銃・病原菌・鉄 上下巻セット銃・病原菌・鉄 上下巻セット
著者:ジャレド ダイアモンド
草思社(2010-12-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

中南米のアステカやインカ帝国はなぜ少数のスペイン人によって滅ぼされたのか、文明の発展や文化の伝播はどのような特長があるのかを解説した上下約700ページの大作。

この作品は1998年にピューリッツアー賞を受賞し、日本では2000年に翻訳が発売された。根強い人気があり、朝日新聞の「2000年〜2010年に出版された本」の第1位に選ばれている。

著者のジャレド・ダイアモンド博士は生物学の学者で、この本の他には「人間はどこまでチンパンジーか」などといった竹内久美子さんが得意の路線でも本を出している。

人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り
著者:ジャレド ダイアモンド
新曜社(1993-10-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

浮気人類進化論―きびしい社会といいかげんな社会 (文春文庫)浮気人類進化論―きびしい社会といいかげんな社会 (文春文庫)
著者:竹内 久美子
文藝春秋(1998-11)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

今回の研究を思い立ったきっかけは、研究のために長期滞在していたニューギニアで、マオリ人のヤリ(人名)から「欧米人は様々な物資を作り出して、ニューギニアに持ってきたが、ニューギニア人はそうした物資を作り出さなかった。その差はどこから生まれたのか」という質問だという。

たしかに新大陸民族が旧大陸民族や文化を滅ぼしたという例はない。それはなぜなのか。

一般的にはこの本のタイトルのように「銃・鉄」が旧大陸と新大陸の差を生み、旧大陸の「病原菌」が免疫のない新大陸民族を根絶やしにしたと言われているが、そもそもなぜそのような差がついて、新大陸の病原菌は旧大陸に蔓延しなかったのか。ヨーロッパ人が新大陸を征服したのは、人種や民族が優秀だったからではなく、居住環境の差がこの差をもたらしたとダイアモンド博士は語る。


人類の誕生と拡散

人類は700万年前にアフリカで類人猿から枝別れして誕生し、400万年前に直立しはじめ、170万年前から直立歩行を始めている。そしてアフリカからユーラシア大陸各地、アメリカ大陸、オーストラリア、ニュージーランドに次の図のように拡散した。

人類の拡散





出典:本書上巻51ページ


農耕と家畜飼育が文明のカギ

各大陸に生きる住民は1万3千年前の最終氷河期が終わった頃までに発達の度合いは大差なく、すべて狩猟民族だった。8,500年前にメソポタミアで農耕が始まり、つづいて中国やインダスでも農耕と家畜の飼育が始まった。

ところがアメリカ大陸では農耕の始まりはこれから5〜6,000年遅れ、オーストラリアやニュージーランドのアボリジニは結局農耕を知らなかった。

飼育栽培化比較









出典:本書上巻143ページ

植物栽培と家畜飼育により自分で食物を生産できなければ、余剰食糧はできず、人口も増えない。コロンブス以前のアメリカ大陸の先住民人口は2,000万人と言われているのに対して、狩猟生活のオーストラリアのアボリジニは最大でも数十万人だったという。

農耕や家畜による大規模生産が階層化された社会の前提条件だ。食糧生産の余裕が出た社会は高度化して、文字を生み出し、職業軍人が生まれる。

小麦、大麦、米などの穀類の他、エンドウマメやレンズ豆の栽培も始まった。穀類とタンパク質の多いマメ類を組み合わせることで、必要な栄養素の揃ったバランスある食生活が可能となり、体格向上につながった。

ちょっと脱線するが、「主食をやめたら健康になる」という本が出ていることを、大学の先輩に教えて貰った。

主食をやめると健康になる ー 糖質制限食で体質が変わる!主食をやめると健康になる ー 糖質制限食で体質が変わる!
著者:江部 康二
ダイヤモンド社(2011-11-11)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

著者の京都・高雄病院長・江部康二さんはブログで次のように書いている

「糖質制限食は「変わった食事」というイメージを持たれがちですが、実は人類本来の自然な食事です。人類が誕生したのが約700万年前で、農耕が始まるまでは狩猟・採集を生業とし、すべての人類が糖質制限食を実践していました。農耕開始後1万年間だけが、主食が穀物(糖質)へと変化しました。

すなわち穀物を主食としたのは、人類の歴史のなかでわずか700分の1の期間にすぎないのです。糖質制限食と高糖質食、どちらが人類にとって自然な食事なのかは言うまでもありません。糖質制限食はいわば人類の健康食なので、糖尿病や肥満・メタボに限らず、さまざまな生活習慣病が改善するのも当たり前といえば当たり前なのです。」

出典:ドクター江部の糖尿病徒然日記

本のあとがきに、「もう一つ忘れてはならないことがあります。それは農耕以前の人類においては飢餓は日常的な出来事であり、体脂肪はそれに対する唯一のセーフティーネットであったということです。」と書いてあるので、江部さんも十分分かった上で書いているのだろうが、原始人は健康なのではない、常に餓死と隣り合わせの栄養失調だったのだ。寿命も現代人に比べてはるかに短い。たとえメタボであっても現代人の寿命のほうが原始人に比べてはるかに長いのだ。

狩猟しか知らない原始人は毎日食うや食わずで、それゆえ人口が増えるどころではなかった。だから農耕を知らないオーストラリアのアボリジニは、最大でせいぜい数十万人しか生存できなかったのだ。

江部さんの本はメタボや糖尿病の患者を主に対象としているので、上記の部分も糖尿病の患者に主食なしのダイエットを続けさせるための意図的な説明なのだろうが、文字通り解釈して原始人の方が健康だったというような書評があるので、注意が必要だ。

閑話休題。


病原菌

旧大陸を起源とする天然痘、麻疹、インフルエンザ、チフス、ジフテリア、マラリアなどの病原菌がヨーロッパ人によって新大陸にもたらされ、推定で2,000万人いた先住民の95%が病死してしまった。

スペイン人のエルナン・デソトが遠征した16世紀前半にはミシシッピ河下流に多くのインディアンの大集落があったが、1600年頃までにほとんど先住民の大集落はなくなったという。

旧大陸からの病原菌が蔓延して、抗体のないアメリカ先住民を根絶やしにしてしまったのだ。

逆に新大陸から旧大陸にもたらされて蔓延した病原菌はない。梅毒が唯一の例外である可能性もあるが、梅毒の起源については依然として議論されている。

なぜ旧大陸の人間がこれらの病原菌に抵抗力があったかについては、家畜と一緒に生活し、家畜の伝染病に人間も罹ることにより免疫がつくられ、それゆえ抵抗力があったと推論している。

人類の進出は東西は早く、南北は時間がかかるというのも重要な論点だ。上記の「人類の拡散」の図にあるように、アメリカ大陸に人類が進出したのは1万2千年前、そしてオーストラリアに進出したのは4万年前だ。ユーラシア大陸全域には50万年前に進出していたことに比べて遅いことがわかる。

文明の伝播も南北は時間がかかる。たとえばユーラシア大陸ではフェニキア文字や中国の甲骨文字が周辺地域に広まっていったが、北アメリカのアステカでは文字を使っていたが、同時期に南アメリカにあるインカ帝国インカ帝国では文字はなかったというような例が挙げられている。

ちなみに筆者は30年ほど前に訪問したペルーのリマの天野博物館で、インカの特徴ある土器や縄文字を見た。インカには縄文字はあったものの、これは生産統計などを記録するためのものであり、複雑な内容を伝えることはできなかったという。

Quipu













出典:Wikipedia

その他、食料生産は文字の誕生の必要条件とか、マダガスカル島の先住民の言語はボルネオの先住民に近いなど参考になる情報が多い。

鋳鉄、磁針、火薬、製紙技術、印刷術で世界をリードしていた中国の文化の先端性が失われたのは、宮廷内の権力闘争の結果、明の皇帝の鶴の一声で外洋航海が禁止されたからだ。

中国では15世紀初頭には鄭和の南海遠征で船長120メートルもの大型船で外洋航海していて、アフリカまで到達していたが、その後は中国が他の地域に進出することはなかった。

トウモロコシが作付け面積当たりの収穫量は最も多い作物だが、トウモロコシはアメリカ大陸が起源で、野生種祖先はテオシントと呼ばれる雑草だと言われていることをこの本で知った。

テオシント






出典:筑波実験植物園ホームページ


700ページもの大作で、最初はややとっつきにくいが、読み始めると興味深く読める。大変参考になるダイアモンド博士の研究成果である。


参考になれば次クリックお願いします。