就職率100%を誇り、すべての授業を英語で行い、新入生全員に1年間の寮生活、すべての学生に1年間の海外留学を義務付けるリベラルアーツ大学、国際教養大学学長の鈴木典比古さんの本。

日本語の大学名は国際教養大学だが、英語ではAkita International Universityと秋田の名前が入っている。

この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、「なんちゃってなか見!検索」で目次を紹介しておく。その章の目次のあとに、内容を簡単に紹介する。

第1章 世界の大学で何が起きているのか

・教育鎖国をやめて世界基準を導入するしかない
・優秀な学生を集めるべく世界中で青田刈りする海外の大学
・ブランチキャンパスという名の直接投資を行う海外の大学
・「教育財」の輸出入があればこそグローバル化は成り立つ
・真のグローバル教育ができないと世界では通用しない
・世界最先端の講義をどこにいても無料で受けられる時代
・自宅で基礎知識を身につけ大学で応用問題に取り組む「反転授業」
・日本の組織は「閉鎖型」から「浸透膜型」に構造をシフトせよ
・学生は勉強しない、教員は密度の濃い教育をしない…
・「大学レポート」で外国人に向けても情報公開

この章では、世界の大学の動きを紹介している。

世界の有名大学は海外で優秀な高校生を青田刈りしている。

たとえば、シンガポール国立大学は日本人も積極的にスカウトしていて、学費も家賃も無料、引っ越し代や渡航費も出し、さらに毎月10万円支給します、というような条件でスカウトしているという。

有名大学のブランチキャンパスは、現在は中国が27校、UAEが24校、シンガポールが13校、カタール11校、マレーシア9校という具合だ。

日本には地方自治体が積極的に勧誘して、一時は37校も海外の大学の分校があった。しかし、当時の文部省が大学として認めなかったので、どんどん減っていった。

現在は筆者のシンガポール人の友人の娘さんが行っているテンプル大学レイクランド大学、ボストン大学国際ビジネスマン養成プログラムの3校のみだ。

国際教養大学の場所も、もともとはミネソタ州立大学機構秋田校の跡地だったという。

インターネットによる大学教育も盛んで、Courseraというスタンフォード大学、イェール大学、プリンストン大学などが参加する米国発のプラットフォームの学習者は1,579万人、参加大学・機関数133、1,467コースがあるという。

講義内容は、教師がビデオに向かってしゃべる講義形式だけでなく、1回につき10分くらいの講義の動画を見た後、小テストが提示され、それに回答して1セットとなり、一つの講座につき週5〜10セットの学習をした後で、課題が出され、期限内に回答するという形式で、これを繰り返して、最後に総合課題を提出して、それが合格レベルであれば、修了証書をもらえるという形だ。

日本もJMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)というのをつくって、gaccoなどのオンライン教育をスタートさせている。

学習意欲があれば、世界どこでも年齢に関係なく世界最先端の講座が受講できる時代なのだ。

日本の大学は入学するのは難しく、卒業するのは簡単な傾向があり、日本の大学生が米国の大学生に比べて勉強時間が短いことが統計で紹介されている。

サンプル44、905人の東大大学経営・政策研究センターが2007年に行った調査では、日本の大学生1年生は、1週間に全く勉強しない人が9.7%、1〜5時間勉強する人が57.1%で、一週間に5時間以下しか勉強しない学生が7割という結果が出ている。

それに対して米国では、全く勉強しないのは0.3%、ほとんどなく、最も多かったのが11時間以上勉強する58.4%だった。約6割の学生が授業の予習や復習で週11時間以上勉強している。

これは米国ではGPA(Grade Point Average)という全科目の成績の平均点が一定水準以上でないと、進級や卒業を認めないという制度だからだろうと。どの教科も手を抜けないのだ。

日本は不可にさえならなければ、出席数やテストの点数がギリギリでも卒業はできる。

第2章 リベラルアーツと日本のエリート

・東大も世界から見れば「ワンオブゼム」の大学にすぎない
・将来のエリートを目指す学生たちはリベラルアーツを学ぶ
・いまの日本のエリートに欠けているのは「全人力」
・「人工植林型」から「雑木林型」へ日本の人材育成は転換を
・「個」と「個性」との違いは何か
・「竹のようなしなやかさ」がリーダーに求められる時代

この章では、インダルトリアル(大量生産)の時代と、ポストインダルトリアル(大量生産以降)の時代に求められる能力が異なることを説明している。

インダストリアル時代は、ピラミッド構造の組織で、トップが計画を立案し設計するトップダウンとなっていたが、ポストインダルトリアル時代は組織はフラットとなり、現場がクライアントの意見を聞いて計画を立案し、設計するようになってきた。

これに伴い、インダルトリアルの時代では、仕事が分割されて一人の人間が同じ仕事をずっとやるという形だったのが、ポストインダルトリアル時代には、トータルソリューションが求められ、コミュニケーション能力、チームワーク、問題解決力、リスクテイキングといった能力が求められてきた。

それらの素養を身につけるにはリベラルアーツ教育しかないとの東京工業大学の木村孟(つとむ)学長の言葉を紹介している。

国際教養大学は、著者の鈴木さんが以前勤務していたICUのようなリベラルアーツ専門大学のように、少人数制の授業を重視し、教員と学生が対話をしながら授業を行っているという。


第3章 ”秋田発”グローバルスタンダード大学

・入試によっては偏差値は東大並み、就職率は100%
・新入生はすべて1年間の寮生活を体験
・ルームメイトとのトラブルや議論が語学上達の近道
・「英語を学ぶ」のではなく「英語で学ぶ」ことが狙い
・世界的ヴァイオリニストが演奏しながら授業を行うことも
・少人数制の授業で、教員と学生双方の「逃げ場」をなくす
・24時間、365日、いつでも使える図書館
・すべての学生に1年間の海外留学を義務化
・「ギャップイヤー」制度で、入学前に自分探しや目標探し
・なぜ新渡戸稲造の「武士道」を読むべきなのか
・世界トップクラスのリベラルアーツカレッジになるために
・「生活寮」に「教育寮」も兼ね備えたテーマ別ハウス群
・「英語で英語を学ぶ」教育法を広めたい

この章で、鈴木さんは、国際教養大学の特徴を次のように整理している。

1.国際教養教育を学ぶ、リベラルアーツカレッジ
2.授業はすべて英語で行う
3.新入生は、学生寮で留学生と共同生活
4.在学中、1年間の留学が義務
5.24時間365日、勉強に集中できる学習環境
6.春と秋に入学できる

学生はこのような大学生活を通して、世界で活躍できるグローバル人材として成長していく。その結果が就職率100%だと。

開学してここまでの実績を築けたのは、故・中嶋嶺雄前学長や教員が企業に売り込んだ成果だと。

その教育内容を上記のような項目で紹介している。

卒業生の声

・現状に満足せずに探求心を持ち、新しいことにチャレンジする
・リベラルアーツ教育とは何か、思い悩み続けてほしい
・幅広い視野と好奇心があれば、人生は大きく変わります
・専門性は追及しなくても、「学び続ける」姿勢を身につけてほしい

この章では、卒業生の経験談を紹介している。そのうちの一人は、国際教養大学で初代主将として野球部を発足させた人で、筆者が駐在していたピッツバーグ郊外のWashington & Jefferson Collegeに1年間留学して、米国でもトライアウトを経て野球部に入部し、60人ほどの部員の中でプレイしていたという。

ペンシルベニア州ワシントンは、筆者が住んでいたピッツバーグ南部のアッパーセントクレアという町から車で15分くらいの市だ。こんなところの大学に日本人が留学していたとは知らなかった。

第4章 いま、日本の教育革命が始まる

・強制的に勉強せざるを得ない環境をつくるしかない
・学生たちが能動的に学ぶ環境は、教員がつくりあげるもの
・教え方を知らない教員に教わる学生たちは不幸
・教員の真剣さが伝われば、学生も真剣に学ぶ気になる
・教育者と研究者を二分することはできない
・大学のグローバル化を促す「世界標準カリキュラム」
・意義ある留学を実現するための「コースナンバリング制度」
・大学間の密な連携で、EU諸国では学生たちが複数の大学に在籍
・「文系学部の廃止」がもたらすもの
・受験の段階で専攻を決める必要はない

この章では、大学間の単位取得の世界標準システムを紹介している。コースナンバリングとは、国際標準の科目ごとの番号であり、次のように割り振られている。

100番台:初年次教育、一般教育
200番台:専門基礎教育
300番台:専門(上級)教育
400番台:卒業研究、卒業論文

EUでは大学間の連携が密になっていて、学生がEU諸国の大学を移動して、「学生渡り鳥」となり、複数の大学に在籍し、それぞれの大学で得た単位を蓄積している。

日本でも私立大学団体連合会が、「学生渡り鳥」制度を提言しているが、実践には結びついていない。日本では、依然として、どこの大学を出たかを重視するからだ。

しかし、教育のグローバル化を目指すなら、世界標準カリキュラムに統一し、学生渡り鳥が自由に行き来できる環境を整えるしかないと鈴木さんは語る。


第5章 世界標準の人材をつくるために

・優秀な人材が海外に流出しても、日本の価値は変わらない
・日本でも進む「ウィンブルドナイゼーション」
・年間4〜5万人、グローバル人材を育てたい
・「どこにいるか」ではなく「何をするか」が問われる時代
・これからの時代は、机上の知識だけでは決して乗り切れない
・日本語と英語に加え、もう一つの外国語を学べ
・日本は将来的に、モノづくりの国から知識で勝負する国へ
・本当のキャリアデザインは、一生を賭けてつくりあげていくもの

どこの大学の何学部を卒業したかを重視する日本の慣行はそう簡単には変わらないと思うが、たしかに日本への留学生が増えてくれば、世界標準カリキュラム化は必須となり、それが日本人の学生の海外留学が増えることにもつながると思う。

現在は海外留学すると、日本の単位が足りなくなるために、1年留年するパターンが多いが、こういったことはなくなるだろう。

大学は旧態依然として変わらない部分もあるが、ICUや国際教養大学のようなリベラルーツを重視して、世界標準カリキュラムを導入する大学が増えれば、だんだんに変わっていくだろう。

東大の濱田純一前総長が提唱した9月入学制度は、結局多くの大学の賛同が得られずに、実現しなかったが、これからも国際化にともない、大学の自己変革が進んでいくことだろう。

大学の国際化の動きがわかって参考になる本である。


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