ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)
著者:W・チャン・キム
販売元:ランダムハウス講談社
発売日:2005-06-21
おすすめ度:4.0
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+++今回のあらすじは長いです+++

フランスとシンガポールにキャンパスがある国際ビジネススクールINSEAD(インシアド)を代表するキム教授とモボルニュ教授がハーバードビジネスレビューに発表した論文。

2005年に日本でも翻訳され、話題となった。

バーバードビジネスレビューはダイヤモンド社から日本版も出版されている。以前は会社でも購読していたので、筆者も時々読んでいたが、正直あまり歯が立たなかった論文ばかりだったという記憶がある。

ブルー・オーシャンとは、血の海を意味するレッド・オーシャンに対する言葉だ。レッド・オーシャンが既存市場での競争相手との血みどろの競争を意味するのに対して、ブルー・オーシャンは競争相手のいない独占的な未開拓市場をつくって繁栄するビジネスモデルだ。

ブルーオーシャン戦略の6原則とは次の通りだ。

策定の原則
1.市場の境界を引き直す
2.細かい数字は忘れ、森を見る
3.新たな需要を掘り起こす
4.正しい順序で戦略を考える
実行の原則
5.組織面のハードルを乗り越える
6.実行を見すえて戦略を立てる

この本は具体例で説明している部分が多く、頭にスッと入る。


シルク・ドゥ・ソレイユ

ブルー・オーシャン戦略の典型例として、シルク・ドゥ・ソレイユが最初に紹介されている。

シルク・ドゥ・ソレイユは、火喰い芸人だったギー・ラリベーテがカナダで設立したサーカスをベースにしたエンターテインメントだ。世界各地で常設の劇場やホテルでの常設の出し物がある。

筆者が最初にシルク・ドゥ・ソレイユの出し物を見たのは、米国のフロリダのディズニーワールドで、10年以上前だ。

卓越したアクロバット、よく考えたコミカル、大がかりな舞台、観客を巻き込んだエンターテインメントに感心した。

それからラスベガスのホテルでの出し物(ベラッジオの"O"を見たかったが、チケットが取れなかったのでミラージュの「ミスティア」を見た)、東京に戻って「サルティンバンコ」、「アレグリア」を見た。

最初見た出し物では中国雑技団は参加していなかったが、最近の出し物は中国雑技団のメンバー抜きでは考えられないほど、高度なアクロバットが披露されている。

中国雑技団は話題になったサントリーの「アミノ式」のCMにも出演している。





猛獣使い、アクロバット、ピエロといった従来型のサーカスの最大手リングリング・ブラザース&バーナム&ベイリー・サーカスが100年掛かって達成した売上高を、わずか20年で追い越してしまったという。

シルク・ドゥ・ソレイユは競争相手のいない新しい市場を創造して、高い入場券でも喜んで支払う大人や法人という新しい顧客を惹きつけた。

このように既存の産業を拡張することによって生み出される新しい需要、あるいはこれまでの産業の枠を超えた新しい需要をキム教授はブルー・オーシャンと呼ぶ。


永遠のエクセレントカンパニーは存在するか?

キム教授は過去のエクセレントカンパニーから、永遠のエクセレントカンパニーが存在するかどうか調べたところ、名著「エクセレント・カンパニー」で取り上げられた会社のうち2/3が、5年後には業界リーダーから脱落していたことがわかった。

エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)
著者:トム・ピーターズ
販売元:英治出版
発売日:2003-07-26
おすすめ度:4.5
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ちなみに「エクセレント・カンパニー」の原題は"In search of Excellence"であり、永遠のとは書いていないが、永続的なニュアンスがある。

もう一つの名著「ビジョナリー・カンパニー」は「エクセレント・カンパニー」の二の舞を避けるために、設立後40年以下の会社に対象を絞ったが、それでも「ビジョナリー・カンパニー」が絶賛した企業、たとえばHPは産業全体が好調だったために繁栄できたのだと批判されている。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
著者:ジェームズ・C. コリンズ
販売元:日経BP社
発売日:1995-09
おすすめ度:4.5
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このような経緯をふまえ、キム教授は1880年から2000年まで、30を超える業界で150以上の戦略的打ち手を研究した。

ブルーオーシャンを創造した企業とレッド・オーシャンから抜け出せずにいる企業を分析した結果、ブルー・オーシャンを生み出す戦略は業界や時代を超えて不変であることがわかったと。

ブルーオーシャンを切り開いた企業は、レッド・オーシャンに居る企業とは異なり、競合企業とのベンチマーキングを行わず、その代わりに「バリュー・イノベーション」という戦略をとっているとキム教授は指摘する。

「バリュー・イノベーション」とは、差別化とコスト低減が2者択一ではなく、両方を実現する新しい需要の掘り起こし戦略だ。顧客や自社にとっての価値を高め、競争のない未知の市場空間を開拓することによって競争を無意味にする。


シルク・ドゥ・ソレイユの戦略分析

具体例で考えないとわかりにくいので、シルク・ドゥ・ソレイユについてのブルーオーシャン戦略分析のための戦略キャンバスとアクション・マトリクスを紹介しておく。いずれもこの本で紹介されている図に従って筆者が作成したものだ。

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出典:本書60ページ

戦略キャンバスは横軸に競争要因を抜き出し、縦軸で高低を評価した点をプロットして折れ線グラフとしたものだ。シルク・ドゥ・ソレイユ独自の競争要因は、他の競合にはないので、競合者の評点はない。

独自の競争要因をどれだけつくれるかが、ブルーオーシャン戦略の鍵である。

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出典:本書65ページ

アクションマトリクスは、従来型のビジネスモデルに「減らす」、「取り除く」、「増やす」、「付け加える」の4象限でアクションを整理したものだ。

シルク・ドゥ・ソレイユが取り除いたものは、コストがかかるものばかりで、逆に付け加えたものが、差別化の競争要因となっていることがわかる。


イエローテイルの戦略分析

具体例として取り上げられているものの分析例を、もう一つ紹介しておく。オーストラリア産ワインのイエローテイルだ。

アメリカは世界第3番目のワイン消費国で200億ドル規模の国内市場があり、この2/3をカリフォルニアワインが占めており、フランス・イタリアなどの旧大陸やオーストラリア、チリなどの新大陸の輸入ワインと激しく競争している。

しかし一人当たりのワイン消費量は世界第31位で伸びていない。全米で1,600あるというワイナリーの業界再編が加速し、上位8社が生産量の75%を占め、残り25%を1,600のワイナリーが争っている。まさにレッド・オーシャンだ。

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出典:本書55ページ

多くのアメリカ人がワインを敬遠していたのは、味わいが複雑すぎて堪能できなかったからだという発見に基づき、イエローテイルは、ビールやカクテル飲料の様に気軽に飲め、フルーティな甘さで後味が残らないワインをつくった。

低価格デイリーワインの倍以上の$6.99という価格設定ながら、イエローテイルは2001年7月の発売からわずか2年でアメリカで最も輸入されたワインとなり、瓶入りの赤ワインではカリフォルニア産に代わって全米で販売量トップとなった。

イエローテイルは他のワインブランドを押しのけた訳ではなく、ビール、カクテル飲料を飲んでいた初心者を取り込んでワインの需要を増加させたのだ。

タンニン、オーク樽、こく、深みなどといった要素を取り除き、ボジョレヌーボーの様に熟成せずに出荷するという方針をとったことで、カセラワイナリーズは運転資本を減らし、資金を短期間で回収できるようになった。

品種も今は赤が3種類、白が1種類だが、当初は白赤一種類ずつ、シャルドネとシラーズのみだった。

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イエローテイルのアクション・マトリクスは次の通りだ。イエローテイルは、ワイン界の常識を打ち破って見事にブルーオーシャン戦略を実現したのだ。

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出典:本書59ページ


余談になるが、筆者もイエローテイルの白、シャルドネを飲んでみた。熟成されていないので、こくも後味もない。いわば味も香りもない焼酎版のワインを飲んでいるようなものだ。クリヤーな味といえないこともないが、正直、筆者はイエローテイルをワインとは呼びたくない気持ちだ。

これならよっぽどチリのフロンテラや南アフリカのKWVの方が安くて、うまいと思うが、こんな味のないワインを好む層も米国にはいるのかもしれない。

飲みやすさだけなら、ポルトガルのマテウスのスパークリングワインの方が良いと思うが、イエローテイルバブルスという名前でスパークリングワインもある様だ。

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ブルーオーシャン戦略の成功事例としていくつもの例が挙げられているので、参考になる例を紹介しておく。


*サウスウェスト航空

ハブアンドスポークシステム(いくつかのハブ空港を軸とした放射線状の路線展開)、空港ラウンジ、機内食、座席の選択肢などを取り除き、心のこもったサービス、便数の多さ、安い運賃に徹して人気を博している。


*ネッツジェッツ社

ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハザウェイに買収されたチャーター機の共有サービス。16社で1機を保有し、最初に37万5千ドル払えば、後は飛行機のランニングコストだけで6百万ドルもする専用機を共有できる。

メンバー全員がファーストクラスを使って移動するより割安で、しかも目的地近くの空港に直行でき、移動時間を短縮できるので、ビジネスユーザーに大人気となった。


*NTTドコモのiモード

通信料値下げのレッド・オーシャンから、ケータイによるインターネットアクセスをキラーアプリケーションとしてiモードが1999年に登場した。

スタートして半年で百万人のユーザーが2年後には2千万人、4年後には4千万人になり、一時はドコモの株価総額が親会社のNTTを抜いていたことが記されている。

勿論ドコモはこの本で紹介されているiモードの成功の後、またもやレッド・オーシャンに入ってしまっていることは周知の通りだ。

松永さんの「iモード事件」を読んで知ったのだが、ドコモのiモードは、マッキンゼーがドコモの首脳に提案して、松永さん、夏野さんなど外人部隊が雇い入れられて立ち上げられたサービスだ。

iモード事件 (角川文庫)


勝間和代さんの本には、勝間さんがマッキンゼーに居たときに、ドコモのiモードのコンサルメンバーとして携わっていたことが記されていた。

松永さんがブレインストーミングのために、社内の会議室で開いた「クラブ真理」に出入りする芸能界関係者の「げっく」(月9)発言に、マッキンゼーのメンバーの顔が引きつっていたという一節が思い出される。

iモードの推進者夏野さんがドコモを去ることが決まった今、ドコモがどうやって再度ブルーオーシャン戦略を見つけられるのか注目させる。


*女性専用のフィットネスクラブカーブス

カーブスは1995年にフランチャイズ展開を開始して以来、6,000店もの出店で、会員数が二百万人を突破した。

こじんまりとしたスペースに10台のマシンを円形に配置し、女性会員はおしゃべりしながらトレーニングに励み、30分でサーキットトレーニングを終える。キャッチフレーズは「一日コーヒー一杯のコストで適度なエクササイズと健康が手に入る」だ。


*ブルームバーグ

ブルームバーグが誕生したのは1980年代前半だが、それ以前はロイターとテレレートが金融情報界に君臨していた。ロイターとテレレートはITマネージャー層に適したサービスをしていたのに対して、ブルームバーグはトレーダー向けのサービスに徹して市場を席巻した。

トレーダー向けに二つのスクリーンがついたボタン一つで分析ができる端末を提供し、トレーダーの生活に役立つ情報サービスやオンライン・ショッピング・サービスも付加した。トレーダー達はITマネージャーにブルームバーグシステムへの変更を迫ったという。


*バスメーカー NABI

ハンガリーのIkarus Busの米国法人がスピンアウトしたバス車体メーカー。公共交通部門向けのバス業界では、車両価格の引き下げ競争が常態化していた。NABIは車両価格よりも保守費用の方が高いことに注目し、メインテナンスコストと燃費が良い美しいデザインのグラスファイバー製のバスを導入した。

NABIの新型バスは自治体にも乗客にも好評で、1993年のアメリカ市場参入以来、たちどころに20%のトップシェアを獲得した。


*QBハウス

日本の格安理髪チェーンQBハウスの事例が取り上げられている。1996年に一号店を開店以来、2003年には200店を超え、シンガポールやマレーシアにも店舗を展開しているという。

QBハウスの戦略キャンバスは次の通りだ。ちなみにエアーウォッシャーというのは、バキュームで刈った毛を吸い込むシステムだ。

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出典:本書103ページ


新たな需要を掘り起こす

ブルーオーシャン戦略を創造するためには細かい数字は忘れ、森を見ること、新たな需要を掘り起こすことが重要だ。

キム教授は、まだ取り込めていない需要を次の三つのグループに分けて説明している。

第一グループ 市場の縁にいるが、すぐに逃げ出すかもしれない層
第二グループ あえてこの市場の製品やサービスを利用しないと決めた層
第三グループ 市場から距離のある未開拓の層

これらの需要をうまくすくい取って、ブルーオーシャン戦略を創造するのだ。

例として次が挙げられている。


*キャロウェイゴルフ

スポーツ愛好家などにゴルフが敬遠される理由をキャロウェイが調べたところ、「ゴルフボールを打つのは難しそうだ」という認識があった。

そこでヘッドの大きなビッグバーサというクラブを開発して、ボールに当てやすくして新しい需要を掘り起こした。

筆者も初代ビッグバーサを持っている。一時人気No 1のドライバーだった。


プレタマンジェ(Pret A Manger)

ヨーロッパの都市部に働くプロフェッショナル達はレストランで昼食を取るのが普通だったが、ヘルシー志向、時間、コストの面からより良い選択肢を求めていた。

そこでプレタマンジェはレストランに劣らない良質のサンドイッチを、ファーストフード店並にすばやく作りたての状態で提供し、こぎれいな店舗と手頃な価格で提供した。英語だがプレタマンジェのメニューを紹介しておく。寿司もメニューにある。

プレタマンジェは2003年時点でイギリスで130店舗展開し、売上高は年間一億ポンドを上回り、その成長性に注目してマクドナルドが33%の株式を取得した。

これには後日談がある。日本マクドナルドがプレタマンジェチェーンを2002年にオープンしたが、2004年に撤退している。そういえば筆者も三角の紙箱に入ったサンドウィッチを売っている中野坂上(?)だったか日比谷シティだったかの店に入った記憶がある。


*JC Decaux(ジーセードゥコー)

自治体向けにバス停やゴミ箱、ベンチなどのストリートファーニチャーを広告媒体として無償で維持管理サービスを行うビジネスを開始した。ストリートファーニチャー広告は1996年から2000年まで60%も増えた。

自治体との契約は8年から25年なので、JC Decauxは高利益率のビジネスを長期間独占できることになり、2003年の時点で世界33ヶ国に30万以上の広告板を持っている。(現在は40ヶ国、35万カ所)

JC Decauxは日本では三菱商事と提携しておりMCDecauxという会社をつくり、たしか横浜市の市営バスのバス停広告をやっていたと思う。MCDecauxのサイトではJCDecauxのシェアなどの数字も公開されている


*JSF(Joint Strike Fighter)英米の次世代戦闘機

JSFはロッキードのF−35と決定し、人間の乗る最後の戦闘機と言われている。

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出典:Wikipedia

米国の主力戦闘機は従来、空軍、海軍、海兵隊それぞれが独自の機種を選定していた。

JSFは3軍の異なる需要を大胆に統合し、同じ機体で空軍用、STOVL(垂直離着陸)機能も持たせた海兵隊用、翼が大きい海軍用の三機種を製造し、性能や機能を向上させる一方、コストを当初の約二億ドルから3,300万ドルに劇的に下げることに成功した。

このJSF選定も、ブルーオーシャン戦略の新規市場の獲得というコンテクストで説明されている。たしかに三軍共通の戦闘機というのは米軍始まって以来の出来事で、これにより量産効果もあがるので、コストを下げ、バリューを挙げるというブルーオーシャン戦略の典型的な事例である。


ティッピング・ポイント・リーダーシップ

ブルーオーシャン戦略を実行する上で、組織面でのハードルを乗り越えるために、キム教授はティッピング・ポイント・リーダーシップを用いることが必要だと説く。

ティッピング・ポイント・リーダーシップとは、どんな組織でも一定数を超える人々が信念を抱き、熱意を傾ければ、そのアイデアは大きな流れとなって広がっていくという考え方である。

筆者の記憶が正しければ、砂を板に載せて板をだんだんに傾けていくと、砂が一斉に流れ出す傾斜角度がティッピング・ポイントだ。

ティッピング・ポイント・リーダーシップの例として、1994年にニューヨーク市警察(NYPD)本部長に任命されたビル・ブラットンのリーダーシップを紹介している。

1990年代前半までのニューヨークは犯罪発生率が高く、殺人件数は市場最悪を更新し、市民は不安な毎日を送っていた。にもかかわらず、予算面では厳しい制約を受けていた。

ところがブラットンが着任して2年間で予算の増額なしに重大犯罪発生率は軒並み35−50%減少し、1996年にブラットンが退任してからも犯罪は減少し続けた。

ブラットンが行った改革は次のようなものだ。

治安が悪く市民が利用できないニューヨークの地下鉄に市警の目は行き届いていなかった。ブラットンは、就任直後から自ら地下鉄で通勤し、幹部にも地下鉄通勤させることで、市警の地下鉄治安対策への考え方を180度変えさせた。

市警と市民との対話集会を通じて、重大犯罪の検挙率が上がっていることに市民はほとんどありがたみを感じていないことがわかり、むしろアルコール中毒者、街娼、物乞い、落書きなどの身近な軽犯罪に絶えず不快な思いをさせられていることがわかった。

そこでブラットンは「割れ窓理論」というブルーオーシャン戦略に重点を置くこととした。

ティッピング・ポイント・リーダーシップの考え方として、Hot Spot(重点領域), Cold Spot(非重点領域), Horse Trade(資源交換)というものがある。

地下鉄の犯罪を減少させるために、それまでは各路線や出口に警官を配備していたので膨大な費用がかかっていたが、大きな犯罪が集中している特定の路線と駅には十分な警官が配備されていなかった。これを同じ数の警官を重点地域のみに配備することにより、コストを抑えて犯罪件数のめざましい減少を勝ち取った。

麻薬関連が全犯罪に占める割合は50%程度なのに、麻薬班は警官全体のわずか5%で、しかも平日に勤務していた。麻薬班を増員して重点配備したら麻薬犯罪はみるみる減少した。

犯罪逮捕も以前は逮捕した警官自らが犯罪者を裁判所に連れて行って、戻ってくるまで16時間も掛かっていたが、犯罪者移送用の巡回バスを運行させ、警官は自分の担当の地下鉄駅で犯罪者を引き渡す様にした。警官は1時間で職務に戻れるので稼働率も大幅に上昇した。

ティッピング・ポイント・リーダーシップでは組織に影響力を持つ中心人物(Kingpin、ボウリングの1番ピン)に徹底して働きかける。ブラットンの場合は76人の分署長を中心人物とし、彼らをてこにしてNYPDの36,000人の警官を掌握した。

次に金魚鉢のマネジメント(fishbowl management)だ。中心人物の行動が見通せるようにすることだ。ブラットンの場合は全分署長、市警幹部と市のお偉方に二週間に一度集まって貰い、「犯罪対策評価会議」を開いた。分署長は働きが悪いとみんなの前で糾弾されるので、成果を上げようとする組織体質ができた。

次に細分化(atomization)だ。「アメリカ一危険な巨大都市を最も安全な都市に変貌させる」という目標は達成不可能と思われたが、ブラットンはこの目標を警官一人一人の担当地区での安全を確保することにして細分化して達成した。

自分の受け持ち地区の安全を守れば、それでよいとしたのだ。

政治的なハードルを乗り越えるには、「守護神」に頼り、「大敵」を黙らせ、「アドバイザー」を起用するのだ。ブラットンは警官の中の警官ともいえる人物にアドバイザーとなってもらい反対勢力となりそうな人物を事前にパージした。

ブラットンの場合、「守護神」は市長であり、「大敵」は犯罪者の逮捕急増でうまく機能しなくなるおそれがあった裁判所だった。

こまごました犯罪を多数裁判所に持ち込んでも、裁判所は対処できるはずで、むしろ身の回りの犯罪を押さえておいた方が、長い目で見れば取扱件数は減るだろうという論戦を展開し、市長の信任とマスコミの支持を得て裁判所を動かした。

ブルーオーシャン戦略を実行するにあたって重要なのは関与Engagement, 説明Explanation, 明快な期待内容Clarity of Expectationの3つのEだ。従業員を巻き込み、納得するまで説明して、明確な期待水準を示すのだ。

前の警視総監の矢代さんは、筆者の寮の先輩だったが、警視庁も是非NYPDのブラットンのように、「守護神」と「アドバイザー」を得て、首都の治安を改善して欲しいと思う。


ブルーオーシャンを探すと言う発想は斬新なものがある。単なる抽象論でなく、戦略キャンバスとアクション・マトリクスを使った戦略の整理法は実例に簡単に適用でき、役立つと思う。

具体例が多く、読みやすい経済書なので、是非一度手にとって見て頂きたい本である。



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