時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2011年02月

松井秀喜の「信念を貫く」 新天地アスレティックスで頑張れ!

信念を貫く (新潮新書)信念を貫く (新潮新書)
著者:松井 秀喜
販売元:新潮社
発売日:2010-03
おすすめ度:4.5
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2011年はアスレティックスの一員としてキャンプインした松井秀喜の近著「信念を貫く」のあらすじを紹介する。

このブログでは以前「不動心」を紹介している

不動心 (新潮新書)不動心 (新潮新書)
著者:松井 秀喜
新潮社(2007-02-16)
販売元:Amazon.co.jp
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「不動心」も非常によかった。特に「努力できることが才能だ」という言葉は、筆者の息子たちにも常々言っている言葉だ。

野球選手はオフのときにプロのライターを頼んで本を出す人が多い。

超多忙な松井が自分で机に向かって原稿を書いたとは思えないので、たぶんこの本も松井の口述筆記をライターがまとめたものだと思うが、松井の人間性や考え方がよくわかる。

内容さえよければ、ライターを使おうが使うまいが関係ないという典型のような本だ。

2006年シーズンに左手首を骨折する大怪我を負った松井は、その後復帰したものの、今度は両膝の故障に悩まされ、その後はヤンキースではDHで試合に出ることが多くなった。

特に2008年のシーズンや、ヤンキースがワールドシリーズに優勝した2009年のシーズンは、守備はやらせないというヤンキースGMの方針で、松井はDH専門となった。

2009年のワールドシリーズは、ナショナルリーグの球場での試合のときは代打でしか出場できないというハンディキャップがあるDHではあるが、シリーズMVPという快挙を成し遂げ、ヤンキースに不可欠の選手という印象を強く残した。



松井もこの本の中で書いているが、ワールドシリーズ第2戦でペドロ・マルチネスの外角低めの球をうまくすくい上げてホームランにしたあの場面が記憶に残っている。

あれは、ペドロの失投だったが、失投を一振りでしとめるのがプロだと。

シリーズMVPになったにもかかわらず、ヤンキースのGMはじめ経営陣は、膝の状態が悪いので松井には守備はさせないという方針を変更せず、守備機会を望む松井との交渉は後回しにされた。

松井は、やはり野球選手は守備につかないとリズムがつかめないと語り、2010年は膝の状態がよければ毎試合守備に出てもらってもかまわないというエンゼルスに入団した。

松井との契約交渉に自ら出馬したソーシア監督の熱意にもほだされたという。

この本では今まで順風満帆だった松井が、2006年のケガ以降、守備ができないため、毎試合DHまたは代打という不安定なポジションになったにもかかわらず、監督の起用法に一切文句を言わず、ヤンキースの勝利をひたすら願って、出場したときには常にベストをつくすというチームプレーヤーに徹する姿が描かれている。

不遇の時代でも松井は信念を持って生きているというメッセージが力強く伝わってくる。

不遇がないというのは選手時代の長嶋に限られると思う。他の選手は王でさえ入団当初の数年は苦労している。

不遇の時代があったほうが、いずれ監督なり、コーチになったときに大成するのではないかと思う。その意味では、この本のように謙虚に自分のチーム内のポジションを受け入れ、与えられた役割でチームのためにベストをつくす松井の姿勢は必ず松井自身のためになるだろう。

「不動心」も面白い本だったが、「信念を貫く」も違った面での松井を知ることができ面白い。簡単に読める新書なので、一読をおすすめする。


参考になれば次クリック願う。




デフレの正体 人口動態変化が日本経済デフレの原因

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp
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日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介さんの本。この本がベストセラーとなっているので、藻谷さんは年末のNHKの特別番組等たびたびテレビに出演するようになってきている。

2010年12月19日の朝日新聞日曜版の書評審査員お薦め「今年の3点」で、植田和男東大教授のイチ押しに挙げられていた。

「いよいよ現実のものとなった日本の人口減少が、いかに内需不振の主因であるかを、簡潔なグラフ中心にわかりやすく示した好著。薄々感じていた不安に直接手で触れたような読後感。対策として高齢者から若者への所得移転、女性就労、外国人観光客の増加を推奨」が推薦の言葉だ。

まえがきのところで、藻谷さん自身も、自分が書いた本ながら「これは読んだ方がいい」と誰にでも薦められるという。

誰が読んでも客観的とわかるような事実を並べているが、類書にない、オンリーワンの内容だからだと。

最初からちょっと大風呂敷だと思ったが、読んでみるとなるほどと思わせる内容だ。但し、この本には藻谷さん自身も書いている通り、タネ本があることは後述する。

藻谷さんは日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役で、2000年から各地で数多くの地域振興の講演を行っており、全国3,200市町村の99.9%を訪問した経験を持つという。

アマゾンでも2010年12月20日現在売り上げ47位と、よく売れているようだ。

この本の目次

この本はアマゾンのなか見!検索に対応しているので、ここをクリックして、目次を見て欲しい。次のような章が並んでいる。

第1講 思いこみの殻にヒビを入れよう

第2講 国際経済競争の勝者・日本

第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振

第4講 首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味

第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」

第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀

第7講 「人口減少は生産性向上で補える」という思いこみが対処を遅らせる

第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち

第9講 ではどうすればいいのか1.高齢富裕層から若者への所得移転を

第10講 ではどうすればいいのか2.女性の就労と経営参加を当たり前に

第11講 ではどうすればいいのか3.労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受入を

補講  高齢者の激増に対処するための「船中八策」


内需不振の本当の原因

「世界同時不況の影響で地域間格差が拡大したことが内需不振の原因」などというのは、藻谷さんは、SY(数字を読まない)、GM(現場を見ない)、KY(空気しか読まない)人たちが確認もしていないウソを拡大再生産しているのだと。

SYの例が中国と日本の貿易バランスで、中国一国だけだと日本の赤字だが、香港を入れると日本の大幅黒字である。

そういえば中国との輸出入は香港も入れて考えるというのが、昔は常識だったが、筆者もすっかり忘れていた。

日本の国際収支














出典:本書41ページ

日本の大得意はハイテク生産国の台湾、韓国だ。中国にも日本ブランド製品は売れ続けている。日本は国際競争の勝者なのだ。

一般的に言われている「リーマン破綻以降の世界同時不況の影響で、輸出が激減し日本経済は停滞している」という説明、「景気さえ良くなれば大丈夫」という「妄想」が日本をダメにしたのだ。

その証拠として次のグラフを挙げている。

日本の基礎代謝







出典:本書57ページ

上のグラフの左側が増え続ける日本の実質GDPと減り続ける小売販売額と雑誌書籍販売部数。

右側が同じく、増え続ける日本の実質GDPと減り続ける新車販売台数、貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量、酒類販売量のグラフだ。

このグラフからわかることは:

・小売販売額は1996年度をピークに12年連続で減少が続いている

・雑誌書籍販売部数は1997年度をピークに11年連続で減少が続いている

・国内貨物総輸送量、自家用車旅客輸送量もそれぞれ2000年、2002年から減少続き

・酒類販売量は2002年度から減少続き(ビールだけだと1997年度から減少続き)

・グラフにはないが、日本の水道使用量は1997年から減少続き


2000年に一度の生産年齢人口減少

「若者の車離れ」、「景気変動」、「出版不況はインターネットの普及のせい」、「地域間格差」など、内需の減少の原因としてあげられる理由はすべて間違いだ。本当の内需減少の原因は、生産年齢人口の減少である。

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出典:総務省統計局人口推計

藻谷さんは、日本政策投資銀行の地域振興グループの参事役という得意分野を生かして、青森県、首都圏、東京23区、(リーマン不況まで景気が良かった)愛知県、関西圏、沖縄県の1990年からの小売指標と個人所得の推移を比較している。

青森県と関西圏を除いて個人所得は増加しているにもかかわらず、どこも小売販売額は1998年頃がピークで、毎年減少している。

唯一の例外が沖縄県で、個人所得も小売販売額も増加している。しかし、その他はすべて小売販売額が減少している。

これこそ「2000年に一度」の生産年齢人口減少と「高齢者の激増」の影響なのだ。


所得はあっても消費しない高齢者

所得はあっても消費をしない高齢者が日本全国で激増している。特に首都圏では2000-2005年の間に65歳以上の老齢者が118万人増えている。高齢者は将来の不安があり、買いたい物もあまりないので消費をせず貯蓄する。

次が日本の人口ピラミッドだ。

人口ピラミッド








出典:総務省統計局人口推計

日本で一番人口の多い団塊世代が60歳を超えて続々と退職している。年金だけでは所得が減少するので、将来の不安から消費を抑え、貯蓄する。


団塊の世代が起こしたバブルとバブル崩壊

この団塊の世代の影響で起こったのが住宅バブルとバブル崩壊だ。

最初は団塊世代の実需で住宅・土地市場が活性化した。ところが日本人のほとんどが、住宅市場の活況の要因を「人口の波」と考えずに、「景気の波」と勘違いした。

だから住宅供給を適当なところで止めることができず、供給過剰=バブル崩壊が生じたのだ。

この説は元マッキンゼー東京支社長で、現東大EMP企画・推進責任者の横山禎徳さんが「成長創出革命」という本で指摘していることだと、藻谷さんはタネ本を開かしている。

成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(1994-02)
販売元:Amazon.co.jp
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この「成長創出革命」は現在絶版で、アマゾンでは中古本が約7千円とプレミアム付きで売られている。図書館にリクエストして他の図書館から借りて貰うので、入手したらあらすじを紹介する。

団塊世代のライフステージに応じて様々なものが売れ、そして売れなくなっていくという単純なストーリーで説明・予測できる物事は多い。たとえば:

・バブルがなぜ首都圏と大阪圏に集中していたのか

・スキーや電子ゲームが流行り、その後急速に衰退していったのか

・ゲーム市場の拡大は高齢者にも売れる任天堂Wiiまで待たなければならなかったのか

生産年齢人口の減少は今後も続き、「好況下での内需縮小」は延々と続くことになる。


藻谷さんの解決策

★高齢者から若者への所得移転

現在は高齢者から高齢者への相続で貯蓄は死蔵され続けている。

高齢化社会における安心・安全の確保は生活保護の充実で行い、年金から生年別共済に変更するというのが解決策だ。

これまで日本は生産性を上げて人口減少に対処しようとしている。そのための施策が、経済成長率至上主義、インフレ誘導、リフレ論、出生率向上、外国人労働者受入、エコ分野の技術で世界をリードすることで日本の活路を見いだす等々だが、いずれも内需拡大には繋がらない。

そこで、解決策としては「生産年齢人口が3割減になるなら、彼らの一人当たり所得を1.4倍に増やせば良い」というものだ。つまり団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そうというものだ。この解決策は、藻谷さんが若手官僚から聞いたものだという。

ちなみに中国でも生産年齢人口の減少は20年後くらいから急激に起こる。中国が同じ悩みを抱えるのも時間の問題なのだ。


★女性就労拡大

藻谷さんの解決策の一つは女性就労拡大だ。女性は高齢になっても消費意欲は衰えないので、女性の所得が上がれば、内需拡大にもなり、税収も上がる。

日本の女性の就労率は45%で世界的に低いので、まだまだ上がる余地はある。


★外国人観光客を誘致して観光収入をアップ


横山禎徳さんのタネ本

藻谷さんは「成長創出革命」しか紹介していないが、実はこれらの解決策は、上記の元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんの2003年の本「『豊かなる衰退』と日本の戦略」で提唱されている「3つのシステム・デザイン」という提案とかなりかぶっている。

「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか「豊かなる衰退」と日本の戦略―新しい経済をどうつくるか
著者:横山 禎徳
ダイヤモンド社(2003-03)
販売元:Amazon.co.jp
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横山さんの3つの提案(+α)とは:

1.一人二役(兼業・兼職も認める。セカンドハウスを持つ。週休三日とする)

2.二次市場の創造(住宅など中古市場の充実)

3.観光立国(外国人旅行者大量受入システム)

+女性への期待(主婦への期待)


生産性向上とは付加価値を増やすこと

マイケル・ポーター教授の日本公演の時に、聴衆から質問があり、それに答えて生産性向上の例として出したのはカリフォルニアワインだったという。

人手を掛けて品質を向上させることによって、ブランド力を上げることに成功し、値上げができた。

カリフォルニアワインがブランド力を上げる要因となったできごとは「パリスの審判」に詳しいので、興味がある人は参照して欲しい。

生産性とは付加価値を増やすことだが、日本では労働者を減らすことが生産向上と誤解されているために、このときの講演後のQ&Aではポーターの説明が伝わらなかったという。


残念な誤植

大変説得力ある本だが、致命的な誤植がある。相続税を支払う人が相続人の4%まで減り、納税額も12兆円というところは、1.2兆円の誤りだ。

税収が40兆円程度しかないなかで、もし相続税収入が12兆円もあれば3割を占める大変なパーセンテージだ。SY(数字を読まない)でない限り、普通なら誰でも気付く誤植と思う。

せっかく納得性のある議論をしているだけに、こんなポカミスは残念ながら藻谷さんの全体の議論の信憑性を疑わせる恐れがある。

筆者も他山の石としなければならないミスである。


ともあれ斬新な見地からの議論で、大変参考になる本だった。



参考になれば次クリック願う。





日本は世界5位の農業大国 ベストセラーとなった農業の現状分析

日本農業の実態を農業雑誌の編集者が偏見なしにレポートした本。

一時はアマゾンの新書売上ランキングでトップだったこともある。現在も新書売上ランキングで40位前後で、引き続き売れている様だ。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
著者:浅川 芳裕
販売元:講談社
発売日:2010-02-19
おすすめ度:4.5
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月刊「農業経営者」副編集長の浅川芳裕さんの日本の農業の現状分析。

農業経営者 2010年5月号(171号)農業経営者 2010年5月号(171号)
販売元:農業技術通信社
発売日:2010-04-01
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別の本に紹介されていたので図書館で借りて読んでみたが、気がついたらアマゾンでなんと売上100位前後に入っているベストセラーだった。筆者が今年になって読んでから買った数少ない本の一つだ。アマゾンの新書売り上げNo. 1で、ホリエモンが絶賛していると本の帯に書いてあった。

この本を読んで日本の農業政策について、政府もマスコミも信用できず、何を信用したらよいのかわからなくなった。

比較検証のために、「食品自給のなぜ」という農水省の食料安全保障課長が書いた本と、法政大学講師の書いた「食料自給率100%を目ざさない国に未来はない」も読んでみたので、それからの情報も織り込んであらすじを紹介する。

食料自給率のなぜ (扶桑社新書)食料自給率のなぜ (扶桑社新書)
著者:末松 広行
販売元:扶桑社
発売日:2008-11-27
おすすめ度:4.0
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食料自給率100%を目ざさない国に未来はない (集英社新書)食料自給率100%を目ざさない国に未来はない (集英社新書)
著者:島崎 治道
販売元:集英社
発売日:2009-09-17
おすすめ度:4.0
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国産農産物愛用キャンペーン

日本政府、農水省、そしてマスコミは「農家弱者論。国産農業危機論」で凝り固まり、石川遼などをつかったテレビCMで国産食品愛用を訴えている。

農水省が金を出し、電通の中に「食料自給率向上に向けた国民運動推進本部」を置いて有名タレントを使って広告を作っている。食品自給率向上のための農水省の予算は2008年度は166億円で、前年度の65億円から2.5倍になった。

しかし、この本を読んで、日本の食品自給率が41%で、世界の主要国で最低だと言うのが、そもそも恣意的な数字ではないかという疑問が起こった。

次が日本のカロリーベースの食品自給率の推移だ。

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そして次が世界主要国の食品自給率の比較だ。

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出典:いずれも日本国内食品自給率ホームページ

農水省のホームページには「食料自給率の部屋」というセクションがあり、食品自給率アップが農水省の政策の目玉になっていることがわかる。

食品自給率アップについては、自民党や民主党も同じトーンでマニフェストで訴えているし、メディアもこの食品自給率を鵜呑みにしている。

ところがどっこい、この食品自給率の「カロリーベース」というのが、くせものなのだ。


日本独自のカロリーベースの自給率

カロリーベースの自給率とは次の数式だ。

(一人一日あたり国産供給カロリー)÷(一人一日あたり供給カロリー) 

しかしこの内訳は:

{(国産+輸出)供給カロリー}÷人口/{(国産+輸入ー輸出)供給カロリー}÷人口

なのだ。つまり分母は日本全体の供給量なので、当然大量に発生する食べ残し、消費期限切れの廃棄食品も含まれている。

ためしに数字を見ると、2008年は

1012キロカロリー ÷ 2473キロカロリー = 40%

筆者は消費カロリーも計れる体重計を持っているが、筆者の消費カロリーは大体1,850前後、つまり上記の分母は筆者の消費カロリーの1.5倍の数字なのだ。

実際の国民一人当たりの消費エネルギーを1,850キロカロリーとすると(分母)、分子をいじらなくても自給率は一挙に56%にあがる。つまりカロリーベースの自給率を上げるには食べ残しや賞味期限切れを減らすことが有効なのだ、

さらに分子の国内供給カロリーには、農家の自家消費や親戚・近所への提供は含まれていない。日本の農家のほとんどは兼業農家で、もっぱら自家消費用に野菜やコメなどをつくっているが、これはカウントされていないのだ。


カロリーベースだと自給率が低くなる要因

農家が米を生産調整でやめて、野菜や果実に切り替えると、売上は増えて供給金額は増える。ろころが、野菜はカロリーゼロに近く、果実の生産量は少ないので、国産供給エネルギーとしては大幅に減少する。

国のコメ減反政策に従って、農業経営者にとって合理的な産品の切り替えをやると、生産金額ベースの自給率は上がるが、カロリーベースの自給率は下がるのだ。

こういった分母を大きくして、分子を小さく抑える工夫があるのが、カロリーベースという日本と韓国でしか採用されていない自給率だ。他の国では、穀物輸入比率という指標はあるが、カロリーベースの自給率という比較はない。農水省の役人がせっせとFAOなどの統計を元に各国の自給率を計算しているのだという。

また肉、鶏卵、酪農品はエサを輸入に頼っていると、たとえ国産の産品でも国産から除外される。畜産品の自給率は金額ベースだと70%だが、農水省によるカロリーベースだと17%で、これが全体にも響いてくる。

たとえば石川遼がテレビCMで宣伝していた”卵かけご飯”。卵は当然100%国産と思ったら大間違い。カロリーベースの自給率では卵は10%と低くなる。鳥のえさはほとんどが輸入だからだ。

この卵の自給率については農水省の課長の「食品自給率のなぞ」にも書いてある。じゃあなぜ卵かけご飯を国産食品としてCMで宣伝するのかよくわからないところだ。

たとえ輸入のエサを使っていても、肉や酪農品は国産であることは間違いない。たしかに飼料の輸入が完全にストップしたら、生産に支障をきたすかもしれないが、それは日本でけではない。

昔と異なり農産物の貿易市場が巨大化している現在では、世界各国が自国の強い産品を生産し、自国が弱いものは輸入している。農産物の貿易が止まるという「戦時体制」を前提とした食糧自給率に何の意味があるのかと思う。


生産額ベースの食品自給率だと66%

こういった問題点があるので、生産額ベースの総合食品自給率を使えという声も有識者の間に強いという。もし生産額ベースの自給率を割り出すと、日本の食品自給率は66%になる。

要は数字のマジックなのだ。農水省が自分達の政策を通すために、都合の良い数字と計算式を作り上げている自作自演の食品自給率キャンペーンなのだ。

その証拠に、もともと自給率は1965年から生産額ベースで発表されていたが、1983年からカロリーベースでも発表され、1995年からはカロリーベースで最近まで統一されてきた。発表する数字のベースを意図的に変えていたのだという。

農水省の課長の本でも、食品自給率はカロリーベースと生産額ベースの両方が一つのグラフで示されているが、生産額ベースの自給率を使わない理由の説明はない。

日本の小学生の教科書でも自給率を高めてきたと紹介されている英国は、カロリーベースで農水省が計算すると着実に食品自給率を向上させてきているが、生産額ベースでは日本の自給率を下回るという。

気候の厳しい英国では日本の様に高価格の野菜とかは生産できない。

穀物の自給率は高いので、カロリーベースでは高くなるが、生産額ベースでは自給率は1991年の75%から2007年には60%と15%も下落して、日本を下回っていると浅川さんは指摘する。


日本は世界第5位の農業大国

この本のタイトルにあるとおり、FAOの統計から割り出すと一位の中国、それから順にアメリカ、インド、ブラジルと続き、日本の農業生産は約8兆円で、世界第5位となる。そして農家の所得は世界第6位だ。

「日本農業は弱い」なんて誰が言った?と著者の浅川さんは語る。

「農業はきつい仕事のわりに儲からない。だから、もっと農家を保護しないと日本人の食料は大変なことになる」という主張は、農水省がつくりだしたもので、その目的は農水省の省益、天下り先の確保であると浅川さんは指摘する。

ある農水省の幹部は、「自給率政策がなければ俺たちが食っていけなくなる」とまで語っているという。

浅川さんは政治家に会うと、必ず日本の農業生産規模が世界第何位か聞くことにしているという。大体50ー80位という答えが多く、正確に答えられる政治家はいなかったという。

多くの政治家が農水省の宣伝を鵜呑みにして、日本農業の強さを認識していないのだ。


日本の農家は兼業農家が圧倒的多数

民主党の戸別所得補償政策の対象の農家はコメで180万戸、そのうち100万戸は、1ヘクタール未満で、農業所得は数万円からマイナス10万円程度。これでは食べていけないとして、1ヘクタール当たり95万円が補償される。

しかしこれら100万戸の平均所得は500万円で、彼らのほとんどは役所や農協など一般企業につとめるサラリーマンの週末農業で、「疑似農家」なのだと。

「スケールの大きな家庭菜園がついた一戸建て住宅に住む、日本でもっとも贅沢な階層」と言っても良いと浅川さんは語る。

もっぱら生産コストの高いコメや野菜をつくり、自家消費や近所・親戚に配っている。

日本の農業従事者の数は1960年の1,200万人から現在は200万人以下に減っているが、一人当たりの生産量は5トン以下から25トンに増えている。

農業従事者推移













出典:本書117ページ

兼業農家は農薬の知識もないので、やたら農薬をばらまき環境に悪影響がある。規模が小さいのに機械も導入するので、日本のコンバインの保有数は97万台で、米国の41万台、中国の40万台に倍以上の差をつけた圧倒的世界一位だという。


民主党の戸別所得補償制度は間違い

民主党内閣が打ち出している「戸別所得補償制度」は、2011年度から1兆4千億円を使って、日本の農業を赤字まみれのダメ農家で埋め尽くそうとしていると浅川さんは切り捨てる。

民主党の計算では、1ヘクタールで最大95万円が補償される。これなら単に農地だけ持って、形だけ農業するふりをした方が良い。年に1-2週間しか農作業に従事しない疑似農家を助ける制度なのだと。

そして所得補償の対象となるコメは1兆8千億円、小麦は300億円、大豆は240億円しか生産規模がない。

日本全体の農業生産は8兆円で、野菜が2兆3千億円、果樹が8千億円、花卉(かき)が4,000億円だ。

民主党は、EUは直接所得補償のおかげで自給率を向上できたというが、小麦に対するEUの補助金は1ヘクタール当たり5万円程度だ。

ところが民主党案は、日本で1ヘクタールで小麦をつくるとそのコストが60万円、小麦の販売価格が6万円だから、差額54万円を全額補填するというもので、実にEUの補助金の10倍以上の法外なのものだ。

「食品自給率のなぞ」で農水省の課長も認める通り、そもそも国産小麦は品質が悪く、安くしか売れないという。

また輸入とはいえオーストラリアの小麦は日本のラーメン、うどん向けにつくった品種で、日本に売るしかない品種だという。また日本の食品として必要な小麦は540万トン、それを米国300万トン、カナダ150万トン、オーストラリア100万トンと、いずれも友好国から輸入している。アメリカと戦争でもしない限り、これらの友好国からの供給がストップすることはないだろう。


民主党の本当のねらいは疑似農家関連の500万票

浅川さんは農業界全体を弱体化させることが民主党の本当のねらいだと語る。小沢一郎前幹事長も、選挙でわかりやすい「所得補償」に政策名を変えろと指示したという。

民主党は100万戸の疑似農家の、家族や親類を入れた500万人という票が欲しいのだと。

都市部と比べて一票の差が2-3倍ある地方では、500万人の疑似農家関係者が一大勢力で、農家の票を抑えたら地方や都市郊外の小選挙区で勝利することができる。


日本の農家の数はまだ多すぎる

日本の農家は他の先進国に比べてまだ多すぎるという。日本は人口の1.6%が農家だが、米国はじめ欧州各国でも1%を切っている。

日本の面積30アール以上、農業売り上げ50万円以上の農家は200万戸ある。売り上げ1,000万円以上の農家はわずか7%だが、かれらが日本の農業生産の8兆円の6割を生産しているのだ。

農家の所得につき「農業経営者」が独自に行った2,600人のアンケート結果では、平均所得は343万円で、社員4-9名の中小企業の年収平均243万円を上回っているという。

農業人口の高齢化が問題とされるが、全体の7%のプロ農家が高齢化したのではない。全体の8割を占める疑似農家の多くが、リタイアして農業に精を出し始めた人たちだからだ。農業人口の高齢化は必ずしも悪いことではないという。


農業は成長産業

農業は成長産業というのが世界の常識だ。次が世界の貿易額のグラフだが、年々拡大し、特に近年は相場上昇とともに急激に拡大している。

世界の農産物貿易







米国のオバマ大統領は、「世界市場のなかで、高度な技術力とマーケティング力、そして経営判断が求められる複雑な仕事だ」と農業を評している。

そんな将来性のある農業振興のため、浅川さんは次の8つの政策を提案している。

1.民間版・市民レンタル農園の整備
2.農家による作物別全国組合の設立 成功例は米国ポテト協会などだ
3.科学技術に立脚した農業ビジネス振興 たとえばイチゴのとちおとめを世界商品にすることなど
4.輸出の促進
5.検疫体制の強化
6.農業の国際交渉ができる人材の育成または採用
7.若手農家の海外研修制度
8.海外農場の進出支援

日本の農業の可能性を信じているのが和郷園の木内博一代表だという。日本の農作物は世界一だと思っているので、ジャパンプレミアムを創設するのだと。

和郷園がタイで生産するバナナはドールよりも高く売れているという。


農家弱者論との対比

「食品自給率のなぞ」や「食品自給率100%を目ざさない国に未来はない」は、従来型の議論が中心で、単に食料輸入断絶というあり得ない事態の不安をあおるだけで、何の解決も提案していない様に思える。

農水省の課長は「ご飯を一食につきもうひと口食べると食品自給率が1%アップする」と、もっとご飯をたべることが自給率アップに繋がるという。

どうせ国民に訴えるなら、技術革新で生まれ、世界中で生産の中心となっているGMO食品を本格導入して、国産農産物の生産量を上げるとか、食べ残しを減らす運動を推し進めるとか、賞味期限切れの食品撲滅運動を行うとか、別のことで自給率をアップさせることができるだろう。

両論比較して読むことで、むしろ浅川さんの鋭い指摘と、統計の読み方に強い印象を受けた。

浅川さんの主張の根拠を提供しているのが青山学院大学の神門教授の次の本だ。

日本の食と農 危機の本質 (シリーズ 日本の〈現代〉)日本の食と農 危機の本質 (シリーズ 日本の〈現代〉)
著者:神門 善久
販売元:NTT出版
発売日:2006-06-24
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


こちらも近々読んでみる。


冒頭に述べた通り筆者が読んでから勝った数少ない本の一つである。一読の価値はあると思う。


参考になれば次クリック願う。




課長になったらクビにはならない 30代からは「一所懸命」が原則

キャリアコンサルタントの海老原嗣生さんの就活生向けの「学歴の耐えられない軽さ」の次は、会社に入ってからのキャリアについての本を紹介する。

あらすじが長くなってしまったが、参考になる点が多かった。

課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣課長になったらクビにはならない 日本型雇用におけるキャリア成功の秘訣
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2010-05-20
おすすめ度:3.5
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リクルートエージェントの転職誌「HRmics」編集長で、HRコンサル会社ニッチモ社長の海老原嗣生(つぐお)さんの最新作。

海老原さんは、マンガ「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人海老沢康生のモデルだ。

エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)
著者:三田 紀房
販売元:講談社
発売日:2008-01-23
おすすめ度:3.5
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前作「学歴の耐えられない軽さ」が良かったので、最新作を読んでみた。

「学歴の耐えられない軽さ」は”売らんかな”のタイトルが内容を表していない欠点はあるが、統計資料を駆使して大学進学率が50%を超えた事による大学のレベルの低下と、新卒/第二新卒の就職状況についてのわかりやすい説明は大変参考になった。

学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-18
おすすめ度:4.0
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課長の壁

「学歴の耐えられない軽さ」が10代ー20代向けだったのに対して、この本は30代以降向けにどうするかを書いたという。結論としては、「目の前の仕事を頑張るだけで良いんじゃないですか」というものだ。つまり「一所懸命」のススメだ。

世の中には「課長の壁」というものがあり、日本でも35歳が転職の限界年齢だ。OECDの年代別転職率の統計を使って、熟年期に転職収束は世界共通の現象であることを説明している。

35歳以降に転職する人は、スペシャリストとして転職を繰り返し、一つの企業には定着しない傾向にある。会社としてもスペシャリストとして採用した人材は転用が効かず使いづらいのだ。

この結果、よく言うと特定分野のスペシャリスト、悪く言うとジョブホッパーになってしまうのだ。


IBM本社の人材開発部長の話

海老原さんがIBM本社の人材開発担当部長に聞いた話を紹介している。IBMでは30代のSE(システムエンジニア)に、技術やコンサルティング能力をつけさせるために社員教育に力を注いでいる。

それでは人材流出に繋がるのではないかと海老原さんが質問すると、IBMの最高の機材、設備を使い、IBM流に教育することが、最大の転職防止策になっているのだとIBMの部長は答えたという。

IBM流にローカラーズされた環境で学んだスキルや仕事のやり方が身に付くと、マッキンゼーやHPが好条件で迎えてくれるといっても、違った環境にあわすのがおっくうになるのだと。

つまりポータブルなスキルではなく、「企業内特殊熟練」の結果だ。これは自由闊達なリクルートグループでも当てはまると海老原さんは言う。

しかし天才はそれでもIBMを出て行くが、そういった天才は出て行ってIBM流を他でも広め、やがては業界標準になるので、むしろ好ましいのだという。


課長になったらクビにはならない

この本のタイトルの「課長になったらクビにはならない」というのは、「課長になったらリストラはされない。だから今の会社に居続ければ良い」という意味だ。ただし、つぶれそうな会社でないことと、最低査定でないことが必要条件だ。

世間一般で言われているリストラは、実は主に非正規雇用者をまず対象にしている。

正社員を対象にしている場合でも、本社から子会社への出向が含まれており、正社員をリストラする場合には、早期退職制度で手厚い退職金を支払う。

指名解雇によるリストラのようなことを正社員に実施するわけではなく、かえって優秀な社員が早期退職優遇制度で辞めていってしまうケースが多く出てくるという。


リストラは組織再生が目的

優秀な社員が辞めてしまうリスクがあっても、企業がリストラを行う最大の理由は、組織再生だ。

社員1万人を超す大手企業では、転職ゼロの社員の割合が8割ちかくいる。結果として能力を発揮できていない「しがみつきタイプのロー・パフォーマー」、「ぶら下がり社員」を多く抱えているという。

これが日本型雇用の最大の問題点であり、組織再生のために1割程度のローパフォーマーを主対象にリストラを実施するのだと。


人肌あわせ採用の減少

日本の採用は。かつてはOB訪問、リクルーターとの面談を経て、会社説明会からの採用ステップが始まる「人肌あわせ」型採用だった。

しかし、ネットによる大量エントリー時代になると「人肌あわせ」がなくなり、就職上位200社総なめ応募といった「モンスターアプリカント」が出現しているという。

昔は指定校制度というのがあった。一流企業ではMARCHあたりが多かったと思う。一万人も志望者がいて、指定校制度がなければ、はじめは機械的に落とすしかないだろう。


アメリカ型キャリアが良いですか?

海老原さんはアメリカ型キャリア礼賛を切って捨てている。アメリカ型だと次の質問のようになる。

★あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?
★あなたは、一つの仕事が肌にあわないと、辞めるしかない国がいいですか?
★あなたは、社内の4人に一人が、退職準備をしている国がいいですか?
★あなたは、社長や役員を外から採用する国でいいですか?
★あなたは、名門校のMBAがないと社内でのし上がれない国がいいですか?

アメリカ礼賛という「箱モノ」=職務主義と、今の日本の社員キャリアディベロプメント制度をよく比較して欲しいという。

最初の質問の「あなたは、能力アップが給与に反映しない国がいいですか?」にまつわる話は、筆者にも経験がある。

最初にアメリカに駐在した時に、会社がパフォーマンスレビュー制度を導入することになった。そのときの部下面接のマニュアルで、経理部の部下が「MBA取ったのでマネージャーにして欲しい」と言ってきた時にどう対処するかという模擬設問もあった。

そのときの答えは、たしか「やっている仕事が同じならば、待遇は変わらない」と拒絶する。

ただ「今やっている仕事でMBA資格を生かして、能力を発揮すれば評価は上がり、昇進の道も開けるよ」とフォローするという様なものだったと思う。

統計を使ったアメリカの大学生の就職活動についての話も参考になる。アメリカも日本も大学生の就職についてはあまり変わらないのだと。


福島社民党党首の話

「アンチ箱モノ行政の社民党福島党首が箱モノ雇用論に終始する矛盾」というのも面白い。

海老原さんは14年ほど前に弁護士時代の福島さんにインタビューした経験があるが、男女別姓議論のなかで「お墓はどうするのか」といった現実論を聞いたら、「ディテールを今考えるのはおかしい」と言われて失望したという。

その福島さんが社民党党首として次をスローガンで掲げている。

★年収200万円以下のワーキングプアーが1022万人もいる!
★全国一律自給1000円以上に最低賃金法を改正すべき!
★同一価値労働同一賃金を徹底し、派遣労働者にも正社員並待遇を!

海老原さんは、このような耳障りだけ良いが、中身は空虚なものを「箱モノ雇用」と呼んでいるという。その理由は次の通りだ。

ワーキングプアーの正体は働く主婦(と高校生・大学生のバイト、年金をもらいながら働いている老齢者、個人事業者の家族専従者)だという。

ワーキングプアは641万人という厚生労働省発表があったので、紹介しておく。

最低賃金法改正は弱者切り捨てだ。最低賃金も払えない企業は、廃業するしか他に道がなくなるからだ。

同一価値労働同一賃金も、司法判断で正社員は監督責任があることと、転勤を拒否できないので、2割程度の差は容認されている。実際には企業は正社員と非正規雇用者とは仕事の内容を分けて、こういった議論が起きないようにしているという。


「手に職をつける」は誤解

「手に職をつけるための自己啓発が有効」という一般常識にも警鐘を鳴らす。むしろ「資格や語学を身につけても、キャリアにとってはそれほどプラスになることはない。逆にマイナスになることも少なくない」と語る。

たとえばSE(システムエンジニア)やウェブデザイナーだ。20代後半以降であれば、企業はたとえ学校に行って資格を取ってきても、未経験者は採用しない。SEやウェブデザイナー不足の現在でもこれは変わらない。

SEやウェブデザイナーは重労働で忍耐力が必要で、嫌な仕事も引き受け、クライアントの罵声にも耐え、同僚が脱落してもその穴を埋めるチームワーク良く働けることが必要だからだ。

資格や専門知識より経験が生きるのだ。

資格専門知識VS実務能力







出典:本書124ページ

IT企業の現場を経験した筆者には、この話はなるほどと納得できる。筆者はシステム関係の責任者だったことがあり、この時会社生活で初めて完徹(完全徹夜)をしたことがある。

ちょうど新システムスタート直前で、人手が足らずに、初級シスアド資格がある筆者も、商品データをひたすらインプットする作業を手伝ったのだ。

新システムスタート日は決まっており、まさに時間との闘いで、システムとマーケティング関係者の多くが完徹し、「人柱」状態だったが、このようなことがシステム開発ではありうるのだ。

SEやウェブデザイナーの資格を取ったら、面接では今までの仕事で、完徹のようながんばりを見せたことを強調すると面接で良い結果が出ると思う。これは筆者の私見だ。


英語で食っていくとしたらTOECI900点以上が必要

英語力も、外資系アドミはTOEIC900点以上、通関士は定型業務なので派遣で採用することが多いという。ちょっとぐらい英語ができるだけではダメなのだ。

英語で、丁々発止、外国人と交渉できるくらいの英語力がないと英語が出来るとはいえない。

これはTOEIC945点の筆者の意見だが、筆者が重視するのは文脈にあった単語を使えるかどうかだ。同じことを言うにも、この場面ではこれがぴったりという言葉がある。

ネイティブ並みの文章を書くには(書ければ話せる)この単語のストックの差が大きく、これはボキャブラリーを増やす努力を日々続けないと絶対に達成できない。

英語は短期集中型というやりかたもあるが、本当に英語で食っていくとしたら、日々の研鑽が欠かせない。


成果主義の本当の意義

成果主義という箱モノの最大の効果は、給与は上がるものというそれまでの考えを、給与は上がったり下がったりするものと変えたことだという。これが人事制度変更の本当の意味だ。

これも正しい指摘だと思う。たしかに昔はボーナスは別として、給料は上がることしか考えられなかったが、今は業績次第で上がり下がりがあるという考え方が定着している。


キャリアは才能なんかじゃ決まらない

最後の「キャリアは才能なんかじゃ決まらない」も面白い。

人材育成の専門家の立場から、リーダーシップ論の変遷を論じている。

1950年代まで : 個性、能力、人格、知能などの個人の持って生まれたものを研究対象としていた。

1950年代 : 「グレートマンズ・セオリーの破綻」=持って生まれたものでなく、行動や価値観、マネージメントスタイルに注目し、特に「達成動機の高い人」を選抜すればグレートマンが多く誕生するという考えが広まる。

「達成動機の高い人」の見分け方の一例が、ロールシャッハテストだという。あのわけのわからないテストの目的が、「達成動機」だったとは初めて知った。

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出典:Wikipedia(以下同じ)

しかし「達成動機の高い人」を大量に採用しても、多くは脱落していったという。

そして、2000年前後に登場した説が、リーダーに種はない、特性が共通しているのではなく、経験が共通しているのだというマッコールが「ハイ・フライヤー」で主張した説だ。

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法
著者:モーガン マッコール
販売元:プレジデント社
発売日:2002-01
おすすめ度:4.0
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「ハイ・フライヤー」も読んだので、今度あらすじを紹介する。


江副さんの名言

海老原さんはリクルートの江副さんの言葉として次を紹介している。

「10代、20代で名を残す名アーティスト、名選手は多い。しかし、10代、20代で名を馳せた経営者はいない」

当たり前のことではあるが、この言葉の意味は深い。

マッコールは「マトリョーシカモデルの崩壊」と呼んでいる。つまりマトリョーシカの様に、リーダーは初めからリーダーとしての素質を持っているのではなく、リーダーは経験を通して育つものなのだ。だから誰でもリーダーになれる。

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海老原さんが直接取材した時に、マッコールはリーダーシップを獲得する条件として次を説明していたという。

1.経験に飛び込んでいく勇気がある人は、成長が早い。
2.経験から物事を学ぶ姿勢が出来ている人は、成長が早い。

それだけでは、当たり前ではないかと海老原さんが食い下がると、マッコールは次を個人的信条として付け加えたという。

3.失敗や間違いを認められる謙虚な姿勢が必要。


ビジネスパーソン勝利の法則

たとえば営業に配属され、内向的な性格のせいで最初のうちは同期に差を付けられても、やがてはその内向性を生かした分析力を生かした提案型営業として成功する可能性がある。

だから弱気、人見知り、くよくよ気にするという性格でも、反省・熟慮・進歩を経て、情報収集・分析・企画力を生かして実績をつくれば、提案型営業ができる。

内向きな性格を、経験と工夫でカバーして、営業のエースになれるのだ。

コンピテンシーと適性の違い






出典:本書153ページ

昔のイチローのニッサンのコマーシャルではないが、「変わらなきゃ」が出来る人は、どんどん自分を変えていけるのだ。


課長になればリストラされない

中間管理職は転職はできないが、課長になればリストラされることは多分ない。

海老原さんの結論は、「30歳を過ぎているあなたは、目の前の階段をゆっくり上っていくだけで、いいんです。むやみに横道にそれるのは、百害あって一利なしです。とりわけ、日本はその傾向が強いですよ。」ということだ。

そして年代別に次の能力を身につけていくのだ。

キャリアを考える上で大切なこと





出典:本書160ページ

最後に筆者も好きなアップルのスティーブ・ジョッブスのスタンフォードでの卒業式スピーチを引用して、夢を求め続けること、そして目の前のことを真剣に毎日やることを勧めている。



ジョッブスのスピーチの日本語訳と日本語字幕のビデオが載っているブログを見つけたので、日本語版は参照してほしい。

結論は「目の前の仕事を真剣に取り組め」、つまり「一所懸命」という当たり前なことだ。

たとえば三木谷さんも「成功のコンセプト」で同じ事を言っている。

成功のコンセプト (幻冬舎文庫)成功のコンセプト (幻冬舎文庫)
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2009-12
おすすめ度:4.5
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三木谷さんは、興銀(現みずほコーポレート銀行)に入社し、最初は外国為替部というルーティンワークの典型のような職場に配属された。しかしクサらず、一所懸命仕事をこなし、効率を上げる努力をしたことが評価され、MBA留学生に選ばれ、ハーバードで学んだ。


奇抜なタイトルだし、書きっぷりも軽妙だが、内容は濃い。

なぜ今の仕事に真剣に取り組むことが社内での昇進に繋がるのか、なぜ社内調整役割が日本の会社でのキャリアーディベロプメントで重要なのかよくわかる。

30代といわず、20代の社員にも自分の会社でのキャリアディベロプメントの道筋を客観的に見るという意味で、お薦めしたい本だ。


参考になれば次クリック願う。




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