時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2011年07月

心を整える。 日本代表ゲームキャプテン・長谷部の本 

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣
著者:長谷部誠
幻冬舎(2011-03-17)
販売元:Amazon.co.jp
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アマゾンで売れ行き一時トップ(2011年6月20日現在)の日本代表ゲームキャプテン・長谷部誠の本。

長谷部のミスチルベスト15あり、愛読書あり、さらに印税を全額地震被害者のために寄付することもあって、カッコイイということで女性にもよく売れているようだ。

長谷部は2010年夏のワールドカップの2週間前に岡田監督からゲームキャプテンに指名された。チーム全体のキャプテンは川口能活、長谷部の前のゲームキャプテンは中澤佑二だった。

長谷部は当時26歳。チーム内で年長の選手が多くいた。一度は、チームに対する影響が大きすぎると岡田監督に辞退を申し出る。岡田監督はすぐに中澤を部屋に呼び、話し合った結果、長谷部にやはりゲームキャプテンをやって貰うという決定となった。

「やはりゲームキャプテンはオマエにやってもらう。オマエは誰とでも分け隔てなく話せるし、独特の明るさがある。何か特別なことをやろうとしなくていい。いままでやっていたとおり、普通に振舞ってくれ。」

岡田監督にはこのように言われたという。

この本のタイトルは「心を整える。」だ。試合で実力を出すために、いわばピアノを調律するように。心を調律して良いパフォーマンスを生み出すのだ。そのための56の習慣を紹介している。

長谷部は静岡県出身。藤枝東高校で2001年の国体に準優勝し、浦和レッズにスカウトされる。レッズでは2年目からレギュラーに定着し、2003年のナビスコカップで優勝、2007年にはACLで優勝し、一躍国際スカウトに注目される。

2008年にドイツのヴォルフスブルグに移籍して、翌2009年ブンデスリーガで優勝。



ヴォルフスブルグはフォルクスワーゲンの工場がある場所で、サッカーチームのスポンサーもフォルクスワーゲンだ。

筆者は最初の米国駐在の時に、家内用にフォルクスワーゲンのジェッタを持っていた。当時は米国製のフォルクスワーゲンも販売されていたので、西ドイツ製のフォルクスワーゲンは「ヴォルフスブルグ・エディション」というプレートが付いていた。

長谷部はMFとしてブンデスリーガでプレーを続けており、最近ヴォルフスブルグとの契約を2014年まで延長した。長谷部というとあまり目立たない選手という印象が強い。遠藤の様にフリーキックを蹴るわけでもないし、かつての小野伸二のようなキラーパスがあるわけでもない。

それでいてチームになくてはならないの攻守の要となっているのが、長谷部がブンデスリーガで4年もレギュラーを張っており、日本代表でもゲームキャプテンとなっている理由だろう。

ヴォルフスブルクのディレクターは長谷部の90分間のポジショニングを見て、感心して次のように評しているという。

「長谷部は組織に生まれた穴を常に埋められる選手だ。とても考えてプレーしているし、リーグ全体を見渡しても彼のような選手は貴重だ。」


長谷部の肉声が伝わる本

この本は長谷部の肉声が伝わるような本だ。

高校3年になってやっと藤枝東のレギュラーになれた長谷部にレッズからオファーが来た。両親は大学進学を勧め、高校生からのプロ入りに反対したが、そんな長谷部に、「じいちゃん」が言った。

「マコト、人生は一度しかないんだよ。男なら思いきって挑戦するべきではないのか」

長谷部の名前は誠実の「誠」だ。スパイクにはじいちゃんの「松」と自分の「誠」を刺繍で縫いつけているという。

長谷部のじいちゃんは松太郎という名前で、既に亡くなったが、スパイクの内側に刺繍を縫いつけることで、いつもじいちゃんと一緒だという気持ちでいるという。

試合でサイドラインを超える時に、長谷部は天を見上げているが、いつも「じいちゃん、今日もよろしく」と心の中で言うのだと。

「昔気質(むかしかたぎ)」なところが、長谷部の魅力なのだと思う。


「心を整える」56の習慣

この本ではいかにも誠実で努力家・勉強家の長谷部らしい「習慣」、エピソードが紹介されている。アマゾンのなか見!検索には対応していないので、目次を紹介しておく。

第1章 心を整える。
 01 意識して心を鎮める時間を作る。
 02 決戦へのスイッチは直前に入れる。
 03 整理整頓は心の掃除に通じる。
 04 過度な自意識は必要ない。
 05 マイナス発言は自分を後退させる。
 06 恨み預金はしない。
 07 お酒のチカラを利用しない。
 08 子どもの無垢さに触れる。
 09 好きなものに心をゆだねる。
 10 レストランで裏メニューを頼む。
 11 孤独に浸かるーひとり温泉のススメ

第2章 吸収する。
 12 先輩に学ぶ。
 13 若手と積極的に交流する。
 14 苦しいことは真っ向から立ち向かう。
 15 真のプロフェッショナルに触れる。
 16 頑張っている人の姿を目に焼きつける。
 17 いつも、じいちゃんと一緒。

第3章 絆(きずな)を深める。
 18 集団のバランスや空気を整える。
 19 グループ内の潤滑油になる。
 20 注意は後腐れなく。
 21 偏見を持たず、まず好きになってみる。
 22 仲間の価値観に飛び込んでみる。
 23 常にフラットな目線を持つ。
 24 情報管理を怠らない。
 25 群れない。

第4章 信頼を得る。
 26 組織の穴を埋める。
 27 監督の言葉にしない意図・行間を読む。
 28 競争は、自分の栄養になる。
 29 常に正々堂々と勝負する。
 30 運とは口説くもの。
 31 勇気を持って進言すべきときもある。
 32 努力や我慢はひけらかさない。

第5章 脳に刻む。
 33 読書は自分の考えを進化させてくれる。
 34 読書ノートをつける。
 35 監督の手法を記録する。

第6章 時間を支配する。
 36 夜の時間をマネージする。 
 37 時差ボケは防げる。
 38 遅刻が努力を無駄にする。
 39 音楽の力を活用する。
    コラム ミスター・チルドレン ベスト15
 40 ネットバカではいけない。

第7章 想像する。
 41 常に最悪を想定する。
 42 指揮官の立場を想像する。
 43 勝負所を見極める。
 44 他人の失敗を、自分の教訓にする。
 45 楽な方に流されると、誰かが傷つく。
 
第8章 脱皮する。
 46 変化に対応する。
 47 迷ったときこそ、難しい道を選ぶ。
 48 異文化のメンタリティを取り入れる。
 49 指導者と向き合う。

第9章 誠を意識する。
 50 自分の名前に誇りを持つ。
 51 外見は自分だけのものではない。
 52 目には見えない、土台が肝心。
 53 正論を振りかざさない。
 54 感謝は自分の成長につながる。
 55 日本のサッカーを強くしたい。
 56 笑顔の連鎖を巻き起こす。

最終章 激闘のアジアカップで学んだこと


この目次だけ読んでも、まじめな長谷部の性格が感じられると思う。


勉強家の長谷部

この本のところどころに、長谷部が影響を受けた本の言葉が引用されている。それは京セラ創業者の稲盛和夫さんだったり、松下幸之助だったりする。

たとえば稲盛さんの次のような言葉を引用している。

「判断に迷った時は、人として正しいかどうかを考えるようにしている」

以前読んだ稲盛さんの本では、「動機善なりや、私心なかりしや」と常に自問すると書いてあった。これと同じような言葉だ。

だから長谷部は監督にも進んで進言するという。「自己保身のために言わないことの方こそ、正しくない行動のはずだ」と思うからだという。

2010年ヴォルフスブルクの監督に就任したばかりの英国人マクラーレン監督にもボランチのポジショニングについて意見を言ったという。

こんな時に長谷部が意識しているのは「上から目線」にならないようにすることだと。監督が腹を立てたら考えも聞いてもらえず、干されてしまうかもしてない。チームのために進言しているという思いを伝えなければならないのだ。

この辺の一途さが岡田監督からゲームキャプテンに指名された理由の一つだろう。


33読書は自分の考えを進化させてくれる

この本の33番目の習慣が読書だ。長谷部は当初は東野圭吾とか宮部みゆきとかの人気作家の小説をよく読んでいたが、デール・カーネギーの「人を動かす」を読んでから、哲学系の本が圧倒的に増えたという。

ドイツではひとりでいる時間が増え、よりサッカーや人生のことを深く考えるようになったことも関係している。

読書は人前で話す機会が多いサッカー選手にとって、言葉のセンスを磨く上でも重要だという。

長谷部の推薦するのは次の本だ。このブログでもあらすじを紹介しているので、題名をクリックして参照してほしい。

松下幸之助の「道をひらく」

道をひらく道をひらく
著者:松下 幸之助
PHP研究所(1968-05)
販売元:Amazon.co.jp
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姜尚中(カン・サンジュン)の「悩む力」

悩む力 (集英社新書 444C)悩む力 (集英社新書 444C)
著者:姜 尚中
集英社(2008-05-16)
販売元:Amazon.co.jp
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太宰治の「人間失格」(リンクは「人間失格」に触発された押切もえの「モデル失格」)

人間失格 (集英社文庫)人間失格 (集英社文庫)
著者:太宰 治
集英社(1990-11-20)
販売元:Amazon.co.jp
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「アインシュタインは語る」

アインシュタインは語るアインシュタインは語る
大月書店(2006-08)
販売元:Amazon.co.jp
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これは筆者のコメントだが、アインシュタインの伝記の決定版ともいえるものが、6月に出版されている。アインシュタインの手紙の断片を編集した「アインシュタインは語る」よりアインシュタインの考え方や人柄がわかるので、こちらをおすすめする。(ただし下巻はミスにより刷り直しとなって近々再発売される

アインシュタイン その生涯と宇宙 上アインシュタイン その生涯と宇宙 上
著者:ウォルター アイザックソン
武田ランダムハウスジャパン(2011-06-23)
販売元:Amazon.co.jp
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アインシュタイン その生涯と宇宙 下アインシュタイン その生涯と宇宙 下
著者:ウォルター アイザックソン
武田ランダムハウスジャパン(2011-06-23)
販売元:Amazon.co.jp
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斉藤茂太「幸せを呼ぶ孤独力」

幸せを呼ぶ孤独力―“淋しさ”を「孤独力」に変える人の共通点幸せを呼ぶ孤独力―“淋しさ”を「孤独力」に変える人の共通点
著者:斎藤 茂太
青萠堂(2005-12)
販売元:Amazon.co.jp
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長谷部は「読書ノート」をつけて、気に入った文を抜き書きしているという。心の点検もしているのだと。

ちなみに本田圭祐も白洲次郎の本を読んでいたという。

白洲次郎 占領を背負った男白洲次郎 占領を背負った男
著者:北 康利
講談社(2005-07-22)
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長谷部の「監督ノート」

長谷部は今は現役選手だが、いずれは引退する。その時のために2年前から「監督ノート」をつけ始めているという。自分が出会った監督が、どのようにチームをマネージしているのかを記録しているという。

また他の選手から聞いた他の監督の練習方法や、本やテレビなどで見たサッカー以外のスポーツの練習方法でも参考になりそうなものは記録しているという。

注目すべき点は多いという。たとえば:

・シーズン前の合宿ではどのようにしてチームの組織を構築するのか
・遅刻したときの罰金の額
・携帯電話やゲーム機の使用制限
・GM(ゼネラルマネージャー)との関係の作り方
・スポンサーへの対応
・ファンやマスコミへの距離感
・どんなスタッフを揃えるか
・試合に向けてどのような練習をするのか
・練習の時間配分
・練習メニュー

この本の38番目の習慣は「遅刻が努力を無駄にする」だ。長谷部は練習の1時間前には着くようにしているという。時差対策も日本への帰国の一週間前から就寝時間を少しずつ早めるという。いかにもまじめな長谷部らしい習慣だ。

ちなみに筆者の時差調整のやり方は、東へ向かう場合は(日本→北米など)機内で眠るが、西へ向かう場合(北米→日本など)は、機内では寝ないで無理矢理時差調整をする。

飛行機に乗ったらすぐに時計を到着地の時間に合わせるというのも、頭の切り替えに役立つと思う。


長谷部はミスチルファン

この本には長谷部によるミスチルベスト15なども載っていて、ミスチルのことが、いろいろなところで出てくる。試合前の移動中のバスの中でもいミスチルは不可欠なのだと。



「ニーチェの言葉」にドキッとする

このブログでも紹介した「ニーチェの言葉」とか、ワタミの渡邉美樹さんの本のこととかも出てくる。

超訳 ニーチェの言葉超訳 ニーチェの言葉
ディスカヴァー・トゥエンティワン(2010-01-12)
販売元:Amazon.co.jp
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きみはなぜ働くか。―渡邉美樹が贈る88の言葉きみはなぜ働くか。―渡邉美樹が贈る88の言葉
著者:渡邉 美樹
日本経済新聞社(2006-09)
販売元:Amazon.co.jp
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「ニーチェの言葉」の中で「脱皮して生きていく」という言葉にドキッとしたという。ワールドカップ直前に、岡田監督の戦術変更を受け入れられない自分に気が付いたという。

2008年のアルゼンチンのボカ・ジュニアーズとの試合では、ボカの選手のワンプレー、ワンプレーに魂がこもった試合態度に圧倒されたという。ボールを失ったら、すごい気迫で奪い返しに来るという。ユニフォームを引っ張るのも当たり前。スタンドに来ているスカウトに必死にアピールして、わずかな可能性も逃さないという真剣な態度だ。

長谷部はボカの選手を見て、自分の未来は自分で勝ち取るのだという単純なことに気づかされたという。長谷部はボカ戦で、海外移籍を本気で考えるようになり、異文化のメンタリティを積極的に自分になかに取り組むことを意識するようになったという。



筆者はブエノスアイレスに2年間住んでいて、トップクラブ「リーベル・プレート」の会員だったので、リーベルとボカの試合も見た。日本でいえば巨人・阪神戦のような感じで、ちょっとハイソなリーベル、下町のボカという立ち位置だ。ブエノスの貧民地区出身のマラドーナもボカに憧れ、一時在籍したこともある。


長谷部の誠実な性格が伝わってくる本だ。正直あまり長谷部のゴールは記憶にない。あまり目立たないが、日本代表の常連としてチームには不可欠な選手なのだろう。

著者の誠実さといい、気持ちのこもった内容といい、売れる要素満載の本だ。


参考になれば次クリック願う。



新天皇論 小林よしのりの近著 天皇論三部作の完結編

ゴーマニズム宣言SPECIAL 新天皇論ゴーマニズム宣言SPECIAL 新天皇論
著者:小林よしのり
小学館(2010-12-15)
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小林よしのりの近著は、このブログでも紹介している「天皇論」、「昭和天皇論」に次ぐ天皇論三部作の完結編だ。

ゴーマニズム宣言SPECIAL天皇論ゴーマニズム宣言SPECIAL天皇論
著者:小林 よしのり
小学館(2009-06-04)
販売元:Amazon.co.jp
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ゴーマニズム宣言SPECIAL 昭和天皇論ゴーマニズム宣言SPECIAL 昭和天皇論
著者:小林 よしのり
幻冬舎(2010-03)
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皇室の起源や天皇の祭祀について知らないことが多かったので、「天皇論」、「昭和天皇論」は大変参考になった。

この本も高森明勅(あきのり)日本文化総合研究所代表や、田中卓皇學院大学元学長などの神道学、皇室古代史研究の専門家のアドバイスやチェックを得ているので、前2作と同様、非常に内容が濃いものになっている。

ちなみに高森さんと田中さんは次のような本を書いている。

歴代天皇事典 (PHP文庫)歴代天皇事典 (PHP文庫)
PHP研究所(2006-10-03)
販売元:Amazon.co.jp
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田中さんは大正12年生まれで今年88歳になる。「田中卓著作集」が出版されている古代史・皇室史研究の大家だ。

日本国家成立の研究 (1974年)
著者:田中 卓
皇学館大学出版部(1974)
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田中卓著作集〈5〉壬申の乱とその前後 (1985年)
著者:田中 卓
国書刊行会(1985-09)
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ちなみに田中さんは「万世一系」は一つの糸のように感じるが、これは明治になってから頻繁に使われた言葉だという。昔使われていた「万葉一統」という、帯のように直系も傍系も一族郎党がつながっているというイメージが正しいという。

天皇論三部作でも高森さんがすべて内容をチェックしてくれているとのことである。議論の内容は専門家の高森さんの受け売りなのかもしれないが、それにしてもマンガというよりは、挿絵が充実した本と言った方が良いくらいコンテンツは充実している。


男系絶対主義の主張を逐一論破

小林よしのりは、男系絶対主義者の論拠を逐一論破している。

★過去10代、8人の女性天皇がいて、決して名前だけの中継ぎではなく、それぞれ「天皇」という称号を始めたり、「日本」という国名を決めたり、伊勢神宮の式年遷宮を始めたり、歴史上重要な決断をしている。皇統は決して男系だけではなかった。

★昭和天皇が「人倫に反する」として廃止した側室制度がない現代の皇室では、男系継承はいずれ不可能となる。このままでは皇位継承者に過大な負担を強いる結果となり、雅子皇太子妃バッシングなどの例もあり、皇位継承者と結婚しようとする女性を思いとどまらせる強力な圧力となる。

★日本はもともと男系・女系の区別のない国で、男系絶対主義は男尊女卑の「シナの伝統」であり、日本古来の伝統・風習ではない。そもそも皇祖神は女性の天照大神(あまてらすおおみかみ)である。明治時代の「皇室典範」制定時に男尊女卑思想があったので、男系継承という原則が打ち出された。しかしそれは側室制度があってはじめて成り立つ原則だ。

★八木秀次氏が喧伝していた「Y染色体論」は今やSRY染色体(sex-determining region Y)が男性を決定するという説に変わり、XX男性、XY女性も存在することが立証され、男系絶対主義者の科学的論拠は崩れた。

「女性天皇容認論」を排す―論集・現代日本についての省察「女性天皇容認論」を排す―論集・現代日本についての省察
著者:八木 秀次
清流出版(2004-11)
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2006年に生物学ライターの竹内久美子さんの「万世一系のひみつ」という本のあらすじを紹介しているが、竹内さんはY染色体を根拠に男系絶対主義の根拠を説明していた。

今回小林よしのりがさかんに強調する「SRY染色体」というのは、初めて聞く言葉なので、竹内久美子さんの「万世一系のひみつ」を読み返してみると次のようになっている。

「性染色体の交差はまったくないのではなく、Yの両端にはほんの少しXとペアとなす部分があり、そこで交差することがある。だから父から息子へYが受け継がれるときにはこういう交差と、稀に突然変異が起きることによってごくわずか変化します。

しかしともあれ、男はYを父親から受け継ぐ。それは、父親のものとほぼ同じであることは言える。男系の男子でつなぐとはそういうことなのです。」

出典:「万世一系のひみつ」

Y染色体説は例外もあるという注意深い書き方になっている。

遺伝子が解く!万世一系のひみつ (文春文庫)遺伝子が解く!万世一系のひみつ (文春文庫)
著者:竹内 久美子
文藝春秋(2009-05-08)
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竹内さんは最終的には女帝でも男系継承でもどちらでもよいという立場だが、女帝の場合には旧宮家などの皇室タイプのY染色体を持った男性との結婚が望ましいとしている。

これは筆者の意見だが、小林よしのりがこの本で主張するように、「Y染色体原理主義」のような議論はすべきでないと思う。かつて女帝がいたという皇室の歴史と、現代の結婚感覚に明らかに反するからだ。


★血のスペアとして旧宮家出身者を皇族とすべきだという議論がある。しかし、その候補といわれている4人は、男系絶対を叫ぶ竹田恒泰氏を除いて、いまだ不明のままである。よしんば4人が身分を明かしても、旧宮家と今上天皇との系統は600年前の崇光天皇の子栄仁親王までさかのぼらないとつながらないような人を、皇族、ひいては天皇として国民は認めないだろう。

そもそも昭和22年には竹田さんのお父さんも生まれていないので、「旧皇族」というのは「消防署の方から来ました」といって消火器を売り込むやりくちと同様の、不適切な用語であると批判している。

竹田さんはいくつも本を書いているので、別ブログでは「語られなかった皇族の真実」のあらすじを紹介している。

語られなかった皇族たちの真実 若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」 (小学館文庫 た 15-1)語られなかった皇族たちの真実 若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」 (小学館文庫 た 15-1)
著者:竹田 恒泰
小学館(2011-02-04)
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そのものズバリの「皇統保守」という本や、前回紹介した「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」という本も書いている。特に「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」は30万部を超えるベストセラーとなっている。

皇統保守皇統保守
著者:竹田 恒泰
PHP研究所(2008-08-01)
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日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)
著者:竹田 恒泰
PHP研究所(2010-12)
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★そもそも11旧宮家は、昭和22年に皇籍離脱させられたが、これはGHQでなく昭和天皇の意志だという。皇族は多すぎ、勝手な行動が度を超している人もいたからだ。

一例として挙げられているのが、昭和天皇の皇后、香淳皇后の父、久邇宮邦彦王だ。
宮中某重大事件は昭和天皇の久邇宮良子女王(香淳皇后)との婚約を取り消そうと山形有朋が画策したものだが、このとき良子女王の父、久邇宮邦彦王が大正天皇の皇后、貞明皇后に直接手紙を書いたので、臣の身分を超えた行為に皇后は激怒したという。

それ以来、貞明皇后(昭和天皇の皇太后)は皇族は多すぎると語っていたという。

竹田恒泰氏は対談を申し込んできたという。

竹田さんは一般的には「法隆寺を鉄筋で建て替えたら法隆寺ではなくなる」と主張しているが、男系で皇統が途絶えたら、その時は自分はいないので、その時の国民が決めればよいとメールで回答してきたので小林よしのりは対談を断ったという。


★渡部昇一との公開質問状
この本では渡部昇一と小林よしのりの往復公開質問状を掲載している。男系継承を主張する渡部昇一を「皇統の弥栄(いやさか)よりも、自分の面子を重んじ、過去の栄光にしがみつくだけの人間を相手にしている暇はありません。形骸は、断ずるのみです」と片づけている。


皇室典範改正は急務

現行の「皇室典範」は「法律」とされたので、国会に議決権があり、天皇陛下には議決権はない。しかし明治時代までは「皇室典範」は天皇家の家法とされ、天皇陛下が決めていた。

たとえ悠仁(ひさひと)さまが将来皇位を継承することになっても、今上天皇陛下の他の孫はすべて女性なので、男系皇族しか認めない現在の皇室典範では、女性の皇族は黒田清子様のように結婚すると皇籍離脱する他なく、いずれ皇族は悠仁さまだけという事態が来る。

天皇陛下は祭祀王であり、数々の祭祀を皇居で国民のために営んでおられることは、、「天皇論」の”皇室祭祀”で紹介しているので、参照して欲しい。皇太子殿下も多くの祭祀を天皇とともに営んでおられる。それゆえ皇太子殿下には、はやくからの帝王教育が必要である。

あってはならないことだが、もし今上天皇陛下に万が一のことがあり、皇太子殿下が天皇に即位されると、秋篠宮殿下や悠仁さまは皇太子にはなれず、女性天皇を認めないと愛子さまも皇太子になれないので、皇太子不在という事態となり、次の天皇の負担は重くなる。

それゆえ「皇室典範」を改正し、女性宮家を創設して、女性天皇、女性皇太子を認めることが、皇統継承の道であり、たぶん今上天皇、皇太子殿下、秋篠宮殿下もそれを望んでおられるのではないかと小林よしのりは主張する。

平成17年に小泉政権下の「皇室典範に関する有識者会議」の報告書も女系容認、長子優先と結論づけている。これを早く法律案にすべきだと。また宮内庁はだいぶ以前から皇室典範改正に向けての準備を始めているのではないかと。


男系継承反対派も沈黙?

小林よしのりが、高森さん、田中さんなどの専門家のアドバイスを得て、このような論陣を張ったので、一時は男系継承に傾いていた桜井よし子氏や大原康男氏、八木秀次氏もこの問題については沈黙を守るようになったという。

「女系天皇論」の大罪「女系天皇論」の大罪
著者:小堀 桂一郎
PHP研究所(2006-01)
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結論として小林よしのりは、天皇陛下、皇太子殿下、秋篠宮殿下で話し合い、最終的には今上天皇が決断され、周りは天皇の意志を忖度すべきだと主張する。

天皇陛下、皇太子殿下、秋篠宮殿下も法律が決めることとしながらも、話し合う方向でも発言されている。

たぶん国民にとっては、天皇家で話し合った結果がもっとも説得力があるのではないかと筆者は思う。


小林よしのりの限界

この本の小林よしのりの議論は、納得できる点が多いが、そこまで言うなら、小林よしのりが、今上天皇陛下のご即位20年記念の茶会に招かれて、侍従から天皇陛下と直接言葉を交わすように勧められたのに、なぜそれを断ったのか理解に苦しむ。

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出典:本書34-37ページ

天皇陛下のお近くに行って、畏れおののいて何も言えなくなったのだろうが、小林よしのりが茶会に招待されたのは、もとはといえば何十万人もの読者が天皇制に興味を持ち、「天皇論」を読んだからである。

上記の議論のように、皇位継承問題については天皇家のご意見を忖度することが非常に重要である。ひょっとすると天皇陛下から何らかのヒントや言葉を引き出せた千載一遇のチャンスなのに、なぜここは読者の代表として、あたかも役者のように役目を果たすという発想にならなかったのだろう?

筆者は、たぶんこの原因は小林よしのりの「マンガ家コンプレックス」にあると思う。

小林よしのりは「マンガの殿堂」を作りたがっていた麻生太郎元総理と親しいようだが、麻生さんの主張を待つまでもなく、マンガは"cool Japan"の代表例として日本の誇る世界的なコンテンツである。

これは筆者の意見だが、小林よしのりの作品は、もはやマンガの範疇を超えた「挿絵の多い本」であり、そのコンテンツの重要性はマンガだからといって卑下する必要はなく、もっと自信を持つべきである。

上記のページの続きの38ページには次のような絵がある。

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出典:本書38ページ

小林よしのりも、本心は悔やんでも悔やみきれないという気持ちなのかもしれないが、同じく招かれたビートたけしのようにきちんと天皇陛下と言葉を交わし、「この人のためなら死んでもいい」という気持ちを、われわれ読者にも伝えてほしいものである。



あとがきに「本書がいつか必ず、国体を救うために描かれた邪念なき作品だったと、評価される時が来るだろう」などと書く前に、国民に伝える語り部という自覚を持って行動して欲しいものである。

参考になる良い本なのにもかかわらず、この一点のために残念ながら筆者の読後感は悪い。

ともあれコンテンツは充実している。400ページの大作で文字が多く、筆者も読むのに4日かかった。読みづらいマンガだが、一読の価値はあると思う。


参考になれば次クリック願う。



日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか 元皇族家 竹田恒泰さんの近著

日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)
著者:竹田 恒泰
PHP研究所(2010-12)
販売元:Amazon.co.jp
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旧皇族家出身で、作家として活動する竹田恒泰さんの近著。

竹田さんは慶應大学法学部の講師として「天皇と憲法」を担当しているという。

誤解しやすい点だが、旧皇族は昭和22年に廃止されているので、昭和50年生まれの竹田さんが皇族であったことは一度もない。

しかし血筋が良いのは勿論間違いなく、おじいさんの旧竹田宮王はスポーツの宮様として有名だ。竹田さんのお父さんの竹田恒和さんも旧皇族ではないが、ミュンヘン・モントリオールオリンピックの日本代表で、現在JOC会長を務めている。

竹田宮の旧邸は現在の高輪プリンスホテルだ。

別ブログでは竹田さんの「語られなかった皇族たちの真実」と「旧皇族が語る天皇の日本史」を紹介しているので参照願いたい。

語られなかった皇族たちの真実 若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」 (小学館文庫)語られなかった皇族たちの真実 若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」 (小学館文庫)
著者:竹田 恒泰
小学館(2011-02-04)
販売元:Amazon.co.jp
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以前の本が参考になったので、30万部売れているというこの本も読んでみた。

簡単な目次なので次に引用しておくが、なか見!検索に対応しているのでここをクリックして目次などを見て欲しい。

序章 世界でいちばん人気がある国「日本」

第1章 頂きます ー 「ミシュランガイド」が東京を絶賛する理由

第2章 匠(たくみ) ー 世界が愛する日本のモノづくり

第3章 勿体ない(もったいない) ー  日本語には原始日本から継承されてきた”和の心”が宿る

第4章 和み(なごみ) ー 実はすごい日本の一流外交

第5章 八百万(やおよろず) ー 大自然と調和する日本人

第6章 天皇(すめらぎ) ー なぜ京都御所にはお堀がないのか

終章  ジャパン・ルネッサンス ー 日本文明復興

巻末対談 日本は生活そのものが「芸術だ」 北野武 x 竹田恒泰 天皇から派生する枝葉のなかに我が国の文化はすべてある!


この本のタイトルは自分で付けたのではなく、放送作家のたむらようこさんに付けてもらったものだと謝辞にかいてある。

「どうやら今、世界は猛烈な日本ブームに沸いている」と書いているわりには、根拠が薄弱な感がある。

一つの根拠は2006年から2008年までのBBCの世界33カ国の調査で、日本が「世界に良い影響を与えている国」ナンバーワンにランクされたことだ。

しかし、この本に掲載されているランキング表は2010年のもので、これではドイツが1位、カナダが2位、EUが3位で、日本は4位となっていてガックリくる。あまり細かいことには拘泥しない人なのだろう。

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出典:本書10−11ページ

それ以外の根拠としては、台湾はラブ・ジャパンの大御所とか、観光で日本を訪れた人はおおかた良い印象を持って帰ること、アニメなどの「クール・ジャパン」、ミシュランが質・量ともに東京のレストランを絶賛していること、トルコやウズベキスタンなど絶対の親日国があることなどを挙げている。

ちなみにトルコが世界一の親日国であることは、別ブログで以前紹介した通りだ。

トルコ世界一の親日国―危機一髪!イラン在留日本人を救出したトルコ航空トルコ世界一の親日国―危機一髪!イラン在留日本人を救出したトルコ航空
著者:森永 堯
明成社(2010-01)
販売元:Amazon.co.jp
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この本で参考になったのは「和製漢語」が中国でも使われており、「中華人民共和国」の「中華」を除く「人民」も「共和国」も和製漢語だという指摘だ。次のような和製漢語表を紹介している。

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出典:本書111ページ

大正・昭和の初期には多くの中国の知識人が日本に留学した。たとえば孫文、周恩来、蒋介石は全員日本に留学していた。だから欧米の言葉を日本語に訳した「和製漢語」が中国に逆輸入されたというのはうなずける話だ。

ちなみに今度紹介するサーチナの鈴木さんの「中国の言い分」という本で、「原則」は日本では例外もありうるというニュアンスだが、中国では絶対に変えられないのが「原則」なので、同じ漢字でもニュアンスが異なると指摘している。「原則」が和製漢語だったとは知らなかった。

中国の言い分 〜なぜそこまで強気になるのか?〜 (廣済堂新書)中国の言い分 〜なぜそこまで強気になるのか?〜 (廣済堂新書)
著者:鈴木 秀明
廣済堂出版(2011-01-18)
販売元:Amazon.co.jp
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第4章の「実はすごい日本の一流外交」のところでは、日本のパスポートは高い値段で闇取引されることを日本外交が一流である証拠の一つとしている。

ビザなしで入国できる国が多く、日本人なら諸外国のビザも簡単に取ることができるからだという。しかし現在のICパスポートになると偽造は難しいから、こんなほめ方はできなくなるだろう。

ところどころに天皇論が出てくるのが、竹田さんの本の特色である。

★今上天皇の御製の「人々の幸願ひつつ国の内めぐりきたりて十五年経つ」を挙げて、天皇陛下にとって最大の幸せは、国人の幸せであることがうかがい知れると竹田さんは語っている。

★「他の国にない日本の特長の最たるものは、天皇と国民の絆ではなかろうか。(中略)日本人全体を一族と考えたら、皇室は日本人の宗家ともいえる存在で、天皇はその課長にあたると考えやすいだろう。天皇と国民の関係を何かにたとえるなら、親と子の関係に似ている。」

★「親が子ども一人一人に最大の愛を注ぐように、天皇は国民一人ひとりにサイダ院お愛を注いできた。親の愛と、天皇の愛は、いずれも見返りを求めない真実の愛であり、親と子、天皇と国民の間に損得勘定は存在しない。」

東北大震災以降、天皇皇后両陛下が多くの避難所を訪問されておられるが、真実の愛という説明は納得できる。

天皇の愛はいわば"Love supreme"(至上の愛)と言えるかも知れない。

この本にたけしと竹田さんの対談が載っている。たけしは宮中茶会で天皇・皇后両陛下から「映画、たいへんですね」と声をかけてもらい、親しくお話ししたときの印象として、「不謹慎を承知でいえば、戦争で天皇陛下の名前を呼んで死んでいくのもわかる」とコメントしている。



さすが日本を代表する映画監督のたけしだけあって「腑に落ちる」言い方である。たしかに「天皇陛下万歳」と叫んで敵陣に突撃するのは、日本人にしかできなかっただろう。

結論として竹田さんは「ジャパン・ルネッサンス」つまり、西欧化以前、明治維新前夜の日本文化を再発見し、当時の気概を取り戻すことを提案している。


もともと雑誌"VOICE"の連載記事だったので、本文中に論拠などを十分に示していないゆえに説得力が欠けているきらいがある。巻末に主要参考文献を6ページにわたって紹介しているので、本文のどこに関係しているのか注釈があれば、もっと説得力が出て、より良かったと思う。


参考になれば次クリック願う。






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