政権交代政権交代
著者:榊原 英資
販売元:文藝春秋
発売日:2008-04-23
おすすめ度:4.0
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元大蔵省財務官で、「ミスター円」と呼ばれた榊原英資さんの政権交代必至論。

2008年4月の本だが、榊原さんの書いたことがいよいよ実現しそうな勢いだ。

本の帯に「幻想ではない。歴史的な必然である」と書かれ、小沢一郎民主党党首との対談も収録されている。

なんでこの時期に現在早稲田大学教授の榊原さんがこのような刺激的なタイトルの本を出すのか、いまひとつしっくりこなかった。

しかし、この本を読んで、榊原さんが大蔵省在任時代の30代半ばで新自由クラブの設立綱要の素案を書いたり、選挙に出馬も考えていたことを知り、榊原さんが以前から政治活動に大変興味を持っていることがわかった。

だから2008年にこのようなタイトルの本を出したのだと思う。

内容を読むと、榊原さんが考える政策要項という様な部分はむしろ少なく、戦後日本の政治を担ってきた自民党が、吉田内閣の平和国家−軽武装路線からスタートし、1970年代の高度成長時代まではビジョンを持って国づくりをしてきたこと、特に30本もの議員立法を含む120本の法律を成立させ、官僚を意のままに使った田中角栄の力が大きかったことがよくわかる。

しかし次第に自民党はビジョンを失い、小泉内閣などのポピュリズム政治と化して、政権交代をしないと日本が世界の中で取り残される状態になってきたことを説明している。

アマゾンのなか見検索には対応していないので、目次を紹介しておく。

第一章 自民党長期政権の構造
第二章 自民党の危機と巧みな延命路線
第三章 小泉「改革」による破壊
第四章 生き残りを賭けるときにきた日本
第五章 新しいくにのかたち
第六章 「政権交代」核心対談 小沢一郎民主党代表に聞く

このブログでも紹介した「日本は没落する」では、現在の日本の様々な問題点を指摘しており、ラディカルに日本を変えなければならないことを力説している。

日本パッシングから日本ナッシングになりつつあっても、日本の復活は決して難しいものではない。しかし、そのためには日本をラディカルに変えるプログラムを着実に実行することが必要である。

この10年の経験からすると、自民党中心の政権ではラディカルな変革はまず無理なので、民主党にも問題はあるが、政権交代をして民主党中心の政府に賭けてみるしかないのではないかと榊原さんは語る。


格差なき経済成長は世界でも異例

最初に榊原さんは、1970年代までの高度経済成長を可能にした吉田茂の平和国家路線、池田勇人の所得倍増論と金融資本を核とした産業政策、高度成長から生じた格差を是正した田中角栄の公共事業を中心とした地方振興政策について説明している。

高度成長を達成しながら、平等な社会を実現するというのは、如何に難しいか中国の現状を見ればわかるという。その両方を達成したのは、自民党の政治家と官僚がグランドデザインを書いて、国の舵を切ったからだと。

榊原さんが大蔵省に入った時の大蔵大臣は田中角栄だったが、田中は幹部の名前は勿論、息子や娘の名前まで覚えていて、進学や誕生日などの機会に、「今日は○○ちゃんの○○だろう」と言いながら、ぽんと100万円くらいの現金を渡したのだという。

業者からお金を貰うと収賄だが、大臣からお金を貰っても違法ではないので、幹部はみな断るのに困っていたという。


日本を作りかえた田中角栄

田中は頭の回転が速く、記憶力も抜群で、発想も非凡であり、大変な行動力の持ち主だったという。一人で30本も議員立法を成立させたのは、後にも先にも田中角栄だけだと。

農産物の価格維持と地方での公共事業により、国全体の経済発展と都市・農村の格差解消という矛盾する二つの政治課題を両立させることができたのだと。

筆者が大学に入った時は、日本列島改造ブームで、大学祭での筆者の大学のクラスの出し物は、「日本列島改造論」研究だった。

日本列島改造論 (1972年)


田中角栄が議員立法で成立させた法律が今でも生きている。

3月に一時的に期限が切れ、4月に復活したガソリン税を道路建設に使う「道路整備費の財源等の特例に関する法律」、高速道路料金の「プール制」、そもそもの「道路法」、新幹線建設を決めた「全国新幹線鉄道整備法」などだ。

その他「住宅金融公庫法」、「国土庁設置法」など120近くの法律、住宅公団関係の法律、筑波学園都市建設など、すべて田中角栄の仕事だという。


田中角栄後の自民党政治

ところが1970年代に石油ショックやニクソンショックなどで、高度成長が終わると自民党の政策は財政赤字を生み出す様になり、1976年にはロッキード事件で田中角栄が逮捕され、それまでの自民党の路線は変更を余儀なくされた。

このときに1976年に旗揚げしたのが河野洋平を中心とする新自由クラブだ。榊原さんが綱領の素案を書いたという。

榊原さんは1977年に当時大蔵省の同僚だった野口悠紀夫さんと一緒に「大蔵省・日銀王朝の分析」という論文を「中央公論」に発表し、そのまま大蔵省をやめるつもりが、当時の幹部に慰留され、埼玉大学の助教授に出向し、ハーバードの客員準教授となった後で、大蔵省に戻った。

このときの論文を発展させたものが、野口悠紀夫さんの「1940年体制」だという。

1940年体制―さらば戦時経済1940年体制―さらば戦時経済
著者:野口 悠紀雄
販売元:東洋経済新報社
発売日:2002-12
おすすめ度:4.0
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その後1982年に保守右派の中曽根内閣が成立し、5年間の長期政権となり、国鉄、電電公社、専売公社の民営化などの成果を残すが、政治改革は部分改革に終わったという。1985年のプラザ合意も中曽根内閣時代のことで、これによる円高で日本の製造業は大きく変貌することを余儀なくされた。

その後1993年には小沢一郎が新生党を結成し、日本新党の細川護煕を首相とする連立内閣が誕生し、自民党は10ヶ月の間下野した後、恥も外聞もなく主義の違う社会党との連立で村山首相を立てて政権に返り咲いた。

しかし細川内閣時代に小沢一郎が成立させた小選挙区制が金権選挙体質を変え、派閥政治を終わらせるきっかけとなった。


小泉ポピュリスト政治

2001年から小泉純一郎が首相となり、ポピュリズム政治と化し、「改革なくして成長なし」などのキャッチフレーズで人気を博すが、国民の大多数に恩恵のない郵政民営化などが実現したに過ぎず、日本国のビジョンを変えることはなかった。

榊原さんは、90年代後半から2000年代前半の日本の金融システムを救ったのは、竹中平蔵ではなく、宮澤喜一だという。今のアメリカの不良債権買い取りによる緊急財政支援法案は75兆円規模だが、宮澤さんは早期健全化法案で25兆円、さらに金融再生勘定等で60兆円という合計85兆円の公的資金を用意して、反対を押し切って銀行を支えて金融システムの崩壊を防いだ。

竹中平蔵は理由不明ながら、UFJ銀行を締め上げ、無理矢理三菱東京銀行と合併させてしまった。

2000年代に戦後最長の景気拡大が可能となったのは、90年代のバランスシート不況から各企業が脱却したからで、小泉改革の成果ではないと榊原さんは分析する。

道路公団民営化も、税源を地方に移譲するという三位一体改革も、国民生活には何も影響がない郵政民営化も虚構であると。

そのそも改革すべきは、小泉=竹中が手を付けた分野ではなく、教育・医療・年金だったが、こうした重要分野には手を付けず、結果として年金問題などで国民の不満を爆発させ、これが2007年の参議院選挙での自民党の歴史的敗北の原因となったのだと。


国家戦略なき日本

民間企業をバックアップするのが政府の仕事であり、資源開発分野など巨額のリスクマネーが必要な分野こそ、政府が積極支援するべきなのに、日本には長期的な資源戦略が欠けていると榊原さんは指摘する。

サウジアラビアのカフジ油田の採掘権も、サウジが要求した鉱山鉄道の建設を日本政府が受けなかったから採掘権が更新できなかったのだという。

語学力や日本文化を広めることなどについての教育の問題も指摘されている。

中国は全世界に「孔子学院」という中国文化センターのようなものをつくって、中国語教育と中国文化教育を中国から講師を派遣しておこなっており、全世界60ヶ国に210ヶ所あるのだと。早稲田大学にも「孔子学院」があるという。

だから全世界の中国語学習者は3,000万人おり、日本語学習者は300万人にすぎないのだと。


新しい国の形

以前あらすじを紹介した前著「日本は没落する」でも述べられていたが、榊原さんの考える新しい国の形は次のようなものだ。

1.人口30万人単位くらいで自治体組織を300くらいつくる。いわば「廃県置藩」なりと。

2.中央官庁のうち、教育・社会福祉・国土交通は地方に移し、中央政府には外交。防衛・警察・財政金融・環境・エネルギー分野のみ残す。民間と役人の相互移動を図り、天下り規制をなくす。

3.イギリス型の強い内閣をつくる。イギリスは閣内大臣、閣外大臣、副大臣、政務次官など大臣職にある人が約100人いるという。その他に大臣の政務秘書官に議員を指名できるので、全体で200人くらいが与党から官庁に入っているという。

4.基礎年金は全額税金化 保険ではなく、税金を分配する

5.医療システムに市場メカニズムを導入する医療改革

6.教育の自由化


最後の小沢一郎との対談では、基本コンセプトは「国民各人の自立と、自立した個人の集合体としての自立した国家の確立」、「フリー、フェア、オープン」であると「日本改造計画」に書かれていた基本的考えが説明されている。

日本改造計画日本改造計画
著者:小沢 一郎
販売元:講談社
発売日:1993-06
おすすめ度:4.5
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「フリー、フェア、オープン」の自己責任の例として、たしかグランドキャニオンの展望台に手すりがなかったことが書かれていたことを思い出す。

「基礎年金の全額税金化」を除いた上記の点が、小沢一郎の口からも説明されており、いずれ民主党のマニフェストに書かれるのだろう。


筆者は必ずしも榊原さんの政策論のすべてに賛成なわけではないが、日本をどうするのかビジョンを議論すべき時だという意見には賛成だ。

米国の大統領選挙をとっても分かるとおり、そもそも選挙とは未来の日本をどうするかというビジョンと戦略で闘うべきだと思う。

日本改革の提言の部分と昔の自民党と官僚が作ってきた時代の日本のことがよくわかって参考になった。

強い日本を再構築することを考える上で、おすすめの本である。


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