リーマンショックの直後、日本の製造業では最大規模の8,000億円弱の最終赤字を計上した日立製作所の経営を立て直した川村隆さん他の経営改革の本。
川村さん自身も「ザ・ラストマン」という本を書いているので、今度読んでみる。
現在(2015年5月)の日経新聞の「私の履歴書」に、この本の主人公の日立製作所の前会長 川村隆さんの履歴書が連載されている。最初の部分だけ紹介しておく。
出典:日経新聞(電子版)2015年5月1日「私の履歴書」
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日立製作所の2005年から2014年までの業績推移は次の表の通りだ。
出典:日立製作所IRデータ
川村さんは2009年4月に庄山会長、古川社長の後を継いで日立製作所の社長兼会長に就任し、1年間社長と会長を兼務した後、中西さんを社長として引き入れ、川村・中西体制で日立製作所の復活の舵を切った。
川村さんは2014年に会長職を中西さんに譲り、自らは相談役となって取締役も退任した。中西さんは川村さんを引き継いで2014年に会長兼CEOに就任している。
川村さんは日立製作所では重電畑をずっと経験し、中西さんも重電畑出身だ。日立工場では一緒に働いたこともある。川村さんは1999年に日立製作所の副社長に就任した後、4年後の2003年に、日立本体の副社長を退任し、子会社の日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)会長に転出、その後は日立マクセルなどのグループ会社の会長職についた。いわゆる「上がり」の人事だ。
そんな「上がり」の川村さんを呼び戻した日立製作所の人事は当時評判になった。
この本では、川村さん自身がちょうど乗り合わせた1999年の全日空機ハイジャック未遂事件が、ちょうど乗り合わせた非番(デッド・ヘッド)のパイロットが、機長を包丁で刺し殺した航空マニアのハイジャック犯がいる操縦室に突入し、かろうじて機体を墜落から救った話を紹介して、川村さんをはじめとする員数外の人間が日立を救ったと紹介している。
筆者はあまり日立製作所に注目してこなかったが、この本で紹介されている日立製作所の取締役会のメンバーを見て驚いた。
ソニーの取締役会は20年ほど前から、国際性とバラエティに富んだ人材で構成されていて有名だが、今の日立製作所の取締役会メンバーも、ソニーと比べても遜色のない多彩な人材をそろえている。
出典:本書
取締役がそろった写真も本書に載っている。
出典:本書
筆者は総合商社に勤めているが、日立製作所の取締役会の構成をみると、最も事業のグローバル展開が進んでいるはずの商社が、経営体質では全然グローバルでないことを痛感させられる。
この本を読んで、日立製作所が川村体制下、素晴らしい強靭な体質の会社に生まれ変わったと思ったが、日立OBの大前研一さんは、厳しい評価をしている。
大前さんの「BIZトピックス」というメルマガ?を紹介しているサイトから引用すると。
「このようにV字回復を果たした日立ですが、「本当の復活と呼べるかどうかはまだわからない」と大前研一は指摘します。近年の日立の業績推移をよく見ると、利益は回復しているのに、売り上げが伸びていないことに気づきます。
これが何を意味しているのかといえば、日立が新しい成長産業を見出して、大きな利益を挙げているわけではないということです。既存事業の取捨選択だけでは巨大企業の将来戦略としては不十分というわけです。
「赤字事業をどんどんリストラする一方で、グループに儲かっている会社があれば本体に取り込むという形で、数字の見栄えをよくしてきただけに過ぎない」というのが大前研一の見方です。」
たしかにセグメント別の2009年から2014年までの売上高推移をみると、あまり大きな変化が見られない。
出典:日立製作所IRデータ
しかしそうはいっても、鉄道車両事業で英国で工場を建設して英国のみならずEU向けを狙ったり、火力発電部門は三菱重工の火力発電部門と経営統合して、三菱65%、日立35%で三菱日立パワーシステムズを発足させたり、大変ダイナミックな動きをしているのは間違いない。
子会社の本体への吸収や、日立金属と日立電線の合併など、日立グループの子会社改革も進んでいる。
大前さんは単に「数字の見栄えをよくしてきたにすぎない」と手厳しいが、筆者には、日立製作所のシンボルツリーである、ハワイオアフ島のモンキーポッドのように日立グループが有機的な成長を続けているように思える。
従業員30万人以上の日立グループの総帥・日立製作所がここまでグローバル経営に体質改善しているとは、まったく気が付かなかった。大前さんは手厳しいが、筆者はやはりすごいと思う。
日立製作所の現会長兼CEOの中西さんは料理が趣味だという。中西さんの米国駐在時代の来客用のメニューがこの本に載っているので、最後におまけで紹介しておく。プロの料理人の域に達していて、すごいとしかいいようがない。
出典:本書
大変面白い読み物となっており、読んでいて元気がわいてくる。お勧めの本である。
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