時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

小説

雑談力 百田尚樹の56の話のネタ 南京大虐殺についても

雑談力 (PHP新書)
百田 尚樹
PHP研究所
2016-10-15


「書くよりしゃべるほうが100倍好き」を語るベストセラー作家百田尚樹さんの話のヒント集。百田さんは原稿、プレゼン等なしで、何時間でもしゃべれるという。そんな話のネタがたくさん詰まっているのがこの本だ(本の帯では、56のネタを公開と書いてある)。

ちょうどアパホテルグループ代表の元谷さんの本が、南京大虐殺で30万人も殺したのは虚偽としている自著をホテルの部屋に置いていることが問題となっているが、百田さんもこの本の最終章に「親友と議論する話題」ということで、南京大虐殺、従軍慰安婦、靖国神社問題について書いている。

百田さんも30万人虐殺なんて虚偽だという意見だ。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で、抜粋した目次と主な話のネタを紹介しておく。( )でくくってあるのは筆者のコメント。

第1章 人を引き付ける話をする技術
・起承転結が基本
・つかみが大事
 最初の1ぺージで物語を動かす
 「バーバリライオン」の話のつかみをどうするか
 (バーバリライオンは単に例として出てきたものだ。1920年代に絶滅したと思われていた巨大なライオンのことで、普通のライオンの1.5倍、体長4メートルを超えるという。モロッコ国王の私設動物園で生きていたのが発見され、絶滅種のリストから外された。ちなみにファッションのバーバリーはBurberryで、スペルが異なる)。

・質問から入る
 
・常識を揺さぶるような話から入る
 人工衛星は永遠に落ち続けている
 自然界で生きていけない動物はカイコ

・単純なうんちくほどつまらないものはない
 (葛飾北斎は生涯で93回引っ越しをした(ちなみに北斎は30回も号を変えている)) 

・数字は重要
 シャチの体重は10トン
 万里の長城は本当に2万キロもあるのか?

・面白い話にはストーリーがある
 (ロゼッタストーンと解読者のフランスのシャンポリオンの話)

・数学でさえ、面白い話になる
 微積分はいかにして生まれたか
 (微積分はニュートン(とライプニッツ)の発明で、楕円形の惑星の軌道の断面積を求めるために、楕円をピンストライプの様に細い長方形で埋め尽くして面積を求めるやり方を考えたものだ)。

・話の急所を理解していること

・ストックを持とう
 (本を読む時も、テレビを見る時も、人の話を聞く時も面白いと思えば、それを覚えて話のネタにする)
 
・自慢話で人を感動させるのは難しい
 (共感や感動を生む普遍性が求められる)

・失敗談ほど面白いものはない
 ラブレターで大失敗
 (高校受験の話。百田さんは、県で偏差値最下位1,2位を争うくらい偏差値の低い高校出身だという) 

・雑談で選ばない方が無難なテーマ
 (動物の性の話など)

第2章 その気になれば、誰でも雑談上手になれる
・相手ではなく、自分が関心を持つ話題を探せ
 私の小説のテーマ
 零戦の話 − 機体に直線がない奇跡の戦闘機
・一番大切なことは「人を楽しませたい」という気持ち
 同じ「自分の話」でもまったく違う

・自分の感性に自信を持て
 (自分が面白いものは、他人も面白いという自信を持つ)

・ネタをどう仕込むか
 (以下は目次を読めば大体百田さんの言っていることがわかると思う)

・「面白さ」の7割以上が話術

・面白い話は何度でもできる

・話が上手くなる一番の方法は、経験を積むこと

・話し上手は聞き上手

・話は生き物 − 私が講演で行っていること

・とっておきの練習法 − 映画や小説の話をする
 (たとえば「7人の侍」の話を説明する)

第3章 こんな話に人は夢中になる
・意外なオチは記憶に残る
 「板垣死すとも、自由は死なず」とは言っていない?
 ガガーリンの小噺
 アメリカは「120億ドル」のスペースペン、ソ連は…

・スポーツ選手のすごさを伝える時のコツ
 超人的な大投手 サチェル・ペイジ
 同時3階級制覇 ヘンリー・アームストロング

・個人的な思い出話でも、普遍性を持たせればOK
 「ラ・フォンテーヌ寓話」はネタの宝庫

ラ・フォンテーヌ寓話
ラ・フォンテーヌ
ロクリン社
2016-04-11


 「宇治拾遺物語」と「徒然草」もネタの宝庫。

宇治拾遺物語 (角川ソフィア文庫)
中島 悦次
KADOKAWA/角川学芸出版
1962-04-30





・時代の不運に泣いた人の話は共感を呼ぶ
 世界で初めてグライダー飛行をしたのは日本人?
 (浮田幸吉の話)

ちなみに浮田幸吉の話は、本になっている。

始祖鳥記 (小学館文庫)
飯嶋 和一
小学館
2002-11


 あまりにも不遇だった日本の天才研究者たち
 (光ファイバーの原理の発見者の西澤潤一教授やフェライトの父と呼ばれる武井武氏)

・色恋の話は男女問わず受ける
 作曲家ベルリオーズの屈折した愛情
 ブラームスクララ・シューマン

・数字も見方を変えれば面白くなる
 後宮3千人
 国鉄の赤字37兆円!
 宝くじの1等当選確率は250万分の1

・犯罪ものの話題は難しいが、面白い
 オランダの「英雄」メーヘレン
 (ナチスに偽物のフェルメールを売った男)

 「偉大な寓話」とすら思える脱獄囚の話

日本の脱獄囚の話は小説になっている。
破獄 (新潮文庫)
吉村 昭
新潮社
1986-12-23


・歴史上の有名人の意外な裏話
 宮本武蔵の新資料発見(宮本武蔵は卑怯だった?)
 野口英世の唖然とする実像

第4章 親友とする真面目な話
・殺害された市民の数は、全人口より多い? 
 計算が合わない
 南京大虐殺の復活

・一人の男の虚言が大問題を生んだ(従軍慰安婦問題
 吉田証言の衝撃
 吉田清治とは何者か
 ミステリー

・戦後40年、突然の抗議(靖国神社問題
 中国の靖国批判はいつはじまったか
 バチカンも認めた靖国神社

(たぶんこの本で一番百田さんが言いたかったのは、最終章の南京大虐殺、従軍慰安婦、靖国神社問題についてだったと思う。親友と議論する話題ということで紹介している)

簡単に読める軽い本だが、最終章の話題は重い。話のネタとして役立つと思う。


参考になれば応援クリックお願いします。





職業としての小説家 村上春樹の自伝的エッセイ



2015年9月に出版された村上春樹さんの「職業としての小説家」が、もう文庫化された。ノーベル賞受賞を見込んでいたと思われる、本屋の村上春樹コーナーに平積みになっているので、すぐわかると思う。

この本は、筆者が読む前に買った数少ない本だ。

単行本はスイッチ・パブリッシングという雑誌「MONKEY」を出している出版社から出したものだが、単行本は新潮文庫から出している。「MONKEY]は、翻訳家として有名な東大名誉教授の柴田元幸さんが責任編集している主にアメリカ現代小説を紹介する雑誌だ。



この本は、もともと「MONKEY」に連載したシリーズに加筆したもので、次のような構成になっている。

第1回 小説家は寛容な人種なのか
第2回 小説家になった頃
第3回 文学賞について
第4回 オリジナリティーについて
第5回 さて、何を書けばいいのか?
第6回 時間を味方につけるー長編小説を書くこと
第7回 どこまでも個人的でフィジカルな営み
第8回 学校について
第9回 どんな人物を登場させようか?
第10回 誰のために書くのか?
第11回 海外に出て行く。新しいフロンティア
第12回 物語のあるところ・河合隼雄先生の思い出

この本を読んで驚くのは、村上さんは、筆者の持っている小説家のイメージとだいぶ違うということだ。

そもそも村上さんは、注文を受けて小説を書くということをしない。だから、いつまでに仕上げなければならないという締め切りもないし、いわゆる「ライターズ・ブロック」(小説が書けなくなるスランプの状態)とは無縁だ。小説を書きたければ書くし、書けなければ、翻訳などほかの仕事をして、小説を書きたいという気持ちが盛り上がってくるまで待つ。

そして小説を書きたいという気持ちが盛り上がってきたら、小説書きに取り掛かる。

村上さんが長編小説を書く場合、毎日朝早く起きて4〜5時間机に向かい、400字詰原稿用紙で10枚程度の原稿を書くことをルールとしており、もっと書きたくても10枚でやめておき、いまひとつ気分が乗らないという時もなんとか10枚書くという。

筆者の持つ小説家のイメージは、場合によってはホテルに缶詰めになり、夜に執筆し、興が乗ればそのまま何十枚も書き続けて朝まで徹夜するというものだったので、興が乗っても、乗らなくても毎日10枚をルールにするというのは驚きだ。

村上さんは翻訳家としても多くの仕事をしているので、毎日何枚か決めて、すこしずつ書く(あるいは翻訳する)という翻訳の様な仕事の進め方になったのではないかと思う。

それと村上さんの特徴は、何度も何度も原稿を見直して修正することだ。

いったん長編小説の原稿を書きあげると、1週間くらい休んで、第1回目の書き直しに入る。

村上さんは最初にプランを立てることなく、展開も終末もわからないまま、いきあたりばったり、思いつくままどんどん即興的に物語を進めていく。そのほうが書いていて面白いからだ。

たしかに作者にも結末がわからないまま書き続けるという手法は、うまくいけば読者を息もつかさぬ展開に引き込んで離さない魅力がある。村上アディクト(中毒)患者を量産できる可能性がある。一方のリスクは、平凡な結末に終わると、読者に飽きられることだろう。

これと対照的なのが、朝井リョウさんだ。最近のインタビューで朝井さんは、AIと一緒に仕事をしたいと語っている。というのは、朝井さんの場合、書きたいテーマが最も輝く結末を決めて、それに至る道筋を書くという手法なので、さまざまな道筋を考えるのにAIを使いたいという。

村上さんのような書き方だと、矛盾する箇所や、筋の通らない箇所、登場人物の設定が変わったり、時間の設定が前後したりするので、かなりの分量をそっくり削ったり、膨らませたりで、新しいエピソードをあちこちに付け加える。

この第1回目の書き直しに1〜2カ月かかる。それが終わるとまた、1週間ほどおいて、2回めの書き直しに入る。

今度は細かいところに目をやって、風景描写を細かく書き込んだり、会話の調子を整えたりする。一読してわかりにくい部分をわかりやすくし、話の流れをより円滑で自然なものにする。大手術ではなく、細かい手術の積み重ねだ。

それが終わると、また一服してから、3回目の書き直しに入る。今度は手術というよりは、修正に近い作業で、小説の展開のなかで、どの部分のねじを締めるのか、どの部分を少し緩ませておくのかを見定める。

長編小説は、隅々までねじを締めてしまったら、読者の息が詰まるので、ところどころで文章を緩ませることも大事なのだと。全体と細部のバランスをよくする。そういう観点から文章の細かい調整をする。

次に、半月から1カ月くらい長い休みを取り、旅行をしたり、翻訳の仕事をして作品のことを忘れる。これを村上さんは「養生」という。小説も「寝かせる」と、前とはかなり違った印象を与え、前に見えなかった欠点もくっきり見えてきて、奥行きのあるなしが見極められる。

「養生」後に、再度細かい部分の徹底的な書き直しに入る。

そして作品としてのかたちがついたところで、奥さんに原稿を読んでもらう。これは「定点観測」で、村上さんの作家としての最初の段階から一貫して続けていることだ(ちなみに、村上さん夫妻に子供はいない)。

時には村上さんも感情的になることがあるが、奥さんの批評でけちをつけられた部分は、ルールとして書き直す。そしてまた読んでもらい、まだ不満があれば書き直す。そして、批評が片が付いたら、再度また頭から見直して、全体の流れを確認し、調整する。

これを経て、できた原稿を編集者に読んでもらう。

中には合わない編集者もいるが、お互い仕事なので、うまくやりくりしていくしかないので、編集者からの指摘も、ともかく直す。編集者の指摘とは逆の方向に直すこともあるが、書き直すという行為そのものが大事なのだ。

あまり合わない編集者の一人と思われる見城徹さんが、村上さんのことを、「たった一人の熱狂」に書いているので、このブログのあらすじを参照してほしい



編集者とのゲラの見直し作業も、ゲラを真っ黒にして送り返し、新しく送られてきたゲラをまた真っ黒にするという繰り返しだ。言葉の順序を入れ替えたり、些細な表現を変更したりで、根気のいる作業だが、村上さんはそういう「とんかち作業」が好きなのだと。

机に並べた10本のHBの鉛筆がどんどん短くなっていくのを目にすることに、大きな喜びを感じる。いつまでやっていてもちっとも飽きない、面白くてしょうがないのだと。

そこまでして完成した作品については、たとえ出版後、厳しい批判を受けても、やるべきことはやったので、後は時間が証明してくれるはずだと考えることにしているのだと。

日本を離れて、海外で執筆することが多いのが、村上さんの特徴だ。

昔の小説家(文士)は、鎌倉に住み、作品を書くときは御茶ノ水の「山の上ホテル」あたりに缶詰めになって、原稿書きに取り組むというパターンがあったが、村上さんは、米国のプリンストン(ニュージャージー)やボストン、ヨーロッパでもいろいろな場所に住んで、そこで小説を書いている。
 
この本の半分ほどは、村上さんがどうして小説家となったのかを自伝的に語っている。(ウィキペディアでも結構詳しく紹介されている

簡単に紹介しておくと、村上さんは両親が教師の家庭に生まれ、阪神間で育ち、一学年が600人という県立神戸高校から早稲田大学に進学し、映画演劇科に進んだ。7年かかって卒業する前に学生結婚して、就職せずに、奥さんと一緒にお金を貯めてジャズ喫茶を国分寺に開く。

その後、店を千駄ヶ谷に移し、キッチンテーブルで書いた「風の歌を聴け」が「群像」新人文学賞を受賞し、小説家としての「入場券」を得る。

風の歌を聴け (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
2004-09-15


ヤクルトファンの村上さんが、神宮球場で、ヤクルトの試合を芝生に寝転んで応援しているとき、一番バッターのデイブ・ヒルトンの打席で、突然「小説を書こう」とひらめいた(エピファニー=顕現、ある日突然何かが現れて、様相が一変してしまうこと)という。

芥川賞の候補に2回なったが、受賞せず、芥川賞はアガリとなった。小説の賞について、村上さんの持論を展開している。村上さんは、賞の選考委員にはならない。あまりに自分本位で、個人的な人間でありすぎるからだという。

芥川賞は年に2回表彰しているが、新人作家の作品で、本当に刮目すべきものは5年に一度くらいではないかと。

村上さんは、日本の読者人口を人口の5%、約600万人と推定している。このブログで紹介した「華氏451度」のように、本を読むなと言われても、隠れて読み続ける人たちだ。



華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
レイ・ブラッドベリ
早川書房
2014-04-24


村上さんが真剣に考えているのは、その600万人の人にどのような作品を提供できるかだ。村上さんは、読者とのつながりを非常に大切にしている。

試みとして、インターネットでサイトを短期間開設して、そこにコメントを載せた読者には、自らメールで返信したという(投稿者はまさか村上さん本人から回答があったとは思っていなかったようだが)。

いずれは、スティーブン・キングの様に、電子ブック向けに直接配信することにも挑戦するのだろうと思う。

村上さんは小説は誰でも書ける。しかし、ちょうどプロレスのリングのように、誰にでも上がれるが、リングにとどまるのは大変だと語る。

小説家になろうと思う人は、1冊でも多くの本を読むべきだと。

このあたりは、このブログで紹介した大沢在昌さんが「売れる作家の全技術」で語っているのとまったく同じだ。

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


小説を書くためには、ある事実の興味深い細部を記憶にとどめ、頭の引き出しに突っ込んで置く。

そして、実際に書くときに、「ET方式」で、ガラクタをいっぱいつなぎ合わせて遠い星との通信設備を作り上げるように、小説をマジックでポンと作り上げてしまうのだと。マテリアルは身の回りにいくらでも転がっている。

作家は体力も必要なので、村上さんは「羊をめぐる冒険」を書いていたころから、30年間にわたって、ほぼ毎日1時間ランニングか、水泳をやっている。



ちょうどこの「羊をめぐる冒険」を書いた頃、村上さんは経営していた千駄ヶ谷のジャズ喫茶を売り払い、橋を焼いて、作家一本に集中することにした。(筆者注:この”橋を焼く”という表現は、英語の"burn the bridge"という「背水の陣」を意味する言葉の翻訳だが、日本語として定着していない。友人の指摘により筆者も気が付いた。この辺が村上さんの文章が”翻訳調”だといわれるところかもしれない)

村上さん自身は”自分本位で個人的”という言葉で表現するが、長期ビジョンを持ち、先を見据えて、作家として、また、翻訳者として創作活動していることがよくわかる。

海外進出についても、自分で気に入った翻訳者を何人か揃えて、英訳した作品を海外の辣腕エージェントを使って、売り込むという手法を身につけている。

単に外国に住むだけでなく、プリンストン大学の客員研究員など、海外での仕事もこなした村上さんだからこそできるわざだと思う。

作家であり、アントレプルナーである村上さんの考えがダイレクトにわかって、大変面白い本だ。

文庫になって買いやすくなったので、ぜひ一読をおすすめする。


参考になれば応援クリックお願いします。





無名碑 曽野綾子さんの名著 文庫で復刊され手に入りやすくなった





曽野綾子さんの1969年(昭和44年)出版の作品が復刊された。

筆者の学生時代からの友人がやっているラミーズ六本木の常連・講談社文芸第二出版部鈴木副部長から本を頂いた。

この本は、高度成長時代を迎える昭和30年代の日本の土木業界を取り上げた小説で、主人公は大手ゼネコン・作並建設の土木技術者、三雲竜起(みくもりゅうき)だ。

27歳の三雲は福井県の五条方水力発電所の工事に携わった後、東京の本社への転勤辞令を受けた。

三雲は転勤の際に、鶴来(福井県)の祖母を見舞ってから、東京に行くことにした。三雲の父は、鶴来から列車で30分の金沢に住んでいるが、三雲は父のところには顔を出さなかった。

三雲の父親は元裁判官で、三雲が8歳の時に、ある理由で三雲の実母を離縁した。母は離縁されて、ほどなく結核で亡くなった。三雲は、母を結果的に死に追いやった父をずっと許せないでいた。

石川から東京行きの車中で、三雲は二人の若い女性と知り合いになる。金沢大学生の徳永容子と、神奈川県の三崎にいる親類を訪ねるという颯田善江(さったよしえ)だ。

この二人が小説の展開の弾み車になっている。

容子は恋人と同棲していた過去があり、今風に言うと容子の「元カレ」がいきなり、三雲の会社に容子と付き合うなと忠告に来る。

三雲はほどなく只見川水系の田子倉ダムの建設現場に配属される。日本最大規模の水力発電所を建設するのだ。

曽野綾子さんの人物や風景の描写は、女性作家らしく非常にきめ細かくて感心する。しかし、この小説の最大の魅力は、使われている重機等の説明も含めて、土木工事現場が、読む人にわかりやすく、ビビッドかつダイナミックに表現されていることだ。

ダム現場で使うケーブルクレーン、それから三雲の次の現場の名神高速道路の茨木付近のサンド・パイル工事、ドイツ製のペコ・ビーム、アメリカ製の舗装機械・アスファルト・フィニッシャー、マカダム・ローラーなどなど。

三雲の三番目の現場は、タイのチェンマイ近くのアジア・ハイウェイにつながる道路工事現場だ。

アジア・ハイウェイは東京の日本橋からイスタンブールまで至る道で、アジア32カ国を横断する現代のシルクロードだ。

アジア・ハイウェイを通って、ロンドンからカルカッタに行く定期便のバスが3カ月に一度出ていると、紹介されている。本当にそんなサービスがあったのかどうかわからないが、3台編成で、1台は乗客用、1台は食料等の輸送用、1台は修理工具運搬用だという。

アジア・ハイウェイの現在の全体図は次の通りだ。

000022181
















出典:国土交通省ホームページ

アジア・ハイウェイのアフガニスタン部分では、米国がアスファルト工法、ソ連はコンクリート工法で競って舗装工事をやっており、工法が違うまま堂々たるハイウェイができあがりかけていたという。

1989年に出張で行ったロシアのウラル地方の、エカテリンブルグからセーロフ・クロム工場までのコンクリート舗装の道を思いだす。フラットではあるが、乗り心地の悪い道だった。

この本では、袖の下なしでは動かない当時のタイのビジネスの実態と、タイの田舎での生活を描いている。

三雲の私生活は波乱万丈だ。田子倉ダム工事の時代に、徳永容子と結婚するが、生まれた長女は心臓に欠陥があった。筆者の長男も大動脈縮窄症で、1歳の時に米国で手術して、今はなんともないが、他人事に思えない。

颯田善江も、数回の結婚で苦労しながら、ところどころで登場する。

三雲がタイに駐在してからも、工事は様々な困難に直面し遅れに遅れる。それでも完工を目指す作並の技術者たち…。

上下巻で、約950ページのこの本を読み終えた後、読者は読み終えたという達成感と同時に喪失感にとらわれるだろう。

曽野さんの文章は超一流で、生きざまを生き生きと描いている。文庫で復刊して手に入りやすくなったので、ぜひ一度手に取ってもらいたい名著である。


参考になれば次クリックお願いします。


カッコウの卵は誰のもの WOWWOWドラマ化された東野圭吾の小説



この前紹介した「プラチナデータ」以来、東野圭吾の作品をいくつか読んでいる。

東野圭吾の作品はいくつもテレビドラマになっている。

この「カッコウの卵は誰のもの」もWOWWOWでドラマ化されて、現在放送中だ。土屋太鳳(たお)が主役の風美役を務めている。

カッコウ






















アルペンスキーでオリンピック出場を目指す風美は親子二代にわたるスキーヤーだ。

風美はどんどん実力を上げ、大会でも上位に食い込むようになってきた。そんな風美が所属する企業チームの新世開発に、ある日脅迫状が届く。風美をチームから外さないと、風美に危害を加えると。

脅迫状が届いてすぐ、風美が乗るはずだったホテルのマイクロバスが事故を起こし、風美のファンだと言って近づいてきた初老の男性が巻き込まれて重体になる。

一方、スポーツ選手の才能は「スポーツ遺伝子」で決まるという理論を証明したい新世開発スポーツ科学研究所の柚木は、元オリンピックアルペンスキー選手だった風美の父親にDNA提供を求めるが、断られていた。

ところが、バス事故後、風美の父親のほうから、DNAを分析してくれと逆に依頼され、風美の亡くなった母親のものだとして血がついた紙を渡される。

分析結果は、風美が持つスポーツ遺伝子は母親も持っていたことがわかる。元オリンピック選手の父のみからスポーツ遺伝子を受け継いだわけではなかったのだ。

風美の母親はスポーツ選手ではなかった。判定結果は柚木をがっかりさせるが、逆に風美の父は不安にかられる。

風美は自分と自殺した妻との子供ではないのではないかという疑問を持っていたからだ。

自分が海外遠征中に妻が入院していた病院には、出産記録はない。

カッコウの托卵のように、どこかで乳児を見つけてきたのではないか?

風美の母親の出身地であり、風美の出生地である新潟や長岡で亡くなった妻の友人や病院を調べまくる父。

柚木も加わって、調査が進むと意外な事実が浮かび上がってきた。

あの風美のファンだといって、近づいてきた男の本当の目的は?……。

というようなストーリーだ。

どういう結末となるのか予想がつかず、どんどん読み進んでしまう。

大変楽しめる小説だ。

テレビドラマはWOWWOWに契約していれば、WOWWOWメンバーズオンデマンドに登録すれば無料でストリーミング視聴できる。

今度ドラマも見てみようと思う。


参考になれば次クリックお願いします。


プラチナデータ DNA捜査はこうなる? 東野圭吾の近未来警察小説

プラチナデータ (幻冬舎文庫)
東野 圭吾
幻冬舎
2012-07-05


東野圭吾の近未来警察小説。

嵐の二宮和也主演で映画化されている。



この小説の中には年号は一切出てこない。

近未来の日本。

DNA検査が犯人特定に使われるようになる。「ビッグデータ」の犯罪捜査への活用だ。

映画の予告編では、日本国民すべてDNAデータを国が管理するとのキャプションが出ているが、話はそう簡単ではない。

日本の居住者全員からDNAを集めるのは不可能なので、近親者のDNAからも犯人を割り出せるシステムが天才数学者の手によって開発された。

DNAを肉親や親戚が登録したら、自分まで芋づる式に調べられる可能性が出てきたのだ。

これなら犯罪抑制の効果も期待できる。

というのは、もし親類や兄弟がDNAを登録していたら、悪いことをするとすぐに自分が割り出される恐れがあるからだ。

手法は異なるが、スピルバーグの映画「マイノリティレポート」の犯罪未然察知システムを想起させる。



「マイノリティレポート」は「未知との遭遇」と並んで筆者の最も好きなスピルバーグ映画だ。特に、ショッピングモールの虹彩を読んで個人を特定して、その人にあった広告を表示する場面は興味深いので、よく話題にしている。



話が横道にそれたが、DNA検査の捜査利用は順調なスタートを切った。

採取した毛や体液などの分泌物のDNAを調べて、日本国民の膨大なデータとマッチングすれば、容疑者の身長、体重、身体的特徴、そしてモンタージュ写真まで作ることができるのだ。

まずは逮捕第一号。簡単なものだ。

「朝飯前」だ。

これなら刑事も多数リストラできる。

しかし、そのシステムには致命的な欠陥が……。

突然、なぜか警察庁が本腰を入れて乗り出してくる。

というようなストーリーだ。

今や邪魔者扱いされた豊川悦司が演じる警視庁の捜査一課刑事と、検査結果を解析する二宮和也演じる警察庁特殊解析研究所の主任解析員が主人公だ。

大変面白い。単行本だと430ページもの作品だが、時間を忘れて一気に読めてしまう。

是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。


天才 石原慎太郎が描く田中角栄

天才
石原 慎太郎
幻冬舎
2016-01-22


石原慎太郎が描く田中角栄の自伝的小説。

この本の「長い後書き」に石原慎太郎が記している。

この本を書くことになったのは、早稲田大学の森元孝教授との会話がきっかけだったという。

森教授は「石原慎太郎の社会現象学」という本を書いている。




「貴方は実は田中角栄という人物が好きではないのですか?」と森教授に聞かれ、

「確かに、彼の様にこの現代にいながら中世期的でバルザック的な人物は滅多にいませんからね」。

と答えたという。

石原慎太郎は田中角栄の金権政治に真っ向っから反対していた。しかし、その一方で田中角栄という政治家が好きだったという。

テレビというメディアを造成したのは田中角栄だし、高速道路の整備や新幹線網、各県に一つの空港、エネルギー資源の乏しい国に適した原子力発電推進、資源をメジャーに依存しないための自主資源外交、30を超える議員立法のいくつかは現在も有効だ。

自主資源外交を推進したためにアメリカの虎の尾を踏んで彼らの怒りを買い、虚構に満ちた裁判で失脚に追い込まれたが、それ以前に重要閣僚としてアメリカとの交渉で見せた姿勢は、彼がまぎれもない愛国者だったということがわかる。

田中角栄の先見性に満ちた発想が、今日の日本の在りようをつくったともいえる。

筆者もまさに石原慎太郎さんと同感だ。

このあたりは、「田中角栄 封じられた資源戦略」という本のあらすじで紹介しているので、参照してほしい。



この本では、田中角栄の生い立ちから、高等小学校を卒業後、土方をやって身に着けた世の中の見方が後々役に立ったことなど、様々なエピソードも交えて田中角栄自身が語るという一人称小説に仕上げているので、非常に読みやすい。

石油ショックでアメリカやメジャーに頼っていた日本のエネルギー自立を促進するため、カナダ、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、ビルマ(現ミャンマー)を歴訪して資源確保の契約を進めた。

これがニクソンの片腕だったキッシンジャーの反発を買い、キッシンジャーは田中のことを「デンジャラス・ジャップ」と呼んで、のちにアメリカが仕掛けたロッキード事件で田中角栄は失脚した。

次の三木内閣の法務大臣となった稲葉修が「逆指揮権」を発令して、田中角栄は受託収賄容疑で逮捕された(その後起訴され、一審、二審で有罪、最高裁の判決が出る前に田中角栄は75歳で亡くなり、死後最高裁が収賄を認定した)。

三木内閣は総選挙で大敗、次は福田内閣となった。

福田内閣時代には、中国の小平副主席が田中邸を訪ね、「水を飲む時、井戸を掘った人の苦労を忘れない」と言って、田中角栄に感謝したことは有名だ。

この本では田中角栄の妾や愛人との関係などの私生活、政治活動、仲間の政治家の評価などについても、田中角栄自身に語らせていて大変面白い。


小説なので、これ以上は紹介しない。

一人称小説で、これほど読みやすいものは珍しいと思う。

全200ページの本だが、2時間程度で簡単に読める。

是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。


鹿の王 2015年本屋大賞受賞作 中央アジアを舞台にしたファンタジー小説

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
上橋 菜穂子
KADOKAWA/角川書店
2014-09-24


鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐
上橋 菜穂子
KADOKAWA/角川書店
2014-09-24


2015年の本屋大賞を受賞した文化人類学者の上橋菜穂子さんの小説。

中央アジアの一国で、現在は隣国の東乎瑠(ツオル)に併合されたアカファ国の戦士ヴァンと、東乎瑠(ツオル)の医師ホッサルが活躍する物語。

KADOKAWAがこの本の紹介サイトを開設しており、そこに登場人物のマンガがある。登場人物のイメージが湧くと思うので紹介しておく。

鹿の王















出典:KADOKAWA 鹿の王特設サイト

アカファ国の戦士「独角」は、東乎瑠(ツオル)との防衛戦で全滅し、リーダーで飛鹿(ピュイカと呼ばれる乗鹿用の鹿)乗りの名人のヴァンは捕虜となり、岩塩鉱山で強制労働を強いられる。

ある日、岩塩鉱山に狼に率いられた狼犬の群れが突入し、鎖を自力で断ち切って逃げ出したヴァンと、かまどに隠されていた赤ん坊のユナ以外で鉱山に居た全員は狼犬(半仔=ハンチャイと本の中では呼ばれる)に襲われて死んでしまう。

狼に率いられた狼犬の群れは、東乎瑠(ツオル)の支配者の鷹狩りにも乱入し、東乎瑠(ツオル)の王の長男までもが狼犬にかまれて命を落とす。

この病は高熱が出て、全身に発疹が広がるという症状を示すものだが、単なる狂犬病ではなく、狼犬にかまれなかった者も同じ病で命を落とす者が続出する。狼犬の血をすったダニからも感染していたのだ。

東乎瑠(ツオル)の医師ホッサルは、この病が単なる狂犬病とは異なることに気づき、血清をつくるために狼犬にかまれても死ななかったヴァンを狩人のサエに頼んで探す。

病気を調べていくとホッサルは今回の一連の出来事の裏で、大掛かりなたくらみを企てている者がいることに気づく……。

というような雄大な自然を背景にしたドラマだ。

作者の上橋 菜穂子さんは医者ではないが、伝染病のことを相当研究していることがわかる。

医師のホッサルを主人公として描いていることから、この本は医療小説として2015年の日本医療小説大賞を受賞している。

単行本で上下1,100ページ余りの大作なので、何日もかかって読んでいるうち、東乎瑠(ツオル)とか飛鹿(ピュイカ)とかの独特の読み方をつい忘れてしまうが、気にせず読んでいくと、またフリガナがふってあって親切である。

医療小説という一面もあり、同じ中央アジアを舞台としている井上靖の「蒼き狼」や「楼蘭」の様な壮大さはないが、興味深く読める小説である。

蒼き狼 (新潮文庫)
井上 靖
新潮社
1954-06-29



楼蘭 (新潮文庫)
井上 靖
新潮社
1968-01-29




参考になれば次クリックお願いします。


ノルウェイの森 1千万部を超える村上春樹のベストセラー

今度あらすじを紹介する村上春樹さんの「職業としての小説家」が大変よかったので、村上春樹作品をいくつか読んでいる。

職業としての小説家 (Switch library)
村上春樹
スイッチパブリッシング
2015-09-10


まずは出世作の「ノルウェイの森」を読んだ。累計で1千万部売れたという超ベストセラーだ。






ビートルズの「ノルウェイの森」はビートルズの楽曲の一つとして、登場人物のレイコさんがギターで演奏する場面が出てくる。



インドの楽器、シタールが印象的な曲だ。ちなみに「ノルウェイの森」という曲のタイトルは誤訳とされている(ノルウェイの木材=安普請の部屋というような意味だそうだ)。

主人公は大学紛争が盛んだった1970年代の初めに入学した学生だ。大学のキャンパスはロックアウトされ、学生のロックアウトを機動隊が実力で排除していた時代だ。

筆者は1972年に大学に入った。最初の2か月は大学がロックアウトされていて授業がなかった。暴力的なものではなかったが、国立大学の授業料値上げに反対して、学生がキャンパスをロックアウトしていたのだ。

ちなみに当時の国立大学の授業料は月千円で、これを3倍の3千円にすることに学生が反対していたのだ。幼稚園より大学の方が授業料が安いといわれたものだ。

筆者の入学年度の学生は、変則的に最初の半年は月千円、残りの3年半は月3千円となっていた。筆者より1年上の年次までは、卒業まで月千円が維持された。当時の授業料は入学年度ごとに決まっていたのだ。

村上さんは筆者よりすこし年上だから、大学紛争が激しかったころを経験しているはずだ。

閑話休題。小説のあらすじは、いつも通り詳しく紹介しない。

大学で演劇を学び、いろいろな大学の学生が住む学生寮に暮らす主人公と、高校の同級生で、恋人が排ガス自殺してしまった女子学生の直子、それと主人公と同じ大学で演劇学を学ぶ実家の本屋が閉店してしまった同級生の緑が織りなす物語だ。

同じ学生寮に暮らす東大法学部の外交官志望の永沢さんや、直子が大学をやめて暮らす精神病療養所の同室の元ピアノ教師レイコさんなどがストリーにひねりを加える。

大学紛争の末期に大学に入った筆者は、同世代の話として、つい引き込まれてしまうストーリー展開で、大変楽しめた。

この小説は松山ケンイチ主演で映画化もされている。



どうでもいいことだが、映画では、永沢さんを演じるマッサンの玉山鉄二は、なめくじを食うシーンはあるのだろうか?たぶんゼリーで作ったなめくじを食べて演技するのだろうけど…。

これといった結論じみたものはないが、なめくじシーンに限らず、強烈な印象を残す小説である。


参考になれば次クリックお願いします。


銀翼のイカロス 半沢直樹シリーズ最新作

銀翼のイカロス
池井戸 潤
ダイヤモンド社
2014-08-01


堺雅人主演のテレビドラマで、大ヒットを記録した「半沢直樹」シリーズの最新作。

むちゃくちゃ面白い。そのままテレビドラマになりそうだ。図書館で1年近く待った価値が十分ある。

テレビドラマで、金融庁のオネエ調査官、黒崎を演じた愛之助や、中野渡頭取を演じた北大路欣也のイメージが残っているせいもあるが、出てくる場面がビビッドにイメージできる。



今回は帝国航空というJALを思わせるようなナショナルフラッグ・キャリア救済の話だ。

いつかあったような設定だ。

選挙で地滑り的な勝利をおさめ、進政党が憲民党に代わって政権政党となった。

進政党内閣の目玉として、国交省大臣に元アナウンサー出身の白井亜希子が就任し、就任会見で、帝国航空の危機を救うため私的諮問機関としてタスクフォースを結成する旨発表する。

そのタスクフォースのトップは、いままで企業再建を手掛けて実績のある、チェーンスモーカーの乃原(のはら)弁護士という設定だ。

その乃原弁護士は、小学校の同級生で銀行の支店長の息子だった紀本(現在は東京中央銀行の常務で債権管理担当)に、実家の町工場が倒産したことをクラス中にバラさられて、恨みを抱いている。

そして今は乃原が紀本が東京第一銀行時代にかかわった過去の不適正融資を知り、紀本を脅す立場にある。

東京中央銀行は、東京第一銀行と、産業中央銀行が合併してできた銀行だ。いまだに旧T(東京第一系)、旧S(産業中央系)と呼んで、派閥争いが続いている。

旧産業中央出身の中野渡頭取は、行内融和に腐心しているが、旧東京第一出身の紀本は、旧東京第一出身者の部下に命じて、過去の不適正融資関連の書類を秘密の書庫に保管させ、過去の不祥事の隠蔽を図っている。

タスクフォースの乃原は、すぐに結果を出すために、銀行団に対して、巨額の債権放棄を迫る。

大物政治家が動き、女性大臣が圧力をかけるなかで、過去の巨額の不適正融資が明るみにだされそうになり、東京中央銀行のなかでも、債権放棄を受諾しようという動きが出てくる。

それに敢然と立ち向かうのが、中野渡頭取より帝国航空担当者として指名された営業第二部次長の半沢直樹だ。

今回は「倍返し」は1回しか出てこないが、それでも「半沢直樹」節が全開だ。

是非ドラマ化して欲しい作品だ。


参考になれば次クリックお願いします。


ペテロの葬列 宮部みゆきの「人物リサイクル小説」

ペテロの葬列
宮部 みゆき
集英社
2013-12-20


夏休みの旅行中に宮部みゆきのベストセラー小説を読んだ。

この小説は、TBSで2014年に小泉孝太郎主演でドラマ化されている



ドラマでは、ピストルを持ったバスジャックの犯人を長塚京三が演じている。

長塚京三は今年70歳ということで、年は原作の人物と同じだが、原作ではひ弱そうな70歳の老人となっているので、やや違和感がある。

作品のストーリーはいつも通り詳しく紹介しない。今多コンツェルンの社内誌「あおぞら」の編集部に勤務する杉村三郎は、今多コンツェルンの今多会長の娘と結婚し、桃子という娘がいる。

あるとき杉村は、編集長と一緒に元今多コンツェルンの財務トップで今は千葉県で引退している森の自伝を編纂すべく、森をインタビューした帰りに、ピストルを持った老人によるバスジャックに会う。バスジャックは短時間に解決するが、その後、犯人が予言した通り、不可解なことが起こる。

バスジャックで一緒に人質になった人たちが協力して、謎を解いていくという展開だ。

いわば「人物リサイクル小説」で、登場人物一人ひとりが過去や、事件後に異なる役割を果たしている。

バスジャック犯自身は、豊田商事グループ詐欺事件のような、詐欺犯を育成するトレーナーだったという設定だ。豊田商事事件については、知らない人も多いと思うので、Youtubeに載っている事件のビデオを紹介しておく。

豊田商事の32歳の社長が、マスコミが集まっている前でナイフで殺されるという驚くべき事件が起こっている。



「人物リサイクル小説」なので、”この人にこんなことやらせなくとも…”と思うような展開もあるが、新しい登場人物がいないので、その意味では登場人物を覚えやすい。

単行本で700ページもの作品だが、思いがけない展開で、ひきつけられる。

宮部みゆきさんの芸風の広さには感心する。このブログでは、「ソロモンの偽証」「荒神」を紹介しているが、それ以外にも「蒲生邸事件」とかも大変面白い。




荒神
宮部みゆき
朝日新聞出版
2014-08-20



蒲生邸事件 (文春文庫)
宮部 みゆき
文藝春秋
2000-10



筆者は3日で読んでしまった。連休や夏休みなどの時間がある時に、没頭できる小説としてお勧めする。


参考になれば次クリックお願いします。


草の花 西伊豆戸田を描いた福永武彦の小説

草の花 (新潮文庫)
福永 武彦
新潮社
1956-03-13


筆者は西伊豆の戸田(へだ)に毎年夏に行く。夏休みに戸田に行きたくて1年間働いているようなものだ。大学4年生の時は戸田で20日以上過ごしたし、卒業後も独身時代は毎夏数日行っていた。

結婚して家族ができると、なかなか一人で戸田に行くのは難しくなったが、子供が大きくなるにつれ、また一人で行けるようになった。

毎年戸田には沼津から船で行っていたが、戦前から続いた伝統ある定期船も残念ながら昨年で廃止された。

筆者の場合、行きか帰りに沼津港に寄って「双葉寿司」で食事するというのが、戸田に行く楽しみの一つだ。

しかし、定期船がなくなると、修善寺からバスで行かざるをえず、そうなると沼津港に寄るのはかなり寄り道となる。今年は「双葉寿司」にも行けなくなるかもしれない。

戸田に行くのは、そこに大学の保健体育寮があり、昔の寮委員の仲間が集まるからだ。

戸田寮は創設120年ちかい伝統ある寮だ。そんな寮での戦前の弓道部の合宿生活が取り上げられている小説が福永武彦の「草の花」だ。

学生時代に読んで、もう読んだこと自体も忘れていたが、先日寮委員のOB会があり、後輩から教えてもらって読んでみた。

福永武彦は1979年に亡くなっているので、すでに没後36年も経つが、この3月に福永武彦の経歴をまとめた「『草の花』の成立―福永武彦の履歴」という本が出版されている。

独特な描写は病的ともいえるほど繊細で、依然として人気のある作家である。



物語は戦争が終わって間もない昭和20年代の結核病棟(サナトリウム)でスタートする。

6人部屋で恢復中の「私」と、近くのサナトリウムから転院してきた大学同窓生が知り合い、その同級生は成功の確率の低い肺の摘出手術を自ら志願し、術中死する。

私に託された2冊の大学ノートを開くと、彼の2つの物語が綴られているという展開だ。

最初の物語は、戦前の旧制第一高等学校の弓道部が、春の合宿を西伊豆の戸田寮で行うところからスタートする。

文庫本の表紙絵にもなっている和船がなつかしい(表紙の絵は艪(ろ)が流されて漂流している時のものなので、艪は書いていない)。

艪で漕ぐ和船の操船は難しいが、筆者は戸田寮にいたおかげで和船の操船はお手の物だ。 伝統的な和船の操船風景がU-tubeに載っている。



弓道部の先輩・後輩で惹かれあう、今でいうとボーイズラブの苦悩が繊細なタッチで描かれている。

2番目のノートに綴られた物語は、その弓道部の美しい後輩が若くして病死し、残された妹を愛するというストーリーだ。

戦時中の話で、いずれ来る召集令状(赤紙)の恐怖、キリスト教の信仰心、純粋な愛などが中心テーマだ。

漱石の「こころ」は「先生」からの手紙だったが、「草の花」では術中死した友人のノートが物語を伝える。

こころ (新潮文庫)
夏目 漱石
新潮社
2004-03


やはり青春時代に読む小説で、オッサンの筆者が読むのは、やや場違いという感じもあるが、ともあれ、夏の戸田で過ごした学生時代のことなどが思い出されて楽しめる。


参考になれば次クリックお願いします。


1941年。パリの尋ね人 今年のノーベル文学賞作家 モディアノの作品

1941年。パリの尋ね人
パトリック モディアノ
作品社
1998-07


ノーベル文学賞受賞者発表の時期が近づくと、かならず村上春樹さんの名前が候補として挙げられるが、正直言って、筆者は村上春樹さんのような流行作家がはたしてノーベル文学賞を受賞するのか疑問に思っている。

たとえば今年ノーベル文学賞を受賞したのは、日本ではほとんど名前が知られていないパトリック・モディアノというフランス人作家だ。

どんな作家なのか興味があったので、モディアノの作品を読んでみた。

最初に読んだのが、この「1941年。パリの尋ね人」だ。

この作品は、ドイツ占領下のフランスでユダヤ系住民がどんどん逮捕され、アウシュビッツなどの強制収容所に送られた時代を取り上げている。その数7万5千人余り。

原題は「ドラ・ブリュデール」で、1941年12月31日の「パリ・ソワール」誌に掲載された尋ね人広告で、行方を捜された15歳のユダヤ系少女だ。

この作品は小説というよりは、尋ね人広告の背景と結末を調査した報告書のようなものだ。

モディアノはたまたま気づいたドイツ占領下のパリの尋ね人広告に興味を抱いた。

15歳の少女が行方不明。1941年12月31日に尋ね人の広告が出される。

どんな家族が広告を出したのか?行方をくらました15歳の少女がどうなったのか?両親と少女はどうなったのか?

少女は結局1942年4月に両親の元に戻ってきたが、その間にポーランド系ユダヤ人の父親は逮捕され、収容所に入れられていた。少女もほどなく逮捕されて父親と同じ収容所に入れられる。

1942年9月18日、父親と一緒に少女はアウシュビッツ行の第34移送列車に乗せられる。

1942年9月20日列車がアウシュビッツ到着。移送された1、000人のうち、859人は到着とともにガス室に送られた。少女と父親もガス室で息絶えた。

1943年1月ハンガリー系ユダヤ人の母親も逮捕される。2月に第47移送列車で、母親もアウシュビッツに送られる。

移送者数998名のうち、802名は到着とともにガス室に送られる。少女の母親もガス室で死亡。

まさに映画「シンドラーのリスト」そのものだ。

シンドラーのリスト [Blu-ray]
リーアム・ニーソン
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2014-12-03





もちろんフランスの警察がゲシュタポに協力したからこそ、ユダヤ系の人びとが逮捕されたのだ。

フランス警察そのものが対独協力者といってよい。

重い作品である。

作者のモディアノ自身もユダヤ系の血をひく。

父親はギリシャ系ユダヤ人で、ドイツ軍占領中は偽名を使って闇屋として活躍していたという。父親とは一度会ったきりだったという。

母親はベルギー生まれの女優。

モディアノは生まれた時から両親からほとんどかまってもらえず、2歳年下の弟のリュディと寄宿舎に入れられた。10歳の時に、弟のリュディが白血病で死んで、ショックを受ける。

モディアノ自身、「自分は占領時代の汚物から生まれた」と語っている。

ドイツ占領下のフランスで、ドイツ軍に協力したヴィシー政権などの人びとは、戦後リンチで殺されたり、裁判にかけられたりして1万人が死んだという。

ユダヤ人連行の歴史はフランスがあまり知られたくない歴史なのだろう。

そんな暗黒の歴史に迫る作品である。

こんな重い作品を読むと、村上春樹のノーベル賞受賞の可能性は限りなく低く思えてくる。そんな気になる作品である。


参考になれば次クリックお願いします。


天地明察 やはり本屋大賞受賞作は面白い

天地明察(上) (角川文庫)
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-05-18


2010年の本屋大賞を受賞した、江戸時代の改暦(暦を800年もの間使われてきた中国の唐でつくられた宣明暦から日本独自の貞享暦に変えた)を題材にした作品だ。作者は冲方 丁(うぶかたとう)さん。

明察とは正解のことだ。

本屋大賞受賞作は、このブログでも何冊か取り上げている。この作品も含めて、大変面白い作品ばかりだ。

2014年 「村上海賊の娘」
2013年 「海賊と呼ばれた男」
2012年 「舟を編む」
2011年 「謎解きはディナーのあとで」
2010年 「天地明察」

岡田准一主演で映画にもなっているので、こちらも見てみた。原作から一部ドラマタイズした部分があるが、物語の重要な構成物の一つの神社に貼られた絵馬に書かれた算術の問題がどういうものかわかり、江戸時代の算術の計算方法や当時の天体観測のやり方がわかって大変参考になる。今ならレンタルビデオで2泊100円で借りられるので、こちらもおすすめだ。

天地明察 [DVD]
岡田准一
角川書店
2013-02-22


マンガにもなっている。



江戸時代の将軍の前で「御前碁」を打つ碁打ち衆として登城を許された4家(安井、本因坊、林、井上)出身の安井算哲、後の渋川春海の物語だ。

安井算哲は、碁打ち衆ながら、算術と天文にも興味を持ち、算術塾の村瀬塾にも出入りするうちに、稀代の天才和算学者・関孝和の存在を知る。

算哲は、関に向けて絵馬で算術問題を出すが、関は不明な記号を書きつけて、解答しなかった。実は、問題が間違っていたのだ。

算哲は日本全国で北極星を観測して各地の緯度を図る「北極出地」観測隊に組み入れられ、2年間の間日本全国を旅する。その間に、誤問の恥をそそぐため、関孝和向けに算術の設問を考えて、再度挑戦する。

江戸帰還後、算哲は天文の知識と算術の知識を駆使して、800年間使われてきた宣明暦を変える一大プロジェクトのリーダーとして改暦作業を始める。

最初に選んだのは授時暦だ。

日本の暦は天皇が決めるので、朝廷対策として宣明暦、元の時代に編み出された授時暦、明の時代に授時暦を修正した大統暦の3暦勝負を始めるが、…。

好事魔多し。最後の最後で授時暦は部分日食を外してしまう。

失意の算哲は関孝和の研究成果も使って、3暦勝負の敗因を研究し、今度は…。

というようなストーリーだ。映画では宮崎あおいが演じる算術塾の村瀬の親類の娘・えんが小説に花を添える。

まるでノンフィクションかと思わせるように、江戸幕府の大老、老中などの要人、算哲を支援する会津藩藩主、水戸光圀、北極出地の観測隊上司、最強の碁打ち衆・本因坊道策などの登場人物が小説に深みを与えている。

大変面白い本だった。「本屋大賞の本は必ず読もう」という気にさせる本である。


参考になれば次クリックお願いします。


原発ホワイトアウト 現役霞が関官僚が鳴らす原発再稼働への警鐘

原発ホワイトアウト
若杉 冽
講談社
2013-09-12


東大法学部卒の現役霞が関官僚の若杉冽(れつ)さんが書いたという原発再稼働への警鐘を鳴らす小説。

小説のあらすじは、いつも通り詳しくは紹介しない。

原発再稼働を推し進める経済界、経済産業省と政治家四世の総理(名前は出てこない)をトップとする「保守党」政権のトライアングル。その背景には、電力をめぐる巨大な政治資金の流れがある。

経済産業省(資源エネルギー庁)から分離・独立はしたが、依然として経産省シンパの原子力規制庁と原子力規制委員会。

原子力規制庁の幹部職員は、原子力推進官庁には戻らないというノーリターン・ルールがある。しかし、経産省出身の幹部は依然として経産省ファミリー意識でいる。

直接の電話では「オレ」、「オマエ」の仲の資源エネルギー庁高官と原子力規制庁高官。

地元の知事や市町村長の同意がないと原発の稼働はできないというルールは、法律上の根拠がない。しかし、法律上の根拠がなくても今や地元自治体の首長のOKがなければ、事実上、原発再稼働はできなくなっている。

そのルールに基づいて、「関東電力」の新崎原発の地元の新崎県の伊豆田知事(新潟県の泉田知事を連想させる)が原発再稼働の安全性について正論をぶつ。

しかし、原発再稼働トライアングルは、電力業界にたてつくものはたとえ知事であろうとも、国家権力を使って国策捜査で追い落とす。伊豆田知事は親類の政治資金問題で逮捕されてしまう。

そこで、経産省から原子力規制庁に出向している原子力反対派の課長補佐が、経産省と原子力規制庁幹部の癒着をマスコミにリーク。しかし、漏えい元をつき止められて、ねんごろになったフリーランスの女性記者と一緒に国家公務員法違反で逮捕される。

やがて、原子力規制庁の承認を得て、鉄のトライアングルが推進する15基の原発が再稼働する。

その冬は異常気象で超大型低気圧が発生していた。

大雪をもたらす超大型低気圧。

新崎原発への道路アクセスは遮断され、ホワイトアウト状態に。

5メートル先も見えないホワイトアウトのなかで、暗視ゴーグルをつけ、ある場所をめざして在日の同行者と一緒に雪をかきのけて進む元関東電力社員。

そして二人は雪の中で……というようなストーリー展開だ。

「関東電力」は、地域対策関係者として地元のマスコミ、県市町村議会議員、農協、ゼネコン、商工会、県庁幹部、市役所幹部、教職員組合幹部、はては在日朝鮮人や地元の暴力団関係者までリストアップしていると。

「関東電力」はフリージャーナリストも年収1千万円を超える丸抱えのAランクジャーナリストを十数名、それ以外にも多くのジャーナリストを抱えて、電力会社を擁護する記事を様々な場所で書かせていたという。

どちらも、いかにもありそうな話だ。

匿名の著者は東大法学部卒だそうだが、面白いことを登場人物の資源エネルギー庁の高官に言わせている。

「最高学府とは東京大学のことをいうのではない。東京大学法学部のことをいうのだ。経済学部出身の小島(日本電力連盟常務理事、元関東電力総務部長)が検察に働きかけたからといって何ができるというのだ。」

「東大法学部と経済学部の偏差値の差も、経産省のキャリア官僚と電力会社社員との社会的立場の差も…。」

その資源エネルギー庁の高官は「家柄こそ平凡なサラリーマンの子息ではあるが、四谷大塚(小学生の中学受験指導塾)で総合順位一桁、筑駒出身…」だという。

「四谷大塚」なんて、ひょっとして著者自身のことかと思わせる。

ともあれ、原子力発電についてかなりの知識がある原発反対派の人が書いた本であることに間違いはない。

世論に一石を投ずるということなのだろう。

一部には、日本の重電メーカーは欧米並みのコアキャッチャー(メルトダウン防止のために底を極端に厚くした格納容器)がつくれないとか、疑問を感じる部分もある。

筆者が駐在していたピッツバーグに本社のあった世界三大原発メーカーの一つのウェスティングハウスは東芝に買収された。日本の重電メーカーがつくれないはずがないと思うが。

小説の結末としては、「想定内」ではあるが、起こりうる事態かもしれない。

堺屋太一さんが通産省の現役官僚の時に、匿名で出版した「油断!」の衝撃には到底及ばないが、面白くて一気に読める。

油断! (日経ビジネス人文庫)
堺屋 太一
日本経済新聞社
2005-12


原発推進派の人も、原発反対派の人も、それなりに得るところのある本だと思う。


参考になれば次クリックお願いします。


村上海賊の娘 まるでマンガ

村上海賊の娘 上巻
和田 竜
新潮社
2013-10-22


週刊新潮に約2年間にわったって連載された小説。人気のある本なので読んでみた。

著者の和田竜(りょう)さんは、「のぼうの城」で小説家デビューしている。




「のぼうの城」は映画化され、和田竜さんが脚本を書いている。戦国時代、秀吉に攻められる小田原北条氏の傘下の城の攻防戦を取り上げた物語だ。



この「村上海賊の娘」は上下1,000ページ弱の本で、上巻は陸戦、下巻は海戦の場面が続き、それぞれ数日かかるが、一気に読める。

驚かされるのは、そこここに資料を引用して、あたかもノンフィクションのようなテイストを与えていることだ。

この種の歴史小説としてはすごい量の参考文献が巻末に紹介されている。こんな具合だ:

img057















img058
















出典:本書下巻巻末

小説のあらすじはいつも通り詳しく紹介しない。戦国時代、天下統一を目指す織田信長は、浄土真宗の総本山で大阪で絶大な権力を握る大坂本願寺(石山本願寺)を攻め、本願寺を包囲し、兵糧攻めを行った

大坂本願寺は諸国の大名に支援を求め、毛利氏がこれに応じ、10万石もの大量のコメを送った。このコメの輸送を担当したのが、毛利氏に味方した村上水軍だった。

織田信長は、毛利・村上水軍に対抗するため、真鍋氏を中心とする水軍で迎え撃った。これがこの本が描く第一次木津川口の戦いだ。

村上水軍の娘、村上景(きょう)は、この第一次木津川口の戦いで活躍する。

ちなみに、信長の秘密兵器としてよく知られている鉄甲船が登場するのは、この2年後の第二次木津川口の戦いで、この本には鉄甲船は登場しない。その後、大坂本願寺は火災で焼失し、そのあとに秀吉が築城したのが大阪城だ。

まるでマンガ、あるいはアクション映画、というストーリーだ。

敵でも味方でも、中心人物はどれだけ敵が多くて、矢や鉄砲を浴びても、何十人もの敵を切り倒して生き延びる。

敵(かたき)役は敵役で、死んだように見えても必ず復活する。

戦闘の場面は息も尽かさぬ展開ではあるが、食事や恋愛、操船や剣術の訓練など、普通の生活の場面の描写がほとんどないことが、マンガか?という平板な印象を与えている。

ともあれ、速い展開で、一気に読めるエンターテインメント作品である。


参考になれば次クリックお願いします。


夢を売る男 百田尚樹さんの出版界を描いたブラックユーモア小説

夢を売る男
百田 尚樹
太田出版
2013-02-15


処女作「永遠の0」が映画化とともに、爆発的に売れ、「海賊とよばれた男」も本屋大賞一位と、一躍売れっ子作家になった百田尚樹さんの出版界を題材にした小説。

まさに小説はエンターテインメント、文句なしに楽しめる。

主人公の牛河原勘治は、中小出版社の丸栄社の取締役編集部長。元は文芸出版社の夏波書房の編集長だったが、売れない小説ばかり出すことに疲れて、印刷会社上がりの丸栄社に転職した(この岩波書店を想起させる夏波書房というのが、大沢在昌がいう「小説のトゲ」だ)。

丸栄社は、著者に出版費用を一部負担させるというジョイント・プレスというビジネスモデルで、他の出版社が本が売れなくて万年赤字経営が続いているのを尻目に、毎年大幅な黒字を続けていた。

普通の自費出版なら30万円程度で、本はすべて著者のものになる。

しかしこのジョイント・プレスという方式は、著者が200〜300万円を負担するにもかかわらず、できた本自体はすべて丸栄社のものだ。

本が欲しかったら著者は自分で著者割引を受けて、丸栄社から購入しなければならない。もう絶版というときには、著者はあわてて500部単位で購入する。

本が売れても売れなくても、丸栄社は儲かる。丸儲けのビジネスモデルなのだ。

プライドの高い素人や、どうしても自分の本を出したい作家志望者などを、どんどん落として、本を出させていく口八丁、手八丁のやりとりが軽妙で面白い。

曰く、「新聞広告を出す」、「取次ルートで販売する」、「ISBNコードもつく」、「国会図書館にも納められる」、「プロが編集し、校正する」等々。

百田さん自身も、

「元テレビ局の百田何某(なにがし)みたいに、毎日、全然違うメニューを出すような作家も問題だがな。前に食ったラーメンが美味かったから、また来てみたらカレー屋になっているような店に顧客がつくはずもない。しかも次に来てみれば、たこ焼き屋になってる始末だからな」

「馬鹿ですね」

「まあ、じきに消える作家だ」

という風に登場する。

一作ごとに違った芸風なのはさすがだ。このブログで小説家育成講座の「売れる作家の全技術」を紹介した大沢在昌は、次のように言っている。

「プロになっても、引き出しが少ないために苦労している人は実はたくさんいる。書く時間よりも読む時間をはるかに多く持ち、どんどん読んで、どんどん引き出しを増やして、アイデアを膨らましている人が作家を目指している。」

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング)
2012-08-01


まさにこの通り。百田さんの引き出しの多さには敬服する。

この程度のあらすじにとどめておく。大変楽しめる小説である。

是非一読をおすすめする。

なお、本当に本を出したい人には、商社に勤めるビジネスマンが書いた、こちらの本をおすすめする。

ビジネスマンのための40歳からの本を書く技術
三輪 裕範
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2009-01-18




参考になれば次クリックお願いします。



ソロモンの偽証 2,200ページを読み切るのはエネルギーが要る

ソロモンの偽証 第I部 事件
宮部 みゆき

新潮社
2012-08-23


ソロモンの偽証 第II部 決意
宮部 みゆき
新潮社
2012-09-20


ソロモンの偽証 第III部 法廷
宮部 みゆき
新潮社
2012-10-11


タイトルに惹かれて、宮部みゆき著「ソロモンの偽証」3部作、全2,200ページを10日ほどで読み終えた。

筆者は本は図書館で借りて、よっぽど気に行ったものだけ読んだ後買う様にしている。図書館から借りれば、2週間以内に返却する必要があり、必ず読むからだ。

この本も図書館から借りて読んで正解だった。自分で買ったら、途中で読み疲れて止めてしまっただろうと思う。

小説のあらすじはいつもどおり詳しくは紹介しない。東京都内の中学校で、雪が降ったクリスマスイブに、不登校だった2年生の男子生徒が校舎の屋上から落ちて亡くなっているのが発見された。遺書はなかったが、その前の行動から両親は生徒が自殺したと思い、警察も自殺と断定した。

みんなが自殺だと思っていたところ、3カ月経って、中学校の不良グループの3人組が、その中学生を屋上から突き落として殺害した現場を目撃したという告発状が届く。

この告発がきっかけとなって、自殺した生徒の同級生が中心となって、夏休みに校内模擬裁判を陪審制で開催する。

はたして模擬裁判で真相は判明するのか?

意外な関係者とは?

…といった感じだ。

中学生が模擬裁判、それも陪審裁判をやるというプロットだけに、正直あり得ないストーリーだと思ったが、作者の宮部みゆきさんは、この作品のホームページにある「インタビュー」の中で次の様に語っている。

「一九九〇年に神戸の高校で、遅刻しそうになって走って登校してきた女子生徒を、登校指導していた先生が門扉を閉めたことで挟んでしまい、その生徒が亡くなるという事件がありました。その後、この事件をどう受け止めるかというテーマで、校内で模擬裁判をやった学校があった。それがすごく印象に残っていたんです。」

また、小説家になる前に、宮部さんは法律事務所に勤めていたという。法廷のことに詳しいはずだ。

「ソロモンの偽証」の紹介サイトを新潮社が開設している。

ソロモンの偽証1














ホームページには、登場人物の関係図も載っている。

ソロモンの偽証2













宮部みゆきさんの著者メッセージの肉声も聞けるようになっており、面白い。

ソロモンの偽証3














既に2015年正月公開の映画化が決定され、出演者の中学生全員をオーディションで選出するとして話題になった。

ソロモンの偽証4














ソロモンの偽証5














本を全部読み切るのはかなりエネルギーが要るが、興味をそそるタイトルでもあり、まずは読み始めることをお勧めする。


参考になれば次クリックお願いします。


浜村渚の計算ノート 数学の知識を使った新しいタイプのミステリー小説



またまた「おっさんが読む本ではない」と言われそうだが、この本の著者の青柳 碧人(あおやぎあいと)さんに、内田朝陽君のお父さんが経営している六本木のラミーズでお会いした。

一緒に来られていた講談社の文庫出版部の鈴木副部長からこの本を頂いて、すぐに読んだ。しかし、大変申し訳ないことに今まであらすじを書くのを忘れていた。

タイトルに記したように、数学の知識を使った全く新しいタイプのミステリー小説だ。浜村渚シリーズで累計40万部を売り上げたヒット作となっているという。

世界には同様の数学の知識を使った小説があるのかもしれないが、日本では青柳 碧人さんがパイオニアだろう。数学の公理を取り入れたクイズをミステリーの謎解きに使っている点が面白い。

小説のあらすじは、いつも通り詳しくは紹介しない。

日本の数学教育を代表するドクター・ピタゴラスこと高木源一郎は、日本全国に普及している数学教育ソフトを使って20年間にわたり日本の若者を教育してきた。ところが、その数学教育ソフトには、高木から指令を受けると受講経験者が操られてしまうというサブリミナル効果の仕組みが施してあった。

日本政府の数学を義務教育科目から外すと言う決定に憤った高木は、「黒い三角定規」と呼ばれる集団を立ち上げ、高木の数学教育ソフトを受講した38歳以下の人たちを操って日本各地で事件を起こす。

若い捜査員のほとんどが高木の数学教育ソフトの受講経験者なので、頭を抱える警視庁「黒い三角定規・特別捜査本部」。そこへ救世主として現れたのが千葉県の中学校2年生の浜村渚だ。



この目のトロンとした女子中学生が得意の数学を駆使して、警視庁の調査に協力する。

第1話目(log10=1)は「ぬり絵をやめさせる」。長野県で名前に「あか」、「あお」、「き」、「くろ」の入った人ばかりが連続して殺害されるという事件が起こった。高木源一郎がサブリミナル効果を利用して若者を操って、殺人を起こさせたのだ。

被害者の住んでいる場所を、それぞれの名前の色で塗ると…。奇想天外な対抗策が面白い一作だ。

第2話(log100=2)は「悪魔との約束」。今度は高木源一郎は、無色無臭の揮発性毒物で美術館を襲う。毒物を盗んだ疑いがある犯人は、渋谷の数学喫茶「カルダノ」によく行っていたという。

ここで「0=ゼロは悪魔の数字」という話が出てくる。ゼロで割って、さらにゼロを掛けると次のような式が成り立つ。

1/0=2/0 → 両辺にゼロを掛けて分母のゼロを消す → 1=2!?

これがこの話に重要なヒントだ。

第3話(log1000=3)は「ちごうた計算」。フィボナッチ数列というものがある。1、1、2、3、5、8、13、21…など、前の二つの数を足すと次の数になるという数列だ。これは自然界にも多く存在する。

奈良県在住の75歳の老数学者が「黒い三角定規」に狙われるという情報を得て、警視庁が保護のために奈良県に赴くと、老数学者は殺害された。

現場にはダイングメッセージとして「『夫』14+1337」という数式が残されていた。

『夫』14とはフィボナッチ数列の14番目、つまり377だ。377+1337は1714。研究所に勤める大学院生のイナイシ(稲石)のことか?しかし、…。

これまた奇想天外の展開で大変楽しめる。

第4話(log10000=4)は「π(パイ)レーツオブサガミワン」。今度は円周率だ。相模湾の津殿島を、「黒い三角定規」に賛同する円周率マニアの海賊集団が乗っ取った。武器を大量に持ち込んで、実弾発射訓練までして、数学を必須科目にすることを要求している。

こんどは「ルドルフの数」つまり、一生かかって円周率を下35ケタまで求めたルドルフ・ファン・コーレンがキーワードとなる。

円周率を10万ケタまで暗記している男が捜査協力者として登場する。

海賊メンバーの着ているTシャツの数字がヒントだ。3.14159265358979…と続く、円周率の何ケタめから何ケタめの数字なのか?

これまた奇想天外の展開だ。

著者の青柳碧人さんは、早稲田大学のクイズ研究会のOBだそうだ。

単にクイズ番組に出るだけではない、クイズ好きの本領を発揮した大変楽しめる全く新しいタイプのサスペンス小説である。

少女マンガのようなメルヘンチックの表紙を気にせず、是非手に取ってみてほしい。


参考になれば次クリックお願いします。


まほろ駅前狂騒曲 まほろ駅前多田便利軒シリーズ最新作

まほろ駅前狂騒曲
三浦 しをん
文藝春秋
2013-10-30


三浦しをんさんの、まほろ駅前多田便利軒シリーズの最新作。筆者の住んでいる町田市をモデルにしている。三浦しをんさんもかつて町田に住んで、書店でアルバイトをしていたようだ。

このシリーズは映画化され、多田便利軒のオーナーの多田に瑛太、いそうろう兼助手の行天に松田龍平という若手人気俳優が出演している。



第2作はテレビドラマになっている。




町田市は町おこしの一環で、映画が公開されるタイミングで通りの名前を「まほろ大通り」などに変えるなど、この小説を応援している。町田市図書館でも「まほろ駅前…」シリーズは大量に蔵書している。

この本も10月末に発売されたばかりの本だが、町田図書館で28冊も蔵書があるので、早めに予約したら12月にはもう読めた。

登場人物のイラストが楽しい。

scanner591






















出典:本書イラスト

いつも通り小説のあらすじは詳しく紹介しない。「まほろ」駅前にある便利屋ー多田便利軒をめぐる出来事だ。

多田は幼い息子の死をきっかけに、妻と離婚して今の便利屋稼業を始めた。

そこに転がりこんできたのが高校の同級生の行天だ。行天は女性同士のカップルに精子を提供して、子供をつくるのを手伝ったという過去がある。

この本で、行天は「怖いものがあるのか」と聞かれて、「あるよ。記憶」と答える。

なぜ記憶が怖いんだ?

行天の両親のことや、幼い頃のことが今回初めて明らかになる。

無農薬野菜をまほろ市各地で生産し、販売しているHHFA(Home and Healthy Food Association)という集団が今回登場する。

そのリーダーが行天を知っていた。なぜだ?

この集団と行天との接点は?

多田のロマンスや、行天の精子で人工授精して誕生した行天の娘・はるもはじめて登場する。

横中バス(神奈中バスのパロディ)の間引き運転有無の調査を多田に依頼するおじいさんや、息子に依頼されて息子を装って多田が見舞いに行く市民病院に入院している認知症のおばあさんなど、いわばレギュラー出演者も出てくる。(上のイラストから、それらしい人物がわかると思う)

470ページ余りの作品だが、一気に読んでしまう。まさにエンターテインメント小説である。


参考になれば次クリックお願いします。


永遠の0(ゼロ) 岡田准 一主演の映画が公開された

映画「永遠の0」が昨年12月に公開された。見てきた人の話では、CGを使った戦闘シーンや空母赤城の再現など、大変迫力ある楽しめる映画だったということだ。



予告編を見てもたしかに面白そうだ。今度見に行こうと思う。

2011年9月21日初掲:

永遠の0 (講談社文庫)永遠の0 (講談社文庫)
著者:百田 尚樹
講談社(2009-07-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

図書館でリクエストして百田尚樹さんのデビュー作の「永遠の0」を読んだ。

単行本は2006年、文庫本は2009年に出ているが、以前人気が高く、2ヶ月ほど待ってやっと手に入れた。

このブログでも紹介した「靖国への帰還」の様な小説ではないかと思っていたが、「永遠の0」は特攻で26歳で戦死した祖父の戦友を訪ねて話を聞くというストーリーだ。

靖国への帰還靖国への帰還
著者:内田 康夫
講談社(2007-12-15)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

昭和16年12月に真珠湾攻撃で始まった太平洋戦争開戦から、昭和20年8月の敗戦までの一連の流れを生き残った戦友の口から語るという形で、真珠湾攻撃や珊瑚海海戦ガダルカナル島の激闘、ラバウル航空隊ミッドウェー海戦、そしてマリアナ沖海戦沖縄戦フィリピン戦特攻特攻ロケット兵器桜花などについて説明している。

主人公の祖父は日本海軍のゼロ戦パイロットで、撃墜数何十という超エースながら、「生きて帰りたい」と希望を常に語る当時であれば許されないヒューマニスト軍人で、なぜか終戦直前に特攻に志願して戦死するという設定だ。





次が靖国神社の遊就館に展示されているゼロ戦だ。

800px-Mitsubishi_Zero-Yasukuni




出典:以下特に記載ないかぎり出典はすべてWikipedia

戦友の話は資料に基づいて構成しているのだと思うが、圧倒的な戦力と最新鋭軍事技術、そして数ヶ月戦闘に従事すれば、休暇で帰国できるという余裕をもった米軍と対比して、特に補給戦において様々な戦略の誤りを犯し、兵隊・下士官を死ぬまで酷使して消耗品扱いする日本軍のリアルな描写にはフィクションとはいえ思わず引き込まれる。

当初はゼロ戦の敵ではなかったF4F

F4F-4_Wildcat





そしてアリューシャン列島でほぼ無傷で捕獲されたゼロ戦を徹底的に研究して投入されたF6Fコルセア戦闘機

Hellcats_F6F-3,_May_1943




300px-F4U-1As_VF-17_NAN2-69











「マリアナの七面鳥狩り」と呼んで日本軍のカミカゼ攻撃をほとんんど無力化したVT信管(電波で飛行機を感知すると自動的に爆発する)などの説明もわかりやすい。

423px-MK53_fuze











小説のあらすじは詳しく説明すると読んだときに興ざめなので、この程度にとどめておく。予想外の最後の展開に驚くことをつけくわえておく。

文庫で600ページもの小説だが、一気に読めて大変楽しめる作品である。


参考になれば次クリックお願いします。


記事検索
Amazonライブリンク
最新コメント
訪問者数

    Categories
    • ライブドアブログ