原発ホワイトアウト
若杉 冽
講談社
2013-09-12


東大法学部卒の現役霞が関官僚の若杉冽(れつ)さんが書いたという原発再稼働への警鐘を鳴らす小説。

小説のあらすじは、いつも通り詳しくは紹介しない。

原発再稼働を推し進める経済界、経済産業省と政治家四世の総理(名前は出てこない)をトップとする「保守党」政権のトライアングル。その背景には、電力をめぐる巨大な政治資金の流れがある。

経済産業省(資源エネルギー庁)から分離・独立はしたが、依然として経産省シンパの原子力規制庁と原子力規制委員会。

原子力規制庁の幹部職員は、原子力推進官庁には戻らないというノーリターン・ルールがある。しかし、経産省出身の幹部は依然として経産省ファミリー意識でいる。

直接の電話では「オレ」、「オマエ」の仲の資源エネルギー庁高官と原子力規制庁高官。

地元の知事や市町村長の同意がないと原発の稼働はできないというルールは、法律上の根拠がない。しかし、法律上の根拠がなくても今や地元自治体の首長のOKがなければ、事実上、原発再稼働はできなくなっている。

そのルールに基づいて、「関東電力」の新崎原発の地元の新崎県の伊豆田知事(新潟県の泉田知事を連想させる)が原発再稼働の安全性について正論をぶつ。

しかし、原発再稼働トライアングルは、電力業界にたてつくものはたとえ知事であろうとも、国家権力を使って国策捜査で追い落とす。伊豆田知事は親類の政治資金問題で逮捕されてしまう。

そこで、経産省から原子力規制庁に出向している原子力反対派の課長補佐が、経産省と原子力規制庁幹部の癒着をマスコミにリーク。しかし、漏えい元をつき止められて、ねんごろになったフリーランスの女性記者と一緒に国家公務員法違反で逮捕される。

やがて、原子力規制庁の承認を得て、鉄のトライアングルが推進する15基の原発が再稼働する。

その冬は異常気象で超大型低気圧が発生していた。

大雪をもたらす超大型低気圧。

新崎原発への道路アクセスは遮断され、ホワイトアウト状態に。

5メートル先も見えないホワイトアウトのなかで、暗視ゴーグルをつけ、ある場所をめざして在日の同行者と一緒に雪をかきのけて進む元関東電力社員。

そして二人は雪の中で……というようなストーリー展開だ。

「関東電力」は、地域対策関係者として地元のマスコミ、県市町村議会議員、農協、ゼネコン、商工会、県庁幹部、市役所幹部、教職員組合幹部、はては在日朝鮮人や地元の暴力団関係者までリストアップしていると。

「関東電力」はフリージャーナリストも年収1千万円を超える丸抱えのAランクジャーナリストを十数名、それ以外にも多くのジャーナリストを抱えて、電力会社を擁護する記事を様々な場所で書かせていたという。

どちらも、いかにもありそうな話だ。

匿名の著者は東大法学部卒だそうだが、面白いことを登場人物の資源エネルギー庁の高官に言わせている。

「最高学府とは東京大学のことをいうのではない。東京大学法学部のことをいうのだ。経済学部出身の小島(日本電力連盟常務理事、元関東電力総務部長)が検察に働きかけたからといって何ができるというのだ。」

「東大法学部と経済学部の偏差値の差も、経産省のキャリア官僚と電力会社社員との社会的立場の差も…。」

その資源エネルギー庁の高官は「家柄こそ平凡なサラリーマンの子息ではあるが、四谷大塚(小学生の中学受験指導塾)で総合順位一桁、筑駒出身…」だという。

「四谷大塚」なんて、ひょっとして著者自身のことかと思わせる。

ともあれ、原子力発電についてかなりの知識がある原発反対派の人が書いた本であることに間違いはない。

世論に一石を投ずるということなのだろう。

一部には、日本の重電メーカーは欧米並みのコアキャッチャー(メルトダウン防止のために底を極端に厚くした格納容器)がつくれないとか、疑問を感じる部分もある。

筆者が駐在していたピッツバーグに本社のあった世界三大原発メーカーの一つのウェスティングハウスは東芝に買収された。日本の重電メーカーがつくれないはずがないと思うが。

小説の結末としては、「想定内」ではあるが、起こりうる事態かもしれない。

堺屋太一さんが通産省の現役官僚の時に、匿名で出版した「油断!」の衝撃には到底及ばないが、面白くて一気に読める。

油断! (日経ビジネス人文庫)
堺屋 太一
日本経済新聞社
2005-12


原発推進派の人も、原発反対派の人も、それなりに得るところのある本だと思う。


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