時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

大前研一

大前研一 「ビジネスモデル」の教科書 生きた題材を使った経営の問題集



大前さんがBBT(ビジネス・ブレーク・スルー)大学で、実際に取り上げた12のRTOCS(Real Time Online Case Study)の事例を、大前流に分析・考察・結論付けしたもの。

多くのビジネススクールが、すでに時代遅れとなった過去の事例(たとえば、「コダックとポラロイドの戦い」とか「ゲートウェイ2000はいかにしてトップシェアを取ったか」などという、ネットからデータも取れないような古い過去の話)を扱っていたりするという。

それに対して、RTOCSは現在進行中のフレッシュな事例を取り上げ、当事者たるリーダーと同じ立場に立って、自分ならどうするという自分なりの結論を出す訓練だ。

結論を出すためにどういった情報を集めて、それらをどう読み、どう分析し、どう活かすのかを徹底的に考える癖をつけることが目的だ。

BBT大学の学生は毎週1回このRTOCSに取り組み、リーダーになった気持ちで経営課題を考え、クラスでディスカッションする。

こういったトレーニングを2年間やれば、100本ノックならぬ、100本ケーススタディで、頭の回転も驚くほど速くなり、リサーチ作業や収集した情報を整理、分析するスピードも格段に上がると大前さんはいう。

この本で取り上げている12の事例は次の通りだ。

CASE 1 Coca ColaのCEOだったら

CASE 2 ローソンの社長だったら

CASE 3 UberのCEOだったら

CASE 4 任天堂の社長だったら

CASE 5 キャノンのCEOだったら

CASE 6 シャオミ(小米)のCEOだったら

CASE 7 ゼンショーの社長だったら

CASE 8 クックバッドの代表だったら

CASE 9 日本経済新聞社の社長だったら

CASE10 AirbnbのCEOだったら

CASE11 ニトリの社長だったら

CASE12 島精機製作所の社長だったら

それぞれのケースにBBT大学総研が作成した分析チャートが多く配置されており、その会社の現状の姿と経営上の課題が浮き彫りになる。

本来ならその分析まで自分でやるべきところだが、BBT総研の分析は非常にわかりやすく、その会社の問題点がよくわかる。

そのうえで、大前さんが考えるその会社が取るべき経営戦略を解説している。

たとえば、ローソンについては、成城石井の商品を取り込んで「ショップ・イン・ショップ」形式で商品力を強化すること、都心店舗ではコンシェルジュサービスを導入して、顔の見える営業を展開し、半径200メートル内の住民を確実に囲い込むこと、地方店舗は現状維持というものだ。

また、2007年の4.5兆円をピークに、リーマンショック後は売上高が低迷しているキャノンは、オフィス向けソリューション、医療、理化学機器分野、商業用・産業用プリンターという3つの収益事業を強化するために、M&Aを積極的に仕掛け、各分野で圧倒的なトップを狙う、などというものだ。

BBT総研の分析がわかりやすく、チャートが見やすいので、ついつい大前さんの考える経営戦略まで読み進んでしまうが、この本が最高に役立つのは、その会社の現状分析のところで、いったん読み進むのをやめて、そこで自分なりにアイデアを練って、それから大前さんの案を読むという活用法だ。

経営に正解などない。大前さんの案とは違ってもいいので、自分なりのアイデアを考える経営の問題集としての活用をおすすめする。


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「0から1」の発想術 大前研一のアイデア発想法

「0から1」の発想術
大前 研一
小学館
2016-04-06


常に考えるヒントを提供してくれる大前研一さんの近著。

この本では、基礎編として次の11の発想法を紹介している。

1.SDF(Strategic Degrees of Freedom)戦略的自由度 消費者の求めているものは何か?

2.アービトラージ 情報格差

3.ニュー・コンビネーション 組み合わせで成功する

4.固定費に対する貢献 稼働率は利益率と直結

5.デジタル大陸時代の発想 5年後の生活を予想する 

6.早送りの発想 グーグルの動きを「ヒント」にする 孫正義氏の”時間差攻撃”

7.あいているものを有効利用する発想 UBERAirbnb

8.中間地点の発想 「業界のスタンダード」を捨てる 4枚増えて値段は同じ。どっちが得か(富士フィルムの24枚撮り)

9.RTOCS(Real Time On-line Case Study)/他人の立場に立つ発想 2つ上の立場で考える

10.すべてが意味することは何? "森全体”を見る視点にジャンプする

11.構想 ウォルト・デイズニー X ワニのいる湿地

そして実践編として、次の4つの「新たな市場」を作り出す発想法を紹介している。

1.感情移入 ナイキ創業者は大学生のウッズに興奮した

2.どんぶりとセグメンテーション セグメンテーションで生まれるビジネスチャンス

3.時間軸をずらす 手元に資金がなくてもビジネス開発は可能

4.横展開 アパレル企業がトヨタに学んで急成長

おわりに 「0から1」の次は「1から100」を目指せ

読みながら自然と考えるので、大変参考になる。

たとえば、ニューコンビネーションで紹介されているコンビニの話。

日本のコンビニ業界の中で、セブンーイレブンは突出している。一店舗当たりの平均日版がセブンは67万円に対し、ローソンは55万円、ファミマは52万円である。

コンビニの売り上げは基本的には立地で決まるが、セブンに客が集まるのは、企画力、商品開発力に差があるからだ。

たとえば「セブンカフェ」は2013年にスタートし、今では7億杯飲まれているという。マクドナルドから客を奪い、客数は増え、調理パンの売り上げは3割増、スイーツは2割増になったという。

プライベートブランドの「セブンプレミアム」も成功しており、イオンの「トップバリュ」を上回り、ほぼ1兆円の規模となっている。

大前さんは近所の各コンビニを定期的にチェックし、気になった商品は実際に購入して試している。セブンには他のコンビニにはないユニークな商品、少し値段は高くても、つい買いたくなるような商品が並んでいるという。

この本の中で、「あなたがローソンの社長だったら」というケーススタディを出している。

この本が出た後、三菱商事がローソンを子会社化すると発表した。

1,500億円程度の投資で、ローソンの収益を連結でき、大きなリターンを上げられるので、三菱商事の資本政策上は得策であることは間違いない。しかし、肝心のローソンにとっては、三菱商事の子会社になることはプラスとなるのか不明だ。

セブンやユニー(サークルKサンクス)と経営統合してローソンを売り上げ規模で抜いたファミマとの競争上、商品企画力がカギとなると大前さんはいう。

筆者の考えでは、ローソンは商品開発力もさることながら、売り上げ予測に基づく在庫管理に難があるように思える。

筆者はローソンのツナ&タナゴサンドは、わざわざローソンまで買いに行くほど気に入っているが、品切れとなっていることが多く、ローソンに行っても何も買わないで出てくることがよくある。

サンドイッチがなければ、おにぎりを買うという気にはならない。ローソンのおにぎりはおいしいと思うが、筆者は定番のツナ&タマゴサンドが好きなのだ。ローソンになければ、仕方ないので他のコンビニで買う。

売り上げ機会の喪失は、データには出てこないので、ローソンは実態をつかめていないのではないかと思う。セブンは売り上げ機会の喪失を一番に考えて、英語にまでそのまま取り入れられている「単品管理」という考えを導入した。

このあたりのことは、このブログで紹介している「鈴木敏文の『本当のようなウソを見抜く』」に詳しいので、参照してほしい。



いくつか印象に残った話を紹介しておく。

熊本県の黒川温泉の話。

熊本県の黒川温泉は、温泉のウェブサイトにも「黒川温泉は九州の北部中心くらいにあります。山間部の為公共交通機関ご利用はご不自由をお掛けいたします。できればお車かレンタカーのご利用がよろしいかと思います。」と書いてあるような不便な場所にある。

それでも黒川温泉は全国の人気温泉地トップクラスにある。「黒川温泉一旅館」というコンセプトのもとに、乱立していた旅館の看板200本をすべて撤去するなどで景観を統一し、風情ある街並みを完成させ、一つのブランドとしたのだ。

そして、3か所の旅館の露天風呂に入れる「入湯手形」を販売した。そうすると、全部で24か所の露天風呂があるので、全部制覇しようというリピーターが現れて人気を呼んだ。

黒川温泉のウェブサイトを見ると、全旅館の空室状況が一覧でわかるようになっている。温泉旅館全部が協力して、みんなで消費者の利便性を高めようとしていることがわかる。

今年は熊本地震があり、最近阿蘇山が噴火した。旅館の予約状況を見ると、黒川温泉はあまり影響がないように思えるが、ぜひみんなで力を合わせて苦境を乗り越えてほしいものである。

「構想」の事例として挙げられているシティグループの”10億人の口座”という構想も面白い。

1984年に45歳の若さでシティバンクの会長兼CEOに就任したジョン・リードは、これからの銀行のあり方を構想し、「これからは10億人の口座がないと、銀行はリテール部門で生き残れない。だから10億口座はなんとしてでも必ず達成しろ」と指示したという。

この構想から生まれたのが「電子ウォレット」という携帯電話のサービスだ。

シティバンクは現在160カ国以上の国と地域に2億人の口座を持っている。インドのバンガロールでは、最低預入額を25ドルとしたバンキングサービスを始めて、大ヒットしたという。10億人に向けて突き進んでいる。

今はマイクロソフトの傘下に入ったが、フィンランドのノキアのヨルマ・オリラ元会長兼CEOの構想力も優れている。

ノキアは元々はゴムの長靴やタイヤ、紙、電子部品を製造する小さな会社だったが、オリラ氏は「携帯電話を誰もが持つ時代がやってくる」という構想のもと、1988年には当時のCEOが自殺し、倒産寸前だったノキアを携帯電話会社として転換し、一時は世界一の携帯電話メーカーに変貌させた。

「感情移入」に関しては、ナイキの元CEOフィル・ナイト氏やアップルの故・スティーブ・ジョッブス氏の話を紹介している。

大前さんはナイキの社外取締役を務めていた関係で、ナイキの元CEO、ナイト氏をよく知っている。

ナイト氏はいろいろな業界からマネージメントを依頼されるが、「23時間働く覚悟」を持てる仕事でないと、断ってしまう。たとえば、感情移入できないから「電気は苦手」だという。

「やることすべて成功する必要はない。何回失敗しようが、最後の1回で成功すれば、あなたは成功者と呼ばれる」

とよく口にしていたという。

このブログで紹介しているヴァージン・アトランティックのリチャード・ブランソンも、すぐれた構想力が成功の要因だ。



最後の「手元に資金がなくてもビジネス開発は可能」は、発想の転換の一例で、参考になる。

大前さんがマッキンゼー時代に手掛けた案件で、香港の新空港を香港政庁の資金を使わずに建設したNPV(Net Present Value)という考え方だ。

まず新空港ができると、収益が見込めるものをすべて書き出してみる。

・航空機着陸料
・ホテル事業
・エンジン整備などのメンテナンス事業
・免税店の出店料
・レストランなどのテナント料
・荷物のハンドリング

こうした収益事業を権利化して、金融機関に抵当に入れて、建設資金を調達する。問題点は、空港が開港すると、収益を先取りしてしまったために、全く収益が見込めないことで、NPV化した事業とは別の付加価値の高いサービスを考え出していく必要がある。

大前さんは今年73歳になったと思うが、何歳になっても大前さんの本は、フレッシュな話題で参考になる事例が満載である。

具体的事例が多く、簡単に読めるので、一読をお勧めする。


参考になれば次クリックお願いします。




日本復興計画 大前さんの原発事故と東日本大震災からの復興計画

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
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大前さんがビジネスブレークスルー大学院大学で東日本大震災と、その後の福島原子力発電所事故について解説した番組を加筆して緊急出版したもの。

別ブログでも紹介している通り、大前さんは東日本大震災が起こり福島の原発事故が発生した直後の3月13日から毎週、ビジネスブレークスルー大学院大学で原発事故について講義をしていた。これらはYouTubeにも収録されている。




大前さんはこれで日本原子力産業は終わったと言っている。

実はこの前の平成22年12月出版の「お金の流れが変わった」では、世界で原子炉を安全に作れるのは日本くらいしかないので、「棚ぼた式に儲かる原子力産業」と「首都圏近郊に原子炉をつくれ」という2つの節で、日本は原子力産業を強みとすべきだという提言をしている。

それがあるので、この本で「原子力産業は終わった」と書いているのだと思う。

お金の流れが変わった! (PHP新書)お金の流れが変わった! (PHP新書)
著者:大前 研一
PHP研究所(2010-12-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る


大前さんの復興計画の根幹をなすのは次の2点だ。

1.道州制
2.個人の意識改革

道州制については、大前さんが「平成維新の会」を立ち上げる前から主張しているものだ。

今回の提案は、被災地に最初に道州制を導入するという先行導入案だ。県単位でバラバラに復興計画が出されて、全体最適が損なわれる事態を、道州制を導入して全体で整合性のある復興計画にしようというものだ。

たとえば昔の「ここより下には家をつくるな」の石碑などの例にならい、住居は高台につくり、漁師などは海辺に車で通勤するとかの提案が含まれている。



最近では道州制賛同者も増え、公的な会議の議題にも道州制が上る様になってきた。先日前経団連の御手洗さんの講演を聞く機会があった。御手洗さんも道州制を復興計画の柱として提案されていた。

2.の個人の意識改革というのは、大前さんが「大前流心理経済学」などで、繰り返し提案しているものだ。

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
講談社(2007-11-09)
販売元:Amazon.co.jp
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次の表の通り、日本は20年間所得が減り続けている世界唯一の先進国だという。これを克服するには日本人のメンタリティを変えなければならない。住宅、車、教育の3大熱病は早く治すべきだと語る。

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出典:本書109ページ


筆者の場合、すべての「熱病」を抱えており、いまさらどうにもならないが、たしかに賃貸物件もいいものがあるので、若い人がこれからマンションとかを買うのは考えた方が良いかもしれない。


特筆すべき発言

テレビ放送を本にしたものなので、オフレコ的な発言も収録されている。

★たとえば4島返還でなくてもよいから日露平和条約を早期に締結して、シベリアの無人地域に核廃棄物の埋設場所を確保させてもらうことを提案している。

放射性廃棄物の問題は日本の国難であり、北方4島と次元が異なる問題だからだという。

合理的な提案かもしれないが、ロシアと日本の国民感情を考えれば、到底受け入れられる提案とは思えない様に筆者には思える。

今後紹介する「大前研一 洞察力の原点」で、世間話ができないことを「大前研一敗戦記」で書いていることが紹介されている。


世間話ができない

「日本全体のこととか、世界経済だとか、東京全体の問題とかは、一生懸命考えてきたけれど、下町の風景のなかでおじいちゃん、おばあちゃんと世間話ができない。

日本改造から自分はスタートしたが、まずは自分の改造が崎だということに気がついたのだった。」

原出典;「大前研一敗戦記」

「シベリアで核廃棄物埋設場建設」というのも、この傾向が出ていると思う。つまり大前さんの欠点の一つは、庶民感覚がないのだ。


★大前さんの奥さんはアメリカ人なので、アメリカ大使館から連絡があってヨウ素カリを大使館指定の薬局でもらってきたという。アメリカの本気度と日本に対する信頼のなさが読み取れるという。

表の顔、裏の顔を使い分けて万全を期すのがアメリカのやり方だ。いかにもありそうな話だと思う。


★日本には「ウラの国策」があり、プルトニウムをためていけば90日で原爆が造れるという。日本は唯一の被爆国として非核三原則を掲げているが、それに抵触しないで核武装の能力だけは備えておく、つまり90日で原爆を作る能力のある「ニュークリア・レディ」国なのだ。

だから使用済み核燃料を国内にずっとため込んでいるのだと。

この「ニュークリア・レディ」の話を読んで、大前さんもヤキがまわったと思っていた。

以前「日本は原子爆弾をつくれるのか」で紹介したとおり、プルトニウム原爆の起爆装置は非常に複雑で、実験もできずノウハウもない日本が90日で原爆ができるとは到底思えない。

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出典:Wikipedia

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ましてや運搬手段のミサイルも爆撃機もない日本で、原爆弾頭だけつくっても、何の役にも立たない。そもそも原爆保有を大多数の国民が許すとは到底思えず、中国や北朝鮮から攻められるとかいう事態があっても、国民のコンセンサスは得られないのではないか?

ところが、最近読んだ京都大学原子炉実験所小出裕章助教の「隠される原子力・核の真実」という本を読んで、日本はせっせとプルトニウムをため込んでおり、すでに長崎原爆を4,000個つくれるだけのプルトニウムを保有していることがわかった。

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出典:「隠される原子力・核の真実」46ページ

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp
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大前さんはヤキがまわったのではなく、元原子力関係者として一般人が知らない真実をチラッと明かしただけなのかもしれない。そんな気がした。


大前さんはこの本の印税をすべて寄付するという。震災・原発直後の復興提案としては提案スピードといい、提案内容といい、優れたものだと思う。

本を読むか、あるいは上記のYouTubeの2番目の映像の公開講義を見ることを、ぜひおすすめする。


参考になれば次クリック願う。





大前流心理経済学 個人金融資産を積極運用し生活者大国へ

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2007-11-09
おすすめ度:3.5
クチコミを見る

日本人の不安心理を根底から払拭し、資産の積極運用で日本経済を21世紀も世界に君臨する様に立て直す大前研一氏の2007年末の提言。

非常にわかりやすく、論点も明快だ。その後世界金融危機が起きたが、それでもこの本で提言している基本線は変わらないと思う。

大前さんの本は、別ブログでは19冊紹介しているが、「はじめに」と目次を読むと本の大体の内容がわかり、最後の数ページを読むと提言がわかるので、頭にスッと入る。Amazonの「なか見検索」に最適の構成だが、講談社のこの本は「なか見検索」に対応していないのが残念だ。


要約:

今回のあらすじは長いので、なか見検索の代わりに要約しておく:

日本の個人金融資産は1,500兆円といわれ、アメリカの5,000兆円に次ぐ世界第2位の規模である。

この個人金融資産はいわば巨大な水ガメで、これが流れ出したら世界が今まで経験したことのないようなインパクトの経済効果が生まれる。世界の市場を動かしているオイルマネーでさえ、100兆円規模でしかないのだ。

ところがこの水は流れ出る気配もなく、日本国内で低金利で運用され、あまり増えていない。日本人が持つ将来への漠然たる不安が、国内で低金利の郵便貯金(オイルマネーを超える250兆円規模)とか、銀行預金に資金を留めている原因だ。

世界では高齢者になるほど資産が減っていくが、日本では逆で、不安心理により高齢者になるほど資産が増え、最後には一人平均3,500万円もの金融資産を残して死んでいく。しかしカネは墓場まで持ち込めない。

要介護者は全体の1/7,75歳以上でも3割で、ほとんどの人が「ぽっくり逝ってしまった」パターンだ。大半の人は、不安を持つことなどないのだ。

低金利政策は国の放漫借金の穴埋め、金融機関支援策であり、その実体は個人財産の収奪だ。日本の個人資産はここ10年で、2割しか増えていないが、欧米は8割前後増えている。

円の価値は円安で20年前の水準に戻り、米国には水をあけられ、他国にはどんどん追いつかれている。このままでは欧米はおろか、時間の問題で、中国等にもGNP、産業競争力で負け、資産でも負けてしまう。

もう日本の時代は終わったと中国あたりにまで言われて意気消沈し、30代の人でさえ将来に不安を持っている。子供まで将来に明るい希望を持てないという日本の現状だ。このまま国力が落ち、若者のいなくなった日本は、北朝鮮の侵略の良い標的となる危険性もある。

しかし既に日本人は問題解決の手段を持っている。あとは心理を変えるだけなのだ。世界2位の1,500兆円という資産を、世界水準の年率10%前後で積極運用して日本の国富を増やし、少子高齢化になっても他国の追従を許さない世界最大の資本供給国として世界に君臨し、老齢者はアクティブなシニアライフを楽しめるのだ。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


心理経済革命を提唱

大前さんがこの本で提唱するのは、「心理経済革命」で、日本人の心理を動かすための経済政策であり、日本を生活者大国にするための筋道である。

これは全く新しい経済概念を打ち出すものであり、大前経済学の最先端であると同時に、現時点での決定版であると大前さんは力説する。

政府は個人金融資産1,500兆円をずっと塩漬けにして、パクるつもりなのだ。これからは国家が国民を守るのではなく。国民をだます時代になる。おとなしい国民は、借金漬けでせっぱ詰まった政府に世界一の蓄えをカモられる。

だから国民は自衛しなければならない。自分のカネは納得できる人生を生きるために使い切らなければならないのだと。

眠ったままの1,500兆円の個人金融資産を市場に流れるようにすれば、世界を席巻するパワーを持つ。

日本では銀行の定期預金に250兆円、郵便貯金に250兆円、合計500兆円が塩漬けになっている。さらに外貨準備に100兆円あるので、合計600兆円のすぐに運用できる資産がある。

ハーバード大学の資金は3兆円規模で、運用益は15%だ。たとえば600兆円を10%超で運用できれば年間約50兆円の日本の税収を上回る年間60兆円の運用益が出る。この一部を国家再建に使うのだ。


国家全体が「夕張」化する日本

2006年6月に北海道の夕張市が、財政再建団体指定を申請、実質倒産した。夕張市の人口は1万3千人、債務は630億円。日本が1億3千万人で、国債発行残高は637兆円。ちょうど夕張市の一万倍の規模だ。

しかし日本のほうが地方債を含めると債務は840兆円もあり、夕張市よりひどい。夕張市は大幅な職員削減や給与カットを行っているが、日本はなにもドラスティックな対策は打っていない。

それは政府なら輪転機でいくらでもお金を印刷できるからだ。しかしこのまま輪転機でお金を刷っていれば、ハイパーインフレとなる。

国の債務だけではなく、特別会計支出や、全国に1,000ほどある特殊法人の債務をあわせると国の借金は1,200兆円を超える。

さらに少子高齢化だ。少子化の直接原因が未婚・晩婚化である以上、政策によって出生率を増加させるのは難しく、人口はこれからどんどん減っていく。2046年には一億人を割り、2055年には9,000万人になると予測されている。

生産年齢人口はどんどん減ってくる。65歳以上の老齢人口は、2040年頃まで増え続け、4,000万人近くに達する。かたや生産年齢人口は2005年の8,400万人から2055年には4,600万人にまで減少すると予想されている。

生産年齢人口には学生や主婦も含まれているので、実質的な労働力は現在でも6,600万人、それが2055年には3,000万人台まで減ると予想されている。

国の約束している年金を払おうとすると、将来800兆円の財源が不足する。つまり日本の本当の債務は2,000兆円もあるのだ。国民一人当たりにすると債務は2,000万円を超え、勤労者1人当たりだと3,000万円を超える。

このままでは日本が世界に誇る個人資産1,500兆円をもってしても、まかなえなくなるのだ。

借金を返す人口は年を追う毎に減少し、50年後には今の半分となっている。つまり、一人当たりの負担額は倍となり、実質的に返済は不可能となる。


ボツワナ並みの日本国債の格付け

これだけの債務を返済するにはデフォルト、増税、そして世界中からお金を借りるの3つしか手はない。

アメリカは世界中からカネを借りているが、GDP比では0.65程度で比較的健全で、しかも国債の金利は5%の高い金利をつけている。

日本はボツワナ並みの格付けだが、債務残高の対GDP比は次の表の様に先進国ではダントツに高い1.8だ。

ボツワナはダイヤモンドなどが採れるので、いざというときはダイヤモンドを掘って借金を返すことができるが、日本は資源がないので、高齢者も含めて人が働いて返すしかないのだ。

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当時の財務相の塩川正十郎氏(塩爺)が「国民の多くがエイズ患者である国と同格とは何事か!」と怒ったが、日本は次表のように少子高齢化の影響で、いびつな年齢構成となっており、若年層が多いボツワナより事態はずっと深刻なのだ。

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2007年12月27日の日経新聞がトップで報道していたが、内閣府が「国民経済計算」で日本のGDPと一人当たりGDPの国際比較を発表した。世界2位からの転落のスピードの早さが明らかなので追掲する。

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今やオーストラリアにも抜かれ、OECD30ヶ国の中で18位である。いかに円安と、低成長、低金利が日本の国際的地位を毀損したかよくわかるグラフだ。


円安は日本の長期衰退の象徴

円安を歓迎する日本人の思考は不可解であると大前さんは語る。

学者は何も言わず、財界は輸出型企業のトップが牛耳っており、マスコミもそれに乗るので、国民も円安のほうが良いのかという気になる。

ところが既に2005年度で資本収支の黒字が貿易黒字を上回っており、輸出に有利というモノの流れだけで経済を考え、円安を歓迎する意識は完全に時代遅れである。

円安は日本の長期衰退の象徴なのであると。

筆者もこれを読んで思ったが、対ドルだとあまり気がつかないが、世界のほかの通貨との実効レートで比較すると、ユーロやポンド、元、ウォン、オーストラリアドルなどに対して弱くなっているのである。実効為替レートからすると、なんと円高の始まりとされる1985年のプラザ合意時点での相場まで落ちているのである。

大前さんの本に載っているグラフにならって、自分で日銀の公開資料から次の円の実効為替レート推移表をつくってみて驚いた。

昔「エコノミックアニマル」と呼ばれ、必死に輸出で外貨を稼いで外貨準備を増やし、結果的に円の価値を国際的に上げてきたが、今は完全に逆コースだ。

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一人当たりGNPも一時は世界2位だったが、現在ではOECD30カ国中14位まで低落している。筆者も、いまだに世界第2位のような気持ちでいたが、円安の影響は厳しいものがある。

最近東京に外資系のホテルが何社も進出し、一泊最低6万円からという話を何か別世界の話の様に感じていたが、思えばヨーロッパの主要都市のホテルはちょっとしたホテルでも5ー6万円はざらという話だ。外国人が日本に旅行に来て、日本は安いと思うわけだ。

要は円が弱くなったので、ヨーロッパが異常に高く感じるのだ。

資源高により原材料費は上がっているので、円安は物価高とインフレを招き、国民にとって明らかにマイナスだ。また国際比較での国力も低下しているゆゆしき事態なのだ。


日本の個人資産の優位性は低下

日本人の金融資産の内容を見ると現金・預金が51%、保険・年金が26%で、併せて77%を占める。リスク資産の株式は12%のみだ。

これに対してアメリカは現金・預金は13%だけで、債権・投資信託・株式が52%。32%を占める保険・年金準備金は401kで投資されているので、資産の85%を投資・運用していることになる。

金融資産と非金融資産(不動産など)の合計もバブル時代の1990年に日本は2,700兆円で、アメリカの3,500兆円に次ぐ規模で、日米比は1:1.3だったのが、現在ではバブルがはじけて日本は2,500兆円に減少する一方、アメリカは8,000兆円に増え、1:3.2と大きな差がついている。

アメリカの投資資金は72%が退職後の資金となっており、投資信託も原則として5年や10年以上の長期保有で、預金金利の5%を超える運用益で回しているので、5,000兆円の資産は毎年数百兆円増えているのだ。

これでは日本と差が出るのも当たり前である。日本の一人当たりの家計金融資産額は、1,206万円で国際比較ではどんどん順位が落ち、一時は世界一だったのが、現在は四位で、運用利回りが高いオーストラリアに肉薄されている。

ここ10年間で、日本人の家計金融資産は21%しか増えていないが、フランスは87%、イギリスは79%、アメリカも77%、ドイツでも56%増えている。諸外国との差は拡大するばかりだ。

大前さんは、あまり役に立たない大学受験までは必死に勉強するにもかかわらず、社会人になってから収入アップにつながるような勉強をしないのか、そして運用によって資産を増やそうとしないのか、これも理解不可能な日本人の心理だと手厳しい。


日本人の心理を動かす7つの方法

大前さんは日本人の心理を動かす方法として、7つの提案をしている。

1.金利を上げる
2.相続、贈与等の関する税制を見直し、資産の若年層への移動を早めにする
3.住宅の建て替えを奨励する
4.アクティブ・シニアのためのコミュニティをつくる
5.いくらあれば生活できるのかライフプランを提示する
6.ベンチャー企業のエンジェルになる
7.資産運用を国技にする


政府系ファンドをつくり国民の資産を高率で運用する

前述の7つの提案のうち、最も重要なのは7.の資産運用を国技にするという提案だ。

最近シンガポール、ドバイ、中国などの政府系ファンドが注目を集めている。

本日(12月20日)の日経新聞にも、「国家マネー 世界に広がる影響力」というタイトルで、2006年からの政府系ファンドによる欧米金融機関などへの投資実績が掲載されている。1位、2位は後述のシンガポールのGIC、テマセクが占めており、GICはUBSに約100億ドル、テマセクはスタンダード・チャータード銀行に約80億ドル、バークレイズ銀行に約20億ドル投資している。

その他にも、アブダビ投資庁のシティグループへの約80億ドル、中国投資のモルガン・スタンレーへの約50億ドル、ブラックストーンへの約30億ドルの出資など、サブプライム問題でバランスシートが痛んでいる欧米の超優良投資銀行などの株に巨額の投資を実施している。

サブプライム問題は基本的には一過性の問題と見ているのだろう。機を見て敏な政府系ファンドの動きが注目されているが、ファンド本家のアメリカは後述のように、確定拠出型年金401k導入で、資産運用を国民みんなの関心事として国技にしており、世界中の企業を追いかけている。

日本も個人金融資産の1,500兆円の一部を使って、有名ファンドマネージャーを雇ったシグニチャーファンドをつくり、世界中の国に分散投資するのだと大前さんは提唱する。

10%から15%の運用実績があがるのであれば、ファンドマネージャーに1%の手数料を払っても惜しくない。

カナダのジェームズ・オショネシー、アメリカのロバート・ソロモン、インドのランジット・バンディットなど有名ファンドマネージャーがいるが、ワールドクラスの人を雇って運用実績ランキングを出すのだと。

日本でもやっと、議員や政府代表団がシンガポールのGICなどを視察し、政府系ファンドの研究が始まったようだが、中国、ロシアの国営ファンドは急速に拡大している。

中国は外貨準備の20%を投資に向けると発表しているが、150兆円の20%、30兆円あれば、オイルマネーの100兆円よりは少ないがサウジアラビア一国の運用規模に匹敵する。前述の通り、モルガン・スタンレーやブラックストーングループに巨額の出資をしている。

ただし国家ファンドは危険な面もある。圧倒的なファンドの資金力を利用して、一国の軍需産業とか、重要産業を実質コントロールするというような陰謀も可能だ。

だから政治的・国家的な意図を含む恐れがあるので、自分たちで運用すると絶対に失敗するから、世界のファンドマネージャーを集めて運用をゆだね、そして年金も401k型(個人が運用先を自由に選べる年金)にして、ファンドで組成するのだ。

こうした資産形成を通じて、日本人が本当に世界のことを理解するようになることを、大前さんは期待すると。

筆者も答えがわからないのだが、例えばなぜ南米のペルーの経済が伸びているのか、石油の出ないドバイがなぜ好調なのか、ロシアでなぜ三菱車が売れているのかなど、新聞には出ない情報を国民が調べようとするようになる。それが日本を変えるのだと。


注目されるシンガポールの国家投資ファンド

シンガポールは、20年以上前から第二次産業から第三次産業中心にモデルを転換し、空港や港湾に力を入れ、アジアの交易のセンターになっている。

規制を撤廃し、税率を下げて多国籍企業のアジア本社誘致に力を注ぎ、今や500社以上の世界的企業が、東京、香港を尻目にシンガポールにアジア本社を置いている。

さらに金融機関の誘致をして、今ではアジア一のファイナンシャルセンターとなり、ヨーロッパ系ファンドの多くがシンガポールに進出している。

国民年金GICリー・クアンユー元首相自身が、長らく理事長となって年金の運用を世界的に分散し、10兆円の規模で、ここ25年間の平均で9.9%という高い運用益を挙げているので、国民は安心して引退できるようになっている。

政府系企業の持ち株会社テマセクも中国系企業の株を売り、400%という高い投資リターンを得て、それを欧米に投資するなどフットワークが軽い。

シンガポールは東京23区程度の面積で、人口400万人だから、国民一人当たり年金資産は250万円となる。

大前さんは、かつてシンガポールの経済開発庁のアドバイザーを務めていた関係で、リー・クアンユーに聞いたことがあるが、彼の答えは明快だったという。

「中国が目覚めた今、どんなに産業政策に力を入れてもかなわない。しかし、シンガポールの人口であるなら、年金資金を世界中の有望企業、有望地域に投資すればそのリターンで国民を食わしていくことができる。産業政策は首相がやればいい。僕は、国民を食わせるために年金の投資を世界規模でやるのだ。」

一国の指導者とは、このような人のことを言うのだと、つくづく思ったものだと。


アメリカのレーガン革命

世界の投資ファンドの本家本元ともいえるアメリカではレーガン大統領の時に、どう計算しても政府の約束していた年金が払えないことがわかったから、401Kという自分で運用先を選べる確定拠出型年金を導入した。

そうすると運用益を向上させるためにみんなが一斉に勉強を始め、株式市場やファンドなどが大盛況となった。国民を突き放すことによって、むしろ国民は勉強し、今の金融大国アメリカが誕生した。

筆者は米国に二度駐在したが、二回目はちょうどインターネットバブルの時で、アメリカ人の同僚が、インターネット向け投資ファンドを401Kに組み込んでいたことに驚いた。普通の人が投資に非常に敏感で、実際に自分の年金資金を様々なファンドで運用しているのだ。

アメリカの401kでは自社株の組み込み比率が50%以上の場合もあり、GEとかナイキとか業績好調企業の従業員は、20年以上勤めてリタイアするとみんな1億円以上の億万長者になっているケースが続出した。

大前さんが社外取締役をやっていたナイキなどは、あまりに社員の年金が積み上がるので、一年間積み立てを免除したほどだという。

アメリカの空前の高級住宅ブームは、平均的なサラリーマンが年金の担保余力によって年俸からは想像できないような高額住居に手を出した結果だという。

やはり資産は持っているだけではダメで、運用してなんぼという気がする。


中台関係は霜降り化

中台関係のパラダイム変換の指摘も面白い。大前さんは台湾海峡有事は起こりえないと思っている。中国と台湾の経済はもはや完全にビルトインされて、いわば霜降り状態だからだと。

9万社もの台湾企業が中国で事業を展開し、2,000万人しかいない台湾人の200万人が中国大陸で働いている。しかも台湾企業のみならず、中国の国営企業でも重要なポストを占めている。

仮に台湾海峡有事が起こって台湾人が引き上げたら、中国のダメージのほうが大きいという状態なのだと。

今では中台関係がさらに変化している。

中国には100万都市が200もあり、それが台湾の5倍、6倍のスピードで発展を続けている。

中国ではもう台湾の力は借りなくても良いという「台湾ナッシング」に向かっているのが現状で、そうはさせじと台湾は中国の内部に入り込むという状態なのだ。

中国の輸出トップ10社を見ると、台湾企業のEMS3社が入っている。

日本が今意識しなければならないことは、アメリカが日本よりも中国重視にシフトし始めたことだと。アメリカと中国は、21世紀は米中の時代と思っており、すでに動きだしている。


新しい現実を生きていくためのライフプラン

最後に大前さんは、新しい現実を生きていくためのライフプランを提唱している。20代、30代は世界標準の人間になることだ。英語力だけでなく、真のコミュニケーション能力、多様な価値観を許容できる人間だ。

40代、50代は資産運用を必死に勉強すべしという。自分で5%から10%の運用利益を取れるようにする。ビジネスブレークスルー大学院大学の大前さんの株式・資産形成講座も紹介されている。

そして50代以降は引退後のアクティブシニアライフの準備を具体的に始めろという。移住先の研究、移住後の不動産を早めに買って賃貸に出し、ローンを支払って引退したときに移り住む。

幸福な人生の実現は心理に掛かっている。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


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あらすじは以上で、次は筆者の感想である。


何かいつもと違う舌鋒

この本を読んで、いつもと違う舌鋒を感じた。

大前さんは、小泉政権などは、「小泉破れ太鼓」と呼んで、郵政民営化などを時代遅れの政策として以前から批判してきたが、この本では国民をカモる日本政府、ポール・クルーグマンの代弁者竹中平蔵元財務大臣、輸出型企業が牛耳る経団連などとこき下ろしている。

竹中平蔵元財務相がポール・クルーグマンの言うことを代弁していたように、日本の経済学者は外国かぶれの学者ばかりだ」。

「自分で経済を分析すれば、日本と日本人がいかに特殊な行動を取る国(国民)かわかるはずだ。しかし、自説を展開することを恐れ、あるいはサボり、外国の学者の分析を「理論」「学説」と称して輸入、解釈するだけでは今の日本はわからない。」

「ゼロ金利など近代国家はどの国も経験していないし、ゼロ金利でもじっと定期金利や定額貯金に過半の財産を置いている集団はなく、世界中のどこの学者も観察したことがない。」

「自国の経済を外国の学者の説を用いて解釈し、学者同士が自分の師匠の説を正しいとして不毛な論陣を張るこの国のマクロ経済学者、それに乗っかった官僚、そして政治家たちはまったくアテにならないのだ。」と。

いつも通り日本の港湾政策、空港政策(普通に考えれば成田を捨て、羽田をピカピカに磨くしかないと)、道路政策、四島返還にこだわる北方領土政策を批判し、さらに「核やミサイル問題より拉致問題を優先する不思議な北朝鮮政策」と、次のように批判する。

拉致被害者には深く同情するが、だからといって「拉致問題が解決しなければ話し合いに応じない」という姿勢は、結果的に日本の安全を脅かすことになる。

今や中国やロシアが日本を攻撃してくる可能性はほとんどゼロなので、現実的な脅威は北朝鮮の暴発である。北朝鮮からしても、アメリや中国、ロシアと対決する武力はないし、韓国は大事な援助国だから、攻撃対象になるのは日本しかない。

日本こそ北朝鮮の核やミサイルの凍結が最重要課題なのだ。にもかかわらず日本だけが拉致問題で、6ヶ国協議にストップをかけているのは全く理屈に合わない話なのだと。

特に日本が他の国と違うのは、北朝鮮が暴発した時に防ぐ手段がないことだ。現行憲法では自衛隊はやられた後でなければやり返せない。

現状では黙って核ミサイルでやられるのを待つしかないのだ。しかも6ヶ国協議ではすでにつくった原爆とミサイルは対象になっていない(と思われる)。

まずは核とミサイルの問題を解決する。拉致問題については、北朝鮮が「解決済み」というなら、どう解決ずみなのか、残りの人はどうなったのかと、国民が納得できる回答を求めるべきであろうと。

しかし大前さんがこの話をすれば、新聞記者は拉致問題はどうなっても良いのかと、大前バッシングが起こるだろうことは間違いないと結んでいる。


いつも通りの統計をふんだんに使った政策提言的な内容に加え、かなり突っ込んだ政治的な提言をしているので、大前さんもまた何らかの形で政治に挑戦するのかなと、筆者は自分で勘ぐってしまった。

政策提言も豊富で、面白く示唆に富む内容だ。是非一読、そしてアクションを取ることをおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。





ビジネス力の磨き方 大前研一が説く21世紀に必要な5つのスキル

+++今回のあらすじは長いです+++

ビジネス力の磨き方 (PHPビジネス新書 27)


大前研一氏が説く21世紀の日本のビジネスマンに必要なスキル。

大前さんは「サラリーマンサバイバル」とか、このブログでも紹介している「ザ・プロフェッショナル」、最近では「即戦力の磨き方」など、日本のビジネスマンの能力アップのために多くの著書を出しており、これもその一つだ。

サラリーマン・サバイバル (小学館文庫)


ザ・プロフェッショナル


即戦力の磨き方 (PHPビジネス新書)


大前研一氏は、筆者の好きな著者の一人なので、このブログでも「大前研一」のカテゴリーで15冊以上紹介している。

この本は2007年3月に出版された本で、21世紀に必要となるビジネススキルについて雑誌"THE 21"読者から寄せられた質問に対する解答をまとめたものだ。


5つのビジネス力

この本で大前さんが21世紀のビジネススキルとして身につけるべき力として挙げているのは次の5つだ。

1.先見力
2.突破力
3.影響力
4.仕事力
5.人間力

前記の3冊などを含め様々な本で21世紀に必須のスキルとして、語学(英語)力、論理思考、コミュニケーション、IT力などについて取り上げてきているので、この本では今まであまり取り上げてこなかったスキルについて説明している。


1.先見力を磨け

大前さんは1995年に文藝春秋に「不動産はまだ下がる」と記事を書いたが、事実不動産は下がり続け、2002年にはバブル前の水準まで下がってしまった。

ホリエモンや村上ファンドが坂本龍馬と同じ運命をたどったことなど、その他にも大前氏の予測通りになったことがいくつもあるという。

これは大前氏に先を読む特殊な力が備わっているわけではなく、先見力とは訓練すれば誰でも身につけられるスキルだからだと。

大前氏の先見力は、現在起こっている事柄をこまめに調べて、そこから変化の兆しを見つけ、その兆しが今後どのようなトレンドになるかをしつこく考えた結果なのだ。

そこで重要なのがFAW(Force at Work)である。これはマッキンゼーの創始者の一人のマービン・バウアーの考え出した概念であり、「そこで働いている力」とでもいうもので、ある傾向を伴った事象があれば、そこには必ずその事象を発生させるだけの力(FAW)が働いているはずだから、それを分析し発見するのだという。

FAWがわかったら早送り(FF)して5年後、10年後の変化が見えてくる。

つまり先見力とは、(1)観察、(2)兆しの発見、(3)FAW、そして(4)FFが正しくできる能力なのだと。

このFAWを使って、都心の地価、熱海/軽井沢の地価、高齢化先進国のアメリカ/ヨーロッパ、ソニーの将来などのケースを説明しており、興味深い。

ソニーや日立など日本の総合電器メーカーとGEとの差は、経営力の差であると。

日本の場合、日立にしてもソニーにしても、社長になるのはその時一番儲かっている事業部のトップである。大前さんにいわせれば、中小企業で功成り名を遂げた社長をいきなり大企業の社長に任命してしまうのとなんら変わりないから、うまくいくはずがないのだと手厳しい。

安倍前首相の「美しい国日本」の取り組みも的を得ていない。大前さんは21世紀に活躍できる「考える力」を育成するために、高校教育にも乗り出している。船橋学園東葉高校という広域通信制の高校がそれで、2007年に開校している。


第2章 突破力を磨け

目の前の壁がどんなに手強そうにみえても、絶対に自分から弱音を吐かないのが突破力の基本である。突破する勇気を養うには、先達の偉業にふれ、それから勇気を貰うのが良い。

ケネディのアポロ計画が良い例だ。到底できそうになかった月への宇宙旅行を期限を切って実現してしまった。

壁を突破した本人に会うことを大前さんは勧めている。エベレストの最高年齢登山にいどむスキーの三浦雄一郎氏、60歳から絵を始めた加山雄三氏などを例に挙げている。

大前さんが20年以上言い続けている道州制をやっと政府も検討し始めたが、全国知事会や地元マスコミなど既得権を持つ抵抗勢力が強い。道州制になったら大半の知事は失業し、県庁所在地にある地元マスコミも淘汰されるからだ。

また北方領土については、四島一括返還は日本の悲願といいながら、実現すると防衛線を千島にあげる費用がかかり、実際に四島に住みたい人はほとんどいないというのが現実で、メリットはほとんどない。

だからこだわりを捨てて、ロシアの二島返還を受け入れ、後は継続協議として、日ロ平和条約を締結し、千島列島だけといわず極東ロシア全体の開発を日ロ共同でやることを提案している。

さらに経済面だけでなく、防衛面でも助け合える関係作りをしておけば、北朝鮮の脅威は低減し、有事の場合にはロシア兵を日当一万円くらいで傭兵として自衛隊に組み入れれば良いと大前さんは提案する。

どの首相でも四島一括返還という思いこみを突破できたら、歴史に残る名宰相として名を残すことになろうと。

今後の日米関係、中国やインドの巨大化、日本の経済進出の余地などを考えると、たしかにロシアと早急に平和条約を締結して、シベリア開発に日ロで取り組むことは、日本の国家戦略として大変意義があると筆者も思う。

今や売れっ子の佐藤優氏が外務省に在任していた時に、橋本首相、小渕首相を動かして日ロ平和条約を実現しようとしていたことは、「北方領土特命交渉」に詳しい。

北方領土特命交渉 (講談社+アルファ文庫 G 158-2)


日本も米国ばかり見ずに、世界を見回して日本の10年20年後を考えるべきだろうと筆者も思う。


第三章 影響力を磨け

自分の影響の及ぶ範囲が広ければ広いほど、その人の価値は高い。

小澤征爾氏、安藤忠雄氏、イチロー、松井など芸術やスポーツの世界では、世界に名を知られている日本人はいるが、ビジネスマンで世界に影響を与えられる一流の日本人はほとんどいない。

日本のビジネスマンの頭の中が、20世紀の加工貿易のままだからだと大前氏は語る。

加工貿易の頃は、教えられた答えを丸暗記し、マニュアルをつつがなく遂行できることがなにより重要な能力だった。今そういう人たちが集まった企業は危機に瀕している。

今必要なのは答えを自分で出すことができる人だ。

マレーシアのマハティール前首相のアドバイザー、中国遼寧省、天津市の経済顧問、ナイキ等のボードメンバー、いろいろな大学のアドバイザリーボードメンバー等々、大前さんは、自分では口幅ったいいい方だが、世界的に影響力がある日本人ナンバーワンだと思うと語る。

この本では大前さんがいかにして世界に影響を与える人間になったのかが述べられている。

マッキンゼーでの仕事の実績もあるが、著書の影響が大きい。

「企業参謀」、ボーダレス・ワールド (新潮文庫)、「新・資本論」など大前さんの本は、世界で何冊もベストセラーになっているという。

企業参謀 (講談社文庫)


大前研一「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む


またウォールストリートジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ハーバード・ビジネスレビューなどに継続的に記事や論文を発表してきたことも知名度アップに役立った。

しかし物を言うのは知名度ではなく、書いた内容だと大前さんは語る。

要するに、そこにある問題を発見し、解決策を発見できる人間であれば、人種や国籍に関係なく、世界中どこに行っても影響力を発揮できるのだと。

「影響力を強めるには型を持て」と大前さんは語る。

大前さんの場合、「ボーダレス経済と地域国家論」が型であると。

大前さんがジャック・ウェルチに中国は6つの地域国家の集合体だと言うと、さっそく6つの地域にわけてGEの戦略を議論したという。

影響力をつけるために、権威にすりよるのでは意味がない。影響力をつけるためには、まずは思考の型を身につけろと大前さんは説く。

大前さん自身もマッキンゼーでピラミッドストラクチャーや、MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhausive、それぞれ重複なく、かつ全体として網羅されていること)というロジカルシンキングの手法を自分の型になるまで徹底的に仕込まれたという。

これがあるから大前さんはどんな事象でも論理的に分析することができるのだと。

このマッキンゼー式のロジカルシンキングについては、大前さんと同じくマッキンゼー出身の勝間和代さんも紹介している。マッキンゼーの新入社員は徹底的に仕込まれるのだそうだ。ちなみに勝間和代さんが推薦するロジカルシンキングの本は次の本だ。

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)


型を自分のものにするには、ケーススタディを無限回繰り返すのが効果的だ。

自分が○○だったらというケーススタディを続ければ、頭は大いに開発される。BBT大学院大学では、「あなたがリチャード・ワゴナーだったら、どうGMを立て直すか」といった課題が毎週出るという。

二年間で100本の課題をこなすことが卒業の条件で、2007年3月に第一期の卒業生が誕生した。

友人とディスカッションすることもMECEを鍛える上で有効だ。

ケーススタディも友人とのディスカッションも時間が掛かるので、自分の時間の使い方を考えよと大前さんは語る。

日本のビジネスマンは、テレビや新聞、雑誌、インターネットに費やす時間の比重が大きすぎるから、それを最小限に減らせば良いと。

ケーススタディとして世界で最も影響力がある国はアメリカかどうか分析している。結論として斜陽の大国にすがるよりも、フィンランドとかデンマークの様に教育によって世界に通じる人材を生み出していく方が、よっぽど世界に影響力のある国家になれる。

フィンランドとデンマークでは学校に「教える」という概念はない。生徒に考えさせ、先生は考えを引き出すファシリテーターだ。また先生だけでなく、国中のおとなが教育に積極的に参加している。

たとえば野菜の生産、流通、価格決定、職業につき町の八百屋さんが学校にやってきて説明してくれるのだと。

大国のエゴより、小国の知恵。これが21世紀の国際関係を解く鍵なのであると大前氏は提唱する。


第四章 仕事力を磨け

仕事をスピードアップするポイントはダンドリにある。この本では大前さんのダンドリ術が披露されている。仕事をスピードアップする理由は、自分の思考トレーニングに充てるための空き時間をつくるためだ。

「あれ、どこにあったっけ?」が時間を食うので、大前さんは資料はとりあえずパソコンに取り込み、Google Desktopで検索。さらにGMailですべて自分宛に送っておく。メールの強力なメッセージ検索機能が使えるので、二重にリトリーブできるようにしておけば、より確実に目的の情報を見つけられるから安心であると。

大前さんのいう「21世紀の情報収集法」ではテレビCMがなくなるという。YouTubeと、ハードディスクレコーダーやTiVoが普及するからだ。

大前さんは朝の貴重な時間をNHKのニュースと日経新聞に費やす前世紀の習慣は、いまではほとんど時間の浪費にすぎないから、即刻辞めるべきだという。

新聞に書かれていることは、記者が集め、記者のフィルターを通したごく限られた情報だけで、しかも新聞社の都合で記事を構成している。読んでいる人は永遠に記者のレベルを超えられない。テレビも同様だと。

たしかに日本のメディアだけでは世界の情報が集まらない。筆者は25年あまり"Time"を読んでいたが、日本のビジネス誌や新聞と情報の質・量面での大きな差を感じていたものだ。(アメリカで契約したら"Time"は5年契約すると一冊50セント以下だった。もちろん日本に戻っても同じ契約が継続され、シンガポールからアジア版を送っていた)

大前さんは10年前に新聞の購読をやめ、ネットで新聞を読み、RSSリーダーで必要な情報を自動的に集めているのだと。

毎朝RSSリーダーが集めた500の記事に15分で目を通し、重要と思われるものはパソコンに保存し、スタッフに送付していると。週末の大前さんの番組で情報を分析したり、組み合わせて次の展開を予想する。これが大前さんのニュースの読み方だと。

筆者は日経新聞を毎朝KIOSKで買っていたが、ここ数週間この長年の習慣をやめて、RSSと日経ネットに切り替えている。家では朝日新聞を取っているし、新聞を完全にやめたわけではないが、最近日経本紙は、あまり読むところがないという気がしてならなかったので、購読を止めてみた。

大前さんの本を読んで日経をやめたわけではないが、奇しくも大前さんに背中を押されたような形となった。

当面RSSとネットの情報収集で、日経新聞以上の情報を効率的に集められるかどうかやってみようと思う。


第五章 人間力を磨け

仕事も人生も下地がなければ楽しめない。若い頃から意識して教養や、スポーツで体を鍛えたり、趣味をつくったりして下地をつくるのだ。

大前さんはオフの予定から先に入れ、残業より家族との会話を優先せよと語る。

始業ぎりぎりに会社に飛び込み、朝は二日酔い、夜は残業の後、職場の同僚と一杯というような20世紀の生活習慣は改善しなければならないと。

朝型にするのだ。大前さんは4時に起きて、5時からパソコンのチェック、RSSリーダーでニュースのチェック。メール処理で一仕事終えて家族と朝食を摂り、9時からオフィスに出社するのだという。

最後に大前さんは、優秀なリーダーがいることが国にとっても重要なことを強調する。

ノキアのヨルマ・オリラというたった一人のリーダーがノキアを復活させ、フィンランドを復活させた。オリラの前任者は倒産の瀬戸際に立たされ、自殺している。そんな企業を携帯電話に集中する戦略で数年で世界一とし、フィンランドに希望をもたらした。

GEのジャック・ウェルチも同様だ。21世紀の世界競争に勝つための指標は、ジャック・ウェルチを何人つくれるかだと大前氏は語る。

マッキンゼー、GE、この二社は誰もがほしがる人材の輩出企業だが、社内の選別も厳しい。

マッキンゼーをアメリカの会社だと思っている人間は社内にはいないという。社員の半分はハーバードビジネススクール(HBS)出身だが、一時は役員会のメンバーには二人しかHBS出身者はいなかった。

日本を21世紀に通用する国家にするためには、甘っちょろい格差論議をやめることだと大前さんはいう。

ハングリーな人間にこそチャンスがある。たとえば農業のプロフェッショナルになれと呼びかけている。


いつもながら具体例が満載で、刺激を受ける。是非手に取ってみて欲しい本である。


参考になれば、投票をクリックして頂きたい。

東欧チャンス 大前研一が今度は東欧を推薦! 

東欧チャンス


大前研一の最新作。

『チャイナ・インパクト』で中国は地域国家の集合体として考えるべきとか、中国お客様論、大連での日本語コールセンターとか中国における様々なビジネスアイデアを紹介した大前研一が、今度は東欧を紹介する。

日本ではなじみの薄い地域だが、筆者は仕事の関係で旧ユーゴスラビア(行ったことがあるのは現在のクロアチア、マケドニア)、アルバニア、スロバキア、ロシアを何回か訪問したことがあるので、親しみがある。

それぞれ特色ある国だが、約10年前にスロバキアに初めて出張して、3人で鹿肉料理をメインディッシュに夕食をとり、ワインも飲んで全部で30ドルだったのには驚いた。思わず一人分の料金かとおもったくらい物価が安い。

ポーランド国境のオラバ地方の工場を訪問したのだが、ロシアは公害だらけなのに、スロバキアでは環境対策はしっかりしていた。生活レベルもロシアの田舎より数段上と感じた。

ホテルでは英語はダメだが、ドイツ語はできるとか、ドルはダメだがドイツマルクはOKとか、ドイツの経済圏であるということを痛感した旅だった。


まずは中国の現状分析

中国の反日デモは学生運動のようなもので心配ないが、問題は小泉首相である。中国と仲の良い田中角栄に始まる橋本派を、抵抗勢力と目の敵にして、つぶしていった。また解決困難な領土問題などは、棚上げという手もあるのに白黒つけようとする態度が摩擦を引き起こしている。

中国は将来米国、EUと対抗できる3強となるだろう。日本は中国・韓国と一つの経済圏としてまとまって、米国、EUとわたりあっていくことを考える必要があるとして、故・天谷直弘氏(通産審議官)の『町人国家論』も紹介している。

しかしそうはいっても中国一辺倒で良いのかという見方もあり、本書では昨年5月にEUに加盟したポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、エストニア、ラトビアなどの東欧諸国でのビジネスチャンスを説く。


東欧のビジネスメリット

EUなので関税がゼロなこと。安い労働力があること。工場労働者では中国にかなわないが、ホワイトカラー、技術者は能力が高く、定着率も良く、賃金も割安である。

語学力が高く、ドイツ語、あるいは英語の会話が可能な人材が国民の2〜3割いるので、ドイツ語圏等のバックオフィス業務を移転するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が盛んである。

さらに国民のほとんどがロシア語ができるので、将来のロシアとの取引の拡大の可能性がある。

人、モノ、サービス、資本の移動の自由が適用されるので、通関が不要で、東欧からポルトガルあるいはイギリスまで国境検問なしでほぼ1日で輸送ができることは大変なメリットである。

25カ国となった拡張EUは人口4億5千万人、GDP合計は米国を上回る12兆ドル。(日本は4.6兆ドル)生活水準、教育水準、購買力も高く、魅力ある市場である。

東欧諸国のウィークポイントは人口が少ないこと。チェコやハンガリーは1、000万人、最大のポーランドでも3,800万人。ポーランドは失業率が20%と高く、まだまだ労働力の供給余力はあるが、それでも東欧からさらに安い労働力を求めてルーマニア、ブルガリア、さらにウクライナなどに移る流れがある。

たとえば労働集約的な自動車用ワイヤーハーネス(電気配線)を製造する矢崎総業は時系列的にスロバキア→チェコ→リトアニア→ルーマニア→ウクライナと次々に工場を建設している。

頭脳集約的な業務はホワイトカラーの質が高い東欧に。安い労働力が必要な製造業はさらに南東欧かCISなどの周辺国を利用するか、半製品を中国から輸入して、付加価値をつけてEUに無税で輸出する。このような戦略を取れるのが東欧の大きな魅力である。

Building Wealth: The New Rules for Individuals, Companies, and Nations in a Knowledge-Based Economy


レスター・サローの"Building Wealth"を思い出す。宇宙から見た場合、地球上で文化が発達し、裕福で教育水準が高い人が多く住んでいる最も魅力的な場所。それがEUだ。


バルト3国

まずはバルト3国から。筆者は今まで50程度の国を訪問したことがあるが、同じように見える3国が、これだけ違うとは知らなかった。

エストニアはフィンランド、ラトビアはスウェーデン、リトアニアはデンマークとのつながりが深い。それぞれ人種も歴史も異なるのだ。


チェコ

チェコは伝統的に機械産業、特に自動車に強い。

余談となるが筆者の友人の祖父が戦前三菱商事(?)に勤めており、チェコから機関銃を輸入した時、いくつかの機関銃の部品をバラバラにして混ぜ、再度組み立てるとすべてぴったり合ったと。

当時の日本の機関銃は部品の精度が悪く、他の銃の部品とまぜるとちゃんと合わない銃が続出したそうで、やすりで削ってなんとか一丁の銃にしていた由。チェコの機械産業のレベルに驚いたという話だった。

チェコの自動車メーカーシュコダは1839年創業。兵器製造を手がけ、戦前は戦車も作っていた。2000年にフォルクスワーゲンの100%子会社となったが、国内向けブランドは依然シュコダを使っている。シュコダとはギター侍ではないが『残念』という意味だそうだ。

東欧でのBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の代表例が会計・コンサルグループのアクセンチュアのバックオフィスだ。東欧人は言語能力に優れ、教育レベルが高いので、EU向けのBPOには最適なのだ。

全世界で間接部門の人間を1万5千人かかえ、プラハには900人いるが、これを2,500人まで増やす予定だ

チェコへの外国投資では日本はドイツについで2番目である。

日本からの投資促進に大きな貢献をしているのが、チェコインベストという投資誘致機関である。日本には横浜にオフィスがある。チェコインベストはワンストップサービスを提供でき、すべての政府の手続きの窓口になったり、地元企業を紹介してくれる。

チェコにはボヘミアングラスとか観光資源とか優秀な工業力の他にも外貨を獲得できる手段に恵まれている。筆者はスロバキアには数回行ったが、チェコにはまだ行ったことがない。是非観光で行きたいものだ。

松下電器はイギリスがユーロに加盟しないため、為替の乱高下が経営を圧迫したので、ウェールズのカーディフにあったテレビ工場を、チェコに移し成功している。チェコの輸出大手10社には松下が入っているほどだ。

日本からは1991年に進出した旭硝子を皮切りに、松下電器、三菱電機、京セラ、シマノなど141社が進出。

トヨタもPSA(プジョー・シトロエン)と合弁で30万台規模の工場を建設し、2005年から生産を開始する。

これを機にデンソー、アイシン精機、豊田工機なども進出した。

トヨタのヨーロッパ進出は1964年のポルトガル工場の後は長年動きがなく、ヨーロッパでは他社の後塵を拝していたが、1992年の英国、1994年のトルコ、続いてフランス、ポーランド、チェコと矢継ぎ早に工場を建設しており、2007年のロシア工場でとりあえず完結する。

日本企業にとってもチェコは活動しやすい国の様である。


スロバキア

チェコが工業国であるのに対して、スロバキアは農業国であるが、製鉄所や軍需産業もある。US Steelが買収したコジッチェ製鉄所は見事立ち直り、米国からの民間ベースの経済支援の好例とジャック・ウェルチが近著『ウィニング』の中でほめている。

このコジッチェ製鉄所は筆者の新日鐵の友人がドイツ駐在時代に訪問し、鋼板の平坦度に驚いたという話をしていた事を思い出す。薄い鉄板を全く波打たないように圧延するのは難しいのだ。以前から技術は非常に高いものを持っていた。

スロバキアにはフォルクスワーゲンが進出し、30万台のポロ、ゴルフを組み立てている。プジョー、起亜産業も進出し工場を建設中だ。

日本企業では矢崎総業、ソニー、松下電器、住友電装など19社が進出している。


ハンガリー

ハンガリーは今までに13名のノーベル賞受賞者を出しており、人口が1,000万人しかいないことを考えると人口比世界一だ。理数系教育レベルの高さは定評があり、大学・研究機関も充実している。外国投資のNo. 1はアメリカで、GE、アルコア、IBM等が進出している。

ハンガリー出身の有名人というと、インテルのアンディ・グローブ、投資家のジョージ・ソロスなどがいる。

ハンガリーはエレクトロニクス工業が発達していることから、テレビでサムスン、TCL、海信など、携帯電話のノキアが進出している。

EMS(受託生産)では元国営企業のVIDEOTONが部品から外枠まで製品を一貫生産しており、製造業ではダントツの大手だ。

この本ではGRAFISOFTというCAD(コンピューターを使ってのデザイン)ソフトの会社を紹介している。創業者でCEOのガレロ氏は東京工業大学に留学した経歴の持ち主。他にも日本語が話せるスタッフが多い。製品のアーキCADは日本で9万4千円で売っているが、もっと高く売るべきだと大前氏はすすめる。

ハンガリーにはチェコに次ぐ87社の日本企業が進出しており、筆頭が1991年に進出したマジャール・スズキ、他にソニー、三洋電機、TDKなどがある。

マジャール・スズキはスロバキア国境に近いロケーションで、年産9万台の車を生産している。

主力のスイフトはハンガリーでは1万1千ユーロ(160万円前後)で普通のハンガリー人でも十分手の届く価格だ。従業員の2割は賃金の安いスロバキア人だ。

三洋電機はノキアの携帯電話向けのバッテリーを生産するためにリチウムイオン電池などを生産している。

ちなみにハンガリー人とルーマニア人は仲が良くないということはこの本で初めて知った。行ってみなければわからないものだ。


ポーランド

ポーランドは鉱工業が中心だったが、造船などの古い産業は北、自動車やエレクトロニクスなどはチェコ国境に近い南部と分かれている。フォルクスワーゲン、フィアット、トヨタ、オペル、大宇が進出している。

フィアット本体は赤字でリストラ中だが、ポーランドのフィアットは好調だ。デルファイ、バレオ、マネットマレリなどの自動車関連メーカーの誘致にも成功している

伝統的にフランス、移民の関係からアメリカと親密であり、外国からの投資もフランス、オランダ、アメリカという順番となっている。

隣国ドイツは4番目にとどまっている。

ポーランドには74社、トヨタ、いすゞ、ブリジストン、デンソー、住友電工、日本精工などの日本企業が進出している。

トヨタはロシアのプーチン大統領の出身地サンクトペテルブルグにも年産5万台規模の工場を建設しており、東欧の部品が多く使われる事になるだろう。

大前氏のおすすめは加工食品業だ。

ポーランドの豚肉は競争力が高く、加工食品はすでに輸出品の2位になっており、ポーリッシュハム・ソーセージなどが有名だ。

アメリカのスミスフィールド社が買収したANIMEX社と住友商事が代理店契約を交わし、鶏肉などを日本に輸入している。ANIMEX社はアメリカでも人気のある高級ハムブランドの『クラカス・ハム』のメーカーだ。

ANIMEX社はダウンと馬肉も日本に輸出しており、日本の羽毛の多くはポーランドのダウンが使われており、輸入馬刺の6割はポーランド産だ。


ブルガリア・ルーマニア

ブルガリアはヨーグルトで有名だが、ダノン、ネッスルなどの国際食品企業が進出してきている。

ブルガリア出身の琴欧州が大関を狙って頑張っているが、筆者の先輩の福井宏一郎氏が今年銀行出身者として約50年ぶりに大使になったことでも有名である。

南東欧ではNATOには加盟したブルガリアとルーマニアが労働力も安く、農業も盛んで工業力もあり注目株だ。2007年1月には両国ともEUに加盟する予定だ。

ルーマニアには自動車関連の矢崎総業、住友電工・住友電装、光洋精工などが進出している。

一人あたりGDPで見るとチェコ、ハンガリーが1万ドルでギリシャ、ポルトガルと同水準。スロバキアが7千ドル、ポーランドが6千ドルとメキシコと同水準である。ルーマニア、ブルガリアは4千から3千ドルで、アルゼンチン、ブラジルなどと同水準である。


以上東欧を各国ごとに見てみたが、矢崎総業、住友電工のワイヤーハーネスメーカー2社の進出がめざましいことを初めて知った。パイオニア精神を持った企業だと思う。

たしかに東欧はEUの玄関口としてチャンスだと思う。


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サラリーマン再起動マニュアル 自分を差別化する「再起動」

サラリーマン「再起動」マニュアルサラリーマン「再起動」マニュアル
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2008-09-29
おすすめ度:3.5
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大前研一氏の自分を差別化する「再起動」のすすめ。

週刊ポストでの連載コラムを集めたものだが、次の目次のテーマに編集されており、ばらばらのコラムを集めたという印象はない。

イントロダクション 志のあるサラリーマンは、きつい仕事を厭わない

第1章 {現状認識}なぜ今「再起動」が必要か?

第2章 {基礎編} 「再起動」のための準備運動

第3章 {実践編} 「中年総合力」をつける

第4章{事業分析編}”新大陸エクセレントカンパニー”の条件

第5章 {メディア編} 「ウェブ2.0」時代のシー・チェンジ

エピローグ     新大陸の”メシの種”はここにある


最初に2008年春の日本電産永守社長の「休みたいならやめればいい」という物議をかもした発言が紹介されている。

「日本電産では創業から35年一度も人員整理はない」と雇用の維持が優先される考えを示した上で、「うちはまだ三,四合目。ワークライフバランスでゆっくりしたい人は他の会社へ行ったらいい」という発言だ。

「連合」などがこの発言に噛み付いたというが、大前さんはなぜこの発言が非難されるのかさっぱりわからないと語る。

永守さんの「人を動かす人になれ!」は、このブログでも紹介しているが、サラリーマン経営者にはないバイタリティある経営者だ。大前さんも講演をしばしばお願いしており、アンケートを取ると常に「もう一度話を聞きたい経営者」の上位にいるという。

永守さんは多くの会社を買収して、経営再建を実現しているが、永守流経営を導入することで最初はどこの会社も仕事は厳しくなるが、結果的に利益が上がり、それを社員に還元して給料を上げることで社員みんなから感謝されているという。

しかし仕事がきついところが、連合とかマスコミの非難を浴びている。

これが現代の風潮である。

今の日本の社会の中核である日本の30代ー40代の人口は男女あわせて3,500万人くらいいる。しかし大前さんはトラクション(駆動力)を感じないと語る。現状に危機感を抱いて戦闘意欲を持っている人は、15万人程度ではないかと。

「トラクション」という言葉を使う人は初めてだが、まさに適切な言葉だと思う。

バブル崩壊後日本はぬるま湯につかっていたせいで政府・企業・個人もたるんでおり、「フリーズ」状態だ。だから志あるサラリーマンにはチャンスであり、「再起動」してグローバルに通用する人材になれば世界中の企業で活躍できるのだと。

21世紀は見えない新大陸、バーチャルな世界での新しい経済が出現した。企業も個人もこの新大陸で生き残れなければ明日はない。そのための戦闘準備として、大前さんは様々な提案をしている。

特に印象に残ったものをいくつか紹介しておく。


できる人の共通点は「ハングリーでリスクテイカー」

マッキンゼー風採用は、面接官全員「○」でも不採用で、誰か一人でも「◎」(絶対に採用すべし)をつけていれば、他が全員「×」でも採用になるという。

大前さん自身が受けた採用面接でも一人だけ「◎」で、他は「×」や判定不能だったという。

大前さん自身が「◎」をつけて採用した人はディー・エヌ・エー南場智子社長など、マッキンゼーを卒業して成功している人が多い。

このブログでも紹介しているIBMのルイス・ガースナー元会長もそうだが、彼らはみなハングリーでリスクテイカーだという。

彼らは安住の地を見つけることよりも、死ぬまで自分の可能性をためすタイプであり、たとえ失敗しても「面白かった」といえる人生を求めている。

こういったタイプの人に安藤忠雄さん、デルのマイケル・デル会長などがいる。

これからの日本企業に必要な人は、構想力があり、将来の絵をはっきり描いて実行できる人である。事業構想が必要なのは5年後のライフスタイル像を考えて仕事をするためだ。

大前さんはブルーレイディスクには5年後の姿は見えないと語る。シネコンは生き残るが、家庭ではホームサーバーが5年後は主流となるだろうと。

構想力の話をするときに、大前さんはウォルトディズニーがフロリダのEPCOTセンター構想を説明するビデオを見せるという。そのビデオがYouTubeで見られるので、紹介しておく。

24分強と長いが、ウォルト・ディズニーが楽しそうに構想を説明している。

筆者が子どもの頃は、ウォルト・ディズニーは存命で、毎週金曜8時のディズニーアワーの初めと終わりにウォルト・ディズニー自身が登場して、ストーリーを紹介していたことを思い出す。




「再起動」のための準備運動

「再起動」のためには、新大陸で生き残る3つのスキルのFT(財務力),IT,LT(語学力)をつける必要がある。

時間のリストラをして「再起動」のための時間をつくり、30−40代が弱い英語力をTOEIC860点以上にするためのアイデアを紹介している。

海外旅行は「脳の筋トレ」なので、インターネットで事前調査を十分行ってから訪問することをすすめている。ただし先入観を持たずに現地を見ることが重要で、これにより見えなかったものも見えてくるのだ。

住居費、教育費、マイカーの三種のコストを削減する方法も提案している。


マッキンゼーの人材育成グリッド

マッキンゼーでは人材育成用に、横軸に勤続年数、縦軸に要求されるスキルを書いて年毎に育成していく人材育成グリッドを書いて管理するという。

たとえば縦軸にはコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、交渉力、チームをマネージする能力、部下を育てる能力などだ。

そして入社時に5年後にも在籍する可能性は20%であることを告げられるという。毎年20%の人員がカットされるのだ。


「中年総合力」をつける

この本の中心テーマである「再起動」のために、大前さんは「中年総合力」をつけろと提案する。

「インプット力」ではGoogleの時価総額が17兆円になったことを紹介し、インプット力の重要性を語る。

大前さんの3つのインプット術は1.ネットに掲載されている新聞記事のRSSによる収集、2.BBT大学院大学のクラスディスカッションなどを通じての様々な人からのインプット、3.自分の足で歩き回るインプット、MBWA(=Management By Walking Around)である。

できる人になるためには、アンテナを全方位に張っておいて、頭の中にワインセラーのような情報の整理だなを構築するのだ。これが出来る人は、「おぬし、やるのう」という感じだと。

頭の中のワインセラーとは面白い表現で、言いえて妙である。

「中年総合力」とはゼネラリスト能力であり、大前さんはT型人間、あるいはΠ(パイ)型人間となれと語る。つまり一本あるいは二本深い専門分野と、広いゼネラリストとしての知識の総合力だ。

世の中の森羅万象に興味を持って常に勉強する努力が重要だ。

そして自分の前後15歳の年代を研究する。プラス15歳はなりたくないモデル、マイナス15歳は新大陸時代の若者とつきあい、いかに戦力化していくかを考えるためだ。


発想力向上には右脳を刺激せよ

大前さんはいつも進行方向に向かって左側の窓際の席に座って、窓の外の光が左目に入って右脳を刺激して、良いアイデアが浮かぶのだと。

今までこんなことを意識したことがなかったが、これからは左目で見ることを意識してやってみようと思う。


新大陸エクセレントカンパニー

新大陸エクセレントカンパニーとして、多くの会社の例が紹介されている。

IBMのパソコン事業のレノボへの売却は象徴的だという。

コモディティ化したビジネスにはうまみはない。既存のものを"do more better"(改善)するのでなく、現状を否定してブレークスルーを見つける能力が求められているのだと。

1.デル 
  デルを訪問して大前さんは驚いたという。会社のためにシステムがあるのではなく、システムの上に会社がある。それらはCRMSCMERPだ。カスタマーサービスオペレーターが苦情受付のみならず、注文受付そして発注まで行うすべての贅肉をそぎ落としたシステムである。

2.シスコ
  シスコ製品の故障は7−8割がソフトウェアなので、オンラインで自動診断して、ネット経由で修理してしまうシステムをつくっている。これによりサービス要員は最小限に抑えられている。

他も贅肉をそぎ落としており、14,000人の従業員に対し、総務部は数人で、経費精算などもアメックスにアウトソーシングしているという。

3.スペインのZARAブランドのインディテックス
  本社の隣の工場と倉庫で、世界2,000店向けに注文を受け付けたら48時間以内に出荷する体制をとっているので、店の在庫は持たなくて良い。

新製品は2週間で店まで届けるので、その時点で流行しそうな商品、流行している商品をつくればよいので、流行を予測する必要がないという。

  アパレル界のデルと大前さんは呼ぶ。これに比べれば中国での大量生産が主体のユニクロはまだWeb 1.0企業だと。

4.中堅スーパーのヤオコー、イズミ、ヨークベニマルなど
  経営者の現場感覚がすぐれており、消費者の金の使い道をするどくキャッチし、それに応じて地域別、店舗別に商品をクリエートする「生活提案力」をつけ、高収益を達成している。

  世界の流通業では、ウォルマートとカルフールが電子調達に熱心で、世界各地から直接仕入れている。

電子調達を駆使すれば製品の仕入れコストは半額以下になることもあるが、見えない相手から買うことは信用情報やパフォーマンスで相当のノウハウを持っていないとできない。

5.iPodもWiiも独占製造する台湾の「鴻海=ホンハイ」
  世界最大のEMS「鴻海」はiPod、Wii、iPhone、パソコンから携帯電話まで話題の商品をみんなつくっている。

鴻海は金型技術に優れ、金型製造設備と技術者を大量に社内に保有して24時間体制で運用している。自社で設計から製造まで手がけ、客先がコンセプトを持ち込めば、普通なら数ヶ月掛かる試作品を1週間で仕上げてくるという。

台湾企業は日本、台湾、韓国、中国を知り尽くし、日本語、英語、そして中国語ができるので電機業界では世界最強だ。情報家電では日本が材料の2/3、製造設備の1/2、基幹部品も1/3抑えているので、日本企業を知る必要があり、まだまだ中国企業は台湾企業には追いつけないという。

6.パナソニックは2007年4月から3万人が在宅勤務
  方向性としては良いが、情報セキュリティ・個人情報保護の問題が指摘されている。この金融危機後は、在宅勤務がどうなるか注目されるところである。

7.ヨーロッパのライアンエアー
  ヨーロッパのライアンエアーは予約はネットのみ、着陸料の高い空港は避ける、預ける荷物は15キロまで、超過分は1キロ当たり8ユーロといった徹底的なコスト削減により、最安値は税金・諸費用除いて片道1ポンド(地下鉄よりも安い)を実現しているという。


ウェブ2.0時代のシー・チェンジ

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シー・チェンジとはホーン岬を抜けて、荒れた大西洋から静かな太平洋に出たマゼランが叫んだ言葉ではないかと大前さんは言う。同じ海だが、全く異なる。これをシー・チェンジと呼ぶ。

ウェブ2.0も使っている機器は同じだが、利用法・ボリュームが異なる。

大前さんはデジタル化でテレビ局は死を急いだと語る。民放の広告費依存ビジネスが崩壊する可能性が高いからだ。

米国ではTiVoが普及し、2割以上の家庭が使っているという。CMスキップ機能があり、HDDに録画するので、月額13ドル弱でいつでも見たいときに見られるのだ。

デジタル時代にテレビが生き残る形はGyaoのような広告モデルか、オンデマンドの有料モデルだが、無料のYouTubeに放送直後から紅白歌合戦のビデオがアップされる時代なので、デジタル時代に有料化で大きく儲けることは難しい。

NHKオンデマンドも放送翌日から最大10日間配信するというが、放送直後からYouTubeに載るので、まったく意味がない。

日本のデジタル化投資の1兆円、総工費500億円の東京スカイツリーもYouTubeの前に無用の長物、バベルの塔となるだろうと大前さんは予測している

56社が参加し、300億円を掛ける日の丸検索エンジン(情報大航海プロジェクトは笑止千万であると。56社もいると身動きがとれないし、「B29を竹やりで落とす」ようなものであると酷評している。だいたい官民相乗りプロジェクトは死屍累々なのだと。


あらゆる企業は広告宣伝戦略を変えよ

テレビ、ラジオ、新聞など既存媒体広告の費用対効果は悪い。

ネット広告も検索上位に打つ検索連動型広告や成果報酬型ならともかく、バナー広告などのクリック率は落ちてきているという。

このブログでもサイバーエージェントの藤田晋さんの本を紹介しているが、大前さんはこのままでは、伝統的な広告代理店の業務をネット化しただけのネット広告代理店の将来はないだろうと予測する。

ウェブ2.0時代では、すべての会社が自分でネットの世界からSEO等でお客さんを見つけてくる努力をしなければならない。

売上げを伸ばすには、過去に自分の会社を利用したお客さんをデータベース化して、属性を分析し、対象を絞り込んでナローキャスティング、ポイント・キャスティングすればよいのだと。

グーグルはダブルクリック買収などから見ても広告ビジネスを独占することを狙っていると思われ、ショッピングもグーグルチェックアウトを利用してAPIを公開して拡大する戦略のようだ。

検索サイトがショッピングサイトになることを目指しているのだ。これに対抗してアマゾンが総合サイト化を目指しているが、その狙いはグーグル対策だ。

米国では楽天のようなモールはなく、個別マーチャントのサイトが巨大化している。アマゾンも様々な商品のポータルを作って、巨大化することでモール化しようとしている。


新大陸のメシの種

新大陸のメシの種として、健康な高齢者向けのビジネス、一人暮らしの孤独(3割が独身)を癒すビジネス、死にまつわる産業などが伸びることを予測している。

クルマも高級ブランドにも興味のない「物欲喪失世代」にモノを売るのは至難の業なので、健康な高齢者がターゲットとなってくるのだ。


アイデアの使いまわしがなく、新鮮なアイデアがとめどなく出てくるには感心する。簡単に読めるので、まずは手にとってページをめくって欲しい。


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大前研一 ロシア・ショック 日本にとって極めて重要な国ロシア

今週のプーチン首相来日で、7月の日ロ首脳会談で北方領土問題を含む様々な日ロ間の懸案と経済協力が話し合われることとが確実となった。

ロシアと中国は国境問題をめぐって過去に流血事件まで起こしているが、現在は領土問題は存在せず、突っ込んだ軍事・経済協力をしている。

これ以上解決に時間が掛かることは、日ロ両国にとって国益を損ねるので、是非親日派プーチンが実権を持っている間に、領土問題を過去のものとすべきではないだろうかと思う。

そんな期待も込めて、ロシア及び旧CISに注目している大前研一氏の著書のあらすじを紹介する。

ロシア・ショックロシア・ショック
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2008-11-11
おすすめ度:4.5
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日本人よ、今こそロシアとの新しい関係を構築せよ!と呼びかける大前研一氏の最新作。

グラフ等も多く資料としてもすぐれており、世界金融危機発生後の10月頃に書き終えた本なので内容も最新だ。

読んだ本しか買わない筆者が2008年に買った6冊目の本だ。

前回紹介したように発刊前に図書館で予約したので、2008年11月11日の発売の本を11月16日に手に入れ、先週読み終えた。

いま日本が最も注目すべき国はどこかと聞かれれば、大前氏は悩むことなくロシアと答えるという。これからの世界の潮流のなかで、最もインパクトを持って台頭してくるのがロシアであり、そして実は日本と最も相性が良く、関係を大事にしていかなければならない国がロシアなのだと。


大前さんのロシア原体験

ロシアは日本の面積の45倍、時差は11時間ある。人口は日本よりやや多い1億4千万人だが減少しつつある。

大前さんはMITの学生生活の最後の年、1970年にソ連時代のロシアを訪問して、それ以来40年間ロシアの変貌を見てきたという。

大前さんの最初の訪問では、ビザを持っていたにもかかわらず、シェレメチェボ国際空港の係員に空港から外にでることを禁じられ、まるで収容所のようなターミナルに閉じこめられたという。

空手のふりを見せ、係員と交渉してJALのチケットをアエロフロートのチケットに代えることで(これで係員はドルが入る)、モスクワの町に行くことができ、リムジンに案内係付きでモスクワを観光したという。

暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤの「ロシアン・ダイアリー」のあらすじで書いたが、筆者も1993−4年にロシアを訪問したので、シェレメチェボ国際空港はよく覚えている。

今はさすがに変わっているのではないかと思うが、そのころはシェレメチェボ国際空港をはじめ、ほとんどのロシアの空港は右ウィングと左ウィングに分かれていた。

片方が外国人とCIS国民向け、もう片方がインド(?)、キューバやアフリカなどの同盟国からの出稼ぎ労働者向けだったと思う。どちらも人でごった返していたが、出稼ぎ労働者ウィングはターミナルで寝起きしている人も多く、まるで家畜小屋だと言われていた。

そして中央部が「代議員ホール」と呼ばれる特権階級しか利用できないところで、日本企業の駐在員・出張者はそこを利用できていた。

当時は飛行機はターミナルには直づけはせず、ターミナルから飛行機までバスか歩きで行ったので、こんな風にターミナルが分けれていたのだ。

大前さんはたぶん出稼ぎウィングに押し込められたのだと思う。


ロシアは日本の最良のパートナー

ソ連が崩壊して、ロシア国民はどん底を経験したが、プーチン政権での最近の劇的な経済の復活、社会の変化には目を見張るばかりだ。

ロシアは生産量・埋蔵量ともに世界第1位の天然ガスと、世界2位の生産量の石油があり、外貨準備は潤沢で経済成長が著しい。なにより教育水準がBRICsのなかではずば抜けて高く、ITや先端技術の人材も豊富である。

エネルギー資源がなく、人材も不足している日本にとってロシアは最良のパートナーである。

柔道家のプーチンの日本好きは有名だが、一般のロシア人でも無条件に日本のことが好きだという。日本の製品があれば最優先で買い、オタク文化まで愛してくれるという。これほど無条件に日本の事を好きなのは、世界の中でロシアとインド、そしてトルコぐらいのものだと大前氏は語る。

ロシアは日本にとって極めて重要な国なのだ。


プーチンのロシア

ゴルバチョフのソ連時代からエリツィンのロシア時代まで経済成長率はずっとマイナスで、エリツィン大統領初年度の1992年には最悪のマイナス15%を記録した。

ところがプーチンが大統領代行になった1999年からプラス成長に転じ、大体6%前後の成長を続けてきた。

一つの要因は、それまで12〜30%の累進課税で年収5,000ドル以上は30%の税率だったため脱税や地下経済が盛んだったが、税率をすべて13%のフラットタックスにすることで、アングラマネーが表に出てきた。2001年、2002年には個人所得はそれぞれ約25%増加し、国家財政は好転した。

1999年に1バレル10ドル程度に下落していた原油価格が、2000年代を通じて上昇したことも大きい。原油高が経済を押し上げ、ロシアは債務国から債権国に転じ、外貨準備は急増し2008年7月末で中国、日本に次ぐ世界第3位の約6,000億ドルになっている。

プーチンは2期目になると年金改革を行い、年金額を徐々に上げたので高齢者の人気も高まり、2007年には支持率は92%という驚異的なものとなった。プーチンの後を継いだメドベージェフもプーチン人気を受け継ぎ、今年5月に政権が誕生したときの支持率は70%強だった。

支持率が高い最大の要因は、プーチンが強いロシアを復活させたからだ。

プーチンは自分でジェット戦闘機を操縦して地方に行き、柔道では5段の猛者だ。YouTubeにプーチンが山下泰裕氏と一緒に撮った柔道のプロモーションビデオが載っているので紹介しておく。



2007年グアテマラで開かれたIOC総会で、プーチンは冬季オリンピック開催をソチに招致するために流ちょうな英語とフランス語で演説を行い、冬ソナで有名な平昌(ピョンチャン)を押すライバルの韓国のノムヒョン大統領の演説とは雲泥の差だったという。

YouTubeにも収録されているが、説得力ある英語の演説はたいしたものだ。



プーチンはまだ56歳と若いので、側近のメドベージェフに4年間大統領をつとめさせた後に、再度大統領として登場し2012年から2020年まで大統領となると大前さんは予測している。


高学歴人材が最大の資産

ソ連の残した最大の遺産が人材だ。ロシアの大学以上の進学率は72%で、ブラジルや中国の20%台とは圧倒的な差がある。

人口はインドの1/8だが、ロシアはインドと同じ毎年20万人の大卒IT技術者を輩出している。

道徳教育の質も高い。松下幸之助の「道をひらく」には、ソ連の「生徒守則」に「年上のものを尊敬せよ。親のいうことをきき、手助けをし、弟妹のめんどうをみよ」と書かれていることを紹介している。

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
販売元:PHP研究所
発売日:1968-05
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


こういった一般国民に対する道徳教育の面では他のBRICs諸国とは比較にならないほど、ロシアがすぐれているのではないかと思う。

モスクワで1,500人の宇宙工学のエンジニアを雇用するボーイングや、ロシア各地で3,000人のエンジニアを雇用するインテルの話を紹介している。

インテルについては面白い話を紹介している。インド人のプログラマーは、「まず、スペックを見せてくれ」という。ロシア人のプログラマーは、「どこが問題なのか?何を解決してもらいたいのか?」と聞くという。彼らは元々プログラマーではない。科学者なのだ。

この本ではロシア地場のレクソフトルクソフト(Luxoft)とか、データアート、ベラルーシのIBAなどのロシアIT企業を紹介している。

勿論アメリカと競った宇宙技術や軍事技術は世界トップクラスであり、他のBRICs諸国とは比較にならない。だからボーイングも進出してきたのだ。


ロシア型格差社会

ロシアの一人当たりGDPは2007年で9,000ドル程度だが、地域格差が大きく、自然条件は厳しいが油田のあるネネツは52,000ドルと高い。上位は油田やガス田地帯だが、資源のない地方は平均以下だ。

所得格差も大きく、2006年で人口の93%が年収1,200ドル以下。一方年収約15億ドルを超える人が60人いて、かれらだけで国全体のGDPの16%を占めている。

ロシアの資産家はフォーブスのビリオネアランキングに87人ランキング入りしており、アメリカに次ぐ数だという。

アルミ世界最大手のUCルサールのデリバスカ氏、イギリスのサッカーチームチェルシーのオーナーの石油王アブラモビッチ氏、鉄鋼王セベルスターリのモルダショフ氏、金融・小売コングロマリットのアルファグループのフリードマン氏などが有名だ。

ロシアで格差が広がったのは、国営企業民営化で12歳以上の全国民に1万ルーブル相当の国営企業の株券バウチャーが配布されたが、ほとんどの人は意味がわからずバウチャーを売り払った。それを大量に買い集めた人がオリガルヒと呼ばれる大富豪になったのだ。

ロシア人の平均寿命は59歳と短いこともあり、お金があれば貯蓄でなく消費にまわす傾向が強く、消費ブームが起こっている。嗜好もかわりつつあり、いまやアル中を生み出すウォッカではなく、ビールが人気なのだという。


無条件に日本が好きなロシア人

ロシアでは寿司が評判になり、モスクワでは市内に600軒もの日本料理屋があるという。プーチンも週に1回は寿司屋に行くという。

意識調査によるとロシア人の74%は日本が好きと答えており、日本人の82%のロシアに親しみを感じないと答えているのと好対照だ。

反日感情の強い中国の21%は別にしても、他のBRICsのブラジルの68%、インドの60%に比べても高い。

ロシアのPR会社の社長は、「現在のロシア社会で、日本ほど魅力的なブランドの国はない」と言い切る。「日本はまだこのことに気が付いていない」と。

ユニクロが最近モスクワ進出を発表したが、このことにユニクロの柳井さんは気が付いたのだろう。

ソ連時代からアメリカ嫌いが染みついているロシア人は、日本製品がアメリカ市場を席巻したり、アメリカの企業を買収したりしているのをみて、日本はスゴイと敬意を持つようになっているという。


日本企業のロシア進出

日本のロシアに対する直接投資は2007年末でわずか3億ドルに過ぎないが、電化製品など売れて売れてしょうがない状態で、各社ものすごく儲かっているという。

ロシアで一番大きなビジネスをしているのはJTで、ロシアのタバコ市場の34%のシェアを持ち、大きな利益を上げているという。

自動車メーカーもロシア市場向けの販売を伸ばしており、三菱自動車はセクシーカーという評判で、ロシア市場で人気が高い。トヨタとニッサンはサンクトペテルブルグの周辺で工場を稼働中だ。

トヨタのサンクトペテルブルグ進出は同市出身のプーチンの肝いりと言われているが、トヨタ元会長の奥田碩さんはたしか柔道六段で、山下泰裕氏と対談本を出しているほどなので柔道がとりもった仲かもしれない。

武士道とともに生きる武士道とともに生きる
著者:奥田 碩
販売元:角川書店
発売日:2005-04-25
おすすめ度:3.0
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日本のロシアに対する最大の投資はサハリンIサハリンIIの石油・天然ガスプロジェクトだが、日本ではロシア政府の横やりで権益を奪われたというマスコミ報道だった。

ところが大前さんが話を聞いた当事者の一社の三菱商事の担当者は冷静で、「とんでもないことをやられている」と思われるだろうが、事業会社の株式譲渡はノーマルでフェアなビジネスだと語っている。

もともとホストカントリーの事情変更で、ガスプロムが入ってくることは予想していた。ガスプロムが過半数の51%を握ったが、その評価を下すのはまだ早いと語っている。

たしかに株を売った三菱商事や三井物産からの、恨みつらみというのは筆者が記憶するかぎりなかったと思う。

日本側としては株を適正価格で売却し、プロジェクトのリスクを取り除き、ガスの引き取り権は失わずにすんだ「うまい話」の範疇に入るのだと大前さんは説明している。


ロシア進出の十大心得

この本で大前さんは、インシアード大学のスタニスラフ・ジェクシューニア教授が、外資30社のトップにインタビューした結果のロシア版「十戒」を紹介している。

1.ロシア人とともに、ロシアのために働く(ロシアはアジアでもヨーロッパでもない)
2.ロシアのルールを尊重しつつも、自分の流儀を忘れない
3.政府や各種行政機関との関係を構築し、人脈作りに励む
4.核心に対しては断固たる態度で、枝葉末節には柔軟に対応する
5.窮地に活路を見出す術を学べ
6.腐敗は生活の一部。うまく対処する術を身につけよ
7.権威主義ではなく、本物のリーダーシップを発揮すべき
8.権限委譲は難しいが重要。それゆえ段階的に実施すべし
9.海外企業の個性が強調されたワンカンパニーを確立すべし
10.早期警戒管理体制を敷く

大前さんは、中国は全体主義、共産主義の国であり、これからは矛盾があちこちに出てくるリスクがあるが、ロシアは資本主義国であり、一度地獄を味わっているので逆に強いと評価している。

経済面では中国は地方分権だが、ロシアは依然として中央集権で官僚制度が温存され許認可など昔のままという問題がある。また原油価格がピークの1/3になったこともあり、一本調子でロシア経済が伸びていくかどうかはわからないが、共産中国対資本主義ロシアというのが21世紀の構図である。


21世紀のパラダイム変換

中国とロシアは永年ウスリー川の国境問題をかかえ、一時は流血の衝突があったが、2008年7月に4,300キロにおよぶ国境を確定している。

ロシアは欧州ロシア、中央部のシベリア、極東の3地区に大きく分けられるが、極東は開発が遅れ、人口も660万人しかいない。隣の中国の東北3省だけで人口は1億人いるので、潜在的に中国に対して恐怖心を持っているという。

そんな状況なので、日本もここで北方四島をめぐるトゲを抜いて、メドベージェフ大統領に点を稼がせ、資源国ロシアと工業国日本の互恵関係をつくることを大前さんは提案する。

旧ソ連諸国や東欧諸国は、様々な事情でロシア離れをしており、EUやNATOに接近をしている。大前さんは、この流れがさらに進み、プーチンの第二期政権?の終わる2020年にはロシアもEUに加盟しているのではないかと予想する。

ジェトロのEUでの意識調査によると、EUの人たちの65%はEUに入るのはロシアがトルコより先と考えているという。

通貨ユーロが強くなっているが、ユーロ導入にあたっては厳しい規律があり、財政赤字はGDPの3%以下、政府債務残高はGDPの」60%以下。物価上昇率と金利変動も一定以下が求められている。輪転機を回せば済むドルや円とは規律が違うからユーロは強くなるのだという。


日ロ関係の未来図

最後に「日ロ関係の未来図」として、大前さんは長谷川毅氏の「暗闘」という第二次世界大戦で日本が降伏に至るまでの過程を描いた作品を紹介し、トルーマンとスターリンの駆け引きで、北海道を南北に分割せよとのスターリンの要求を退ける案としてアメリカが北方領土の領有を認めたという説を紹介している。

暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏
著者:長谷川 毅
販売元:中央公論新社
発売日:2006-02
おすすめ度:5.0
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この本には興味を持ったので、近々読んであらすじを紹介する。

北方領土は日本固有の領土と言っても、戦後処理でソ連領となったわけでもあり、いまさら間宮林蔵を持ち出しても話は進まない。

実はロシアにとってみれば北方領土四島はそれほど重要ではない。しかし返すためにはインセンティブが必要なので、ロシア国民を納得させる理屈を考えて、物事を進めるべきだと提案する。

1997年の橋本龍太郎・エリツィン会談では、ロシア側は二島先行返還、二島継続協議という案を示したが、これはまさに佐藤優ラスプーチンの外交成果だった。

ロシアは外貨準備が積み上がり、ロシアのSWF(政府系ファンド)である「安定化基金」は世界最大規模のアブダビを抜いて百兆円以上にもならんとしている。もはや少し金を出せば手放すといった「鈴木宗男的発想」はまったく通用しなくなっている。

むしろロシアのあり余る金を使って、日本がアジア諸国と一緒に経済開発を技術的に手伝う、ロシアの原子力発電所建設やシベリア鉄道高速化などで手助けすることが感謝されると大前さんは語る。

大前さんは以前からロシア沿海州と日本の日本海側で地域経済圏をつくれとか、斬新な提案をしているが、この本では日ロ賢人会議で検討するとか、怒る人がいることを承知で、国連信託統治領のような方法を考える手もあるのではないかと語る。

旧島民の気持ちも理解できるが、北方領土が返ってきても、利権の巣窟となり、不要な護岸工事や道路工事が相次いで、納税者の立場からいえば返ってこなかった方が良かったという事態にもなりかねないと大前さんは危惧する。

大前さんが提案するのは、日ロが平和協定を結び、極東やシベリアを共同で開発することだ。サハリンの天然ガス以外でも森林・地下資源・観光資源を開発する。たとえばカムチャッカは最高の釣りレジャー地区となるだろうという。

これからの十数年で世界が体験する「ロシア・ショック」は極めて大きく、日本にとって最大のチャンスにもピンチにもなりうる。

今のロシアは日本人が抱いている冷戦時代のイメージから大きく変化している。いずれロシアとEUが一体となり、世界の極となろうとしている。こうした時代に日本だけが、北方領土問題にこだわり続けていいはずがないと大前さんは語る。


データも最新で大変参考になる。冒頭に書いたとおり筆者が今年読んでから買った本の一つだ。是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。


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