前ダイエー会長、東京日産販売の社長で、今回の横浜市長選挙に民主党の支援を受けて立候補した林文子さんの自伝的セールスノウハウ論。

林さんは2008年5月放映のNHKの土曜ドラマ「トップセールス」のモデルとなった。

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このブログでは「一生懸命って素敵なこと」を前回紹介した。


失礼ながら、その売り方ではモノは売れません

タイトルが挑戦的なので、本を手に取るのにも反感を覚える人もいるかもしれないが、普通の女性の目線で書かれた好著である。

(ところでこのタイトルは林さんが自分でつけたタイトルとは思えない。出版社の売らんかなというタイトルなのでは?)

一般的には知られていなかった人がダイエーのトップになったので、筆者をはじめとして不思議に思った人も多いと思うが、この本を読めば林さんがただ者でないことがよくわかる。

30年間車を売った経験しかない訳だが、人にモノを売り、かつそれを他人にわかりやすく説明するという点に関してはずば抜けた才能があることがよくわかる。

セールスノウハウ本は著名コンサルタントなどの本もでているが、この本は自分の体験をもとにした印象に残る具体例が多く、誰でも取り入れられるストーリーだからこそ説得力がある。

生活者の視点で書かれており、頭にスッと入る。

林さんは高卒後東レに就職、事務職として働き結婚。たまたまホンダのシビックを購入した時のセールスマンがあまり気の利かない人でありながらトップセールスマンであることを知り、自分でもやれるのではと31歳でセールスの世界に飛び込んだ。

女性のセールスは初めてだったので、研修も手探りで、ともかく外回りということになり、トヨタのトップセールスマンの書いたノウハウ本を読んで、1日100軒訪問すべしと飛び込み営業を始めた。

外回りでご用聞きに徹し、いきなり入社1ヶ月で支店でトップセールスになり、外回りからショールームでの接客に昇格。

他のセールスマンが客を見定めて、ひやかし客を見切るのに対し、わざわざ足を運んでくださるだけでもありがたいという気持ちから、もてなしに十分気を使い、お客はすべて大切に扱ったので、さらに実績を伸ばし、その後もトップセールスを10年間維持する。

たしかに『奥様、とてもすてきなブラウスですね』とか『ご夫婦仲がよろしくて結構ですね』とか言って近づいてきたら、客の警戒感も解け親しみを感じるだろう。

決して自社製品をほめないとか、客の性格を読む、相手のスタイルに自分を合わせるとか、きっちりとカーネギー等の人を動かす基本も押さえている一方、その日のうちに答礼訪問とか『できるセールスマン』の積極さも兼ね備えている。

「林さんは説明が熱心だったから、きっと後で家にくるよ、と話をしていたんだ。あれならアフターケアも大丈夫だと女房も言っていてね。」

ホンダで10年努めて販売課長になって、BMWに転職する。最初はノーだったので、履歴書にレポートを添えて、「これから田園都市エリアは重要になる。田園都市を熟知している私が10年つちかったノウハウをつき込むので、是非採用してくれ」と言ったら、即採用。

入社2年目で98台を売り、その後5年間はトップ。業績の悪い新宿支店長に抜擢される。社員のいいところをほめ、やる気をださせるやり方で業績トップ支店とする。

ショールームでのコンサートを始め、『BMW新宿桜能』という催し物も開催。次の新川では『新川能』を開催。能とBMW、なぜかフィットする。すごい発想である。

新川支店でも業績が上がってきたところで、フォルクスワーゲンから直営ディーラーのファーレン東京社長として誘いがくる。

迷っていたがフオルクスワーゲングループジャパンの外人社長から
1.社員を幸せにしてくれませんか?
2.女性として機会をつかまえ、成功に導くことは日本の働く女性にとっても励みになるのではないでしょうか? 
3.そのためのサポートなら私はあなたのためになんでもします。
という殺し文句に感動し、転職する。

ファーレン東京は当時長期赤字を続けていたが、自分の生活も楽しめない人が、高級車を売れるとは思えないとして、9時閉店を7時閉店に繰り上げ営業時間を短縮。

この改革が社員の気持ちに火をつけて、密度の濃い仕事をするという意識に変わり、2年で黒字転換、その後も売上を伸ばした。

経営者となって自分の裁量で決まる範囲が格段に広くなることを実感し、社長業のおもしろさがわかってきたと。

いくつか参考になる章のタイトルだけ紹介すると。
*営業に奇策なし
*マーケティングでモノは売れない
*われわれ営業は『個売業
*こどもに高級車を売る(小さい兄弟の相手をしてあげたら、数ヶ月後両親が来社し1千万円の車を買ってくれたことがある)
*営業ツールはこれだけ(自分の声・顔=電話、面談)
*買い物はエンタメである(Shopping is entertainmentの楽天も同じだ)
*ホウレンソウするのは上司のほう
*CSよりES、そしてFSへ(CS=Customer Satisfaction, ES=Employee Satisfaction, FS=Family Satisfaction)
*女性へのちょっとしたアドバイス


『売れる人の共通点』という章は面白い。

駅頭でティッシュとチラシを配っている男女がいたが、ティッシュの女性は人のじゃまをしているようなポジショニングで全然ダメ。チラシの青年は人の流れが湾曲したポジションをねらって手際がよい。林さんが話を聞いてみると:

「誰でも面と向かって待っていられると、ちょっと欲しいなと思っても自分の思いを見透かされている様な気がして、あえて貰わないですね。僕はやや顔を下向きにして、人の足先が視線に入るのを見ているようにしているのです。」

「圏内に入ったなと思ったら、すっと相手の手元にチラシを、触るか触らないかといった感触で近づけるのです。この手元にスッとというのが大事な呼吸なんです。」

「相手が反射的にチラシを握ってしまう、そのタイミングが手元にスッなんです。だからチラシも尻のあたりに隠すように持っているほうが、より効果的です。」

なるほど頭にスッとではなく、手元にスッともあるんだ。

できる営業の3要素は次であると:
1.人が好きなこと
2.勇気を持つこと
3.積極性
あくまで普通の人の目線である。

社長のワンポイントアドバイスではこう言うと:

「みなさん、初めてのお客様が見えたら一番初めに何を感じ、どう考えるでしょうか?」「まずお客様個人に関心を持ってください。どこからお越しになったのか?どんなお仕事か…。人が好きでなければ人への関心も持てないでしょう。」

筆者がガツーンとやられたのは、『年齢で売り方が違う』という章。若い頃はひたすらエネルギーで押し通したような売り方。どの家はどの車を持っているかすべて知っていて、他社の新車に変わっていると地団駄踏んでくやしがった。

やがて経験を積むと、強引なやりかたは反作用も強いということがわかり、他社に決めても「それはよかったですね」と客の気持ちをサポートする様な営業にかわる。人脈もできて、新規、既納客、紹介が1/3づつとなってくるのが30代、40代の売り方。

50代になると電話一本で話が決まるようでないといけません。」たしかにそうだ。20代、30代と同じ事をやっていては価値がないよね。

別ブログでも紹介したソフトブレーンの宋さんの「日本の営業は非効率的なことをやっている」との指摘に対しては、自分はアナログ型で、デジタル型だけで営業ができるとはどうしても思えないと。

最後にこうくくっている。

ではあなたの使命は?」「お客様に尽くすこと。」

なるほど。だから主婦の店(中内さんの創業店の看板)ダイエー再建や横浜市長選挙をひきうけたんだな。

がんばれ林さん!



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