時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2011年01月

学歴の耐えられない軽さ 知らなかった新卒就職事情

年末のNHKの「日本の、これから」就職難をぶっとばせ!特別番組などで、若者の雇用問題について専門家として出演していた海老原嗣生さんの本を紹介する。

学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識
著者:海老原 嗣生
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-12-18
おすすめ度:4.0
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元リクルート「Works」編集長で、マンガの「エンゼルバンク」のカリスマ転職エージェント海老沢康生のモデルとなった人材コンサルティング会社ニッチモ社長の海老原嗣生(つぐお)さんの本。

エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(1) (モーニングKC)
著者:三田 紀房
販売元:講談社
発売日:2008-01-23
おすすめ度:3.5
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「やばくないか、その大学、その会社、その常識」という副題がついているので、てっきりトップクラス以下の大学の話かと思ったら、日本の新卒就職事情についての本だった。

ちょうど筆者の長男も大学3年生で、就活中なので、この本は大変参考になった。

アマゾンのなか見!検索に対応していないので、目次を紹介しておく。目次を読むとこの本の論点が大体わかると思う。

第1章 学歴のインフレーション

1.学歴と常識の間 ー 秋田県も知らない若手社員

2.12年にわたる野放し状態 ー 大学無試験化という危険な社会実験

3.早慶は昔の早慶ならず ー 数字が語る経営戦略と入学者の変容

4.禁断の偏差値トリック ー 一般入試でさえ、学力低下競争へ

5.お手軽入試、アカデミズムにも歪み ー 教科減・マークシートの影響

6.高校未履修問題の矛先を変えたマスコミ ー 罪深い進学校病

7.企業には「かつての学歴」がちょうど良い ー 大量優等生と少数異能

8.金の卵のために鶏を殺した大学 ー 拡大経営とブランド失墜

9.大学を「補習の府」に ー 再建のための秘策

第2章 人気企業が危ない

1.大学サークルに缶ビールを贈った大手企業 ー ランキング病?

2.秘技、旧帝大「生物、食品・農学部」卒 ー 採用実績校のお化粧

3.就活の縮図、インターンシップ ー 偏差値と人気ランキングの泥仕合

4.不吉な前兆? ー 人気ランキングに入った企業は衰退が始まる

5.奥田さんと稲盛さんと土光さんの正しい生き方 ー 不況期就職勝ち組

第3章 若者はけっこうカワイソウじゃない

1.就職氷河を厚くした玄田論文 ー 「過去企業への憧れ」という病根

2.就活期の景況で人生は決まらない ー 誰でも20代にチャンスは2回

3.「就社より就職」というウソ ー 13歳のハローワーク幻想

4.「総合職」という蜜の味 ー ”何でも屋”という誤った批判

5.答えは従業員150人の企業 ー 社内で再チャレンジできる最小単位

6.フリーターの尊厳をまず認める ー 脱フリーターという横暴


この本を読んで、大きな変化に気が付いていなかったことがわかった。


若者人口は減っているのに大学生は増えている

一つは19ー22歳の人口は1993年にピークを迎え、その後減少しているのに、大学の学生数は増加していることだ。

次はこの本に紹介されている統計だ。大学進学率が現在は50%を超えており、特に女性の大学進学率は筆者の学生時代の10%台から、3倍の44%となっている。

基礎人口と大学進学率推移














出典:本書70ページ

大学の数も増えており、これだけ大学生が増えたら学力の低い学生がいることはむしろ当然だろう。この本で紹介されているように秋田県の場所もわからない一流大学卒の社員が出てくることもうなずける。


新卒正社員採用数は減っていない

もう一つは新卒正社員採用数は増えており、新卒を非正規社員に置き換えるという動きはないことだ。

次がこの本で紹介されている新卒正社員の就職数推移のグラフだ。女性の新卒就職者が増えたので、全般的に新卒正社員数は増えている。

正社員就職数推移






出典:本書176ページ

筆者の会社でも女性の総合職が増えているが、思えば当たり前のことである。今や大学生のほぼ半分は女性なのだから。

筆者の学生の時は1,2年生のクラスは法学部と経済学部が一緒だったが、女子がゼロのクラスもいくつかあった。

女子が少ないので、まんべんなく割り振ると一クラスに1-2人になってしまうので、5人くらいまとめていくつかのクラスに集中的に割り振っていたからだ。今の学生には信じられない話だろう。


この本では雇用についての誤解をデータで反証している。たとえば:


★なぜ、若者は3年で辞めるようになったのか? - 若者は50年以上前から、3年で辞めている。

次がリクルートエージェント社が2007年に大卒ホワイトカラー5万人に実施した調査での年齢別転職経験者比率を示したグラフだ。

20代までに半数は転職を経験し、35歳以降はほぼ定着するという傾向は昔も今も同じだと海老原さんは語る。

大卒ホワイトカラーの年齢別転職経験者比率






出典:本書134ページ

★成果主義が普及して、職場が殺伐となった? - 成果主義とそれ以前で査定はほとんど変わっていない。

★就職氷河期の多くの人たちは世間の底辺で何を考えているのか? - 就職氷河期でも就職できた人が圧倒的多数。

新卒の求人倍率は常に1を超えており、中途採用者の倍率がめったに1を超えないことと際だったコントラストを成している。

今も昔も大変なのは転職や中途採用市場で、新卒ではないのだ。

新卒と中途の求人倍率推移



















★大企業が平気でリストラをする昨今、不安な熟年が増えている? - つぶれる寸前の会社でないとリストラはしない。

★不況だからこそ語学や資格を身につけキャリアを守るべきか? - 語学を身につけ資格をとってもキャリアの足しにはならない。


早慶の学生確保戦略

早稲田大学と慶應大学の入試方法、学部新設、定員数を分析して、それぞれの学生確保戦略を分析していて面白い。

早稲田大学は学部は新設しても定員は増やさず、一般入試定員を絞る方法で、人気と偏差値を高く維持している。

慶應大学は新規学部を開設して定員は増やしたが、試験方式を国立大学と併願しやすい方式を導入する方法で、同じく人気と偏差値を維持している。

どちらも少子化を乗り切り、高い倍率を維持しているが、学生の質はかつてと異なるという。

偏差値についても、筆者の学生時代の様に全受験者を一律の偏差値で比較するのではなく、試験科目ごとに受験校別の集団に分けて比較するので、同じテストの点数でも偏差値は異なる。

それを示したのが、次のグラフだ。

偏差値のしくみ






出典:本書43ページ

だから慶應の経済学部より法学部の方が偏差値が高いというのは、同じ母集団での比較ではなく、本来比較してはならないものを比較しているのだと。

いままであまり意識していなかった就職分野なので、大変参考になった。これから新卒就職戦線に参入する学生には、少なくとも社員150名以上の職種転換が可能な規模の会社に就職することを勧めている。

同じ企業での異動も含めてリベンジ転職のチャンスは35歳頃までに2回はあるという。その会社が20年後も一流企業である保証はないので、人気や待遇ではなく、「徹底的に社風で選ぶ」べきだと。


大変参考になったので、海老原さんの別の本、「雇用の常識『本当に見えるウソ』」も今度読んでみる。

雇用の常識「本当に見えるウソ」雇用の常識「本当に見えるウソ」
著者:海老原 嗣生
販売元:プレジデント社
発売日:2009-05-18
おすすめ度:4.5
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非常に参考になる本だった。もっと詳しく紹介したいところだが、本を読むときに興ざめなのでこの程度にしておく。

話題も豊富で飽きさせない。データを駆使して解説するという姿勢も好感が持てる。簡単に読めるので、是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリック願う。




プリンス近衛殺人事件 おどろくべきロシア小説

別ブログで西木正明さんの「夢顔さんによろしく」を紹介したので、同じ近衛文隆についてソ連側の資料をもとにしたロシア小説を当ブログで紹介する。


夢顔さんによろしく 上―最後の貴公子・近衛文隆の生涯   文春文庫 に 9-3夢顔さんによろしく 上―最後の貴公子・近衛文隆の生涯 文春文庫 に 9-3
著者:西木 正明
文藝春秋(2002-10)
販売元:Amazon.co.jp
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夢顔さんによろしく 下―最後の貴公子・近衛文隆の生涯   文春文庫 に 9-4夢顔さんによろしく 下―最後の貴公子・近衛文隆の生涯 文春文庫 に 9-4
著者:西木 正明
文藝春秋(2002-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

「夢顔さんによろしく」は大変面白いので、こちらもぜひおすすめしておく。

この「プリンス近衛殺人事件」もそうだが、資料を丹念に調べて、あたかも当時の場面を再現するように書いているのがすばらしい。

プリンス近衛殺人事件プリンス近衛殺人事件
著者:V.A. アルハンゲリスキー
販売元:新潮社
発売日:2000-12
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


近衛文麿の長男で、プリンストン大学留学の英才ながら2等兵として入隊し、砲兵中尉になったところで終戦。ソ連に抑留され、ついに帰国することなく1956年に死亡した近衛文隆を中心にソ連のシベリア抑留を描いたノンフィクション小説。

ベビーフェイスの陸軍士官姿の写真が表紙に載っている。

近衛文隆といえば、白洲次郎が「カンパク」と呼ぶ近衛文麿に頼まれて家庭教師のように面倒を見ていたことが「白洲次郎 占領を背負った男」にも紹介されている。

近衛文隆がシベリア抑留され、1956年に亡くなった時に、次郎は「ソ連の野郎、絶対にゆるさねえ!」と叫んだという。


著者はロシア人ジャーナリスト

この本の著者はプラウダと並ぶロシアの2大新聞のイズペスチャの元副編集長で、ウズベキスタン国会議員やタシケント市長も兼任したアルハンゲリスキー氏だ。

著者自身の父親、兄弟が対独戦争で行方不明となったが、どこで戦死したのかも一切分からないため、ジャーナリストという地位を利用して各地の公文書館で調査を重ねたが、結局消息はわからなかった。

その際、近衛文隆をはじめとする日本人抑留者のKGBでの証言記録や強制収容所抑留記録が見つかったので、数万点もの資料を集め、本にまとめたものだ。

邦訳で300ページ余りの本だが、原著はこの数倍におよぶところを訳者が編集したという。


「おどろくべき本」

訳者もあとがきで評しているが、まさに「おどろくべき本」だ。

門外不出のKGB機密文書が紹介され、近衛文隆、そしてスターリンに粛正された元大臣や高官などの牢獄での様子なども紹介されている。

スターリンの側近や息子も収容所送りの例外ではない。

たとえばナンバー2のモロトフ外相の妻もスパイ容疑で収容所に送られた。一時近衛文隆が収容されていたKBG本部ルビヤンカの隣の部屋には元国家保安相でKGBの創始者アバクーモフが収容されていた。

KGB_House_Main




ルビヤンカ(旧KGB本部)出典:Wikipedia

スターリン死後に権力を握ったベリヤはほどなく処刑され、中将にまでなったスターリンの次男も収容所に送られ、シベリアのウラジミール監獄で近衛文隆と会ったという。

007の「リビング・デイライツ」で、しょっぱなのジブラルタルでの英国諜報部員のトレーニング中にエージェントがロープを切られて殺されるが、そこに出てきた紙切れに書いた”スパイに死を(スメルチ・シピオーナム)”という言葉が「赤軍諜報本部=KGB」の事を指すことが初めてわかった。



抑留者を強制労働

この本の著者はロシア人だが、戦争捕虜の権利を保障したハーグ条約があるにもかかわらず、ソ連だけが日本、ドイツなどの捕虜をシベリア抑留し、鉄道建設などの強制労働に使ったことが告発されている。

日本のシベリア抑留者の数は、一般的に言われている65万人という数字はデタラメで、実際には100万人以上が(300万人という説まである)抑留されていたこと、抑留者の死亡者は約37万人で、最初の1945年だけで夏服で掘っ立て小屋のラーゲリ(収容所)に収容された日本人が27万人も死亡したことなどがKGBや旧ソ連の政府資料などを中心に立証されている。

さらに抑留者のみでなくソ連の政府高官までも粛正され、一説には1,200万人のロシア人が”スターリン粛正”で処刑されたという。

スターリン他のソ連首脳の会話などは、一部は小説の形式を取っているが、大半の部分が著者が調べたKGBや当時の政府の秘密資料に基づいているノンフィクションである。

近衛文隆が亡くなったのは終戦後11年も経った1956年だ。

日本では近衛文隆返還運動まで起こり、鳩山一郎首相がソ連と交渉して、近日中の帰国が予想されていただけに、脳出血によるあっけない死にはたしかに疑問が残る。

著者のアルハンゲリスキー氏は、関東軍の高級将官の多くが、脳出血が理由で死亡している事実を指摘し、KGBは自分たちの意のままに操れない人物、反ソ連的思想がある人物を脳出血で葬ったのではないかと語る。

KGBは近衛文隆に共産主義への洗脳を試みたが、近衛がそれに応じないのを見て、このまま日本に返すと、やがては父の後を継いで政治家となり、反ソ連勢力となることを恐れた。

だから近衛文隆の帰国が時間の問題になってきたタイミングで、近衛を脳出血で殺したのではないかと。

死の直前に書いた日本への手紙数通が紹介されている。

日本から缶詰とか食料などの差し入れが可能となったので、最近は収容所生活で太ってきたとか、日本に帰ったらゴルフをやりたいとかと書かれている。

真実は今となっては永遠にわからないままだが、たしかに死の直前の奥さんや弟宛の手紙にコーヒーを送ってくれとかPSで書き添えているところを見ると、とてもすぐに病気で死亡するような状態とは思えない。

同じ収容所にいた元関東軍将軍も、近衛文隆が高熱が出て激しい頭痛を訴え、そのまま帰らぬ人になった様を報告している。

死亡診断書が残されているが、署名者からいってもそれは死亡直後のものでなく、近衛正子夫人がソ連を訪問して遺骨を引き取ることが決まってから急遽作成されたものに違いないという。

こんな話を読むと、今の北朝鮮が日本の拉致被害者に旧ソ連のKGBと同じことをしているように思われてならない。横田めぐみさんはじめ、他の拉致被害者も脳出血などの形で、北朝鮮に葬られたのでなければ良いのだが…。


著者アルハンゲリスキー氏の提言

最後に著者のアルハンゲリスキー氏は、シベリア抑留は旧ソ連の違法行為であり、日本政府は次の10ヶ条を要求すべきだと締めくくっている。

1.日本は自発的に武器をおいた。ロシア国会は関東軍を捕虜にした事実を公式謝罪する。

2.対日戦勝日(9月3日)を廃止する。あったのはソ連の対日侵略行為のみである。

3.「シベリア抑留白書」を刊行する。

4.暴力的にソ連国内に拉致された日本軍人、市民は強制抑留者であることを認める。

5.ソ連復興における日本人の勤労貢献に関する公式データを発表し、元抑留者や遺族に補償する。

6.すべての日本人墓地を整備し、死者の名前を入れた墓標を建立し、死亡者名簿を渡す。

7.おおむね日本人の手によって建設されたバイカル・アムール鉄道を日本幹線と改称する。

8.ハバロフスク裁判などの日本人に対する裁判は国際法上違法であり、全被告の名誉回復を行う。

9.近衛文隆関連の文書をすべて公開し、記念館を建て、KGB拷問室での近衛文隆の物語を刊行し、映画化する。近衛文隆を殺した犯人に対する国際裁判を開廷する。

10.しかるべき研究機関にシベリア抑留問題に関する文献を集めさせ、研究・発表させる。

日本の対ロシア平和条約は北方領土問題の根本的解決のみならず、シベリア抑留問題の解決がないとあり得ないことだと著者は語る。

今のロシア人の大半は、北方領土は太古よりロシア領であり、それが日露戦争で日本に武力で奪われたというウソの歴史を教え込まれ、信じ切っている。

日本側もこの誤解を解く努力をしていないので、100年くらいは北方領土問題は解決が難しいだろうと語る。

一方シベリア抑留問題は、国家秘密であったので多くのロシア人が問題の存在自体を知らなかった。

しかし事実が公表されれば、過去において自国政府が行った非人道的行為を理解するだろう。

収容所群島の犠牲者という意味では、今のロシア人も同じだと。


近衛文隆の話は決して忘れてはならないことだ。その意味で、劇団四季がミュージカル化したのは、すばらしいことだと思う。

このミュージカル「異国の丘」は、最近DVDも発売された。

劇団四季 ミュージカル 異国の丘 [DVD]劇団四季 ミュージカル 異国の丘 [DVD]
出演:劇団四季
販売元:NHKエンタープライズ
発売日:2009-01-23
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この中では近衛文隆が作曲した”苦難に堪えて”という歌も歌われている。

筆者も一度見てみようと思う。

ロシア人が悪いのではない、旧ソ連という人非人国家があったのだ。多くのロシア人も同じような被害を被っている。

ノーベル賞受賞作家のソルジェーニツィンもシベリア送りになり、出所後「収容所群島」を書いているので、今度読んでみようと思う。

収容所群島(1) 1918-1956 文学的考察収容所群島(1) 1918-1956 文学的考察
著者:ソルジェニーツィン
販売元:ブッキング
発売日:2006-08-03
クチコミを見る


ロシア人もソ連の強制労働の被害者であることがわかっただけでも読んだ意味があると思う。

2000年出版の本で絶版になっているが、アマゾンで1円で古本を買えるし、図書館でも借りられると思うので、ぜひおすすめする。


参考になれば次クリック願う。




生物と無生物のあいだ ベストセラーのポスドク賛歌

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
著者:福岡 伸一
販売元:講談社
発売日:2007-05-18
おすすめ度:4.0
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2007年発刊の本ながら、いまだにアマゾンのベストセラートップ1,000位に入っている分子生物学者の福岡伸一青山学院大学教授の本。

たぶん累計では100万部くらい売れているのではないかと思う。

本の帯には各界のいろいろな人からの推薦文が紹介されている。(2009年後半の時点での推薦文)

推薦文









筆者は昔はブルーバックスなどを時々読んでいたが、最近は科学系の本は「日本は原爆爆弾をつくれるのか」以来読んでいなかったので、久しぶりに読んだ科学の本だ。

これを機にブログにも「科学」というカテゴリーを新設した。

福岡さんは新書大賞とサントリー学術賞をダブル受賞していることでも分かる通り、この本は科学の本というよりは、本の帯にある「極上の科学ミステリー」といった感じの本で、エンターテインメント性を追求し、非常に読みやすく、わかりやすい。

筆者がひさびさに読んでから買った本だ。


ウィルスには生命の律動がない

現在新型インフルエンザがはやっているが、この本は昔読んだ岩波文書と同じ「生物と無生物の間(あいだ)」という題だったので、てっきりウィルスについての本かと思った。

生物と無生物の間―ウイルスの話 (岩波新書 青版 245)生物と無生物の間―ウイルスの話 (岩波新書 青版 245)
著者:川喜田 愛郎
販売元:岩波書店
発売日:1956-07
クチコミを見る

ウィルスは代謝なし、呼吸なし、結晶化も可能で、限りなくミネラルに近い存在である。しかしウィルスは自己増殖する。この不可解なウィルスを生物とするか無生物とするかで長年、論争がある。

福岡さんはウィルスを生物であるとは定義しない。福岡さんは生物と無生物の間にどのような界面があるのかを、この本で定義したいと語る。それはいわば「生命の律動」であると。いかにも文学的な、わかりやすい表現だ。


この本の目次がふるっている

この本の目次がいかにもふるっている。とても科学書とは思えない目次だ。この本はアマゾンのなか見検索にも対応しているのでここをクリックして、是非目次を覗いてみて欲しい。

第1章  ヨークアベニュー、 66丁目、 ニューヨーク

第2章  アンサング・ヒーロー

第3章  フォー・レター・ワード

第4章  シャルガフのパズル

第5章  サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ

第6章  ダークサイド・オブ・DNA

第7章  チャンスは、準備された心に降り立つ

第8章  原子が秩序を生み出すとき

第9章  動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か

第10章 タンパク質のかすかな口づけ

第11章 内部の内部は外部である

第12章 細胞膜のダイナミズム

第13章 膜にかたちを与えるもの

第14章 数・タイミング・ノックアウト

第15章 時間という名の解(ほど)けない折り紙

「細胞膜」と言う用語が出てくるので、生物学の本だということがわかるが、それを除くと、まるで小説のチャプターのような目次である。


研究者にスポットライト

文章のうまさとタイトルの奇抜さもさることながら、この本の特徴は研究者に注目して生化学反応の原理探求を描いていることだ。

普通、科学の本はどういった反応が起こったかを、しとうと読者にわかりやすく説明しようと反応の原因解説が中心だ。読者にわかりやすく解説しようとする著者の親切心の現れともいえる。

読者としては反応がなぜ起こったのかについての知識は得られるが、研究者の人現像や、実験の過程で研究者がどんな点に工夫したかについてはあまり説明されていないことが多い。

ところがこの本では研究結果もさることながら、研究者の方にスポットライトが当たっており、実験者の人物像や試行錯誤の過程が詳しく説明されているので、しろうとにも実験の難しさと、その実験が成功したときの達成感や意義がわかりやすい

最もよい例が第2章アンサング・ヒーローだ。

アンサング・ヒーローとは、人知れず偉大なことを成し遂げた人のことで、福岡さんは「縁の下の力持ち」と言っている。この場合はDNA=遺伝子だと世界で最初に気づいたオズワルド・エイブリーという科学者のことだ。

エイブリーは福岡さんも勤務したニューヨークマンハッタンの一番東寄りのヨークアベニューと66丁目の交差点付近にあるロックフェラー大学研究所に1913年から定年退官する1948年まで35年間勤務していた。

ロックフェラー大学研究所にはかつて野口英世も在籍し、数々の研究成果を発表したが、その発表の大半は現在は誤りであったとされている。

ヨークアベニューと66丁目というのはマンハッタンのちょうどクイーンズボロブリッジあたりで、ユニバーサルスタジオのアトラクションでキングコングが攻撃するケーブルカーがあるあたりだ。

筆者はピッツバーグに合計9年間駐在したので、ニューヨーク出張の帰りにマンハッタンからレンタカーでラガーディア空港に向かう時は、ちょうどこのあたりからからFDRドライブに入ってトライボロブリッジを通って、空港まで行っていた。

そんな有名な研究所があったとは全く知らなかった。

エイブリーがDNA=遺伝子という発見をしたので、その成果を元に1953年にイギリスの若いジェームズ・ワトソンフランシス・クリックがDNAはらせん構造をしているという事実を発表し、後にノーベル賞を受賞した。

1953年に"Nature"に発表されたわずか1.5ページのワトソンとクリックの歴史的論文が、この本に紹介されている。

watsoncrickpaper







出典:本文107ページ 原文はNatureサイトで閲覧可


ワトソンもクリックも次の本を読んだことが、生命を研究するきっかけとなったと語っているので、一度読んでみようと思う。

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)
著者:シュレーディンガー
販売元:岩波書店
発売日:2008-05-16
おすすめ度:5.0
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ちなみにノーベル賞のサイトでは二重らせん構造のDNAを福岡さんがフォー・レター・ワードと表現するACGTでつくるゲームがあるので、一度見て欲しい。

ポスドク賛歌

この本ではこういった華やかな成果発表を支え、来る日も来る日も地道な実験を繰り返すポスドク(博士課程を卒業した研究者)やラボテクニシャン(補助研究者)の様々な試行錯誤にスポットライトを当てている。

福岡さん自身が米国のポスドク研究者だったので、ポスドクの役割である数々の下準備や、実験の工夫などがわかりやすく紹介されていて面白いストーリーとなっている。何人かの評者が「科学ミステリー」と呼ぶゆえんだ。

たとえば「内部の内部は外部だ」という題で、膵臓の細胞が消化酵素を分泌する動きが次の図で説明されている。非常にわかりやすい。

cell











出典:本文200ページ

「サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ」も面白い。特定のDNAを増殖するPCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション)マシンの発明をひらめいたサーファー科学者キャリー・マリスのことだ。

ポスドクのことを自虐も含めてラボ・スレイブと呼ぶそうだが、理系の学生にとって、この本は希望とやる気を与えてくれるだろう。

ポスドクは就職戦線では非常に厳しい状況にある。小宮山前東大総長の「東大のこと教えます」という本で、東大が就職部をつくったのは東大でも留学生やポスドクは就職が難しいからだと書いていたことを思い出す。

東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」
著者:小宮山 宏
販売元:プレジデント社
発売日:2007-03
おすすめ度:4.5
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動的平衡

動的平衡とは、体の細胞を構成するタンパク質・アミノ酸が数日間ですべて新しいものに置き換わることであり、それゆえ生命は動的平衡にある流れであると定義できるという。

マーカーで染色されたアミノ酸入りのえさを食べた大人のネズミを解剖して器官を調べたら、アミノ酸は体内のあらゆる細胞に行き渡っていた。生物のあらゆる細胞は短期間にすべて新しいものに置き換わるのだ。


生命は機械ではない

この本の最も印象的な実験が、GP2という細胞膜をつくるタンパク質を持たないGP2ノックアウトマウスを使った実験だ。

まずはGP2遺伝子を欠損させたES細胞(なんの器官にもなるオールマイティ細胞)をつくり、マウスの胚に流し込むと、ES細胞は胚の一部となり、やがてGP2遺伝子ノックアウトマウスが誕生する。

福岡さんははやる思いでGP2ノックアウトマウスの組織を調べたら細胞膜に異常はなく全く正常だったという。


生命には時間がある

次は狂牛病を引き起こすプリオンタンパク質をノックアウトしたマウスだ。

プリオンタンパク質の異常は狂牛病を引き起こすので、プリオンタンパク質ノックアウトマウスは狂牛病になると予想されたが、実際には正常だった。

それではということで、今度は遺伝子の1/3を欠損したプリオンタンパク質をプリオンタンパク質ノックアウトマウスにもどしたら、マウスは狂牛病を発症した。

GP2を完全にノックアウトしたマウスはGP2がなくとも正常に生き、遺伝子を部分的に欠損したノックアウトマウスは異常を発症した。

福岡さんはこの現象について、「生命には時間がある。その内部には常に不可逆的な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度、折りたたんだら二度と解くことができないものとして生物はある。」と語る。

GP2ノックアウトマウスは動的平衡のなかで、GP2遺伝子の欠損を見事に埋め合わせたが、あとから遺伝子の欠陥をつくると、生命の動的平衡は失われるのだ。


生物と無生物の境界はまだ解明されていないが、この本を読んで生物と無生物の境界がミステリー仕立てで、なんとなく理解できたような気がする。

科学書を読むと、いつも感じた読後不満足感がない。大学生の息子にも勧めた。小説のように一気に読めるので、是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリック願う。




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