隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
原子力畑一筋で東北大学工学部卒業後、京都大学の原子炉実験所で放射能測定を専門として研究を続ける一方、原発反対運動を支援する小出助教(「助手」が現在は「助教」という呼称に変わった)の本。
創史社・八月書館というマイナーな出版社から発刊されているが、折からの原発事故の関係で、アマゾンでは「在庫なし、入荷未定」の状態が続いていた。現在はアマゾンの売り上げで118位とよく売れているようだ。
原発事故後に書かれた「原発のウソ」はアマゾン売り上げ第7位、「放射能汚染の現実を超えて」は売り上げ194位と、いずれもベストセラーとなり、小出さんは一躍時の人になった。
原発のウソ (扶桑社新書)
著者:小出 裕章
扶桑社(2011-06-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
放射能汚染の現実を超えて
著者:小出 裕章
河出書房新社(2011-05-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
筆者が学生の時に自主講座「公害原論」を開催していた故・宇井純さんを思い出す。宇井さんも東大のポジションは助手どまりだった。
新装版 合本 公害原論
著者:宇井 純
亜紀書房(2006-12-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
この本のサブタイトルにあるように、小出さんは原発の専門家でありながら原発に反対している。この本は1999年から2010年の小出さんの各地での講演内容を取りまとめたものだ。
原子力に関する基礎的な知識が得られて大変参考になった。ピックアップして紹介しておく。
放射線の恐ろしさ
生命体を構成しているDNAなどの分子結合エネルギーはせいぜい数電子ボルトだが、放射線のエネルギーは数百万から数千万電子ボルトに達する。放射線が身体に飛び込んでくれば、DNAはじめ身体の分子構造が切断されてしまうのだ。
被曝量が多くて、細胞が死ぬと、やけど、嘔吐、脱毛、最悪の場合には死を迎える。
一般的にはある線量、たとえば50ミリ・シーベルト以下は被曝の影響がない「しきい値」があるように言われるが、それは妄言だと小出さんは語る。
事実、2005年6月30日に長年放射線問題を研究してきた米国科学アカデミーの委員会は、放射線被曝にはしきい値はないと調査レポートを発表している。放射線の影響はリニア(直線的)に増えるという。
マンハッタン計画
ウランの核分裂現象が発見されたのは、1938年末のナチスドイツの時代だった。そのためアインシュタインはルーズベルト大統領に原爆開発を勧める手紙を送った。
出典:Wikipedia
これが総額20億ドル(当時の日本の年間GDP)がつぎ込まれ、5万人とも10万人ともいわる科学者・技術者・労働者が動員されたマンハッタン計画が生まれた原因だ。
この辺の話は、別ブログの「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじを参照して欲しい。
日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
マンハッタン計画の2つの道がこの本で図解されている。
出典:本書26ページ
上記の図で、ウランルートでできたのが広島原爆で、プルトニウムルートでできたのが長崎原爆だ。
劣化ウラン弾
核分裂性ウランの含有量が減ったものは「劣化ウラン」や「減損ウラン」と呼ばれ放射能のゴミとなる。このゴミは長年蓄積していくので、次の表のように各国は大量の劣化ウランを保有している。
出典:本書28ページ
その核のゴミをコストゼロの原料として「有効利用」しているのが、劣化ウラン弾だ。
出典:Wikipedia
次が最近の戦争で使われた劣化ウラン弾の量である。
出典:本書29ページ
筆者は「劣化ウラン」という名前から放射性物質は含まないと誤解していたが、実は天然ウランに比較すると線量は半分程度ではあるが、依然として危険なものに変わりはない。
一般公衆の劣化ウラン吸入年間摂取量限度は11.4ミリグラムで、たとえ少量でも規制されている。
ちなみに劣化ウラン弾は、鉄の倍以上重く(比重18.9、鉄は7.9)、貫通力があり、空気中では発火するので、敵戦車の装甲を貫通して車内で燃え、放射能汚染も引き起こすという恐ろしい兵器だ。
ウラン資源は化石燃料資源の代替にはならない
次はこの本に載っている図だ。四角の大きさが究極埋蔵量、黒い四角が確認埋蔵を示している。石炭の資源は大きく、1,000年以上は枯渇しないと見られている。ウラン資源の枯渇の方が早く起こる。
出典:本書37ページ
これ以外にも海底のメタンハイドレートや、シェールガスなど、まだ利用されていない化石燃料資源がある。
日本の核燃料サイクル
本書:41ページ
高速増殖炉で改質したプルトニウムは原爆原料
ウラン資源の99.3%は、核分裂性のないウラン238だ。これをプルトニウムに変えて利用するのが高速増殖炉を使った核燃料サイクルだ。
日本の高速増殖原型炉もんじゅは1994年に動かしはじめ、1995年に40%の出力まで上げたところでナトリウム噴出事故が起こり、2010年まで休止していた。2010年5月に再稼働したが、燃料交換中継器を炉内に落下させる事故が起こり、2012年に予定した40%出力試験の実施は不可能となった。
普通の原発で生み出されるのは核分裂性のプルトニウムが70%程度で、これでは核兵器は作れない。しかし高速増殖炉でつくるプルトニウムは核分裂性が98%となり、優秀な核兵器の製造が可能となる。
日本はプルトニウムをせっせと溜め込んで、今や長崎原爆4,000個がつくれるだけのプルトニウムを国内外で保有している。
出典:本書46ページ
大前研一さんは、近著の「日本復興計画」の中で、日本は90日で原爆を作る能力がある「ニュークリア・レディ」国だという。
日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
しかし原爆を作るわけにはいかないので、それでウランとまぜて原子炉の燃料(MOX燃料)としているのが「プルサーマル」型原発だ。
原発は非効率な湯沸かし装置
100万KWの原発を一年間運転するのに必要な作業は次の通りだ。
出典:本書71ページ
原子力は発電時にはCO2は排出しないが、その前のウラン鉱山、精錬、濃縮、それから再処理と莫大なエネルギーを消費し、やっかいな廃棄物をもたらす。
冷却用に使う温排水は日本にある原子炉54基すべてが稼働すると、年間1、000億トンと、日本の河川全部の流量4,000億トンの1/4という流量となる。平均7度上がった温排水が海に流れ込むので、大幅な近海海水温度上昇を巻き起こす可能性がある。
原子力発電所の熱効率は33%で、最新の火力発電所の50%超、温排水を地域暖房に使うコジェネの80%に比べて低い。また都会立地ができないために、排水の有効利用もできないという問題がある。
原子力から撤退する核先進国
フランスでさえ新たな原発計画はなく、ヨーロッパ全体でフィンランドに1基建設計画があるだけだ。アメリカもスリーマイル島の原発事故以来一基も原発は建設していない。オバマのグリーンニューディールでは原発建設が含まれていたが、これも先行きは不明になってきている。
小出さんは原発をやめても、火力発電所があるので全く困らないという。
小出さん自身は夏でも家でも職場でもクーラーは使わないという。東大名誉教授で経済学者の宇沢弘文さんは車は一切使わないという。どちらも徹底していて立派ではあるが、文明生活を拒否するアメリカ当部のアミッシュのように意固地な変人といえなくもない。
日本はエネルギー浪費型社会を改める作業に一刻も早く取りかからなければならないと小出さんは最後に説いている。
参考になれば次クリック願う。
著者:小出 裕章
創史社(2011-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
原子力畑一筋で東北大学工学部卒業後、京都大学の原子炉実験所で放射能測定を専門として研究を続ける一方、原発反対運動を支援する小出助教(「助手」が現在は「助教」という呼称に変わった)の本。
創史社・八月書館というマイナーな出版社から発刊されているが、折からの原発事故の関係で、アマゾンでは「在庫なし、入荷未定」の状態が続いていた。現在はアマゾンの売り上げで118位とよく売れているようだ。
原発事故後に書かれた「原発のウソ」はアマゾン売り上げ第7位、「放射能汚染の現実を超えて」は売り上げ194位と、いずれもベストセラーとなり、小出さんは一躍時の人になった。
原発のウソ (扶桑社新書)
著者:小出 裕章
扶桑社(2011-06-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
放射能汚染の現実を超えて
著者:小出 裕章
河出書房新社(2011-05-19)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
筆者が学生の時に自主講座「公害原論」を開催していた故・宇井純さんを思い出す。宇井さんも東大のポジションは助手どまりだった。
新装版 合本 公害原論
著者:宇井 純
亜紀書房(2006-12-01)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
この本のサブタイトルにあるように、小出さんは原発の専門家でありながら原発に反対している。この本は1999年から2010年の小出さんの各地での講演内容を取りまとめたものだ。
原子力に関する基礎的な知識が得られて大変参考になった。ピックアップして紹介しておく。
放射線の恐ろしさ
生命体を構成しているDNAなどの分子結合エネルギーはせいぜい数電子ボルトだが、放射線のエネルギーは数百万から数千万電子ボルトに達する。放射線が身体に飛び込んでくれば、DNAはじめ身体の分子構造が切断されてしまうのだ。
被曝量が多くて、細胞が死ぬと、やけど、嘔吐、脱毛、最悪の場合には死を迎える。
一般的にはある線量、たとえば50ミリ・シーベルト以下は被曝の影響がない「しきい値」があるように言われるが、それは妄言だと小出さんは語る。
事実、2005年6月30日に長年放射線問題を研究してきた米国科学アカデミーの委員会は、放射線被曝にはしきい値はないと調査レポートを発表している。放射線の影響はリニア(直線的)に増えるという。
マンハッタン計画
ウランの核分裂現象が発見されたのは、1938年末のナチスドイツの時代だった。そのためアインシュタインはルーズベルト大統領に原爆開発を勧める手紙を送った。
出典:Wikipedia
これが総額20億ドル(当時の日本の年間GDP)がつぎ込まれ、5万人とも10万人ともいわる科学者・技術者・労働者が動員されたマンハッタン計画が生まれた原因だ。
この辺の話は、別ブログの「日本は原子爆弾をつくれるのか」のあらすじを参照して欲しい。
日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
著者:山田 克哉
PHP研究所(2009-01-16)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
マンハッタン計画の2つの道がこの本で図解されている。
出典:本書26ページ
上記の図で、ウランルートでできたのが広島原爆で、プルトニウムルートでできたのが長崎原爆だ。
劣化ウラン弾
核分裂性ウランの含有量が減ったものは「劣化ウラン」や「減損ウラン」と呼ばれ放射能のゴミとなる。このゴミは長年蓄積していくので、次の表のように各国は大量の劣化ウランを保有している。
出典:本書28ページ
その核のゴミをコストゼロの原料として「有効利用」しているのが、劣化ウラン弾だ。
出典:Wikipedia
次が最近の戦争で使われた劣化ウラン弾の量である。
出典:本書29ページ
筆者は「劣化ウラン」という名前から放射性物質は含まないと誤解していたが、実は天然ウランに比較すると線量は半分程度ではあるが、依然として危険なものに変わりはない。
一般公衆の劣化ウラン吸入年間摂取量限度は11.4ミリグラムで、たとえ少量でも規制されている。
ちなみに劣化ウラン弾は、鉄の倍以上重く(比重18.9、鉄は7.9)、貫通力があり、空気中では発火するので、敵戦車の装甲を貫通して車内で燃え、放射能汚染も引き起こすという恐ろしい兵器だ。
ウラン資源は化石燃料資源の代替にはならない
次はこの本に載っている図だ。四角の大きさが究極埋蔵量、黒い四角が確認埋蔵を示している。石炭の資源は大きく、1,000年以上は枯渇しないと見られている。ウラン資源の枯渇の方が早く起こる。
出典:本書37ページ
これ以外にも海底のメタンハイドレートや、シェールガスなど、まだ利用されていない化石燃料資源がある。
日本の核燃料サイクル
本書:41ページ
高速増殖炉で改質したプルトニウムは原爆原料
ウラン資源の99.3%は、核分裂性のないウラン238だ。これをプルトニウムに変えて利用するのが高速増殖炉を使った核燃料サイクルだ。
日本の高速増殖原型炉もんじゅは1994年に動かしはじめ、1995年に40%の出力まで上げたところでナトリウム噴出事故が起こり、2010年まで休止していた。2010年5月に再稼働したが、燃料交換中継器を炉内に落下させる事故が起こり、2012年に予定した40%出力試験の実施は不可能となった。
普通の原発で生み出されるのは核分裂性のプルトニウムが70%程度で、これでは核兵器は作れない。しかし高速増殖炉でつくるプルトニウムは核分裂性が98%となり、優秀な核兵器の製造が可能となる。
日本はプルトニウムをせっせと溜め込んで、今や長崎原爆4,000個がつくれるだけのプルトニウムを国内外で保有している。
出典:本書46ページ
大前研一さんは、近著の「日本復興計画」の中で、日本は90日で原爆を作る能力がある「ニュークリア・レディ」国だという。
日本復興計画 Japan;The Road to Recovery
著者:大前 研一
文藝春秋(2011-04-28)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
しかし原爆を作るわけにはいかないので、それでウランとまぜて原子炉の燃料(MOX燃料)としているのが「プルサーマル」型原発だ。
原発は非効率な湯沸かし装置
100万KWの原発を一年間運転するのに必要な作業は次の通りだ。
出典:本書71ページ
原子力は発電時にはCO2は排出しないが、その前のウラン鉱山、精錬、濃縮、それから再処理と莫大なエネルギーを消費し、やっかいな廃棄物をもたらす。
冷却用に使う温排水は日本にある原子炉54基すべてが稼働すると、年間1、000億トンと、日本の河川全部の流量4,000億トンの1/4という流量となる。平均7度上がった温排水が海に流れ込むので、大幅な近海海水温度上昇を巻き起こす可能性がある。
原子力発電所の熱効率は33%で、最新の火力発電所の50%超、温排水を地域暖房に使うコジェネの80%に比べて低い。また都会立地ができないために、排水の有効利用もできないという問題がある。
原子力から撤退する核先進国
フランスでさえ新たな原発計画はなく、ヨーロッパ全体でフィンランドに1基建設計画があるだけだ。アメリカもスリーマイル島の原発事故以来一基も原発は建設していない。オバマのグリーンニューディールでは原発建設が含まれていたが、これも先行きは不明になってきている。
小出さんは原発をやめても、火力発電所があるので全く困らないという。
小出さん自身は夏でも家でも職場でもクーラーは使わないという。東大名誉教授で経済学者の宇沢弘文さんは車は一切使わないという。どちらも徹底していて立派ではあるが、文明生活を拒否するアメリカ当部のアミッシュのように意固地な変人といえなくもない。
日本はエネルギー浪費型社会を改める作業に一刻も早く取りかからなければならないと小出さんは最後に説いている。
参考になれば次クリック願う。