帯に「幻想ではない。歴史的な必然である」と書かれ、小沢一郎民主党党首との対談も収録されている。

なんでこの時期に現在早稲田大学教授の榊原さんがこのような刺激的なタイトルの本を出すのか、いまひとつしっくりこなかった。

しかし、この本を読んで、榊原さんが大蔵省在任時代の30代半ばで新自由クラブの設立綱要の素案を書いたり、選挙に出馬も考えていたことを知り、榊原さんが以前から政治活動に大変興味を持っていることがわかった。

だから2008年にこのようなタイトルの本を出したのだと思う。

内容を読むと、榊原さんが考える政策要項という様な部分はむしろ少なく、戦後日本の政治を担ってきた自民党が、吉田内閣の平和国家−軽武装路線からスタートし、1970年代の高度成長時代まではビジョンを持って国づくりをしてきたこと、特に30本もの議員立法を含む120本の法律を成立させ、官僚を意のままに使った田中角栄の力が大きかったことがよくわかる。

しかし次第に自民党はビジョンを失い、小泉内閣などのポピュリズム政治と化して、政権交代をしないと日本が世界の中で取り残される状態になってきたことを説明している。

アマゾンのなか見検索には対応していないので、目次を紹介しておく。

第一章 自民党長期政権の構造
第二章 自民党の危機と巧みな延命路線
第三章 小泉「改革」による破壊
第四章 生き残りを賭けるときにきた日本
第五章 新しいくにのかたち
第六章 「政権交代」核心対談 小沢一郎民主党代表に聞く

このブログでも紹介した「日本は没落する」では、現在の日本の様々な問題点を指摘しており、ラディカルに日本を変えなければならないことを力説している。

日本パッシングから日本ナッシングになりつつあっても、日本の復活は決して難しいものではない。しかし、そのためには日本をラディカルに変えるプログラムを着実に実行することが必要である。

この10年の経験からすると、自民党中心の政権ではラディカルな変革はまず無理なので、民主党にも問題はあるが、政権交代をして民主党中心の政府に賭けてみるしかないのではないかと榊原さんは語る。


格差なき経済成長は世界でも異例

最初に榊原さんは、1970年代までの高度経済成長を可能にした吉田茂の平和国家路線、池田勇人の所得倍増論と金融資本を核とした産業政策、高度成長から生じた格差を是正した田中角栄の公共事業を中心とした地方振興政策について説明している。

高度成長を達成しながら、平等な社会を実現するというのは、如何に難しいか中国の現状を見ればわかるという。その両方を達成したのは、自民党の政治家と官僚がグランドデザインを書いて、国の舵を切ったからだと。

榊原さんが大蔵省に入った時の大蔵大臣は田中角栄だったが、田中は幹部の名前は勿論、息子や娘の名前まで覚えていて、進学や誕生日などの機会に、「今日は○○ちゃんの○○だろう」と言いながら、ぽんと100万円くらいの現金を渡したのだという。

業者からお金を貰うと収賄だが、大臣からお金を貰っても違法ではないので、幹部はみな断るのに困っていたという。


日本を作りかえた田中角栄

田中は頭の回転が速く、記憶力も抜群で、発想も非凡であり、大変な行動力の持ち主だったという。一人で30本も議員立法を成立させたのは、後にも先にも田中角栄だけだと。

農産物の価格維持と地方での公共事業により、国全体の経済発展と都市・農村の格差解消という矛盾する二つの政治課題を両立させることができたのだと。

筆者が大学に入った時は、日本列島改造ブームで、大学祭での筆者の大学のクラスの出し物は、「日本列島改造論」研究だった。

日本列島改造論 (1972年)


田中角栄が議員立法で成立させた法律が今でも生きている。

3月に一時的に期限が切れ、4月に復活したガソリン税を道路建設に使う「道路整備費の財源等の特例に関する法律」、高速道路料金の「プール制」、そもそもの「道路法」、新幹線建設を決めた「全国新幹線鉄道整備法」などだ。

その他「住宅金融公庫法」、「国土庁設置法」など120近くの法律、住宅公団関係の法律、筑波学園都市建設など、すべて田中角栄の仕事だという。


田中角栄後の自民党政治

ところが1970年代に石油ショックやニクソンショックなどで、高度成長が終わると自民党の政策は財政赤字を生み出す様になり、1976年にはロッキード事件で田中角栄が逮捕され、それまでの自民党の路線は変更を余儀なくされた。

このときに1976年に旗揚げしたのが河野洋平を中心とする新自由クラブだ。榊原さんが綱領の素案を書いたという。

榊原さんは1977年に当時大蔵省の同僚だった野口悠紀夫さんと一緒に「大蔵省・日銀王朝の分析」という論文を「中央公論」に発表し、そのまま大蔵省をやめるつもりが、当時の幹部に慰留され、埼玉大学の助教授に出向し、ハーバードの客員準教授となった後で、大蔵省に戻った。

このときの論文を発展させたものが、野口悠紀夫さんの「1940年体制」だという。

1940年体制―さらば戦時経済1940年体制―さらば戦時経済
著者:野口 悠紀雄
販売元:東洋経済新報社
発売日:2002-12
おすすめ度:4.0
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その後1982年に保守右派の中曽根内閣が成立し、5年間の長期政権となり、国鉄、電電公社、専売公社の民営化などの成果を残すが、政治改革は部分改革に終わったという。1985年のプラザ合意も中曽根内閣時代のことで、これによる円高で日本の製造業は大きく変貌することを余儀なくされた。

その後1993年には小沢一郎が新生党を結成し、日本新党の細川護煕を首相とする連立内閣が誕生し、自民党は10ヶ月の間下野した後、恥も外聞もなく主義の違う社会党との連立で村山首相を立てて政権に返り咲いた。

しかし細川内閣時代に小沢一郎が成立させた小選挙区制が金権選挙体質を変え、派閥政治を終わらせるきっかけとなった。


小泉ポピュリスト政治

2001年から小泉純一郎が首相となり、ポピュリズム政治と化し、「改革なくして成長なし」などのキャッチフレーズで人気を博すが、国民の大多数に恩恵のない郵政民営化などが実現したに過ぎず、日本国のビジョンを変えることはなかった。

榊原さんは、90年代後半から2000年代前半の日本の金融システムを救ったのは、竹中平蔵ではなく、宮澤喜一だという。今のアメリカの不良債権買い取りによる緊急財政支援法案は75兆円規模だが、宮澤さんは早期健全化法案で25兆円、さらに金融再生勘定等で60兆円という合計85兆円の公的資金を用意して、反対を押し切って銀行を支えて金融システムの崩壊を防いだ。

竹中平蔵は理由不明ながら、UFJ銀行を締め上げ、無理矢理三菱東京銀行と合併させてしまった。

2000年代に戦後最長の景気拡大が可能となったのは、90年代のバランスシート不況から各企業が脱却したからで、小泉改革の成果ではないと榊原さんは分析する。

道路公団民営化も、税源を地方に移譲するという三位一体改革も、国民生活には何も影響がない郵政民営化も虚構であると。

そのそも改革すべきは、小泉=竹中が手を付けた分野ではなく、教育・医療・年金だったが、こうした重要分野には手を付けず、結果として年金問題などで国民の不満を爆発させ、これが2007年の参議院選挙での自民党の歴史的敗北の原因となったのだと。


国家戦略なき日本

民間企業をバックアップするのが政府の仕事であり、資源開発分野など巨額のリスクマネーが必要な分野こそ、政府が積極支援するべきなのに、日本には長期的な資源戦略が欠けていると榊原さんは指摘する。

サウジアラビアのカフジ油田の採掘権も、サウジが要求した鉱山鉄道の建設を日本政府が受けなかったから採掘権が更新できなかったのだという。

語学力や日本文化を広めることなどについての教育の問題も指摘されている。

中国は全世界に「孔子学院」という中国文化センターのようなものをつくって、中国語教育と中国文化教育を中国から講師を派遣しておこなっており、全世界60ヶ国に210ヶ所あるのだと。早稲田大学にも「孔子学院」があるという。

だから全世界の中国語学習者は3,000万人おり、日本語学習者は300万人にすぎないのだと。


新しい国の形

以前あらすじを紹介した前著「日本は没落する」でも述べられていたが、榊原さんの考える新しい国の形は次のようなものだ。

1.人口30万人単位くらいで自治体組織を300くらいつくる。いわば「廃県置藩」なりと。

2.中央官庁のうち、教育・社会福祉・国土交通は地方に移し、中央政府には外交。防衛・警察・財政金融・環境・エネルギー分野のみ残す。民間と役人の相互移動を図り、天下り規制をなくす。

3.イギリス型の強い内閣をつくる。イギリスは閣内大臣、閣外大臣、副大臣、政務次官など大臣職にある人が約100人いるという。その他に大臣の政務秘書官に議員を指名できるので、全体で200人くらいが与党から官庁に入っているという。

4.基礎年金は全額税金化 保険ではなく、税金を分配する

5.医療システムに市場メカニズムを導入する医療改革

6.教育の自由化


最後の小沢一郎との対談では、基本コンセプトは「国民各人の自立と、自立した個人の集合体としての自立した国家の確立」、「フリー、フェア、オープン」であると「日本改造計画」に書かれていた基本的考えが説明されている。

日本改造計画日本改造計画
著者:小沢 一郎
販売元:講談社
発売日:1993-06
おすすめ度:4.5
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「フリー、フェア、オープン」の自己責任の例として、たしかグランドキャニオンの展望台に手すりがなかったことが書かれていたことを思い出す。

「基礎年金の全額税金化」を除いた上記の点が、小沢一郎の口からも説明されており、いずれ民主党のマニフェストに書かれるのだろう。


筆者は必ずしも榊原さんの政策論のすべてに賛成なわけではないが、日本をどうするのかビジョンを議論すべき時だという意見には賛成だ。

米国の大統領選挙をとっても分かるとおり、そもそも選挙とは未来の日本をどうするかというビジョンと戦略で闘うべきだと思う。

日本改革の提言の部分と昔の自民党と官僚が作ってきた時代の日本のことがよくわかって参考になった。

強い日本を再構築することを考える上で、おすすめの本である。


参考になれば次クリックお願いします。





「合衆国再生」 オバマ版メイキング・オブ・プレジデント

バラク・オバマ人気が続いている。

大前研一氏もオバマの演説のうまさは絶賛している。JFK、クリントンに匹敵する演説のうまさだという。

オバマ氏の政策の基本的な考え方がわかる「合衆国再生」のあらすじを紹介する。

対話重視、メインストリート(ウォールストリートに対する一般市民の意味)重視、国際協調重視、国民皆保険重視のオバマ氏の手腕に期待するところ大である。

オバマ氏のもう一つの本で、自身の生い立ちからシカゴでのコミュニティ・オーガナイザーとしての生活まで、そして実父に対する複雑な思いを書いた自伝的小説「マイ・ドリーム」のあらすじも、参考にしてほしい。

合衆国再生―大いなる希望を抱いて合衆国再生―大いなる希望を抱いて
著者:バラク・オバマ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-12-14
おすすめ度:4.5
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バラク・オバマ氏の自伝と政策論。

原題は"The Audacity of Hope"であり、2006年11月に出版されている。"Audacity"とは「大胆さ」という意味で、日本語訳では「大いなる希望を抱いて」となっている様に、大統領選挙を意識した本である。

政界への最初の挑戦のイリノイ州議会上院議員(1997年)、2000年の下院議員選挙での惨敗、2004年の上院議員選挙での圧勝、オバマ氏を一躍有名にした2004年民主党党大会でのキーノートスピーチ、そして大統領選挙挑戦までの一連の活動をオバマ氏自身が語っている。

400ページ強の本だが、政治活動の現実や主要政策についての自分の考えをオバマ氏が淡々と語っているので思わず引き込まれる。


メイキングオブプレジデント

オバマ氏はハーバード・ロー・レビューという法律家向け専門誌で、はじめての黒人編集長となって注目されたそうだが、文才もあり読みやすい内容でアメリカで200万部以上売れているという理由がわかる。

大統領になって打ち出す政策は、この本に書かれているアウトラインとは若干異なるかもしれないが、オバマ氏自身が書いたオバマ氏の基本的な考え方がわかる重要な本だ。

自身の生い立ちからシカゴでのコミュニティ・オーガナイザーとしての生活まで、そして実父に対する複雑な思いを書いた自伝的小説「マイ・ドリーム」のあらすじを以前紹介したが、この本はシカゴでのコミュニティー・オーガナイザー活動以降のオバマ氏の経験が取り上げられている。

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝
著者:バラク・オバマ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-12-14
おすすめ度:4.5
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筆者が「メイキング・オブ・プレジデント」と呼ぶとおり、政治活動の裏側や徒手空拳で政治活動を始めたオバマ氏が活動資金に苦労する台所事情などが率直に描かれていて読み物としても面白い。

親や祖父の地盤を引き継いで世襲政治屋となっている日本の多くの政治家に、オバマ氏の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。


ヒラリー・クリントンの力

恵まれない家庭環境から這い上がって大統領になった先人は、たとえばビル・クリントンがいるが、結婚相手のヒラリー・ローダムが名家の出身のバリバリの弁護士で、ビルが大統領になれたのはヒラリーの貢献が大きい。

以前紹介した手嶋龍一さんの「葡萄酒か、さもなくば銃弾を」に紹介されていたが、ビル・クリントンがアーカンソーに戻ったときに、ガソリンスタンドを経営している友人のことを取り上げて、「あの人でなく、大統領になった自分と結婚してよかっただろう」とヒラリーに言ったところ、ヒラリーは「私があの人と結婚していれば、あの人が大統領になったはずよ」と切り返したという。

ヒラリーが旧姓ローダムのままでバリバリの弁護士として活躍し、ビルがアーカンソー知事をやっていた時代に、クリントン夫妻としてつくった実業界の友人も多かった。

ビルは文無しからのスタートだが、クリントン夫妻としてはそれなりに政治資金と支援者に恵まれていた。金脈のひとつはホワイトウォーター疑惑を招いている。


オバマは本当に徒手空拳

オバマ夫妻も弁護士同士の結婚という意味ではクリントン夫妻と同じだが、オバマ氏はハーバードロースクール卒業後、シカゴの市民権専門の小さな弁護士事務所勤務、奥さんのミシェルは結婚後すぐに弁護士をやめ、シカゴ市の企画部や市民活団体に勤め、二人ともお金には縁がなかった。

地方議会のイリノイ州議会上院議員選挙では10万ドル以上必要なかったので問題なかったが、合衆国上院議員選挙では選挙顧問にテレビコマーシャルなどを入れて最低1,500万ドルが必要と言われ、知り合いに頼んで金策したが25万ドルしか集まらなかったという。

対抗馬がゴールドマン・サックスに自分の会社を5億ドルで売った実業家で、湯水のように選挙資金を投入してテレビコマーシャルを打ったが、オバマ氏は沈黙したままだった。

それでも選挙直前にインターネットでの小口献金が急増したことと、対抗馬が元妻との離婚スキャンダルで自滅したこともあり、2004年の上院議員選挙では圧勝できたのだ。


オバマを支える小口ネット献金

オバマ氏の特徴は、企業献金に頼らないインターネットを通じた小口献金中心の資金集めだ。企業の政治活動委員会(PAC)から敬遠されていたので、それしかなかったという。

2008年10月16日の日経IT PROエクスポでの大前研一氏の講演で、大前氏はオバマの勝因はインターネットであり、オバマはネットで(大前氏は"Notebook"と言っていたが、"Facebook"の間違いではないかと思う)80万人の支持を得て、ヒラリーは30万人、マケインはそもそもネットのことを知らなかったと言っていた。

大前氏の数字とは異なるが、現在のFacebookの政治家コーナーではオバマ支持者220万人、マケイン支持者60万人、ヒラリー17万人となっており、ネットではオバマ支持者がマケイン支持者を圧倒している。

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ネットでの草の根運動がオバマ氏の最大の支持基盤となっており、これは今までの大統領候補にはなかったことだ。まさにインターネットが生んだ21世紀の大統領といえるだろう。

オバマ氏は今年47歳。JFKが大統領になった43歳よりは年上だが、JFKのような何不自由ない名家に生まれた訳ではない、資産ゼロの庶民からの大統領という意味では異例の若さだと思う。

この本の目次は次の通りだ:

プロローグ
第1章 二大政党制の弊害
第2章 共存するための価値観
第3章 憲法の真の力
第4章 政治の真実
第5章 再生のための政策
第6章 宗教問題
第7章 人種間のカベ
第8章 アメリカの対外政策
第9章 家庭と生活
エピローグ


短い政治経験

この本を読むとオバマ氏の政治経験が短いことがわかる。

オバマ氏がイリノイ州議会上院議員になったのが11年前の1997年。連邦上院議員には2004年になったばかりで、1期目の上院議員である。

しかし議員在任年月だけでオバマ氏の政治活動を判断してはいけない。

日本の小泉チルドレンの様に、当選しても何をやっているのか消息がわからない議員と違って、オバマ氏は州議員時代でも死刑事件の取調べと自白にビデオ録画を課す法案などを成立させている。

上院でもテッド・ケネディ、ジョン・マケインの党派を超えた包括的移民制度改革法案で不法労働者の採用を難しくする修正条項を共同で起草している。

これはアメリカ人労働者より低い賃金で出稼ぎ労働者を雇うことを禁止するものだ。

また後述の「ハイブリッド車・医療費交換法案」も起草している。

田中角栄は自分で30本もの議員立法をつくったというが、田中角栄と同じことをアメリカの議員はしているのだ。


「共感」を強調

民主党らしく大企業には厳しい。従業員の給与が増えていない中で、CEOの報酬だけが高騰していることは市場の要請ではなく、強欲を恥じない文化のせいであると批判する。

「共感」という感覚がもっとあれば、CEOが従業員の医療保険を削りながら、自分に何千万ドルのボーナスを出すなんてありえないと語る。ウォルマートのリー・スコットCEOたちのことを指しているのだ。

どんなに意見が食い違っていても、オバマ氏はジョージ・W.ブッシュの目を通して世界を見ようと努力する義務があると語る。「共感」とはそういうことなのだとオバマ氏は呼びかける。


ロバート・バード上院議員のアドバイス


憲政の権化のような91歳のウェストバージニア州選出のロバート・バード上院議員の話も面白い。

オバマ氏が上院議員になって挨拶に行くと、バード議員は「規則と先例を学びなさい」と言ったという。「憲法と聖書、私に必要な文書はそれだけだ」。

そして最後にバード氏が若い頃KKKに加盟していたことを「若気の至り」として自ら告白したという。

バード氏は炭坑の多い全米でも最貧州の一つのウェストバージニア出身だ。労働組合を支援し、鉄鋼の輸入規制など保護主義的な法律をつくったことで知られているこわもての名物上院議員だ。


政治家の変質

政治家はなぜ変質してしまうのかという点については、会員議員の選挙区は与党の手で勝手に選挙区割りを決められ、与党支持者が過半数いる地域を割り当てるようにしているのだという。

もはや有権者が代表を選んでいるのではなく、代表者が投票者を選んでいるのだと。

地元にべったりで思い切った挑戦をしない。それゆえ下院議員の再選率は96%となっている。

だから有権者は国会は嫌いだが、自分たちの議員は好きだという世論調査結果になるのだと。


フラット化する世界

オバマ氏はこのブログでも紹介した「コラムニストで作家のトーマス・フリードマンが言うように、世界はまちがいなく日に日にフラット化していく」が、グローバル化への対処方法はあると語る。

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
著者:トーマス フリードマン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-01-19
おすすめ度:4.5
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「アメリカが競争力を高めるために必要とされるむずかしい対策に国が取り組まず、市場に政府が果たすべき適切な役割について新しい合意が築かれていない現状が問題なのだ」と語り、アレクサンダー・ハミルトン以来のアメリカ版資本主義の発展と政府との関係の歴史を簡単にまとめている。

アメリカの競争力を高めるために、教育と科学技術とエネルギー的独立の3分野への投資が必要だと語る。これがオバマ氏の政策の基本となる。「フラット化する世界」のフリードマン氏の主張と同じで、まさに現在のアメリカに必要なものである。

ルービン元財務長官からは「保護貿易主義的な努力はすべて逆効果だ。それだけでなく、彼らの子どもの暮らしをいっそう悪化させることになる」と言われたそうだが、オバマ氏は組合には好意的だ。


バフェットの税率はセクレタリーよりも低い!?

オマハで質素な暮らしをしている世界一の大富豪ウォレン・バフェットと面談した時に、なぜバフェットの実効税率が平均的アメリカ人よりも低いのか?といわれた話を紹介している。

バフェットの様に配当とキャピタルゲインが主な収入の場合には、15%しか課税されないのだ。一方社会保障も入れたセクレタリーの給与はその倍近い税率で課税される。

バフェットがとりわけ心配していたのはブッシュ大統領が推し進めようとしている相続税廃止だという。

彼は相続税を廃止すれば、富裕層の貴族政治化を促すと考えており、「2000年のオリンピックに優勝した選手の子どもたちだけで2020年のオリンピック代表を決めるようなものだ」と言っていたという。

相続税は人口の0.5%にしか影響しないが、国庫に1兆ドルの収入をもたらすという。


様々な問題について持論展開

宗教問題(人工中絶、同性婚)、人種間のカベ、外交政策、教育、エネルギー政策の転換、自由貿易、世界経済、社会保障、低所得層を救うアイデア、医療保険制度、財源、格差社会の是正、ワーキングプア問題等について自説を展開している。

オバマ氏を一躍有名にした2004年の民主党大会の「黒人のアメリカも、白人のアメリカも、ラテン系のアメリカも、アジア系のアメリカもない。ただアメリカ合衆国があるだけなのだ」という発言をもとに、黒人、特に黒人の若者への偏見、人種間の格差(白人の平均資産が8万8千ドルに対し、黒人の平均資産6千ドル、ラテン系8千ドル)などについて語っている。



外交問題

イラク問題については、当初より戦争後の占領体制を考えない戦争には反対してきたが、オバマ氏みずからがバグダッドに行き、現地の情勢を知った今は、性急には撤退できないと考えていると。

有権者の一人から「あんたはイラク戦争に反対したにもかかわらず、まだ部隊の完全撤退を求めて声をあげていない」と言われ、「あまりに急激な撤退はあの国に全面的な内戦をもらたらし、中東全域に紛争を拡大させる可能性がある」と説明したという。

いずれにせよアメリカの外交政策には理念がないと断じて、次のような質問を投げかけている。

なぜイラクには侵攻し、北朝鮮やビルマにはしないのか?

なぜボスニアには干渉し、ダルフールにはしないのか?

イランにおける目的は何なのか?政権の交代なのか、核保有能力を解体することか、核拡散防止なのか、3つすべてなのか?

自国民を恐怖におとしいれている独裁的な政権が存在するところなら、どこでも力を行使するのか?

その場合、経済は自由化しはじめているが、政治は自由化されていない中国のような国々はどう扱うのか?


防衛力とエネルギー問題

軍事力については、第三次世界大戦を視野に確立されている防衛費と戦力構造には、戦略的な意味がほとんどないことをそろそろ認識すべきだと語っている。

ブッシュ政権を初めとする共和党政権を強力にバックアップしていた軍事産業には聞きたくない話だろう。

さらにブッシュ政権のエネルギー政策は、大手石油会社への補助金と掘削の拡大に注がれてきたが、セルロースからのエタノールなどの代替燃料開発を進め、エネルギー効率を上げる等、ケネディ時代のニューフロンティア政策のような政策を打ち出すべきだと主張する。

オバマ氏はロシアにエネルギーを依存しているウクライナを訪問し、輸入石油に依存している国の脆弱性を感じ、アメリカは別の選択肢を持つべきだと主張する。

オバマ氏自身が起草した「ハイブリッド車・医療費交換法案」は、退職者への医療費に対して政府が補助金を払う代わりに、ビッグスリーはハイブリッド車などの燃費効率の良い車の開発に投資するというものだ。

北朝鮮やイランのような「ならずもの国家」の脅威を管理し、中国のような潜在的ライバルの挑戦を受けられるだけの優勢な戦力を維持する必要は認めているが、単独行動でなく、国連の強化による他国との協調的な行動を取ることを主張している。

この路線は日本の民主党の国連重視外交と同じ方向性の様に見える。超大国アメリカの指導者としては、今までなかった斬新な考え方だ。


家庭生活

アメリカの初婚の5割は離婚に至っているという。

この30年間でアメリカ人男性の平均収入の伸びはインフレ調整後で1%を切っており、住居、医療、教育費をまかなえなくなっているのだと。

共稼ぎで増えた収入は、ほとんど全部が子どもの教育費、授業料や良質な公立学校がある地域に住むための住居費と、母親が通勤に使うもう一台の車や託児所の費用に使われているという。女性の社会進出は、家計を支えるための必要にせまられてのものだ。

最後に奥さんミシェルと、二人の娘、マリア、サーシャを紹介し、時々はワシントンのモール(中心地区)のジョッギングで、建国の父たちに思いをはせていると語り、「私の心はこの国への愛に満ちている」と結んでいる。


アメリカ国民のためにしっかりとした政治を行っていくことだろう。

そんな好印象を受ける良い本だった。


参考になれば次クリックお願いします。

葡萄酒か、さもなくば銃弾を 手嶋龍一さんの人物評伝

本日の北朝鮮のミサイル実験はどうやら失敗に終わったようだ。

米国は昨年10月12日に北朝鮮に対してのテロ支援国家指定を解除している。

まさにブッシュ政権末期のドタバタで、なんとか自分の功績としてアピールできるものを作ろうとしているコンドリザ・ライス国務長官とヒル国務次官補のなせるわざと言わざるを得ない。

核実験をやろうと準備している国に、テロ支援国家指定を解除してどうなるのか?

米国や他の国から援助を取り付けて、国力を回復し、準備を万全にして時期をずらして核実験を実施するというだけのことになるのではないか?

本質がわからずに「理解を示している」麻生首相も、ブッシュ大統領から電話をもらってうれしくて、そう言ってしまったのではないかと思えるが、本気でそう言っているならノー天気なものだ。

筆者は必ずしも北朝鮮懐柔策に反対するものではないが、それにしても核実験実行するぞと恫喝されてテロ支援国家指定を解くとは、まともな人間のなせる技ではない。

このあたりの事情を鋭く洞察している手嶋龍一さんの本のあらすじを紹介する。

葡萄酒か、さもなくば銃弾を葡萄酒か、さもなくば銃弾を
著者:手嶋 龍一
販売元:講談社
発売日:2008-04-25
おすすめ度:3.0
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インテリジェンス小説という新しい分野を開いた元NHK手嶋龍一さんの人物評伝。

登場人物は次の通りだ。ほとんどが手嶋さんが直接間接に知っている人ばかりで、手嶋さんの広い交友範囲をあらわしている。

I 遙かなりホワイトハウス
  大統領への永い道……バラク・フセイン・オバマ
  二人のファーストレディ……ヒラリー・ローダム・クリントン
  敗れざる者……ビル・ブラッドレー(元上院議員)
  ベトナムから還ってきた男……ジョン・マケイン

II 政治の中の生と死
  赤い曳光弾……ヘルムート・コール(元ドイツ首相)
  手術室のジョーク……ロナルド・レーガン
  ハイアニス・ポートの孤高……ジョン・F・ケネディ
  三十年の平和……ヘンリー・キッシンジャー

III 姿なき交渉者たち
  帰りなんいざ……戴秉国(中国国務委員)
  昼行灯のひと……谷内正太郎(ヤチ。元外務事務次官)
  テヘランに在りし者……斉藤邦彦(元外務事務次官)
  雪渓の単独行……林貞行(元外務事務次官)
  ふたりのマツナガ……松永信雄(元外務事務次官)とスパーク・マツナガ(元上院議員)

IV 外交という戦場
  冷や飯のひと……麻生太郎
  ツルゲーネフの森……ハンス=デートリッヒ・ゲンシャー(元ドイツ外相)
  少数派の叡智……ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
  知られざる人……近藤元次(元農水相)
  北の凍土と向き合いし者 宋旻淳(韓国元外交通商相)

V 日米同盟の光と影
  冷たい戦争の意志……ジョン・フォスター・ダレス(米元国務長官)
  矜持なき者の挫折……クリストファー・ヒル(米国務次官補)
  プレスリー同盟……小泉純一郎
  裏切りの季節……コンドリーザ・ライス(米国務長官)
  イラクへの道……ドナルド・ラムズフェルド(元国防長官)

VI 超大国に抗いし者
  隠れゴーリスト……小沢一郎
  「ブッシュの戦争」の抵抗者……ドミニク・ド・ヴィルパン(元フランス首相)
  昨日の理念……安倍晋三
  日米同盟の遠心力……福田康夫

エピローグ  
  月下美人……若泉敬(政治学者。沖縄問題の特使)

なかには、余り聞いたことのない名前もあるが、外務省高官だったり、若泉さんは沖縄返還交渉の時の福田赳夫首相の対米密使だ。

それぞれの特徴を捉えたエピソードを紹介しており、読み物として面白い。

たとえばバラク・オバマ氏は、2004年の民主党大会の演説がメジャーデビューだったし、ヒラリー・クリントンは弁護士時代はヒラリー・ローダムで通していたが、ビルがアーカンサス州知事再選に失敗すると名前をヒラリー・クリントンに変えた。



ジャックリーン・ケネディはJFKの女遍歴に耐えかね、離婚を何度か言い出すが、そのたびにケネディ家の家長であるジョセフに金で丸め込まれていたという。ジョセフの執念が実り、JFKはカトリックで最初の大統領となるが、暗殺されてしまう。ケネディ暗殺は謎のままである。


キッシンジャーの功績

キッシンジャーは国務副長官時代に歴史に残る声明を発表している。ソ連と中国がアムール川のダマンスキー島の領有権を巡って一触即発の状態だった1969年に、「ソ連が国際政治の均衡を崩すような挙に出て、中国に対する核攻撃に打って出るようなことがあれば、ニクソン政権はこれを座視しない」というものだ。

これが米中接近の引き金にもなる。

ニクソン訪中の前に周恩来とキッシンジャーが交渉していた時に「上海コミュニケ」の中の、いわゆる「台湾条項」のワーディングは固まった。

台湾条項の第1項は「アメリカ政府は、台湾海峡をはさむ両岸の中国人が、それぞれ中国は一つだと述べていることを事実としてacknowledgeする。」このacknowledgeという言葉は周恩来のサジェスチョンによるものだと。

第2項は「アメリカ政府は、台湾海峡問題の平和的解決を希求する」。これはアメリカが有事には、軍事力で台湾の防衛に駆けつけるとは一切書いていない。実際に1996年に中国が台湾海峡向けに4発のミサイルを発射したときに、アメリカは空母2隻を台湾海峡に派遣した。

しかし文言としては、曖昧さを残すことで、台湾側の自重も求めた。後に「戦略的曖昧性」と呼ばれている。

これが台湾海峡に熱い紛争が起こるのを防止してきたのだ。

こういった歴史の証人たちに直接インタビューして取材している手嶋さんの幅広い情報収集力には敬服する。

手嶋さんの友人の韓国の宋旻淳元外交通商相や、普段あまり聞くことのない外務省の歴代の外務事務次官の話も面白い。

軽妙な読み物に仕立てているが、手嶋さんは主張すべきところは主張している。


北方領土問題は日ロ関係のトゲ

たとえば北方領土問題は、死せるダレス元国務長官が打った日ロ関係のトゲ、冷戦の残渣であり、これがために日ロ交渉は全く進展していない。「領土問題は日本丸というタンカーの船底に張り付いてしまった貝殻のような存在」だと。

「対中、対米外交に新たな地平を切り拓くためにも、北方領土のくびきから日本外交自らを解き放つべきときが到来している」と手嶋さんは語っている。


ライス国務長官とヒル国務次官補

北朝鮮との外交で、独断専行でポイントを稼ごうとして失敗している米国のクリストファー・ヒル国務次官補と、他に成果がないので北朝鮮外交を自分の実績としたいコンドリーサ・ライス国務長官には手厳しい。

北朝鮮の旧式の核施設を廃棄させるが、まだ数個保有していると思われるプルトニウム核爆弾や、ウラン濃縮設備については、全く手つかずのままだ。

「国際社会はまだ、野心の外交官クリストファー・ヒルが犯しつつある失策の恐ろしさに十分気づいていない」と警告している。

「ライスとヒルは、東アジアのポスト冷戦史に、野心に溺れて同盟国を裏切った外交官としてその名を刻まれることになるだろう」と。


小沢一郎と「国連至上主義」

小沢一郎については、ひそやかな対米自立論者として、「自衛隊が国連待機軍として国連の要請に応じて出動し、国連の指揮下にはいることは、何ら憲法に違反しない」という1993年の「日本改造計画」を引用している。

日本改造計画日本改造計画
著者:小沢 一郎
販売元:講談社
発売日:1993-06
おすすめ度:4.5
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アメリカは小沢一郎をフランスの故ド・ゴール大統領の様に、対米自立を模索する「隠れゴーリスト」と見ているという。

1990年の湾岸戦争の時に、当時の自民党幹事長の小沢一郎は自衛隊の派遣を当時の首相の海部俊樹にせまっている。結局それは実現せず、日本は130億ドルという巨額の資金を提供したのに、軍事的支援はゼロだったので、戦後のクウェートのThank-you Listにも載らず、屈辱を味わった。


条約官僚というモンスター

日本の憲法や国際条約解釈を独占しているモンスターのような「条約官僚」という存在も指摘している。

福田前首相は昨年末の小沢一郎との密談の時に、条約官僚に「小沢が提案する国連の集団安全保障に飛び移って構わない」と言われたという話を紹介している(手嶋さんの本にはこう書いてあるが、真偽のほどは筆者はわからない)。

党首会談の合意文書など、どう書かれていようとも、国際法の知見を利用して再解釈してみせるという自信のほどを見せつけたものだと。

「日本の政治指導部が真に立ち向かうべき相手は、法衣をまとっていない大審問官たちなのである」と手嶋さんは指摘している。

現在の条約・憲法解釈についての力学がわかって参考になる。


自民党の面々には冷ややか

麻生新首相を「冷や飯の人」と呼んでいるが、なぜそう呼ぶのか全くそれにあたる説明がない。吉田茂の孫として、冷や飯という訳でもないと思うが、よくわからないところだ。

麻生さん以外にも小泉元首相、安倍元首相、福田前首相は好意的には取り上げられていない。小泉=ブッシュ関係をプレスリー同盟と呼んでいる。


これからの政権交代議論や現在の世界情勢を考える上で、参考になるインサイト(洞察)である。

面白く簡単に読めるおすすめの本である。


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