時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2010年09月

いわゆるA級戦犯 考えさせられる東京裁判論

A級戦犯についての小林よしのりのマンガを一つの見方として紹介する。

いわゆるA級戦犯―ゴー宣SPECIALいわゆるA級戦犯―ゴー宣SPECIAL
著者:小林 よしのり
販売元:幻冬舎
発売日:2006-06
おすすめ度:4.5
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2006年6月の日経新聞が昭和天皇はA級戦犯合祀に憤り、靖国神社参拝をやめたという側近のメモを明らかにした。

天皇がA級戦犯合祀を機会に靖国参拝をやめたことは、大前研一などは著書で以前からふれており、知られざる真実というわけではない。

(もっとも小林よしのりは別の本で、天皇が靖国参拝をやめた理由は、三木首相の『私的参拝』発言により、公式参拝ができなくなったことが理由であるとしているが)

その問題のA級戦犯とはいったいどういう人たちなのか、どのように選ばれたのか、またなぜA級戦犯となったのか、そもそも東京裁判とはどういった法的根拠で行われたのか、といった余り知られていない事実をこの本では明らかにする。

小林よしのりは、この本の帯で「日本に、A級戦犯などいない」と断言する。

東条英機ほか27名はえん罪であると。A級戦犯のリストは次の通りだ。

A級戦犯全員のリスト:

処刑された人:

東条英機首相
広田弘毅首相
板垣征四郎陸軍大将
土肥原賢二陸軍大将
木村兵太郎陸軍大将
武藤章陸軍中将
松井石根陸軍大将

獄死した人:

松岡洋右外相
永野修身軍令部部長
東郷茂徳外相
白鳥敏夫駐イタリア大使
梅津美治郎陸軍大将
小磯国昭首相
平沼騏一朗首相

名誉を回復した人:

重光葵外相
大川周明
木戸幸一内大臣
荒木貞夫陸軍大将
南次郎陸軍大将
畑俊六陸軍元帥
橋本欣五郎陸軍大佐
佐藤賢了陸軍中将
大島浩駐ドイツ大使
嶋田繁太郎海軍大将
岡敬純海軍中将
鈴木貞一陸軍中将
星野直樹満州国総務長官
賀屋興宣蔵相

「連合国から与えられた『戦犯』の観念を頭から一掃せよ」とのインドのパール判事の言葉を引用し、小林よしのりは戦犯の観念を払拭しない限り、日本民族の独立はないと訴える。


東京裁判が不当だとする根拠

理由は戦争を犯罪とする法律はいまだにないことだ。

戦争自体は犯罪ではないが、戦争中に何をやっても良いという訳ではなく、戦時国際法で交戦法規を定めた。これは次の4点からなる:

1.一般住民、非戦闘員に危害を加えてはならない。
2.軍事目標以外を攻撃してはならない。
3.不必要な苦痛を与える残虐な兵器を使ってはならない。
4.捕虜を虐待してはならない。

この基準からすると、アメリカの原爆投下が1.2.3.に違反していることは明らかである。

しかし捕まりさえしなければ、戦争犯罪を犯しても一切裁かれることはなく、戦勝国の戦争犯罪人は一人として裁かれなかった。

東京裁判は、敗戦国だけを、『事後法』で当時はまだ犯罪とされていなかったことも、さかのぼって裁き、一方戦勝国については、明白に国際法に違反した戦争犯罪も全て不問にしたものであると。

判事はすべて戦勝国あるいはその植民地の人間で、敗戦国はおろか中立国からも一人の判事も出ていない。

しかも日本とは中立条約を結び、敗戦が決定的となった段階で参戦してきたソ連までもが戦勝国として東京裁判に判事を派遣している。

東京裁判の根拠は、極東国際軍事裁判所条例(チャーター)というマッカーサーの発した命令であり、国際法上の根拠があるものではない。


東京裁判の判事は?

11名の判事の中で、法律家はオランダのレーリンクとインドのパール判事だけで、他の9名の判事はマッカーサーの傀儡だった。

特にインドのパール判事は、このようなチャーターに拘束されるならば、東京裁判は司法裁判でなく、たんなる権力の表示のための道具であり、復讐の欲望を満たすために法的手続きをふんでいるようなふりをするものに他ならないと痛烈に批判した。

パール判事の判決は全員無罪であったことが知られているが、それは裁判自体が無効ならば日本に有罪を下す必要も無いという理由からである。

「ハル・ノートのようなものをつきつけられれば、モナコ公国やルクセンブルク大公国でさえ戦争に訴えただろう。」というパール発言もよく知られている。

一面の真実ではある。

当時軍国主義一色に染まっていた日本が、違う道を通れたのかは疑問が残るが、天皇は東条英機に戦争回避を指令し、最後まで交渉を続けていたところ、ハルノートを突きつけられ、日本は開戦を決意したことは間違いない。


A級戦犯はどうやって決定されたのか

開戦を決定した時の首相がA級戦犯の代表格である東条英機だ。

その東条が、開戦前夜に天皇の意志に答えられなかったことを悔い、これから起こる惨劇を思って皇居に向かって号泣していたという。

A級戦犯のリストも、マッカーサーの指令に基づき、あわただしくリストアップされたものだ。

当初は大東亜会議に参加したフィリピンのラウレル大統領や、ベニグノ・アキノ国民議会議長(暗殺されたアキノ氏の父)、ビルマ独立義勇軍のオン・サン将軍(アウン・サン・スーチーさんの父)なども含まれており、植民地を独立させる運動に加わった中心人物もリストアップされていた。

日本が焚き付けたアジアの独立運動を、やっきになって押さえつけようとする植民地支配国の論理=太平洋戦争の性格がはっきり出ている戦犯リストである。

100名ものリストとなったものを、マッカーサーが任命したキーナン主席検事が日本人に絞ってA級戦犯とし、さらに復讐に燃えるソ連により元ソ連大使の重光葵と関東軍司令官の梅津美治郎が入れられ28名となった。

東京裁判とはそんな戦勝国の報復行為であり、1061人が処刑されたBC級戦犯に至っては、まさに報復行為の性格が強い。


共同謀議による平和に対する犯罪?

マッカーサーが出した東京裁判の条例では、ドイツのニュルンベルグ裁判所条例をそのまま適用していた。ニュルンベルグ裁判の戦争犯罪の分類は次の通りだ:

1.平和に対する犯罪
2.通常の戦争犯罪
3.人道に対する犯罪

しかしドイツでは1933年以来ヒットラーが首相となり、敗戦まで一貫して独裁体制を維持していたので、ナチスの共同謀議が成立したが、日本の場合には歴代の内閣が違い、方針も違うので、共同謀議は成立しないと思われた。

それゆえ検察団は「1928年から1945年までA級戦犯が共同謀議して、一貫して満州、中国、東南アジア、太平洋、インド洋地域を侵略、支配すべく陰謀を企て、実行した」というストーリーをつくりだし、平和に対する犯罪を追求することにした。

また天皇の戦争責任を追求しないというのも、マッカーサーの指示した方針で、これに従ってキーナン主席検事は、天皇の意志に反して軍部が戦争を遂行したというストーリーをつくりだした。


朝日新聞などのマスコミを痛烈に批判する小林よしのり

この本のなかで、小林よしのりは朝日新聞や読売新聞などの大新聞を左翼マスコミとして痛烈に批判している。

特に東京裁判の有効性の根拠として挙げられる昭和27年のサンフランシスコ平和条約11条は、東京裁判の判決を受諾するという意味であり、裁判自体は不当だが判決には従うということだと。

さらに昭和28年には国会議員が全員一致で遺族援護法を改正し、「もはや日本にはA級戦犯などいないのであって、彼らは国内法においては犯罪者ではない」という認識が成立していた。

だからいまさらA級戦犯などと呼ぶこと自体が不当であり、それゆえこの本のタイトルも『いわゆる』とつけたのだと。

筆者は朝日新聞を読んでいるが、小林よしのりがこの本で指摘している様な事実も頭に入れた上で、首相の靖国参拝や中国・韓国の靖国参拝批判、A級戦犯合祀等の問題を考えて、自分なりの意見を持つ必要性を強く感じた。

変に感化されないように注意して読むべき刺激的な本ではあるが、マスコミが取り上げない事実を取り上げて、考えさせられる題材を提供している一読に値する本だと思う。


参考になれば次クリック願う。



日本の戦争力 軍事評論家小川和久氏の事実に基づいた現状分析

終戦記念日前後の戦争・自衛隊特集の最後は、今も活躍する軍事評論家小川和久さんの本だ。元々は2005年に出た本だが、昨年文庫化された。

日本の戦争力 (新潮文庫)日本の戦争力 (新潮文庫)
著者:小川 和久
販売元:新潮社
発売日:2009-03-28
おすすめ度:4.5
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小川さんは、「はじめに」で政治家に提言する。「日本はどうして、国家の総力を挙げて世界の平和と日本の安全を実現しようとしないのか」と。

日本は十分な「戦争力」が備わっている。この本は『孫子』のいう「百戦百勝は、善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり」という兵法の「戦わずして勝つ」ための極意について考えようという試みであると。

たしかにこの本を読むと、日本の「戦争力」を持ってすれば北朝鮮に「戦わずして勝つ」こともできると思えてくる。


自衛隊の「戦争力」

1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争については『戦略の本質』の中で紹介したが、自衛隊は朝鮮戦争勃発直後の7月8日に『警察予備隊』として誕生し、1954年7月に正式に防衛庁が設置され、陸・海・空自衛隊が発足した。

自衛隊の戦力については『その時自衛隊は戦えるか』で詳しく紹介した。

この本で小川さんは、よくいわれる「自衛隊の実力は世界第何位」という質問は意味がないと断じる。

軍事費比較では、GDPが世界2位で、人件費が高く、コストが何倍掛かっても国産兵器にこだわる自衛隊は必ずトップクラスになるのだと。実際、防衛費のうち、給料と食費が44%を占めている。

自衛隊は対潜水艦戦闘能力、掃海能力では世界トップクラスだが、他は大したことがない。水泳だけ得意なトライアスロン選手の様なものなので、諸外国軍隊とは比較にならないと語る。

ちなみにドイツは国防軍を持っているが、タイガー戦車以来の伝統で、世界最高のレオパルトII戦車を多数配備し、陸軍中心の構成で、旧共産圏からの侵略に対抗する防波堤となっている。

しかし戦時中のU-ボートの悪夢を断つということで、ドイツの潜水艦は500トン以下に制限されているので、ドイツ海軍はほとんど骨抜きのアンバランスな戦力となっている。

自衛隊は専守防衛なので、決定的に欠けているのはパワープロジェクション能力である。これは核兵器なら敵国を壊滅させることができる能力、通常兵器であれば数十万の軍隊を上陸させ敵国を占領できる能力であり、核攻撃あるいは侵略能力である。

小川さんは、日本は自衛隊にはパワープロジェクション能力がないと世界にアピールし、諸外国からの軍国主義の復活とかの批判にちゃんと反論すべきだと語る。


日米安保条約の片務性

日米安保条約では日本に対する武力攻撃への米軍の来援は明記されているが、アメリカに対する攻撃に対しては規定されていない。憲法9条の規定もあり、日本はアメリカを武力支援できない。

このことから、「片務的な日米安保は正常な同盟関係ではない。日本は成熟した同盟国としてちゃんと防衛分担を果たせ」という議論がでている。

しかし小川さんは日米安保条約があるから、アメリカは世界最大の補給基地を安心して置けており、日本抜きではアメリカの世界戦略は成り立たないのだと語る。

筆者はこれを読んで、以前、中曽根首相が、当時のレーガン大統領に言ったという「日本は浮沈空母(unsinkable aircraft carrier)だ」という言葉が、実は非常に当を得ていることを思い出した。さすが元軍人の中曽根首相だけのことはある。

まずは燃料備蓄だ。日本はペンタゴン最大の燃料備蓄ターミナルで、鶴見と佐世保の備蓄でアメリカ第7艦隊は半年戦闘行動ができる量である。

アメリカが引き揚げたフィリピンのスービックベイの備蓄能力は佐世保の半分以下だった。

次に武器弾薬だが、アメリカは広島に3箇所、佐世保、沖縄嘉手納に弾薬庫を持ち、広島県内の弾薬庫だけで、日本の自衛隊が持っている弾薬量を上回る。佐世保には第7艦隊用の弾薬庫。嘉手納にはこれらを上回る米軍最大の弾薬庫がある。

さらに通信傍受設備も世界最大級だ。『象のオリ』と呼ばれる電波傍受用アンテナは三沢にあるものは直径440メートル、高さ36メートル。周辺にも14基のアンテナ群がある。沖縄には直径200メートル、高さ30メートル。東京ドームと同じ大きさだ。

三沢にある世界最大級の設備は、英語圏5カ国以外には秘密とされているエシュロン活動の一端を担っているともいわれている。

アメリカ本土の延長のように、虎の子の燃料と弾薬を備蓄し、世界最大の第7艦隊の母港を置き、いざとなったら高度の補修ができ、最高機密の通信傍受設備も安心して置けるという国はアメリカにとって日本だけと言っても良い。

だからアメリカ政府の高官は「日本はアメリカの最も重要な同盟国である」としばしば発言するのだと。

前述の様に日本自体はパワープロジェクション能力はないが、日本が米軍のアジアにおけるパワープロジェクションプラットフォームになっているのだ。

日本で米軍が事件や事故をおこすと、アメリカはただちに最高の顔ぶれで謝罪する。他の同盟国ではありえないことだと。アメリカの側から見た日米同盟の重要性を象徴していると小川さんは語っている。

以前関榮次さんの『日英同盟』を紹介し、関さんが最も伝えたかったのは日米安保条約の再考ではないかと紹介した。

小川さんも「日米安保が片務だから、多くの日本人が錯覚から生まれた劣等感を抱いているが、日本列島に展開する米軍とは?その基地を置くアメリカの世界戦略は?と検証していけば、それが錯覚に過ぎないことが明らかになる」と説いている。

全世界でアメリカと対等な安保条約を結ぶ同盟国は存在しないのだ。

日本は毎年思いやり予算の2,000億円だけでなく、基地の賃借料、周辺対策費等各種費用もふくめて年間6,000億円を負担しているのだと小川さんは指摘する。

先日沖縄の海兵隊基地をグアムに移転する費用を6,000億円負担する政府間合意がなされたが、これは上記の年間6,000億円に加えての話であり、日米安保条約では日本が米軍基地移転費用を負担しなければならない義務はないという事実を知っておく必要がある。

日米はお互い不可欠のパートナーでもあり、日米安保体制を現在の世界情勢をふまえて、見直す必要があると筆者も考える。


北朝鮮の「戦争力」

小川さんは北朝鮮脅威論は木を見て森を見ない議論であると切り捨てる。

日本には日米安保条約という日本の安全保障を守るシステムがある。くわえて韓国には今も国連軍(400名ほどだが)が駐在しており、北朝鮮が先制攻撃を仕掛けてきたときには、1953年以来続いている休戦協定違反ということで国連軍が反撃できるのだ。

北朝鮮は国連軍からは先制攻撃はできないとタカをくくっていたが、イラク戦争以降、ブッシュ大統領がテロ支援国家には米軍は先制攻撃も辞さないと発言したことで、恐怖にかられ、それが2002年9月の小泉訪朝、日朝平壌宣言が実現する要因となった。

北朝鮮は核兵器を数個持っているにしても、ミサイルに搭載可能なほど小型化はできていないと見られる。今の北朝鮮のミサイルは通常弾頭だけだろうと小川さんは説く。

もし北朝鮮が日本にミサイルを撃ってきたら、米軍がそれの何十倍もの正確無比のトマホークミサイルを北朝鮮にぶち込むので、ミサイルを撃つ=国家の消滅となる。

そもそも燃料がなく、戦車も航空機も四世代前のものしかない北朝鮮は、兵器の数だけ揃えても、米軍の最新兵器には歯が立たない。

ミサイルを一発でも撃てば北朝鮮は一巻の終わりなので、ビビって虚勢だけなのだから、そのことをわかって、アメとムチの外交を進めるべきであることを小川さんは説く。

大前研一も『私はこうして発想する』のケーススタディで挙げていたが、金正日には選択肢はないのだということが、小川さんの議論からもよくわかる。

この本の帯に「目からウロコ!これが日本の実力だ!!」というキャッチがあるが、むしろ在日米軍、北朝鮮軍の実力がわかりやすく解説してあり、結果として日本の「戦争力」がわかるという構成だ。

さすがに売れっ子の軍事評論家だけのことはある。一読に値する防衛論だ。


参考になれば次クリック願う。





日本の防衛戦略 昨年亡くなった軍事評論家江畑謙介氏による防衛力分析

日本の防衛戦略日本の防衛戦略
著者:江畑 謙介
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2007-07-27
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昨年亡くなった軍事評論家の江畑謙介氏による日本の防衛力の分析。豊富な資料・写真が載っていて、わかりやすい。

前回紹介した「その時自衛隊は戦えるか」はどちらかというと自衛隊の戦力を肯定的に書いているが、江畑さんの本ではむしろ弱点の指摘が多いので、両方比べて読むと自衛隊の実力の実態がわかると思う。


自衛隊の装備に対する考え方

自衛隊は導入の時には世界最高のモデルを求めるが、一度導入されると改良努力がほとんどなく、時代の変化にあわせて戦闘能力を強化し、抑止力を高めようという努力がほとんどなされていない。

一例として戦車が取り上げられている。

戦後初の国産戦車61式戦車は1961年(昭和36年)の配備後、アクティブ赤外線投影装置が一部戦車に追加された他は30年間ほとんどなにも改良がなされなかった。

ちなみにアクティブ赤外線投影装置は、今では自分の居場所を敵にあかすこととなるので、ほとんど自殺行為だ。

61式戦車は設計からして朝鮮戦争時代の90ミリ砲を搭載した車高の高い設計で、構想当時からソ連の中心戦車T−55の車高の低さと100ミリ砲に劣っていた。

さらに実戦配備直後にソ連は貫通力の高い115ミリ滑腔砲(かっこうほう)を搭載したT−62戦車を導入し、61式戦車はアウトレンジされることになった。途中で105ミリ砲に換装することも検討されたが、実施されなかった。

結局2世代あとの90式戦車で、120ミリ滑腔砲を導入してロシアの主力戦車と同等の装備となった。

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写真出典:Wikipedia

さらに問題は射撃制御装置で、61式戦車はステレオ式光学式(要は幅1メートルの双眼望遠鏡?)のままで、その後中国軍も装備したレーザー測遠機すら装備せず、命中精度の改善はなされなかった。


RPG(携帯式ロケット砲)対策も不在

大砲の大きさも、射撃制御装置も湾岸戦争やイラク戦争の様な対戦車戦以外では致命的な差は出ないかもしれないが、近年では北朝鮮などのテロ勢力が日本に侵入し、戦車がそれを制圧するという局面は予想される。

このブログでも紹介した村上龍の「半島を出よ」が、まさにこのストーリーだ。

北朝鮮の不審船の乗組員が携帯式ロケット砲を、自衛隊の船に向けてぶっぱなした(命中はしなかったが)光景は、テレビで繰り返し報道されたので、記憶されている人も多いと思う。

ゲリラなども必ずといっていいほど携帯式ロケット砲を持っている。

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写真出典:Wikipedia

そんなときには戦車の相手はRPGと呼ばれる携帯式対戦車ロケット砲となり、これに対する備えは装甲の強化が重要だ。

しかし自衛隊の戦車は61式戦車も、その次の74式戦車も他国のように装甲を増着して対RPG防御力を向上させる改良をしていない。

この手の装甲では、イスラエルなどの実戦経験豊富な軍隊の戦車に取り入れられているERAと呼ばれる爆発反応装甲や90式戦車に取り入れられた最新式のセラミックを取り入れた複合装甲などがある。

ロシア、イスラエルや米国の戦車の写真を見ると、やたらと箱が車体に貼り付けてあるが、これが増着装甲だ。不格好だが、重量をあまりふやさずに防御力の強化ができる点で実戦的だ。

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写真出典:Wikipedia


日本の武器の欠点

この本では江畑さんの武器に関する深い造詣に基づき、興味深い事例がいくつも指摘されている。

・航空自衛隊の輸送機には、ミサイル誘導妨害装置がなかったので、イラク派遣が決まったときに急遽購入して付けた。スティンガーなどの携帯式対空ミサイルが普及しているので、誘導妨害装置は必須だ。

・北朝鮮の不審船対策で導入した はやぶさ型ミサイル艇や、水中翼ミサイル艇は、停船勧告に有効な遠隔操作の中口径機関砲がない。20MMバルカン砲は強力すぎ、76mm砲も船を沈めてしまう。

 12.7MM重機関銃は装備できるが、威力不足で、しかもマニュアル操作なので、敵の反撃に遭うと射手が危険にさらされる。

・水中翼艇は、荒れた海では停船ができない。つまり海が荒れると海上臨検とかはできない。

・日本では人的ロスを減らせる無人攻撃機や無人偵察機の導入は遅れている。米軍やイスラエル軍で重用されているプレデター等の無人偵察・攻撃機の導入はやっと2007年度からはじまる予定だ。


次期主力戦闘機F−X

日本の次期主力戦闘機F−Xについてもわかりやすく解説している。

米国議会の反対で購入できないでいるF−22はステルス性にすぐれ、技術的には最も優れているが、コストは一機450億円とも予想され、しかも日本でのライセンス生産はできずに全機輸入となる可能性が高い。

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写真出典:Wikipedia

従いこんな巨額の費用を出すよりは、ステルス性等では劣るが、F−15の改良型で、F−22と同等の電子機器を搭載したF−15EXを、すでに日本にあるF−15生産ラインで生産する方が最も安い選択肢となると江畑さんは語っている。

NATOで採用されているユーロファイターは、コストも安く、NATO採用なので、米軍とのインターオペラビリティもすぐれている。

日本との共同開発にも乗り気といわれているので、F−Xの本命F−22が米国議会の反対で導入できなれければ候補として浮上してくる可能性もある。

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写真出典:Wikipedia

ミサイル防衛戦略(BMD)

2006年10月の北朝鮮による核実験は初期爆発だけで核分裂の連鎖反応は起こらず、失敗だった可能性が強いが、それでも北朝鮮が核開発能力を持ったことは周辺国には脅威となる。

北朝鮮が核爆弾を持ったら、問題は運搬手段である。

北朝鮮はテポドンはじめミサイル発射実験を繰り返している。

北朝鮮が中国経由ウクライナ製の巡航ミサイルを購入した疑惑については、ジャーナリストの手嶋龍一さんの小説「ウルトラ・ダラー」にも描かれている。

江畑さんは、北朝鮮には巡航ミサイルを積む大型爆撃機がないし、たとえあっても大型機は日本のレーダーにも容易に捕捉されるので、やはり弾道ミサイルが最も可能性の高い運搬手段となるだろうと見ている。

弾道ミサイル防衛(BMD)の方法も興味深い。

旧ソ連の1960年代の初期のBMDは、落下してくる核弾頭を核爆発で誘発させるという方法で、実施されるとモスクワ市民の15%が死ぬという恐ろしいものだった。

これでは何のための防衛かわからないので、核弾頭を用いないで迎撃するシステムが湾岸戦争でも使われたパトリオットミサイルPAC−2だ。

しかしミサイルを打ち落としても、弾頭が落下して爆発すると被害が出るので、弾頭を無力化するために弾頭に命中させるパトリオットミサイルPACー3が開発され、日本でも米軍が沖縄にまず配備し、自衛隊は首都圏から配備している。

またイージス艦には、スタンダードミサイルSMー3という日米共同開発のミサイルが配備されており、これは北朝鮮のミサイルが発射されるのを感知して、すぐに迎撃する。

従い日本のBMDは、SM−3とPAC−3の2段階となっている。


この本は400ページの大作なので、詳しく紹介しているときりがないが、最後に最新の武器技術を紹介しておく。

兵器の進歩という意味で最も驚かされたのが、AGS=Advanced Gun Systemと呼ばれる米軍が開発中の軍艦の艦砲システムだ。

軍艦はもう旧時代の遺物だと思っていたが、AGSが配備されれば一挙にコストの安い最新鋭精密攻撃手段としてよみがえる。

YouTubeにもシミュレーション映像が載せられているが、従来15−30KM程度だった艦砲の射程を、GPS誘導やレーザー誘導装置を持つ精密誘導弾を発射するシステムに変えることによって70−180KMにまで拡大している。



精密誘導155ミリ砲弾で、移動中の車両一台一台でも砲撃できるという、恐るべく効率の良いシステムだ。

100キロ前後離れたところから発射された砲弾が、移動中の自動車まで正確に砲撃できるというまさに「天網恢々(てんもうかいかい)」の、天から降ってくる砲弾だ。

海上自衛隊でも島嶼(とうしょ)防衛用に艦載砲を積極活用する方法を研究、実用化すべきだろうと江畑さんは語っている。


豊富な軍事知識を元に、自衛隊と世界最新の軍備についてわかりやすく説明しており、参考になる。是非一読をおすすめする。


参考になれば次クリック願う。



その時自衛隊は戦えるか 自衛隊の実力がわかる

終戦記念日特集の最後のパートは自衛隊の研究だ。いくつか自衛隊の実力についての本を紹介する。

そのとき自衛隊は戦えるかそのとき自衛隊は戦えるか
著者:井上 和彦
販売元:扶桑社
発売日:2004-03-30
おすすめ度:4.0
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自衛隊につき数々の記事を書いている井上和彦さんの自衛隊の分析。

ゴーマニズムの小林よしのり氏の推薦文が帯に載っているが、「自衛隊が生まれて50年、わしらはもっと真実を知らなきゃいかん」と。

この本はあたらしい歴史教科書で独自路線を歩む扶桑社が出版しており、著者の井上さんは小学館のSAPIOや産経新聞社の『正論』などで記事を書いている。

右寄りの本ではあるが、逆に自衛隊の真実の姿を広く知らしめる動きが、扶桑社、SAPIO、正論、産経新聞などに限られているのは逆に問題だと思う。

たしかに日本国民は自衛隊をもっと知るべきだと思う。そんなことを考えさせられる本である。


北朝鮮こそ自衛隊生みの親

実は北朝鮮こそ自衛隊の生みの親だ。1950年朝鮮戦争が始まり、北朝鮮が韓国に向けて侵攻を開始したときに、日本政府に対してGHQはいわゆるマッカーサー書簡を送り、警察予備隊の創設を指令した。

海上自衛隊は旧海軍の伝統を継承している。ラッパも海上自衛隊は海軍と同じだ。

これに対し陸上自衛隊は当初旧軍の伝統を排したので、ラッパも陸軍のものを踏襲してない。

空軍はもともと存在していなかったことから、旧陸軍と旧海軍の名パイロット達が集結したのだ。


自衛隊の戦力

自衛隊の国防費は世界第3位で、アメリカ、ロシアに次ぐ規模。第4位は中国だ。但しGNP比では主要国が2−3%であるのに対し、日本の自衛隊は1.0%だ。

防衛白書の内容がウェブで公開されているので、ご興味のある方は見て頂きたい。

総兵員数は24万人で、中国の10分の1、世界第22位だが、装備は最新鋭のものばかりだ。

戦車は最新式の90式戦車を中心に、1,020両。AH1S攻撃ヘリは89機。輸送・偵察ヘリは422機。

90式戦車

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出典:以下特注ない限りWikipedia

AH1S(コブラ)攻撃ヘリ

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特筆されるべき対潜水艦戦闘能力

海上自衛隊は護衛艦54隻、潜水艦は16隻。掃海艇31隻、高速ミサイル艇7隻。

対潜戦闘能力は突出としており、有効射程100キロを超えるハプーン空対艦ミサイルを4発、対潜魚雷8発を搭載できるP3Cオライオン哨戒機を99機、SH60J哨戒ヘリを97機も保有している。

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SH10哨戒ヘリ

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出典:中央日報

これらの哨戒部隊はソナー等の4種類の各種探知機を完備しており、ロシアや中国の潜水艦のスクリュー音をすべて記録している。

中国の潜水艦は浅い大陸棚で活動せざるをえないが、すぐに自衛隊の哨戒機に探知されてしまうだろう。

米軍でもP3C保有機数は全世界で200機ということなので、いかに自衛隊の対潜水艦戦闘能力が突出しているかよくわかる。


航空自衛隊は戦闘機361機だが、世界最強のF15や日米合作のF2、F4J改などで構成されている。輸送機59機、迎撃ミサイルは6個高射群ある。

これら日本の軍用機の写真を集めたKenny's Mechanical Birdsというサイトがあるので、ご興味があれば見ていただきたい。


自衛隊には7つの世界一があると。それらは次の通りだ:

1.実戦経験が育てた掃海技術

2.海上自衛隊のお家芸対潜作戦

3,原子力潜水艦に劣らない通常型潜水艦戦力

4.先端技術の結晶F2戦闘機(炭素繊維の一体成形とアクティブ・フューズド・アレイレーダーなど)

5.米軍を驚愕させた100発100中のハイテク・ミサイル(SSMー1地対艦ミサイルなど)

国産ミサイルをまとめているMISSILEの解説というサイトがあるので、ご興味あればご覧頂きたい。

6.F15戦闘機を世界最強たらしめる一流パイロットと整備員

7.自衛隊員こそ真の世界一(全将兵が高校以上の教育を受けている志願制の自衛隊は世界でも珍しい。しかも入隊競争率は3倍、幹部候補生学校の競争率は43倍)

対潜戦闘能力に優れた自衛隊と空母をはじめ空軍力を中心とした米軍のコンビネーションは補完関係にあり、極東アジア地域の安全保障の要となっているのだ。


これからの自衛隊

これからの自衛隊では2007年度から導入される予定のイージス艦、情報収集衛星、パトリオットミサイルを使ったBMD(弾道ミサイル防衛)が今後の目玉だ。


北朝鮮の工作船対策

新型ミサイル艇はやぶさ級は76mm砲一門と、射程距離100キロ以上の対艦ミサイル4発、12.7mm機銃2丁の装備を持ち、スクリューでなくウォータージェットで最高時速44ノットを出すことができる。

ミサイル艇はやぶさ

はやぶさ





自衛隊もし戦わば

仮想敵国として次が想定され、それぞれのシナリオが紹介されている:


1.中国人民解放軍 

空の戦いで日米連合軍は圧勝、海でも自衛隊の対潜水艦作戦で封じ込め。空と海で圧倒され、中国陸軍は手も足も出ず。

中国は莫大な国防費を注ぎ込んで兵器の近代化に努めているのに、そんな中国にODAを継続する必要があるのかと議論している。

しかし侮れないのは中国の宣伝力であると。中国の対日外交カードが靖国問題であることはたしかだ。


安全保障装置としての靖国神社?

平成14年の産経新聞で評論家の櫻田淳氏が「靖国神社は兵士の志気を支える仕組みの中核に位置づけられるべき装置である」と語っている。

この本には紹介されていないが、櫻田発言には神道の國民新聞から次のように批判を浴びている

「靖国神社の本質は、国事に殉じた畏き英霊に対しての祭祀を行ふことであり、これが『安全保障政策を最も根本のところで支える『装置』』 と看做されるのは、あくまでも結果論としてにしかすぎず、本末転倒の観点と云ふ他はない。」

この論争はともかく、靖国問題を中国が執拗に取り上げるのは当然のことながら、深い戦略があるわけであり、善し悪しはともかく、中国に宣伝機会を常に与えることが適当なのか、次の首相は考え直す必要があるだろう。


2.北朝鮮 

ほとんどが旧式兵器の北朝鮮だが、唯一脅威なのは超旧式のAN2型アントノフ布貼り複葉プロペラ機を多数保有していることだ。

これは12名の人員を空輸することができ、300メートルという短距離で離着陸できる。超低空を飛行するためレーダーに捕捉されにくく、陸続きの国には大変な脅威であるが、日本海を隔ていれば日本にとっては脅威ではない。

村上龍の「半島へ」にもこのアントノフが北朝鮮軍来襲手段として描かれているが、実際にはなんの遮蔽物もない海上ならレーダーに捕捉されてしまい、小説のようなことにはならないのだ。


この本のタイトルは『そのとき自衛隊は戦えるか』だが、これを読むと自衛隊は極東地域の安全を保障する有効な戦力になっていることがよくわかる。

日本は武器を輸出することができないので、全世界に輸出して生産コストを下げることができる米国の兵器に比べ国産兵器は数倍コストがかかるといわれている。

だからといって本当に3倍とかが妥当かという点は防衛施設庁の官製談合の件もあり、今後厳しく追及される必要があるだろう。

国産兵器はコストが高いので、配備数は少ないが、このように米軍との補完を考え、メリハリのきいた最重要戦略に従った配備をしていれば、非常に有効な戦力となることがよくわかる。

いままであまり自衛隊のことを研究したことがなかったが、簡単に読めて自衛隊の実力がわかる良い本であった。

次は別の角度からの戦力分析を紹介する。


参考になれば次クリック願う。



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