+++今回のあらすじは長いです+++
ビジネス力の磨き方 (PHPビジネス新書 27)
大前研一氏が説く21世紀の日本のビジネスマンに必要なスキル。
大前さんは「サラリーマンサバイバル」とか、このブログでも紹介している「ザ・プロフェッショナル」、最近では「即戦力の磨き方」など、日本のビジネスマンの能力アップのために多くの著書を出しており、これもその一つだ。
サラリーマン・サバイバル (小学館文庫)
ザ・プロフェッショナル
即戦力の磨き方 (PHPビジネス新書)
大前研一氏は、筆者の好きな著者の一人なので、このブログでも「大前研一」のカテゴリーで15冊以上紹介している。
この本は2007年3月に出版された本で、21世紀に必要となるビジネススキルについて雑誌"THE 21"読者から寄せられた質問に対する解答をまとめたものだ。
5つのビジネス力
この本で大前さんが21世紀のビジネススキルとして身につけるべき力として挙げているのは次の5つだ。
1.先見力
2.突破力
3.影響力
4.仕事力
5.人間力
前記の3冊などを含め様々な本で21世紀に必須のスキルとして、語学(英語)力、論理思考、コミュニケーション、IT力などについて取り上げてきているので、この本では今まであまり取り上げてこなかったスキルについて説明している。
1.先見力を磨け
大前さんは1995年に文藝春秋に「不動産はまだ下がる」と記事を書いたが、事実不動産は下がり続け、2002年にはバブル前の水準まで下がってしまった。
ホリエモンや村上ファンドが坂本龍馬と同じ運命をたどったことなど、その他にも大前氏の予測通りになったことがいくつもあるという。
これは大前氏に先を読む特殊な力が備わっているわけではなく、先見力とは訓練すれば誰でも身につけられるスキルだからだと。
大前氏の先見力は、現在起こっている事柄をこまめに調べて、そこから変化の兆しを見つけ、その兆しが今後どのようなトレンドになるかをしつこく考えた結果なのだ。
そこで重要なのがFAW(Force at Work)である。これはマッキンゼーの創始者の一人のマービン・バウアーの考え出した概念であり、「そこで働いている力」とでもいうもので、ある傾向を伴った事象があれば、そこには必ずその事象を発生させるだけの力(FAW)が働いているはずだから、それを分析し発見するのだという。
FAWがわかったら早送り(FF)して5年後、10年後の変化が見えてくる。
つまり先見力とは、(1)観察、(2)兆しの発見、(3)FAW、そして(4)FFが正しくできる能力なのだと。
このFAWを使って、都心の地価、熱海/軽井沢の地価、高齢化先進国のアメリカ/ヨーロッパ、ソニーの将来などのケースを説明しており、興味深い。
ソニーや日立など日本の総合電器メーカーとGEとの差は、経営力の差であると。
日本の場合、日立にしてもソニーにしても、社長になるのはその時一番儲かっている事業部のトップである。大前さんにいわせれば、中小企業で功成り名を遂げた社長をいきなり大企業の社長に任命してしまうのとなんら変わりないから、うまくいくはずがないのだと手厳しい。
安倍前首相の「美しい国日本」の取り組みも的を得ていない。大前さんは21世紀に活躍できる「考える力」を育成するために、高校教育にも乗り出している。船橋学園東葉高校という広域通信制の高校がそれで、2007年に開校している。
第2章 突破力を磨け
目の前の壁がどんなに手強そうにみえても、絶対に自分から弱音を吐かないのが突破力の基本である。突破する勇気を養うには、先達の偉業にふれ、それから勇気を貰うのが良い。
ケネディのアポロ計画が良い例だ。到底できそうになかった月への宇宙旅行を期限を切って実現してしまった。
壁を突破した本人に会うことを大前さんは勧めている。エベレストの最高年齢登山にいどむスキーの三浦雄一郎氏、60歳から絵を始めた加山雄三氏などを例に挙げている。
大前さんが20年以上言い続けている道州制をやっと政府も検討し始めたが、全国知事会や地元マスコミなど既得権を持つ抵抗勢力が強い。道州制になったら大半の知事は失業し、県庁所在地にある地元マスコミも淘汰されるからだ。
また北方領土については、四島一括返還は日本の悲願といいながら、実現すると防衛線を千島にあげる費用がかかり、実際に四島に住みたい人はほとんどいないというのが現実で、メリットはほとんどない。
だからこだわりを捨てて、ロシアの二島返還を受け入れ、後は継続協議として、日ロ平和条約を締結し、千島列島だけといわず極東ロシア全体の開発を日ロ共同でやることを提案している。
さらに経済面だけでなく、防衛面でも助け合える関係作りをしておけば、北朝鮮の脅威は低減し、有事の場合にはロシア兵を日当一万円くらいで傭兵として自衛隊に組み入れれば良いと大前さんは提案する。
どの首相でも四島一括返還という思いこみを突破できたら、歴史に残る名宰相として名を残すことになろうと。
今後の日米関係、中国やインドの巨大化、日本の経済進出の余地などを考えると、たしかにロシアと早急に平和条約を締結して、シベリア開発に日ロで取り組むことは、日本の国家戦略として大変意義があると筆者も思う。
今や売れっ子の佐藤優氏が外務省に在任していた時に、橋本首相、小渕首相を動かして日ロ平和条約を実現しようとしていたことは、「北方領土特命交渉」に詳しい。
北方領土特命交渉 (講談社+アルファ文庫 G 158-2)
日本も米国ばかり見ずに、世界を見回して日本の10年20年後を考えるべきだろうと筆者も思う。
第三章 影響力を磨け
自分の影響の及ぶ範囲が広ければ広いほど、その人の価値は高い。
小澤征爾氏、安藤忠雄氏、イチロー、松井など芸術やスポーツの世界では、世界に名を知られている日本人はいるが、ビジネスマンで世界に影響を与えられる一流の日本人はほとんどいない。
日本のビジネスマンの頭の中が、20世紀の加工貿易のままだからだと大前氏は語る。
加工貿易の頃は、教えられた答えを丸暗記し、マニュアルをつつがなく遂行できることがなにより重要な能力だった。今そういう人たちが集まった企業は危機に瀕している。
今必要なのは答えを自分で出すことができる人だ。
マレーシアのマハティール前首相のアドバイザー、中国遼寧省、天津市の経済顧問、ナイキ等のボードメンバー、いろいろな大学のアドバイザリーボードメンバー等々、大前さんは、自分では口幅ったいいい方だが、世界的に影響力がある日本人ナンバーワンだと思うと語る。
この本では大前さんがいかにして世界に影響を与える人間になったのかが述べられている。
マッキンゼーでの仕事の実績もあるが、著書の影響が大きい。
「企業参謀」、ボーダレス・ワールド (新潮文庫)、「新・資本論」など大前さんの本は、世界で何冊もベストセラーになっているという。
企業参謀 (講談社文庫)
大前研一「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む
またウォールストリートジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ハーバード・ビジネスレビューなどに継続的に記事や論文を発表してきたことも知名度アップに役立った。
しかし物を言うのは知名度ではなく、書いた内容だと大前さんは語る。
要するに、そこにある問題を発見し、解決策を発見できる人間であれば、人種や国籍に関係なく、世界中どこに行っても影響力を発揮できるのだと。
「影響力を強めるには型を持て」と大前さんは語る。
大前さんの場合、「ボーダレス経済と地域国家論」が型であると。
大前さんがジャック・ウェルチに中国は6つの地域国家の集合体だと言うと、さっそく6つの地域にわけてGEの戦略を議論したという。
影響力をつけるために、権威にすりよるのでは意味がない。影響力をつけるためには、まずは思考の型を身につけろと大前さんは説く。
大前さん自身もマッキンゼーでピラミッドストラクチャーや、MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhausive、それぞれ重複なく、かつ全体として網羅されていること)というロジカルシンキングの手法を自分の型になるまで徹底的に仕込まれたという。
これがあるから大前さんはどんな事象でも論理的に分析することができるのだと。
このマッキンゼー式のロジカルシンキングについては、大前さんと同じくマッキンゼー出身の勝間和代さんも紹介している。マッキンゼーの新入社員は徹底的に仕込まれるのだそうだ。ちなみに勝間和代さんが推薦するロジカルシンキングの本は次の本だ。
ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)
型を自分のものにするには、ケーススタディを無限回繰り返すのが効果的だ。
自分が○○だったらというケーススタディを続ければ、頭は大いに開発される。BBT大学院大学では、「あなたがリチャード・ワゴナーだったら、どうGMを立て直すか」といった課題が毎週出るという。
二年間で100本の課題をこなすことが卒業の条件で、2007年3月に第一期の卒業生が誕生した。
友人とディスカッションすることもMECEを鍛える上で有効だ。
ケーススタディも友人とのディスカッションも時間が掛かるので、自分の時間の使い方を考えよと大前さんは語る。
日本のビジネスマンは、テレビや新聞、雑誌、インターネットに費やす時間の比重が大きすぎるから、それを最小限に減らせば良いと。
ケーススタディとして世界で最も影響力がある国はアメリカかどうか分析している。結論として斜陽の大国にすがるよりも、フィンランドとかデンマークの様に教育によって世界に通じる人材を生み出していく方が、よっぽど世界に影響力のある国家になれる。
フィンランドとデンマークでは学校に「教える」という概念はない。生徒に考えさせ、先生は考えを引き出すファシリテーターだ。また先生だけでなく、国中のおとなが教育に積極的に参加している。
たとえば野菜の生産、流通、価格決定、職業につき町の八百屋さんが学校にやってきて説明してくれるのだと。
大国のエゴより、小国の知恵。これが21世紀の国際関係を解く鍵なのであると大前氏は提唱する。
第四章 仕事力を磨け
仕事をスピードアップするポイントはダンドリにある。この本では大前さんのダンドリ術が披露されている。仕事をスピードアップする理由は、自分の思考トレーニングに充てるための空き時間をつくるためだ。
「あれ、どこにあったっけ?」が時間を食うので、大前さんは資料はとりあえずパソコンに取り込み、Google Desktopで検索。さらにGMailですべて自分宛に送っておく。メールの強力なメッセージ検索機能が使えるので、二重にリトリーブできるようにしておけば、より確実に目的の情報を見つけられるから安心であると。
大前さんのいう「21世紀の情報収集法」ではテレビCMがなくなるという。YouTubeと、ハードディスクレコーダーやTiVoが普及するからだ。
大前さんは朝の貴重な時間をNHKのニュースと日経新聞に費やす前世紀の習慣は、いまではほとんど時間の浪費にすぎないから、即刻辞めるべきだという。
新聞に書かれていることは、記者が集め、記者のフィルターを通したごく限られた情報だけで、しかも新聞社の都合で記事を構成している。読んでいる人は永遠に記者のレベルを超えられない。テレビも同様だと。
たしかに日本のメディアだけでは世界の情報が集まらない。筆者は25年あまり"Time"を読んでいたが、日本のビジネス誌や新聞と情報の質・量面での大きな差を感じていたものだ。(アメリカで契約したら"Time"は5年契約すると一冊50セント以下だった。もちろん日本に戻っても同じ契約が継続され、シンガポールからアジア版を送っていた)
大前さんは10年前に新聞の購読をやめ、ネットで新聞を読み、RSSリーダーで必要な情報を自動的に集めているのだと。
毎朝RSSリーダーが集めた500の記事に15分で目を通し、重要と思われるものはパソコンに保存し、スタッフに送付していると。週末の大前さんの番組で情報を分析したり、組み合わせて次の展開を予想する。これが大前さんのニュースの読み方だと。
筆者は日経新聞を毎朝KIOSKで買っていたが、ここ数週間この長年の習慣をやめて、RSSと日経ネットに切り替えている。家では朝日新聞を取っているし、新聞を完全にやめたわけではないが、最近日経本紙は、あまり読むところがないという気がしてならなかったので、購読を止めてみた。
大前さんの本を読んで日経をやめたわけではないが、奇しくも大前さんに背中を押されたような形となった。
当面RSSとネットの情報収集で、日経新聞以上の情報を効率的に集められるかどうかやってみようと思う。
第五章 人間力を磨け
仕事も人生も下地がなければ楽しめない。若い頃から意識して教養や、スポーツで体を鍛えたり、趣味をつくったりして下地をつくるのだ。
大前さんはオフの予定から先に入れ、残業より家族との会話を優先せよと語る。
始業ぎりぎりに会社に飛び込み、朝は二日酔い、夜は残業の後、職場の同僚と一杯というような20世紀の生活習慣は改善しなければならないと。
朝型にするのだ。大前さんは4時に起きて、5時からパソコンのチェック、RSSリーダーでニュースのチェック。メール処理で一仕事終えて家族と朝食を摂り、9時からオフィスに出社するのだという。
最後に大前さんは、優秀なリーダーがいることが国にとっても重要なことを強調する。
ノキアのヨルマ・オリラというたった一人のリーダーがノキアを復活させ、フィンランドを復活させた。オリラの前任者は倒産の瀬戸際に立たされ、自殺している。そんな企業を携帯電話に集中する戦略で数年で世界一とし、フィンランドに希望をもたらした。
GEのジャック・ウェルチも同様だ。21世紀の世界競争に勝つための指標は、ジャック・ウェルチを何人つくれるかだと大前氏は語る。
マッキンゼー、GE、この二社は誰もがほしがる人材の輩出企業だが、社内の選別も厳しい。
マッキンゼーをアメリカの会社だと思っている人間は社内にはいないという。社員の半分はハーバードビジネススクール(HBS)出身だが、一時は役員会のメンバーには二人しかHBS出身者はいなかった。
日本を21世紀に通用する国家にするためには、甘っちょろい格差論議をやめることだと大前さんはいう。
ハングリーな人間にこそチャンスがある。たとえば農業のプロフェッショナルになれと呼びかけている。
いつもながら具体例が満載で、刺激を受ける。是非手に取ってみて欲しい本である。
参考になれば、投票をクリックして頂きたい。
ビジネス力の磨き方 (PHPビジネス新書 27)
大前研一氏が説く21世紀の日本のビジネスマンに必要なスキル。
大前さんは「サラリーマンサバイバル」とか、このブログでも紹介している「ザ・プロフェッショナル」、最近では「即戦力の磨き方」など、日本のビジネスマンの能力アップのために多くの著書を出しており、これもその一つだ。
サラリーマン・サバイバル (小学館文庫)
ザ・プロフェッショナル
即戦力の磨き方 (PHPビジネス新書)
大前研一氏は、筆者の好きな著者の一人なので、このブログでも「大前研一」のカテゴリーで15冊以上紹介している。
この本は2007年3月に出版された本で、21世紀に必要となるビジネススキルについて雑誌"THE 21"読者から寄せられた質問に対する解答をまとめたものだ。
5つのビジネス力
この本で大前さんが21世紀のビジネススキルとして身につけるべき力として挙げているのは次の5つだ。
1.先見力
2.突破力
3.影響力
4.仕事力
5.人間力
前記の3冊などを含め様々な本で21世紀に必須のスキルとして、語学(英語)力、論理思考、コミュニケーション、IT力などについて取り上げてきているので、この本では今まであまり取り上げてこなかったスキルについて説明している。
1.先見力を磨け
大前さんは1995年に文藝春秋に「不動産はまだ下がる」と記事を書いたが、事実不動産は下がり続け、2002年にはバブル前の水準まで下がってしまった。
ホリエモンや村上ファンドが坂本龍馬と同じ運命をたどったことなど、その他にも大前氏の予測通りになったことがいくつもあるという。
これは大前氏に先を読む特殊な力が備わっているわけではなく、先見力とは訓練すれば誰でも身につけられるスキルだからだと。
大前氏の先見力は、現在起こっている事柄をこまめに調べて、そこから変化の兆しを見つけ、その兆しが今後どのようなトレンドになるかをしつこく考えた結果なのだ。
そこで重要なのがFAW(Force at Work)である。これはマッキンゼーの創始者の一人のマービン・バウアーの考え出した概念であり、「そこで働いている力」とでもいうもので、ある傾向を伴った事象があれば、そこには必ずその事象を発生させるだけの力(FAW)が働いているはずだから、それを分析し発見するのだという。
FAWがわかったら早送り(FF)して5年後、10年後の変化が見えてくる。
つまり先見力とは、(1)観察、(2)兆しの発見、(3)FAW、そして(4)FFが正しくできる能力なのだと。
このFAWを使って、都心の地価、熱海/軽井沢の地価、高齢化先進国のアメリカ/ヨーロッパ、ソニーの将来などのケースを説明しており、興味深い。
ソニーや日立など日本の総合電器メーカーとGEとの差は、経営力の差であると。
日本の場合、日立にしてもソニーにしても、社長になるのはその時一番儲かっている事業部のトップである。大前さんにいわせれば、中小企業で功成り名を遂げた社長をいきなり大企業の社長に任命してしまうのとなんら変わりないから、うまくいくはずがないのだと手厳しい。
安倍前首相の「美しい国日本」の取り組みも的を得ていない。大前さんは21世紀に活躍できる「考える力」を育成するために、高校教育にも乗り出している。船橋学園東葉高校という広域通信制の高校がそれで、2007年に開校している。
第2章 突破力を磨け
目の前の壁がどんなに手強そうにみえても、絶対に自分から弱音を吐かないのが突破力の基本である。突破する勇気を養うには、先達の偉業にふれ、それから勇気を貰うのが良い。
ケネディのアポロ計画が良い例だ。到底できそうになかった月への宇宙旅行を期限を切って実現してしまった。
壁を突破した本人に会うことを大前さんは勧めている。エベレストの最高年齢登山にいどむスキーの三浦雄一郎氏、60歳から絵を始めた加山雄三氏などを例に挙げている。
大前さんが20年以上言い続けている道州制をやっと政府も検討し始めたが、全国知事会や地元マスコミなど既得権を持つ抵抗勢力が強い。道州制になったら大半の知事は失業し、県庁所在地にある地元マスコミも淘汰されるからだ。
また北方領土については、四島一括返還は日本の悲願といいながら、実現すると防衛線を千島にあげる費用がかかり、実際に四島に住みたい人はほとんどいないというのが現実で、メリットはほとんどない。
だからこだわりを捨てて、ロシアの二島返還を受け入れ、後は継続協議として、日ロ平和条約を締結し、千島列島だけといわず極東ロシア全体の開発を日ロ共同でやることを提案している。
さらに経済面だけでなく、防衛面でも助け合える関係作りをしておけば、北朝鮮の脅威は低減し、有事の場合にはロシア兵を日当一万円くらいで傭兵として自衛隊に組み入れれば良いと大前さんは提案する。
どの首相でも四島一括返還という思いこみを突破できたら、歴史に残る名宰相として名を残すことになろうと。
今後の日米関係、中国やインドの巨大化、日本の経済進出の余地などを考えると、たしかにロシアと早急に平和条約を締結して、シベリア開発に日ロで取り組むことは、日本の国家戦略として大変意義があると筆者も思う。
今や売れっ子の佐藤優氏が外務省に在任していた時に、橋本首相、小渕首相を動かして日ロ平和条約を実現しようとしていたことは、「北方領土特命交渉」に詳しい。
北方領土特命交渉 (講談社+アルファ文庫 G 158-2)
日本も米国ばかり見ずに、世界を見回して日本の10年20年後を考えるべきだろうと筆者も思う。
第三章 影響力を磨け
自分の影響の及ぶ範囲が広ければ広いほど、その人の価値は高い。
小澤征爾氏、安藤忠雄氏、イチロー、松井など芸術やスポーツの世界では、世界に名を知られている日本人はいるが、ビジネスマンで世界に影響を与えられる一流の日本人はほとんどいない。
日本のビジネスマンの頭の中が、20世紀の加工貿易のままだからだと大前氏は語る。
加工貿易の頃は、教えられた答えを丸暗記し、マニュアルをつつがなく遂行できることがなにより重要な能力だった。今そういう人たちが集まった企業は危機に瀕している。
今必要なのは答えを自分で出すことができる人だ。
マレーシアのマハティール前首相のアドバイザー、中国遼寧省、天津市の経済顧問、ナイキ等のボードメンバー、いろいろな大学のアドバイザリーボードメンバー等々、大前さんは、自分では口幅ったいいい方だが、世界的に影響力がある日本人ナンバーワンだと思うと語る。
この本では大前さんがいかにして世界に影響を与える人間になったのかが述べられている。
マッキンゼーでの仕事の実績もあるが、著書の影響が大きい。
「企業参謀」、ボーダレス・ワールド (新潮文庫)、「新・資本論」など大前さんの本は、世界で何冊もベストセラーになっているという。
企業参謀 (講談社文庫)
大前研一「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む
またウォールストリートジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ハーバード・ビジネスレビューなどに継続的に記事や論文を発表してきたことも知名度アップに役立った。
しかし物を言うのは知名度ではなく、書いた内容だと大前さんは語る。
要するに、そこにある問題を発見し、解決策を発見できる人間であれば、人種や国籍に関係なく、世界中どこに行っても影響力を発揮できるのだと。
「影響力を強めるには型を持て」と大前さんは語る。
大前さんの場合、「ボーダレス経済と地域国家論」が型であると。
大前さんがジャック・ウェルチに中国は6つの地域国家の集合体だと言うと、さっそく6つの地域にわけてGEの戦略を議論したという。
影響力をつけるために、権威にすりよるのでは意味がない。影響力をつけるためには、まずは思考の型を身につけろと大前さんは説く。
大前さん自身もマッキンゼーでピラミッドストラクチャーや、MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhausive、それぞれ重複なく、かつ全体として網羅されていること)というロジカルシンキングの手法を自分の型になるまで徹底的に仕込まれたという。
これがあるから大前さんはどんな事象でも論理的に分析することができるのだと。
このマッキンゼー式のロジカルシンキングについては、大前さんと同じくマッキンゼー出身の勝間和代さんも紹介している。マッキンゼーの新入社員は徹底的に仕込まれるのだそうだ。ちなみに勝間和代さんが推薦するロジカルシンキングの本は次の本だ。
ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)
型を自分のものにするには、ケーススタディを無限回繰り返すのが効果的だ。
自分が○○だったらというケーススタディを続ければ、頭は大いに開発される。BBT大学院大学では、「あなたがリチャード・ワゴナーだったら、どうGMを立て直すか」といった課題が毎週出るという。
二年間で100本の課題をこなすことが卒業の条件で、2007年3月に第一期の卒業生が誕生した。
友人とディスカッションすることもMECEを鍛える上で有効だ。
ケーススタディも友人とのディスカッションも時間が掛かるので、自分の時間の使い方を考えよと大前さんは語る。
日本のビジネスマンは、テレビや新聞、雑誌、インターネットに費やす時間の比重が大きすぎるから、それを最小限に減らせば良いと。
ケーススタディとして世界で最も影響力がある国はアメリカかどうか分析している。結論として斜陽の大国にすがるよりも、フィンランドとかデンマークの様に教育によって世界に通じる人材を生み出していく方が、よっぽど世界に影響力のある国家になれる。
フィンランドとデンマークでは学校に「教える」という概念はない。生徒に考えさせ、先生は考えを引き出すファシリテーターだ。また先生だけでなく、国中のおとなが教育に積極的に参加している。
たとえば野菜の生産、流通、価格決定、職業につき町の八百屋さんが学校にやってきて説明してくれるのだと。
大国のエゴより、小国の知恵。これが21世紀の国際関係を解く鍵なのであると大前氏は提唱する。
第四章 仕事力を磨け
仕事をスピードアップするポイントはダンドリにある。この本では大前さんのダンドリ術が披露されている。仕事をスピードアップする理由は、自分の思考トレーニングに充てるための空き時間をつくるためだ。
「あれ、どこにあったっけ?」が時間を食うので、大前さんは資料はとりあえずパソコンに取り込み、Google Desktopで検索。さらにGMailですべて自分宛に送っておく。メールの強力なメッセージ検索機能が使えるので、二重にリトリーブできるようにしておけば、より確実に目的の情報を見つけられるから安心であると。
大前さんのいう「21世紀の情報収集法」ではテレビCMがなくなるという。YouTubeと、ハードディスクレコーダーやTiVoが普及するからだ。
大前さんは朝の貴重な時間をNHKのニュースと日経新聞に費やす前世紀の習慣は、いまではほとんど時間の浪費にすぎないから、即刻辞めるべきだという。
新聞に書かれていることは、記者が集め、記者のフィルターを通したごく限られた情報だけで、しかも新聞社の都合で記事を構成している。読んでいる人は永遠に記者のレベルを超えられない。テレビも同様だと。
たしかに日本のメディアだけでは世界の情報が集まらない。筆者は25年あまり"Time"を読んでいたが、日本のビジネス誌や新聞と情報の質・量面での大きな差を感じていたものだ。(アメリカで契約したら"Time"は5年契約すると一冊50セント以下だった。もちろん日本に戻っても同じ契約が継続され、シンガポールからアジア版を送っていた)
大前さんは10年前に新聞の購読をやめ、ネットで新聞を読み、RSSリーダーで必要な情報を自動的に集めているのだと。
毎朝RSSリーダーが集めた500の記事に15分で目を通し、重要と思われるものはパソコンに保存し、スタッフに送付していると。週末の大前さんの番組で情報を分析したり、組み合わせて次の展開を予想する。これが大前さんのニュースの読み方だと。
筆者は日経新聞を毎朝KIOSKで買っていたが、ここ数週間この長年の習慣をやめて、RSSと日経ネットに切り替えている。家では朝日新聞を取っているし、新聞を完全にやめたわけではないが、最近日経本紙は、あまり読むところがないという気がしてならなかったので、購読を止めてみた。
大前さんの本を読んで日経をやめたわけではないが、奇しくも大前さんに背中を押されたような形となった。
当面RSSとネットの情報収集で、日経新聞以上の情報を効率的に集められるかどうかやってみようと思う。
第五章 人間力を磨け
仕事も人生も下地がなければ楽しめない。若い頃から意識して教養や、スポーツで体を鍛えたり、趣味をつくったりして下地をつくるのだ。
大前さんはオフの予定から先に入れ、残業より家族との会話を優先せよと語る。
始業ぎりぎりに会社に飛び込み、朝は二日酔い、夜は残業の後、職場の同僚と一杯というような20世紀の生活習慣は改善しなければならないと。
朝型にするのだ。大前さんは4時に起きて、5時からパソコンのチェック、RSSリーダーでニュースのチェック。メール処理で一仕事終えて家族と朝食を摂り、9時からオフィスに出社するのだという。
最後に大前さんは、優秀なリーダーがいることが国にとっても重要なことを強調する。
ノキアのヨルマ・オリラというたった一人のリーダーがノキアを復活させ、フィンランドを復活させた。オリラの前任者は倒産の瀬戸際に立たされ、自殺している。そんな企業を携帯電話に集中する戦略で数年で世界一とし、フィンランドに希望をもたらした。
GEのジャック・ウェルチも同様だ。21世紀の世界競争に勝つための指標は、ジャック・ウェルチを何人つくれるかだと大前氏は語る。
マッキンゼー、GE、この二社は誰もがほしがる人材の輩出企業だが、社内の選別も厳しい。
マッキンゼーをアメリカの会社だと思っている人間は社内にはいないという。社員の半分はハーバードビジネススクール(HBS)出身だが、一時は役員会のメンバーには二人しかHBS出身者はいなかった。
日本を21世紀に通用する国家にするためには、甘っちょろい格差論議をやめることだと大前さんはいう。
ハングリーな人間にこそチャンスがある。たとえば農業のプロフェッショナルになれと呼びかけている。
いつもながら具体例が満載で、刺激を受ける。是非手に取ってみて欲しい本である。
参考になれば、投票をクリックして頂きたい。