時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2010年04月

東大家庭教師が教える頭が良くなる勉強法 

東大家庭教師が教える頭が良くなる勉強法東大家庭教師が教える頭が良くなる勉強法
著者:吉永 賢一
販売元:中経出版
発売日:2008-08
おすすめ度:4.5
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東大理III出身で、アルバイトで家庭教師や塾講師をやった後、アルバイトが本業となり、結局受験生を教えることを職業にしてしまった吉永賢一さんの本。

会社の勉強家の友人に勧められて読んでみた。

吉永さんも小学生の頃(!)カーネギーの本に影響されたそうだ。久しぶりに出てきたカーネギー信者だ。

吉永さんは偏差値93だったという。「東大家庭教師…」シリーズは「記憶法」「読書術」が出ている。それぞれ別ブログで紹介しているので、参照してほしい。

東大家庭教師が教える 頭が良くなる記憶法東大家庭教師が教える 頭が良くなる記憶法
著者:吉永 賢一
販売元:中経出版
発売日:2009-02-20
おすすめ度:4.0
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東大家庭教師が教える 頭がよくなる読書法東大家庭教師が教える 頭がよくなる読書法
著者:吉永 賢一
販売元:中経出版
発売日:2009-07-31
おすすめ度:4.0
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東大理IIIというと、文系・理系を含めて東大の最難関学科で、東大で唯一専門課程が決まっている学部だ(他の学部はまず2年間教養学部に入ってから専門学部に進学振り分けする)。

筆者も理IIIの友人がいるが、エキセントリックというか、ちょっと変わった人が多かった。しかし、この本の著者の吉永さんはまとものようだ。


成績を上げる3つの要素

吉永さんは今まで1,000人以上の生徒に勉強を指導してきた経験をふまえて、成績を上げるには次の3つの要素が必要だと語る。

1.覚える(暗記)
2.わかる(理解)
3.慣れる(練習)

3つの要素のどれが欠けてもダメで、このサイクルを繰り返すことで勉強が高速化する。

ちょっとずつ毎日覚えて、音読なども取り入れて何度でも繰り返すのだ。

吉永さんは本は300回を目安に読む。気に入った本は1,000回読むという。パラパラっとめくって、気になった部分だけ注意深く読むのだという。


実戦的なアドバイスが満載

受験のプロなだけに、実戦的なアドバイスが多い。筆者なりに整理した吉永さんのアドバイスは次の通りだ。


<試験のためのアドバイス>

★わからない問題は無視する

★速くやることを意識する

★模試は結果は無視、復習はしっかり

★カンタンな問題から解いていく

★1問あたりの制限時間を決める

★最後の5〜10分は見直しに使う(新しい問題を解くより点を伸ばせる)

★計算はなるべく暗算する

★論文は3つのネタからふくらます


勉強のためのアドバイス

★どんどん間違える

★こま切れの締め切りで集中力を高める

★「何もしていない時間」を勉強時間にする

★参考書はまず折って汚す

★問題集には「カンタン」と書く

★ノートは後から見てもわかるように書く(これは筆者は反省しなければならない。後からメモに何を書いたのか読めないことが多すぎる)

★ノートに書くのは完結した文章


心構えについてのアドバイス

★人に教える。相手の質問に答える(実はこのブログも本のあらすじを人に伝えて、知識を自分の血や肉にするために書いているものである)

★「つまり?」、「もっというと?」という質問を連発して自分の理解度を確認する。(まさにロジカル・シンキングと同様の手法だ)

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)
著者:照屋 華子
販売元:東洋経済新報社
発売日:2001-04
おすすめ度:4.0
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★やる気が起きない時には、自分の呼吸を観察する(呼吸を感じることで「生きる力」を実感できるのだと。面白いテクニックである)。

★自分に起こったことは、自分に原因があると考えよ(他人や環境のせいにした時点で成長はストップする。自分を変えるという発想を持つのだ)。

★すべてをポジティブシンキングで。

★「現状を受け入れる」ことが成績アップの最初のステップ。

★カンタンを口癖にする。

★感謝する。ほめる。

★定期的に成果をチェックし、記録する

★1秒ルールでさっさと決断し、集中力を高める

★練習での間違いはよろこび、本番での間違いは悔しがる


頭が良くなるのかどうかわからないが、吉永さんの書いていることはオーソドックスな勉強法ばかりで、すべて「腑に落ちる」。

唯一エキセントリックなのは、本を300回、気に入った本は1,000回読むという点だが、これは今度紹介する宇津木妙子さんの講演を聞いた時になるほどと思ったことと一致する。

宇津木魂 女子ソフトはなぜ金メダルが獲れたのか (文春新書)宇津木魂 女子ソフトはなぜ金メダルが獲れたのか (文春新書)
著者:宇津木 妙子
販売元:文藝春秋
発売日:2008-10-16
おすすめ度:5.0
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練習は毎日繰り返しやるものであり、練習の目的も毎日繰り返して教え込むのだと。

宇津木さんは「私は頭が悪いから毎日覚えないと忘れる」のだと謙遜して言っていたが、切り返す刀で、会場の出席者に質問した。

「今年御社の社長の年頭の目標は何でしたか?これから当てるから言ってください」

会場が凍り付いた。まさに宇津木さんにガーンと気合いを入れられた。

社長の年頭の挨拶は年初は覚えていたし、今も漠然とは覚えているが、スラスラ言えるほど頭に入っている訳ではない。それでは覚えていないのと同じことなのだ。

吉永さんの言いたいこともたぶん同じだろう。反復練習、重要なことは毎日でも繰り返し、何百回でもやる。

筆者が尊敬するコンサルタント新将命さんの言う「コツコツカツコツ(コツコツ=勝つコツ)」だ。

それが成績が上がる秘訣だ。


参考になれば次クリック願う。



星野流 カミナリ親父星野仙一監督の本

別ブログで「野球道」の再定義を提案する桑田真澄さんの対談のあらすじを紹介しているので、それとは正反対の星野仙一さんの本を紹介する。

星野流


北京オリンピックに出場した日本代表の星野仙一監督の考えがよくわかるショートストーリーを77集めた本。

台湾に勝った試合での采配も、星野監督の指導者、監督としての非凡さが表れていた。7回表、台湾に1:2とリードされたノーアウト満塁の場面でのスクイズ。

同点とした日本チームの各バッターは、心理的な重圧からも解放されたこともあり、連続ヒットでこの回6点をあげた。あそこでまず同点になっていなければ、プレッシャーで連続ヒットも生まれなかったのではないかと思う。

これこそ星野采配の真骨頂だと思う。星野さんは試合後のインタビューで、うれし涙を浮かべていたが、北京への重圧から解放されホッとしたのと、会心の試合ができたせいではないかと思う。

星野さんは、1947年生まれの今年60歳。田淵幸一コーチや、山本浩二コーチも同年代だ。

星野さん自身の記録は通算146勝、121敗。長嶋監督、王監督と病魔に襲われ、上も下も人材がいないとして、自分に代表監督のおはちが回ってきたのだと謙遜する。有事に燃えるのが男だろうと。

名選手、名監督ならずのことわざ通り、星野さんより記録は上でも、監督として使い物にならなかった名選手は多い。

特に毎年最下位で野村監督の手腕を持ってしても低迷していた阪神を、就任わずか2年で優勝させ、その後も優勝を争えるチームにつくり上げた手腕を持つ星野さんは、やはり監督としては日本を代表する名監督だと思う。


健康に不安

この本では健康状態も自分自身で明らかにしており、サッカーのオシム監督の例もあり、気に掛かるところだ。

星野さんは高血圧と不整脈という持病があり、オシムさんと同じく脳梗塞が一番怖いという。不整脈は監督時代からのもので、血圧は普段からも上が170前後、下が130前後と高い。試合になると30〜40も上がり、上が210を超えてしまうこともあると。

もともと感情が激しく、喜怒哀楽が激しい上に、タイガースの1勝は他のチームの3勝分くらいで大変なプレッシャーだったという。星野さんが監督を退任して、阪神のSD(シニアディレクター)になった時は、今ひとつ理由がはっきりわからなかったが、健康の話を聞いて理解できた。

代表監督はメンタル面でのプレッシャーもあり大変な仕事だと思うが、体に不安はあっても、有事に燃える星野さんは日本代表監督を引き受けたのだ。


明治大学野球学部島岡学科出身

星野さんが生まれる前に、エンジニアだった星野さんのお父さんは脳腫瘍でなくなり、お父さんの勤務先だった三菱重工の水島工場の寮母としてお母さんが働き、星野さんと2人の姉を支えた。

母子家庭で育った星野さんは、水島の中学から、倉敷商業高校に進むが、甲子園には出場できなかった。倉敷商業の監督が明治大学出身だったので、その後明治大学に進む。

明治大学は毎年100人程度野球部に新入生が入るが、野球部はとんでもないところで、大体1年で8割はやめる。夏なら4時半、冬なら5時半から練習開始(!)で、当時の監督の島岡吉郎さんは、練習開始前の1時間前に起床し、合宿所の玄関で目を光らす。

まずは裸足でグラウンドを20周。そのあとグラウンドの草取り、小石取りに1時間。それから練習だ。

星野さんが、1年生の時、毎日球拾いをしていると、突然バッティングピッチャーをやれと指名されたという。当時の明治大学のコーチがサブグラウンドで球拾いをしている星野さんに目をつけて、星野はいつも一生懸命やっているからと推薦してくれたのだと。

野球人生を振り返ると、これが星野さんのその後の幸運の始まりだったような気がすると。

田舎出の無名選手だったので、ともかく目立とうと思って必死に投げ、バッティングピッチャーで、上級生、レギュラーを押さえ込んでいるのが島岡さんの目にとまり、面白い奴と、1年生でレギュラーとなった。

この年の六大学の新入生で1年からレギュラーになったのは、星野さんと法政の田淵だけだったと。

「命がけでいけ!」、「魂を込めろ!」、「誠を持て!」が島岡さんの口ぐせで、これを常に復誦させる。

「なんとかせい!」と。

星野さんは一晩に1,000球の投げ込みを命じられた時もあったと。まさに桑田さんが直すべきと批判している精神主義野球そのものだ。

星野さんが主将の時、早稲田に負けたときは、グラウンドの神様に謝れといわれ、星野さんは島岡さんと一緒に、真夜中の雨のグラウンドで2時間にもわたり土下座して謝った。

島岡さんは、「グラウンドで毎日、こうして技術、体力、根性ー人間を磨くことができるのは、グラウンドの神様のお陰なんだ」と本気で言っていたという。島岡さんは、何十年も自宅に帰らず、野球部の合宿所に住んでいたという。

星野さんはお父さんはいないが、オヤジはいたという。それが島岡さんだ。星野さんは、よく明治大学野球学部島岡学科卒だと公言していたという。


厳しい練習は人間教育

島岡さんは合宿所のトイレ掃除は、キャプテンの仕事としていた。

「人の嫌がること、つらいことこそ、先頭に立って上の者がやれ。人間社会は常にそうでなければならん。最上級生のキャプテンが毎日掃除をしているトイレを使う下級生は、常にそういう先輩の態度や気持ちを忘れたらいかんのだ」ということで、星野さんも毎日トイレ掃除をした。

掃除に手抜きをすると、合宿から出されるのが掟で、便器の掃除にしても、いい加減にやっていると、星野さんも便器をなめさせられたという。

キャプテンの他の仕事は、運転手役と、毎日の意見具申役だ。運転手役は社会にでるための準備、意見具申は人間教育で、いずれも島岡流の指導者育成方法だった。

星野さんはプロに入っても島岡流で貫いたと、同級生からは言われるのだと。

星野さんの原点はこの島岡さんの教育で、厳しさと激しさのなかでこそ人は伸びるものだと。島岡さんの指導を受けられたことは、天にも感謝したいと語る。

1975年秋の神宮の六大学野球で、東大が明治大学に2連勝して勝ち点を取ったことがあった。明治は東大に破れたが、たしか優勝した。

それ以来東大は明治から勝ち点は取っていないと思うが、あのとき島岡さんは選手に対して激怒したと聞く。選手もそれこそ死んだ気になってがんばり、優勝したのだと思う。


星野さんのポリシー

星野さんは理想の上司投票でNo.1を続けている。主張がはっきりしており、コミュニケーションを重視するからだろう。

星野さんは減点主義を排すという。これも人気の出る理由の一つだろう。

減点主義では失敗を恐れて、人は小さくなる。野球は得点主義なので、たとえ失敗しても明日は頑張って負けた分を取り返す。

「チャンスはやるぞ。失敗は自分の力で取り返せ」というのが星野さんの主義だ。

野球は所詮首位打者でも7割は失敗で、成功はわずか3割。首位チームでも勝率は6割程度だ。日本は減点主義が多すぎるので、野球から得点主義を学んで欲しいという。


星野さんの選手育成

星野さんは毎年選手にはレポートを提出させていたという。意識付けはまずは自問自答で始めるのだと。

ピッチャーには自己採点をさせ、チーム内でのランキングを付けさせ、自問自答を繰り返させて目標意識をはっきり確認させるのだ。

今の選手は「右向け右」では動かない。納得しないと動かないので、タイガースの監督2年目から始めたのだという。

選手自身の目標と目標達成の具体的方法をレポートで提出させ、自分自身で実践させるのだ。

タイガースの今岡は、星野さんがタイガースの監督時代に最も伸びた優等生だ。

星野さんがタイガースに行く前までは、やる気がないなど、さんざん不評を聞いていたが、実際は全く異なり真剣そのもので、ガッツプレーも見せるし、ピンチにはピッチャーの激励に行く。

今岡は絶対に叱ってはいけない選手だという。叱るよりもほめる方が生き生きとプレーする。

野村さんは、「あいつは一体なんだったんだ。おれとは相性があわなかったんか。わしゃあ、まったくわからんよ」と苦笑しているそうだ。野村さんは、何を考えているか分からない今岡に、2軍行きを命じたりしていたのだ。

星野さんは選手を代える時、「代われ!」というだけだが、その後に「また明日な」と必ず付け加えている。ダメだから代えるのではない、今日は体を休めろという意味なことを、その一言で分からせるのだと。

人生の1%をボランティアに割けと星野さんはいう。

自身でも岡山の障害児施設との交流を30年以上も続けているそうだが、今のタイガースの選手では赤星憲広が、盗塁をひとつ成功させる毎に、障害者施設に車いすを1台づつ送っている。

赤星は、新人王で39盗塁を記録し、才能があると慢心していたので、広島から金本が入り、濱中、桧山を使ってプレッシャーを掛けると、目の色を変え、努力の人に生まれ変わったのだという。


星野さんは伊良部の用心棒

星野さんは伊良部の用心棒と公言していたという。伊良部はどこへ行っても無愛想で、マスコミにもつっけんどんで誤解されやすかった。

本当の伊良部は繊細で、実に頭の良い男だったという。自分が苦しみながら勝った試合では、伊良部はロッカーの入り口で引き上げてくる選手一人一人とていねいに感謝の握手を交わしていた。

これは伊良部が6年間のメジャー生活で学んできた日常的なマナーだろうと。

なかでもヤンキースは、一騎当千の選手軍団でも「チームで戦う」ことで選手に厳しく、うるさくしつけることで有名だという。伊良部もだてに6年間メジャーでもまれてきた訳ではないと。

伊良部はコーチともよく話しあい、よく研究していた。くせを見破られていないかとか、あの審判はこういう傾向だということまで研究していた。それを若い選手にも是非見習ってもらいたいと思っていたと。

タイガース時代でいつも一番辛い点をつけるのが井川慶だと。ピッチングに関してはすべてがアバウトだから、球筋、コントロールが中途半端で、高めのボールは日本では見逃されても、メジャーではみんなもっていかれるのだと。

星野さんは毎年、このチームに居たくない人は手を挙げてというが、阪神の優勝が決定した場面でも不在で、身勝手な異端児だったのが井川だったという。


星野さんのマネジメント術

星野さんは監督賞などは、若いときの監督経験から一切出さないことにしている。しかし、その代わりに選手や家族、裏方の人たちや家族に感謝の意を表すため、必ずバースデーカードを送り、プレゼントを贈るようにしていると。

チームには裏方として、バッティングピッチャー、ブルペンキャッチャー、用具係、トレーナー、スコアラー、マネージャーなど現場のスタッフが30人近くいる。星野さんは、こういった裏方にも気をつかう。

また罰金はその年の納会で、選手や裏方の家族も含めた全員の家族用の景品やおみやげに使って、還元しているという。


星野さんの闘魂野球の背景

星野さんは、母子家庭の選手だと聞くと、どうしても目を掛けてしまうと。タイガースの江夏や、大洋の平松。中日の立浪などだ。

母子家庭の子には、「お父さんのいる子には絶対負けない」という強い気持ちがこもっているのだと。

星野さんがルーキーの年、2回でKOされると、コーチを通じて当時の水原監督に明日の試合にもう一度先発させて下さいと申し出たという。水原さんは、翌日も星野さんを先発させた。

星野さんは完投したが、1:2で負けた。試合後誰にも会わせる顔がなくて、ロッカーで沈み込んでいると、三原さんが「よう頑張ったな」と握手してれたという。

きかん坊で暴れん坊で、いつも逆らってばかりいた星野さんも、このときは三原監督の手を握って子供のように泣いたのだという。

人の情けが人を救い、人の情けが人を作るというが、叱るのも怒るのも、チャンスをあたえるのも、つらい練習を強いるのも、監督としての星野さんの心のバックボーンであると。


人使いの名手 星野監督

星野さんは、選手を生かしていくコミュニケーションは二つあると語る。

一つはほめる場面と、叱る場面の見極め。もう一つは選手に「おれはいつも監督に見られている」という意識を植え付ける接し方、言葉の掛け方であると。これは日常会話でも良い。

星野さんは、いつも選手に「おれはお前を見ているよ」「おれはお前に期待しているよ、信頼しているよ」というサインを送ることは大切だと語る。

どんな人でも、人から「見られている」という意識、その緊張感がプラスに働くことがある。

星野さんは選手を能力と特色だけでは使わない。常に「仕事への心の準備」ができているかで選手の起用を決めていると。

星野さんが大事にするのは、試合の流れにも気を配りながら準備をして、自分の出番に集中している選手の姿であり、ベンチを見回して目があって、気持ちが通じ合うのがこうした選手なのだと。

星野さんが評論家時代にマスターズの取材に行って、ジャック・ニクラウスにインタビューしたときに、ニクラウスが「わたしはいつも『今日しかない』わたしの人生には、今日しかないと思っていつもプレーしている」と語っていたという。

そういう心の準備ができている選手が、力を発揮するのだ。


星野さんの仕事術

リーダーは普段の顔と、監督でいる顔と少なくとも2つの顔を持てと星野さんは語る。

西武の管理部長だった根本さんに言われたことがあると。

「君は星野仙一か。しかし、今は星野仙一ではないだろう。今は中日ドラゴンズの監督なんだ。他のチームに伍して戦っていけるチームを作るのが仕事だろう。人間だからつらいことはいろいろ出てくるさ。でも、トレードだって、君の監督としての重要な仕事なんだ」

いつでもどこでも重要なのは、やるべきことの発見と手順だと星野さんは語る。チーム改革と一口にいっても、すべきことを発見し、どういう手順でやるのかが大切だ。

星野さんは、若いときは選手を殴るなど、熱血指導で知られるが、いい人は好かれても尊敬されないという。

摩擦をいやがる人は管理職になれないというが、プロ野球でも似たようなものであると。選手に好かれる兄貴になれても、嫌われるオニになれないコーチは辞めさせるしかなかったという。

星野さんの野球は「弱者を強者にする野球」だと、そして心技体ではなく、体心技の順番なのであると。

体力がないと、ピッチャーでもバッターでも良いプレーができない。見本は金本だと。

広島に入ったときは、きゃしゃな体でどこまで持つかと見られていたが、オフも体つくりのトレーニングを欠かさず、いまや鉄人とよばれるほどの選手となった。

39歳になって、連続1000試合以上の連続フルイニング出場の世界記録を更新中だ。


「若者」と「グローバル」がキーワード

星野さんは今までトップ選手のメジャー流出を食い止める施策を取らない球界首脳を批判してきたが、代表監督となった今は、「行きたい選手は行けば良い。日本にはまだこれだけの選手がいるんだ、というところも見せてやる」と思うようになったと。

プロ野球もどんどん若者を育てて、次々を育て上げれば良いという考えが強くなったという。

日本のプロ野球とメジャーの差を考えると、有力選手の流出は今後も続くだろう。そしてメジャー帰りの日本人選手も増えて、輸出入というか、人材の相互の交流は益々活発になるのではないか。

その意味で、星野さんの考え方は、この選手の輸出入を拡大し、球界の活性化に役立つのではないかと思う。

松井秀喜の求道者の様な「不動心」と、明大島岡御大仕込みの熱血指導の星野さん。タイプは違うが、厳しい練習をして、マウンドや打席に入る前に準備ができていることの重要性など、基本は同じだと感じた。

この本を読むと、星野さんが理想の上司トップにランクされている理由がよくわかる。



参考になれば次クリック願う。




大前流心理経済学 個人金融資産を積極運用し生活者大国へ

大前流心理経済学 貯めるな使え!大前流心理経済学 貯めるな使え!
著者:大前 研一
販売元:講談社
発売日:2007-11-09
おすすめ度:3.5
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日本人の不安心理を根底から払拭し、資産の積極運用で日本経済を21世紀も世界に君臨する様に立て直す大前研一氏の2007年末の提言。

非常にわかりやすく、論点も明快だ。その後世界金融危機が起きたが、それでもこの本で提言している基本線は変わらないと思う。

大前さんの本は、別ブログでは19冊紹介しているが、「はじめに」と目次を読むと本の大体の内容がわかり、最後の数ページを読むと提言がわかるので、頭にスッと入る。Amazonの「なか見検索」に最適の構成だが、講談社のこの本は「なか見検索」に対応していないのが残念だ。


要約:

今回のあらすじは長いので、なか見検索の代わりに要約しておく:

日本の個人金融資産は1,500兆円といわれ、アメリカの5,000兆円に次ぐ世界第2位の規模である。

この個人金融資産はいわば巨大な水ガメで、これが流れ出したら世界が今まで経験したことのないようなインパクトの経済効果が生まれる。世界の市場を動かしているオイルマネーでさえ、100兆円規模でしかないのだ。

ところがこの水は流れ出る気配もなく、日本国内で低金利で運用され、あまり増えていない。日本人が持つ将来への漠然たる不安が、国内で低金利の郵便貯金(オイルマネーを超える250兆円規模)とか、銀行預金に資金を留めている原因だ。

世界では高齢者になるほど資産が減っていくが、日本では逆で、不安心理により高齢者になるほど資産が増え、最後には一人平均3,500万円もの金融資産を残して死んでいく。しかしカネは墓場まで持ち込めない。

要介護者は全体の1/7,75歳以上でも3割で、ほとんどの人が「ぽっくり逝ってしまった」パターンだ。大半の人は、不安を持つことなどないのだ。

低金利政策は国の放漫借金の穴埋め、金融機関支援策であり、その実体は個人財産の収奪だ。日本の個人資産はここ10年で、2割しか増えていないが、欧米は8割前後増えている。

円の価値は円安で20年前の水準に戻り、米国には水をあけられ、他国にはどんどん追いつかれている。このままでは欧米はおろか、時間の問題で、中国等にもGNP、産業競争力で負け、資産でも負けてしまう。

もう日本の時代は終わったと中国あたりにまで言われて意気消沈し、30代の人でさえ将来に不安を持っている。子供まで将来に明るい希望を持てないという日本の現状だ。このまま国力が落ち、若者のいなくなった日本は、北朝鮮の侵略の良い標的となる危険性もある。

しかし既に日本人は問題解決の手段を持っている。あとは心理を変えるだけなのだ。世界2位の1,500兆円という資産を、世界水準の年率10%前後で積極運用して日本の国富を増やし、少子高齢化になっても他国の追従を許さない世界最大の資本供給国として世界に君臨し、老齢者はアクティブなシニアライフを楽しめるのだ。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


心理経済革命を提唱

大前さんがこの本で提唱するのは、「心理経済革命」で、日本人の心理を動かすための経済政策であり、日本を生活者大国にするための筋道である。

これは全く新しい経済概念を打ち出すものであり、大前経済学の最先端であると同時に、現時点での決定版であると大前さんは力説する。

政府は個人金融資産1,500兆円をずっと塩漬けにして、パクるつもりなのだ。これからは国家が国民を守るのではなく。国民をだます時代になる。おとなしい国民は、借金漬けでせっぱ詰まった政府に世界一の蓄えをカモられる。

だから国民は自衛しなければならない。自分のカネは納得できる人生を生きるために使い切らなければならないのだと。

眠ったままの1,500兆円の個人金融資産を市場に流れるようにすれば、世界を席巻するパワーを持つ。

日本では銀行の定期預金に250兆円、郵便貯金に250兆円、合計500兆円が塩漬けになっている。さらに外貨準備に100兆円あるので、合計600兆円のすぐに運用できる資産がある。

ハーバード大学の資金は3兆円規模で、運用益は15%だ。たとえば600兆円を10%超で運用できれば年間約50兆円の日本の税収を上回る年間60兆円の運用益が出る。この一部を国家再建に使うのだ。


国家全体が「夕張」化する日本

2006年6月に北海道の夕張市が、財政再建団体指定を申請、実質倒産した。夕張市の人口は1万3千人、債務は630億円。日本が1億3千万人で、国債発行残高は637兆円。ちょうど夕張市の一万倍の規模だ。

しかし日本のほうが地方債を含めると債務は840兆円もあり、夕張市よりひどい。夕張市は大幅な職員削減や給与カットを行っているが、日本はなにもドラスティックな対策は打っていない。

それは政府なら輪転機でいくらでもお金を印刷できるからだ。しかしこのまま輪転機でお金を刷っていれば、ハイパーインフレとなる。

国の債務だけではなく、特別会計支出や、全国に1,000ほどある特殊法人の債務をあわせると国の借金は1,200兆円を超える。

さらに少子高齢化だ。少子化の直接原因が未婚・晩婚化である以上、政策によって出生率を増加させるのは難しく、人口はこれからどんどん減っていく。2046年には一億人を割り、2055年には9,000万人になると予測されている。

生産年齢人口はどんどん減ってくる。65歳以上の老齢人口は、2040年頃まで増え続け、4,000万人近くに達する。かたや生産年齢人口は2005年の8,400万人から2055年には4,600万人にまで減少すると予想されている。

生産年齢人口には学生や主婦も含まれているので、実質的な労働力は現在でも6,600万人、それが2055年には3,000万人台まで減ると予想されている。

国の約束している年金を払おうとすると、将来800兆円の財源が不足する。つまり日本の本当の債務は2,000兆円もあるのだ。国民一人当たりにすると債務は2,000万円を超え、勤労者1人当たりだと3,000万円を超える。

このままでは日本が世界に誇る個人資産1,500兆円をもってしても、まかなえなくなるのだ。

借金を返す人口は年を追う毎に減少し、50年後には今の半分となっている。つまり、一人当たりの負担額は倍となり、実質的に返済は不可能となる。


ボツワナ並みの日本国債の格付け

これだけの債務を返済するにはデフォルト、増税、そして世界中からお金を借りるの3つしか手はない。

アメリカは世界中からカネを借りているが、GDP比では0.65程度で比較的健全で、しかも国債の金利は5%の高い金利をつけている。

日本はボツワナ並みの格付けだが、債務残高の対GDP比は次の表の様に先進国ではダントツに高い1.8だ。

ボツワナはダイヤモンドなどが採れるので、いざというときはダイヤモンドを掘って借金を返すことができるが、日本は資源がないので、高齢者も含めて人が働いて返すしかないのだ。

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当時の財務相の塩川正十郎氏(塩爺)が「国民の多くがエイズ患者である国と同格とは何事か!」と怒ったが、日本は次表のように少子高齢化の影響で、いびつな年齢構成となっており、若年層が多いボツワナより事態はずっと深刻なのだ。

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2007年12月27日の日経新聞がトップで報道していたが、内閣府が「国民経済計算」で日本のGDPと一人当たりGDPの国際比較を発表した。世界2位からの転落のスピードの早さが明らかなので追掲する。

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今やオーストラリアにも抜かれ、OECD30ヶ国の中で18位である。いかに円安と、低成長、低金利が日本の国際的地位を毀損したかよくわかるグラフだ。


円安は日本の長期衰退の象徴

円安を歓迎する日本人の思考は不可解であると大前さんは語る。

学者は何も言わず、財界は輸出型企業のトップが牛耳っており、マスコミもそれに乗るので、国民も円安のほうが良いのかという気になる。

ところが既に2005年度で資本収支の黒字が貿易黒字を上回っており、輸出に有利というモノの流れだけで経済を考え、円安を歓迎する意識は完全に時代遅れである。

円安は日本の長期衰退の象徴なのであると。

筆者もこれを読んで思ったが、対ドルだとあまり気がつかないが、世界のほかの通貨との実効レートで比較すると、ユーロやポンド、元、ウォン、オーストラリアドルなどに対して弱くなっているのである。実効為替レートからすると、なんと円高の始まりとされる1985年のプラザ合意時点での相場まで落ちているのである。

大前さんの本に載っているグラフにならって、自分で日銀の公開資料から次の円の実効為替レート推移表をつくってみて驚いた。

昔「エコノミックアニマル」と呼ばれ、必死に輸出で外貨を稼いで外貨準備を増やし、結果的に円の価値を国際的に上げてきたが、今は完全に逆コースだ。

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一人当たりGNPも一時は世界2位だったが、現在ではOECD30カ国中14位まで低落している。筆者も、いまだに世界第2位のような気持ちでいたが、円安の影響は厳しいものがある。

最近東京に外資系のホテルが何社も進出し、一泊最低6万円からという話を何か別世界の話の様に感じていたが、思えばヨーロッパの主要都市のホテルはちょっとしたホテルでも5ー6万円はざらという話だ。外国人が日本に旅行に来て、日本は安いと思うわけだ。

要は円が弱くなったので、ヨーロッパが異常に高く感じるのだ。

資源高により原材料費は上がっているので、円安は物価高とインフレを招き、国民にとって明らかにマイナスだ。また国際比較での国力も低下しているゆゆしき事態なのだ。


日本の個人資産の優位性は低下

日本人の金融資産の内容を見ると現金・預金が51%、保険・年金が26%で、併せて77%を占める。リスク資産の株式は12%のみだ。

これに対してアメリカは現金・預金は13%だけで、債権・投資信託・株式が52%。32%を占める保険・年金準備金は401kで投資されているので、資産の85%を投資・運用していることになる。

金融資産と非金融資産(不動産など)の合計もバブル時代の1990年に日本は2,700兆円で、アメリカの3,500兆円に次ぐ規模で、日米比は1:1.3だったのが、現在ではバブルがはじけて日本は2,500兆円に減少する一方、アメリカは8,000兆円に増え、1:3.2と大きな差がついている。

アメリカの投資資金は72%が退職後の資金となっており、投資信託も原則として5年や10年以上の長期保有で、預金金利の5%を超える運用益で回しているので、5,000兆円の資産は毎年数百兆円増えているのだ。

これでは日本と差が出るのも当たり前である。日本の一人当たりの家計金融資産額は、1,206万円で国際比較ではどんどん順位が落ち、一時は世界一だったのが、現在は四位で、運用利回りが高いオーストラリアに肉薄されている。

ここ10年間で、日本人の家計金融資産は21%しか増えていないが、フランスは87%、イギリスは79%、アメリカも77%、ドイツでも56%増えている。諸外国との差は拡大するばかりだ。

大前さんは、あまり役に立たない大学受験までは必死に勉強するにもかかわらず、社会人になってから収入アップにつながるような勉強をしないのか、そして運用によって資産を増やそうとしないのか、これも理解不可能な日本人の心理だと手厳しい。


日本人の心理を動かす7つの方法

大前さんは日本人の心理を動かす方法として、7つの提案をしている。

1.金利を上げる
2.相続、贈与等の関する税制を見直し、資産の若年層への移動を早めにする
3.住宅の建て替えを奨励する
4.アクティブ・シニアのためのコミュニティをつくる
5.いくらあれば生活できるのかライフプランを提示する
6.ベンチャー企業のエンジェルになる
7.資産運用を国技にする


政府系ファンドをつくり国民の資産を高率で運用する

前述の7つの提案のうち、最も重要なのは7.の資産運用を国技にするという提案だ。

最近シンガポール、ドバイ、中国などの政府系ファンドが注目を集めている。

本日(12月20日)の日経新聞にも、「国家マネー 世界に広がる影響力」というタイトルで、2006年からの政府系ファンドによる欧米金融機関などへの投資実績が掲載されている。1位、2位は後述のシンガポールのGIC、テマセクが占めており、GICはUBSに約100億ドル、テマセクはスタンダード・チャータード銀行に約80億ドル、バークレイズ銀行に約20億ドル投資している。

その他にも、アブダビ投資庁のシティグループへの約80億ドル、中国投資のモルガン・スタンレーへの約50億ドル、ブラックストーンへの約30億ドルの出資など、サブプライム問題でバランスシートが痛んでいる欧米の超優良投資銀行などの株に巨額の投資を実施している。

サブプライム問題は基本的には一過性の問題と見ているのだろう。機を見て敏な政府系ファンドの動きが注目されているが、ファンド本家のアメリカは後述のように、確定拠出型年金401k導入で、資産運用を国民みんなの関心事として国技にしており、世界中の企業を追いかけている。

日本も個人金融資産の1,500兆円の一部を使って、有名ファンドマネージャーを雇ったシグニチャーファンドをつくり、世界中の国に分散投資するのだと大前さんは提唱する。

10%から15%の運用実績があがるのであれば、ファンドマネージャーに1%の手数料を払っても惜しくない。

カナダのジェームズ・オショネシー、アメリカのロバート・ソロモン、インドのランジット・バンディットなど有名ファンドマネージャーがいるが、ワールドクラスの人を雇って運用実績ランキングを出すのだと。

日本でもやっと、議員や政府代表団がシンガポールのGICなどを視察し、政府系ファンドの研究が始まったようだが、中国、ロシアの国営ファンドは急速に拡大している。

中国は外貨準備の20%を投資に向けると発表しているが、150兆円の20%、30兆円あれば、オイルマネーの100兆円よりは少ないがサウジアラビア一国の運用規模に匹敵する。前述の通り、モルガン・スタンレーやブラックストーングループに巨額の出資をしている。

ただし国家ファンドは危険な面もある。圧倒的なファンドの資金力を利用して、一国の軍需産業とか、重要産業を実質コントロールするというような陰謀も可能だ。

だから政治的・国家的な意図を含む恐れがあるので、自分たちで運用すると絶対に失敗するから、世界のファンドマネージャーを集めて運用をゆだね、そして年金も401k型(個人が運用先を自由に選べる年金)にして、ファンドで組成するのだ。

こうした資産形成を通じて、日本人が本当に世界のことを理解するようになることを、大前さんは期待すると。

筆者も答えがわからないのだが、例えばなぜ南米のペルーの経済が伸びているのか、石油の出ないドバイがなぜ好調なのか、ロシアでなぜ三菱車が売れているのかなど、新聞には出ない情報を国民が調べようとするようになる。それが日本を変えるのだと。


注目されるシンガポールの国家投資ファンド

シンガポールは、20年以上前から第二次産業から第三次産業中心にモデルを転換し、空港や港湾に力を入れ、アジアの交易のセンターになっている。

規制を撤廃し、税率を下げて多国籍企業のアジア本社誘致に力を注ぎ、今や500社以上の世界的企業が、東京、香港を尻目にシンガポールにアジア本社を置いている。

さらに金融機関の誘致をして、今ではアジア一のファイナンシャルセンターとなり、ヨーロッパ系ファンドの多くがシンガポールに進出している。

国民年金GICリー・クアンユー元首相自身が、長らく理事長となって年金の運用を世界的に分散し、10兆円の規模で、ここ25年間の平均で9.9%という高い運用益を挙げているので、国民は安心して引退できるようになっている。

政府系企業の持ち株会社テマセクも中国系企業の株を売り、400%という高い投資リターンを得て、それを欧米に投資するなどフットワークが軽い。

シンガポールは東京23区程度の面積で、人口400万人だから、国民一人当たり年金資産は250万円となる。

大前さんは、かつてシンガポールの経済開発庁のアドバイザーを務めていた関係で、リー・クアンユーに聞いたことがあるが、彼の答えは明快だったという。

「中国が目覚めた今、どんなに産業政策に力を入れてもかなわない。しかし、シンガポールの人口であるなら、年金資金を世界中の有望企業、有望地域に投資すればそのリターンで国民を食わしていくことができる。産業政策は首相がやればいい。僕は、国民を食わせるために年金の投資を世界規模でやるのだ。」

一国の指導者とは、このような人のことを言うのだと、つくづく思ったものだと。


アメリカのレーガン革命

世界の投資ファンドの本家本元ともいえるアメリカではレーガン大統領の時に、どう計算しても政府の約束していた年金が払えないことがわかったから、401Kという自分で運用先を選べる確定拠出型年金を導入した。

そうすると運用益を向上させるためにみんなが一斉に勉強を始め、株式市場やファンドなどが大盛況となった。国民を突き放すことによって、むしろ国民は勉強し、今の金融大国アメリカが誕生した。

筆者は米国に二度駐在したが、二回目はちょうどインターネットバブルの時で、アメリカ人の同僚が、インターネット向け投資ファンドを401Kに組み込んでいたことに驚いた。普通の人が投資に非常に敏感で、実際に自分の年金資金を様々なファンドで運用しているのだ。

アメリカの401kでは自社株の組み込み比率が50%以上の場合もあり、GEとかナイキとか業績好調企業の従業員は、20年以上勤めてリタイアするとみんな1億円以上の億万長者になっているケースが続出した。

大前さんが社外取締役をやっていたナイキなどは、あまりに社員の年金が積み上がるので、一年間積み立てを免除したほどだという。

アメリカの空前の高級住宅ブームは、平均的なサラリーマンが年金の担保余力によって年俸からは想像できないような高額住居に手を出した結果だという。

やはり資産は持っているだけではダメで、運用してなんぼという気がする。


中台関係は霜降り化

中台関係のパラダイム変換の指摘も面白い。大前さんは台湾海峡有事は起こりえないと思っている。中国と台湾の経済はもはや完全にビルトインされて、いわば霜降り状態だからだと。

9万社もの台湾企業が中国で事業を展開し、2,000万人しかいない台湾人の200万人が中国大陸で働いている。しかも台湾企業のみならず、中国の国営企業でも重要なポストを占めている。

仮に台湾海峡有事が起こって台湾人が引き上げたら、中国のダメージのほうが大きいという状態なのだと。

今では中台関係がさらに変化している。

中国には100万都市が200もあり、それが台湾の5倍、6倍のスピードで発展を続けている。

中国ではもう台湾の力は借りなくても良いという「台湾ナッシング」に向かっているのが現状で、そうはさせじと台湾は中国の内部に入り込むという状態なのだ。

中国の輸出トップ10社を見ると、台湾企業のEMS3社が入っている。

日本が今意識しなければならないことは、アメリカが日本よりも中国重視にシフトし始めたことだと。アメリカと中国は、21世紀は米中の時代と思っており、すでに動きだしている。


新しい現実を生きていくためのライフプラン

最後に大前さんは、新しい現実を生きていくためのライフプランを提唱している。20代、30代は世界標準の人間になることだ。英語力だけでなく、真のコミュニケーション能力、多様な価値観を許容できる人間だ。

40代、50代は資産運用を必死に勉強すべしという。自分で5%から10%の運用利益を取れるようにする。ビジネスブレークスルー大学院大学の大前さんの株式・資産形成講座も紹介されている。

そして50代以降は引退後のアクティブシニアライフの準備を具体的に始めろという。移住先の研究、移住後の不動産を早めに買って賃貸に出し、ローンを支払って引退したときに移り住む。

幸福な人生の実現は心理に掛かっている。

日本ほど国民の心理によって経済が大きく動く国はない。心理を動かすことこそが景気回復の最も効果的な方法であり、非効率かつ閉鎖的な社会システムを変革し、生活者主権の国を築くための最後のチャンスなのだ。

そして誰もが日本人に生まれてよかったと思えるような国になれる。これが大前流「心理経済学」の帰結である。


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あらすじは以上で、次は筆者の感想である。


何かいつもと違う舌鋒

この本を読んで、いつもと違う舌鋒を感じた。

大前さんは、小泉政権などは、「小泉破れ太鼓」と呼んで、郵政民営化などを時代遅れの政策として以前から批判してきたが、この本では国民をカモる日本政府、ポール・クルーグマンの代弁者竹中平蔵元財務大臣、輸出型企業が牛耳る経団連などとこき下ろしている。

竹中平蔵元財務相がポール・クルーグマンの言うことを代弁していたように、日本の経済学者は外国かぶれの学者ばかりだ」。

「自分で経済を分析すれば、日本と日本人がいかに特殊な行動を取る国(国民)かわかるはずだ。しかし、自説を展開することを恐れ、あるいはサボり、外国の学者の分析を「理論」「学説」と称して輸入、解釈するだけでは今の日本はわからない。」

「ゼロ金利など近代国家はどの国も経験していないし、ゼロ金利でもじっと定期金利や定額貯金に過半の財産を置いている集団はなく、世界中のどこの学者も観察したことがない。」

「自国の経済を外国の学者の説を用いて解釈し、学者同士が自分の師匠の説を正しいとして不毛な論陣を張るこの国のマクロ経済学者、それに乗っかった官僚、そして政治家たちはまったくアテにならないのだ。」と。

いつも通り日本の港湾政策、空港政策(普通に考えれば成田を捨て、羽田をピカピカに磨くしかないと)、道路政策、四島返還にこだわる北方領土政策を批判し、さらに「核やミサイル問題より拉致問題を優先する不思議な北朝鮮政策」と、次のように批判する。

拉致被害者には深く同情するが、だからといって「拉致問題が解決しなければ話し合いに応じない」という姿勢は、結果的に日本の安全を脅かすことになる。

今や中国やロシアが日本を攻撃してくる可能性はほとんどゼロなので、現実的な脅威は北朝鮮の暴発である。北朝鮮からしても、アメリや中国、ロシアと対決する武力はないし、韓国は大事な援助国だから、攻撃対象になるのは日本しかない。

日本こそ北朝鮮の核やミサイルの凍結が最重要課題なのだ。にもかかわらず日本だけが拉致問題で、6ヶ国協議にストップをかけているのは全く理屈に合わない話なのだと。

特に日本が他の国と違うのは、北朝鮮が暴発した時に防ぐ手段がないことだ。現行憲法では自衛隊はやられた後でなければやり返せない。

現状では黙って核ミサイルでやられるのを待つしかないのだ。しかも6ヶ国協議ではすでにつくった原爆とミサイルは対象になっていない(と思われる)。

まずは核とミサイルの問題を解決する。拉致問題については、北朝鮮が「解決済み」というなら、どう解決ずみなのか、残りの人はどうなったのかと、国民が納得できる回答を求めるべきであろうと。

しかし大前さんがこの話をすれば、新聞記者は拉致問題はどうなっても良いのかと、大前バッシングが起こるだろうことは間違いないと結んでいる。


いつも通りの統計をふんだんに使った政策提言的な内容に加え、かなり突っ込んだ政治的な提言をしているので、大前さんもまた何らかの形で政治に挑戦するのかなと、筆者は自分で勘ぐってしまった。

政策提言も豊富で、面白く示唆に富む内容だ。是非一読、そしてアクションを取ることをおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。





エキスペリエンツ7 堺屋太一の団塊世代定年後ストーリー

エキスペリエンツ7 団塊の7人〈上〉 (日経ビジネス人文庫)エキスペリエンツ7 団塊の7人〈上〉 (日経ビジネス人文庫)
著者:堺屋 太一
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-12
おすすめ度:5.0
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団塊の世代 (文春文庫)団塊の世代 (文春文庫)
著者:堺屋 太一
販売元:文藝春秋
発売日:2005-04
おすすめ度:3.5
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『団塊の世代』から30年、団塊という言葉をつくった堺屋太一さんの未来小説。堺屋太一さんは最新作「凄い時代」で、高齢者就労による”シルバー・ニューディール”を提唱しているが、その未来予測小説がこれだ。

凄い時代 勝負は二〇一一年凄い時代 勝負は二〇一一年
著者:堺屋 太一
販売元:講談社
発売日:2009-09-02
おすすめ度:3.5
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団塊の世代が60歳を迎え、ごっそり退職する2007年問題が世間の注目を集めるようになってきているが、この小説はその団塊世代の7人が退職後、英知を結集して、意義のある仕事に取り組むというストーリー。

元銀行員、建築家、元広告代理店のイベントのプロ、流通業に強い元商社マン、NPO代表、そばやの女将さん、元銀行お抱え運転手の1946年から1949年(昭和21年から24年)生まれの7人がひょんなことから、共通の目的のため力を合わせることになる。

小説なので、あらすじを紹介してしまうと面白みがなくなるので控えるが、500ページ超の大作ながら、スラスラと読める。

元通産省の堺屋太一氏だけあって、経産省が非常に力を入れている駅前商店街の再生プロジェクトを題材にあげている。

実際様々な補助金が商店街にはあるのだが、それでも到底追いつかない様な状況の商店街が多い中で、このストーリーの様に再生できれば地域の活性化に役立つだろう、

この本の中で、高齢化には3種類あると。

第1は若者が出てしまって高齢者だけが残された残留型高齢化。地方の農村に多い

第2は多摩や千里のニュータウンの様に短期間に開発入居が行われたため、居住者の年齢の幅が狭い一斉高齢化

第3は長い期間に日本社会全体と同じ様なテンポで進む混合型高齢化

日本では第1と第2のタイプが先行したため、高齢化といえば農村型かニュータウン型を思い浮かべがちだが、第3のタイプは高齢化のテンポが全く異なると。

この理由から地域の再開発を商店街の再生と結びつけて推進しようとする。

それにしても感じるのはサラリーマンなど会社人は、会社をやめればただの人で良いのだろうかという点。

たしかにHappy Retirementという言葉もあり、会社をやめてからは、あくせく働きたくないという気持ちも分からないではない。

だからといって多くが無職か年収100万円程度の隠居仕事的なことをやっていて社会として本当に良いのだろうかという疑問がわく。

今の50代、60代は昔の40代、50代と同じくらいエネルギッシュである。パソコンも使えるし、インターネットにも親しんでいる人が多い。

日本社会の高齢化が進むなかで、今まで社会の中軸で活躍してきた人たちが60歳になったからといって、それから何十年も非生産階級になって良いのだろうか?

50代になっても、60代になっても自分のスキルアップを心がけ、様々な可能性に挑戦し、自分の能力開発を怠らない人たちこそ、日本社会に必要なのではないだろうか。

これが堺屋太一さんが言っている”シルバー・ニューディール”となるのだろう。


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イオンが仕掛ける流通大再編 流通業界の現状がよくわかる

イオンが仕掛ける流通大再編!イオンが仕掛ける流通大再編!
著者:鈴木 孝之
販売元:日本実業出版社
発売日:2008-02-28
おすすめ度:2.0
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西友出身で、西友シカゴ駐在員事務所長の後、バークレーズ証券、メリルリンチを経て独立してプリモリサーチジャパンという流通関係に強いコンサルタント会社を運営している鈴木孝之さんの本。2008年2月の発売だ。

日本の流通業界の一般知識を得るために読んでみた。この本にはスーパー業界のみならず、家電量販店やドラッグストア、コンビニ、百貨店などの売上高ランキングと上位企業の利益率なども掲載されており、参考になる。

目次は次の通りだ。

第1章 イオンが真の流通覇者になるときはいつか
第2章 セブン&アイは21世紀の主導者たり得るか
第3章 イオンが描く首都圏スーパーマーケット連合の全貌
第4章 ウォルマートが日本から撤退する日は来るのか
第5章 ウォルマート流は成功するか?−日本を狙う外資小売の課題
第6章 イオンとセブン&アイを取り巻く流通大再編のゆくえ

イオンは2001年に21世紀ビジョンとして、次を2010年までに達成することを発表している。

グループ売上高     7兆円
グループ経常利益    2,800億円
イオン本体の営業利益率 5%
グローバル10に入ること

売上高7兆円の内訳は、GMS(総合量販店)3兆円、SM(スーパーマーケット)2兆円、ドラッグストア1兆円、その他1兆円だ。

上記目標のうち、現時点で最も達成が難しいと見られているのが現状1.8%にとどまっている営業利益率だ。

利益率を改善するために、イオンが力を入れているのが、2、200億円を売り上げ日本最大のプライベートブランドとなったトップバリュ、仕入れの1割にまで拡大したサプライヤー60社強との直接取引、200を超えるメーカーとの間の需要共同予測システムだ。

イオンの国際部門の全社営業利益に占める割合は14%で、グローバルにタイ、マレーシア、香港、中国などに展開しており、中国にも日本と同じイオングループをつくるべくショッピングセンター型の「イオンモール」という形で進出している。

ちなみにこのブログでも紹介した世界第3位のTESCOとイオンはトップ同士が親交があるという。


イオンのGMS/SM部門

イオンのGMS/SM部門は自社及びグループ会社を含め、次から構成されている。日本最大のGMS/SMグループであること間違いない。

イオン(ジャスコ、イオンモール、まいばすけっと)
マックスバリュ
ダイエー
マイカル
マルエツ(イオン31%。含ポロロッカ、サンデーマート、フーデックスジャパン、リンコス)
カスミ(イオン32%)
いなげや(イオン15%)
ベルク(イオン15%)

これにコンビニのミニストップが加わる。


イオンのドラッグストア部門

イオン・ウェルシア・ストアーズが、世界最大のドラッグストアチェーンの米国ウォルグリーンを手本にして事業拡大を目指している。ドラッグストアグループとしては、No.1の8、500億円の売上げ規模で、2位のマツキヨグループは6,700億円である。

グループのCFS(ハックキミサワ)には、グループ離脱の問題がくすぶっている。


セブン&アイ

セブン&アイの問題点は、セブンイレブンの成功の後、21世紀のグランドデザインが書けていないことであり、これは鈴木敏文さんに次ぐ経営者が育っていないことも原因だと鈴木さんは指摘する。

鈴木敏文さんの著書は別ブログでも何冊か紹介しているが、立派な経営者であることは間違いないが、たしかに後継者は誰なのか名前と顔が浮かんでこない。

元そごうと西武百貨店のミレニアムリテイリングを傘下におさめたが、シナジーという面ではまだ発揮できていない。

次の転機はウォルマートが西友を売却検討するときではないかと鈴木さんは語る。ウォルマートのリー・スコットとセブンの鈴木さんとは親しく、ウォルマートがイトーヨーカドーの経営指導を受けたり、セブンがウォルマートの製品を販売したりで、緊密な関係があるという。

だからもしウォルマートが西友を手放す場合には、本当はイオンがベストな相手ではあるが、まずセブンに声を掛けるのではないかというのが鈴木さんの読みだ。


イオンのグループマーチャンダイジング

イオンは次の3社の機能会社を設立している。

イオントップバリュ
イオン商品調達
イオングローバルSCM

グローバル10に入るための、戦略ITと戦略物流を伸ばそうという考えだ。


ウォルマートの撤退はあるのか

鈴木さんは西友出身でもあり、ウォルマートについては全く評価していない。西友はウォルマートと提携する前までは、経営努力で黒字を続けていたが、ウォルマートが入ってきてから赤字が続いている。

売り場に魅力がなく、活気がなく、大幅な人員削減で店長の1/4が退社して、人材もいなくなったという。ウォルマートとの提携はあきらかに誤りだったと鈴木さんは指摘する。

西友はバブル崩壊で子会社の東京シティファイナンスが4,000億円の不良債権をかかえ、資金繰りに困っていた。メインバンクの第一勧業銀行に断られたので、まず住友商事の出資を受けた。次にイオンが西友に関心を示すが、西友が断り、結局ウォルマートの出資を受けてから凋落がはじまった。

イオンと提携していれば、イオンは首都圏の店が少なく、提携もうまく行っていたのではないかというのが鈴木さんの見立てだ。

ウォルマートはこれまで西友に約2,500億円をつぎ込んだが、赤字が続いているので、さらに500億円程度が必要と見られている。

ウォルマートが昨年1,000億円を掛けて西友を完全子会社化したのは、西友の信用不安をかき消し、ウォルマートの日本市場に対する不退転の決意を示すためだと思われているが、いかにウォルマートでも、赤字続きの西友をいつまでも支援するわけにはいかないだろうというのが鈴木さんの見方だ。

別ブログで紹介したロバート・ライシュ元労働長官の「暴走する資本主義」にも書いてあったが、ウォルマートは強大だが米国でもウォルマート出店反対運動が起こるなどの問題もある。鈴木さんは米国での問題点も含めて詳しく説明している。


共同持株会社による効率化

最後に鈴木さんは共同持株会社による統合は日本の小売業界にダイナミズムをもたらすと歓迎している。合併だと合併会社・被合併会社という色分けがつくが、経営統合なら参加企業は並列なので、さらに多くの企業を迎え入れることができるという。

小売業のメリットは、1.水平拡大、2.総合化、3.マルチブランド化だという。

家電量販店ではデオデオとエイデンが経営統合し、エディオンになった。ヤマダ電機に対抗するグループができた。


これからの再編の動き

これからはプライベートブランド戦略の優劣が競争力を決めること。総合商社と卸の系列が再編に加わること。ローソンとミニストップが統合の可能性があること。ちょうど10月10日に発表があった阪神・阪急と高島屋の経営統合などを鈴木さんは予測している。


わかりやすく簡単に読めて参考になる本だった。流通業に興味のある人には、是非おすすめできる本である。


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奇跡のリンゴ こんな面白い本久しぶりに読んだ

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録
著者:石川 拓治
販売元:幻冬舎
発売日:2008-07
おすすめ度:4.5
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NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも取り上げられた青森県の無農薬リンゴ農家の木村秋則さんの苦労を描いたノンフィクション作品。こんな面白い本ひさしぶりに読んだ。



NHKの番組のキャスターの茂木健一郎さんのブログ、クオリア日記にも木村さんのことが紹介されている。木村さんの歯の抜けた笑顔が印象的な表紙の本だ。

茂木さんの発案で、この本が出来た経緯もあり、茂木さんのブログではこの本のアウトラインがそっくりそのまま取り上げられている。木村さんがNHKの番組で語ったことをそのまま本にしている感じだ。

「マイクロソフトでは出会えなかった天職」も大変面白かったが、この本も非常に面白い。ほとんどノンフィクション小説といえる内容だ。


木村さんは1949年生まれ。巨漢相撲取りの岩木山で有名な岩木山で農家の次男として生まれ、リンゴ農家の婿養子となる。

奥さんが農薬過敏症で農薬に苦しめられたのと、ある時読んだ福岡正信さんの「自然農法」に惚れ込んで無農薬のリンゴ生産を決意する。

自然農法 わら一本の革命自然農法 わら一本の革命
著者:福岡 正信
販売元:春秋社
発売日:2004-08-20
おすすめ度:4.5
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それから8年間は苦労の連続だ。木村さんのリンゴ園は農薬をやめたので、リンゴの木は生気を失い、結局何年も生産ゼロが続いた。

お金がなく、家族にもみじめな生活をさせていた木村さんが、弱音を吐いて「もう諦めた方がいいかな」と言うと、おとなしい長女は色をなして怒ったという。

「そんなの嫌だ。なんのために、私たちはこんなに貧乏しているの?」

木村さん自身の「リンゴが教えてくれたこと」によると、木村さんの長女は次のように言ったという。

「お父さんのやってきたことはすごいこと。答のない世界でゼロから始めてここまで来た。」うれしかったと。

リンゴは木村さんの「公案」だ。「公案」については、「ビルゲイツの面接試験」のあらすじでも紹介したが、禅問答のことだ。

8年間努力して、結局失敗し、死に場所を求めてロープを持って岩木山の山奥に入ると、山腹に見事なリンゴ林が見えた。実は旧陸軍の軍馬の飼育場にあった椎の木林の見間違えだったのだが、人手が全く掛かっていないのに、雑草に囲まれた椎の木は健康そのものだったという。

木村さんは自分の畑とは全く違う刺激臭のするフカフカで暖かい土に気づく。土中に窒素があり余っていて、養分満点の土なのだ。

今までリンゴの木にばかり気を遣っていたが、土やリンゴの木の根っこには全く気を付けていなかった。それが盲点だったのだ。

自分の畑でもそれを再現しようと努力する。やわらかい土に植わっている木の根っこは、地中深く伸び、石ころだらけの畑で育つフランスボルドーのぶどうの様な話だ。まさにワインのテロワールだ。

terroir










出典:2009年11月12日の朝日新聞のボルドーワイン広告

それから数年木村さんの試行錯誤は続くが、努力が実って木村さんの800本のリンゴの木は蘇り、他にはない糖度のきわめて高い美味しいリンゴができるようになった。

とうとう木村さんはリンゴの木の声が聞こえるようになったのだ。木村さんは主人公は人間ではなくて、リンゴの木で、人間は単にリンゴの木の手伝いをしているに過ぎないと語る。それがわかるまで実に長い時間が掛かってしまったと。

東京白金台のフレンチレストランのシェ・イグチでは木村さんのリンゴのスープが看板メニューだという。木村さんのリンゴは2年経っても腐らないのだと。

木村さんが酔うと決まってする宇宙人に会って、宇宙船に乗った話とかも紹介されている。この話は別ブログで紹介している木村さんのもう一冊の著書の「すべては宇宙の采配」に詳しい。

すべては宇宙の采配すべては宇宙の采配
著者:木村 秋則
販売元:東邦出版
発売日:2009-07
おすすめ度:4.5
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まるで筆者の好きな未知との遭遇の一場面のようだ。



たぶん木村さんも現実と映画と渾然となっているのではないか?


害虫の顔を虫眼鏡で見た話も面白い。

リンゴの葉を食う害虫は、草食動物なので、つぶらなヒトミのすごくかわいい顔しているのだと。逆に害虫を食う益虫は、肉食動物なのでどう猛な顔をしていると。

ようやく熟れたリンゴが出来た時、木村さんはリンゴ箱を大阪駅気付で、自分宛に送った。「何で大阪かって?食は大阪にありって言うでしょう」

そのリンゴを大阪城公園でのイベントで売ろうとしたが、ほとんど売れなかった。しかしたまたま一袋買った人から手紙が届く。「あんな美味しいリンゴは食べたことがありません。また送ってください」

それからはうまくいったり失敗したりを繰り返したが、徐々にリンゴも安定し、毎年美味しいリンゴが採れるようになった。

最後にこの本のレポーターは木村さんをノアの箱船で有名なノアにたとえている。「私の船に乗りなさい」

木村さんはリンゴ生産の傍ら、全国で無農薬栽培を広める活動もしている。木村さんの農業支援活動は、木村さん自身が書いた「リンゴが教えてくれたこと」に詳しい。

リンゴが教えてくれたこと (日経プレミアシリーズ 46)リンゴが教えてくれたこと (日経プレミアシリーズ 46)
著者:木村 秋則
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2009-05-09
おすすめ度:5.0
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木村さんは米の自然栽培も手がけ、全国で指導もしている。「米の自然栽培は難しくない」と。

木村さんの指導する宮城県の「加美よつば農協」のつくった自然米はすべて東京に本社を持つ清水精華堂霰本舗が買い付けたという。

自然栽培とJAS法に基づく有機栽培とは全然違うことも参考になった。有機栽培でつくった野菜や米は一番先に腐る。次がスーパーで買った野菜・米、そして一番原型をとどめたのは自然栽培ものだった。

自然のものは枯れていく、人のつくったものは腐るという。腐ることのない野菜を食べていれば、どれほど健康になるだろうかと。

食という字は、人に良いと書く。人に良くないものは食と呼ばないでくれと木村さんは語る。


あまりに面白い本なので、木村さんのホラやレポーターの脚色が相当入っているのではないかという気がして、木村さん自身の本も読んでみたのだが、書いてあることは基本的に同じだった。


こんな面白い本を読むのはひさしぶりだ。木村さん自身の「リンゴが教えてくれたこと」も参考になるが、食に警鐘を鳴らす結構カタイ内容なので、読書=エンターテイメントとしては幻冬舎の本が面白い。さすがヒットメーカーの幻冬舎だ。

読み始めたら引き込まれて一気に読んでしまう。是非一読をおすすめする。


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