時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2011年06月

隠される原子力 核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ

隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
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原子力畑一筋で東北大学工学部卒業後、京都大学の原子炉実験所で放射能測定を専門として研究を続ける一方、原発反対運動を支援する小出助教(「助手」が現在は「助教」という呼称に変わった)の本。

創史社・八月書館というマイナーな出版社から発刊されているが、折からの原発事故の関係で、アマゾンでは「在庫なし、入荷未定」の状態が続いていた。現在はアマゾンの売り上げで118位とよく売れているようだ。

原発事故後に書かれた「原発のウソ」はアマゾン売り上げ第7位、「放射能汚染の現実を超えて」は売り上げ194位と、いずれもベストセラーとなり、小出さんは一躍時の人になった。

原発のウソ (扶桑社新書)原発のウソ (扶桑社新書)
著者:小出 裕章
扶桑社(2011-06-01)
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放射能汚染の現実を超えて放射能汚染の現実を超えて
著者:小出 裕章
河出書房新社(2011-05-19)
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筆者が学生の時に自主講座「公害原論」を開催していた故・宇井純さんを思い出す。宇井さんも東大のポジションは助手どまりだった。

新装版 合本 公害原論新装版 合本 公害原論
著者:宇井 純
亜紀書房(2006-12-01)
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この本のサブタイトルにあるように、小出さんは原発の専門家でありながら原発に反対している。この本は1999年から2010年の小出さんの各地での講演内容を取りまとめたものだ。

原子力に関する基礎的な知識が得られて大変参考になった。ピックアップして紹介しておく。


放射線の恐ろしさ

生命体を構成しているDNAなどの分子結合エネルギーはせいぜい数電子ボルトだが、放射線のエネルギーは数百万から数千万電子ボルトに達する。放射線が身体に飛び込んでくれば、DNAはじめ身体の分子構造が切断されてしまうのだ。

被曝量が多くて、細胞が死ぬと、やけど、嘔吐、脱毛、最悪の場合には死を迎える。

一般的にはある線量、たとえば50ミリ・シーベルト以下は被曝の影響がない「しきい値」があるように言われるが、それは妄言だと小出さんは語る。

事実、2005年6月30日に長年放射線問題を研究してきた米国科学アカデミーの委員会は、放射線被曝にはしきい値はないと調査レポートを発表している。放射線の影響はリニア(直線的)に増えるという。


マンハッタン計画

ウランの核分裂現象が発見されたのは、1938年末のナチスドイツの時代だった。そのためアインシュタインはルーズベルト大統領に原爆開発を勧める手紙を送った。

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出典:Wikipedia

これが総額20億ドル(当時の日本の年間GDP)がつぎ込まれ、5万人とも10万人ともいわる科学者・技術者・労働者が動員されたマンハッタン計画が生まれた原因だ。

この辺の話は、別ブログの「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじを参照して欲しい。

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
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マンハッタン計画の2つの道がこの本で図解されている。

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出典:本書26ページ

上記の図で、ウランルートでできたのが広島原爆で、プルトニウムルートでできたのが長崎原爆だ。


劣化ウラン弾

核分裂性ウランの含有量が減ったものは「劣化ウラン」や「減損ウラン」と呼ばれ放射能のゴミとなる。このゴミは長年蓄積していくので、次の表のように各国は大量の劣化ウランを保有している。

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出典:本書28ページ

その核のゴミをコストゼロの原料として「有効利用」しているのが、劣化ウラン弾だ。

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出典:Wikipedia

次が最近の戦争で使われた劣化ウラン弾の量である。

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出典:本書29ページ

筆者は「劣化ウラン」という名前から放射性物質は含まないと誤解していたが、実は天然ウランに比較すると線量は半分程度ではあるが、依然として危険なものに変わりはない。

一般公衆の劣化ウラン吸入年間摂取量限度は11.4ミリグラムで、たとえ少量でも規制されている。

ちなみに劣化ウラン弾は、鉄の倍以上重く(比重18.9、鉄は7.9)、貫通力があり、空気中では発火するので、敵戦車の装甲を貫通して車内で燃え、放射能汚染も引き起こすという恐ろしい兵器だ。


ウラン資源は化石燃料資源の代替にはならない

次はこの本に載っている図だ。四角の大きさが究極埋蔵量、黒い四角が確認埋蔵を示している。石炭の資源は大きく、1,000年以上は枯渇しないと見られている。ウラン資源の枯渇の方が早く起こる。

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出典:本書37ページ

これ以外にも海底のメタンハイドレートや、シェールガスなど、まだ利用されていない化石燃料資源がある。


日本の核燃料サイクル

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本書:41ページ


高速増殖炉で改質したプルトニウムは原爆原料

ウラン資源の99.3%は、核分裂性のないウラン238だ。これをプルトニウムに変えて利用するのが高速増殖炉を使った核燃料サイクルだ。

日本の高速増殖原型炉もんじゅは1994年に動かしはじめ、1995年に40%の出力まで上げたところでナトリウム噴出事故が起こり、2010年まで休止していた。2010年5月に再稼働したが、燃料交換中継器を炉内に落下させる事故が起こり、2012年に予定した40%出力試験の実施は不可能となった。

普通の原発で生み出されるのは核分裂性のプルトニウムが70%程度で、これでは核兵器は作れない。しかし高速増殖炉でつくるプルトニウムは核分裂性が98%となり、優秀な核兵器の製造が可能となる。

日本はプルトニウムをせっせと溜め込んで、今や長崎原爆4,000個がつくれるだけのプルトニウムを国内外で保有している。

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出典:本書46ページ

大前研一さんは、近著の「日本復興計画」の中で、日本は90日で原爆を作る能力がある「ニュークリア・レディ」国だという。

日本復興計画 Japan;The Road to Recovery日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
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しかし原爆を作るわけにはいかないので、それでウランとまぜて原子炉の燃料(MOX燃料)としているのが「プルサーマル」型原発だ。


原発は非効率な湯沸かし装置

100万KWの原発を一年間運転するのに必要な作業は次の通りだ。

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出典:本書71ページ

原子力は発電時にはCO2は排出しないが、その前のウラン鉱山、精錬、濃縮、それから再処理と莫大なエネルギーを消費し、やっかいな廃棄物をもたらす。

冷却用に使う温排水は日本にある原子炉54基すべてが稼働すると、年間1、000億トンと、日本の河川全部の流量4,000億トンの1/4という流量となる。平均7度上がった温排水が海に流れ込むので、大幅な近海海水温度上昇を巻き起こす可能性がある。

原子力発電所の熱効率は33%で、最新の火力発電所の50%超、温排水を地域暖房に使うコジェネの80%に比べて低い。また都会立地ができないために、排水の有効利用もできないという問題がある。


原子力から撤退する核先進国

フランスでさえ新たな原発計画はなく、ヨーロッパ全体でフィンランドに1基建設計画があるだけだ。アメリカもスリーマイル島の原発事故以来一基も原発は建設していない。オバマのグリーンニューディールでは原発建設が含まれていたが、これも先行きは不明になってきている。

小出さんは原発をやめても、火力発電所があるので全く困らないという。


小出さん自身は夏でも家でも職場でもクーラーは使わないという。東大名誉教授で経済学者の宇沢弘文さんは車は一切使わないという。どちらも徹底していて立派ではあるが、文明生活を拒否するアメリカ当部のアミッシュのように意固地な変人といえなくもない。

日本はエネルギー浪費型社会を改める作業に一刻も早く取りかからなければならないと小出さんは最後に説いている。


参考になれば次クリック願う。






「普天間」交渉秘録 元防衛事務次官 守屋武昌さんの交渉録

+++今回のあらすじは長いです+++

「普天間」交渉秘録「普天間」交渉秘録
著者:守屋 武昌
新潮社(2010-07-09)
販売元:Amazon.co.jp
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2003年から4年の長きにわたり防衛事務次官を務めた守屋武昌さんの普天間問題交渉録。守屋さんは山田洋行から度重なる夫婦ゴルフ接待など便宜を受けたとして収賄罪で起訴され、現在最高裁で係争中だ。

「普天間」問題が「V」字滑走路で決着したと報道されている。はたまた米国上院で普天間の海兵隊ヘリコプター部隊を嘉手納に統合する案が出されたりしている。

この本ではその「普天間」の解決案がどのように変わってきたのか、そしてその背景は何なのかを、防衛省でずっと交渉を担当してきた守屋さんが、過去の詳細な日記を元に明らかにしている。

守屋さんは1審で有罪となり、懲役2年6ヶ月、追徴金1,250万円という判決を受け、それが2審でも支持された。上告中なので、裁判は未決ではあるが、すでに退職金も全額自主返納したという。

しかし、山田洋行をめぐる疑惑については、便宜を図ったことは誓ってないが、多大な迷惑をかけたことをお詫びしたいと、この本では一切釈明していない。

在日米軍基地再編問題と防衛省昇格についてだけ書いている。その意味では立派だと思う。

普天間問題については、鳩山前首相を初めとする民主党が、何も知らずに県外移設とかコミットしてしまい、ファンブルしたという印象を筆者は持っている。

今年の初め、沖縄総領事だったケビン・メア米国国務省日本部長が、「沖縄はゆすりの名人」という、学生の前でポロッとしゃべったオフレコ発言が問題にされて辞任している。

「日本の文化は合意に基づく和の文化だ。合意形成は日本文化において重要だ。しかし、彼らは合意と言うが、ここで言う合意とはゆすりで、日本人は合意文化をゆすりの手段に使う。

合意を追い求めるふりをし、できるだけ多くの金を得ようとする。沖縄の人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ。」


この本では「在日米軍の基地の74%が沖縄に集中している」と主張をする沖縄が、既に合意している米軍基地施設返還に協力しなかったり、普天間移設についても、できるだけ埋め立て工事などの公共事業が生まれるように動いている現実があることが明らかにされている。

メア氏は日本語も流ちょうと聞くが、問題発言は英語だと思う。どういう言葉を使ったのか興味があるところだ。「ゆすり」という言葉で、日本政府と合意しても沖縄県の反対で、いっこうに実行されない普天間移設案に対するメア氏のいらだちが、非公式の場でポロリと出たのだと思う。


守屋さんの経歴

守屋さんは、1944年宮城県塩竃市の出身。1971年に防衛庁に入庁し、防衛庁内の数々のポジションを歴任したほか、内閣審議官として官邸に出向していた経歴を持ち、小泉首相はじめ多くの政治家と太いパイプを持つ防衛省きっての実力者だった。だから防衛次官として異例の4年間という任期をつとめ、小池百合子防衛大臣と衝突して退任し、山田洋行がらみの収賄罪で有罪判決を受けた。

この本でも小泉首相から直接了解を得て、外務省をすっ飛ばして米国側と交渉していた守屋さんの実力のほどが伺える。首相に直接話し、首相からお墨付きを貰うなど、普通の官僚ではなかなかできないことだ。


9.11以降の米軍の世界戦略に基づく米軍再編

次が守屋さんが小泉首相に2004年9月に説明した米軍再編問題だ。

2001年9月11日以降、米国は2002年に国土安全保障省(FEMA: Federal Emergency Management Agency)を新設し、日本でいえば税関、入国管理局、警察庁、消防庁、国土交通省の防災局、海上保安庁を一緒にした。同時に米軍の配置見直し(GPR: Global Posture Review)を行い、ヨーロッパ諸国、韓国と在留米軍の見直しについて合意し、最後に残ったのが日本との米軍再編問題だった。

米国が日本に提示したのは次の2点で、これはトータル・パッケージと呼ばれている。米軍は冷戦終了とともに世界戦略の中心をヨーロッパからアジアに移してきている。いまや在日米軍のトップ経験者が次の米軍のトップになるようになったのだ。

1.米陸軍第一軍司令部(ワシントン州フォート・ルイス)をキャンプ座間に移す。
2.横田基地にある第5空軍司令部をグアムに移転する。

外務省はこのうち2.だけを認めるスモール・パッケージの考えだが、これではアメリカと合意することは難しい。むしろこの機会に米軍問題を解決して、「日本の戦後」を終わらせるために次の3点も提案すべきだと守屋さんは小泉首相に説明した。

1.厚木基地の空母艦載機部隊を岩国の海兵隊基地へ移す。
2.相模原補給廠省や牧港補給廠(沖縄)の返還。
3.普天間飛行場移設合意の見直し。

この案は守屋さんが、旧知の米国のカート・キャンベル現国防次官補とすりあわせた案だという。小泉首相は、「本当に日本の戦後を終わらせることが出来るんだな?」と聞いたという。

実は現在でも東京の港区、渋谷区、新宿区、西部地域の上空7千メートルまでは米軍の空域となっている。羽田に向かう旅客機が銚子から回り込むように着陸しているのは、この空域を避けて飛ばなければならないからだ。このルートはハワイ、グアムから最短距離で朝鮮に行く航空路だ。だから守屋さんが「戦後を終わらせる」と言っているものだ。


普天間返還問題

この本の大半が普天間問題の経緯についてだ。普天間飛行場は1945年に建設された海兵隊のヘリコプター飛行場で、建設された当時は普天間町は1万5千人ほどの人口だったのが、9万人を超え、市街地の中の飛行場になっている。

まず日米間で1996年に名護市沖の海上浮体方式とする移転案が合意された。

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出典:本書26ページ

ところが、当時の大田知事が単純返還を主張、その後の稲嶺知事は軍民共用飛行場を辺野古沖(キャンプ・シュワブ)に埋め立てで建設する案を出したが、結局なにもせず環境アセスメントが遅れる。

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出典:本書27ページ

2004年に米軍ヘリの墜落事件が起こり、普天間移設は政治問題化する。辺野古沖軍民共用空港案は巨額の建設費用がかかる上に、アセスメントが進まないことで事実上凍結となる。

代わりに出てきたのが、今回も出てきている嘉手納統合案だ。しかし低速のヘリコプターと高速の戦闘機の航空管制は異なる。発着回数の激増が飛行場運用を難しくし、なおかつ地元住民の負担が増すという問題がある。

一方守屋さんはキャンプ・シュワブ陸上案を推し進める。

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出典:本書47ページ

ところがアメリカから提案された案は、名護ライト案という名護市の土建業の有力者が推す案だった。その有力者はワシントンまで出向いてペンタゴン担当者にこの案を説明し、これなら沖縄住民は賛成すると吹き込んでいたという。

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出典:本書55ページ

ところがこの名護ライト案では珊瑚礁のきれいな海を埋め立てるという問題がある。ジュゴンの生態にも影響を与え、国民の支持を失う恐れがあったので、守屋さんはキャンプ・シュワブ宿営地案L字型案を出す。

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出典:本書61ページ

これならサンゴの少ない海を埋め立てることになり、埋め立て面積も大きいので地元(土建業者)も納得するはずという考えだった。当初米国は難色を示したが、なんとか乗り切り米国もL字案で合意した。

合意の直後、守屋さんは夫妻で園遊会に呼ばれて天皇陛下にお会いしたという。各省の事務次官は2年に一度園遊会に呼ばれるのだという。守屋さんは防衛次官としては20年ぶりに今上天皇陛下にご進講したことがあったので、天皇陛下から「この間はありがとう」と声を掛けられたという。

2006年になると1月5日に鈴木宗男議員から「検察が防衛庁をねらっているから気を付けろ」という不可解な電話が入る。防衛施設庁の空調工事汚職でOBと現役役人が逮捕された。

聞いて驚く話だが、2.26事件以来警察と防衛庁は仲が悪い。2.26事件で軍の前に警察は無力だったからその怨念があるという。

一旦日米で合意したL字案は、その後住宅地の上をヘリが通る等の理由で、名護市から300メートル海上にずらせというX字案が出てくる。これで建設費は500億円増える。土木工事利権のからんだ非常に政治的な動きだ。

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出典:本書125ページ

さらに飛行ルートの安全性も考慮して最終的に名護市と合意したのがV字案だった。

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出典:本書139ページ

ところが合意の会見場で、稲嶺知事は合意していないと言い張る。その後沖縄を訪問した小泉首相には「防衛は国の専権事項で地方がどうこう言える問題ではない。しかし県内的には基地は容認できないという立場をとらないと私は生きていけない。どうぞ総理、理解してください」と言っていたという。

こういう話は他でも出てくる。稲嶺知事は合意書の形式を拒否したという。「合意書の形をとることは、私がいかにも国に歩み寄った格好になり、県民の反発を呼ぶことになるから

その後も稲嶺知事の後を継いだ元通産省技官の仲井真知事や、名護市島袋市長などの沖縄側から、山崎拓副総裁などを経由して、さらに沖合に550メートル出せと圧力がある。

沖合に出す距離を50メートルから数百メートルの間で、まさに手を変え品を変えて沖縄側は交渉してきた経緯がこの本には実名で詳しく書いてある。

「V字案を受け入れる条件として、1.那覇空港の滑走路の新設、2.モノレールの北部地域までの延伸、3.高規格道路、4.カジノ」という話が仲井真知事の使者と名乗る人物(本には実名が書いてある)から寄せられたという。


「アメとムチ」の沖縄対策費

沖縄に支給されている基地対策予算は巨額だ。2006年度の北部振興事業費は総額115億円。このうち国が98億円負担している。

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出典:本書162−163ページ

沖縄県には北部振興策を含め、約3,000億円の「沖縄振興開発事業費」が支払われている。これは1972年の沖縄復帰の際に制定された「沖縄振興開発特別措置法」で決められている。振興事業にかかわる経費の95%は国が負担するという特別措置だ(他の都道府県では3分の1以下)。

普天間移転は8年経っても進まないのに、北部振興策には毎年予算がついていた。

守屋さんは太平洋セメントの諸井虔(もろい・けん)相談役から「政府は沖縄に悪い癖をつけてしまったね。何も進まなくてもカネはやるという、悪い癖をつけてしまったんだよ」と言われたという。

逆に、沖縄側から振興策は「アメとムチで沖縄県民の心を引き裂くものではないか」と言われ、当時の橋本首相は「そういう言い方をされるのは悲しい」と語った。しかし、それが現実で、沖縄の政治のFAW(Forces at work=動かす力)となっていることを示している。

もっとも、筆者はこのことで沖縄を非難するつもりはない。これは沖縄だけの話ではないからだ。誰もNIMBY(Not In My Back Yard=自分の地域では困る)と思うから、原発立地や基地立地の自治体には手厚い支援があるのは当然だ。

定年延長して防衛次官を務めていた守屋さんを退任させたのが小池百合子大臣だ。この本では小池百合子防衛大臣の就任の時に、小泉首相から守屋さんに直接電話があったことや、防衛省をバカにした小池大臣の発言が引用されている。

「防衛省には英語ができる人、いないんでしょ。私は外国からのお客さんと直接やるから、英語がわかる秘書官でないと困るわ。それから私が環境大臣だったときに作らせたエコカーね、あれを持ってきて私の公用車にしてほしい」

現在は防衛省は民間の語学学校で6ヶ月の語学研修を受けさせ、さらに米英の大学への留学、在外公館への勤務などで人材の育成に努めているという。


防衛事務次官人事で小池大臣と衝突

各省の事務次官、各局長などの人事は次の手順で決められると守屋さんは書いている。

1.各省庁の事務方が大臣の了解した人事案をつくり、官邸に提出する。
2.官邸では内閣官房長官と三人の内閣官房副長官から成る「人事検討会議」に諮られ検討される。
3.人事検討会議の審査が終わってから、直近の閣議に諮られ了解される。

この不文律は政治と行政の間で国家公務員の身分保障を確保する「最後の砦」として存在していた。小池大臣が守屋次官の退任と後任人事を新聞にリークしたのは、これらのルールを無視したものなので、守屋もファイトバックした。

小池大臣に協力した西川官房長(後任次官として新聞で発表されていた)を「役人として恥を知れ」と怒鳴りつけ、「閣議了解の前に公にされた場合は、その人事は差し替えられる」という4番目の不文律に従って官房長官に新たな人事案を提出し、西川次官という新聞辞令は葬られた。守屋さんの後任は増田人事教育局長となった。


日本の地政学的重要性

日本の国土は世界で61番目で、イギリス、イタリアより大きく、ドイツとほぼ同じ面積だ。先進国としては遜色のない面積を持っている。さらに200海里の排他的経済水域を入れると日本は世界で6番目となる。

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出典:本書331ページ

日本本土の在日米軍基地

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出典:本書10ページ

沖縄県内の在日米軍基地

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出典:本書11ページ

実名で書いてあるので、暴露本という面もある。内容も守屋さんの立場を正当化しているので、実名で書かれた人には異論があるだろうし、当事者の一方的な理解を伝えているにすぎない。

その分は差し引いて読む必要があるが、いまだにくすぶり続けている普天間移設問題と沖縄の基地問題の経緯と力学がわかって大変参考になる本だった。


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下流の宴 林真理子さんの新聞連載小説がNHKドラマになった

NHKでドラマ放映が始まった「下流の宴」の原作。

下流の宴





下流の宴下流の宴
著者:林 真理子
販売元:毎日新聞社
発売日:2010-03-25
おすすめ度:4.5
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元々林真理子さんが2009年3月から12月まで毎日新聞に連載していた小説だ。

家内は林真理子さんのファンなので、ほとんどの作品を読んでいる。この作品も家内が図書館から借りていたのを読んでみた。

面白いので3時間くらいで一気に読んでしまった。

小説のあらすじは筆者のポリシーとして詳しく紹介しない。

「下流」という話題をうまくテーマにして、会社勤めのエンジニアと結婚した医者の娘(47歳の主婦)の一家を中心として話を展開している。

一家の長女は某ブランド女子大を卒業した美人の才媛で、一流会社には就職できなかったが、派遣社員でIT企業で広報担当として働く。上昇気流をつかもうと外資系投資会社社員などとのつきあいに精を出す。

長男は中高一貫の進学校を高校2年で中退し、マンガ喫茶でフリーターとして働く。ネットゲームのOFF会で、沖縄の離島出身の高卒のカノジョと知り合って同棲をはじめる。

カノジョを両親に紹介しようとして、拒絶に会う。医者の娘であることを鼻に掛け、身分の違いを強調する母親との話の展開から、カノジョは彼と結婚するために医学部に合格することを宣言する。

これからはドラゴン桜のような受験専門講師の話も出てくる。2年で国立大学医学部(宮崎大学医学部という設定)合格を目指すのだ。

マンガ喫茶の様子や、セレブのパーティの話も紹介されていて興味深い。

大変楽しめて、気分転換ができた。ドラマも面白いが、原作も一読をおすすめする。


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戦争広告代理店 日本も学ぶべき国際世論のつくりかた

ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)
著者:高木 徹
販売元:講談社
発売日:2005-06-15
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


明石さんの本を読んだ関係で、ボスニア内戦関係の本を読んでみた。この本はボスニア内戦を扱った本の中で、最も売れた本の一つだろう。

1990年に起こったボスニア内戦での情報戦をNHKが特集にまとめ、2000年10月にNHKスペシャル「民族浄化 ユーゴ・情報戦の内幕」として放送した。放送では触れられなかった部分も含めて、担当したNHKディレクターの高木徹さんがまとめたのがこの本だ。

筆者は1980年に分裂前のユーゴスラビアに出張したことがある。その時は鉄鋼原料のメーカー訪問が主目的だったので、サラエボは訪問していないが、首都ベオグラード、アドリア海に面したクロアチアのスプリート、ダルマチア地方のシベニク、マケドニアのスコピエなどを訪問した。

ユーゴでは1日を3分割し、6時から2時までが労働、2時から10時までが余暇や農作業など、そして10時から朝6時までが休養と、労働時間も決まっていたことを思い出す。

美しい町、風景で、食事もワインもおいしかったことを思い出す。その美しい町、ベオグラードには、今やNATOの爆撃の跡があちこちに残っているという。残念なことだ。


尖閣漁船拿捕で露呈した日本政府のPR意識欠如

この本の中で高木さんもコメントしているが、日本の外務当局のPRのセンスはきわめて低い。

今回の尖閣列島周辺で領海侵犯した中国漁船の拿捕事件でも、日本政府のPR欠如を痛感した。中国政府にやられるままに拿捕船の船長を釈放した日本政府のふがいなさに多くの国民が失望したと思う。

誰かが書いていたが、なぜ領海侵犯の漁船が巡視艇に追い回された挙句、破れかぶれで意図的に体当たりするビデオを繰り返し流して、世界の世論を見方につけないのかと思う。それと尖閣列島が日本固有の領土であることを、中国も今までは争っていなかったことのPRも欠かせない。

自民党の小池百合子さんによると、韓国は領海侵犯をした中国漁船を2004年から2007年までの4年で2,000隻以上拿捕し、2万人の船員を拘束し、中国政府は213億ウォン?(20億円)の保釈金を払っているそうだ。(次のYouTubeのビデオの最後の1分間の発言)



筆者はまだ小池発言のウラ取りをしていないので、事実としてはまだ確認していない。なぜ2004年から2007年という4年間を選んだのか、小池さんがいいとこ取りしているような気もするが、それにしても中国漁船はいい漁場で操業するために領海侵犯で捕まることも辞さない常習犯であることは間違いない。

しかも小池さんによると中国は韓国には何も言わず、保釈金を払うが、日本は何でも言うことを聞くと見くびって高飛車に出ているという。

アメリカ政府も日本側に立った発言をしているのだから、なぜ世界の世論を中国船長=犯罪人とリードしないのか?

これでは領海侵犯の中国漁船や中国人活動家の船が大挙して尖閣列島周辺に集合し、そのうち海上保安庁の手には負えなくなるだろう。武力で撃退するということはできないなら、国際世論を見方につけることを考えるべきではないのかと思う。

話が横道にそれたが、この本で高木さんも「外務省の硬直的な人事制度では永遠に日本の国際的なイメージは高まらないだろう」と指摘している。

日本政府もアメリカのPR企業を雇うこともあるが、結局PR戦略を担当しているのは、大学を卒業してすぐに外務省に入り、一生外交官として生きていく役人ばかりである。

米国の高級官僚の”リボルビングドア(回転扉)”の様に、民間で活躍した人が官僚となったり、官僚となってからも民間へ出て経験をつみ、また官僚になる人はゼロである。

多少の人材を民間から登用しているが、量的にも質的にも彌縫策(びほうさく)にすぎない。

硬直した役所の人事制度を根本から改革しない限り、21世紀の日本の国際的地位は下がる一方になることは、はっきり予見できると高木さんは書いている。

残念ながら、高木さんの心配が現実化しているように思えてならない。

閑話休題。


NHKスペシャル「民族浄化 ユーゴ・情報戦の内幕」

番組は現在NHKアーカイブスにも収録されていないようだが、NHKの中高教育向けのDVD貸し出しサービスの対象になっている。

この本の主役であるボスニア・ヘルツェゴビナ共和国のハリス・シライジッチ外務大臣が、1992年4月14日に当時の米国のべーカー国務長官と一緒に会見している写真がNHKのサイトにも載っている。

NHKスペシャルボスニア









出典:NHKティチャーズ・ライブラリー


主役は人口3百万人の小国ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国

この本では1992年3月にユーゴ連邦から独立して誕生した人口3百万人の小国ボスニア・ヘルツェゴビナが、米国のPRのプロを使って、「民族浄化」というキーワードを広め、セルビア=悪、ボスニア・ヘルツェゴビナ=善という図式を欧米メディアに定着させ、わずか半年で国連でセルビア追放決議を成立させるまでの一連の流れを紹介している。

元々ボスニアの軍事力は戦車100台という具合で、セルビアには全く対抗できない軍事力だった。それにもかかわらず、ボスニアはPR代理店のアドバイスに従い、シライジッチ外相のハンサムな容貌と、テレビ・写真写りを意識した英語での演技力をフルに活用して、国際世論を味方につけた。

セルビアは国連から追放され、当時の指導者のミロシェヴィッチ大統領は、後に国際司法裁判所で裁かれ、獄中で死亡した。

ボスニアは戦わずして勝利したのだ。

それには経験豊富で用意周到、議会、各国政府、プレスなどあちらこちらにコネクションのある広報代理店のルーダー・フィン社のワシントン支社国政政治部長のジム・ハーフ氏のPR活動が不可欠だった。

この本の中心人物のジム・ハーフ(James Harff)氏は現在独立してGlobal Communicatorsという国際PR会社のCEOとなっている。


国際世論を味方につける

元々ルーダー・フィン社はクロアチア政府のPR担当を1991年から務めていて、バルカン半島には土地勘があった。

ボスニアが1992年3月に独立してすぐ、シライジッチ外相が一人で米国を訪問した。彼は幸運にも4月にジェームズ・ベーカー国務大臣と会談することに成功した。

べーカー国務長官は回想録に、この会談でシライジッチ外相から「セルビア人たちは、無辜の市民を動物のように殺しているのです」と聞かされ、彼の語り口に思わず引き込まれたと書いている。

「その率直な言葉は、他のどんな外交上の美辞麗句より雄弁に、ボスニアの人々が直面している苦しみを物語っていた」。

そしてべーカーはシライジッチには意外なアドバイスをする。

「私はタトワイラー報道官を通じて、シライジッチ外相に、西側の主要なメディアを使って欧米の世論を味方に付けることが重要だと強調した」

前掲の写真は、会談直後のシライジッチ外相とべーカー国務長官の会見のものだ。


泣かない赤ちゃんはミルクをもらえない

シライジッチはボスニアのことわざを思い浮かべたという。「泣かない赤ちゃんは、ミルクをもらえない」

国際社会に振り向いてもらうには、大きな声を出さなければならない。そして声の出し方には様々なテクニックがあるらしい、ということをシライジッチは知った。

会談の後、シライジッチは唯一の知人である米国人権活動家デビッド・フィリップス氏に相談した。元々シライジッチは、歴史学の教授でメディアなどのコネは全くなかったからだ。フィリップスがPR戦略の専門家として紹介したのが、ジム・ハーフだった。


PRのプロ、ルーダー・フィン社

ジム・ハーフは安易にホラーストーリーをでっち上げることは絶対しなかった。

というのは1990年の湾岸危機の時に、クウェート政府に起用された広告会社ヒル・アンド・ノールトンは下院公聴会でナイラという少女の証言をつくりあげた。

「病院に乱入してきたイラク兵が、生まれたばかりの保育器から赤ちゃんを取り出して床に投げつけました。赤ちゃんは冷たい床で息を引き取ったのです。本当に怖かった。」

実はナイラは在米クウェート大使の娘で、ずっとアメリカにいてクウェートに行っていなかった。保育器のストーリーはヒル・アンド・ノールトン社の創作だったのだ。

このことをニューヨークタイムズがすっぱ抜き、CBSの60ミニッツが特集を組んだ。クウェート政府とヒル・アンド・ノールトン社にはダーティなイメージが残った。


ファックスとレター 基本に忠実なPR作戦

ルーダー・フィン社のやり方は、「不正手段は用いず、基本に忠実」だった。

当時は電子メールはなかったので、ルーダー・フィン社はまずは主要メディアにファックスで「ボスニアファックス通信」を定期的に送りつけた。

記者会見の前にはシライジッチ外相の経歴、公式ステートメントの内容、シライジッチ外相が出した手紙のコピーなどをまとめて”プレスキット”をつくり、記者が記事を書きやすいように材料を提供した。

そして会見に来たジャーナリストにはすべて礼状をシライジッチ外相名とジム・ハーフ名で2通出した。

ジャーナリストのみならず、ジム・ハーフは共和党の大統領候補になったボブ・ドールなどの米国議会の大物や、大新聞の論説委員などにシライジッチ外相を引き合わせ、着々とボスニア支持の世論を形成していった。

ソフトな正攻法以外にも、ジム・ハーフは「両方の勢力が悪い」と正論を繰り返すサラエボ駐在のカナダ軍のマッケンジー将軍を、邪魔者は消せとばかりに失脚させるというパワーゲームまでやっている。


「民族浄化」というキャッチコピー

第2次世界大戦の時に、ナチスの傀儡政権だったクロアチアがセルビア人狩りを行い、「民族浄化=ethnic cleansing"」を行っていた歴史がある。それをルーダー・フィン社はボスニア紛争に使った。

民族浄化はホロコーストを連想させ、ジャーナリストには強烈にアピールし、ブッシュ(父)大統領もすぐに民族浄化という言葉を使ってセルビア人を非難した。まさにキャッチコピーの勝利だった。


バルカン半島にはボーイスカウトはいない

ボスニアの住民の4割はムスリム系、3割がセルビア系、そして2割がクロアチア系という民族構成だった。戦力ではセルビアの支援を受けたセルビア人勢力にはムスリムは対抗できなかったが、ムスリムも人権侵害を行っていた。

2度のユーゴスラビア駐在経験を持つイーグルバーガー国務副長官は「バルカンにはボーイスカウトなんていないんだよ」と語っていたという。

度重なるボスニアの武力支援の要請にも、ブッシュ(父)大統領は「アメリカは世界の警察官ではない」と語って、武力介入を避けていた。アメリカによる軍事行動が実現するのは、ブッシュに代わったクリントン政権となってからだ。


セルビアも対抗してアメリカ国籍の首相を選任

元々ユーゴスラビア時代は銀行の頭取だったセルビアのミロシェヴィッチ大統領も、国際世論対策の重要性を感じ、26歳でアメリカに移住してICN製薬を創業し、自家用飛行機で飛び回っている国際的経営者で大富豪のパニッチを1992年7月に首相に任命した。

パニッチは米国籍のままセルビア首相に就任する際に、ブッシュ(父)大統領の了解を取っている。しかし米国のユーゴスラビア、セルビアに対する経済制裁は実施された。

このためパニッチはルーダー・フィン社に対抗できるPR会社を雇おうとしたが、米国の経済制裁がすべてのサービスの輸出入を禁止していたので果たせなかった。

さらに「民族浄化」に次ぐもう一つのキーワードが国際世論に影響を与えていた。


「強制収容所」という新たなキーワード

1992年8月にボスニア北部のオマルスカに強制収容所があるというニュースを、ニューヨークのタブロイド紙「ニューズデイ」がスクープした。スクープした記者は後にピューリツァー賞を受賞している。

その後イギリスのテレビニュース制作会社ITNが現地を訪れ、捕虜収容所のニュースを収録した。これがその後多くのメディの表紙を飾った「やせさらばえた男」だった。NHKの番組紹介でもこの写真が載っている。

NHKスペシャルボスニア2









このやせさらばえた男=強制収容所というイメージが、世界中のメディで流され、世界のメディ界を掌握するユダヤ人達に強烈にアピールし、セルビアのイメージを決定的に悪くしたのだ。

このやせさらばえた男のフィルムが繰り返し流され、米国上下院は8月11日にセルビアを非難する決議を採択し、8月13日には国連安保理事会でもセルビア非難決議が採択された。


セルビアの起死回生の汚名挽回案が最悪の結果に

セルビアのパニッチ首相はサラエボを電撃訪問して、イゼトベゴビッチ大統領とトップ会談を行い、その一部始終を米国の3大ネットワークの一つのABCテレビが独占取材するというディールを決めた。

しかしABC取材陣がパニッチと一緒の飛行機でサラエボ入りしてすぐに狙撃され、ABCディレクターが死亡するという事件が起こり、セルビアが意図していたのと全く逆効果となってしまう。

実はサラエボ空港では国連軍の装甲車が2台しか手配できず、テレビ局のクルーは装甲車のピストン輸送を待ちきれず、普通のバンにガムテープでTVと貼って装甲車の後をおいかけた。その直後に狙撃兵がTとVのちょうど真ん中を打ち抜いたのだ。

首脳会談は中止され、パニッチの起死回生策は最悪の結果となった。


パニッチのロンドン会議での大立ち回り

1992年8月末にパニッチはミッテラン・フランス大統領の仲介で、英国メジャー首相主催によりロンドンで3日間の国際会議を設営する。参加国・団体27の大会議だった。

会議の場で、パニッチはミロシェビッチ大統領に公然と反発し、「この国を代表するのは私だ。お前はだまれ。」と罵倒し、ミロシェヴィッチ一人を悪者にして、辞任させる作戦に出た。

ところがジム・ハーフの手ほどきを受けたシライジッチはすでにアメリカ代表団とはファーストネームで呼び合う間柄となっており、アメリカとボスニアの関係は確固たるものとなっていた。

さらにシライジッチはボスニアから逃れてきた難民だというふれこみで、中年女性と二人の子どもを記者会見に登場された。女性はセルビア人から焼きごてで付けられたという腹のやけどをテレビカメラの前でさらし、記者が取材に殺到し演壇が壊れてしまうという事態になった。


国連のユーゴスラビア連邦(セルビア)追放決議

ボスニアの国際世論・国際政治での勝利はロンドン会議で確固たるものとなった。その最後の詰めは、ユーゴスラビア連邦(セルビア)代表団の国連からの追放だった。

ロンドン会議から1ヶ月後の1992年9月末の国連総会で、ボスニアは世界中の国、とりわけ米国に心地よく響く「多民族国家の樹立に務めているボスニア」というイメージを確立させた。

他方セルビアのパニッチはロシアと中国の支持を取り付け、国連本部からロシア国連代表部に常任理事国5カ国とパニッチの秘密会議を開催することに成功した。

なかば脅しのようにユーゴスラビア連邦が国連から追放されれば、独裁者ミロシェヴィッチ大統領の天下となるとフランスとイギリスを脅し、ユーゴ残留で内諾を取り付け、最後は米国を残すのみとなった。

ところがここでパニッチは決定的な失言をしてしまう。

米国代表のイーグルバーガーを「この11月には大統領選挙がありますね。もし私を支持しなければ、この選挙の行く末に影響するような何かを、私は言うことになるかもしれない。それでもいいですか?」と脅したのだ。

パニッチはアメリカ国籍を保持しながら、ユーゴスラビア首相になるというブッシュ大統領との約束のことを暗に言っているようだったが、いずれにせよ米国に対する脅しだった。

これに対してイーグルバーガーはキッパリ答えた。

「もし、私があなたの立場にいたら、そのようなことは絶対に言わないだろう」

世界唯一の超大国、米国がユーゴスラビアの脅しに屈することはない。パニッチの発言は墓穴を掘る結果となり、米国の強い主張により国連からユーゴスラビアは追放された。


ボスニア紛争を解決したのは国連でなく、米国の主導

ボスニア紛争当時の国連事務総長はエジプト出身のブトロス・ガリだった。

ガリはアフリカ出身なので、「世界にはサラエボより、もっと苦しい状態にある場所が10ヶ所はある。ボスニア紛争は所詮、金持ち同士が戦っている紛争だ」と発言して、国際的な大非難をあび、国連でただ一人の1期限りの事務総長となった。

この辺の事情はガリの部下だった明石さんの本には全く書かれていない。明石さんは、単にアメリカの圧力でガリは再任されなかったと、さらっと書いてあるだけだ。

ボスニア紛争に終止符を打つのは、国連ではなく、米国が主導して開いた1995年のオハイオ州デイトンのライト・パターソン空軍基地での缶詰交渉によってである。

ボスニアは欧州の一角なので、本来であればEUが介入してしかるべきである。にもかかわらず米国はクリントン政権になってボスニアに米軍を派遣するとともに、デイトン合意を成立させた。

その意味でボスニア紛争終結に対する米国の努力は並々ならぬものがあり、わずか300万人の小国のボスニアが米国をここまで動かしたのは、初期のPR戦略の成功によるものが大きい。


ルーダー・フィン社の得たもの

ボスニアのPRにこれだけ貢献したルーダー・フィン社がボスニアから得たものは、金額的には9万ドル程度だという。

ハーフは「ルーダー・フィン社は気が遠くなるほどの時間を、ボスニア政府のために費やしました。しかし、支払われた金額わわずかです」と語っている。

その支払いもシライジッチ外相が、トラベラーチェックや小切手で1万ドル程度づつ渡すだけだったという。

支払いを渋ったシライジッチ外相は最後に「これがお前らと仕事をする最後だ!」と言い放って、ドル小切手を投げよこして立ち去った。

採算的には全く見合わなかったが、ルーダー・フィン社はこの仕事で全米PR協会の「危機管理コミュニケーション」部門の年間最優秀賞を受賞した。

全米6千社あるPR企業のトップとして表彰されたので、ルーダー・フィン社とジム・ハーフのもとには多くの政府や企業から、ボスニアの危機を救ったPR企業と凄腕PRマンとして仕事の依頼が殺到したという。

この業界ではクチコミが最も良い広告になるのだと。


良い本のあらすじはどうしても長くなってしまう。大変面白い本だった。またNHKのボスニア内戦を取り上げた6日間の作品もBS1で先日見た。

最後にボスニアの絶妙なPR力を象徴する写真を紹介しておく。

オシム







出典:「オシムの言葉」133ページ

別ブログで紹介した「オシムの言葉」に載っていた写真だ。サラエボオリンピックの時の競技場が墓地に変わっているという、サラエボ紛争で多くの犠牲者が出たことを物語る写真である。

しかし何もオリンピックの競技場を墓地にしなくても、土地はいくらでもあるはずである。あきらかに政治的な意図を持って墓地にしているとしか思えない。

ボスニアは人口3百万人の小国とはいえ、国際世論のリードがうまい国である。

日本も尖閣列島の漁船拿捕問題などでは、ボスニアの国際世論戦略を見習わなければいけないと思う。

NHKの取材はあまりにボスニア寄りだという非難もあるかもしれないが、広範な取材に基づき、わかりやすいストーリーに仕上げているのは、さすがNHKと言えると思う。

文庫版もでているので、是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリック願う。


マスコミは、もはや政治を語れない ジャーナリスト佐々木俊尚さんのニューメディア紹介

マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論壇」 (現代プレミアブック)マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論壇」 (現代プレミアブック)
著者:佐々木 俊尚
販売元:講談社
発売日:2010-02-26
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

ネット関係の著作を量産しているジャーナリスト佐々木俊尚さんの2010年2月の本。

タイトルの「マスコミは、もはや政治を語れない」というのは、2009年の民主党の圧勝は小選挙区という選挙手法によるもので、全得票率では議席数ほどの差がついていないことをマスコミはどこも語らないことを指している。

他にも日本のマスコミ特有の問題として、記者クラブ問題を取り上げている。

そもそも記者クラブは、日本とアフリカのガボンにしかないと言われているそうだ。

民主党公約の記者クラブ開放が結局、外国メディア増加と雑誌記者への開放のみに終わり、フリージャーナリストなども含む開かれた記者クラブとはほど遠くなった。

しかしブログなどのネット論壇が登場し、記者クラブを通して政府が言論をコントロールする時代は終わりつつあると佐々木さんは語る。

しかし全くマスコミにグリップが効かない状態もリスクがあるという。

たとえば既存マスコミが強くなかった韓国では、ネット論壇が世論を形成し、根拠のないデマが流布して、女優のチェ・ジンシルなどが自殺するという事態まで発生している。

「ネットで書かれたことは、瞬時に全国民に伝わる」というのは恐ろしいこともあるのだと。


インターネット大家族

フェースブックは日本ではあまり普及していないが、世界で3億人のユーザーがいる世界最大のSNSだ。

高齢者の間でもフェースブックは浸透しており、最近ではフェースブック上で、祖父母と孫が連絡を取り合い、「インターネット大家族」のようなものができているという。

上記のような話題も含め、マスメディアでは報道されない見方が取り上げられている。印象に残ったものをいくつか紹介する。


★事業仕分けの歴史的意義

事業仕分けを仕切った枝野さんと蓮舫さんがそろって菅内閣の重要ポストに入ったが、事業仕分けの意義は、すべてが公開されたことだという。

いままで密室で決められていた予算折衝が白日の下にさらされる訳だ。


★池上彰さんの仕事

新聞が「ニュースをわかりやすく解説する」という本来の仕事を放棄しているので、池上さんの仕事が成り立っていると池上さんは語る。
 
知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書)
著者:池上 彰
販売元:角川SSコミュニケーションズ
発売日:2009-11
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


★亀井徳政令

亀井静香元大臣は「東京大学でマルクス経済学を学び、キューバのゲリラ指導者チェ・ゲバラを心から尊敬する極めて危険な社会主義者だから、甘く見ない方が良い」と、「金融日記」という人気ブログの作者の外資系投資銀行勤務の藤沢数希氏は語っているという。

経済学については、少なくとも昭和50年代までは東大のマル経、一橋の近経と言われていたので、元警察官僚の亀井さんがマルクス経済学のゼミを取っていても不思議ではない。

こんな色眼鏡のかけ方をしていると、昭和50年代までの東大経済学部の卒業生の過半数はマル経を取ったと思うので、すべて同じような社会主義者と見られることになるだろう。

日本のネット論壇はまだまだだと思うが、この本では背後からハミング大西宏のマーケティング・エッセンス漂流する身体などが紹介されている。

いずれ「ネット論壇」といえるようなものが日本でも出現するのかもしれないが、アメリカのネットメディア(たとえば"A Bright Fire"など)が影響力を勝ち得ているのに対して、日本ではまだ時間が掛かると思う。

いずれにせよ、情報ソースの拡大という面では意味があると思うので、この本で紹介されているブログのいくつかを時々チェックしてみようと思う。


参考になれば次クリック願う。


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