プロフェッショナルマネジャープロフェッショナルマネジャー
著者:ハロルド・ジェニーン
販売元:プレジデント社
発売日:2004-05-15
おすすめ度:4.0
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ユニクロ社長柳井正さんが「私の最高の教科書」と絶賛する米国の多国籍企業ITTの元社長ハロルド・ジェニーンさんの経営指南書。

巻頭に柳井さんの紹介文「これが私の最高の教科書だ」、そして巻末に柳井さんの解説とまとめ「創意と結果、7つの法則」が付いている。まさに柳井さんが「私の教科書」と呼ぶ力のいれようだ。

この本の初版は1985年に出版された。柳井さんはユニクロの1号店を広島にオープンしたばかりで、ユニクロが小郡商事といってた時代に読み、大変衝撃を受けたという。

この本を読んで、柳井さんは自分の経営は甘いと思ったという。


三行の経営論

柳井さんが最も影響を受けたジェニーン氏の「三行の経営論」とは次の通りだ。

本を読む時は、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。


この言葉を柳井さんは実践して、その時々の目標を設定し、こうありたい姿を目指して現在のユニクロを築き上げたのだ。

実はこの本はブログを書き始める前の2004年に一度読んだ。

ジェニーンさんの「三行の経営論」とジェニーンさんが公認会計士からスタートしてトップに上り詰めたことなどが記憶に残っていたので、再度読み直してあらすじをブログに書いた。


ジェニーンさんの経歴

ジェニーンさんは1910年生まれ。両親は5歳の時に離婚し、母親は歌手だったので、ジェニーンさんと妹は修道院付属の寄宿学校で生活する。15歳の時に会社の使い走りとして就職し、ボーイをしながら何とか高校を卒業。広告会社の営業や証券取引所の場立などを経て、8年間かけてニューヨーク大学の夜学で公認会計士の資格を取る。

会計士として会計事務所に就職、戦争では海軍に志願するが、メガネのせいで不合格となる。戦時中は魚雷をつくっていたアメリカン・キャン(缶メーカー)に勤め、その後光学器械メーカーを経て、ピッツバーグのジョーンズ・アンド・ラフリン(J&L)のコントローラー、副社長となる。

筆者も何回か訪問したピッツバーグの製鉄所(Midland, PAというオハイオ川沿いの巨大な製鉄所だったが、筆者が駐在した当時はそのほんの一部しか使われておらず、大部分が廃墟と化していた)で勤務した後、ハーバード・ビジネススクールのエクゼクティブプログラムを受講。

1956年に軍事メーカーレイセオン社にNo.2として転職し、1959年にITT社長に就任する。ジェニーン氏が就任した時のITTの売上高は8億ドル弱、利益は3千万ドル弱だった。

ジェニーン氏は最高経営責任者として一株当たり利益を年10%以上増加させるという目標を掲げ、58四半期連続増益を達成した。ジェニーン氏が退任した1977年にはITTは多国籍コングロマリットとしてフォーチュン500の11位にランクされ、売上高166億ドル、利益六億ドル弱と売上高・利益ともに20倍になった。

ITTはレンタカーのエイビスを買収し、1968年にシェラトンホテルチェーンを買収している。シェラトンホテルチェーン立て直しには8年掛かったというが、毎年一億ドルの収益をもたらしてくれるという。

ジェニーンさんがこの本を出版した1980年代初めは、「セオリーZ]などと呼ばれた日本的経営が世界を席巻した時代である。

セオリーZ―日本に学び、日本を超える (1981年)

この本でもジェニーンさんは、日本とはたしかに文化の違いはあるが、日本の経営システムだけが勝因ではないと語る。

低い労働コスト、最新式の設備、政府援助(?)、産業政策などが日本が勝っている要因であると分析し、米国企業は日本と今後も競争できると語っている。

なにか現在の中国企業の説明の様で、歴史は繰り返すという感じだ。


この本の目次

この本の目次がよくまとまっているので、紹介しておく。

はじめに 「これが私の最高の教科書だ」 柳井正

第一章 経営に関するセオリーG
ビジネスはもちろん、他のどんなものでも、セオリーなんかで経営できる物ではない。Gはいうまでもなくジェニーンの頭文字。したがってセオリーGは、「ジェニーン理論」の意味である。

第二章 経営の秘訣
(三行の経営論)
本を読む時は、初めから終わりへと読む。
ビジネスの経営はそれとは逆だ。
終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。

ジェニーンさんがITT社長に就任して、まず出した方針は「今後、長期計画はいっさい無用とする」というものだ。しかしこれは計画をつくるあまり、四半期ごとの収益を気にしない風潮があったためである。

自分が何をやりたいのかしっかり見定め、それをやり始めよということだ。しかし言うは易く、行うは難しだ。肝心なのは行うことだという。

第三章 経験と金銭的報酬
ビジネスの世界では、だれもが二通りの通貨−金銭と経験−で報酬を支払われる。金は後回しにして、まずは経験を取れ。さらに、ビジネスで成功したかったら上位20%のグループに入ることが必要だ。

第四章 二つの組織
どの会社にも二つの組織がある。その一つは組織図に書き表すことができる公式のもの。そしてもうひとつは、その会社に所属する男女の、日常の、血の通った関係である。

世の中の事実の中には、次が混ざっているとジェニーンさんは語る。

1.「表面的事実」(一見事実と見える事柄)
2.「仮定的事実」(事実と見なされていること)
3.「報告された事実」(事実として報告されたこと)
4.「希望的事実」(願わくば事実であってほしい事柄)
5.「受容事実」(事実のレッテルを貼られ、事実として受け入れられた事実)

プロフェッショナル・マネージャーという最高の芸術は、本当の事実を嗅ぎ分け、それが「揺るぎない事実」であることを確認するひたむきさと、知的好奇心と、根性と、必要な場合には無作法を備えていなければならないという。

ITTの基本ポリシーは"No surprise"だという。悪いことはまず先に言うことだ。

第五章 経営者の条件
経営者は経営しなくてはならぬ! 経営者は経営しなくてはならぬ! 「しなくてはならぬ」とは、それをやり遂げなくてはならぬということだ。それはその信条を信条たらしめている能動的な言葉だ。

第六章 リーダーシップ
リーダーシップを伝授することはできない。それは各自がみずから学ぶものだ。ビジネス・スクールで編み出された最新の経営方式を適用するだけでは、事業の経営はできない。経営は人間相手の仕事なのだ。

第七章 エグゼクティブの机
机を見れば人がわかる。トップ・マネジメントに、いやミドル・マネジメントにでも、属する人間にとって、当然なすべき程度と水準の仕事をしながら、同時に机の上をきれいにしておくことなど、実際からいって不可能である。

第八章 最悪の病−エゴチスム
現役のビジネス・エグゼクティブを侵す最悪の病は、一般の推測とは異なって、アルコール依存症ではなくエゴチスムである。自分の成功を盾にエゴチスムをまき散らす社員、全体最適を考えず、自己最適に走る社員をどうすべきか。

第九章 数字が意味するもの
数字が強いる苦行は自由への過程である。数字自体は何をなすべきかを教えてはくれない。企業の経営において肝要なのは、そうした数字の背後で起こっていることを突きとめることだ。

第十条 買収と成長
難点はただ、大作戦にはいつもつきもののことだが、他のだれもが彼らと同じものを見、まったく同一の戦略を思いつくことだった。その結果として、彼らはみな、巨大市場をめぐって、トップメーカーと戦うことになる。

第十一条 企業家精神
企業家精神は大きな公開会社の哲学とは相反するものだ。大企業を経営する人びとのおおかたは、何よりもまず、過ちを −たとえ小さな過ちでも− 犯さないように心がける。 

第十二条 取締役会
勤勉な取締役会は、株主のために、この基本問題に取り組まねばならぬ。その会社のマネジメントの業績達成の基準をどこに置くか。去年または今年、会社がどれだけの収益を挙げたかではなく、挙げるべきであったか。

第十三条 気になること −結びとして
良い経営の基本的要素は、情緒的な態度である。マネジメントは生きている力だ。それは納得できる水準 −その気があるなら高い水準− に達するように物事をやり遂げる力である。

第十四章 やろう!

付録 「創意」と「結果」7つの法則 柳井正


具体例が満載


目次に示されているような理論だけでなく、具体例も満載である。いくつか印象に残った例を紹介しておく。

ある時ブラジル向け電話交換機商談で、「ブラジル大統領には会えないと思う」という現地責任者に、「なぜやってみないんだ。失うものはなにもないではないか」と言ったところ、翌月彼は大統領に会い、商談をまとめたという。

ヨーロッパ全体で深刻な在庫過多が起こっていたが、ある工場の資材積み卸し係に、注文した物以外は受け取りを拒否する担当を一人配置したら、在庫問題は解決した。そこで他の全工場にも受け取りを拒否する担当を置いて問題を解決した。


事前採算性検討(F/S)が大事という例だが、カナダのケベック州カルチェにセルロース工場を建設したが、極寒地方では樹木は直径3インチ以上には生育しないことを見落としていたという。我々は森を見たが、木を見なかったのだと。


創意」と「結果」7つの法則

ジェニーンさんの本をふまえた柳井さんの経営術の七点とは次の通りだ。

1.経営の秘訣 −まず目標を設定し、「逆算」せよ

2.部下の報告 −「5つの事実」をどう見分けるか

3.リーダーシップ −現場と「緊張感ある対等関係」をつくれ
柳井さんは、パート従業員を不当に解雇した店長は、即座にクビにするという。

4.意志決定 −ロジカルシンキングの限界を知れ

5.部下指導法 −「オレオレ社員」の台頭を許すな
柳井さんはエゴチスム社員を「オレオレ社員」と呼ぶ。

6.数字把握力 −データの背後にあるものを読み解け

7.後継ぎ育成法 −「社員FC制度」が究極の形だ。


柳井さんが絶賛するだけあって、会社経営の基本として大変参考になる。1980年代はじめに書かれた本だが、内容は決して陳腐化していない。

是非一読をおすすめする。



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