時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

インターネット

韓流経営 LINE LINEの世界展開を推し進めた中心人物とは

韓流経営 LINE (扶桑社新書)
NewsPicks取材班
扶桑社
2016-07-02


日本発のSNS、LINE株式会社の成功の裏側をNewsPicksに移籍した「週刊ダイヤモンド」の4人の記者が取材した本。

NewsPicksとは、経済情報に特化したニュースサイトだ。

LINEは日本企業だが、親会社は韓国最大のIT企業ネイバーだ。ネイバーは韓国での検索サービスNO.1で、韓国ではGoogleを寄せ付けない73%という圧倒的なシェアを誇っている。

この本では、次の3つの疑問を記者が追いかけている。

1.誰が本当の経営者なのか?

2.どこが本当の本社なのか?

3.LINEはどのように開発されてきたのか?


ネタバレ的に事実を示すと、LINEのストックオプションのランキング(本書238ページ)で、この答えが大体わかる(数字は丸めている)。

1位 シン・ジョンホ(LINE取締役 CGO 最高グローバル責任者 10.3百万株(想定売却益 152億円)

2位 イ・ヘジン(ネイバー会長) 5.6百万株(82億円)

3位 イ・ジュンホ 1.6百万株(24億円)

4位 パク・イビン 11万株(1億6千万円)

5位 出澤 剛  9万7千株(1億4千万円)

6位 舛田 淳  9万5千株(1億4千万円)

14位 森川 亮 5万3千株(8千万円)

想定売却益は、取得株価を1,320円、公募価格の2,800円で計算したものだ。

上記のストックオプションのランキングは本書238ページに掲載されているが、元々の情報はIPOの時に公開されているLINEの有価証券届出書(新規公開時)の最後の「株主の状況」に記載されている。

これを見るとネイバーの二人が圧倒的な貢献度であることがわかる。LINEは、もともと東日本大震災の際に、電話が機能しなかったことを見たイ・ヘジンが、新たにインターネットを使ったコミュニケーション手法として日本に来て短期間に開発したものだ

LINEの世界展開は目覚ましいものがあると感じていたが、実は韓国にあるLINE+(プラス)が世界展開の中心となっており、初期段階で各国に送り込まれたのは韓国のLINE+の人材だった。

日本のLINEの社員がかかわることは、ほとんどなかったという。

LINEの開発や、世界展開では日本のLINEがかかわることは少なかったが、LINEのマネタイズ(収益アップ)には2010年に買収したライブドアの人材がおおいに貢献した。

スタンプを広告商品として開発したのだ。この本では、その初期のヒットが「 アメイジング・スパイダーマン」の映画キャンペーンの一つとして導入されたスパイダーマンのスタンプだ。



LINEのスタンプのおかげで、スパイダーマンの情報を受け取るフォロワーは113万人に達したという。

LINEは2016年7月にニューヨークと東京で同時上場した。東証のルールは上場会社の35%以上の株式がオープンな市場で取引されなければならないというものだが、同時上場の場合は、このルールは免除される。だから韓国ネイバーが株の80%強を保有したままLINEは東京市場で上場できたのだ。

筆者もLINEを使っており、家族間のコミュニケーションは、昔はメールだったが、今はほとんどLINEだ。非常に便利なLINEは、実は日本の会社というよりは、韓国の会社だったわけだが、そんなことはLINEの価値には関係ない。

世界にはFacebookが買収したWhatsAppという手ごわい競合がおり、LINEはアジア、WhatsAppは欧米というテリトリーわけができている。

上場で資金を得たLINEが、今後どのように世界展開を拡大していくのか。興味のあるところである。

上記のシン・ジョンホさんと、イ・ヘジンさんのリンク先の日経ビジネスの記事を見ただけでも、かなりの情報がわかるが、この本もわかりやすく、よくまとまっている。

お勧めの一冊である。


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MAKERS メイカーズ 「フリー」の著者・クリス・アンダーソンの近著

MAKERS―21世紀の産業革命が始まるMAKERS―21世紀の産業革命が始まる
著者:クリス・アンダーソン
NHK出版(2012-10-23)
販売元:Amazon.co.jp

前作「フリー」を大ヒットさせた米国「ワイアード(Wired)」誌編集長、クリス・アンダーソンの近著。

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
著者:クリス・アンダーソン
日本放送出版協会(2009-11-21)
販売元:Amazon.co.jp

Wired [US] March 2013 (単号)Wired [US] March 2013 (単号)
Conde Nast Publications(2013-02-22)
販売元:Amazon.co.jp

「MAKERS」というタイトルでもわかる通り、今度は製造業だ。

いま世界中におよそ1,000か所以上の工作スペースがあり、その数は増えている。キンコーズのような誰でも使える工作スペースを展開しているのがTechShopだ。

手作り品の職人のためのウェブ市場、Etsyでは、2011年に100万人の売り手が、5億ドルを超える取引を行った。サンマテオはじめ、各地で開催されるメイカーフェアは、どこも盛況だという。

オバマ政権は、2012年から4年間で、全国の1,000か所の学校に3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を完備した「工作室」を開くことを決定した。

オンラインを、現実の製造の世界にも持ち込めることになってきたのだ。

何千という中小のメイカーが、キックスターター(Kickstarter)をはじめとするクラウドファンディングでプロジェクト資金を調達している。

いままではオンライン・スタートアップ企業はオンラインのみのサービスが多かったが、いまやリアル世界の製造業スタートアップ企業が増えているのだ。

特に少量の小口生産品などは、企業がつくると多額の費用が掛かるが、個人で金型などを作って、製造すればむしろ企業より個人の方が競争力がある。

それを可能としたのは、3Dプリンターや、3Dスキャナーなどの情報機器と、小口でも部品の注文に応じることができるインターネット企業だ。誰でもアイデアさえあれば、製造業を始められる時代になったのだ。

立体造形できる積層式3Dプリンター 良蔵 (よいぞう)
立体造形できる積層式3Dプリンター 良蔵 (よいぞう)

3D Printer Printrbot LC キット3D Printer Printrbot LC キット
Printrbot LC
販売元:Amazon.co.jp

この本では、具体的な例として次のようなものをあげている。

★娘たちのドールハウスの家具
種類が少ない上に、高価なドールハウスの家具も、自分で3Dプリンターでつくれば、思い通りのデザインとサイズのものができる。

デザインは3Dデザイン共有サイトのThingivereseで手に入れ、3Dプリンターをつないで、「作成」をクリックすると、20分後にはドールハウス用の家具が完成したという。

ちなみにThingivereseは3DプリンターのMakerBotと提携している。

3D Printer MakerBot Replicato singletype3D Printer MakerBot Replicato singletype
MakerBot
販売元:Amazon.co.jp


★歯科矯正用のマウスピース
すこしずつ形を変えたマウスピースを2−3週間ずつ装着し、数か月かけて歯の位置を調整することができる。

専用ソフトウェアを使えば、すこしずつ形を変えて最終的な理想形まで到達するまでの中間的なマウスピースを簡単に制作できる。

★3Dプリンターでチョコレートなどを押し出してカップケーキの装飾をつくる

★バイオプリンターで幹細胞(ES細胞)の層を積み重ねて臓器をつくる
まだ実験段階だが、将来は、iPS細胞が使えるようになるだろう。

ローカルモーターズという自動車会社は、自分たちで自動車をつくりたいという2,000人がアイデア、知識を持ち寄って、一部は既存の車の部品を活用することでラリーファイターという車をつくりあげた。

次のビデオがローカル・モーターズの製造現場を紹介している。



★ローカルモーターズは国防総省のクラウドデザインによる次期戦闘用車両(XC2V)のコンテストにも優勝している。次のビデオがデザインを基にモデルを実際に手作りで仕上げている様子を紹介している。



★ブリックアームズは、レゴの正規品にはないAK−47などの現代的な武器をレゴ用につくっている。まずはCADソフトでデザインしてデスクトップの工作機械で試作品を作る。それが良ければ金型をつくって、米国国内の工場で射出成型して販売している。レゴ本社では、現代的な武器はご法度なので、こういった傍流レゴを容認している。

★BtoBでは、2000年前後に、はやったe-steelやメタルサイトなどのBtoBサイトや逆オークションなどは、ITバブルにまぎれて衰退した。残ったのはMFGドットコムという、特注品の見積もりを取るサイトだ。見積もり比較の機能はなく、入札もないが、これで十分だったという。

逆オークションについては、筆者も一時注目して、これが筆者が鉄鋼原料からIT業界に移るきっかけとなった。

CADの図面を送って、見積もりを取るだけという単機能でよかったと言われると、その通りかもしれないと思うが、こういった工業用の資材には品質の問題がある。

サプライヤーの品質が信頼できるのかどうかわからない。

それがこのブログでも紹介した中国発のBtoBサイト、アリババの問題でもある。

ちなみに、アリババの創業者・ジャック・マーは、著者のクリス・アンダーソンが初めて会った時は体重35キロくらいで、英語が抜群にうまかったという。

アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦
著者:張 剛
東洋経済新報社(2010-07-09)
販売元:Amazon.co.jp

結局はBtoBの工業用資材には簡単な調達法はないのだ。

アマゾンのジェフ・ベゾスがMFGドットコムに注目し、大株主となった。いまでは、20万人以上の会員がいて、これまでに1150億ドルの取引が行われ、ひと月の取引額は20〜40億ドルに上るという。

どんな会社でもCADファイルをアップロードすれば、見積もりを取ることができる。これは同じファイル形式を使っているから、情報伝達のロスがなくなり、取引コストが下がったからだ。

この他にも最新の事例が紹介されている。いつもながら、刺激に富む本である。


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全貌 ウィキリークス メディアのアナーキズム登場

全貌ウィキリークス全貌ウィキリークス
著者:マルセル・ローゼンバッハ
早川書房(2011-02-10)
販売元:Amazon.co.jp
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日本のメディアにはほとんど登場しないので、最近あまり話題になっていない機密情報暴露サイトのウィキリークスについて独・シュピーゲル誌の記者が書いた本。

シュピーゲル誌は、2010年6月に米・ニューヨークタイムズ紙、英・ガーディアン紙と一緒に、ウィキリークスが9万件ものアフガニスタン戦争の戦争日誌を公開する前に、既存メディアとして情報の分析に協力するとともに、確認できた情報を自己判断でニュースとして流すことに合意した。

ウィキリークスがこれだけ広く認知された過程では、既存メディアの協力もあった。

この3誌合同のプロジェクトはKabul Recoveryというコードネームで呼ばれ、英国ガーディアン紙の本社オフィスに拠点が置かれた。ウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジと各紙の記者は4週間にわたり共同作業を続けたという。

著者のシュピーゲルの記者たちがジュリアン・アサンジに最初にあった時は、共同プロジェクトの最中で、アサンジはひげもそらず青白い顔色で数日前から着続けている服を着て、靴を履かずに靴下だけであらわれたという。


創始者ジュリアン・アサンジの経歴

ウィキリークスの創始者で唯一の決定権者のジュリアン・アサンジはオーストラリア生まれ。ヒッピーで売れない絵描きのシングルマザーに育てられた。

母親はジュリアンを育てながら、いろいろなパートナーと同棲と結婚を繰り返し、一時はカルト教団の信徒に付きまとわれたこともある。

アサンジはきちんとした教育は受けたことがなく、通った学校は37校にものぼる。しかしアサンジの知能指数は147−180だという。

アサンジは最初にコモドール64というホームコンピューターのとりことなり、あっというまにプログラミング言語をマスターし、13歳でシステムのセキュリティを破るクラッキング専門のハッカーとなった。自らを「マッド・プロフェッサー」というコードネームで呼んでいたという。

当時は電話線で回線をつなぎ、音響カップラーで通信していたという。

音響カプラ





出典:Wikipedia

音響カップラーをご存じの人は少ないと思うが、筆者は最初の米国駐在の時に(1986年〜1991年)重さ10キロくらいの携帯用のテレックスマシンを持っていた。米国内の出張のときはそれを持参して、ホテルや公衆電話からテレックスを送っていた。

当時の電話機はモジュラージャックがついていない機種もあり、そのときはこの音響カップラーを受話器にむすびつけて、受話器経由で信号を送っていたのだ。ちょうどファックス送信の時の音のような感じだ。

駐在の最後の1991年ころになるとパソコン通信が始まったが、1986年当時はまだeメールはなく、テレックスの時代だったのだ。

閑話休題。

アサンジはハッカーとしての活動について語らないが、仲間と一緒にNASAのシステムに侵入したりしていたらしい。彼らは自らを「ハックティビスト」と呼び、権力に抵抗していた。

アサンジ自身の最後の学歴はメルボルン大学数学科だ。メルボルン大学は米国陸軍から砂漠での自走車両走行の最適化のプロジェクトを受託していたという。アサンジは「殺人機械の最適化」に嫌気がさし、退学した。

その後アサンジは友人を通じ、オーストラリアの反戦運動家で現国会議員のアンドリュー・ウィルキーや、ベトナム戦争の機密文書を7,000ページを「ペンタゴン・ペーパーズ」としてリークしたダニエル・エルズバーグなどと知り合いになった。

ダニエル・エルズバーグはランド研究所員として米国国務省の依頼でベトナム戦争の分析に携わり、「ペンタゴン・ペーパーズ」の執筆者の一人でいながら、情報をリークするというまさにウィキリークスの先達となる存在だ。この「ペンタゴン・ペーパーズ」は今は情報公開法に基づき、一部が公開されている。


ウィキではない

ちなみにウィキペディアの創設者のジミー・ウェールズは、ウィキリークスを非難して、次のように語っている。

「私はウィキリークスを敬遠し、本当は彼らがこの名称を使わないようにと望んでいるほどです。『ウィキ』ですらないのですから。」

たしかに「ウィキ」(不特定多数が寄ってたかって作り上げる)ではない。筆はジミー・ウェールズの意見に賛成だ。


「コラテラル・マーダー」ビデオの公開

ウィキリークスを一躍有名にしたのは、米軍のアパッチヘリコプターが、テロリストと間違えてロイターのカメラマンと運転手を含むイラクの民間人を攻撃した事件の一切が映っているビデオだ。

コラテラルとは付随的という意味で、「コラテラル・マーダー」とは、シュワルツネッガーの「コラテラル・ダメージ」という映画を連想させる題名だ。



事件は2007年7月12日にイラクのニュー・バクダッドで起こった。

ロイターのカメラマンと運転手は小火器を使った戦闘があったというしらせで現場に直行したところ、背中のカメラを米軍のアパッチヘリコプターのパイロットに武器とみなされ、30ミリ砲の攻撃を受けたのだ。

その場にいあわせた12人全員が死亡した。助けようとやってきたミニバンも銃撃され、乗っていた子供も重傷を負った。そのビデオがウィキリークスで公開され、世界中に報道されたのだ。



このビデオは元兵士のブラドレー・マニングが、軍のワークステーションで特別に保護されたネットワークからダウンロードしてCDに焼いて持ち出し、アサンジに送ったのだ。マニングも元ハッカーだった。マニングは米陸軍当局の徹底的な捜査で、情報源として特定され、機密漏えい罪で逮捕された。


次々と公開される秘密書類

次の大スクープとなったのは前述の報道機関3社との共同で検証していた「アフガニスタン文書」だ。9万件もの戦争日誌である。

これは2010年7月に報道機関3社と一緒に公開され、現在もウィキリークスで"wardiary"として公開されている。

「アフガニスタン文書」に続き、2010年10月には39万通にものぼるイラクからの戦争報告も公開された。

戦争日誌では、テロリストから自白を得るためにイラクの警察が拷問していても、米軍は見て見ぬふりをしている事実などが明るみにでた。

そして2010年11月末に米国の外交公電25万件が公開された。1966年12月から2010年2月までの外交公電が含まれており、その中には駐在大使のざっくばらんな現地政府高官や実力者の評価などが含まれていた。

たとえばタイのタイイップ・エイドリアン首相はスイスに8つの隠し口座を持っているのではないのかといった汚職情報や、ロシアとの天然ガスの取引でベルルスコーニ首相が巨額を手にしたとか、メドベージェフ大統領は「見習い」で、プーチンが「群れのボス犬」で、「バットマン」(メドべージェフはロビン)だとかいった情報が数限りなく含まれている。

ヒラリー・クリントン長官名で大使館関係者に、国連と国連の首脳について徹底的な調査を指示しだ2009年7月の極秘扱いの公電も公開された。

あれやこれやでヒラリー・クリントン国務長官は、各国の外務大臣や政府高官に謝罪の電話をかけまくらなければならなかった。


米国政府のウィキリークス封じ込め

米国政府はウィキリークスを壊滅させることを決心した。各国政府によびかけ、様々な妨害活動を開始した。

まずはウィキリークスサイトに大量のDoS攻撃があった。ウィキリークスがアマゾンのEC2クラウドサーバーを利用しはじめると、アマゾンはすぐにサービスを打ち切った。

EveryDNSはDNSサービス提供を解約し、URLでは検索できなくなった。ウィキリークスの英国の銀行口座は閉鎖され、eBayはpaypalサービスの解約を通知、VISA、Mastercardも解約、いずれもウィキリークスへの送金を拒んだ。

これでウィキリークスへの小口献金の道はほとんど閉ざされた。ドイツの財団だけがウィキリークスへの資金援助を続けている。

こういった反ウィキリークスの動きに対して、ウィキリークスのサポーターたちは、大量ミラーリングを呼びかけ、数日のうちに1,200以上のウィキリークスのコンテンツを複製したミラーサーバーがインターネット上に誕生した。


アサンジの逮捕

アサンジにはインターポールから国際指名手配が出された。

女性二人への強姦(コンドームなしのセックス強要)の訴えがあったスウェーデンでは、2010年8月にいったん不起訴処分となっていたが、同じ容疑でインターポールから国際指名手配が出されたのだ。

アサンジはロンドンの警察署に出頭、逮捕されたが、支持者が保釈金を払って釈放された。


哲学的問題

ジャーナリストが書いた本だけに、この本の最後では、次のような哲学的問題が提起されている。

・機密文書の公開は民主主義を脅かす?

・すべての情報を公開すべきか?

・「国境なき危機の時代」における、ウィキリークスとメディアの課題。


内部告発者の末路

最後にこの本ではロバート・レッドフォード主演の「コンドル」という映画を紹介している。

CIAで書籍分析を務めるレッドフォードが演じるターナーは、ある日昼食から戻ったら、職場の同僚6名が殺害されていた。CIAが石油市場を操作するという知ってはならない事実を彼らが文書解析の仕事で洗い出してしまったのだ。

CIAの卑劣な幹部がターナーを部署もろとも抹殺しようとしたのだ。

ターナーは逃げ延びて、ニューヨークタイムズにすべてを告げるために出向く。

ターナーとCIA支局長のヒギンスの会話で終わる。

「彼ら(ニューヨークタイムズ)はすべてを知っている。なんでもやるがいい。彼らに話したんだ」

「ターナー、新聞社が記事にするなんて思っているのか?」

「記事にするさ」

「どうしてそう言える?」



ウィキリークスの概要がわかり、その存在意義について考えさせられる本である。


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マスコミは、もはや政治を語れない ジャーナリスト佐々木俊尚さんのニューメディア紹介

マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論壇」 (現代プレミアブック)マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論壇」 (現代プレミアブック)
著者:佐々木 俊尚
販売元:講談社
発売日:2010-02-26
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

ネット関係の著作を量産しているジャーナリスト佐々木俊尚さんの2010年2月の本。

タイトルの「マスコミは、もはや政治を語れない」というのは、2009年の民主党の圧勝は小選挙区という選挙手法によるもので、全得票率では議席数ほどの差がついていないことをマスコミはどこも語らないことを指している。

他にも日本のマスコミ特有の問題として、記者クラブ問題を取り上げている。

そもそも記者クラブは、日本とアフリカのガボンにしかないと言われているそうだ。

民主党公約の記者クラブ開放が結局、外国メディア増加と雑誌記者への開放のみに終わり、フリージャーナリストなども含む開かれた記者クラブとはほど遠くなった。

しかしブログなどのネット論壇が登場し、記者クラブを通して政府が言論をコントロールする時代は終わりつつあると佐々木さんは語る。

しかし全くマスコミにグリップが効かない状態もリスクがあるという。

たとえば既存マスコミが強くなかった韓国では、ネット論壇が世論を形成し、根拠のないデマが流布して、女優のチェ・ジンシルなどが自殺するという事態まで発生している。

「ネットで書かれたことは、瞬時に全国民に伝わる」というのは恐ろしいこともあるのだと。


インターネット大家族

フェースブックは日本ではあまり普及していないが、世界で3億人のユーザーがいる世界最大のSNSだ。

高齢者の間でもフェースブックは浸透しており、最近ではフェースブック上で、祖父母と孫が連絡を取り合い、「インターネット大家族」のようなものができているという。

上記のような話題も含め、マスメディアでは報道されない見方が取り上げられている。印象に残ったものをいくつか紹介する。


★事業仕分けの歴史的意義

事業仕分けを仕切った枝野さんと蓮舫さんがそろって菅内閣の重要ポストに入ったが、事業仕分けの意義は、すべてが公開されたことだという。

いままで密室で決められていた予算折衝が白日の下にさらされる訳だ。


★池上彰さんの仕事

新聞が「ニュースをわかりやすく解説する」という本来の仕事を放棄しているので、池上さんの仕事が成り立っていると池上さんは語る。
 
知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)
著者:池上 彰
販売元:角川SSコミュニケーションズ
発売日:2009-11
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


★亀井徳政令

亀井静香元大臣は「東京大学でマルクス経済学を学び、キューバのゲリラ指導者チェ・ゲバラを心から尊敬する極めて危険な社会主義者だから、甘く見ない方が良い」と、「金融日記」という人気ブログの作者の外資系投資銀行勤務の藤沢数希氏は語っているという。

経済学については、少なくとも昭和50年代までは東大のマル経、一橋の近経と言われていたので、元警察官僚の亀井さんがマルクス経済学のゼミを取っていても不思議ではない。

こんな色眼鏡のかけ方をしていると、昭和50年代までの東大経済学部の卒業生の過半数はマル経を取ったと思うので、すべて同じような社会主義者と見られることになるだろう。

日本のネット論壇はまだまだだと思うが、この本では背後からハミング大西宏のマーケティング・エッセンス漂流する身体などが紹介されている。

いずれ「ネット論壇」といえるようなものが日本でも出現するのかもしれないが、アメリカのネットメディア(たとえば"A Bright Fire"など)が影響力を勝ち得ているのに対して、日本ではまだ時間が掛かると思う。

いずれにせよ、情報ソースの拡大という面では意味があると思うので、この本で紹介されているブログのいくつかを時々チェックしてみようと思う。


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電子書籍の衝撃 いつも参考になる情報が多い佐々木俊尚さんの近著

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)
著者:佐々木 俊尚
販売元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2010-04-15
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


主にIT関係の本を年に何冊も出しているジャーナリスト佐々木俊尚さんの近著。2010年4月に出た本だが、筆者の読んだものはすでに第8刷だった。よく売れているようだ。

佐々木俊尚さんの本は別ブログでいくつか紹介しているが、いつも新鮮な情報があり有益だ。

この本でも電子書籍ビジネスをめぐる動きを、iPodを中心とする音楽配信業界の動きと比較しながらまとめていて参考になる。


セルフパブリッシングの時代

この本で一番参考になったことは、電子書籍(紙でも可能)の出版方法を「セルフパブリッシングの時代へ」ということで、Amazon Digital Text Publishing (Amazon DTP)とよばれるアマゾンでのセルフパブリッシング方法を詳しく紹介していることだ。

筆者もいずれはあらすじをまとめた本を出したいと思っており、それには注釈代わりにリンクが織り込める電子書籍が最適と思っていたが、今やAmazon DTPを使えば、紙媒体さえ必要なければ初期費用なしで自分の本が出版できるのだ。

セルフパブリッシングは自費出版とは根本的に異なる。自費出版は最低2,000部とかの買い取り保証や諸費用等で、最低でも数十万円掛かる。ところがセルフパブリッシングは、売れればアマゾンが手数料を取るだけなので、紙媒体を出さなければ、基本的に出版費用はかからない。

本の国際標準コードであるISBNコードを日本図書コード管理センターに申請するのに、10冊分で1万7千円くらいかかるが)、これは本を検索するときに必要なので、必要経費と言えるだろう。

アマゾンDTPはまだ日本語対応画面がなく、英語、フランス語、ドイツ語にしか対応していないが、いずれキンドルを日本語対応化すれば、日本語での手続きも始まるだろう。

英語のアマゾンのサイトに行くと”Publish on Amazon Kindle with the Digital Text Platform”という電子書籍出版ハウツー本のキンドルバージョンが無料で読めるようになっている。

紙の本で出すなら、クリエイトスペースというアマゾンの子会社で申し込む。これで売れたらオンデマンド印刷で本が出版できる。

あとは自分のブログとかでプロモーションすることだ。


音楽のセルフディストリビューション

すでに音楽では、自宅で録音してネット配信したりCDで売ったりしているアーティストがいて、たとえばつぎのまつきあゆむさんなどが代表例だ。

自宅録音自宅録音
アーティスト:まつきあゆむ
販売元:UK.PROJECT
発売日:2005-05-11
おすすめ度:5.0
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まつきさんは、自分の音楽活動を支えるための「M.A.F.」というファンドもつくっており、だれでも出資して音楽販売のプロフィットシェアリングに参加でき、まつきさんのお金の使い方も知ることができる。

その他参考になった例を箇条書きで紹介しておく。


参考になった事例

★「7つの習慣」の著者、自己啓発本のベストセラー作家、スティーブン・コヴィーは、過去の本の電子ブック発売権を大手出版社のサイモン&シュースターからアマゾンに移した。

7つの習慣―成功には原則があった! (CD付)7つの習慣―成功には原則があった! (CD付)
著者:スティーブン R.コヴィー
販売元:キングベアー
発売日:2009-08
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


「7つの習慣」は筆者も好きな本の一つで、全世界で1,000万部以上売れているという。筆者はオーディオブックと日本語訳の本と両方持っている。このブログではその「7つの習慣」の発展編の「第8の習慣」のあらすじを紹介した。

大手出版社のネット販売での作者の手取りは25%程度だが、アマゾンのディールでは50%以上がコヴィーさんの手取りになるという。

★アマゾンはキンドルがスタートしたばかりの頃は65%のマージンを取っていたが、iPadが参入してきたので、一挙にマージンをアップルに対抗して30%に下げた。

★ボブ・ディランはYouTubeに新作プロモーションビデオをアップして、SNSのマイスペースに自分のページを設けて情報発信したので、「ウォールフラワーズのリーダーのジェイコブ・ディランのオヤジはなんだかスゴイらしい」ということでクチコミが広まり、往年の名曲までが売れるようになったという。

MySpace Bob Dylan









★若者は活字を読まなくなったわけではない。日本の出版業界が劣化しているのだ。本の売り上げは8億冊程度で変わらないが、新刊の点数は1980年代の年間3万点から、8万点に増えている。駄作の乱発で、一冊当たりの売り上げが減っている。

★発行部数が減らない理由は、「本のニセ金化」にあるという。本は欧米では買い取り制だが、日本では再販制度があるので、出版社から取次に卸すと、本来委託販売にもかかわらず、代金は100%支払われる。売れずに返品されると、出版社は返金資金を工面しなければならず、あわてて別の本を取次に売って、その支払いで前の本の返品代を支払うという自転車操業をしている。これが佐々木さんの言う「ニセ金化」だ。

★ケータイ小説は読んだことがないが、この本でその一節が紹介されている。

「ん?? 元気元気♪ ヤマト酔いすぎだし〜!!」「俺酔ってねぇって〜なぁ〜酔ってねぇから〜」「お〜同じバイトだよ〜。ってか〜二人は付き合ってんのぉ?」「えっ、美嘉とヤマトが??まっさかぁ〜ないない!!」「俺たちマブダチだもんなあ〜美嘉ちん〜」

出典:本書210ページ 原典:「恋空」美嘉 

ケータイ小説とはどんなものか初めて知った。引用するのも疲れる。本もよく売れているようだ。

恋空〈上〉―切ナイ恋物語恋空〈上〉―切ナイ恋物語
著者:美嘉
販売元:スターツ出版
発売日:2006-10
おすすめ度:2.0
クチコミを見る


★もはや「出版文化」は幻想で、志の高い編集者は「はぐれ者」扱いされているという。だから「新しい革袋には新しい酒を」ということなのだと。

★グーグル検索で全文検索できても、本の売れ行きには影響しない。「全文検索できると本が売れなくなる」などという話の証拠はどこにもない。ケータイ小説など、ウェブで全文配信されているにもかかわらず、売れまくっているものもある。

★ソーシャルメディが生み出すマイクロインフルエンサーの活用が、これからの本や電子書籍の売り方だ。


電子書籍の総括

最後に佐々木さんは電子書籍を次のように総括している。

1.キンドルやiPadのような電子ブックを購読するのにふさわしいタブレット
2.これらのタブレット上で本を購入し、読むためのプラットフォーム
3.電子ブックプラットフォームの確立が促すセルフパブリッシングと本のフラット化
4.そしてコンテキストを介して、本と読者が織りなす新しいマッチングの世界

これが電子ブックの新しい生態系だという。

筆者も海外の友人の持っているキンドルを見たことがあるが、その画面の鮮明さに驚いた。また読み上げ機能もあり、速度や男性女性の声を選べるという点も気に入ったが、日本語版がないのでまだ買っていない。

iPadになるかキンドルになるかわからないが、いずれ日本語版のタブレットデバイスと、本の配信プラットフォームが確立してきたら是非購入したいと思っている。


参考になれば次クリック願う。


タオバオの正体 アリペイ株移転問題で注目のジャック・マーのCtoCサイト 

中国巨大ECサイト タオバオの正体 (ワニブックスPLUS新書)中国巨大ECサイト タオバオの正体 (ワニブックスPLUS新書)
著者:山本 達郎
販売元:ワニブックス
発売日:2010-06-08
おすすめ度:5.0
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アリババグループの創業者ジャック・マーさんがソフトバンクの孫さんや米国Yahoo!に相談なくアリペイの全株式を自分の会社に移転してしまった問題が報じられているので、前回紹介した「アリババ帝国」に続いて、中国のCtoC,BtoCサイトのNo. 1タオバオの本を紹介する。

アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦
著者:張 剛
販売元:東洋経済新報社
発売日:2010-07-09
おすすめ度:3.5
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タオバオはアリババグループのCtoC,BtoCサイトで、アリババとソフトバンクのジョイントベンチャーとして2003年に誕生した。タオバオとは見つからない宝はないという意味だ。

taobao site






当時中国ではeBayが投資する易趣味が圧倒的シェアーを持っていたが、タオバオは少なくとも3年間は出店料、手数料を無料にすると発表、急速にマーケットシェアを奪っていく。

2003年10月にはアリペイという決済システムがスタート、中国Eコマースで最大の問題だった信用問題を解決した。現在中国Eコマース決済の2/3がアリペイだ。

2003年8月には5万人だったユーザーが、2004年末には350万人、2005年末には1400万人に拡大。2010年には1億8千万人にまで拡大した。中国のネットユーザーは3億人といわれているので、その6割がタオバオユーザーだ。

CtoCビジネスでは2009年のタオバオのシェアーは81.5%を占めている。


タオバオの拡張戦略=大タオバオ戦略

タオバオの拡張戦略はオーソドックスだ。まずは個人向けオークションで、先行するeBayの易趣網を追い抜き、次にタオバオモールでBtoCビジネスに展開した。

2008年9月からタオバオアフィリエイトサービスを開始、またたくまに40万ものサイトがタオバオの商品を飾るショップフトントとなった。

2009年3月からはタオバオモバイルを開始、携帯電話でもタオバオの商品を購入できるようになった。

チャットツールのアリワンワンや、SNSの淘江湖、クチコミの淘心得、タオバオQ&Aサイトという具合に事業を拡大してきた。

変わったところでは女性を中心としたユーザーが、ファッションなどを自ら身につけてネットショップとモデル契約を交わす、いわばモデルのマーケットプレースの淘女郎もある。

mmtaobao






タオバオの売れ筋商品

タオバオには現在250万もの個人ショップが出店しているという。この本では日本からタオバオに出店する場合の手続きを詳しく解説している。

タオバオの売れ筋商品は次の通りだ。

1.化粧品
2.レディースファッション
3.デジタル家電
4.レディースバッグ
5.韓国アクセサリー
6.日用品と家具

タオバオの成功モデルとして、2009年4月に出店したユニクロが取り上げられている。ユニクロの柳井社長は、「ユニクロの目的は世界最大のアパレル販売会社になることであり、その戦略の中でもタオバオは非常に重要な位置を占めている」と語っているという。

IBMのパソコン事業を買収したレノボ、スポーツ用品のKappa、通販のフェリシモなどの企業の成功例が紹介されている。

また成功した個人ECショップも紹介されている。タオバオナンバーワンの個人ECショップは「檸檬緑茶」というサイトだ。このサイトでは化粧品、ファッション、アクセサリー、時計などを販売している。

檸檬緑茶





この本では檸檬緑茶や日本人の経営する粉ミルクショップ「宝貝心願」についても詳しく説明している。

宝貝心願






日本製粉ミルクショップはちょうど中国で粉ミルクにメラミンを混ぜるという悪質な品質詐欺事件があったことから、大ブレイクした。

「宝貝心願」のオーナーの内田さんのコメントも興味深い。内田さんは、中国人には絶対に仕入を任せてはいけないという。すぐに独立して中抜きされたり、私腹を肥やしたりするケースが多いという。

その他タオバオで成功した泥パックのショップ「御泥坊」や、田舎町の産品を売っている「四川味道」など、様々な個人ショップが取り上げられている。

タオバオショップの成功の秘訣は、1.クチコミ、2.ユーザーへの対応/アフターサービス、3.商品説明のわかりやすさ、4.中国市場の研究他だという。

タオバオではニセモノ排斥運動に力を入れており、7日以内であれば理由を問わず返品、交換を保証したり、ニセモノがあった場合、3倍の賠償を保証している。

この本の著者の山本達郎さんの経営している北京ログラスなどの出店・運営代行サービスも紹介している。

これからはEコマースは日本のヤフーの運営するタオバオ購買サービスのYahoo!チャイナモールで中国製品を買ったり、タオバオ販売代行サービスを通じて、中国に日本の製品を売ったりする日中共通ECサービスの時代だという。

Yahoo!





タオバオで成功している店が詳しく紹介されていて参考になる本だった。一度中国製品のEコマースも体験してみようと思う。


参考になれば次クリック願う。



アリババ帝国 アリペイ株移転で問題となっている中国インターネット巨人 ジャック・マー

アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦アリババ帝国 ネットで世界を制するジャック・マーの挑戦
著者:張 剛
販売元:東洋経済新報社
発売日:2010-07-09
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中国のインターネット企業を代表するアリババグループCEOの馬雲(ジャック・マー)の1999年から2009年までの10年の軌跡。

マーさんは、大株主のソフトバンクの孫さんや米国Yahoo!に無断で、アリペイという世界最大のインターネット決済プラットフォーム会社の株を、取締役会にかけずに、すべて自分の会社に移したとして問題になっている

馬雲さんは独特の風貌で、ひときわ目立つ。YouTubeにもファイナンシャルタイムズのインタービューが掲載されているので、紹介しておく。馬雲さんの英語のうまさに驚くと思う。



馬雲さんは1964年浙江省杭州生まれ。杭州師範大学の英文科を卒業し、5年間英語教師をやったあと、「自分が成功できるなら80%の人が成功できる。そのことを証明するために起業した」という。


浙江省杭州市は中国で筆者の最も好きな都市

余談になるが、浙江省や杭州は筆者にとって中国で最も愛着がある場所だ。

筆者は1983年に浙江省にフィリピン産鉱石を持ち込んで、ステンレス鋼の原料に加工して日本に持ち込む委託加工(当時は合作と呼んだ)のビジネスを担当していた。その契約相手が浙江省の杭州市にあった浙江省冶金分公司(こんす)だった。

当時は中央集権を見直していた時期で、北京の冶金公司と交渉を始めたが、最終的に契約相手は浙江省冶金分公司になった。

初めて中国を訪問した1983年の夏には、北京、上海、長沙(上海ー長沙は汽車で20時間以上)の工場を歴訪し、最後に上海から電車で杭州に行き、杭州から車で1日掛けて横山という場所にある工場を訪問した。

当時は外国人の中国での旅行は厳しく制限されており、横山や途中の町も非開放地区だったので、杭州を朝出発したが、途中の町の役場に立ち寄っては通行許可証を取っていたので、横山に辿り着いた時は夜になっていた。

その夜歓迎宴を工場の人が開いてくれたが、夏はスッポンが手に入りにくいため数日前に捕まえておいたというスッポン料理で歓待してくれて感激した。

横山工場には遊休となっていたニッケルの生産設備があり、それはアルバニア人技術者が建設したものだと語っていた。中国はソ連と断交した後、同じくソ連と断交していたアルバニアと親しくなり、アルバニアから技術を導入していたのだ。

優秀な品質の製品をつくる工場で、日本でも評判が良かった。

当時はビジネスで出張すると、せっかく来たんだからと先方がわざわざ観光地を案内してくれる習慣があり、北京では万里の長城、故宮、上海では豫園(よえん)、長沙では毛沢東の生家や刺繍工場を見学した。

杭州では西湖をボートで観光し、日本の天台宗の開祖の最澄も学んだ天台山国清寺、龍泉茶で有名な龍泉(泉の水をかき回して波立てても、しばらくするとスーッと波が消えて、鏡のようになる)などを観光した。

鉱石を陸揚げした寧波にも行って一泊した。当時は中国にはエアコンなどなく、水浴びをしてなんとかしのいだ。夜になると多くの市民が夕涼みのために散歩していて、大変な混雑だった。

杭州市ではできたばかりの花園飯店というホテルに泊まり、宴会の後に若い従業員も加わって、みんなで歌った。千昌男の「北国の春」が中国でもヒットしていたことを思い出す。

毎日おかゆには飽きたので、朝食にパンを頼んだら、カステラみたいにボロボロくずれるパンが出てきたことには閉口した。当時はまともなパンは北京と上海の一流ホテルでしか食べられなかった。

杭州の最初の宴会では、山西省出身の人民解放軍上がりの総経理に汾酒(アルコール度53度でセメダインみたいなにおいがする)で乾杯させられ、死ぬほど飲まされたので、翌日の楼外楼での答礼宴では、ブランデーで乾杯し、コカコーラを用意して、乾杯するたびにコーラを飲んで薄めていた。

汾酒・フェンチュウ(ふんしゅ) 500ml【中国酒】
汾酒・フェンチュウ(ふんしゅ) 500ml【中国酒】


楼外楼は日本にも支店がある杭州の老舗レストランだが、当時はそんなきれいな店ではなく、一般庶民も多く利用していた。名物の乞食鳥を初めて楼外楼で食べた。乞食鳥という名前を奇異に感じたものだ。

閑話休題


1999年にアリババ起業

馬雲さんは「中国黄頁」(中国版イエローページ)など何件か起業した後に、中国国際電子商務中心の情報部総経理(部長)となり「国富通」、「中国商品交易市場」などのサイトを立ち上げる。これらのサイトはすぐに黒字となり、合計300万元(40万ドル)の黒字となった。

馬雲さんはこの成功でインターネットの可能性を感じ、1999年に仲間とBtoBサイトのアリババを立ち上げる。


アリババというサイト

アリババは日本語サイトも立ち上げている。もっぱら企業向けなので訪問したことがない人が多いと思うが、BtoB(企業間取引)向けのサプライヤーとバイヤーのマッチングサイトだ。

alibaba





筆者は10年ほど前にインターネット逆オークションを使った電子調達ビジネスを研究していたので、アリババのサイトも10年ほど前から知っている。

自分の興味ある商品を登録しておくと、メルマガなどでサプライヤーのリストを送ってくれるが、そのサプライヤーの品質がどうか、信頼できそうな相手なのかは自分で調べなければならず、結局使わなかった。

今はアリババの登録ユーザーは4000万人で、中国が8割。登録店舗数は5百万件にまで成長してきたので、それなりの信用や品質情報などもあるのだと思うが、当時は企業版のYellow Pageをインターネットに載せたようなものだった。


アリババ起業の十八羅漢

このときの起業メンバーが馬雲さんも入れて「十八羅漢」と呼ばれる面々で、現在でもアリババやタオバオの幹部を占めている。ちなみに仏教では普通十六羅漢と呼ばれるが、十六でも十八でも大きな差はない。

十八羅漢の中でも、1999年10月の蔡崇信(現アリババCFO)の入社で、アリババは資金確保に悩まされることはなくなった。

蔡崇信は、スウェーデンのインベスターABグループの副総裁だったが、アリババと投資交渉をしていて、急に気が変わり、アリババに入社することを決意、70万ドルの年俸を捨ててわずか500元(60ドル)の月給でアリババに入社した。

蔡崇信が入社してすぐにゴールドマンサックスなどが500万ドルを投資した。


ソフトバンクの孫さんが二千万ドル投資

そのすぐ後に馬雲さんと会ったのがソフトバンクの孫正義さんだ。1999年9月のビジネスウィークにはebiz25というインターネット起業家特集があり、孫さんは日本人として唯一ebiz25に入っていた。

次が1999年9月のBusiness Weekの表紙だ。当時筆者は米国に駐在しており、IPO投資した電子調達会社の社長もebiz25に入っていたので、この表紙をスキャンして保存していたものだ。

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出典: Business Week

この記事はBusinessweek.comで読めるので、参照して欲しい。

孫さんは5−6分馬雲の説明を聞いただけでビジネスモデルを理解し、「我々はアリババを第2のヤフーに育て上げる」と語り、30%の株式を2,000万ドルで取得し、アリババの顧問にもなった。

孫さんの目標は「情報革命で人々を幸せにする」ことで、馬雲さんも「インターネットを通じて、社会を豊かにする」との夢を共有する同志であるという。

ソフトバンクの投資は、後に回収するときに70倍以上になってソフトバンクに富をもたらした。

孫さんのヤフー立ち上げ時の1億ドルの投資は有名だが、それに負けずとも劣らないのが、アリババへのこの2,000万ドルの投資である。

1999年はインターネットバブルのピークで、中国の初期のポータルサイト新浪(sina.com)に、シリコンバレーのベンチャーキャピタルが数千万ドル投資し、クライナー・パーキンス、住友商事の子会社のPresidio Venture Capitalなどもsina.comに投資している。


アリババの目標

馬雲さんの打ち出した目標は次の3つだ。

(1)80年持つ企業になる。この80年は後に102年となり、1999年から2101年まで3世紀にわたって存続する企業を目ざすと若干変わった。

(2)世界のインターネットビジネスで10位内に入る。

(3)ビジネスマンなら誰でもアリババが必要となるようにする。

2000年のネットバブルの崩壊直前にアリババは必要十分な資金を調達したので、順調に拡大を続けたが、好事魔多し、アリババにダメージを与えたのは2003年に広まったSARSだった。SARSのためにアリババのオフィスは12日間隔離された。


タオバオとイーベイの覇権をめぐる争い

2003年5月にアリババのCtoCサイト、タオバオが誕生した。タオバオはイーべイが支援する易趣網に対抗して作られたBtoC、CtoCサイトだ。

taobao site






イーベイはヤフージャパンのオークション無料化戦略で2002年に日本から追い出されたが、中国では1999年スタートのCtoCサイト最大手易趣網に2,000万ドル投資し、33%の株を取得して中国でのシェアを90%以上にまで押し上げていた。

アリババはイーベイの小口送金サービスペイパルに対抗し、アリペイを2003年10月に立ち上げた。

2004年初めのタオバオのシェアは9%だったが、ヤフージャパンと同じく手数料無料戦略をとったので、急速にイーベイ易趣網からシェアーを奪い、2004年末には9%から41%にシェアを上げた。イーベイ易趣網は90%から53%にまで落ちた。

それには2004年2月のソフトバンクの6,000万ドルを核とする8,200万ドルの追加投資が役に立った。日本からイーべイを追い出したヤフージャパンの代理戦争がタオバオでも始まっていたのだ。


2005年に決着

2005年は中国企業が大躍進を遂げた年だ。レノボがIBMのPC部門を買収、中国海洋石油総公司がユノカル買収を発表(結局米国政府が認可しなかった)、他にも英国ローバーを南汽が買収した。

2005年でタオバオとイーベー易趣網の戦いはタオバオの勝利に終わり、タオバオ57%、イーベイ34%という結果となった。さらにタオバオはシェア−7%で3位の一拍網も傘下に収めた。

アリババは順調に成長し、2006年に国際貿易の会員数は3百万人を超え、2006年の取り扱い高は260億ドルと、2005年の200億ドルを3割上回った。国内取引でも会員社数は1,600万社を超えた。

タオバオはさらに急成長を遂げ、2006年には取引額は169億元で、2005年のほぼ倍、2006年一年間で220万台の携帯電話、2000万の携帯電話カード、4000万の化粧品、230万のインナーウェア、60万台のデジタルカメラを売っていた。


アリババの株式を公開

2007年はアリババが株式を上場して、飛躍を遂げた年だ、2007年11月アリババは香港市場で株式を公開し、IPO当時の時価総額は260億ドルとなった。

2007年には米国ではサブプライム問題、中国では不動産バブルが発生しており、馬雲さんは、当初の予定の2009年上場を早める必要があると考え、2007年中に香港市場で上場したのだ。

アリババ株の33.5%を持っていたヤフーのジェリー・ヤンは多額の資金を得たが、それでも米国Yahoo!の経営は立て直せず、失意のうちに経営を退いた。

第二位株主のソフトバンクの持ち株の時価総額は45億ドルとなった。投資資金が七十倍のリターンをもたらしたのだ。

アリババ社員は26%持っており、一挙に約5千人の富豪サラリーマンが誕生した。このうち7名の幹部社員が13%を持っていた。馬雲の持ち分は7%で、創業社長にしては少なかったが、馬雲は社員が裕福になったことを喜んだという。

アリババ上場後、香港株は下がった。このブログでも紹介しているバイクライダー投資家のジム・ロジャースは香港株は高すぎるが、アリババ株は例外だと語ったという。


株式上場後、すぐに非常事態宣言

株式公開後すぐの2007年末に馬雲さんは非常事態宣言を出し、タオバオの総裁、アリババグループのCTO,VPが交代すると発表した。

2008年9月には中国の検索で70%以上のシェアを持つ百度ヨウアというECサービスを始め、タオバオと直接競合するようになった。百度からはタオバオに行けないようにしたので、タオバオは報復としてタオバオからも百度に行けないようにした。

リーマンショックの影響が大きかったので、馬雲はアリババの登録費用を6万元から、2万元弱に引き下げて、5万社の中国企業を支援すると発表した。

2009年にはタオバオは利益はまだ出していないが、1.2億のユーザー、アリペイは1.8億人のユーザーを持っているという。アリババの登録ユーザーは4、000万人で、中国が8割。登録店舗数は5百万件だ。

中国のインターネット人口は、1999年末の630万人から、2009年には4.4億人に急拡大しており、中国のほとんどのECサイトに急激なトラフィック増加をもたらした。


顧客第一、社員第二

馬雲さんは、顧客第一、社員第二、株主第三だと語る。

馬雲さんは、本を書くなら「アリババと1001の過ち」という本を書きたいと語っている。アリババの過ちを公開することで、多くの人にヒントを与えるからだと。

最後に馬雲さんの2009年6月の北京大学国際MBA卒業式のスピーチを紹介している。結びの言葉は、なんと映画フォレストガンプの有名な言葉だ。さすが元英語教師の馬雲さんらしい。

"Life is like a box of chocolates, you never know what you're gonna get"だから"Enjoy the life"だと。



著者のジャーナリストの張剛さんは、公開されている資料中心に、そつなく十年間の軌跡をまとめているが、たとえば何故タオバオのトップを総入れ替えしたのかなど、馬雲さんの考えがわからない。

馬雲さんのインタビューを中心に本を書けばもっと良かったと思う。


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