時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2011年09月

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 目からウロコのオルタナティブ投資指南

+++今回のあらすじは長いです+++

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術黄金の扉を開ける賢者の海外投資術
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-03-07
おすすめ度:4.5
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軽妙なタッチと独特の視点で、資産運用・投資についての面白い本をいくつも出している、「海外投資を楽しむ会」のメンバーの橘玲(たちばなあきら)さんの2008年3月の作品。

橘さんの最新作はベストセラーになっている「大震災の後で人生について語るということ」だ。

大震災の後で人生について語るということ大震災の後で人生について語るということ
著者:橘 玲
講談社(2011-07-30)
販売元:Amazon.co.jp
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別ブログで紹介している「臆病者のための株入門」の続編である。

「金融2.0時代のグローバル運用法」と本の帯に書いてあるが、たしかに様々な海外投資法やジム・ロジャースなどの有名な投資家の考えがわかって、目からウコロのオルタナティブ投資指南本だ。

ただし、この本に書いてある投資戦略や節税手法は、著者の個人的な見解なので、実践するのは読者の自由だが、それによって損失を被っても著者及び出版社は一切責任を負わないと最後に書いてある。

当たり前であるが、それだけ内容が濃いものがある。

この本が書かれた2008年始めから世界金融危機を経て、株式、原油、新興国市場などが軒並み暴落した後、回復し、相場環境がかなり違っている。

円は対ドルは一旦円高となり90円台まで行き、100円弱に戻り、現在は90円を切っている。ユーロ等他の通貨に対しては大幅に上昇したが、また豪ドルなどの通貨も相場が回復している。株式市場や石油などは暴落したが、金は1050ドル前後まで上昇している。

日本株はバブル崩壊後の小泉内閣時代の2003年4月28日の7607円を昨年割って急反発し、現在は1万円前後まで回復した。資産ポートフォリオを考え直し、新たに投資するにはまだ良いタイミングではないかと思う。


金持ちかどうか判定する計算式

橘さんは「となりの億万長者」という本に載っている自分が金持ちかどうか知る計算式を紹介している。

期待資産額=年齢 x 年収/10

これによると筆者は全然金持ちではないが、世界一の大富豪バフェットもゴールドマンへの投資などで活発に買いあさっている今がチャンスだと思うので、できる範囲で投資をしようと思う。

その意味で、今読むには大変参考になる本だ。読んだ本しか買わない筆者が、読んでから買った今年4冊目の本である。


この本は次の構成となっている。

序章  さよなら、プライベートバンカー

第1章 究極の投資VS至高の投資

第2章 誰もがジム・ロジャーズになれる日

第3章 ミセス・ワタナベの冒険

第4章 革命としてのヘッジファンド

第5章 タックスヘイヴンの神話と現実

第6章 人生設計としての海外投資

終章  億万長者になるなんて簡単だ


序章の「さよなら、プライベートバンカー」では、プライベートバンカーの起源は十字軍の遠征までさかのぼり、財産を相続や放蕩などで失わない様に、執事に委託したことから始まると説明する。

財産保全を目的としていたので資産運用のノウハウは元々なく、強固な守秘性が売り物だったが、マネーロンダリング対策でスイス政府が守秘性を認めなくなると、運用成績で優れているゴールドマンサックスなどの投資銀行に取って代わられたという。

香港のプライベートバンカーは「私たちは絶滅していく人種なのです」、「プライベートバンクは、ベントレーのようなものです。今の時代に、好きこのんでこんな手のかかる車に乗る人はそれほど多くありません」と言っていたという。

「高級車に乗ったからと言って特別な目的地が用意されているわけではありません。電車やバスを使っても、同じ場所にたどりつくことができるでしょう」と。

この本では、金融業は元々情報産業であり、純粋にグローバルな産業なので、Web2.0情報革命とともに個人がエンパワーされ、機関投資家やヘッジファンドと対等の立場で、何億円も儲けられる「金融2.0時代」になったことを様々な切り口から説明しており、参考になる。

その切り口が、「美味しんぼ」の山岡の海原雄山(機関投資家などのプロフェッショナル)に対する「究極の投資」であったり、ジム・ロジャースだったり、ミセスワタナベという架空のFXに投資する主婦であったりして面白い。


究極の投資と至高の投資

「究極のメニュー」とはマンガ「美味しんぼ」で貧乏サラリーマンの山岡が実の父である美食家海原雄山の「至高のメニュー」に対抗するメニューだが、それになぞらえて橘さんは「究極の投資」を紹介する。

「至高の投資」がプライベートバンクなどのプロの投資であるのに対して、「究極の投資」はサラリーマンなど庶民ができる投資だ。

そのやり方はオーソドックスである。アセットアロケーションの3分割法、つまり債券・不動産・株式だ。

富裕層は豪邸などの不動産資産を持っているので、あとは日本・世界債券と日本・世界株式を組み合わせる。これがプライベートバンクがアドバイスする「至高の投資」だ。

これを300万円程度の資金で実現しようとするのが、庶民の「究極の投資」である。


サラリーマン債券?

まずはサラリーマンの人的資本を評価する。富裕層は働いていないので、彼らの人的資本はゼロだが、庶民は働いているので、サラリーマン債券を保有していると考える。

生涯賃金3億円(年収は入社時250万円、退社時1,300万円、退職金3,000万円とする)の標準モデルで考えると、入社直後の人的資本は1億4千万円、40歳で1億3千万円、50歳で1億2千万円と計算できる。

1億円のサラリーマン債券からサラリーという金利を得ていると考えても良い。

だからサラリーマンが債券に投資するのは不要で、全額株式に投資すべきだと橘さんは語る。またサラリーマン債券価値を毀損しないために、専門知識や特殊技能を身につけて人的資本の充実を計るべきだと。

金持ちでも全く仕事をしていない人は少ないはずなので、サラリーマン債券というのは奇抜な発想ではあるが面白い考え方だ。

そこで投資の基本法則1.だ。

金融資産に比べて、人的資本が圧倒的に大きい場合(つまりサラリーマンの場合ということだ)、全資産を株式で運用すべきである。


投資にはレバレッジをかける

山岡は1億円のサラリーマン資産を保有しているのに、投資額は300万円、つまり3%だ。保守的な機関投資家ですら、3割は株式投資しているので、山岡ももっとレバレッジを掛けてたとえば1,000万円くらいのリスクを取るべきだと論じる。

300万円しか貯金がないのに、1,000万円も投資して損をしてしまうと破産してしまうではないかと言う人がいるかもしれないが、これはマイホーム購入と同じだと橘さんは反論する。

新築の不動産の購入がそれだ。300万円の頭金で、3000万円の物件を買い、しかも新築物件は買ったとたんに1−2割価値が下がる。

これはレバレッジ10倍で、不動産に投資していると解釈でき、しかもほとんどの人が損をしている。

ワンルームマンションなども、本当に儲かるならワンルームマンション会社自身がやっているはずだ。

マイホームを購入した人はせっとと繰り上げ返済する以外にやるべきことはないと橘さんは語る。

同じ不動産投資をするなら、マイホームを売り払って、REITに乗り換えた方が経済合理的だと橘さんは言う。REITなら東京などの一等地の不動産に投資することができるからだと。

橘さんは不動産も車も持っていないそうだが、評価損がある自宅を抱える筆者などには耳が痛い話だ。

これが投資の基本法則2.である。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、投資にはレバレッジをかけるべきである。

株式の信用取引ではレバレッジ率は3.3が限度だが、金融先物を使えば最大25倍のレバレッジが賭けられる。


全資産を海外市場に投資?

さらに投資の基本法則3.は全資産を海外市場に投資せよというものだ。

金融資産に比べて人的資本が圧倒的に大きい場合、全資産を海外資産で運用すべきである。

プレイベートバンクでは、投資家の国籍に関係なく世界株ポートフォリオが勧められ、それは米国50%、欧州30%、日本15%、その他5%というようなものだ。

オーソドックスな分散投資は債券:株式=50:50が理想と言われているので、サラリーマン債券を1億円保有する山岡が1億円の株式ポートフォリオを持つのが理想と橘さんは言う。

サラリーマンの山岡はサラリーマン債券は日本で保有しているので、全額を海外株式で運用すべきだと。

日本株は1989年末のピーク終値38915.87円をいまだに越えられないが、株価は成長率が高い国では伸びている。

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世界株ポートフォリオを保有するには

世界株ポートフォリオを保有するのは子どもでもできるという。証券会社に行ってMSCIコクサイ株価指数に連動するインデックスファンドを購入すれば良いのだと。

MSCIワールドは北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの23の主要市場の大型株に投資するもので、これから日本株を抜いたものがMSCIコクサイだ、

インデックスファンドでは信託手数料がかかるので、もっとコストを安く投資したい場合には、EFTを買う。ETFは株式市場に上場されているが、相対取引なので、売りたいときに買い手がいない場合がありうる。このリスクを避けるためにできるだけ売買高の大きいEFTを購入するのだ。

代表的なEFTはS&P500に連動する「SPY(スパイダーズ)」とNASDAQ100社のインデックス「QQQQ」だ。世界投資ならバークレーズ・グローバルのiShareシリーズでMSCIに連動したEFTを上場させている。

MSCIコクサイに連動するEFTはiShare MSCI KOKUSAI(TOK)であり、これは日本の投資家にはきわめて利用価値の高いEFTである。

エマージング市場に投資するiShare MSCI Emerging Markets (EEM)を組み合わせるのも便利だ。

こうして「至高の投資」でプライベートバンクがやっていた世界株ポートフォリオが、EFTの登場で今や誰でも世界株ポートフォリオが保有できるようになったのだ。

EFTには中小型株EFTや不動産REITのEFT、石油や商品相場に連動する商品EFTもある。

EFTはまるでドラえもんの異次元ポケットの様だと橘さんは語る。「こんなことできたらいいな」と思っていると、それにあったEFTが上場されるからだと。

橘さんは国民に代わって国が年金を分散運用しているが、それを個人に返還すべきだと語る。すくなくとも個人が分散投資ができるまで金融市場は進化しているのだと。

山岡は300万円の金融資産に8倍のレバレッジをかけ、2,400万円のバーチャルポートフォリオで、海原雄山の至高の投資と対決する。このポートフォリオから8%のリターンが得られるとすると、金融資産は10年で5000万円、20年で1億円、30年で2億2千万円になる。

さらにボーナスと給料で毎年100万円積み立て、3年に一回やはり8倍のレバレッジをかけて追加投資したとすると、資産は10年で1億5千万円、20年で4億3千万円、30年で10億円となって富豪になる。

となりの億万長者」を思わせる話だ。

これを机上の空論と笑うだろうが、マイホーム投資で300万円の頭金で、2,400万円のマイホームを買うのも同じ投資だと。

金利3%で金を借りられるが、買ったとたんに不動産投資は1−2割価値を失い、30年後には上物の価値はゼロとなり固定資産税も毎年かかる。

日本人はこれまでマイホームの名のもとに、荒唐無稽な不動産投資を行い、異常とも奇妙とも思ってこなかったと橘さんは語る。考えさせられる指摘だ。

筆者はtoo lateだが、息子たちには借家で過ごすというのもアリかもしれない。一生借家で過ごす必要はなく、持ち家がどうしても欲しければ、50代くらいになるまでに資産を運用し、キャッシュで中古住宅(新築はすぐ減価する)を買えばよいのだ。


誰もがジム・ロジャースになれる日

ジム・ロジャースはジョージ・ソロスとともにクォンタム・ファンドを立ち上げた後、独立して大型バイクで世界を旅しながら中近東や西アジアなど自分の目で見つけた有望投資先や商品に投資している。

テンプルトン・エマージング・ファンドを立ち上げたスキンヘッドのマーク・モビアスも投資と旅にとりつかれた男だ。

ベトナムファンドを中小証券会社が売り出したところ、どうせなら自分で投資しようとベトナムの現地証券会社に個人投資家が殺到し、なんと証券口座の半分が日本人のものだったという。小ジム・ロジャースが何千人も集まったわけだ。

この時期ベトナム株は確実に儲かるギャンブルだったという。日本の証券会社が次々とベトナムファンドを設定し、資金が入ってくることがわかっていたからだ。

ベトナムファンドの手数料は高く、2割の成功報酬もあったので、2006年3月に設定されたファンドは60%上昇しているが、実はこの時期ベトナム株式市場のVN指数は100%上昇していたのだと。

割高な手数料のため、市場平均を40%も下回っているのだが、これは説明のどこを見ても書いていない。だからこの時期自分でベトナムで直接口座を持てば100%のリターンが得られたので、個人投資家が殺到したのだ。

これがジム・ロジャースの言うエマージング投資の報酬なのだと橘さんは語る。

第2のベトナムを求めて、モンゴルやカザフスタン、ドバイを投資家は訪れているという。

インドの株式市場は外国人を厳しく制限している。しかしニューヨーク市場に上場されているインド企業のADR(American Depositary Receipts)を買えば、インド企業にドル建てで投資できるのだ。

インド以外でもジョージ・ソロスが昨年約600億円を投資したブラジルの石油会社のペトロブラス(ソロスは相当な含み損を負っていると思う)、世界最大の鉄鉱石メーカーリオドセ、世界最大のダイヤモンド生産者の南アフリカのアングロアメリカン、世界最大の鉄鋼メーカーアセロール・ミッタルなどがADRを上場している。

アメリカの上場基準はSEC(証券取引委員会)が厳しくコントロールしているので、アメリカの厳しい上場基準を逃れロンドンで上場しているエマージング株もある。

例えばロシア最大の石油会社ルークオイル、世界最大のガス会社ガスプロムはGDR(Global Depositary Receipt)をロンドンで上場している。


エマージング投資法

エマージングマーケットに投資する方法は次の4つある。

1.日本の金融機関のエマージングファンドを買う 但し手数料が高い
2.アメリカ市場に上場されているEFTを買う i-Share MSCI Emerging Marketsなどだ。最も手軽でコストパフォーマンスが良い
3.ADRやGDRを利用してエマージングマーケットの優良銘柄に投資する 但し買える銘柄は限られ、一部の株は割高である。
4.現地の証券会社に口座を開く 時間も手間もお金もかかる

現地の証券会社に口座を開く問題を一挙に解決するオンライン証券会社が香港にできたという。

Boom証券は香港、深セン、上海、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、オーストラリアなど中国A株とベトナム株を除くと東南アジア地区のほとんどの株が購入できる。

橘さんの「至高の銀行・証券会社」という本に口座の解説方法などが詳しく紹介されている。

黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券会社編
著者:橘 玲
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-07-26
おすすめ度:3.5
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この他にも同様のマルチマーケット・マルチカレンシー投資のオンライン証券会社はいくつかあるという。

現地の証券会社に口座を開けば、オンライン証券会社の手数料分セーブできるので、最もコストパフォーマンスは良いが、そのためには現地に行かなければならない。

しかしエマージング投資のプロのマーク・モビアスは「あらゆる人々が投資に適切と考える頃には、本当のタイミングはとうの昔に過ぎ去っている」と語る。

実際ジム・ロジャースがアフリカのガーナの株式を買ったのは1990年代だったという。

技術的にはジムと同じ事をできるようになった。エマージング投資はブームを過ぎており、急落しているが、10年先のことを考えると依然として魅力的な投資だと思う。

ただし、プロは一般人よりは一歩も二歩も先を進んでいるので、本がいろいろ出回る頃には、しろうとはブームの終わりのババをつかまされる可能性が高いことにも注意しなければならない。


ミセス・ワタナベの冒険

ミセス・ワタナベとは、実在の人物ではなく、日本の主婦トレーダーの総称だという。投資のレバレッジ率は株の信用取引では3.3倍が普通だが、外貨FXだと大手で20倍、中小業者だと200−400倍というところもあるのだ。

いわゆる円キャリートレードで、たとえば100万円の資金でレバレッジ200倍で2億円を借り、200万ドルに両替してドル金利の5%を得る。

200万ドルのバーチャルな預金から毎年10万ドルのリアルマネーが入ってくるので、元手100万円で一生暮らしていけるのだ。

架空の人物ミセス・ワタナベは数兆円の円資産を売って、米ドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドルなどの高金利の通貨を買っているのだという。

外貨FXはクリック一つで終わり、後は金利が振り込まれるまで待てば良いだけで、手軽に不労所得が得られるので、主婦やフリーターに急速に広まった。

外貨FXで多くの巨額の脱税事件が発生したが、外貨FXは手数料率が0.05%程度と低く、かつ胴元が300倍までの資金を貸してくれるので、宝くじより非常に効率の良いギャンブルなのだという。

勿論資金が200倍、300倍のレバレッジをかけていると、ちょっとでも逆方向に動くとすぐに損失か利益が出る。

経済理論からするとデフレ+低金利の通貨は強く、インフレ+高金利の通貨は弱いはずだが、円に限ってはデフレ+低金利の円安が10年間続いている。

この理由の一つが外貨先物取引に於けるスワップポイントだ。ドルと円の金利差を、外貨FX業者は毎日のキャッシュ支払いに転換したのだ。1万ドルの円売りポジションを持っていれば、金利差年率5%とすると0.013%つまり、毎日1.3ドル入金する。

逆にドル売りポジションを持っていると、毎日1.3ドルが口座から差し引かれるのだ。

参加者は外貨FXは外貨預金の一種と考えていることもあり、この心理的効果は大きく、結果として円売りポジションばかり積み上がり、ドル売りポジションは少ないのだという。

この10年間円高にかけて円買いを敢行したプロ投資家はことごとく敗退し、苦杯をなめてきた。為替レートが一定以上の円高になると、必ず円売りドル買いの投資家が現れ、相場を押し戻すのである。

1998年のLTCM破綻でも、2007年のサブプライムショックでも、欧米の金融機関やヘッジファンドが損失を出し、円キャリートレードを手じまおうとして巨額の円買いが出た時でも、1ドル=105円の水準で必ず円売りドル買いが出て為替相場を円安に押し戻したという。

現在の90円まで行って、また100円近くまで急速に戻ってきた円相場を見ると、たしかに橘さんの言っていることが当てはまるような気がする。

LTCMは破綻時には60倍のレバレッジをかけていたとされるが、ミセス・ワタナベは300倍のレバレッジをかけることができる。

為替市場に於けるミセス・ワタナベの存在は謎につつまれているという。

自らの取引を外貨預金と信じているミセス・ワタナベはスワップ金利が受け取れる限り、円高で含み損がふくれあがっても容易にポジションを解消しようとしない。その結果外貨資産が根雪のようにふくれあがる。

かくして最新の金融工学で武装した日本の主婦が、機関投資家・ヘッジファンドと立ち向かう近未来活劇を我々は見ているのだという。しかも彼女たちはデリバティブ取引について全く理解していないのだ。


日本人全員が働かずに暮らせるユートピア

そして奇妙きてれつなおとぎ話が生まれたという。

デフレ+低金利の円安というマーケットの歪みが固定化し、為替が将来も一定範囲に収まるならば、もはや日本人は働く必要はない。

外貨FXで高金利の外貨を買い、あとはスワップ金利を受け取りながら遊んで暮らせばいいのだ。この投資法はなんの知識も技術も不要で、子どもから老人まで誰でもできる。

そうなると低金利と円安が永遠に続くことが望まれ、もっとも忌み嫌われるものは、金利の上昇と円高だ。

すなわち、日本を長い不況が襲い、改革は遅々として進まず、株価も不動産も下落する社会こそ日本人全員が働かずに暮らしていけるユートピアが実現するのだ。

公的年金や医療制度は破綻するかもしれないが、スワップ金利さえあれば何の問題もない。こうして賢明な有権者は無能な政治家を為政者に選ぶだろうと。

ミセス・ワタナベはとてつもない潜在力を持っている。レバレッジ300倍で、国民資産の1500兆円を運用すると、45京円という金額になる。これは地球上に存在するお金1.6京円の30倍である。

日本国が国として滅びることによってこの世に極楽浄土が到来するのだと。

「ミセス・ワタナベ」と言うこんな恐ろしい話があったとは知らなかった。しかしなるほどとここ10年来の円安の理由がうなずけるような気もする話である。

ミセス・ワタナベのFX取引のために、円安が続き日本の国民一人当たりのGDPが世界2位から22位まで落ちて、国民全体の資産が対外的に目減りしていたわけだ。

しかし最近の世界金融危機で、円は他通貨に対して大きく値を戻しており、ここ数日で値を戻しているが、それでも独歩高と言っても良い。

たぶん今まで為替FX取引で円安に賭けて円売りベースでやってきた人には、極楽ならぬ地獄になっていると思うが、いままでFX取引をやっていなかった人には新規参入のチャンスかもしれない。


革命としてのヘッジファンド

ミューチュアルファンドはバイアンドホールド(買い持ち)しか許されていなかったが、ショート(空売り)をはじめたのがヘッジファンドの始まりで、1949年にアルフレッド・ジョーンズが始めたA.W.ジョーンズが始まりだという。

それまでは持っている株しか売れなかったのが、今度は空売りもできるようになり相場が下落しても儲けられるようになったのだ。

アメリカの法律ではヘッジファンドのリミテッドパートナーを投資額100万ドル上の投資家100名以下、又は投資額500万ドル以上のポートフォリオを持つ投資家5,000名以下と定めている。

投資家が金融のプロか富裕層に限定されていれば、国家が介入することはないと考えたのだ。

ジョーンズは自分の報酬も成功報酬のみの20%とし、全財産をファンドに預けたという。高い成功報酬を取る以上、投資家とリスクを共有するのは当然と考えたのだ。

1966年4月「フォーチュン」誌に「ジョーンズには誰も追いつけない」という記事が出たという。

成功報酬の20%を差し引いても、ジョーンズのファンドが5年間で最高利回りのミューチュアルファンドのフィデリティを44%上回り、10年では最高のドレイファスファンドを87%も上回ったのだ。

この記事をきっかけに第一次ヘッジファンドブームが起こった。そのなかの一つがハンガリーから逃げてきたジョージ・ソロスの運営するクォンタム・ファンドだ。

ジョージ・ソロスはイングランド銀行を相手にポンド売りを仕掛けて勝利し、一躍有名になった。ソロスのファンドは1日で10億ドルを超える利益を手にしたという。

その後ヘッジファンドは増え続け、2007年には1万社を超え飽和状態に達したという。

ヘッジファンドが市場インデックスを上回るというのは統計の詐術であると。ファンドマネージャーが成功報酬をもらえないような運用実績を記録した場合、ファンドを解散するので、統計に反映されない。運用に成功したファンドだけ統計に反映されるからだという。こうして年間数百社のヘッジファンドが消えていく。

米国以外では投資家の制限はないので、ヘッジファンドは下限投資額を引き下げ、海外投資家を勧誘する。日本人に最もなじみのふかい老舗マン・インベストメンツは5万ドルから投資できる。

こうした個人向けヘッジファンドは手軽に購入できるが、販売は代理店に任せているので、5%程度の販売手数料と毎年0.3%程度の管理手数料が販売者にキックバックされる。販売代理店に資格は必要ないので、マルチ商法まがいの会社もいるので要注意だ。

ヘッジファンドの仕組みは簡単だ。たとえば自分の元手1億円を用意して、他の出資者99人から1億円ずつ集める。100億円をレバレッジ20倍の2,000億円で運用し、年率1%で運用すれば20億円の利益、つまり100億円の元手を20%のリターンで回したことになる。

だがもし損失を出すとレバレッジをかけている分、損失も大きくなる。たとえば1%のロスで、20億円の損失、マイナス20%の運用成績となるのだ。

ヘッジファンドのマネージャーは成功報酬だが、失敗したときは最悪は報酬ゼロであり、損は負担しなくてよい。だからファンドマネージャーにはモラルハザードが発生しやすい。


その他、詳しく紹介しているときりがないが、マレーシアのラブアン島やランカウイ島のタックスヘイブンの話とか、イラン革命の時、アメリカの共和党が秘密裏に、人質になっていた米国大使館の職員を解放しないようにイランに金を渡していた(?)ことが決済会社の社員によって暴かれた話とかが面白い。

マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部マネーロンダリングの代理人―暴かれた巨大決済会社の暗部
著者:エルネスト バックス
販売元:徳間書店
発売日:2002-04
おすすめ度:4.5
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筆者はラブアン島に行ったことはないが、米国にいたときに、まさにラブアン島にあったマレーシアのガス会社の子会社の直接還元鉄の会社から、アイアンブリケットを米国に輸入していたので感慨深い。


パーペチュアルトラベラー

一ヶ所に定住することなく、常に世界中を旅していればどこの国でも税金を納めなくても済む可能性がある。

ところが日本の税務当局は海外に住んでいても、国内に住所を有すると推定されれば所得税を取り立てる。捕捉率は低いが、著名な人はしばしば税務調査ターゲットになる。

たとえば香港在住の武富士創業者の息子の相続税脱税裁判は、2007年5月東京地裁で判決が出て、1,300億円の追徴課税が取り消され、国税当局は還付加算金を含む1,715億円を返還することになったが、2008年1月の東京高裁では国側の逆転勝訴判決が出された。

ハリーポッターシリーズの翻訳者も2001年スイスジュネーブにマンションを購入して住民票を移していたが、2006年7月に3年間で35億円の申告漏れを指摘され、7億円の追徴課税を受けた。

これらは氷山の一角だ。

タックスヘイブンのマレーシアのラブアン島は日本人のリタイア層に人気だそうだが、日本人の現地業者が日本人向けに8万円で仕入れた部屋を25万円で貸してぼったくっているケースもあるという。海外移住者から甘い汁を吸おうとする業者には要注意だと。

オーストラリアの通貨高、物価高でオーストラリアに移住した人が日本に戻ってくるケースも続出しているという。日本円が安くなったので、もはやオーストラリアよりも日本の方が物価・生活費が安いのだと。

もっとも最近の円高で、かなり状況は変わっていると思う。

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ポンド高もあって、イギリスでは人口の約1割が海外移住しているという。円高になれば、また海外移住という話題も復活してくると思う。


前作「臆病者の株式投資」の上級編といった感じの本書だが、まさに目からうろこで、読み物としても面白く大変参考になる本だ。

この本が書かれた2008年初めと今とでは、かなり市場環境が変化しているが、逆にチャンスではないかと思う。

結構参考になる本なので、あらすじも長くなったが、市場は常に動いているので、この本を参考にして、現実の市場をチェックして欲しい。



参考になれば次クリックお願いします。





三度目の奇跡 日本復活への道 日経新聞の特集記事

緊急出版 三度目の奇跡 日本復活への道緊急出版 三度目の奇跡 日本復活への道
日本経済新聞出版社(2011-05-17)
販売元:Amazon.co.jp
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2011年元旦からスタートした日経新聞の連載シリーズ。

途中で東日本大震災と福島原発事故が起こり、当初の「平均年齢45歳の国の未来図」を描く特集が、大震災・原発事故からの復興を目指す記事に変わった。

参考になる情報が多く載せられている。印象に残ったものをいくつか紹介しておく。

★枝野官房長官は「復興庁創設」に意欲を示しているが、官僚は冷めているという。「ハコ作りに力を割いている場合じゃない。」「民主党政権は『形』にばかりこだわる」。これらは経済官庁幹部の発言だという。

各官庁の事務次官・局長レベルは民主党の動きの遅さにさじを投げているという話も聞いたことがある。

「いくら情報を官邸に集約しても、その後の指示が降りてこない」と官僚は語る。

この本には書いていないが、筆者の言葉では「ヘッドレス・チキン」。これが菅政権を形容する言葉だ。

★宮城県石巻市の「イトーヨーカドー石巻あけぼの店」は地震の影響で、建物が一部損壊した。しかし営業をやめたのは3時間だけだった。店頭で飲料水、カップ麺、乾電池など数十品目を販売したのだ。

「まさか開いているとは思わなかった」東北にあるイトーヨーカドー全10店舗は一日も営業をやめていないという。

★バングラデッシュからも日本への援助が寄せられている。日本は1972年にバングラデシュがパキスタンから独立して、先進国で最初に承認した。そのことを覚えている人々も多いという。

★バングラデッシュでは日本のベンチャー企業が活躍している。例えば納豆のねばねば成分を固めた水浄化剤「ポリグル」を売る日本ポリグルだ。

2007年のサイクロンの時に、現地にサンプルを送ったら好評で、ヤクルトレディに倣いポリグルレディを通じて売っているという。

★中国政府系のシンクタンクは、「人民元高を容認する『中国版プラザ合意』はありえない」としている。こんなジョークがあるという。「日本のことを研究するな。社会主義になってしまう」。

★陸軍の秋丸次朗中佐の「戦争経済研究班」は、陸軍きっての実力者で、当時の軍務局軍事課長の岩畔豪雄(いわくろひでお)に命じられ、1939年から日米開戦を前提に世界大戦の予測をした。

メンバーの有沢広巳(英米班)、中山伊知郎(日本班)、武村忠雄(独伊班)の報告は、「日本の生産力はもうこれ以上増加する可能性はない」、「ドイツはこれ以上の余力なし」。最終結論は「日本の経済力を1とすると英米は合わせて20。日本は、2年間は蓄えを取り崩して戦えるが、それ以降は経済力が下降線をたとり、英米は上昇し始める。彼らとの戦力格差は大きく、持久戦には耐えがたい」だった。

開戦直前の1941年半ばに陸軍首脳らに対する報告会が開催された。列席した杉山元参謀総長は「報告書はほぼ完璧で、非難すべき点はない」しかし、「その結論は国策に反する。報告書の謄写本はすべて燃やせ」。

「見たくないものは見ない」という態度が太平洋戦争の惨劇を招いた。1988年の有沢広巳死後に、遺品から秋丸報告書の一部が発見されたという。

いまこそ戦時の失敗に学べと日経新聞はいう。

★JA(農協)に頼らない人たちが増えている。コメリの出す「アグリカード」は、支払いは年1回、収穫月だけでよいという。カード保有者は4万人、コメリの売上高は3千億円で、JAの2兆円には及ばないが、存在感は小さくない。

★人材を輸出する韓国。
李明博大統領は「2013年までに5万人の海外就職、3万人の海外インターンシップ、2万人の海外ボランティアを育てる」グローバルリーダー10万人育成計画を打ち出した。

韓国人の若者が日本にも求職に来る。「韓国の就職は本当に厳しく、会社に入っても週末に自分の時間が全然取れない。日本企業は給料も労働環境もいいので、日本でずっと頑張っていきたい」という。

韓国では最低賃金が安いので、日本の若者のように「フリーター生活」で暮らしていくこともままならないのだという。

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、国民所得がピークだった1994年と2008年を比べると、平均的な日本国民はどんどん貧しくなっている。

                   1994年      2008年
一世帯当たりの年間平均所得  664万円      548万円
300万円以下の世帯比率     23.5%      33.3%
800万円以上の世帯比率     29.1%      21.3%

実際のグラフは次の通りだ:

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出典:国民生活基礎調査(平成21年版)

平均所得金額以下の世帯比率が増え、所得がより低い層が増加していることを示している。

2-2b





出典:国民生活基礎調査(平成21年版)

次は、以前紹介した大前研一さんが、近著「日本復興計画」で示していた図だ。

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出典:「日本復興計画」109ページ

先進国のなかで日本だけが国民所得が減少していることがわかる。

もっとも、これらのグラフだけから結論付けるのは事実認識を誤る危険がある。日本の場合、1994年の1世帯当たりの人員は2.95人だったが、2008年では2.62人になっている。

世帯数と平均世帯人員




出典::国民生活基礎調査(平成21年版)

同じ時期で、高齢者世帯が4百万世帯から9.6百万世帯に、単身者世帯は8百万世帯から12百万世帯に増えている。

筆者は平均世帯所得が減少している傾向として正しいとは思うが、為替相場とかインフレ率や世帯構成の違いなどを考慮にいれないと、Apple-to-appleの比較や正確な評価はできない。

主に年金で生活する高齢者世帯と単身者世帯が増えることにより、平均では日本人は貧しくなっているようにみえることも留意しておく必要があるだろう。

ちなみにこの点は筆者の会社の読書家の友人から指摘があったので付記したものだ。

その他にも参考になる事例が多い。簡単に読めるので、是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリック願う。


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