9歳で失明、18歳で聴力も失って全盲ろう者となった東大教授の福島智さんの本。

この本はアマゾンの「なか見!検索」には対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、目次からピックアップして紹介しておく。大体の内容がわかると思う。

☆プロローグ 「盲ろう」の世界を生きること

・「世界」から消えて行った光と音
・コミュニケーションの喪失―絶望と希望の狭間で揺れ動く
・コミュニケーションの復活と再生

第1章 静かなる戦場で
・生きる意味を探す闘いが続く
・極限状況の中でこそ人間の本当の価値が発揮される
・意味があるからこそ生きられる―フランクルの公式「絶望=苦悩―意味」との出会い

第2章 人間は自分たちが思っているほど強い存在ではない
・どん底の状態にあって、それでも生きる意味があるかと自らに問う
・どんな人間にも、生きる意味がある
・石のように眠り、パンのように起きる、そんな素朴な生の中に生きる意味が与えられている
・豊かな先進国にしか「自分らしさ」を求める人間は存在しない
・盲ろうを受け止めた精神力、しかしそれも無敵ではなかった

第3章 今この一瞬も戦闘状態、私の人生を支える命ある言葉
・コミュニケーションこそが人間の魂を支える
・その言葉にどういう意味が込められているのか
・たとえ渋谷の雑踏の中にいても、人は孤立する
・コミュニケーションによる他者の認識が自己の存在の実感につながる
・指先の宇宙で紡ぎ出された言葉とともにある命

第4章 生きる力と勇気の多くを、読書が与えてくれた(この章は全節を紹介する)
・「クマのプーさん」が想像の世界に誘ってくれた
・「杜子春」を読み、真の幸福について考える
・自分の中の沼に沈む
・「いのちの初夜」にいのちの本質を見る
・吉野弘の誌「生命は」によって、いのちの美しい関係性を感じる
・小松左京のSF的発想に生きる力をもらう
・自由な発想とユーモア、SFと落語に共通するエッセンス
・落語が教えてくれた「笑いが生きる力になる」ということ
・アポロ13号とロビンソン・クルーソーに極限状況をいかに生きるかを学んだ
・この四年間は北方謙三の小説に支えられて生きてきた

第5章 再生を支えてくれた家族と友と、永遠なるものと
・自分が人生の「主語」になる
・「しさくは きみの ために ある」
・病や障害は因縁のためなのか
・宗教は「料理」のようなもの(宗教は人間にとって必要な「魂の食べ物」のようなもの)
・限界状況と超越者の暗号

第6章 盲ろう者の視点で考える幸福の姿
・後ろに柱、前に酒…
・幸せの四つの因子
・幸福の四つの階層
・幸福の鍵を握る「ある」ということ
・幸福の土台は希望と交わり
・競争でなく協力を伴うチャレンジが人生を輝かせる

フランクルについては、このブログの「夜と霧」のあらすじを参照願いたい。

福島さんは全盲ろう者として初めて大学に進学(東京都立大学)、教育学を専攻し、大学院に進んで、金沢大学助教授などを経て、現在は東大の先端科学技術研究センターで、バリアフリー論や障害学の研究に取り組んでいる。

ちなみに全盲ろう者で、大学に進学したのはヘレン・ケラーが世界で初めてということである。福島さんは、2011年に米国の国立ヘレン・ケラー・センターに1年間長期出張している

筆者はヘレン・ケラーの話をどこで読んだか覚えていないが、たぶん教科書に載っていたのではないかと思う。映画「奇跡の人」の有名なサリヴァン先生が、ヘレンの手で水を触らせ、”water”と教える場面などを覚えている。

奇跡の人 [DVD]
アン・バンクロフト
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2011-06-22



福島さんの本は、これまで福島さんの奥さんとの会話など、日常生活を中心に紹介している「生きるって人とつながることだ!」を読んだことがある。



全盲、あるいは全ろうだけでも大変な障害だろうが、全盲ろうということは、全く音の聞こえない暗闇で生活しているわけで、想像できない困難な環境だ。

この本では「生きる力と勇気の多くを、読書が与えてくれた」という章で、全盲ろう者の福島さんが様々な本を紹介しているの。上記の目次で第4章の全節のタイトルを紹介したのは、そのためだ。

福島さんは、2011年にニューヨークに長期出張して体調を崩しているときに北方作品を知って、最近四年間は北方謙三に支えられて生きてきたとまで言っている。本の最後に、北方謙三と対談したことを紹介している。

北方謙三は、分厚い手をしていて、福島さんは握手した時に、「さすがにしっかりとした、いい手をなさっていますね」と思わず言った。

対談の最後に、北方謙三は、「(福島)先生の言葉は、鼓動ですよ」と語った。福島さんは、その端的で美しい表現に感動したという。

北方謙三の本は、いままで一冊も読んだことがなかったので、この本に紹介されている「秋霜」を読んだ。これは「ブラディー・ドール」シリーズの一冊ということだ。

秋霜 (角川文庫)
北方 謙三
角川書店
1990-10


そのほかにも北方さんの警部もの、剣豪もの、歴史小説、中国歴史小説などの作品が紹介されている。




小説以外にも、聖書のイエスの起こした奇跡、パスカルの「パンセ」、デカルト、ヤスパース、トルストイの「戦争と平和」、バートランド・ラッセル、吉本隆明、エーリッヒ・フロム、果ては「アルジャーノンに花束を」まで、非常に広いジャンルの作品の一節を紹介している。




ちなみに「アルジャーノンに花束を」はTBSで昨年ドラマ化されている。

アルジャーノンに花束を





















出典:TBS番組サイト

盲ろう者の福島さんがこれだけの本を読んでいることに対して、健常者の筆者は忸怩たる思いを感じながらも北方作品を読み始めているところだ。

盲ろう者の福島さんが活発に活動できるのは、お母さんが発案した「指点字」のおかげでもある。次の本の表紙になっている通り、指で言葉を伝えるもので、世界で初めて福島さんとお母さんが使い始めた。

さとしわかるか
福島令子
朝日新聞出版
2015-12-07


大学の仲間もすぐに指点字のやり方を覚え、福島さんにコミュニケーションをはかってくれるようになったという。

この本の最後に2007年度の東大の入学式での祝辞が収録されている。東大のウェブサイトでも全文が公開されており、動画も公開されている

盲ろう者の福島さんが、これだけ本を読んで、様々な情報発信をしているのだから、健常者の筆者も、多くの本を読んで、あらすじをこまめにアップしなければならない。

自戒の念を新たにした。感動を与えるストーリーが満載の本である。


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