日本の防衛戦略日本の防衛戦略
著者:江畑 謙介
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-07-27
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昨年亡くなった軍事評論家の江畑謙介氏による日本の防衛力の分析。豊富な資料・写真が載っていて、わかりやすい。

前回紹介した「その時自衛隊は戦えるか」はどちらかというと自衛隊の戦力を肯定的に書いているが、江畑さんの本ではむしろ弱点の指摘が多いので、両方比べて読むと自衛隊の実力の実態がわかると思う。


自衛隊の装備に対する考え方

自衛隊は導入の時には世界最高のモデルを求めるが、一度導入されると改良努力がほとんどなく、時代の変化にあわせて戦闘能力を強化し、抑止力を高めようという努力がほとんどなされていない。

一例として戦車が取り上げられている。

戦後初の国産戦車61式戦車は1961年(昭和36年)の配備後、アクティブ赤外線投影装置が一部戦車に追加された他は30年間ほとんどなにも改良がなされなかった。

ちなみにアクティブ赤外線投影装置は、今では自分の居場所を敵にあかすこととなるので、ほとんど自殺行為だ。

61式戦車は設計からして朝鮮戦争時代の90ミリ砲を搭載した車高の高い設計で、構想当時からソ連の中心戦車T−55の車高の低さと100ミリ砲に劣っていた。

さらに実戦配備直後にソ連は貫通力の高い115ミリ滑腔砲(かっこうほう)を搭載したT−62戦車を導入し、61式戦車はアウトレンジされることになった。途中で105ミリ砲に換装することも検討されたが、実施されなかった。

結局2世代あとの90式戦車で、120ミリ滑腔砲を導入してロシアの主力戦車と同等の装備となった。

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写真出典:Wikipedia

さらに問題は射撃制御装置で、61式戦車はステレオ式光学式(要は幅1メートルの双眼望遠鏡?)のままで、その後中国軍も装備したレーザー測遠機すら装備せず、命中精度の改善はなされなかった。


RPG(携帯式ロケット砲)対策も不在

大砲の大きさも、射撃制御装置も湾岸戦争やイラク戦争の様な対戦車戦以外では致命的な差は出ないかもしれないが、近年では北朝鮮などのテロ勢力が日本に侵入し、戦車がそれを制圧するという局面は予想される。

このブログでも紹介した村上龍の「半島を出よ」が、まさにこのストーリーだ。

北朝鮮の不審船の乗組員が携帯式ロケット砲を、自衛隊の船に向けてぶっぱなした(命中はしなかったが)光景は、テレビで繰り返し報道されたので、記憶されている人も多いと思う。

ゲリラなども必ずといっていいほど携帯式ロケット砲を持っている。

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写真出典:Wikipedia

そんなときには戦車の相手はRPGと呼ばれる携帯式対戦車ロケット砲となり、これに対する備えは装甲の強化が重要だ。

しかし自衛隊の戦車は61式戦車も、その次の74式戦車も他国のように装甲を増着して対RPG防御力を向上させる改良をしていない。

この手の装甲では、イスラエルなどの実戦経験豊富な軍隊の戦車に取り入れられているERAと呼ばれる爆発反応装甲や90式戦車に取り入れられた最新式のセラミックを取り入れた複合装甲などがある。

ロシア、イスラエルや米国の戦車の写真を見ると、やたらと箱が車体に貼り付けてあるが、これが増着装甲だ。不格好だが、重量をあまりふやさずに防御力の強化ができる点で実戦的だ。

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写真出典:Wikipedia


日本の武器の欠点

この本では江畑さんの武器に関する深い造詣に基づき、興味深い事例がいくつも指摘されている。

・航空自衛隊の輸送機には、ミサイル誘導妨害装置がなかったので、イラク派遣が決まったときに急遽購入して付けた。スティンガーなどの携帯式対空ミサイルが普及しているので、誘導妨害装置は必須だ。

・北朝鮮の不審船対策で導入した はやぶさ型ミサイル艇や、水中翼ミサイル艇は、停船勧告に有効な遠隔操作の中口径機関砲がない。20MMバルカン砲は強力すぎ、76mm砲も船を沈めてしまう。

 12.7MM重機関銃は装備できるが、威力不足で、しかもマニュアル操作なので、敵の反撃に遭うと射手が危険にさらされる。

・水中翼艇は、荒れた海では停船ができない。つまり海が荒れると海上臨検とかはできない。

・日本では人的ロスを減らせる無人攻撃機や無人偵察機の導入は遅れている。米軍やイスラエル軍で重用されているプレデター等の無人偵察・攻撃機の導入はやっと2007年度からはじまる予定だ。


次期主力戦闘機F−X

日本の次期主力戦闘機F−Xについてもわかりやすく解説している。

米国議会の反対で購入できないでいるF−22はステルス性にすぐれ、技術的には最も優れているが、コストは一機450億円とも予想され、しかも日本でのライセンス生産はできずに全機輸入となる可能性が高い。

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写真出典:Wikipedia

従いこんな巨額の費用を出すよりは、ステルス性等では劣るが、F−15の改良型で、F−22と同等の電子機器を搭載したF−15EXを、すでに日本にあるF−15生産ラインで生産する方が最も安い選択肢となると江畑さんは語っている。

NATOで採用されているユーロファイターは、コストも安く、NATO採用なので、米軍とのインターオペラビリティもすぐれている。

日本との共同開発にも乗り気といわれているので、F−Xの本命F−22が米国議会の反対で導入できなれければ候補として浮上してくる可能性もある。

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写真出典:Wikipedia

ミサイル防衛戦略(BMD)

2006年10月の北朝鮮による核実験は初期爆発だけで核分裂の連鎖反応は起こらず、失敗だった可能性が強いが、それでも北朝鮮が核開発能力を持ったことは周辺国には脅威となる。

北朝鮮が核爆弾を持ったら、問題は運搬手段である。

北朝鮮はテポドンはじめミサイル発射実験を繰り返している。

北朝鮮が中国経由ウクライナ製の巡航ミサイルを購入した疑惑については、ジャーナリストの手嶋龍一さんの小説「ウルトラ・ダラー」にも描かれている。

江畑さんは、北朝鮮には巡航ミサイルを積む大型爆撃機がないし、たとえあっても大型機は日本のレーダーにも容易に捕捉されるので、やはり弾道ミサイルが最も可能性の高い運搬手段となるだろうと見ている。

弾道ミサイル防衛(BMD)の方法も興味深い。

旧ソ連の1960年代の初期のBMDは、落下してくる核弾頭を核爆発で誘発させるという方法で、実施されるとモスクワ市民の15%が死ぬという恐ろしいものだった。

これでは何のための防衛かわからないので、核弾頭を用いないで迎撃するシステムが湾岸戦争でも使われたパトリオットミサイルPAC−2だ。

しかしミサイルを打ち落としても、弾頭が落下して爆発すると被害が出るので、弾頭を無力化するために弾頭に命中させるパトリオットミサイルPACー3が開発され、日本でも米軍が沖縄にまず配備し、自衛隊は首都圏から配備している。

またイージス艦には、スタンダードミサイルSMー3という日米共同開発のミサイルが配備されており、これは北朝鮮のミサイルが発射されるのを感知して、すぐに迎撃する。

従い日本のBMDは、SM−3とPAC−3の2段階となっている。


この本は400ページの大作なので、詳しく紹介しているときりがないが、最後に最新の武器技術を紹介しておく。

兵器の進歩という意味で最も驚かされたのが、AGS=Advanced Gun Systemと呼ばれる米軍が開発中の軍艦の艦砲システムだ。

軍艦はもう旧時代の遺物だと思っていたが、AGSが配備されれば一挙にコストの安い最新鋭精密攻撃手段としてよみがえる。

YouTubeにもシミュレーション映像が載せられているが、従来15−30KM程度だった艦砲の射程を、GPS誘導やレーザー誘導装置を持つ精密誘導弾を発射するシステムに変えることによって70−180KMにまで拡大している。



精密誘導155ミリ砲弾で、移動中の車両一台一台でも砲撃できるという、恐るべく効率の良いシステムだ。

100キロ前後離れたところから発射された砲弾が、移動中の自動車まで正確に砲撃できるというまさに「天網恢々(てんもうかいかい)」の、天から降ってくる砲弾だ。

海上自衛隊でも島嶼(とうしょ)防衛用に艦載砲を積極活用する方法を研究、実用化すべきだろうと江畑さんは語っている。


豊富な軍事知識を元に、自衛隊と世界最新の軍備についてわかりやすく説明しており、参考になる。是非一読をおすすめする。


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