それをお金で買いますか――市場主義の限界
著者:マイケル・サンデル
早川書房(2012-05-16)
販売元:Amazon.co.jp
別ブログで紹介したベストセラー「これからの『正義』の話をしよう」の著者・ハーバード大学の政治倫理学マイケル・サンデル教授の近著。
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
著者:マイケル サンデル
早川書房(2011-11-25)
販売元:Amazon.co.jp
原題は"What money can't buy"だ。
What Money Can't Buy
著者:Michael Sandel
Penguin(2013-04-04)
販売元:Amazon.co.jp
この題から絶頂期のホリエモンを思い出す。ITバブル崩壊からすこし経ったころ、ホリエモンは「金で買えないもの(モノ?)はない」と発言して世間から非難を浴びた。
その後、ホリモンはライブドアの粉飾決算を指示したことで、証券取引法違反で有罪となり、現在長野刑務所で服役中である。別ブログで紹介した「刑務所なう。」など、服役中の生活を書いた本を出版している。
少なくとも釈放される権利は金で買えない。ホリエモンも、カネで買えないものがあることがわかったと思う。
刑務所なう。
著者:堀江 貴文
文藝春秋(2012-03-15)
販売元:Amazon.co.jp
この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、目次を紹介しておく。
広範囲にわたる具体例を取り上げて、経済合理性と倫理について議論していることがわかると思う。
序章 市場と道徳
・市場勝利主義の時代
・すべてが売り物
・市場の役割を考え直す
第1章 行列に割り込む
・ファストトラック
・レクサスレーン
・行列に並ぶ商売
・医者の予約の転売
・コンシェルジュドクター
・市場の論理
・市場VS行列
・ダフ行為のどこが悪い?
・ローマ教皇のミサを売りに出す
・フルース・スプリングスティーンの市場
第2章 インセンティブ
・不妊への現金
・人生への経済学的アプローチ
・成績のよい子供にお金を払う
・保健賄賂
・よこしまなインセンティブ
・罰金VS料金
・21万7千ドルのスピード違反切符
・地下鉄の不正行為とビデオレンタル
・中国の一人っ子政策
・取引可能な出産許可証
・取引可能な汚染許可証
・カーボンオフセット
・お金を払ってサイを狩る
・お金を払ってセイウチを撃つ
・インセンティブと道徳的混乱
第3章 いかにして市場は道徳を締め出すか
・お金で買えるもの、買えないもの
・買われる謝罪や結婚式の乾杯の挨拶
・贈り物への反対論
・贈り物を現金化する
・買われた名誉
・市場に対する二つの異論
・非市場的規範を締め出す
・核廃棄物処理場
・寄付の日と迎えの遅れ
・商品化効果
・血液を売りに出す
・市場信仰をめぐる二つの基本教義
・愛情の節約
第4章 生と死を扱う市場
・用務員保険
・バイアティカル…命を賭けろ
・デスプール
・生命保険の道徳の簡単な歴史
・テロの先物市場
・他人の命
・死亡債
第5章 命名権
・売られるサイン
・名前は大事
・スカイボックス
・マネーボール
・ここに広告をどうぞ
・商業主義の何が悪いのか?
・自治体マーケティング
・ビーチレスキューと飲料販売権
・地下鉄駅と自然歩道
・パトカーと消火栓
・刑務所と学校
・スカイボックス化
ホリエモンのような「金で買えないものはない」という経済学者や新自由主義者に対して、様々な角度から倫理的な疑問を投げかけている。
いくつか印象に残った例を紹介しておく。あなたは、”名案”と思うのだろうか、それとも”やりすぎ”と思うのだろうか。
★50万ドルをアメリカに投資した外国人は、家族とともにアメリカに2年間住むことができ、2年後にその投資によって10人以上の雇用が生まれれば、永住権(グリーンカード)をもらえる(究極のファストトラック=割り込み)。住宅市況を支えるために、50万ドル以上の家を購入した外国人にも同様の特典を与える法案もある。
★北極圏のセイウチを狩る権利を持っているイヌイットが、セイウチを撃つ権利を6,000ドルで販売する。ハンターはセイウチ猟が楽しめ、イヌイットはセイウチの肉や皮を利用する。
★新語:Incentivize(インセンティブを与えて動機づけたり励ます)は急速に普及した。新聞で登場した件数の推移は:
1980年代 : 48回
1990年代 : 449回
2000年代 :6,159回
2010−2011年:5,885回
クリントン、ジョージ. W.ブッシュ大統領は在任中1回しか使わなかったのに、オバマ大統領は3年間で29回使っている。
★ThePerfectToast.comというサイトでは、質問票に入力する形で、145ドルで結婚式の乾杯の挨拶を代筆してくれる。前もって書かれた標準的な挨拶ならば、InstantWeddingToasts.comで19ドル95セントで買える。本物の挨拶と、プロが代筆した挨拶とどちらが価値があるのか。
★ガールフレンド、ボーイフレンドの誕生日に現金を贈る。相手にふさわしいもの選んで送るのは、彼が「ガールフレンドに対する愛情という個人情報を伝える」一つの方法だという。
★ギフトカードを送る。贈り物と現金の中間のようなものだ。ギフトカードを贈る人が増えているという。
★貧しくて腎臓や角膜を売る人はどうか?養子に出される赤ん坊の市場を創設することはどうだろうか?
★ローマ教皇のミサに参加するチケットを転売する。
★スイスの核廃棄物処理場の村に住む住人に、毎年補償金を払うことにしたら、誘致に賛成する人は半分に減った。
★貧しい退職者の相談に1時間当たり30ドルという割引き価格で乗ってくれるように弁護士団体に頼んだら断られたが、慈善事業としての無料相談なら承諾してもらえた。
★ウォルマートは数十万人に上る従業員に会社を受取人とする生命保険を掛けている。いままで費やした社員に対するトレーニング等のコストの埋め合わせなのだと。本人の遺族は、5000ドルもらえるだけだ。
★不治の病に冒された人から生命保険を買い取る。バイアティカル(生命保険買い取り業)という名前の市場だ。病人が長く生きれば、生命保険の収益率は減る。買い手は病人が早く死ぬことを望むのか?
★子どもが成長し、配偶者も生活の心配がなくなって、生命保険が不要になった高齢者などから、生命保険を買い取るライフセトルメント産業。高齢者は不要になった保険を有利に売り抜け、ライフセトルメント業者は高齢者が死亡した時に保険金を受け取る。上記と同じように、本人が早く死なないと収益率は減る。
★スタジアムの命名権はさらにプレーにも及ぶ。特定のスタジアムでは、ホームランは”バンクワン・ブラスト”、ピッチャー交代は”AT&Tコール”、盗塁セーフは”セーフです。ニューヨーク・ライフ”などと呼ばなければならないのだ。
★ニューヨークのブルームバーグ市長は、2003年に自治体初の最高マーケティング責任者を任命した。彼の最初の大仕事は、市内の6,000の公立学校や施設にジュースと水を独占販売する契約をスナップル社と5年間1億7千万ドルで締結した。
★学校に無料でテレビ、ビデオ機器、衛星リンクを提供する代わりに、2分間のコマーシャルを含んだ番組を学校で毎日放送するという契約を多くの州と結んだチャンネル・ワン社は、2000年には全米で12,000校、800万人の生徒を囚われのオーディンスとして抱えていた。30秒のCMが20万ドルで売れた。
★ハーシーチョコ、マクドナルド、エクソン、アメリカ石炭財団、P&Gなどは、学校に無料の教材を提供して子供たちの心に商標を刻み込もうとした。
★公立学校も体育館や講堂、実験室、校長室まで命名権を販売している。コロラド州のある学区は、通知表の広告スペースを売り出した。
「スカイボックス化」
サンデル教授が初めて経済至上主義に反対してニューヨークタイムズに投稿した時に、ハーバード大学の経済学者を含めて、多くの経済学者から反論があった。
大学時代の経済学の恩師からは、「サンデル教授の言うことはわかるが、誰から経済学の授業を受けたかは明かさないでくれ」という要望もあったという。
サンデル教授は、この本の結論として「スカイボックス化」という言葉を挙げている。資本主義を推し進めて、あらゆるものを市場化している。
かつては、野球場は金持ちも貧乏人も10ドル出せば入れるという平等の象徴だった。ところが今は、年間何十万ドルもするスカイボックスを企業が独占し、金持ちはスカイボックスでプライベートパーティを開催し、一般客はスカイボックスを見上げる。「スカイボックス化」により、野球場は格差の象徴になったのだ。
サンデル教授は、「われわれが望むのは、何でも売り物にされる社会だろうか。それとも、お金では買えない道徳的・市民的善というものがあるのだろうか。」という言葉でこの本を終えている。
どの話題も簡単には解答を出せない。むしろ正解のない問題ばかりだ。実に考えさせられる本である。
参考になれば次クリック願う。
著者:マイケル・サンデル
早川書房(2012-05-16)
販売元:Amazon.co.jp
別ブログで紹介したベストセラー「これからの『正義』の話をしよう」の著者・ハーバード大学の政治倫理学マイケル・サンデル教授の近著。
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
著者:マイケル サンデル
早川書房(2011-11-25)
販売元:Amazon.co.jp
原題は"What money can't buy"だ。
What Money Can't Buy
著者:Michael Sandel
Penguin(2013-04-04)
販売元:Amazon.co.jp
この題から絶頂期のホリエモンを思い出す。ITバブル崩壊からすこし経ったころ、ホリエモンは「金で買えないもの(モノ?)はない」と発言して世間から非難を浴びた。
その後、ホリモンはライブドアの粉飾決算を指示したことで、証券取引法違反で有罪となり、現在長野刑務所で服役中である。別ブログで紹介した「刑務所なう。」など、服役中の生活を書いた本を出版している。
少なくとも釈放される権利は金で買えない。ホリエモンも、カネで買えないものがあることがわかったと思う。
刑務所なう。
著者:堀江 貴文
文藝春秋(2012-03-15)
販売元:Amazon.co.jp
この本はアマゾンの「なか見!検索」に対応していないので、なんちゃってなか見!検索で、目次を紹介しておく。
広範囲にわたる具体例を取り上げて、経済合理性と倫理について議論していることがわかると思う。
序章 市場と道徳
・市場勝利主義の時代
・すべてが売り物
・市場の役割を考え直す
第1章 行列に割り込む
・ファストトラック
・レクサスレーン
・行列に並ぶ商売
・医者の予約の転売
・コンシェルジュドクター
・市場の論理
・市場VS行列
・ダフ行為のどこが悪い?
・ローマ教皇のミサを売りに出す
・フルース・スプリングスティーンの市場
第2章 インセンティブ
・不妊への現金
・人生への経済学的アプローチ
・成績のよい子供にお金を払う
・保健賄賂
・よこしまなインセンティブ
・罰金VS料金
・21万7千ドルのスピード違反切符
・地下鉄の不正行為とビデオレンタル
・中国の一人っ子政策
・取引可能な出産許可証
・取引可能な汚染許可証
・カーボンオフセット
・お金を払ってサイを狩る
・お金を払ってセイウチを撃つ
・インセンティブと道徳的混乱
第3章 いかにして市場は道徳を締め出すか
・お金で買えるもの、買えないもの
・買われる謝罪や結婚式の乾杯の挨拶
・贈り物への反対論
・贈り物を現金化する
・買われた名誉
・市場に対する二つの異論
・非市場的規範を締め出す
・核廃棄物処理場
・寄付の日と迎えの遅れ
・商品化効果
・血液を売りに出す
・市場信仰をめぐる二つの基本教義
・愛情の節約
第4章 生と死を扱う市場
・用務員保険
・バイアティカル…命を賭けろ
・デスプール
・生命保険の道徳の簡単な歴史
・テロの先物市場
・他人の命
・死亡債
第5章 命名権
・売られるサイン
・名前は大事
・スカイボックス
・マネーボール
・ここに広告をどうぞ
・商業主義の何が悪いのか?
・自治体マーケティング
・ビーチレスキューと飲料販売権
・地下鉄駅と自然歩道
・パトカーと消火栓
・刑務所と学校
・スカイボックス化
ホリエモンのような「金で買えないものはない」という経済学者や新自由主義者に対して、様々な角度から倫理的な疑問を投げかけている。
いくつか印象に残った例を紹介しておく。あなたは、”名案”と思うのだろうか、それとも”やりすぎ”と思うのだろうか。
★50万ドルをアメリカに投資した外国人は、家族とともにアメリカに2年間住むことができ、2年後にその投資によって10人以上の雇用が生まれれば、永住権(グリーンカード)をもらえる(究極のファストトラック=割り込み)。住宅市況を支えるために、50万ドル以上の家を購入した外国人にも同様の特典を与える法案もある。
★北極圏のセイウチを狩る権利を持っているイヌイットが、セイウチを撃つ権利を6,000ドルで販売する。ハンターはセイウチ猟が楽しめ、イヌイットはセイウチの肉や皮を利用する。
★新語:Incentivize(インセンティブを与えて動機づけたり励ます)は急速に普及した。新聞で登場した件数の推移は:
1980年代 : 48回
1990年代 : 449回
2000年代 :6,159回
2010−2011年:5,885回
クリントン、ジョージ. W.ブッシュ大統領は在任中1回しか使わなかったのに、オバマ大統領は3年間で29回使っている。
★ThePerfectToast.comというサイトでは、質問票に入力する形で、145ドルで結婚式の乾杯の挨拶を代筆してくれる。前もって書かれた標準的な挨拶ならば、InstantWeddingToasts.comで19ドル95セントで買える。本物の挨拶と、プロが代筆した挨拶とどちらが価値があるのか。
★ガールフレンド、ボーイフレンドの誕生日に現金を贈る。相手にふさわしいもの選んで送るのは、彼が「ガールフレンドに対する愛情という個人情報を伝える」一つの方法だという。
★ギフトカードを送る。贈り物と現金の中間のようなものだ。ギフトカードを贈る人が増えているという。
★貧しくて腎臓や角膜を売る人はどうか?養子に出される赤ん坊の市場を創設することはどうだろうか?
★ローマ教皇のミサに参加するチケットを転売する。
★スイスの核廃棄物処理場の村に住む住人に、毎年補償金を払うことにしたら、誘致に賛成する人は半分に減った。
★貧しい退職者の相談に1時間当たり30ドルという割引き価格で乗ってくれるように弁護士団体に頼んだら断られたが、慈善事業としての無料相談なら承諾してもらえた。
★ウォルマートは数十万人に上る従業員に会社を受取人とする生命保険を掛けている。いままで費やした社員に対するトレーニング等のコストの埋め合わせなのだと。本人の遺族は、5000ドルもらえるだけだ。
★不治の病に冒された人から生命保険を買い取る。バイアティカル(生命保険買い取り業)という名前の市場だ。病人が長く生きれば、生命保険の収益率は減る。買い手は病人が早く死ぬことを望むのか?
★子どもが成長し、配偶者も生活の心配がなくなって、生命保険が不要になった高齢者などから、生命保険を買い取るライフセトルメント産業。高齢者は不要になった保険を有利に売り抜け、ライフセトルメント業者は高齢者が死亡した時に保険金を受け取る。上記と同じように、本人が早く死なないと収益率は減る。
★スタジアムの命名権はさらにプレーにも及ぶ。特定のスタジアムでは、ホームランは”バンクワン・ブラスト”、ピッチャー交代は”AT&Tコール”、盗塁セーフは”セーフです。ニューヨーク・ライフ”などと呼ばなければならないのだ。
★ニューヨークのブルームバーグ市長は、2003年に自治体初の最高マーケティング責任者を任命した。彼の最初の大仕事は、市内の6,000の公立学校や施設にジュースと水を独占販売する契約をスナップル社と5年間1億7千万ドルで締結した。
★学校に無料でテレビ、ビデオ機器、衛星リンクを提供する代わりに、2分間のコマーシャルを含んだ番組を学校で毎日放送するという契約を多くの州と結んだチャンネル・ワン社は、2000年には全米で12,000校、800万人の生徒を囚われのオーディンスとして抱えていた。30秒のCMが20万ドルで売れた。
★ハーシーチョコ、マクドナルド、エクソン、アメリカ石炭財団、P&Gなどは、学校に無料の教材を提供して子供たちの心に商標を刻み込もうとした。
★公立学校も体育館や講堂、実験室、校長室まで命名権を販売している。コロラド州のある学区は、通知表の広告スペースを売り出した。
「スカイボックス化」
サンデル教授が初めて経済至上主義に反対してニューヨークタイムズに投稿した時に、ハーバード大学の経済学者を含めて、多くの経済学者から反論があった。
大学時代の経済学の恩師からは、「サンデル教授の言うことはわかるが、誰から経済学の授業を受けたかは明かさないでくれ」という要望もあったという。
サンデル教授は、この本の結論として「スカイボックス化」という言葉を挙げている。資本主義を推し進めて、あらゆるものを市場化している。
かつては、野球場は金持ちも貧乏人も10ドル出せば入れるという平等の象徴だった。ところが今は、年間何十万ドルもするスカイボックスを企業が独占し、金持ちはスカイボックスでプライベートパーティを開催し、一般客はスカイボックスを見上げる。「スカイボックス化」により、野球場は格差の象徴になったのだ。
サンデル教授は、「われわれが望むのは、何でも売り物にされる社会だろうか。それとも、お金では買えない道徳的・市民的善というものがあるのだろうか。」という言葉でこの本を終えている。
どの話題も簡単には解答を出せない。むしろ正解のない問題ばかりだ。実に考えさせられる本である。
参考になれば次クリック願う。