「時短読書のすすめ」の特選あらすじ第2弾は、「ウェブ進化論」だ。
一時は書店にも在庫がなくなったほどの2006年の超ベストセラーなので、読んだ人も多いと思うが、読んだ人は記憶を確認するために、これから読む人は、「時短読書」のためにこのあらすじを利用してほしい。
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2006-02-07
おすすめ度:
クチコミを見る
著者の梅田望夫(うめだもちお)さんはブログを『究極の知的生産の道具』と呼んでいるが、筆者も同感である。
このブログは筆者の備忘録も兼ねて作成しているが、この本についてはあまりに参考になることが多すぎて、あらすじが長くなりすぎてしまった。
だから別ブログの「あたまにスッと入るあらすじ」に掲載してあるのは公開版で、元の原稿は備忘録として非公開で保存していた、
既に多くの人がこの本を読んだと思うので、読んだ人の記憶のリフレッシュという意味も含めて、今回は非公開版の備忘録をアップデートしたあらすじを紹介する。
公開版と非公開版の2種類つくったのは、この本がはじめてだ。それほど参考になるとともに、intriguing(興味をそそられる)だった。
ベストセラーになるだけのことはある中身の濃い本である。新書の定価の740円以上の価値があること、筆者が請け合う。
2007年には梅田さん自身の講演を聞く機会もあった。実に真面目で偉ぶらず、「能ある鷹は爪を隠す」のことわざ通り自分の博識と広い交友範囲をひけらかすことがなかったのが印象的だった。
この本は、昔の仕事仲間で、東証マザーズ上場の日本最大の間接資材のネットショップMonotaROモノタロウの瀬戸社長に2006年始めに読んだ本で一番良いとすすめられて読んだ。
今世界のインターネット業界でなにが起こっているのか、どんな構造変化が起こっているのかよくわかる。
著者の梅田さんのブログによると発売して4週間で15万部売れているそうだ。筆者の近くの書店でも売り切れだったので、アマゾンで買った。まさに爆発的な売れ行きである。(結局最終的にどれだけ売れたのかネットで調べたがわからなかった。)
筆者は米国駐在時代の1999年にインターネットの威力と将来性に驚き、会社・上司の了解を得て、それまでの鉄鋼原料のトレーダーのキャリアから、インターネット関連業界に移った。
モノタロウの瀬戸社長は米国駐在からダートマスのMBAを取った異色の存在で、元々は鋼材トレーダーだが、鉄鋼原料を経て、インターネット関連業界に移った仲間だ。
筆者がインターネット関連業界に移った理由は、まさにPCスクリーンのあちら側に『未来』が見える様な気がしたからだった。
当時、ソニーの出井さんは『インターネットは(恐竜を死滅させたと言われる)巨大隕石だ』と表現していた。
日本に帰国してそれから5年余りたち、出張もせず東京で過ごしていると、アメリカや世界の情勢にどうしてもうとくなるが、インターネットで、いわば第2の隕石が落ちた様な変化が起きていることを思い知らされたのがこの本だ。
著者の梅田望夫さんは、シリコンバレー在住のコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ代表。梅田さんご自身のブログMy Life Between Silicon Valley and Japanもある。
梅田さんが常時寄稿しているCNETや、asahi.com、ITPROなどが梅田さんとのインタビューを載せているのでこれも参考になる。
現状分析がわかりやすく、かつ鋭い
まずは現状分析だ。現在のウェブ社会を次の3大潮流で説明している。
1.インターネット
リアル世界に対するバーチャル世界・経済の出現。文章、映像、動画等、知的財産をなんでもネットに置き、不特定多数が見られ、何百万件でも検索して網羅できる。
国境等の物理的限界はなく、コミュニケーションも瞬時に行える。全世界の『不特定多数無限大』の人がはじめて経済ベースで捉えられるようになった。
2.チープ革命
ムーアの法則は元々の半導体の集積度が18ヶ月で倍増するというものから、現在ではIT製品のコストは年率30−40%下落すると広義に解釈されている。
3.オープンソース
世界中の200万人の開発者がネット上でバーチャルな組織をつくり、イノベーションの連鎖で、最先端ソフトウェアをつくっていく世にも不思議な開発手法。
ネット界の3大法則
上記3大潮流が相乗効果を起こし、次の3大法則を生み出した:
1.神の視点からの世界理解
Yahoo!などのネットサービスは何千万人もの人にサービスを提供し、しかも一人一人の行動を確実に把握できる。膨大なミクロの情報を全体として俯瞰(ふかん)でき、今なにが起こっているのかがわかるのだ。
まさにお釈迦様、神のみぞ知るということが実現している。
2.ネット上につくった人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
ネット上に自分の分身(ブログやウェブサイト)をつくると、分身がネットでチャリンチャリンと稼いでくれる世界が生まれた。
自分は寝ていても儲かるしくみができる。もし共働きで奥さんもサイトを持っていれば、ダブルインカムならぬ、クアドラプル(4倍)インカムも可能なのだ。
3.無限大 x ほぼゼロ = なにがしか(Something)
『不特定多数無限大』の人とつながりを持つためのコストはほぼゼロとなった。
不特定多数無限大の人々から1円貰って1億円稼ぐことが可能となったのだ。
これら3大潮流と3大法則が引き起こす地殻変動で、想像もできなかった応用が現実のものとなった。その典型がGoogleである。
バーチャル世界政府のシステム開発部門Google
梅田氏のGoogleに勤める友人は『世界政府というものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部Googleでつくろう。それがGoogle開発陣のミッションなんだよね。』と真顔で語っていると。
梅田氏はグーグルはシリコンバレーの頂点を極めるとてつもない会社だと確信しているそうで、Googleのすごさを次の観点から説明している:
1.世界中の情報を整理し尽くす
グーグルは自らのミッションを『世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること』と定義している。
全世界のウェブサイトの情報を集めるグーグル検索、全世界のニュースを優先順位を付けるグーグル・ニュース、過去出版されたすべての本をデータベース化するとブチ上げ、著作権者ともめているグーグル・ブックサーチ。
個人のメール内容を判断して最適な広告を載せるGメール。グーグル・マップ、グーグル・アース等々。
グーグルのサービスすべてを通して言えるのが、情報を人手を使わずコンピューターによって自動的に分析して組織化するという基本思想だ。人が扱わないのだから個人のメール内容などもプライバシーの問題はないという理屈だ。
2.構想を実現するために情報発電所とも言うべき30万台から成る巨大コンピューターシステムを、ネットの『あちら』側に構築したこと
すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、最も適した情報を対応させる。これがグーグル検索エンジンの仕事だ。
グーグルの判断基準は、ウェブサイト相互に張り巡らされるリンクで判断する『民主主義』である。
全世界を英語圏のシステム一本で運営するための自動翻訳機能も、最適の情報を対応させるための必要機能だ。
そのためにグーグルの30万台ものコンピューターが日々稼働し続けている。(2009年現在では多分100万台以上のサーバーが稼働しているものと見込まれる)
3.巨大コンピューターシステムを圧倒的な低コスト構造で自製したこと
オープンソースを最大限に利用して、30万台ものリナックスサーバーを自社でつくり、運営している
この30万台というのはCPUを備えたマザーボードの推定数で、最近はブレードサーバーというマザーボード差し込み式の、1台で昔のサーバーの何十台分もの機能があるものも出ているが、それにしても30万台というのは尋常な数ではない。
拡張性に優れるスケーラブル・ストラクチャーをつくり、処理能力を上げるためにはサーバー数を増やせば良い構造とし、一部が故障しても全体としては動くしくみを取り入れている。
4.検索連動型広告『アドワーズ』に加え、個人サイトに自動的に広告配信する『アドセンス』を実装し、個人にまで広告収入が入る『富の再配分』のメカニズムを実現したこと
筆者も一時『アドセンス』をこのブログに貼り付けていたが、たしかに個人サイトでもグーグルから自動配信される広告表示で、チャリンチャリンとお金が落ちる感覚を体験できた。
インターネット広告業界では、ネット専業代理店が力を持っており、電通・博報堂など大手広告代理店が相手にしない小さなクライアントまで広告の裾野を広げているが、それにしてもアドセンスで配信される情報起業の様な小企業などは到底カバーできない。
アドセンスは、英語圏の先進国の広告報酬設定なので、先進国では小遣い程度でも、途上国では生計が立てられる収入となりうる。
5.多くが博士号を持つベスト・アンド・ブライテスト社員5,000人が情報共有する特異な組織運営
グーグルは株式公開したとはいえ、創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ページが一般株主とは違う種類の株式を持つ特異な所有形態である。これはマイクロソフトによる敵対的買収や経営介入を防ぐためだという。
グーグルには経営委員会などの経営組織はなく、5,000人の社員全員が情報を共有し、情報が『自然淘汰』される。
博士号を持つ社員も多いが、それぞれ仕事の20%は自分のテーマで研究することを求められる。アイデアは社内で共有され、平均3人の小組織がアイデア実現のスピードを競争するのだ。
6.既に存在するネット企業のどことも似ていないこと。
強いて言えばYahoo!はメディア、グーグルはテクノロジーであると。
Yahoo!は人間が介在してサービスの質が上がるなら、人手を使うべきだという考えである。
以上の様な論点につき興味深い分析がなされており、もっと詳しく説明したいところだが、それだと『あらすじ』でなくなってしまうので、上記切り口だけ紹介しておく。
いくつか印象に残った点を紹介しておこう。
『こちら側』と『あちら側』
パソコンは『こちら側』。機能を提供する企業のサーバーやネットワークは『あちら側』だ。どちらかというと日本のIT企業はこちら側に専念し、アメリカの企業はあちら側に注力している。
これを象徴する出来事が2005年に起こった。売上高1兆円のIBMのパソコン部門がレノボに2、000億円以下で売却されたのだ。売上高3,000億円のグーグルの公開直後の時価総額は3兆円で、いまは10兆円だ。(2009年1月23日現在の時価総額は1,022億ドル、円高なので約9兆円だ)
グーグルの動きはすべてあちら側の動きだ。
『恐竜の首』と『ロングテール』
ロングテールについてはアマゾンでは専門書と古典的名著が売れる例で紹介したが、リアル店舗では返品の憂き目にあう『負け犬』商品がアマゾンでは売上の1/3を占める。
パレートの80:20の法則で、従来は20%の売れ筋商品=『恐竜の首』に注力すれば良かったのが、インターネットにより陳列・在庫・販売コストを気にしなくて良くなった今、残り80%の『負け犬』もちりも積もれば山となることが可能となった。
グーグルのアドセンスは個人でもクレジッドカード払いで広告出稿でき、無数にある個人サイトに広告を掲載することができる。
梅田さんの言葉で言うと『ロングテール』、筆者の言葉で言うとゴルフの『バンカー・ツー・バンカー』が、巨大なビジネスとなっている。
Web 2.0
今までのインターネット企業や機能をWeb 1.0と呼び、開発者向けにプログラムしやすいデータ、機能(API=Application Program Interface)を公開するサービスをウェブサービスと呼ぶ。
グーグルの台頭にYahoo!が危機感を強め、自前の検索エンジンを導入することを決定したのが、2002年から2003年にかけてであり、ちょうどこのころインターネットの先駆者たちは、Web 2.0を研究しだした。
(筆者はこのWeb 2.0というのが、どうもよく理解できなかったが、筆者のたとえでいうと、いわば鵜をひもでつないでいた鵜飼い(個人サイト)が、不特定多数の漁船群(企業サイト)をかかえる網元となり、一挙に漁獲量を拡大し始めたという感じではないか。)
アマゾンアソシエイトで一個一個の商品にリンクをつけて販売するのが、従来からのWeb 1.0。アマゾンの商品データベースへのアクセスを認め、アマゾンが卸売りのようになり、専門サイト、小売りがアマゾンの商品を販売するのを支援するのがWeb 2.0。
もちろんアマゾンの全世界単一システムに巨大な負荷が掛かるはずだが、それをこなすシステム増強をアマゾンは『あちら側』で行って、Web 2.0を可能としたのだろう。
単にアマゾンが配信する右のサイドバーのようなダイナミックリンク広告ではなく、ECサイト全体をアマゾンのウェブサービス(商品データベース)を使って作り上げるやり方で、インターフェースを公開することにより、開発を不特定多数の外部開発者に依存する手法だ。
ウェブサービスにおけるアマゾンの利益率は15%なので、今やアマゾン本サイトよりもウェブサービスの方が利益率が良くなっており、自己増殖的に増えている。
ブログと総表現社会
米国ではブログ数が2,000万を越え、日本でも500万を越えた。(2008年の日本の総務省の発表では、日本のブログの延べ開設数は1,690万となったという)ブログの増殖の理由は
1.量が質に変化したこと
いくら母集団が玉石混淆でも、母集団が大きくなるとキラリと光るブログが現れてくる。500万のたとえ0.1%でも5、000である。
いままでネットで情報発信していた人たちはマスコミやネット企業関係の圧倒的少数だったが、絶対多数の声なき声が表現する場を得たのだ。
2.ネット上の玉石混淆問題を解決する糸口が技術の進歩で見えつつある。それは検索エンジンの進歩であり、ブログの持つトラックバック、RSS(Really Simple Syndication)、更新情報送信等の機能だ。
まだまだコンテンツの玉石混交問題は解決されていないが、Yahoo!など検索エンジンがトップにランクするブログはやはりそれなりに支持されている。ここでも自然淘汰がおこっているのだ。
知的生産の道具としてのブログ
梅田さんはブログこそが「究極の知的生産の道具」ではないかと感じているそうだ。ブログの効用とは:
1.時系列にカジュアルに記載でき、容量に事実上限界がない
2.カテゴリー分類とキーワード検索ができる
3.てぶらで動いてもインターネットへのアクセスがあれば情報にたどり着ける
4.他者とその内容をシェアするのが容易である
5.他者との間で知的生産の創発的発展が期待できる
筆者も同感である。ただブログは出典を明らかにして、リンクを貼るという著作権上の配慮が重要であること念のため付け加えておく。
マス・コラボレーション
オープンソース、マス・コラボレーションの例としてウィキペディアを挙げている。ウィキペディア・プロジェクトは2001年1月にスタートしたので、5年強の歴史だが、既にブリタニカの65,000項目に対して、英語では870,000項目にも及ぶ百科事典が既にできあがり、200にも及ぶ言語毎に百科事典がつくられ、日本語版でも16万項目以上に揃ってきた。(2009年1月現在で264言語、11百万項目、日本語だけでも56万項目が登録されている)
誰でも書き込み、修正できるが、それでいてかなりの水準に達している。
不特定多数無限大は衆愚か?
梅田さんはWisdom of Crowds、群衆の英知、日本語訳「『みんなの意見』は案外正しい」を紹介している。仮説ではあるが、ネット上で起こっているオープンソース、コラボレーション、バーチャル開発の質の高さを考えると、不特定多数無限大の人が参加する知的プロジェクトは成功すると言えるのではないかと思う。
「みんなの意見」は案外正しい
著者:ジェームズ・スロウィッキー
販売元:角川書店
発売日:2006-01-31
おすすめ度:
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羽生善治名人の高速道路論
梅田さんは羽生名人と親しいそうだが、羽生名人はITがもたらした将棋界への影響として、「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」と語ったそうだ。
羽生名人の言葉によると奨励会の2段くらいまでは、一気に強くなるが、それから上は人間の能力の深淵にかかわる難問であり、これを抜けることが次のブレークスルーに繋がる。
羽生善治さんの「決断力」も参考になるので、あらすじも参照して欲しい。
以上2006年に書いたあらすじを見直したが、あらためてこれを読み返しても梅田さんの書いておられることが全然新鮮味を失っていないことがよくわかる。
既に読んだ人も、まだ読んでいない人も、このあらすじを参考にして本を手にとって頂きたい。
参考になれば次クリックお願いします。
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一時は書店にも在庫がなくなったほどの2006年の超ベストセラーなので、読んだ人も多いと思うが、読んだ人は記憶を確認するために、これから読む人は、「時短読書」のためにこのあらすじを利用してほしい。
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2006-02-07
おすすめ度:
クチコミを見る
著者の梅田望夫(うめだもちお)さんはブログを『究極の知的生産の道具』と呼んでいるが、筆者も同感である。
このブログは筆者の備忘録も兼ねて作成しているが、この本についてはあまりに参考になることが多すぎて、あらすじが長くなりすぎてしまった。
だから別ブログの「あたまにスッと入るあらすじ」に掲載してあるのは公開版で、元の原稿は備忘録として非公開で保存していた、
既に多くの人がこの本を読んだと思うので、読んだ人の記憶のリフレッシュという意味も含めて、今回は非公開版の備忘録をアップデートしたあらすじを紹介する。
公開版と非公開版の2種類つくったのは、この本がはじめてだ。それほど参考になるとともに、intriguing(興味をそそられる)だった。
ベストセラーになるだけのことはある中身の濃い本である。新書の定価の740円以上の価値があること、筆者が請け合う。
2007年には梅田さん自身の講演を聞く機会もあった。実に真面目で偉ぶらず、「能ある鷹は爪を隠す」のことわざ通り自分の博識と広い交友範囲をひけらかすことがなかったのが印象的だった。
この本は、昔の仕事仲間で、東証マザーズ上場の日本最大の間接資材のネットショップMonotaROモノタロウの瀬戸社長に2006年始めに読んだ本で一番良いとすすめられて読んだ。
今世界のインターネット業界でなにが起こっているのか、どんな構造変化が起こっているのかよくわかる。
著者の梅田さんのブログによると発売して4週間で15万部売れているそうだ。筆者の近くの書店でも売り切れだったので、アマゾンで買った。まさに爆発的な売れ行きである。(結局最終的にどれだけ売れたのかネットで調べたがわからなかった。)
筆者は米国駐在時代の1999年にインターネットの威力と将来性に驚き、会社・上司の了解を得て、それまでの鉄鋼原料のトレーダーのキャリアから、インターネット関連業界に移った。
モノタロウの瀬戸社長は米国駐在からダートマスのMBAを取った異色の存在で、元々は鋼材トレーダーだが、鉄鋼原料を経て、インターネット関連業界に移った仲間だ。
筆者がインターネット関連業界に移った理由は、まさにPCスクリーンのあちら側に『未来』が見える様な気がしたからだった。
当時、ソニーの出井さんは『インターネットは(恐竜を死滅させたと言われる)巨大隕石だ』と表現していた。
日本に帰国してそれから5年余りたち、出張もせず東京で過ごしていると、アメリカや世界の情勢にどうしてもうとくなるが、インターネットで、いわば第2の隕石が落ちた様な変化が起きていることを思い知らされたのがこの本だ。
著者の梅田望夫さんは、シリコンバレー在住のコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ代表。梅田さんご自身のブログMy Life Between Silicon Valley and Japanもある。
梅田さんが常時寄稿しているCNETや、asahi.com、ITPROなどが梅田さんとのインタビューを載せているのでこれも参考になる。
現状分析がわかりやすく、かつ鋭い
まずは現状分析だ。現在のウェブ社会を次の3大潮流で説明している。
1.インターネット
リアル世界に対するバーチャル世界・経済の出現。文章、映像、動画等、知的財産をなんでもネットに置き、不特定多数が見られ、何百万件でも検索して網羅できる。
国境等の物理的限界はなく、コミュニケーションも瞬時に行える。全世界の『不特定多数無限大』の人がはじめて経済ベースで捉えられるようになった。
2.チープ革命
ムーアの法則は元々の半導体の集積度が18ヶ月で倍増するというものから、現在ではIT製品のコストは年率30−40%下落すると広義に解釈されている。
3.オープンソース
世界中の200万人の開発者がネット上でバーチャルな組織をつくり、イノベーションの連鎖で、最先端ソフトウェアをつくっていく世にも不思議な開発手法。
ネット界の3大法則
上記3大潮流が相乗効果を起こし、次の3大法則を生み出した:
1.神の視点からの世界理解
Yahoo!などのネットサービスは何千万人もの人にサービスを提供し、しかも一人一人の行動を確実に把握できる。膨大なミクロの情報を全体として俯瞰(ふかん)でき、今なにが起こっているのかがわかるのだ。
まさにお釈迦様、神のみぞ知るということが実現している。
2.ネット上につくった人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
ネット上に自分の分身(ブログやウェブサイト)をつくると、分身がネットでチャリンチャリンと稼いでくれる世界が生まれた。
自分は寝ていても儲かるしくみができる。もし共働きで奥さんもサイトを持っていれば、ダブルインカムならぬ、クアドラプル(4倍)インカムも可能なのだ。
3.無限大 x ほぼゼロ = なにがしか(Something)
『不特定多数無限大』の人とつながりを持つためのコストはほぼゼロとなった。
不特定多数無限大の人々から1円貰って1億円稼ぐことが可能となったのだ。
これら3大潮流と3大法則が引き起こす地殻変動で、想像もできなかった応用が現実のものとなった。その典型がGoogleである。
バーチャル世界政府のシステム開発部門Google
梅田氏のGoogleに勤める友人は『世界政府というものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部Googleでつくろう。それがGoogle開発陣のミッションなんだよね。』と真顔で語っていると。
梅田氏はグーグルはシリコンバレーの頂点を極めるとてつもない会社だと確信しているそうで、Googleのすごさを次の観点から説明している:
1.世界中の情報を整理し尽くす
グーグルは自らのミッションを『世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること』と定義している。
全世界のウェブサイトの情報を集めるグーグル検索、全世界のニュースを優先順位を付けるグーグル・ニュース、過去出版されたすべての本をデータベース化するとブチ上げ、著作権者ともめているグーグル・ブックサーチ。
個人のメール内容を判断して最適な広告を載せるGメール。グーグル・マップ、グーグル・アース等々。
グーグルのサービスすべてを通して言えるのが、情報を人手を使わずコンピューターによって自動的に分析して組織化するという基本思想だ。人が扱わないのだから個人のメール内容などもプライバシーの問題はないという理屈だ。
2.構想を実現するために情報発電所とも言うべき30万台から成る巨大コンピューターシステムを、ネットの『あちら』側に構築したこと
すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、最も適した情報を対応させる。これがグーグル検索エンジンの仕事だ。
グーグルの判断基準は、ウェブサイト相互に張り巡らされるリンクで判断する『民主主義』である。
全世界を英語圏のシステム一本で運営するための自動翻訳機能も、最適の情報を対応させるための必要機能だ。
そのためにグーグルの30万台ものコンピューターが日々稼働し続けている。(2009年現在では多分100万台以上のサーバーが稼働しているものと見込まれる)
3.巨大コンピューターシステムを圧倒的な低コスト構造で自製したこと
オープンソースを最大限に利用して、30万台ものリナックスサーバーを自社でつくり、運営している
この30万台というのはCPUを備えたマザーボードの推定数で、最近はブレードサーバーというマザーボード差し込み式の、1台で昔のサーバーの何十台分もの機能があるものも出ているが、それにしても30万台というのは尋常な数ではない。
拡張性に優れるスケーラブル・ストラクチャーをつくり、処理能力を上げるためにはサーバー数を増やせば良い構造とし、一部が故障しても全体としては動くしくみを取り入れている。
4.検索連動型広告『アドワーズ』に加え、個人サイトに自動的に広告配信する『アドセンス』を実装し、個人にまで広告収入が入る『富の再配分』のメカニズムを実現したこと
筆者も一時『アドセンス』をこのブログに貼り付けていたが、たしかに個人サイトでもグーグルから自動配信される広告表示で、チャリンチャリンとお金が落ちる感覚を体験できた。
インターネット広告業界では、ネット専業代理店が力を持っており、電通・博報堂など大手広告代理店が相手にしない小さなクライアントまで広告の裾野を広げているが、それにしてもアドセンスで配信される情報起業の様な小企業などは到底カバーできない。
アドセンスは、英語圏の先進国の広告報酬設定なので、先進国では小遣い程度でも、途上国では生計が立てられる収入となりうる。
5.多くが博士号を持つベスト・アンド・ブライテスト社員5,000人が情報共有する特異な組織運営
グーグルは株式公開したとはいえ、創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ページが一般株主とは違う種類の株式を持つ特異な所有形態である。これはマイクロソフトによる敵対的買収や経営介入を防ぐためだという。
グーグルには経営委員会などの経営組織はなく、5,000人の社員全員が情報を共有し、情報が『自然淘汰』される。
博士号を持つ社員も多いが、それぞれ仕事の20%は自分のテーマで研究することを求められる。アイデアは社内で共有され、平均3人の小組織がアイデア実現のスピードを競争するのだ。
6.既に存在するネット企業のどことも似ていないこと。
強いて言えばYahoo!はメディア、グーグルはテクノロジーであると。
Yahoo!は人間が介在してサービスの質が上がるなら、人手を使うべきだという考えである。
以上の様な論点につき興味深い分析がなされており、もっと詳しく説明したいところだが、それだと『あらすじ』でなくなってしまうので、上記切り口だけ紹介しておく。
いくつか印象に残った点を紹介しておこう。
『こちら側』と『あちら側』
パソコンは『こちら側』。機能を提供する企業のサーバーやネットワークは『あちら側』だ。どちらかというと日本のIT企業はこちら側に専念し、アメリカの企業はあちら側に注力している。
これを象徴する出来事が2005年に起こった。売上高1兆円のIBMのパソコン部門がレノボに2、000億円以下で売却されたのだ。売上高3,000億円のグーグルの公開直後の時価総額は3兆円で、いまは10兆円だ。(2009年1月23日現在の時価総額は1,022億ドル、円高なので約9兆円だ)
グーグルの動きはすべてあちら側の動きだ。
『恐竜の首』と『ロングテール』
ロングテールについてはアマゾンでは専門書と古典的名著が売れる例で紹介したが、リアル店舗では返品の憂き目にあう『負け犬』商品がアマゾンでは売上の1/3を占める。
パレートの80:20の法則で、従来は20%の売れ筋商品=『恐竜の首』に注力すれば良かったのが、インターネットにより陳列・在庫・販売コストを気にしなくて良くなった今、残り80%の『負け犬』もちりも積もれば山となることが可能となった。
グーグルのアドセンスは個人でもクレジッドカード払いで広告出稿でき、無数にある個人サイトに広告を掲載することができる。
梅田さんの言葉で言うと『ロングテール』、筆者の言葉で言うとゴルフの『バンカー・ツー・バンカー』が、巨大なビジネスとなっている。
Web 2.0
今までのインターネット企業や機能をWeb 1.0と呼び、開発者向けにプログラムしやすいデータ、機能(API=Application Program Interface)を公開するサービスをウェブサービスと呼ぶ。
グーグルの台頭にYahoo!が危機感を強め、自前の検索エンジンを導入することを決定したのが、2002年から2003年にかけてであり、ちょうどこのころインターネットの先駆者たちは、Web 2.0を研究しだした。
(筆者はこのWeb 2.0というのが、どうもよく理解できなかったが、筆者のたとえでいうと、いわば鵜をひもでつないでいた鵜飼い(個人サイト)が、不特定多数の漁船群(企業サイト)をかかえる網元となり、一挙に漁獲量を拡大し始めたという感じではないか。)
アマゾンアソシエイトで一個一個の商品にリンクをつけて販売するのが、従来からのWeb 1.0。アマゾンの商品データベースへのアクセスを認め、アマゾンが卸売りのようになり、専門サイト、小売りがアマゾンの商品を販売するのを支援するのがWeb 2.0。
もちろんアマゾンの全世界単一システムに巨大な負荷が掛かるはずだが、それをこなすシステム増強をアマゾンは『あちら側』で行って、Web 2.0を可能としたのだろう。
単にアマゾンが配信する右のサイドバーのようなダイナミックリンク広告ではなく、ECサイト全体をアマゾンのウェブサービス(商品データベース)を使って作り上げるやり方で、インターフェースを公開することにより、開発を不特定多数の外部開発者に依存する手法だ。
ウェブサービスにおけるアマゾンの利益率は15%なので、今やアマゾン本サイトよりもウェブサービスの方が利益率が良くなっており、自己増殖的に増えている。
ブログと総表現社会
米国ではブログ数が2,000万を越え、日本でも500万を越えた。(2008年の日本の総務省の発表では、日本のブログの延べ開設数は1,690万となったという)ブログの増殖の理由は
1.量が質に変化したこと
いくら母集団が玉石混淆でも、母集団が大きくなるとキラリと光るブログが現れてくる。500万のたとえ0.1%でも5、000である。
いままでネットで情報発信していた人たちはマスコミやネット企業関係の圧倒的少数だったが、絶対多数の声なき声が表現する場を得たのだ。
2.ネット上の玉石混淆問題を解決する糸口が技術の進歩で見えつつある。それは検索エンジンの進歩であり、ブログの持つトラックバック、RSS(Really Simple Syndication)、更新情報送信等の機能だ。
まだまだコンテンツの玉石混交問題は解決されていないが、Yahoo!など検索エンジンがトップにランクするブログはやはりそれなりに支持されている。ここでも自然淘汰がおこっているのだ。
知的生産の道具としてのブログ
梅田さんはブログこそが「究極の知的生産の道具」ではないかと感じているそうだ。ブログの効用とは:
1.時系列にカジュアルに記載でき、容量に事実上限界がない
2.カテゴリー分類とキーワード検索ができる
3.てぶらで動いてもインターネットへのアクセスがあれば情報にたどり着ける
4.他者とその内容をシェアするのが容易である
5.他者との間で知的生産の創発的発展が期待できる
筆者も同感である。ただブログは出典を明らかにして、リンクを貼るという著作権上の配慮が重要であること念のため付け加えておく。
マス・コラボレーション
オープンソース、マス・コラボレーションの例としてウィキペディアを挙げている。ウィキペディア・プロジェクトは2001年1月にスタートしたので、5年強の歴史だが、既にブリタニカの65,000項目に対して、英語では870,000項目にも及ぶ百科事典が既にできあがり、200にも及ぶ言語毎に百科事典がつくられ、日本語版でも16万項目以上に揃ってきた。(2009年1月現在で264言語、11百万項目、日本語だけでも56万項目が登録されている)
誰でも書き込み、修正できるが、それでいてかなりの水準に達している。
不特定多数無限大は衆愚か?
梅田さんはWisdom of Crowds、群衆の英知、日本語訳「『みんなの意見』は案外正しい」を紹介している。仮説ではあるが、ネット上で起こっているオープンソース、コラボレーション、バーチャル開発の質の高さを考えると、不特定多数無限大の人が参加する知的プロジェクトは成功すると言えるのではないかと思う。
「みんなの意見」は案外正しい
著者:ジェームズ・スロウィッキー
販売元:角川書店
発売日:2006-01-31
おすすめ度:
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羽生善治名人の高速道路論
梅田さんは羽生名人と親しいそうだが、羽生名人はITがもたらした将棋界への影響として、「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」と語ったそうだ。
羽生名人の言葉によると奨励会の2段くらいまでは、一気に強くなるが、それから上は人間の能力の深淵にかかわる難問であり、これを抜けることが次のブレークスルーに繋がる。
羽生善治さんの「決断力」も参考になるので、あらすじも参照して欲しい。
以上2006年に書いたあらすじを見直したが、あらためてこれを読み返しても梅田さんの書いておられることが全然新鮮味を失っていないことがよくわかる。
既に読んだ人も、まだ読んでいない人も、このあらすじを参考にして本を手にとって頂きたい。
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