別ブログで「成功の法則92ヶ条」のあらすじを紹介したので、こちらでは「成功のコンセプト」のあらすじを紹介する。
三木谷さんは大企業なら課長クラスの年代だが、やはり一国一城のあるじ、起業家は違う。
山田善久さんや吉田敬さんはじめ、従来の楽天を支えてきた人たちが一斉にいなくなってしまったのは残念だが、強烈な個性の経営者の元から実力のある人達が巣立っていったということかもしれない。
成功のコンセプト
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2007-10
おすすめ度:
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楽天三木谷浩史さんが出した最初の本。
いままで楽天については、このブログで「楽天の研究」や、「教祖降臨」など数冊のあらすじを紹介してきた。特に「楽天の研究」は、この本に書いていない楽天を支える様々な群像が紹介されており、参考になるので、是非ご覧戴きたい。
三木谷さん自身の本は初めてでもあり、非常に期待していた。
この本を読んで、楽天のオフィスにポスターとして貼られている「成功のコンセプト」が、よく理解できた。
たぶん三木谷さんが、いろいろなところで講演やスピーチしているものなのだろう。内容がよく練れていてわかりやすい。
三木谷さんは、神戸出身で、一橋大学を卒業後、当時の興銀(現在のみずほコーポレート銀行)に入社する。
最初は外国為替部というルーティンワークの典型のような職場に配属されたが、仕事を一生懸命にこなし、効率を上げる努力をした結果、MBA留学生に選ばれ、ハーバードで起業家を重視する風土に触れる。
帰国後、M&Aコンサルなどを興銀でやっていたが、阪神淡路大震災で叔父夫婦がなくなったことを契機に興銀をやめ、人生を起業に賭ける決心をする。
友人とコンサルをやる傍ら、起業プランを練り、1.インターネットのショッピングモール、2.地ビールレストランチェーン、3.天然酵母ベーカリーレストランチェーンの3業種に絞り、結局インターネットショッピングモールで1997年にサービス開始する。
当時はNTT,NEC、富士通、三井物産などの大企業のショッピングモールが、既に事業展開していたが、他社が数百万円の費用が掛かるのに対して、楽天は5万円/月という格安料金で参入する。
インターネットではファースト・ムーバー・アドバンテージと言われ、最初に手がけた人が圧倒的に有利と言われていたが、楽天はショッピングモール事業ではレイトカマーだった。
最近でこそベスト・ムーバー・アドバンテージとも言われるが、当時の常識に反するレイトカマーの成功例であり、これが楽天の成功を「改善モデル」と三木谷さんが呼ぶ理由だ。
成功のコンセプト
筆者は楽天が中目黒のオフィスに居たときから訪問しているが、当時からポスターとして楽天のオフィスに掲げられていた「成功のコンセプト」は次の5点だ。
1.常に改善、常に前進
2.Professionalismの徹底
3.仮説→実行→検証→仕組化
4.顧客満足の最大化
5.スピード!!スピード!!スピード!!
楽天のサービス開始は1997年5月1日。最初は三木谷さんの知人中心の13店舗。1年後は100店舗。2年目の1998年末には320店、1999年末には1,800店に拡大し、その後は二次曲線的に増え、現在は20,000店を超えた。
その成長を支えた戦略がこの成功のコンセプトだ。
まずは1.の改善だ。不安定な未来に対する戦略は2つあると三木谷さんは語る。
一つはダーウィニアンアプローチといわれるグーグルなどが取っている戦略だ。天才的な博士級の技術者を集め、数多く世に出し、種をばらまき、成長したものだけ刈り取るという戦略だ。
もう一つのアプローチはマイクロソフトと同じ改善アプローチだ。マイクロソフトが最初に出したインターネット・エクスプローラーは、ネットスケープには全く太刀打ちできない不出来のものだった。
それをマイクロソフトは長い時間を掛けて、徐々に改善し、最後はネットスケープを葬った。
三木谷さんは楽天のビジネスモデルをマイクロソフトと同じ改善モデルと呼ぶ。改善は絶対的に成長する方法なのだと。
1日1%の改善でも、一年365日続けると1.01の365乗は37倍となる。現在に満足せず、常に改善をし続けたことが楽天の成功の秘訣だ。
人間の力には実力、能力と潜在能力の3つがある
人間の力には実力、能力と潜在能力の3つがあると三木谷さんは語る。
スポーツは弱肉強食の世界だから、たぶんトップアスリートになれば潜在能力の8割くらいは引き出しているのだろうが、ビジネスの世界では潜在能力の10%程度しか使っていない人がほとんだろう。
そもそも潜在能力を引き出そうなどと、考えたこともない人の方が多いのではないだろうかと。
潜在能力でどれだけの差があっても、勝てるチャンスがあるのだ。
潜在能力の10%しか使っていない人が、もう10%能力を引き出すのはそれほど難しいことではないだろうが、誰もそれをしようとしていない。
もったいないと思うと。
楽天は社員の能力をもう10%引き出す企業のモデルとなり、その文化を他の企業にも伝播させたいと。
世の中には天才ばかりではないが、改善は誰にでもできるし、改善は凡人を天才にする方法なのだと三木谷さんは語る。
筆者の友人で大学時代の三木谷さんを知る人がいるが、大学時代の三木谷さんは、決して傑出していた訳ではないという。「あの三木谷が…」という感じだと。
この友人の言葉も、三木谷さんの言葉を裏付ける。三木谷さんは決して優等生ではない。一浪して一橋大学に入学するが、大学時代はテニスに明け暮れた様だ。
成功するためには、潜在能力の差など問題ではないのだ。いかに能力の多くを引き出して、利用できるか。それがその人の実力となるのだ。
筆者もこの「実力、能力、潜在能力説」にはガーンとやられた。まさに三木谷さんの言う通りだと思う。いくら能力が高くても、引き出さなければ実力にならない。三木谷さんの様にガッツがあり、なんでも積極的に挑戦し、能力開発した人が成功するのだ。
成功している時こそ自分を否定する勇気を持つ
成功している時こそ、自分を否定する勇気を持つ。思いこみが成長を阻害している可能性はないだろうかと。
仕事のやり方でも、本当にその方法論が効率的なのか、それが必要なのか、常に考え続けることが必要だ。
たとえば会議だ。普通の会議は説明に59分、判断に1分だが、楽天の会議は資料は前日の5時までにすべて提出することにしたので、1時間の会議が10分で終わる。
会議の目的は説明することでなく、決断することなのだと。
身の回りには不合理・不条理がいくらでもある。三木谷さんはそういう不条理が大嫌いだったという。
三木谷さんはテニスで身を立てようと思ったこともあるくらい、テニスに熱中していた。高校では一年でレギュラーになったが、新入生なので延々と球拾いをやらされたから、あまりにも馬鹿らしい練習にあきれて、テニス部をやめ、テニスクラブに通ったという。
大学三年でテニス部主将になった時に最初にやったのは、新入生の球拾いの義務を廃止することだ。何の意味もない球拾いに費やす時間は不条理だと。
三木谷さんの反骨精神というか合理性を追求する姿勢が、楽天のベンチャー精神の源だ。
改善には目標がなくてはならない
日々改善することは極めて重要だが、改善にははっきりとした目標がなければならない。そして目標を立てた以上は、絶対にその目標を達成しなければならない。
良い例がNASAだと三木谷さんは語る。
ケネディが月に人間を送り込むと宣言したのが1961年、それからわずか8年で人類を月面に着陸させた。
ここには改善についての大事な教訓が含まれている。
飛行機を改善した結果として、月まで飛べる宇宙船を完成させた訳ではなく、月に人類を送り込むという目標があったから、人類が月まで到達できたのだ。
スポーツでは勝ち負けははっきりするが、ビジネスでは曖昧だ。
たとえば30%売上を増やすという目標のところ、27%しかのばせなかった時、スポーツの世界では敗北だが、ビジネスでは3%足りなくても、さほど問題にはならない。
そんな27%増えたからOKという考えを、三木谷さんは"Best effort basis"と呼び、否定する。
それでは、本当の意味の勝者にはなれず、本当の意味の仕事を楽しむことはできないと。
これとははっきり違うモノの考え方をする人がいる。その姿勢を"Get things done"と三木谷さんは表現する。
あらゆる手段を使って、何が何でも目標を達成する人間の姿勢だ。
不可能と思える目標を可能にしてこそ仕事の質は飛躍的に高まり、はじめてブレークスルーが生まれる。
何が何でも目標を達成するという姿勢がなかったために、10階に辿りつきたかったのに、結局のところ2階にすら達することができなかったというのは、ビジネスではよくある話なのだと。
筆者は、一時インターネット企業に出向していたので、三木谷さんの"Best effort basis"と、"Get things done"の違いを身をもって経験した。
自分で反省するに、所詮自分は"Best effort basis"メンタリティだったと思う。
大企業メンタリティなら、プロセスも評価対象になるが、成功、失敗のはっきりしているベンチャービジネスに、試験の様に「評価点」などない。過程がいくら正しくても、結果が出せなければ失敗だ。
三木谷さんは、ケネディの偉大さは、月という目標を設定したからだという。月はたしかに遠かったが、絶対に攻略不能という目標ではなかった。
三木谷さん達にとっての「月」は、世界一のインターネット企業だ。三木谷さんはいつも「月」のことを考えていると。
第2のコンセプト Professionalismの徹底
ビジネスで成功するかどうかの鍵は、仕事を人生最大の遊びにできるかどうかだと。
三木谷さんのいうProfessionalとは、仕事を人生最大の遊びと考え、24時間、365日どこにいても仕事のことを考えている人のことだ。
仕事中毒といってもいいかもしれない、人生にこれ以上の楽しみはないと思っていると。
例として、楽天の社員No. 2の慶応大学の大学院生だった本城慎之介氏が紹介されている。本城氏は、楽天退社後、横浜市の中学校長になったが、今年退任してまたビジネスに戻るという。
彼は1996年当時から、自分のホームページに就職活動の日記を書いていたほどのインターネット通だった。
楽天のショッピングモールのエンジンは当初外注していたが、うまくできなかったので、本城氏に「はじめてのSQL」という本を渡し、プログラミングの家庭教師を10日間つけて、最初の楽天のRMS(楽天マーチャントサーバー)をつくり1997年4月に楽天市場をオープンさせた。
本城さんは、ぼぼ一人で楽天市場のエンジンを完成させたのだ。これもProfessionalの典型である。くろうとがプロ、しろうとがアマという区別ではない。面白い仕事はない。仕事を面白くする人間がいるだけだ、そしてそれがProfessionalだという。
いい加減な仕事をして、サボって給料貰えるなら楽だという意識は間違っていると。人生で限りある自分の時間を、ドブに捨てているからだと。
第3のコンセプト 仮説⇒実行⇒検証⇒仕組化
ビジネスでは試験と違って、問題に対する正解は用意されていない。だから、仮説を立てて、実行し、結果を検証して、仕組化して、全体に適用するPDCA(Plan-Do-Check-Action)が問題解決策として有効なのだ。
仮説の中にも良い仮説と、悪い仮説があると三木谷さんは語る。
良い仮説を立てるためには、三木谷さんは、「そもそも論」を考えるべきであると。
おもしろい例を三木谷さんは挙げている。
長嶋茂雄さんは、空振り三振した時にヘルメットが派手に飛ぶ様に練習していたという。
長嶋さんはそもそも何のために野球をやるのかを考え、プロである以上、究極は観客を喜ばすためだから、そんなヘルメットを飛ばす練習をしたのだろう。
仕事も同じように、そもそもこの仕事は、何のためにあるのかを考えるべきなのだと。
このそもそも論から、楽天ではユーザーからの問い合わせなどを扱うカスタマーサービスは自社でやらず、すべてお店に直接つないだ。
お店とユーザーが直接コミュニケーションできる様にしたのだ。
あまり指摘されていないが、このお店とのダイレクトコミュニケーションが楽天市場のいちばん革新的なポイントで、急激な成長の理由の一つだったと三木谷さんは語る。
無機質のスクリーンに向かい合うディスコミュニケーションの典型のインターネットの世界だからこそ、コミュニケーションを取り戻したいという人々の潜在的欲求に答えたことが、楽天の急成長の秘密なのだと。
このPDCAサイクルをきちんと回せる会社が強いことは、「会社は頭から腐る」で冨山和彦さんが述べている通りだ。なかなかできないが、本当に重要な経営手法である。
第4のコンセプト 顧客満足の最大化
すべてはお客さまのために。
このコンセプトをビジネスの中で100%実現できたら、そのビジネスは100%成功するだろうと。
インターネットを使ってエンパワーメントを行う
楽天はインターネットの力を使って、情報格差社会を破壊する。
地方と都会の情報差を破壊する。地方の中小商店を元気づけ、エンパワーメントするのだ。地方のお店が、日本全国の消費者とダイレクトコミュニケーションを取る。そして売り手も買い手も満足を得るのだ。
広島県の山間の村に三代続いたコメ屋がある。ご主人はコメを知り尽くした人だが、コメ屋の商売に夢を抱いていなかった。
息子さんも後を継ぐ気はなく、都会で就職していた。ところが楽天市場で出店し、パソコンと格闘してネット販売を続けた結果、八年目の今年は楽天での売上が月1,000万円となり、拡大したビジネスを手伝うために息子さんが帰郷したという。
息子が戻ってきてくれたのが一番嬉しいとご主人が言ってくれたのが、三木谷さんには何より嬉しかったと。
このようなエンパワーメントの例が日本中にたくさん広がっており、村の人しか来なかった店が、いきなり銀座四丁目に出店した様な例が起きている。
古来市場には空間的制約があり、最も売れる場所は限られていた。それがインターネットで空間的制約がなくなり、かつ店の大きさという物理的な制約も関係なくなったのだ。
エンパワーメントは、インターネット企業のブレない中心軸になるのだ。
中小の企業や個人商店は「地の塩」だと。この軸をはずさない限り楽天というコマはいつまでも安定して回り続けることができるのだと。
ビジネスには戦争型と戦闘型の2通りのスタイルがある
ビジネスには戦争型と戦闘型の2通りのスタイルがあると、三木谷さんは語る。
戦争型は世界地図を広げ、大きな戦略を考えながら展開しているスタイルだ。マイクロソフトのOSや、グーグルの検索エンジン、アマゾンもこのタイプだ。
一方戦闘型ビジネスとは、一つ一つの局面での戦闘の勝利を積み上げていくやり方だ。
楽天はまずは戦闘的ビジネスで業績を伸ばし、限界点を超えた時に戦争型ビジネスに切り替えるという。
楽天は世界一のインターネット企業を目指しているので、戦闘もやりながら、2005年にはアメリカのアフィリエイト大手のリンクシェア社を417百万ドルで買収するなど、思い切った戦争型ビジネスもやっていると。
三木谷さんは何もふれていないが、TBSの買収劇も楽天にとっての大きな戦争だと思う。もはやTBS株は簿価割れとなっており、含み損は楽天の1年分の純利益が吹っ飛ぶくらいの規模になっているはずだが、こちらの戦争では出口が見えない様だ。
テレビとインターネット
三木谷さんが語るテレビとインターネットとのシナジーは、次のようなものだ。
日本の広告市場は6兆円といわれている。その40%がテレビで、インターネットは急速に伸びて6%にまでなってきており、さらに伸びることが予想されている。
地上波アナログ放送が終了すると、いよいよテレビは録画して見ることが主流となる。そうなると、番組と一緒にCMを流しても効果が上がらないことになる。
CMとコンテンツは別々に流すことになり、行動ターゲティング広告というユーザーの嗜好にあわせた広告を流すことが主流になってくる。
インターネット広告と、テレビ広告は融合してくるのだ。そこで民間の放送局とインターネット企業は、同じ土俵でビジネスをすることになり、協力関係も生まれてくるのだと。
楽天では掃除人は雇わない
楽天では掃除業者を雇っていない。掃除は自分たちでやるのだ。テニスの球拾いと同じように、自分の仕事場くらい自分で掃除をすれば良いのだと。
アメリカではゴミはゴミ掃除のおばさんが拾うのは当たり前かもしれないが、日本では、おばさんがゴミを拾うのを、黙ってみていられない。それが日本人なのだと。
アメリカでは住んでいる町が社会(コミュニティ)だが、日本では会社が社会(コミュニティ)だ。そういう日本人独特の感覚を大事にして、会社という組織を育てれば良い。
そこから生まれる会社の個性が、日本の企業が世界で戦うための武器となるのだと。
楽天は2007年8月に六本木から北品川の楽天タワーに本社を移した。
おしゃれな無料で利用できる社員食堂があり、寿しバーもある。アスレチックジムもある。どうやらGoogleがオフィスをキャンパスと呼び、同じ様なフリンジベネフィットを与えていることを意識しているようだ。
楽天という会社は社員にとっての家であり、全力をかけて戦うフィールドでもあると。
従業員が3,000人を超えた今もやっているのかどうかわからないが、年始に全員で愛宕神社に詣でることなど、いくつか伝説となっている行事が、楽天にはある。体育会系会社と言われるゆえんだ。
第5のコンセプト スピード!!スピード!!スピード!!
ビジネスの現場で、ある意味で一番重要なこのコンセプトを最後に持ってきたのは、この本を読んだら、明日からと言わず、今すぐにでも実行して欲しいからだと。
スピードはビジネスの勝敗をわける重要なファクターになる。仕事のスピードを速くすることは、仕事そのものの質を高めることにもつながる。
仕事を速くやればやるほど成功の確率は高まるのだが、実はそれくらい切実な問題と考えている人は少ないと。
当事者意識を持って仕事をすればスピードは自然と上がる。モノゴトを3次元でなく、時間も含めた4次元で俯瞰できるのだ。
仕事のスピードを挙げるには、目標を設定することだ。以前紹介したレバレッジ・リーディングで著者の本田さんも、ビジネス書を1〜2時間で読むために、目的を持って読むことをすすめていたのと同じ考えだ。
目標を達成するのに掛ける時間は、常識から計算してはいけないと三木谷さんは忠告する。
常識を忘れて、最終目標をいつまでに達成するかを決めてしまう。それから逆算して、途中のマイルストーンを達成する時間を割り出すのだ。
ビジネスにおける常識的なタイムスケジュールは、三木谷さんが言うところの本当のプロフェッショナルでない普通のサラリーマンのタイムスケジュールだ。
普通のサラリーマンのやっている仕事の8割が無駄、と言ったら怒られるだろうかと。
社会にはあまりにも無駄な仕事が多い。
3ヶ月の目標なら、無駄な部分を省くと1週間くらいでできてしまうことが多い。
仕事を成功させようとすると、上手くやろうと考えてしまうが、それと同じくらい速くやることが大切だ。
秀吉もナポレオンも軍隊の進軍の早さが身上だった。
スピード感を持って仕事をすることは、今という一瞬をどれだけ大切にして仕事をするかということでもあると。
先に紹介した星野仙一さんが「星野流」のなかで、ジャック・ニクラウスの言葉として同様の言葉を紹介している。「わたしはいつも『今日しかない』わたしの人生には、今日しかないと思っていつもプレーしている」と。
楽天グループの「月」
三木谷さんの目標は楽天を世界一のインターネット企業に育てることだ。20年後にはインターネット企業が、世界最大の企業になっているはずなので、世界一の企業をつくるのだと。
現在の楽天のインターネットにおけるポジションは世界6位。楽天は日本だけなので、1億2千8百万人相手だが、世界には65億から70億の人がいる。まだまだ伸びる可能性は大きい。
三木谷さんは、誰とは名指ししないが、現在の楽天を一人で切り盛りできる人材を、5人見つけたという。しかしまだ不足なので世界一になるには、そういう人間が200人から300人必要だと。
人材は企業にとって最大の財産で、お金で買えるものではない。上記のGoogleの様な新しいオフィスといい、楽天が人材育成のために、力を注いでいる理由だ。
楽天で今苦楽をともにしている社員の中から、どれだけの人材を育てられるか。楽天が世界で成功できるか否かはそこに掛かってくる。
20年あれば楽天は世界一の企業へと成長できると信じている。そのために全力で突っ走らなければならない。
インターネットはバーチャルな空間に存在するが、インターネットが変える世界はリアルそのものだ。今後も絶対に変わらない「人と人のつながり」をベースとしたインターネット企業を創り上げたいと。
リアルな世界のあるべき姿をしっかりと心に描き、自分の信じる人類の未来に貢献するためにビジネスに全身全霊で取り組む。
それが三木谷さんだけではなく、楽天で一緒に仕事をしている仲間全員の信念なのだと。
この本のあらすじは以上だ。今回は特に感じた事があるので、次に筆者のコメントを記すので、ご興味あれば続けて読んで頂きたい。
atamanisutto主人コメント
この本を読んで、なんとなく不安を抱いた。
楽天には非常に優れたスタッフがそろっており、三木谷さんは次代の楽天を担う五人と言っているが、名前を挙げていないし、三木谷さん以外に楽天を動かしている顔が見えない。
また楽天のショッピングモール事業についてしか書いていない。インターネットを通じての金融事業が楽天の目指すビジネスのはずだが、トラベル、クレジット、証券、球団など他の事業には一切触れていない。
この本は楽天市場の営業売り込みツールとしても使われる本なので、三木谷さんのカリスマ性を出すために、意図的に三木谷さんだけを登場人物にしたのかもしれない。
そうはいっても「俺についてこい」式の体育会系のノリというか、ワンマン体制の脆弱性を感じてしまうのは、筆者だけだろうか。
どの本の冒頭に書かれていたか記憶がはっきりしないが(あるいは日経ビジネスかもしれない)、三木谷さんのお父さん、神戸大学名誉教授の三木谷良一さんが、シドニー・フィンケルシュタイン教授の「名経営者が、なぜ失敗するのか?」を三木谷さんに贈ったという話を思い出した。
名経営者が、なぜ失敗するのか?
著者:シドニー・フィンケルシュタイン
販売元:日経BP社
発売日:2004-06-24
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この「名経営者が、なぜ失敗するのか?」の著者のフィンケルシュタイン教授はダートマス大学大学院タックスクールの教授だ。
筆者の知人のMonotaROの瀬戸社長も、ダートマスでの留学時代に授業を受けたことがあり、まじめでコツコツと研究成果を積み重ねていくタイプの教授だそうだ。
筆者も非常に感銘を受け、英語の原書まで買ってしまった。
Why Smart Executives Fail: What you can Learn From Their Mistakes
著者:Sydney Finkelstein
販売元:Portfolio
発売日:2004-05
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三木谷さんのお父さんも、三木谷さんの性格をよく知っているから、戒めの意味を込めて、この本を三木谷さんに贈ったのではないかと思う。
三木谷さん以外は、社員ナンバーツーで退社して今年3月まで横浜市の中学校長をしていた本城慎之介さんが少し出てくる他は、他の人は一切この本には登場しない。
三木谷さんの奥さんの三木谷晴子さんや、前楽天トラベル社長山田善久氏、草野耕一氏、高山健氏、副社長國重惇史氏、小林正忠氏、杉原章郎氏、吉田敬氏、楽天球団社長、島田亨氏など、筆者でもすぐ頭に浮かぶ重要人物が一切登場しない。
たぶん考えがあってのことだろうが、さらに言うと普通なら出版社の人や他のスタッフを、謝辞とかあとがきにも、登場させるところを、三木谷さんは一切登場させない。
不条理を排す三木谷さんだから、儀礼的な謝辞を排すということなのだろうか。
あるいは間違っているのかもしれないが、運動部のキャプテンが突っ走ってしまい、マネージャーも他のみんなも、ついてきて居ないような印象を受ける。
三木谷さんは良い意味でも悪い意味でも「ワガママ」な社長らしいが、もし唯我独尊の傾向があるなら、おこがましいようではあるが、三木谷さんのお父さんのアドバイスに従って、この本を参考にして、引き続き強い指導力を維持して、本当に世界一を目指して欲しいものだ。
参考になれば次クリックお願いします。
三木谷さんは大企業なら課長クラスの年代だが、やはり一国一城のあるじ、起業家は違う。
山田善久さんや吉田敬さんはじめ、従来の楽天を支えてきた人たちが一斉にいなくなってしまったのは残念だが、強烈な個性の経営者の元から実力のある人達が巣立っていったということかもしれない。
成功のコンセプト
著者:三木谷 浩史
販売元:幻冬舎
発売日:2007-10
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楽天三木谷浩史さんが出した最初の本。
いままで楽天については、このブログで「楽天の研究」や、「教祖降臨」など数冊のあらすじを紹介してきた。特に「楽天の研究」は、この本に書いていない楽天を支える様々な群像が紹介されており、参考になるので、是非ご覧戴きたい。
三木谷さん自身の本は初めてでもあり、非常に期待していた。
この本を読んで、楽天のオフィスにポスターとして貼られている「成功のコンセプト」が、よく理解できた。
たぶん三木谷さんが、いろいろなところで講演やスピーチしているものなのだろう。内容がよく練れていてわかりやすい。
三木谷さんは、神戸出身で、一橋大学を卒業後、当時の興銀(現在のみずほコーポレート銀行)に入社する。
最初は外国為替部というルーティンワークの典型のような職場に配属されたが、仕事を一生懸命にこなし、効率を上げる努力をした結果、MBA留学生に選ばれ、ハーバードで起業家を重視する風土に触れる。
帰国後、M&Aコンサルなどを興銀でやっていたが、阪神淡路大震災で叔父夫婦がなくなったことを契機に興銀をやめ、人生を起業に賭ける決心をする。
友人とコンサルをやる傍ら、起業プランを練り、1.インターネットのショッピングモール、2.地ビールレストランチェーン、3.天然酵母ベーカリーレストランチェーンの3業種に絞り、結局インターネットショッピングモールで1997年にサービス開始する。
当時はNTT,NEC、富士通、三井物産などの大企業のショッピングモールが、既に事業展開していたが、他社が数百万円の費用が掛かるのに対して、楽天は5万円/月という格安料金で参入する。
インターネットではファースト・ムーバー・アドバンテージと言われ、最初に手がけた人が圧倒的に有利と言われていたが、楽天はショッピングモール事業ではレイトカマーだった。
最近でこそベスト・ムーバー・アドバンテージとも言われるが、当時の常識に反するレイトカマーの成功例であり、これが楽天の成功を「改善モデル」と三木谷さんが呼ぶ理由だ。
成功のコンセプト
筆者は楽天が中目黒のオフィスに居たときから訪問しているが、当時からポスターとして楽天のオフィスに掲げられていた「成功のコンセプト」は次の5点だ。
1.常に改善、常に前進
2.Professionalismの徹底
3.仮説→実行→検証→仕組化
4.顧客満足の最大化
5.スピード!!スピード!!スピード!!
楽天のサービス開始は1997年5月1日。最初は三木谷さんの知人中心の13店舗。1年後は100店舗。2年目の1998年末には320店、1999年末には1,800店に拡大し、その後は二次曲線的に増え、現在は20,000店を超えた。
その成長を支えた戦略がこの成功のコンセプトだ。
まずは1.の改善だ。不安定な未来に対する戦略は2つあると三木谷さんは語る。
一つはダーウィニアンアプローチといわれるグーグルなどが取っている戦略だ。天才的な博士級の技術者を集め、数多く世に出し、種をばらまき、成長したものだけ刈り取るという戦略だ。
もう一つのアプローチはマイクロソフトと同じ改善アプローチだ。マイクロソフトが最初に出したインターネット・エクスプローラーは、ネットスケープには全く太刀打ちできない不出来のものだった。
それをマイクロソフトは長い時間を掛けて、徐々に改善し、最後はネットスケープを葬った。
三木谷さんは楽天のビジネスモデルをマイクロソフトと同じ改善モデルと呼ぶ。改善は絶対的に成長する方法なのだと。
1日1%の改善でも、一年365日続けると1.01の365乗は37倍となる。現在に満足せず、常に改善をし続けたことが楽天の成功の秘訣だ。
人間の力には実力、能力と潜在能力の3つがある
人間の力には実力、能力と潜在能力の3つがあると三木谷さんは語る。
スポーツは弱肉強食の世界だから、たぶんトップアスリートになれば潜在能力の8割くらいは引き出しているのだろうが、ビジネスの世界では潜在能力の10%程度しか使っていない人がほとんだろう。
そもそも潜在能力を引き出そうなどと、考えたこともない人の方が多いのではないだろうかと。
潜在能力でどれだけの差があっても、勝てるチャンスがあるのだ。
潜在能力の10%しか使っていない人が、もう10%能力を引き出すのはそれほど難しいことではないだろうが、誰もそれをしようとしていない。
もったいないと思うと。
楽天は社員の能力をもう10%引き出す企業のモデルとなり、その文化を他の企業にも伝播させたいと。
世の中には天才ばかりではないが、改善は誰にでもできるし、改善は凡人を天才にする方法なのだと三木谷さんは語る。
筆者の友人で大学時代の三木谷さんを知る人がいるが、大学時代の三木谷さんは、決して傑出していた訳ではないという。「あの三木谷が…」という感じだと。
この友人の言葉も、三木谷さんの言葉を裏付ける。三木谷さんは決して優等生ではない。一浪して一橋大学に入学するが、大学時代はテニスに明け暮れた様だ。
成功するためには、潜在能力の差など問題ではないのだ。いかに能力の多くを引き出して、利用できるか。それがその人の実力となるのだ。
筆者もこの「実力、能力、潜在能力説」にはガーンとやられた。まさに三木谷さんの言う通りだと思う。いくら能力が高くても、引き出さなければ実力にならない。三木谷さんの様にガッツがあり、なんでも積極的に挑戦し、能力開発した人が成功するのだ。
成功している時こそ自分を否定する勇気を持つ
成功している時こそ、自分を否定する勇気を持つ。思いこみが成長を阻害している可能性はないだろうかと。
仕事のやり方でも、本当にその方法論が効率的なのか、それが必要なのか、常に考え続けることが必要だ。
たとえば会議だ。普通の会議は説明に59分、判断に1分だが、楽天の会議は資料は前日の5時までにすべて提出することにしたので、1時間の会議が10分で終わる。
会議の目的は説明することでなく、決断することなのだと。
身の回りには不合理・不条理がいくらでもある。三木谷さんはそういう不条理が大嫌いだったという。
三木谷さんはテニスで身を立てようと思ったこともあるくらい、テニスに熱中していた。高校では一年でレギュラーになったが、新入生なので延々と球拾いをやらされたから、あまりにも馬鹿らしい練習にあきれて、テニス部をやめ、テニスクラブに通ったという。
大学三年でテニス部主将になった時に最初にやったのは、新入生の球拾いの義務を廃止することだ。何の意味もない球拾いに費やす時間は不条理だと。
三木谷さんの反骨精神というか合理性を追求する姿勢が、楽天のベンチャー精神の源だ。
改善には目標がなくてはならない
日々改善することは極めて重要だが、改善にははっきりとした目標がなければならない。そして目標を立てた以上は、絶対にその目標を達成しなければならない。
良い例がNASAだと三木谷さんは語る。
ケネディが月に人間を送り込むと宣言したのが1961年、それからわずか8年で人類を月面に着陸させた。
ここには改善についての大事な教訓が含まれている。
飛行機を改善した結果として、月まで飛べる宇宙船を完成させた訳ではなく、月に人類を送り込むという目標があったから、人類が月まで到達できたのだ。
スポーツでは勝ち負けははっきりするが、ビジネスでは曖昧だ。
たとえば30%売上を増やすという目標のところ、27%しかのばせなかった時、スポーツの世界では敗北だが、ビジネスでは3%足りなくても、さほど問題にはならない。
そんな27%増えたからOKという考えを、三木谷さんは"Best effort basis"と呼び、否定する。
それでは、本当の意味の勝者にはなれず、本当の意味の仕事を楽しむことはできないと。
これとははっきり違うモノの考え方をする人がいる。その姿勢を"Get things done"と三木谷さんは表現する。
あらゆる手段を使って、何が何でも目標を達成する人間の姿勢だ。
不可能と思える目標を可能にしてこそ仕事の質は飛躍的に高まり、はじめてブレークスルーが生まれる。
何が何でも目標を達成するという姿勢がなかったために、10階に辿りつきたかったのに、結局のところ2階にすら達することができなかったというのは、ビジネスではよくある話なのだと。
筆者は、一時インターネット企業に出向していたので、三木谷さんの"Best effort basis"と、"Get things done"の違いを身をもって経験した。
自分で反省するに、所詮自分は"Best effort basis"メンタリティだったと思う。
大企業メンタリティなら、プロセスも評価対象になるが、成功、失敗のはっきりしているベンチャービジネスに、試験の様に「評価点」などない。過程がいくら正しくても、結果が出せなければ失敗だ。
三木谷さんは、ケネディの偉大さは、月という目標を設定したからだという。月はたしかに遠かったが、絶対に攻略不能という目標ではなかった。
三木谷さん達にとっての「月」は、世界一のインターネット企業だ。三木谷さんはいつも「月」のことを考えていると。
第2のコンセプト Professionalismの徹底
ビジネスで成功するかどうかの鍵は、仕事を人生最大の遊びにできるかどうかだと。
三木谷さんのいうProfessionalとは、仕事を人生最大の遊びと考え、24時間、365日どこにいても仕事のことを考えている人のことだ。
仕事中毒といってもいいかもしれない、人生にこれ以上の楽しみはないと思っていると。
例として、楽天の社員No. 2の慶応大学の大学院生だった本城慎之介氏が紹介されている。本城氏は、楽天退社後、横浜市の中学校長になったが、今年退任してまたビジネスに戻るという。
彼は1996年当時から、自分のホームページに就職活動の日記を書いていたほどのインターネット通だった。
楽天のショッピングモールのエンジンは当初外注していたが、うまくできなかったので、本城氏に「はじめてのSQL」という本を渡し、プログラミングの家庭教師を10日間つけて、最初の楽天のRMS(楽天マーチャントサーバー)をつくり1997年4月に楽天市場をオープンさせた。
本城さんは、ぼぼ一人で楽天市場のエンジンを完成させたのだ。これもProfessionalの典型である。くろうとがプロ、しろうとがアマという区別ではない。面白い仕事はない。仕事を面白くする人間がいるだけだ、そしてそれがProfessionalだという。
いい加減な仕事をして、サボって給料貰えるなら楽だという意識は間違っていると。人生で限りある自分の時間を、ドブに捨てているからだと。
第3のコンセプト 仮説⇒実行⇒検証⇒仕組化
ビジネスでは試験と違って、問題に対する正解は用意されていない。だから、仮説を立てて、実行し、結果を検証して、仕組化して、全体に適用するPDCA(Plan-Do-Check-Action)が問題解決策として有効なのだ。
仮説の中にも良い仮説と、悪い仮説があると三木谷さんは語る。
良い仮説を立てるためには、三木谷さんは、「そもそも論」を考えるべきであると。
おもしろい例を三木谷さんは挙げている。
長嶋茂雄さんは、空振り三振した時にヘルメットが派手に飛ぶ様に練習していたという。
長嶋さんはそもそも何のために野球をやるのかを考え、プロである以上、究極は観客を喜ばすためだから、そんなヘルメットを飛ばす練習をしたのだろう。
仕事も同じように、そもそもこの仕事は、何のためにあるのかを考えるべきなのだと。
このそもそも論から、楽天ではユーザーからの問い合わせなどを扱うカスタマーサービスは自社でやらず、すべてお店に直接つないだ。
お店とユーザーが直接コミュニケーションできる様にしたのだ。
あまり指摘されていないが、このお店とのダイレクトコミュニケーションが楽天市場のいちばん革新的なポイントで、急激な成長の理由の一つだったと三木谷さんは語る。
無機質のスクリーンに向かい合うディスコミュニケーションの典型のインターネットの世界だからこそ、コミュニケーションを取り戻したいという人々の潜在的欲求に答えたことが、楽天の急成長の秘密なのだと。
このPDCAサイクルをきちんと回せる会社が強いことは、「会社は頭から腐る」で冨山和彦さんが述べている通りだ。なかなかできないが、本当に重要な経営手法である。
第4のコンセプト 顧客満足の最大化
すべてはお客さまのために。
このコンセプトをビジネスの中で100%実現できたら、そのビジネスは100%成功するだろうと。
インターネットを使ってエンパワーメントを行う
楽天はインターネットの力を使って、情報格差社会を破壊する。
地方と都会の情報差を破壊する。地方の中小商店を元気づけ、エンパワーメントするのだ。地方のお店が、日本全国の消費者とダイレクトコミュニケーションを取る。そして売り手も買い手も満足を得るのだ。
広島県の山間の村に三代続いたコメ屋がある。ご主人はコメを知り尽くした人だが、コメ屋の商売に夢を抱いていなかった。
息子さんも後を継ぐ気はなく、都会で就職していた。ところが楽天市場で出店し、パソコンと格闘してネット販売を続けた結果、八年目の今年は楽天での売上が月1,000万円となり、拡大したビジネスを手伝うために息子さんが帰郷したという。
息子が戻ってきてくれたのが一番嬉しいとご主人が言ってくれたのが、三木谷さんには何より嬉しかったと。
このようなエンパワーメントの例が日本中にたくさん広がっており、村の人しか来なかった店が、いきなり銀座四丁目に出店した様な例が起きている。
古来市場には空間的制約があり、最も売れる場所は限られていた。それがインターネットで空間的制約がなくなり、かつ店の大きさという物理的な制約も関係なくなったのだ。
エンパワーメントは、インターネット企業のブレない中心軸になるのだ。
中小の企業や個人商店は「地の塩」だと。この軸をはずさない限り楽天というコマはいつまでも安定して回り続けることができるのだと。
ビジネスには戦争型と戦闘型の2通りのスタイルがある
ビジネスには戦争型と戦闘型の2通りのスタイルがあると、三木谷さんは語る。
戦争型は世界地図を広げ、大きな戦略を考えながら展開しているスタイルだ。マイクロソフトのOSや、グーグルの検索エンジン、アマゾンもこのタイプだ。
一方戦闘型ビジネスとは、一つ一つの局面での戦闘の勝利を積み上げていくやり方だ。
楽天はまずは戦闘的ビジネスで業績を伸ばし、限界点を超えた時に戦争型ビジネスに切り替えるという。
楽天は世界一のインターネット企業を目指しているので、戦闘もやりながら、2005年にはアメリカのアフィリエイト大手のリンクシェア社を417百万ドルで買収するなど、思い切った戦争型ビジネスもやっていると。
三木谷さんは何もふれていないが、TBSの買収劇も楽天にとっての大きな戦争だと思う。もはやTBS株は簿価割れとなっており、含み損は楽天の1年分の純利益が吹っ飛ぶくらいの規模になっているはずだが、こちらの戦争では出口が見えない様だ。
テレビとインターネット
三木谷さんが語るテレビとインターネットとのシナジーは、次のようなものだ。
日本の広告市場は6兆円といわれている。その40%がテレビで、インターネットは急速に伸びて6%にまでなってきており、さらに伸びることが予想されている。
地上波アナログ放送が終了すると、いよいよテレビは録画して見ることが主流となる。そうなると、番組と一緒にCMを流しても効果が上がらないことになる。
CMとコンテンツは別々に流すことになり、行動ターゲティング広告というユーザーの嗜好にあわせた広告を流すことが主流になってくる。
インターネット広告と、テレビ広告は融合してくるのだ。そこで民間の放送局とインターネット企業は、同じ土俵でビジネスをすることになり、協力関係も生まれてくるのだと。
楽天では掃除人は雇わない
楽天では掃除業者を雇っていない。掃除は自分たちでやるのだ。テニスの球拾いと同じように、自分の仕事場くらい自分で掃除をすれば良いのだと。
アメリカではゴミはゴミ掃除のおばさんが拾うのは当たり前かもしれないが、日本では、おばさんがゴミを拾うのを、黙ってみていられない。それが日本人なのだと。
アメリカでは住んでいる町が社会(コミュニティ)だが、日本では会社が社会(コミュニティ)だ。そういう日本人独特の感覚を大事にして、会社という組織を育てれば良い。
そこから生まれる会社の個性が、日本の企業が世界で戦うための武器となるのだと。
楽天は2007年8月に六本木から北品川の楽天タワーに本社を移した。
おしゃれな無料で利用できる社員食堂があり、寿しバーもある。アスレチックジムもある。どうやらGoogleがオフィスをキャンパスと呼び、同じ様なフリンジベネフィットを与えていることを意識しているようだ。
楽天という会社は社員にとっての家であり、全力をかけて戦うフィールドでもあると。
従業員が3,000人を超えた今もやっているのかどうかわからないが、年始に全員で愛宕神社に詣でることなど、いくつか伝説となっている行事が、楽天にはある。体育会系会社と言われるゆえんだ。
第5のコンセプト スピード!!スピード!!スピード!!
ビジネスの現場で、ある意味で一番重要なこのコンセプトを最後に持ってきたのは、この本を読んだら、明日からと言わず、今すぐにでも実行して欲しいからだと。
スピードはビジネスの勝敗をわける重要なファクターになる。仕事のスピードを速くすることは、仕事そのものの質を高めることにもつながる。
仕事を速くやればやるほど成功の確率は高まるのだが、実はそれくらい切実な問題と考えている人は少ないと。
当事者意識を持って仕事をすればスピードは自然と上がる。モノゴトを3次元でなく、時間も含めた4次元で俯瞰できるのだ。
仕事のスピードを挙げるには、目標を設定することだ。以前紹介したレバレッジ・リーディングで著者の本田さんも、ビジネス書を1〜2時間で読むために、目的を持って読むことをすすめていたのと同じ考えだ。
目標を達成するのに掛ける時間は、常識から計算してはいけないと三木谷さんは忠告する。
常識を忘れて、最終目標をいつまでに達成するかを決めてしまう。それから逆算して、途中のマイルストーンを達成する時間を割り出すのだ。
ビジネスにおける常識的なタイムスケジュールは、三木谷さんが言うところの本当のプロフェッショナルでない普通のサラリーマンのタイムスケジュールだ。
普通のサラリーマンのやっている仕事の8割が無駄、と言ったら怒られるだろうかと。
社会にはあまりにも無駄な仕事が多い。
3ヶ月の目標なら、無駄な部分を省くと1週間くらいでできてしまうことが多い。
仕事を成功させようとすると、上手くやろうと考えてしまうが、それと同じくらい速くやることが大切だ。
秀吉もナポレオンも軍隊の進軍の早さが身上だった。
スピード感を持って仕事をすることは、今という一瞬をどれだけ大切にして仕事をするかということでもあると。
先に紹介した星野仙一さんが「星野流」のなかで、ジャック・ニクラウスの言葉として同様の言葉を紹介している。「わたしはいつも『今日しかない』わたしの人生には、今日しかないと思っていつもプレーしている」と。
楽天グループの「月」
三木谷さんの目標は楽天を世界一のインターネット企業に育てることだ。20年後にはインターネット企業が、世界最大の企業になっているはずなので、世界一の企業をつくるのだと。
現在の楽天のインターネットにおけるポジションは世界6位。楽天は日本だけなので、1億2千8百万人相手だが、世界には65億から70億の人がいる。まだまだ伸びる可能性は大きい。
三木谷さんは、誰とは名指ししないが、現在の楽天を一人で切り盛りできる人材を、5人見つけたという。しかしまだ不足なので世界一になるには、そういう人間が200人から300人必要だと。
人材は企業にとって最大の財産で、お金で買えるものではない。上記のGoogleの様な新しいオフィスといい、楽天が人材育成のために、力を注いでいる理由だ。
楽天で今苦楽をともにしている社員の中から、どれだけの人材を育てられるか。楽天が世界で成功できるか否かはそこに掛かってくる。
20年あれば楽天は世界一の企業へと成長できると信じている。そのために全力で突っ走らなければならない。
インターネットはバーチャルな空間に存在するが、インターネットが変える世界はリアルそのものだ。今後も絶対に変わらない「人と人のつながり」をベースとしたインターネット企業を創り上げたいと。
リアルな世界のあるべき姿をしっかりと心に描き、自分の信じる人類の未来に貢献するためにビジネスに全身全霊で取り組む。
それが三木谷さんだけではなく、楽天で一緒に仕事をしている仲間全員の信念なのだと。
この本のあらすじは以上だ。今回は特に感じた事があるので、次に筆者のコメントを記すので、ご興味あれば続けて読んで頂きたい。
atamanisutto主人コメント
この本を読んで、なんとなく不安を抱いた。
楽天には非常に優れたスタッフがそろっており、三木谷さんは次代の楽天を担う五人と言っているが、名前を挙げていないし、三木谷さん以外に楽天を動かしている顔が見えない。
また楽天のショッピングモール事業についてしか書いていない。インターネットを通じての金融事業が楽天の目指すビジネスのはずだが、トラベル、クレジット、証券、球団など他の事業には一切触れていない。
この本は楽天市場の営業売り込みツールとしても使われる本なので、三木谷さんのカリスマ性を出すために、意図的に三木谷さんだけを登場人物にしたのかもしれない。
そうはいっても「俺についてこい」式の体育会系のノリというか、ワンマン体制の脆弱性を感じてしまうのは、筆者だけだろうか。
どの本の冒頭に書かれていたか記憶がはっきりしないが(あるいは日経ビジネスかもしれない)、三木谷さんのお父さん、神戸大学名誉教授の三木谷良一さんが、シドニー・フィンケルシュタイン教授の「名経営者が、なぜ失敗するのか?」を三木谷さんに贈ったという話を思い出した。
名経営者が、なぜ失敗するのか?
著者:シドニー・フィンケルシュタイン
販売元:日経BP社
発売日:2004-06-24
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この「名経営者が、なぜ失敗するのか?」の著者のフィンケルシュタイン教授はダートマス大学大学院タックスクールの教授だ。
筆者の知人のMonotaROの瀬戸社長も、ダートマスでの留学時代に授業を受けたことがあり、まじめでコツコツと研究成果を積み重ねていくタイプの教授だそうだ。
筆者も非常に感銘を受け、英語の原書まで買ってしまった。
Why Smart Executives Fail: What you can Learn From Their Mistakes
著者:Sydney Finkelstein
販売元:Portfolio
発売日:2004-05
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三木谷さんのお父さんも、三木谷さんの性格をよく知っているから、戒めの意味を込めて、この本を三木谷さんに贈ったのではないかと思う。
三木谷さん以外は、社員ナンバーツーで退社して今年3月まで横浜市の中学校長をしていた本城慎之介さんが少し出てくる他は、他の人は一切この本には登場しない。
三木谷さんの奥さんの三木谷晴子さんや、前楽天トラベル社長山田善久氏、草野耕一氏、高山健氏、副社長國重惇史氏、小林正忠氏、杉原章郎氏、吉田敬氏、楽天球団社長、島田亨氏など、筆者でもすぐ頭に浮かぶ重要人物が一切登場しない。
たぶん考えがあってのことだろうが、さらに言うと普通なら出版社の人や他のスタッフを、謝辞とかあとがきにも、登場させるところを、三木谷さんは一切登場させない。
不条理を排す三木谷さんだから、儀礼的な謝辞を排すということなのだろうか。
あるいは間違っているのかもしれないが、運動部のキャプテンが突っ走ってしまい、マネージャーも他のみんなも、ついてきて居ないような印象を受ける。
三木谷さんは良い意味でも悪い意味でも「ワガママ」な社長らしいが、もし唯我独尊の傾向があるなら、おこがましいようではあるが、三木谷さんのお父さんのアドバイスに従って、この本を参考にして、引き続き強い指導力を維持して、本当に世界一を目指して欲しいものだ。
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