時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2009年12月

不動心 どんな時にもスタンスがブレない元ヤンキース松井秀喜の本

不動心 (新潮新書)不動心 (新潮新書)
著者:松井 秀喜
販売元:新潮社
発売日:2007-02-16
おすすめ度:4.5
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左手首を骨折した2006年のシーズンオフに書かれた元ヤンキース松井秀喜の本。

骨折で125日間をリハビリに費やした経験から、さらに人間としてのスケールが大きくなったような気がする。

タイトルの不動心とは、故郷の石川県の実家にオープンした松井秀喜ベースボールミュージアムに掲げている次の言葉から取っている。

日本海のような広く深い心と
白山のような強く動じない心
僕の原点はここにあります


広く深い心、強く動じない心、すなわち「不動心」を持った人間でありたいと、いつも思っているのだ。

この本を読んで松井選手が野球の上でも、また私生活でも、スタンスのぶれない不動心を持っていることがよくわかる。

野球選手はオフになるとヒマがあるせいか、有名選手・監督は多くの著作があるが、やはり一芸に秀でている人の言葉は人を動かす力があるものだ。

本の構成もよく、頭にスッと入る本だ。


目次を読むと、この本で言いたいことの大体の感じがわかると思うので、紹介しておく:

第1章 5.11を乗り越えて
第2章 コントロールできること、できないこと
第3章 努力できることが才能である
第4章 思考で素質をおぎなう
第5章 師から学んだ柔軟な精神
第6章 すべては野球のために


恩師 長嶋監督

ちょうどドラフト会議が終わったばかりだが、1992年のドラフト会議の光景が思い出される。

松井秀喜にドラフト1位指名が集中して抽選となり、当時の長嶋巨人軍監督が当たりくじを引き、満面の笑みを浮かべた場面だ。

この本でも節目節目に長嶋監督が出てくる。

松井が左手首を骨折したときに、脳梗塞でリハビリ中の長嶋監督から電話が掛かってきた。

「松井、これから大変だけどな。リハビリは嘘をつかないぞ。頑張るんだぞ。いいな、松井」

巨人時代に松井の連続試合出場記録がとぎれそうになった時も、励ましたのは長嶋監督だったという。「やれるとこまでやってみろ」

FAになり大リーグに行くことを決めたときも長嶋監督に会い、決断を告げたという。「もう決めたことなのか。考え直す気はないのか」「よしわかった。行くなら頑張ってこい」と肩を叩いてくれたという。


松井と長嶋監督の練習法

長嶋監督の自宅地下には練習場があり、松井はそこをしばしば訪れ長嶋監督に素振りを見てもらっていた。

長嶋監督は、松井が素振りをしている間、目を閉じてスイングの音を聞いているのだと。「今の球は内角だな。」「うん?外角低めだったか」という長嶋さんにしかわからない感覚を持っていた。

その日ホームランを打ったとか、凡退しているとかは関係ない。鈍い音がすると叱責され、休む間もなくスイングを繰り返した。

元阪神の掛布が調子が悪いときに、長嶋監督に電話したら、その場で素振りをしろといわれ、長嶋監督はその音を電話で聞いてアドバイスしたという。それくらいスイングの音を大切にしていた。

さすが天才かつ感覚派の長嶋監督だと思わせるエピソードだ。

長嶋監督とは何度も素振りを繰り返した。長嶋監督から電話が来て「おい松井、バット持ってこいよ」と長嶋さんの自宅、あるいはホテルで二人だけの特訓を繰り返した。

しかしマンツーマンの練習も二人だけの時しかやらなかったので、他の選手から嫉妬されるようなことはなかった。長嶋監督も配慮してくれたのだ。

松井が大リーグのルーキーイヤーにツーシームボールで悩まされていたとき、ニューヨークに到着したばかりの長嶋監督から「松井、スイングやるぞ」と声が掛かったという。

ちなみに長嶋監督の家の地下の練習場には数多くのトロフィーや賞状が整然と並べられていたが、すべて長嶋一茂のもので、長嶋監督自身のものは隅に追いやられていた。

いくら名選手とはいえども、普段は子供がかわいい普通の父親だとわかり、松井は思わずくすくすと笑ってしまったのだと。


伝説の5打席連続敬遠

松井といえば、高校時代の対明徳義塾戦の5打席連続敬遠が有名だが、松井は高校生当時は打ちたい、勝負してくれと考えたが、今は違うと。

あの5打席連続敬遠があったからこそ、日本中から注目され、長嶋監督もあの試合をテレビ観戦していたのだと。もし敬遠されていなかったら、ホームランを打ったとしても長嶋さんの目にとまらず、どうなっていたかわからない。

人間万事塞翁が馬で、思い通りにならなくとも、前に進むしかないのだと松井は結論づける。

松井は打てなくても悔しさは胸にしまっておく。そうしないと、次も失敗する可能性が高くなってしまうからだ。コントロールできない過去よりも、変えていける未来にかけるのだ。

だから打てなかった日の松井のコメントが物足りないのは勘弁してくれと。チャンスで打てなかったら、きっと心の中では悔しさで荒れ狂っているのだろうな、と思ってくれと松井はいう。

別ブログで星野監督の「星野流」のあらすじを紹介しているが、星野監督は松井と正反対に、感情を外に出すタイプの典型なので、対比すると面白い。

星野流星野流
著者:星野 仙一
販売元:世界文化社
発売日:2007-11-08
おすすめ度:3.5
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メディアとの関係

メディアはコントロールできないので、気にしないのが一番だが、なかなか難しい。松井は自分のことを書いた記事も読む。

不思議と調子が悪いと書かれた時ほど調子があがってくるのだと。スランプと書かれる頃には、そろそろホームランを打てる確率も上がっているのだ。

メジャーにはジアンビの様な力任せにバットをボールと衝突させるような打ち方の選手もいるが、松井はしなやかさを生かしたバッティングが、目指すべきバッティングだと語る。


人の心を動かしたい

絶対にコントロールできないが、動かしたいものは人の心だと松井は語る。

巨人の入団会見で、「自分はファンや小さい子供たちに夢を与えられるプレーヤーになるよう、一生懸命頑張っていきたい」と語った。

毎日ホームランは打てないし、毎日ヒットも無理だろう。しかし毎日試合に出て、全力でプレーすることならできるので、松井はそれをやるのだと。

星陵高校のベンチでは次の言葉が掲げられていた。

心が変われば行動が変わる
行動が変われば習慣が変わる
習慣が変われば人格が変わる
人格が変われば運命が変わる

今も心の中に響く言葉だという。

自分も弱い人間なので、つい手を抜きそうになるが、たとえセカンドゴロでも全力で走り、全力プレーを続けることで、最もコントロール不能な人の心を動かしたいと。

今シーズン末に、ひざが悪くても常に全力疾走する松井を見ていて、この言葉通りのことを松井は実行しているのだと感じた。

なかなかできることではない。

自分の身を振り返る機会を与えてくれる松井の言葉である。


努力できることが才能である

これが松井の座右の銘だ。いい言葉だと思う。

松井のお父さんが、小学3年生の時に半紙に書いて部屋に貼り付けてくれたという。加賀市で晩年を過ごした硲(はざま)伊之介という洋画家、陶芸家の言葉だそうだ。

松井は天才型ではない。だから努力しなければならない。大リーグでも才能にあふれた選手は多いが、努力せずに成功した人はいないのではないかと。

たとえば今年ア・リーグのMVPになったアレックス・ロドリゲスは2月のタンパでのキャンプから誰よりも早く、グラウンドに毎朝七時に来て練習をしているので、コーチが根を上げた。

大リーグ最高の選手が、人一倍練習しているのだ。

ヤンキースのキャプテン ジーターの自宅はフロリダのタンパにある。ヤンキースの常設キャンプがあり、練習設備も完備しているので、常に練習できるようにタンパに住んでいるのだ。


不動心 素振りが松井の原点

松井は基本中の基本、素振りを重視する。未来に向けた一つの決意として、素振りを欠かさない。

これは努力すればできることだからだ。ホームランを打った日も、ヒットが打てなかった日も必ず素振りをしてきた。

打てた日は慢心し、打てなかった時は落ち込む。これでは未来にプラスにならないので、松井は毎日素振りをしながらリセットするのだ。

バットが風を切る音が、「ピッピッ」と鋭い音が聞こえると安心し、調子の悪い時は「ボワッ」という鈍い音がすると。自分の感覚はごまかせないので、自分が一番厳しい評論家であるべきだと思っている。

失敗しての悔しさは未来にぶつける。それが素振りなのだ。

松井は岐阜県にあるミズノのバット工場を、毎年オフに訪問する。

頭の中でイメージした形を口にすると、久保田五十一名人がバットにしてくれる。それを振ってみて、イメージと違うとまた削って貰い、一日がかりで、松井のバットをつくるのだ。

そしてできたバットを松井は1シーズン使い続ける。途中でバットは変えない。松井にとって「メガネは顔の一部です〜」(たしか東京メガネのCMソング)ならぬ「バットは体の一部です〜」なのだ。


思考で素質をおぎなう

松井は自分は器用ではないし、素質がある方だとも思っていない。

松井の大リーグ一年目はツーシームというシュート回転しながら、打者の手元で沈む変化球にてこずり、メディアにゴロキングというあだ名を付けられた。

手元で変化するボールを正確にとらえるためには、ボールをできるだけ長く見る必要がある。そのために、一年目のオフにはウェイトトレーニングで筋力をつけ体重を10数キロアップし、特に体の左半身を鍛えた。

左手でキャッチボールをしたり、箸を持ったりして左手を器用に使えるように努力したのだ。

左手をうまくつかうことによって、外角に沈むツーシームを手元まで呼び込んで、左方向に強くはじき返す。そのためのトレーニングだ。

日本で50本ホームランを打っていたので、一年目は結果がでなかっただけ、そのうち打てるようになるさ、と思っているうちはずっと悪い結果が続いたろうと松井は語る。

自分は不器用で、素質もないのだと認識すること。己を知ること。ソクラテスの「無知の知」である。

大リーグに来て自分は素質がないと痛感したので、二度とあんな思いはしたくない。だからあえて力不足の自分を受け入れ、現状を打破したいと必死になったのだと。


不動心 打撃に対するアプローチは不変

不調の時でも、打撃に対する自分のアプローチは変えない。悪い部分は修正していくが、根本的な考え方や取り組み方は決して変えない。結果が出ないからといって、根本的な部分まで変えると収拾がつかなくなってしまうからだ。

調子が良くなると、0.00何秒か長く見えているような感覚になる。長く見られる余裕が出た分だけしっかり振れるのだ。

勝負強さは、打席にはいるまでに頭の整理ができているかどうかだと松井は語る。

たとえばツーストライクまでは、カウントを取りに来るストレートに的を絞るとか、必ず投げて来るであろう決め球以外は振らないとか。

できる限りの知恵を振り絞って対策を決め、打席に入ったら、もう迷わない。結果として三振してもかまわない。それくらいの信念を持って打席に入れるかどうかが、勝負強さを決定するのだと。

有り体に言うとヤマをはるということなのだろうかと。3球のうち1球くらいは自分のツボに来る可能性があり、相手投手もミスをする。そのミスをいかにして確実に攻略するかが勝負だ。そのために自分を鍛え、トレーニングを積むのだ。

打席で150キロのボールに対しては、下半身とか左手とか考えている余裕はないので、自分のスタンスを決め、打席でのアプローチを明確にする必要がある。

自分の足場を固める。根幹をしっかりする。相手に対処しなければならないスポーツだからこそ、素振りやティーバッティングは大切にしたいと松井は語る。

チャンスに強いバッターは、ここぞという時でも平常心を保てる打者ではないだろうか。だから162試合同じように準備をして、すべて同じ心境で打席に入りたい。ここぞという場面で打つためだ。


対戦相手の研究

松井は遠征に宮本武蔵の五輪書を持参したという。日本では相手ピッチャーは限られていたので、記憶していたが、大リーグでは先発だけでも13球団で65名いるわけで、今はメモをつけている。

五輪書 (岩波文庫)五輪書 (岩波文庫)
著者:宮本 武蔵
販売元:岩波書店
発売日:1985-02
おすすめ度:4.5
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この本のなかでも書かれているが、以前松井がテレビ番組に出た時に300何本目のホームランを打ったときの投手と球場はどこかと聞かれ、スラスラと答えていたのに筆者はびっくりした。

日本でのホームラン(そしてたぶん大リーグでも)は、すべて記憶しているのだ。

相手によって自分のスタンスは変えないが、相手を知らなければ十分な準備はできない。だから相手をしっかりと把握しておく必要があるのだ。


松井は放任主義で親から育てられたというが、この本のあちこちに、父や母に対する感謝の気持ちがあふれている。読んでいて心が洗われる気持ちになる。

本当に好青年、そして求道者という感じだ。

今度はエンゼルスだが、いっそう松井を応援したくなる。おすすめの本である。


参考になれば次クリックお願いします。


明日の広告 広告業界のことを知らなくても楽しめる本

明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)
著者:佐藤 尚之
販売元:アスキー
発売日:2008-01-10
おすすめ度:4.5
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電通のクリエイティブディレクター佐藤尚之さんの変化した消費者とコミュニケートしようとする広告の本。

佐藤さんは個人で1995年からさとなおというホームページを運営しており、訪問者カウンターは今や3100万人を超えている。


伝説のホームページ

ホームページはほぼ毎日更新されており、毎日の記事も面白いし、コンテンツがすごい。グルメ、本、CD、シネマなどの情報が適宜更新されており、収録されているレストランは2,700軒、本は940冊もある。

世の中にはすごい人もいるものだ。

この本の目次もさとなおホームページで公開されているので、是非目次も見て欲しい。

CMスキップでTVなどのマス広告の効果減のため、ビジネスモデルを変える必要がある広告業界の生きるべき道を、「明日の広告」という切り口で提言している。

以前の朝日新聞の「売れている本」というコーナーに紹介されていたので読んでみた。

文中に電通常務のカリスマクリエイター杉山恒太郎さんが上司として紹介されているが、電通という会社名が一切出てこない。

ちなみに杉山さんは「ホリスティック・コミュニケーション」という本を出しており、筆者も読んだことがある。広告に対する消費者心理が伝統的なAIDMA(Attention-Interest-Desire-Memory-Action)からAISAS(Attention-Interest-Search-Action-Share)に変わったというものだ。

佐藤さんが手がけた広告や他の電通の傑作広告が紹介されていて、広告業界に就職を目指す人には感動を与える必見の本だと思うが、電通という名前が一切出てこないので、リクルート本の様ないやみがない。さすが電通と思わせる。


この本の主題

最初と途中で金城一紀「映画篇」より次が掲げられている。

「君が人を好きになった時に取るべき最善の方法は、その人のことをきちんと知ろうと目を凝らし、耳をすますことだ。そうすると、君はその人が自分の思っていたよりも単純ではないことに気づく。極端なことを言えば、君はその人のことを実は何にも知っていなかったのを思い知る」

映画篇


広告は消費者へのラブレターだという出だしで始まる。そしてラブレターという比喩を使って、広告が消費者にモテモテで受け入れられていた頃と、受け取ってすら貰えない今との対比を説明する。

今やホスト並に細やかにサービスしてようやく相手を口説ける時代なのだと。ラブレターを渡して終わりではない。脈がありそうならすかさずもう一押し、ライバルは次々現れる。つきあっている間も相手は友達と相談していることを忘れずにいることが重要だと。

商品を売って、それで終わりではない。ブランドを確立し、維持するためには、アフターフォローが絶対必要で、購入者の口コミもブランド維持に重要だ。

これを佐藤さんは「商品丸裸時代」と呼ぶ。ネットによって商品の良い面も悪い面も消費者がブログなどで情報発信する時代になってきたのだ。

消費者の使い勝手を優先して商品をつくる発想がなくてはならない。ソニーのウォークマンの生みの親の黒木靖夫氏は、常に誰がどんなふうに使うのかを考えて商品開発を行っていたのだという。他社は製造部門に属す設計部隊が製品をデザインしていた。


広告が華だった時代に入社

佐藤さんが広告にあこがれるようになったのは、1982年のサントリーロイヤルのランボオのCMを見たからだという。



筆者も衝撃を受けた記憶がある。ウィスキーとは何の関係もないストーリーだと思うが、ファンタジックで強烈な印象が残る秀逸なCMだった。これは後に佐藤さんの上司となる電通杉山恒太郎さんの作品だという。

YouTubeでこのCMの名作がいつでも見られるとは、なんと便利な時代になったことだろう。

「強いCM」の時代に電通に入社した佐藤さんは関西支社に配属され、2年目からCMを任され、CMプランナー、クリエーターとしてバリバリ仕事をこなしていたが、1993年頃にインターネットと出会って衝撃を受ける。


インターネットの衝撃

インターネットは次の3点で他のどのメディアとも違ったという。

・有史以来初めて一般消費者が世の中に発信できるメディアを持った
・情報が距離や国境を越えてスピーディに飛び交い、常に更新される
・ヨコにつながった消費者がマスメディアに対抗する手段を持った

1995年につくったのが、さとなお.comというホームページで、当時ホームページを公開していた個人は日本で100人もいなかったという。自腹でレストランを訪問して評価するジバランというサイトを出会ったこともないネットの賛同者10名と作った(今は閉鎖)。

広告で厚化粧しても、消費者がネットで商品のスッピンの姿を教え合う「商品丸裸時代」になったのだ。筆者はドラクエの事は何もしらないが、佐藤さんはこれをドラクエのアイテムの、その人の真実の姿を映し出す「ラーの鏡」と呼ぶ。


消費者はターゲットでなく、パートナー

ネットの出現+情報洪水+成熟市場の3連発が、広告を変えたのだ。そして消費者が最も信頼するものは「友達・好きな人・信頼できる人」の口コミとなった。

これを象徴する出来事は、2006年のタイム誌のMan of the Yearが"YOU"、つまりあなたになり、2007年のスーパーボウル(1月下旬)の最優秀CMにドリトスの素人CMが選ばれたことだ。(スーパーボウルCMは全米で最も視聴率が高く、広告料は30秒で3億円といわれる)



英国のネイキッドというコミュニケーション・プラニング会社のジョン・ウィルキンス氏は、「私たちは、消費者をターゲットとは呼ばない。パートナーと呼ぶ」と宣言するまでになった。


広告手法も変化

消費者を「待ち伏せ」する方法も、テレビ、ラジオ、新聞中心の今までの広告とは異なってきた。

口コミが最も有効な宣伝手段となり、ブログやSNSなどのCGMで消費者に宣伝してもらう広告、検索連動型広告などが新しい広告の形態だ。


ますます重要になってきた「初動」

基本に戻ってその人のことをきちんと知ろうと本気で考えることが、広告の「初動」として重要だ。

冒頭で紹介した金城さんの言葉を再度引用している。

「君が人を好きになった時に取るべき最善の方法は、その人のことをきちんと知ろうと目を凝らし、耳をすますことだ。そうすると、君はその人が自分の思っていたよりも単純ではないことに気づく。極端なことを言えば、君はその人のことを実は何にも知っていなかったのを思い知る」


先入観で「初動」を間違ってはならない

先入観が全く的はずれだった例を紹介している。

「Aという車があり、仮想敵はBという車。商品の売りはラグジャリー感と居住性。ターゲットはプチ富裕層、40〜50代の男性」とクライアントからブリーフィングを受けた。

そのつもりでCMプランを練ろうとするチーム員に、佐藤さんはちょっと待てと提案した。

Aと競合する4車種につき、購入行動を調べるため購入意向者の趣味とよく読む雑誌を調べたところ、Aを買いたい人とBを買いたい人は全く競合しないことがわかったという。Aを買いたい人はアウトドア志向、Bはドライブ志向。Aを買いたい人は車雑誌を読まず、子育て雑誌、アウトドア雑誌などを読むという様な点だ。

清涼飲料をもっと高校生に売りたいというクライアントの要望を受け、高校生=モバイルだと軽い気持ちで高校生にインタビューしたら、先入観は間違いで、女子はまだしも、男子高校生はメール以外はほとんどケータイを使っていないことがわかった。

結局最も男子高校生にアプローチできるのは、ファミレスだったという。


とことん消費者本位に考えたスラムダンク一億冊感謝キャンペーン

筆者は一度も読んだことがないが、神奈川県出身者なので、スラムダンクは神奈川県を舞台としたバスケマンガだということは知っている。そのスラムダンクの単行本31巻は合計一億冊以上を売ったという。

連載は八年も前に終わっていたが、作者の井上雄彦さんが、読者にありがとうを言いたいという気持ちを伝えたいとして、相談があった。

これには先例がある。阪神が優勝した時に、星野監督がスポーツ紙5紙にポケットマネーでファンに感謝する広告を出したのだ。

しかしよく考えると星野監督の大きな声でありがとうと言いたいというのと、スラムダンクとは違うことが分かったという。スラムダンクはファンにだけ感謝したいのだ。

そして関係者みんなでスラムダンクを読みまくり、誰かの「スラムダンクって作品は、井上さんのものじゃなくて、彼らのものなんだよね」という言葉で、みんなの気持ちが固まったという。伝えたい相手にだけ伝わればよい。

そこで全国紙6紙にスラムダンクの登場人物の全面広告を出し、それに小さくスラムダンクのキャンペーンページのURLを告知。キャンペーンサイトでは自分のキャラクターを選んでメッセージ、名前、メアドなどを登録すると、ファイナル試合の山王工業戦の会場に入れる。

そうするとスタジアムの観客席に自分の選んだキャラクターが赤く表示され、自分の入れたメッセージで応援しており、他の観客のメッセージもカーソルを載せると表示されるという趣向だ。

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このキャンペーンサイトはまだオープンしているので、筆者もやってみた。

さらに神奈川県三浦市の廃校となった高校を借り切ってスラムダンクファイナルイベントを行った。作者の井上さんは三日かかって23の黒板にスラムダンクをチョークで書きあげたという。

このキャンペーンのすべてがホームページで公開されている。

ファンには感謝感激、こたえられない広告キャンペーンだろう。そして佐藤さんも、相手が一番望んでいることをするという考え方や、相手を巻き込み参加してもらうことの大切さ、伝えたいことを伝えるというスタンスなど、いろいろな事を学んだという。


広告のチカラ

佐藤さんの上司でもある電通のカリスマクリエーター杉山恒太郎さんは次のように言っているという。

「消費者の心に何らかの価値変容を起こさないものを広告とは呼ばない」

「商品的にも市場的にも圧倒的に不利な二番手を、広告のチカラで一番手に押し上げることこそ、広告の醍醐味だし、それを志さなければ広告マンである意味がない」

これからの時代は「商品丸裸時代」なので、消費者の感想が良い面も悪い面もネットで公開されてしまう。そもそもTV広告はスルーされてしまうし、イメージ広告などは通じにくい。

「商品丸裸時代」の広告クリエイティブは、次の五点をめざすべきだと佐藤さんは語る。

・認知に徹すること
・よりプロモーショナルになること
・ありのままの自分を出すこと
・買ってくれた人をもてなすこと
・買ってくれた人に参加してもらうこと

2007年カンヌ国際広告祭のサイバー部門でグランプリを受賞したNike+の広告が、いろいろな使い方を伝えており、買ってくれた人をもてなす広告の例である。



佐藤さんは、お茶の間でみんなでテレビを見るという生活スタイルは消滅しつつあるが、これからは「ネオお茶の間」で一人でパソコンでテレビを「ながら視聴」している人が増えるだろうという。

ネオお茶の間ではテレビが復権し、CMもそれほどスキップされなくなると佐藤さんは語る。


明日の広告

最後に広告は社会のインフラであり、ニッサンのイチローの「変わらなきゃ」広告の様に、変化した消費者にあわせてちゃんと変わっていけば広告の明るく楽しい明日があると佐藤さんは語る。そんな前の広告とは思っていなかったが、イチローが若いので驚く。



消費者本位、企業のソリューションから消費者のソリューションへというのが、キーワードであると。

広告業界のみんなが明るい気持ちになれるようにと、エールを送っている。

大手の広告代理店がテレビのCM枠を抑えてスペースを切り売りする殿様商売をやっていた時代はもう二度とおこならないだろうが、広告はたしかに不可欠なものであり、この本の提言のように「初動」を大切に、「ラーの鏡」で消費者の真の姿をみつめ、「商品丸裸時代」という問題意識を抱いて仕事をすれば、必ずや広告業界に明るい明日はあるだろう。

軽妙なタッチながら、広告業界に対する大きな危機意識が感じられる。読んで面白い本であった。

佐藤さんはコンテンツキングだと思う。広告業界のことを知らない人にも、おすすめの本である。



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暴走する資本主義 ライシュ米元労働長官の警鐘

暴走する資本主義暴走する資本主義
著者:ロバート ライシュ
販売元:東洋経済新報社
発売日:2008-06-13
おすすめ度:4.0
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ロバート・ライシュ元労働長官、現カリフォルニア大学バークレー校教授の2008年の著書。

その後世界金融危機が起こったと言う意味では、ライシュ教授の予言が当たったといえる。

英国留学時代からの友人のクリントン夫妻と親しく、クリントン政権ではハーバード大学教授をやめて労働長官をつとめ、今回の大統領選挙でもヒラリーを応援すると見られていたが、2008年1月にクリントン陣営のネガティブキャンペーンを批判し4月にはオバマ支持を表明した。オバマ氏の政策ブレーンとして最も影響力がある人物である。


この本の目次は次の通りだ。

序   パラドックス
第1章 「黄金時代」のようなもの
第2章 超資本主義への道
第3章 我々の中にある二面性
第4章 飲み込まれる民主主義
第5章 民主主義とCSR
第6章 超資本主義への処方箋

勝間和代さんの推薦文が付いている。「一人でも多くの日本人に読んでもらいたい」本だという。


資本主義の暴走

ライシュ氏は、資本主義と民主主義は共存共栄していると考えられているが、米国では1970年代後半から自由市場主義は成功を収めている一方、民主主義は衰退してしまったと語る。

格差が拡大し、雇用を不安定にし、地球温暖化などの環境問題も引き起こした。

これがライシュ氏の呼ぶ資本主義の暴走、超資本主義だ。

企業は競争に勝ち、収益を拡大するために賃金を含めコストを削減し、販売価格を下げて売上を拡大しようとする。当然の経済活動だが、これが負の結果を引き起こす。


ウォルマートの例

たとえば世界最大の流通業のウォルマートだ。ウォルマートは"Everyday Low Price"を旗印に、ITを駆使してコストを削減してサプライヤーから最安値で仕入れ、競争相手よりも低価格で売り、消費者のふところの助けとなっている。

しかしウォルマートの従業員は時給10ドル程度の低賃金で、平均年収は17,500ドル。多くの従業員には医療保険がない。それでもさらにパートタイム従業員を増やしている。ウォルマートには組合はなく、カナダで組合結成の動きがあった店舗は閉鎖された。

オバマ氏の副大統領候補として選ばれた労働者階級出身のジョセフ・バイデン上院議員は、「ウォルマートは時給10ドル払うと言います。しかしそれでどうやって中流の生活ができますか?」と訴えていたという。

ウォルマートが食品や医薬品の販売を拡大してきたので、競合のチェーン店は自社の労働者の賃金を切りつめ始めた。低賃金は伝染していくのだ。

ウォルマートのCEOリー・スコット・ジュニアの2005年の年収は1,750万ドル。平均的従業員の900倍だったという。

創業者サムウォルトンの子孫4人の資産は2005年で合計720億ドルであり、ビルゲイツの460億ドル、ウォレン・バフェットの440億ドルを上回る。

これに対して、2005年の米国の資産額下位40%の1億2千万人の資産合計は950億ドルだったという。

ウォルマートの様にCEOの待遇は良いのに、労働者の賃金は減らされる例がいくつも挙げられている。GMから分離独立した自動車部品メーカーのデルファイの新しいCEOは、時給27ドル(諸手当を加えると65ドル)を10ドル以下にしようとして会社を倒産させようとした。

キャタピラー、ノースウェスト、インテルなども従業員と賃金をカットしている。

多くの世帯の勤労所得でもシュンペーターが言うところの「創造的破壊」が起きているのだとライシュ氏は語る。

富は中流家庭から最上位に行ったのだ。1980年には米国の所得上位1%は、総収入の8%を得ていたが、2004年には16%を占めている。上位0.1%の所得はこの期間に3倍になったという。

ウォルマートグループと競合しているウェアハウスクラブのコストコは、従業員のスキルレベルを上げ、給料を高く払うかわりにサービスの質を上げる作戦で成功している。ウォルマートより高い平均17ドルの時給を払いながらも、念入りな社員教育によりサービスで差別化しているが、こういった考え方の企業はまれだ。


有能なCEOは希少資源

1980年のCEOの所得は平均的労働者の40倍だったが、2001年には350倍にふくれあがった。

有能な経営者は世の中には少ない。大企業の取締役会は失敗を恐れるので、成功者をCEOとして雇い入れるためには、高額の報酬を出しても良いと考える。だからCEOの報酬がスカイロケット化したのだ。

エクソン・モービルの元会長のリー・レイモンドは、同社が2005年360億ドルの利益を計上した年に引退し、1億4千万ドルの報酬と、2億6千万ドルのストックオプションを得たという。しかしそれはエクソン・モービルの利益に比べれば小さいものだという。

金融業界の賃金も高騰した。

大きな買収の相次いだ2006年には投資銀行の上級役員は3,000万ドル前後、トレーダーは5,000万ドル前後のボーナスを受け取っていた。ヘッジファンドはさらに上で、某社のヘッジファンドマネージャー26名の平均は年収3億6千万ドルで、前年比45%アップだったという。

2006年9月に苦境にあるフォードのCEOとして就任したムラーリー氏は基本給200万ドルとサイニングボーナス750万ドル、前の職場のボーイングを離れる際に失ったオプション補填の1100万ドルを含めて、3600万ドルが支払われた。

ムラーリーはボーイング時代に労働力を6割削減したという。痛みを伴う選択ができる人物だという。


ロビイストにあやつられる政治

ワシントンのロビイストは急増し、新興のマイクロソフト、グーグルなども大量の政治資金を投入している。

2006年10月に米国議会はインターネット賭博にクレジットカードの使用を禁じる法律を可決し、事実上インターネット上の賭博は禁止されることになった。これはカジノがロビー活動をしたためだ。

ビジネスでは勝ち続けているウォルマートが銀行への進出で敗北したのもロビー活動のせいだ。工業ローン会社の買収が、銀行業界のロビー活動によりFDICにブロックされたのだ。


アメリカ人の二面性

アメリカ人は市民としては地球温暖化に切実な関心を寄せているが、消費者や投資家としては、SUVを乗りまわし、2−3台の車を持ち、全部屋セントラルエアコンの快適な家に住み、大画面の薄型テレビを持ち、二酸化炭素をまき散らして、地球の温度を上げている。

消費者や投資家としての私たちは、市民としての声をかき消している。

クリントンが健康保険制度を導入しようとしたときも、企業が反対したのに対して、労働組合などからも支持が得られず結局成立させられなかった。

デジタルデバイドも拡大している。2006年全米の42%の世帯はパソコンを持っておらず、インターネットに接続していない。


ライシュ氏の処方箋

企業は人ではない。正確なイギリス英語では企業を呼ぶ場合は、たとえば"Rolls-Royce are"と複数形にしているという。

間違った人格化の結果、人間の権利が企業にも与えられているような錯覚が生じ、それが資本主義と民主主義の境界をあいまいにし、悪い公共政策に繋がっているという。

企業は愛国心を持っているわけではない。愛国心のために米国労働者を雇ったり、米国工場を維持するわけにはいかないのだ。例えばワールプールは米国の工場を閉鎖し、ドイツから食器洗い機を米国に輸出している。今やドイツ最大の対米食器洗い機輸出メーカーだという。

ライシュ氏の結論は「我々は消費者であり、投資家であるが、民主主義を守るために、民主主義という権力で、社会コストを引き下げ、購入する商品やサービスのコストを下げることができる」というものだ。

まるで小説の終わりのようにいわば余韻を残したような結論で、しかも日本語訳だと上記の太線部分はわかったようでわからない。

しかし本には具体的な処方箋は書いてなくとも、読者に考えさせる余韻を与える終わり方であることはたしかだ。

筆者は米国に合計9年間駐在したので、いろいろ考えさせられた。

たしかに米国には無駄が多い。全然エコではない。社会的にもライシュ氏が指摘しているロビー活動を制限するだけでも、膨大なコストが削減できるだろう。

社会的コストとしては、自分で自分の仕事(訴訟)をつくる日本の50倍もいる弁護士と天文学的な賠償金。高い訴訟リスク保険のため産婦人科医などが維持できなくなり、医療費も高騰していることなどがある。

いくらエネルギーコストが安いからといって、巨大なSUVを載りまわし、車を何台も持ったり、人が居てもいなくてもセントラルエアコンで家の隅々まで冷暖房したりということは、地球資源の浪費であり、もはや許されることではないだろう。

グリースパンを舌鋒鋭く批判するラビ・バトラは、「経済民主主義」を提唱しているが、まさにアメリカ人の国民としての品格が問われている。

グリーンスパンの嘘グリーンスパンの嘘
著者:ラビ バトラ
販売元:あうん
発売日:2005-07
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経済合理性を極限まで追求したアメリカだからこそ、本書で述べられているような問題が起きている。

アメリカの轍を踏まない―それが日本人いや人類としての務めであり、警鐘を鳴らすという意味で、考えさせられる本だ。


参考になれば次クリックお願いします。




ドナウの東 1989年の東欧革命まっただ中からのレポート

東欧革命1989―ソ連帝国の崩壊東欧革命1989―ソ連帝国の崩壊
著者:ヴィクター セベスチェン
販売元:白水社
発売日:2009-11
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「東欧革命1989」という本が最近出版されているが、もっとずっと前に日経新聞の当時のウィーン特派員山下啓一さん(現日経ヨーロッパ社長)が東欧革命についてレポートされているので紹介する。

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ドナウの東―内側から見た東欧革命
著者:山下 啓一
販売元:日本経済新聞社
発売日:1990-12
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実は筆者は、以前英国に出張した時に山下啓一日経ヨーロッパ社長とご一緒したことがある。

山下さんはウィーン特派員時代に、各国で連鎖反応的に起こった東欧革命をレポートした本を書かれているので読んでみたものだ。


仕事と執筆活動を両立

山下さんは当時はウィーン・ワルシャワ特派員として、仕事を深夜までしてから、朝まで執筆したそうで、睡眠時間を切りつめてこの本を書いたと。さすがに体がもたず、その後は執筆活動は抑えているとのことだった。

やはり現役のビジネスマンが本を出すのは大変なことだと思う。

現在は絶版だが、アマゾンのマーケットプレースやオークションなどで手に入れることができるのは幸いだ。


1989年の東欧革命

時代は1989年から1990年。今から20年近く前のことである。

筆者は当時米国に駐在していたが、1989年6月の中国の天安門事件や、1989年11月9日(2001年のワールドトレードセンター攻撃の9.11に対してベルリンの壁崩壊は11.9と呼ばれる)のベルリンの壁崩壊前後に、東欧で共産党政権が倒れていった一連の政権交代をCNNで毎日見ていた記憶がある。

筆者は以前は鉄鋼原料を担当しており、1980年にウィーンと当時のユーゴスラビア、1992年からはアルバニア、スロバキアを毎年のように訪問していたので、この本を読んでなつかしく感じられた。


同時多発革命の謎 「ソ連の法則」

1989年の後半に集中してポーランド、チェコ、ハンガリー、東ドイツ、ブルガリア、ルーマニア(独裁者チャウシェスク大統領夫妻は処刑された)の6ヶ国で連鎖的に政権交代が起きた理由は謎だ。

一説にはソ連のゴルバチョフ改革が東欧市民を目覚めさせ、近隣国の政変が波及したためだといわれているが、そうだとすれば、各国の政変にもう少し間が空いてもおかしくない。

山下さんはソ連、ユーゴスラビア、アルバニアでは革命が起こらず、ソ連の影響下にあった東欧6ヶ国だけに革命がおこった理由は「ソ連の法則」があったのではないかと推論する。

ソ連が経済力、軍事力、秘密警察の力で、改革派もコントロールしていたのではないかという議論だ。東欧の民主化はゴルバチョフ改革の方向に沿う活動だったので、ソ連も容認していたのが背景だ。

デモが厳しく規制されている体制下では、3万人を超える反政府主義者が立ち上がると、後は弾みがついて反政府運動が広がるという「3万人の法則」があると山下さんは語る。

しかし中国で革命が起こらず、東欧で革命が起こったことは、大衆の大規模デモだけではだめであり、なにか他の要因が必要である。

それゆえ各国の共産党政権とソ連が危機管理のために政変(書記長など指導者の交代)シナリオをあからじめ用意していたのではないかと山下さんは推論する。これが「危機管理の法則」だ。

ポーランドのヤルゼルスキー大統領などは、たしかに用意された政変シナリオと見えなくもないと筆者も思う。

最初の政変は共産党により用意されたものだったが、勢いがつきすぎて結果的に反政府運動を鎮めるどころか火に油を注ぐ結果となって、結局共産党は政権を失ったのではないかと山下さんは語る。

たしかにこう考えると6ヶ国で同時多発政権交代が起きた理由も納得できるところである。

今後紹介する関榮次さんの「ハンガリーの夜明けー1989年の民主革命」でも、この辺の事情が語られている。

共産党員も「愛国者」だったので、一党独裁を崩すと自分たちは政権を失うと分かっていながらも民主化を進めたのだと。


ドナウ川沿いの東欧各国

この本で山下さんはドナウ川の川下りの豪華客船モーツアルト号の黒海への旅に沿って各地の風景・風物と、政治体制の変化を国別に紹介しており、読み物としても面白い。

ちなみにモーツアルト号クルーズの旅行記をブログに書いておられる方がおられるので、紹介しておく。

1990年前後の東欧は景色はきれいで、物価も安かった。

筆者も1992年にスロバキアを訪問したときに、ホテルでは外貨はドイツマルクしか通用しなかったことと、レストランで3人でワインを飲んで食事したが、全部で35ドルだったことに驚かされた記憶がある。

1989年当時はヤミ為替レートがあって広場で売人が旅行者に声を掛けていたこと、あちこちでバナナを露天で売っていたこと、外貨持ち出し制限が厳しく空港で身体検査をしていたこと、東欧圏から西欧に数万人単位で大量逃亡が起きていたことなどの話が紹介されており、なつかしく思い出される。


東欧の最貧国アルバニア

筆者が毎年のように訪問していたアルバニアでは、ちょっと遅れて共産主義が崩壊し民主主義になったが、国としてはボロボロで、国民の約半分が巻き込まれたというネズミ講騒動で政府が崩壊してしまった。

最初にアルバニアに行った時は、首都ティラナに2軒しかない外国人用のホテルのレストランが夜9時頃で閉まってしまい、夕飯を食べ損ねて、持っていった機内食のパンを食べた経験がある。

同行した駐在員に言われて非常食として機内食の食べ残しのパンを持ち込んでいたのだ。

スイス航空でもらったアッペンツェラーというチーズも持ち込んだ。夏の間だったので、部屋の冷蔵庫に置いておいたが、部屋に帰ってみるとチーズは見事に溶けていた。

長い伝統のあるスイスチーズアッペンツェール【お買い物マラソン1215セール】
長い伝統のあるスイスチーズアッペンツェール【お買い物マラソン1215セール】

部屋にコンセントが一つしかないので、ルームメーキング係が冷蔵庫のコンセントを抜いて、テレビを見ながら掃除して、中にチーズが入っているにもかからわず冷蔵庫のコンセントを抜いたままにしていたのだ。だいたい共産圏のサービスの質はこんなものだった。

どうでも良いことだが、食い物の恨みはおそろしいというか、筆者もこのことはいまだに覚えている。


東欧や旧ソ連のユダヤ人

この本ではユダヤ人の存在が「東欧社会の極めて微妙な要素となっている」とだけ記され、深く触れられていないが、東欧の反ユダヤ主義とか旧ソ連のユダヤ人(この本ではソ連のユダヤ人人口は約180万人と記されている)の動向に興味を抱いたので、今度図書館で調べてみようと思う。

ちなみに佐藤優氏「国家の罠」などの著書でイスラエルからロシアの情報を得ていたと語っている。旧共産圏のユダヤ人はかなりの力を持っていたはずだが、他の国民や体制側とどう折り合いをつけていて、現在どうなっているのか興味あるところだ。


旧ユーゴスラビア

筆者が訪問したことがある旧ユーゴスラビアやアルバニアもいずれ民主化は避けられないと山下さんは予想している。

ところで先日欧州に出張した時の取引先とのディナーの席で、何ヶ国に行ったことがあるかという話になった。

筆者は38ヶ国に行ったことがあると言うとみんな驚いていたが、ユーゴは1ヶ国じゃなくて分けてカウントしなければならないという話になり、それならクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ(サラエボが首都)、セルビア・モンテネグロ(ベオグラードが首都)、マケドニアの4ヶ国で、合計41ヶ国だというジョークとなった。

昔はユーゴスラビアは、「7つの隣国、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字により構成される1つの国」と言われたものだが、本当に6つの国と一つの自治州となってしまった。


1990年12月発刊の本なので、ゴルバチョフのノーベル賞受賞までで終わっており、1991年8月の政変後、ソ連が崩壊することなど、その後のソ連の動きは勿論書かれていない。

しかし、「保守化のパラドックス」という話で、ゴルバチョフ退任を予想していたり、ソ連の経済改革は多難で、コメコン解体、独ソ接近、東欧がマルク圏となると予想していたり、予想がぴったりあたっている。

(注:「保守化のパラドックス」=改革派として最年少のメンバーがトップとなって改革を進めるが、保守派を排斥して改革派を入れすぎて、そのうち改革派の中ではトップが最も保守的になってしまう傾向のこと)。

さすが日経新聞の特派員として各国の首脳とのインタビューなどを通じて一級の情報を得ていただけある。山下さんの慧眼には敬服する。

「ソ連の法則」、「3万人の法則」、「危機管理の法則」、「保守化のパラドックス」などの分析も大変参考になる。

やや古い本ではあるが、東欧の簡単な歴史から、風物、1989年の東欧革命の舞台裏などがよくわかり興味深い。ドナウ川の川下りもいつかは行ってみたいものだ。一つの川下りで、これだけ多くの国を訪問できるのも世界でドナウ川だけだろう。

是非近くの図書館などで探して、手にとって欲しい本である。


参考になれば次クリックお願いします。




決断力 魅力ある天才棋士羽生善治の強さの理由

決断力 (角川oneテーマ21)決断力 (角川oneテーマ21)
著者:羽生 善治
販売元:角川書店
発売日:2005-07
おすすめ度:4.5
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先日紹介した内田和成さんの「仮説思考」でも紹介されていた羽生善治(はぶよしはる)さんの「決断力」。

将棋の話が中心ではあるが、スポーツなど他の話題も大変豊富で、楽しく読める。ビジネスの世界にも十分通用する内容だ。羽生さんの交流範囲の広さと博識にも驚く。

羽生氏は、「将棋を通して、人間の本質に迫ることができればいいなと思っている」と語っているが、このような将棋に対する取り組み態度が、この本を面白いものにしている理由だと思う。

実際、サイバーエージェントの藤田晋社長もこの本を読んで感銘を受け、今年度読んだ本のNo. 1と言って、羽生さんと対談しており、10月18日からしぶしょくで紹介されている。


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この本を読み始めたら、すぐにピッツバーグで旧知のカーネギーメロン大学の金出武雄教授のKiss(Keep it simple, stupid、単純に考える)の話が出てきたので驚いた。

金出教授は、このブログでも紹介した「素人のように考え、玄人として実行する」という本も出しているが、ロボティックスの世界的権威だ。

素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫)素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫)
著者:金出 武雄
販売元:PHP研究所
発売日:2004-11
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


その金出さんにならって、羽生氏も「キスで行く」ことを薦める。ごちゃごちゃ考えず、物事を簡単に単純に考えることは、複雑な局面に立ち向かい、解決するコツである。記憶に残る提言である。

ちなみに将棋の指し手は金出さんによると、10の30乗ぐらいあり、地球上の空気に含まれる分子の数より多いという。そんな無限・未開の世界にどれだけ深く踏み行っていけるのかが、将棋の醍醐味なのだと羽生氏は語る。


筆者は将棋は子供の頃、友達と遊びでやったくらいなので、『定石』(じょうせき。ルーティン化した戦略に基づく打ち手)が碁の用語で、将棋では『定跡』(同じくじょうせき)と書くことを初めて知った。

時々高校生の長男とチェスは遊びで打つが、駒が再利用できる将棋とチェスでは打ち手のバリエーションが違う。

チェスでは1997年にスーパーコンピューターのビッグブルーが世界チャンピオンのガリー・ガスパロフに2勝1敗3引き分けで勝利しているが、将棋ではまだまだで、市販の強い将棋ソフトの実力はアマチュア3段くらいだと言われているそうだ。

しかしコンピューターが強いのは終盤で一気に詰ませ合う時はプロをもしのぎ、詰め将棋などは最も向いているが、中盤の限りなく打ち手があるときは初心者程度であると羽生氏は語っている。

将棋をベースとしていながら、読み応えのある内容の濃い本である。

いくつか参考になる点を紹介しよう。


勝負には周りからの信用が大切だ。期待の風が後押ししてくれる

プロ野球などで、チャンスに強いとファンから期待される選手が、期待に応えて活躍し、ヒーローインタビューで「ファンの皆さんのお陰です」と答える場面をよく見かけるが、これは決して社交辞令ではない。周りの信用の後押しが、ぎりぎりの勝負になって出てくるのではないかと。

将棋に限らず、勝負の世界では、多くの人たちに、どれだけ信用されているか、風を送ってもらうかは、戦っていくうえでの大きなファクターであり、パワーを引き出してくれる源であると羽生氏は語る。

大山康晴名人も「仲間に信用されることが大切だ」と語っているそうだが、ビジネスや広く人間関係においても、気持ちの差は大きいのではないだろうか。

Aがやるとスムーズに行くのに、Bがやるとうまくいかないことがある。AとBの仲間の格付けや、信用の後押しの違いが大きいはずだ。そのためにも、日頃から実力を磨き、周りからの信用を勝ち取ることが大切だと羽生氏は語る。

『期待の風を送ってもらう』とは羽生さんらしいユニークな言い方だが、期待されているという自信が、より大きなパワーを引き出すことはたしかで、そのためにも日々の研鑽が重要だという羽生さんの論理は、シンプルだが、非常に説得力がある。


直感の七割は正しい

冒頭に紹介した内田和成さんの「仮説思考」で紹介されていた部分だ。

将棋には一つの局面で80通りくらいの指し手の可能性がある。その80から大部分を捨てて、これがよさそうだという候補手を2−3に絞るのである。

その絞った手に対し、どれが一番正しいか綿密にロジックで検証する。三つの手に対して、またそれぞれに三つの展開候補があり、それがまた枝葉に分かれるのですぐに300手、400手になってしまう。

どこまで検証すれば良いのかの基準はないので、ある程度のところで思考をうち切り決断するのである。

三つに絞った手が、うまくいかなければまた最初に戻って他の手を考える、そうなると数時間かかる長考になり、迷っている状態になる。打ち手に情が移ってしまい、捨てきれなくなるのだと。

そんな時は相手の立場になって眺めてみたりするが、長考の時はどうやってもうまくいかないというケースが非常に多く、結局「どうにでもなれ」という心境で決断すること結構あると。

羽生さんは将棋を指すうえで一番の決め手になるのは『決断力』だと語る。経験を積み重ねていくと、さまざまな角度から判断ができるようになる。しかし、判断のための情報が増えるほど、正しい決断ができるとは限らない。

将棋ではたくさん手が読めることも大切だが、最初にフォーカスを絞り、「これがよさそうだ」と絞り込めることが、最も大事だ。それが直感力であり、勘である。

直感力は経験し、培ってきたことが脳の無意識の領域に詰まっており、それが浮かび上がってくるもので、人間の持っている優れた資質の一つだ。

「直感の七割は正しい」と。


大局観と感性

羽生さんは大山康晴名人と対局したことがあるが、ハッキリいって大山さんは盤面を見ていない、読んでいないのだが、自然に手がいいところに行く。まさに名人芸であったと。

経験を積み重ねて、全体を判断する目、大局観がしっかりしているからであり、その基礎になるのが、勘、直感力である。

その直感力の元になるのが、感性である。

数学界のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞した小平邦彦氏は、数学は高度に感覚的な学問であるといい、それを『数覚』と名付けているそうだが、幾何の図形問題で、補助線を引くような閃き(ひらめき)が得られるかどうかが、強さの決め手になると羽生氏は語る。

将棋に限らず、ぎりぎりの勝負で力を発揮できる決め手は、大局観と感性のバランスであると。

感性は、読書をしたり、音楽を聴いたり、将棋界以外の人と会ったりという様々な刺激によって総合的に研ぎ澄まされるものだと。

この本が面白い理由である。


集中力

羽生さんによると集中力は、ダイビングで海に深く潜っていく感覚と似ている。水圧に体を慣らしながら、徐々に深く潜っていくのだ。

これ以上集中すると、「もう元に戻れなくなってしまうのでは」とゾッとする様な恐怖感に襲われることもある。

集中したときは、この一手しかないという場面では、駒が光って見えたりするのだと。まさに名人の域である。

ただ、毎日将棋のことばかり考えていると、だんだん頭がおかしくなってくるのがわかる。だからボーッとした空白の時間をつくり、本を読むなり、心や頭をリセットするのだと。


昔の棋士と対局できるなら升田幸三とやりたい

羽生氏は升田幸三と対局したいと語る。升田対大山は一時の将棋界のトップ対決で、167局戦って、升田の70勝96敗1持ち将棋であった。

升田将棋は立ち会いの瞬間で技を決めてしまうというやりかたで、現代の将棋のさきがけだったのだ。

しかしここ20ー30年の技術改革で、情報化時代の現代の棋士の方が圧倒的に強いと断言できると羽生氏は語る。

以前の戦法や指し手は、すでに常識になっているからだ。時代が進むと、全体的な技術も向上する。科学技術の進歩の様なものだと。


才能とは同じ情熱、気力、モチベーションを持続すること

羽生さんは、以前は才能は一瞬のきらめきだと思っていたが、今は10年とか30年とかでも同じ情熱を傾けられることが才能だと思っていると。

継続できる情熱を持てる人の方が、長い目で見ると伸びるのだ。

将棋界で現役のプロは150人くらいだが、力が衰えるとすぐに置いていかれてしまう怖い世界で、一週間全く駒をさわらずに将棋から離れていると、力はガクンと落ちてしまうだろうと。元の棋力を取り戻すには一週間の何倍もの努力が必要である。

報われないかもしれないところで、同じモチベーションを持って継続してやれるのは、非常に大変なことであり、それが才能であると。

羽生さんはエジソンの「天才とは1パーセントの閃きと99パーセントの努力である」という言葉を、どの世界にも通用する真理をついた言葉として引用している。

天才と呼ばれる領域に達しているからこそ言える羽生さんの言葉であり、重みがある。

プロ棋士は一年間に10いくつかの公式戦があり、その戦いの結果によって地位や収入を得ている。対局料として一定のお金がもらえるが、生活するためにはある程度の対局をこなさなければならない。

賞金が掛かることもあるが、賞金は一回限りのものであり、賞金が多額だからといって、将棋のさし方を変えることはないと。

羽生さんの2004年度の通算勝敗は60勝18敗で、勝率は7割7分だったが、次の年は何の保証もない。また一から積み上げるだけなのだ。

「どの世界においても、大切なのは実力を持続することである。そのためにモチベーションを持ち続けられる。地位や肩書は、その結果としてあとについてくるものだ。

(順序を)逆に考えてしまうと、どこかで行き詰まったり、いつか迷路にはまり込んでしまうのではないだろうか」と語っている。

説得力がある謙虚な言葉だ。


玲瓏(れいろう)

羽生さんが色紙を頼まれると書く言葉である。玲瓏は八面玲瓏から取った言葉で、周囲を見渡せる状況を意味しており、こころの状態を指す言葉でもある。明鏡止水とも似ている。

また克己復礼(こっきふくれい)もよく書く言葉だと。自制して礼儀を守るという意味だ。

勝負では感情のコントロールができることが、実力につながるのだと。


非常に参考になり、面白く読める本なので、まだまだ紹介したいが、あらすじが長くなりすぎてしまうので、目次からピックアップして紹介する。

内容がある程度推測できると思う。

第1章 勝機は誰にでもある
1.勝負の土壇場では、精神力が勝敗を分ける
2.勝負どころではごちゃごちゃ考えるな。単純に、簡単に考えろ!
3.知識は、「知恵」に変えてこそ自分の力になる
4.経験は、時としてネガティブな選択のもとになる
5.勝負では、自分から危険なところに踏み込む勇気が必要である
6.勝負では、「これでよし」と消極的な姿勢になることが一番怖い
7.勝負には周りからの信用が大切だ。期待の風が後押ししてくれる

第2章 直感の7割は正しい
1.プロの棋士でも、十手先の局面を想定することはできない
2.データや前例に頼ると、自分の力で必死に閃(ひらめ)こうとしなくなる
4.決断は、怖くても前に進もうという勇気が試されてる
6.常識を疑うことから、新しい考え方やアイデアが生まれる
7.事前の研究が万全な人は、私にとって手強い人だ

第3章 勝負に生かす「集中力」
1.深い集中力は、海に深く潜るステップと同じように得られる
2.集中力を発揮するには、頭の中に空白の時間をつくることも必要である
3.人間は、どんなに訓練を詰んでもミスは避けられない
4.私が対戦する相手はいつも絶好調で、やる気を引き出してくれる
5.プロの将棋は、一手の差が逆転できる想定の範囲内である
6,感情のコントロールができることが、実力につながる
7.わき上がる闘争心があるかぎりは、私は現役を続けたい

第四章 「選ぶ」情報、「捨てる」情報
1.パソコンで勉強したからといって、将棋は強くなれない
4.創意工夫の中からこそ、現状打破の道は見えてくる
5.将棋は駒を通しての対話である。お互いの一手一手に嘘はない
8.コンピューターの強さは、人間の強さとは異質なものだ

第五章 才能とは、継続できる情熱である
1.才能とは、同じ情熱、気力、モチベーションを持続することである
4.「これでいい」という勉強法も、時代の進歩によって通用しなくなる
5.プロらしさとは、力を瞬間的ではなく、持続できることだ
6.将棋の歴史には、日本が世界に誇れる知恵の遺産がある

参考になった本である。


参考になれば次クリックお願いします。



わが友、恐慌 金鉱山オーナー松藤民輔さんの近著

わが友、恐慌──これから日本と日本人の時代が訪れる8つの理由わが友、恐慌──これから日本と日本人の時代が訪れる8つの理由
著者:松藤 民輔
販売元:講談社
発売日:2008-07-31
おすすめ度:3.0
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別ブログで「無法バブルマネー終わりの始まり」と「マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術」を紹介しているアメリカで金鉱山を保有している松藤民輔さんの近著。

2008年7月30日に発刊されている。

ここにきて金が史上最高値を更新して、1オンス1,200ドル前後で推移している。まさに松藤さんは、「してやったり」というところだろう。

松藤さんはブログ「松藤民輔の部屋」や、メルマガの牛之宮ウィークリーを公開しており、それらの記事を題材ごとにまとめたものの様だ。

目次は次の通り:

第1章   僕たちが生きる世界
第2章   バベルの塔とマーク・アリムラ
第3章   ブラックマンデーと天才エリック・スプロット
第4章   悲劇と革命
第5章   紀伊国屋文左衛門とタミーの賭け
第6章   凡人と天才
第7章   日本の錬金術
第8章   都市鉱山とリサイクルジャパン
エピローグ 常識では考えられない物語

松藤さんは、1955年福岡に生まれ、明治大学卒業後、1980年に日興証券に入り、久留米支店に勤務、1982年にメリルリンチの試験を受けて合格し、1986年からはソロモン・ブラザースでトレーダーとして活躍、億の収入を得ていたが、1993年に株式会社牛之宮を設立、金投資に専念する。

アメリカネバダ州に金鉱山を所有している。

船井総研の船井幸雄さんのホームページに松藤さんのことが紹介されている。

この本では当時のナンバーワントレーダー シュガー明神さんはじめ、ソロモン・ブラザースのトレーダーはランボルギーニやフェラーリ、ジャガーなど何台も持っていて年収数億円稼いでいた話なども紹介されている。

金融危機以降、今はこういったトレーダーたちがどうなったのかよくわからない。

都内でフェラーリやポルシェなどを時々見かけるのでIT企業の社長などが乗っているのかと思っていたが、あるいは外資系証券会社のトレーダーもいるのかもしれない。

LTCMをつくって倒産させたジョン・メリウェザーなどはソロモン時代は年収100億円、ゴルフはハーフ30台、40歳でソロモン・ブラザースの副社長というスーパーとレーダーで、彼のチームメンバーは20才台で10億円貰っていたという。

マネックス証券の松本大CEOも松藤さんのソロモン時代の同僚だ。

ブログやメルマガの記事をまとめたものなので、一つのテーマを深く掘り下げる記事はないが、簡単に読めて参考になる。

たとえばソロモンがオプション取引を発明したのは、文化のゆがみに注目したのだという。

日本の銀行融資はいつでも返せるというのが日本の慣行だったが、これを組み替え、期限前に返済する権利をオプションとして販売したら成功したのだという。

ソロモン時代は、松藤さんは3−4人の顧客とのビジネスで億の年収があったという。塩野義製薬の塩野社長、阪和興業の北茂さん、摂津板紙の西川常務などだという。

「歴史を知らない人間は人ではない。豚にすぎない」というイギリスの格言があるという。歴史を研究すると、いくつか相場の定石があるという。たとえば:

*銅が暴落すると革命が起こる。松藤さんは中国で革命が起こるのではないかと思っているという。

中国では2年間で3,500万人が株式投資したというが、バブルが崩壊し、だれが責任を取るのだろうと。

*金/銀比率が100に向かっているときは恐慌が起こるという。

田中貴金属のホームページによると、最近の金/銀比率は70を超えている。

松藤さんは金投資家なので、蒔絵や、都市鉱山などの話題が面白い。蒔絵は金を含んでいるが、将来世界で注目される芸術品になるだろうと松藤さんは予測する。

金鉱石1トンに含まれる金はせいぜい50グラムだが、携帯電話1万台を集めると金200〜300グラムが回収できるという。これが都市鉱山である。

世界中で廃棄された製品をかき集めると金6,800トン、銀6万トンが回収でき、これは世界の埋蔵量のそれぞれ16%、22%だという。液晶に使われるインジウムなどは、埋蔵量の61%になるという。

日本は都市鉱山をうまく利用することで、どこの産出国よりも多い資源を回収できるという。

松藤さんはここ15年間恐慌を待っていたという。この瞬間になすべきは、金への投資又は金鉱山への投資だという。金がさらに高騰するチャンスがやってきたとワクワクしていると。

是非バスに乗って欲しいという。

以前も書いたが、筆者は1979年から1980年の1年強という短期間に金に投資し、1オンス=200ドル台で買ったメキシコ金貨を1オンス=650ドル換算で売って儲かった経験がある。

しかし金相場はその後20年以上鳴かず飛ばずだった。1980年に売っていなければ、結局その後20年間は売るタイミングがなかったということだ。

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出典:第一商品ホームページ


現在は1,200ドル程度に上がっているが、1980年前のときの様にまた下落する可能性もあるのではないかと感じている。

しかしこれは筆者の直感であり、理論的に金相場を分析したわけではない。


金相場投資に興味ある人には参考になると思う。

簡単に読め、参考になる部分も多い本である。


参考になれば次クリックお願いします。



素人のように考え、玄人として実行する ロボッティクスの権威 カーネギーメロン大学教授の金出さんの本

素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫)素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 (PHP文庫)
著者:金出 武雄
販売元:PHP研究所
発売日:2004-11
おすすめ度:4.5
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天才棋士羽生善治さんの『決断力』で紹介されていた筆者の旧知のカーネギーメロン大学の金出武雄先生のビジネス書。

カーネギーメロン大学やピッツバーグ大学がある地区にある、見かけは冴えないが、料理はバツグンにうまい中華料理屋オリエンタル・キッチンを思い出す。

カーネギーメロン大学のキャンパス周辺はこんな感じだ。


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また行きたいものだ。

スーパーボウルで使用された360度三次元ビデオカメラシステムを開発したことで、『スーパーボウルに出演した唯一の大学教授』とも呼ばれているそうだ。

羽生さんの本でも紹介されていた、KISS(Keep it simple, stupid!)という、複雑に考えるな、単純に考えろというのがこの本の一貫したコンセプトだ。

金出さんのモットーは『素人発想、玄人実行』だという。書家に揮毫してもらい、自宅の居間にも飾っていると。

BCG(ボストンコンサルティンググループ)の内田さんの『仮説思考』に紹介されていた「名刺の裏に書ききれないアイデアはたいしたアイデアではない」というのがあったが、発想は単純、素直、自由、簡単でなければならないと金出さんは説く。

たとえばインターネットの基盤となったDARPAのプログラムマネージャーだったB. カーンの発想は「コンピューターがつながっていれば、軍事的にはソ連の攻撃で一カ所のコンピューターが破壊されてても大丈夫だし、経済的にはアメリカの西海岸と東海岸では3時間の時差があるから、計算の仕事を分散させるメリットがある」というものだったそうだ。

この本は四部構成で、全部で48項目についてエッセー風に書かれている。

第1章 素人のように考え、玄人として実行する 発想、知的体力、シナリオ

第2章 コンピューターが人にチャレンジしている 問題解決能力、教育

第3章 「自分」の考えを表現し、相手を説得する 実戦!国際化時代の講演、会話、書き物術

第4章 決断と明示のスピードが求められている 日本と世界 自分と他人を考える

すべての項目について具体例が満載されている。頭にスッ入り、読みやすく記憶に残る本である。

いくつか印象に残った項目をご紹介しよう。


2.なんと幼稚な、なんと素直な、なんといい加減な考えか

今や常識となっている大陸移動説は、元々は20世紀はじめにドイツの気象学者ウェゲナーが南アメリカ大陸とアフリカ大陸の海岸線が似ていることに気づき、はさみで切って貼りあわせたらパズルの様にぴったりあったことから考えついたものだという。

発表当初は否定されたが、20世紀後半となりプレート移動説によって再発見されてよみがえり、今は定説になっている。


3.成功を疑う

金出さんは「成功から学ぶ」とか、「失敗から学ぶ」ことは誰もが考えるが、「成功を疑う」のが一番難しいと語る。

成功を疑わなかったために、新たな成功をつかみそこねた絶好の例が、パソコンを発明したゼロックスだと。

カリフォルニア州パロアルトのゼロックスの研究所では1970年代のなかばには、アルトと呼ばれるパソコンを完成させていた。アルトはその後出てきたマッキントッシュの機能とアイコンなどの概念を完全に含む、はるかに進んだシステムだった。(アップルがアルトを真似たという歴史家が多いと)

ところがゼロックスはコピー機ビジネスの成功で莫大な利益を上げていたので、パソコンという新しいビジネスに賭けることを嫌い、アルトはお蔵入りしたのだった。


10.できるやつほど迷うものだ

金出さんは記憶力バツグンで、手帳を持ち歩かなくとも予定は1年先まで記憶でき、試験は、どの科目も100点を取るつもりで、一種のゲーム感覚でやっていたと。

その金出さんが大学院の研究でつまづいた。3年間の博士課程のうち2年間を、いろいろな研究課題を取り上げては行き詰まり、なにもできないままに終わってしまいそうになった。

そんな時に「もう少し具体的なことをやったら」と人の顔の画像データベースの研究をアドバイスしてくれたのが、後の京都大学総長長尾真(まこと)先生だと。

金出さんは研究テーマに迷うことを、研究について研究するということで、メタ研究と呼ぶ。メタ研究はいくらやっても何の役にも立たないのだ。

研究は具体的目標を設定できる課題を選び、ねばり強くやれと。

当たり前のことだが、案外「できるやつほど迷う」ものだと。


アナログ

アナログ』と、筆者もよく使っている言葉だが、01のデジタルに対してアナログということは知っていても、アナログ自体の意味はよく知らずに使っていた。

アナログとは英語でAnalogous、似ている、相似のという言葉から来ている。

デジタルはビットの集まりという離散的な形で示したが、アナログは連続的という意味で使われる。

筆者が思い出すのは、ラジオのAM放送やレコードだ。電波の波形、あるいは振動の波形が音の波形に似せてあるので、アナロジー、相似形なのだ。

元々は鉄塔間の電線の長さ(懸垂線)を測るために、ひもを用いて同じ種類のカーブを得たことから、アナログ計算という考え方が始まったものだ。

ファジーなあいまいさを残す人間をアナログ人間と呼ぶそうだが、こういわれると自分もまさにアナログ人間だと思う。


19.コンピューターは人より知性的になる

「新しい知性を感じた」というのは、チェスの世界王者ガリー・カスパロフが、IBMのスーパーコンピューター ディープ・ブルーに負けたときに言った言葉だ。

この研究の推進者はカーネギーメロン大学出身のエンジニアだったそうだ、

金出さんは人を越えるコンピューター、ロボットが町を歩く時代も遠い将来のことではないと予測する。


20.思考力、判断力は問題解決に挑戦することで伸びる

金出さんは学生の頃、実験が嫌いだったと。日本の実験は、理論を検証する方法が、『実験の手引き』で決められており、実験するというよりも手順を単に作業するだけだからだったからだ。

これに対してアメリカでは、問題解決学習が基本で、たとえば金出さんの息子さんの行っていたコーネル大学では「使い捨てカメラは、どうしてこんなに安い価格で売れるのか調べなさい」というものだった。

授業で使い捨てカメラと普通のカメラを分解して調べるなど、様々な作業を通して、どうやったらわかるのかを自分で考え、調べて発見する。

自分で問題を考え、解決法を工夫し、判断する能力が養われるのである。


教育者としてのアドバイス、アメリカでビジネスをする上でのアドバイス

金出さんはピッツバーグでは面倒見の良いことで知られている。ピッツバーグ日本人会のゴルフなどは毎回積極的に参加し、金出さんが出るので、他のピッツバーグ在住者もつられて、参加者が多くなっていた。

この本でも面倒見の良いことを発揮して、教育者としてのアドバイス、またアメリカで活躍する超一流の大学教授として、アメリカでビジネスをしていく上での様々なアドバイスを述べている。

実にこの本のほぼ半分はこのアドバイスである。

例えば国際会議などで米国を訪れる研究者には、前置きなしに、結論をさきに話せとアドバイスしている。

日本流に前置きから始めては、聴衆が最も感心を持っている最初の部分を逃すおそれがあるので、日本で用意したスライドの順序を逆にしてちょうど良いくらいであると。

その他、項目だけ紹介するとこんな具合だ:

30.説明して納得させるのではない。納得させてから説明するのだ。

36.論文や人を説得する書き物は推理小説と同じである。

38.プロポーサルは論文プラス資金の要求だ ー 相手が上司に説明しやすく書く
   アメリカの大学での研究は『研究起業』であると

40.発表と英語に関する三つの変なアドバイス
   プレゼン資料は一目で内容がわからないようにつくる
   子どもに対する英語教育は早く始めるな

48.「自分が決める」という勇気   アメリカと日本で一番の違いとして感じるのは、日本には「自分が決定者である」という立場になりたがらない人が多いことだ。

文庫本にもなるほど売れた、わかりやすく、スッと読める本である。特にアメリカでビジネスや勉強をしている人には是非おすすめする。


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仮説思考 BCGの問題発見・解決の発想法

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法
著者:内田 和成
販売元:東洋経済新報社
発売日:2006-03-31
おすすめ度:4.0
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BCG(ボストンコンサルティンググループ)の前日本代表内田和成さんの仮説による仕事の進め方。

BCGといえば、筆者が30年も前の学生時代に就職を考えていた時に、初任給が最高の会社として有名だった。筆者の友人でBCGに就職した人もいる。

当時はコンサルタントという職業はあまり有名でなく、マッキンゼーなどの名前も聞いたことがなかった時代だが、BCGはそのころから有名だった。

この本は仮説による仕事の進め方を紹介しており、非常に役立つ。

「仮説から始めれば作業量は激減する!」と本の帯に書いてある。「BCGコンサルタントが3倍速で仕事を進められる秘訣は本書にある!!」と。

BCGのコンサルタントは仕事が速いと言われたことがあると。しかし分析力のある人がコンサルタントとして大成するかというと、必ずしもそうではない。優秀な人は、仕事の進め方に差があるのだ。

内田さんも入社当時は『枝葉の男』と評されていたと。細かい分析は得意だし、ちょっとしたアイデアをすぐ思いついたが、コンサルタントとして最も大事な仕事である問題解決の全体像が描けないでいた。

手当たり次第に情報収集を行い、人一倍に分析作業を行うものの、有益な分析結果が少ない。問題の本質に到達するのに、膨大な時間を必要とした。

この悪循環から内田さんを救ったのが、先輩コンサルタントから学んだ仮説思考であると。

仮説思考とは情報が少ない段階から、常に問題の全体像や結論を考える思考スタイルである。仮説思考を実践すると、仕事がスムーズに進み、仕事の正確性も増したのだ。


オフト・マジック、羽生善治氏の将棋

以前の日本代表監督のハンス・オフト氏は試合前に、試合の展開や結果について選手や記者団に語り、それが的中することがたびたびあったという。

事前に相手を偵察し、選手の特性を見極めており、それをもとに仮説を立てていたのだ。

羽生善治氏も仮説思考の達人である。

羽生氏は将棋で大事なのは決断力だという。決断にはリスクを伴うが、それでも「あとはなるようになれ」という気持ちで指すのだと。

その時の意志決定を支えているのが仮説思考だ。

将棋には一つの局面で、80通りくらいの指し手があるが、羽生さんは大部分を考える必要がないと捨てて、2−3手に候補を絞るのだと。

網羅的にすべての手を検証してから、意志決定しているのではなく、大胆な仮説を立てて、「これがよいのではないか」と指しているのだと。

経験に裏打ちされた直感力、勘によるものだ。

直感は経験の積み重ねから「こういうケースの場合はこう対応したほうがいい」という無意識の流れに沿って浮かび上がってくるもので、直感の7割は正しいと語っている。


情報は集めるよりも捨てるのが大事

情報が多すぎると意志決定は遅くなる。

経営陣から一般社員まで情報コレクターになっている会社がよくある。

意志決定に使える時間には限りがあり、完璧な答えが出るまで意志決定を先送りしたくても、相手は待ってくれない。迅速な意志決定の為には、いまある選択肢をいかに絞り込むかという視点で情報収集すべきなのだ。

なにも実行しないことが、大きなリスクになる今日、網羅的に情報を収集し、意志決定を遅らせるのではなく、限られた情報をもとに、仮説思考によって最適な意志決定をすべきなのだ。

ゴルフスイングと同じで、企業も同時にあれこれてをつけるよりも、まず一カ所だけ集中して直したほうがうまくいくのだ。


実験する前に論文を書け

内田さんは日経新聞の私の履歴書に免疫学の権威石坂公成博士が書いていたことを引用する。石坂博士がアメリカで研究していたころ、恩師に「実験する前に論文を書け」と言われて驚いたそうだ。

「ご冗談でしょうといったら、ノーベル賞受賞者のランドシュタイナーはいつもそうしていた、今のお前にはできるはずだと」

「仕方がないので、先生の言葉にしたがって、予測のもとに論文を書いてから実験をしましたが、これは大変なアドバイスだったと思います。」

「書いてから実験すると、結論を出すために必要な対照は完璧に取れることになりますから、期待通りの結果が出なかった時でも、その実験は無駄にならない。」と。

つまり仮説思考をすれば、わずかな情報から問題に対する解決策や戦略まで含んだ全体像を考えることができ、もし仮説が間違っている場合でも初期段階で間違いに気づくので、余裕を持って軌道修正することができるのだ。

こんなにメリットのある仮説思考でも、仮説を後生大事にひとりで抱え込むのは禁物である。常に上司や顧客から指摘を受けて仮説を進化・検証しないと意味がないのだ。


三ヶ月の仕事でも二週間で結論をだす

コンサルタントの仕事でも内田さんは三ヶ月の仕事でも二週間で答えを出すようプロジェクトリーダーには求めていると。大局観と大きなストーリーがあれば、仕事もスムーズに進むことが多いからである。

人を説得するための大局観を持つためにも仮説思考は役に立つ。


問題発見の仮説と問題解決の仮説

ビジネスの実際では問題そのものを発見する問題発見の仮説と、明らかになった問題を解決する問題解決の仮説の二段階の仮説を使う。

問題発見の仮説は、事象の原因の仮説をツリーの様にいくつかたて、それぞれを検証していく。

仮説を検証し、問題が明らかになれば、次に問題解決の仮説を立てる。さらに問題解決の仮説のそれぞれに具体的打ち手の仮説を立てる。

さらにSWOT分析などを使って検証を繰り返し、打ち手を決めるのだ。この仮説・検証の繰り返しで業務を改善するのである。

セブン・イレブンが強いのも、常に仮説・検証を繰り返しているからだ。この本では、他に化粧品会社と高級加工食品のケースを挙げて説明している。


仮説の立て方と検証

仮説の立て方として、(1)分析結果から仮説を立てると、(2)インタビューから仮説をたてるの二つの手法を紹介している。

常にSo what?(だから何?)と、なぜ?を繰り返せと。なぜを繰り替えるのはトヨタが有名だが、身近な同僚、上司、家族、友人を練習台として、日常生活、実際の仕事でトレーニングすることを内田さんは薦めている。

仮説の検証についても、セブンイレブンの200円おにぎりやソニーのCDプレイヤー開発の例を挙げて、わかりやすく説明してある。


名刺の裏に書ききれないアイデアはたいしたアイデアではない

内田さんが非常に気に入っている言葉の一つに、米国のユナイテッドテクノロジーズ社がまとめた『アメリカの心』というエッセー集にある「名刺の裏一枚に書ききれないアイデアはたいしたアイデアではない」というのがある。

アメリカの心―全米を動かした75のメッセージ


説明するときに何枚も用紙が必要なアイデアは、本人がすごいと思っても、相手にはわかりにくくたいしたものでないのだ。


良い仮説は掘り下げられており、アクションに結びつく

たとえばこんな具合だ。

悪い仮説:営業マンの効率が悪い
良い仮説:営業マンがデスクワークに忙殺されて、取引先に出向く時間がない

悪い仮説:できない営業マンが多い
良い仮説;営業マン同士の情報交換が不十分で、できる営業マンのノウハウがシェアされていない


ビジネスパーソンとしての成功のカギは「優れた仮説の構築とその検証能力」であると内田さんは語る。

一流コンサルタントはどういう風に考えて仕事をすすめているのかわかり、ノウハウも満載で、非常に参考になる本だ。

ひさしぶりに読んでから買った本の一冊だ。是非一読をおすすめする。


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超・格差社会 アメリカの真実 アメリカ在住26年小林由美さんのレポート

超・格差社会アメリカの真実超・格差社会アメリカの真実
著者:小林 由美
販売元:日経BP社
発売日:2006-09-21
おすすめ度:4.5
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筆者はアメリカに駐在し、ニューヨークに2ヶ月、あとは2回に分けて合計9年間ピッツバーグに住んでいた。

アメリカに9年住み、出張や旅行で全米50州のうち38州(+プエルトリコ)に行ったことのある筆者だが、それでも在米歴26年という小林由美さんのこの本を読むと、梅田望夫さんの「ウェブ進化論」ではないが、「あちら」と「こちら」という感じを受ける。

なにが言いたいのかというと、在米歴10年弱の筆者にとっても、著者の小林さんのアメリカ理解度は、「こちら」つまり日本人のレベルではなく、「あちら」の人、つまりアメリカ人と同じ、あるいはそれ以上という印象を受ける


著者の小林由美さん

小林由美さんは、東大卒業後日本長期信用銀行に入行し、スタンフォード留学を経て、ウォール街で就職し、シリコンバレーで経営コンサルティング会社やベンチャーキャピタルなどを歴任、現在はシリコンバレー在住のコンサルタント/アナリストである。

小林さんは筆者の寮(西伊豆戸田寮)の先輩だ。

日本長期信用銀行に入社した当時は、一般職は男性のみで、女性には道が閉ざされており、高卒五年目のエコノミストとして入社できたのは、幸運だったと語る。たしかにそういう時代もありました。

謝辞に挙げているが、小林由美さんが学んだのは東大を代表する近代経済学者の小宮隆太郎教授のゼミだ。

大阪府知事の太田房江さんも、同じゼミの出身だ。

小林さんは1975年(昭和50年卒)だが、当時はマル経の東大、近経の一橋と言われていた時代で、宇野弘蔵教授の直系の大内力教授のマルクス経済学も人気だった。

筆者は学んだことがないが、当時マルクス経済学を学んだ東大生はじめ学生は多かった。はたしてマルクス経済学という学問は今はどうなったのかと思う。


26年間在米の優れた洞察

この本で小林さんが指摘する事実、たとえばアメリカは金持ちになればなるほど有利な超・格差社会だとか、所得により住むところが違う実質的な差別社会だとかは、アメリカに住んだことがある人は誰しも感じたことだと思う。

またそういった面がありながらも、それでもアメリカに住むことは心地よく、アメリカは魅力的だと多くの日本人が感じると思う。

その意味ではこの本が指摘する事実は、米国在住経験者の大半が感じていることではあるが、小林さんの様に歴史的な考察も加えて、論理的かつ系統だって説明したものは、筆者の記憶する限りない。

アメリカには多くの日本人が暮らしたり、旅行で訪れているので、作者の著名、無名を問わず、アメリカ生活の実際という様な本は数多く出版されているが、小林さんが冒頭で指摘するように、多くは一面的なアメリカ像しか語られていない。

小林さんはアメリカ人と結婚され、残念ながら死別された様だが、たぶんアメリカ人と結婚された点で、他の日本人の生活とは異なる世界が開けたのだと思う。


「あちら」と「こちら」

冒頭で「あちら」と「こちら」という話をしたが、この本では小林由美さんの「あちら」の生活のことが語られていないので、筆者の身近な人で「あちら」の人の例を説明する。

筆者のピッツバーグ時代に仕事上でもプライベートでもお世話になった方で、メーカーの駐在員だが、アメリカ在住20年以上で、ご子息もアメリカの大学で学び、ご自身もアメリカ人として生きていくことを選択された人がおられた。

その人は小林さんの本でも紹介されている全米高額所得コミュニティの97位に出てくるフォックス・チャペル地区に住んでおられたが、(住民一人あたりの平均所得が8万ドル=ほぼ1,000万円!1世帯あたりの所得ではない!)、ある時上院議員を招いての自宅パーティに招待されたことがある。

自宅にストリングスを呼んで、庭で生演奏をし、ゲストは勝手気ままに入っては、出ていくというビュッフェ形式のパーティだったが、会社とは関係なく、すべて自費でパーティを開いているということだった。

奥様は大変面倒見の良い方で、ボランティアでフォックス・チャペル高校で日本語の教師をされておられ、その縁でピッツバーグの日本語補習校はフォックス・チャペル高校の校舎を日曜日に借りて開校していた。

住んでおられるところも、ピッツバーグの最高級住宅地であり、友人や隣人を呼んで上院議員を招いてのパーティを開催するなど、アメリカ人になるため、コミュニティにとけ込むために、大変な努力をされていることを知り、全く別世界の様な気がしたものだ。

小林さんも、たぶん筆者の様な駐在員には計り知れない、アメリカ人となるための努力をされているはずで、その成果がこの本なのだと思う。


この本の構成

この本は次の八章からなっている:

第一章 超・格差社会アメリカの現実
第二章 アメリカの富の偏在はなぜ起きたのか
第三章 レーガン、クリントン、ブッシュジュニア政権下の富の移動
第四章 アメリカンドリームと金権体質の歴史
第五章 アメリカの教育が抱える問題
第六章 アメリカの政策目標作成のメカニズムとグローバリゼーションの関係
第七章 それでもなぜアメリカ社会は「心地よい」のか?
第八章 アメリカ社会の本質とその行方

アメリカの超・格差社会の現状と、なぜそれが形成されたのかを分析し、下流社会、格差社会が叫ばれている日本の、目指すべきでない道への示唆を与えるものである。

全編を通して、アメリカ、特にブッシュ共和党政権が、石油や軍事産業に結びついた特権階級によって動かされていることがよくわかる。選挙資金の大きな出所は特権階級であり、政治力もあるのだ。

たとえばレーガン大統領から始まる大減税では、所得税率が28%と15%の2本立てになり、筆者の記憶ではたしか年収約10万ドル以上だと税率は28%だったと思う。累進課税がなくなり、高所得者ほど有利な税制となった。

その後も社会保険料アップやガソリン税アップで、確実に中間層の生活を直撃する一方、金持ちのメインの収入である資本取引は税率は低く抑えられ、富めるものはさらに富める結果となった。

こういった政策の結果が、超・格差社会であると小林さんは語る。


アメリカの超・格差社会

小林さんはアメリカ社会は次の四層社会だと指摘する:

1.特権階級

特権階級は資産10億ドル以上で、アメリカに400世帯程度居ると思われるビリオネアと5,000世帯と推測される資産1億ドル以上の金持ちで、アメリカ社会の頂点に立つ彼らの影響力は計り知れない。

2.プロフェッショナル階級

その下に位置するのが、35万世帯程度と推定される資産1,000万ドル以上の富裕層と、資産200万ドル以上で、かつ年間所得20万ドル以上のアッパーミドルからなる、プロフェッショナル階級である。

専門スキルを持ち合わせている人材の集団だ。

このプロフェッショナル階級が約500万世帯前後で、1.の特権階級、2.のプロフェッショナル階級をあわせた全体の5%に全米の60%の富が集中している。

3.貧困層

アメリカの豊かさのシンボルで、全体の60−70%を占めると言われた中産階級は、専門スキルを持っている人はプロフェッショナル階級に、それ以外は貧困層へと二分化していると。

この層は年収20万ドルから2万3千ドルまでの間となるので、一般的にはさらに中間層と貧困層の二つに分かれるのだろうが、小林さんは、それらをまとめて貧困層と呼んでいる。

全米で最も住みやすい町に選ばれたこともある中都市ピッツバーグに住んでいた筆者にとっては、年収10万ドルは高給取りというイメージがある。

そのため、年収10万ドル以上でも貧困というと、やや違和感を感じるが、米国では資産が資産を産む高利回り社会で、資産規模から言うと、自宅と若干の投資資産程度しか持たない中産階級は、貧困層にあたるという分け方なのだろう。


4.落ちこぼれ

最下層が4人家族で年収2万3千ドルの貧困ライン以下の落ちこぼれ層である。人口全体の25−30%を占めると言われている。

アメリカには政府健康保険はないので、この層のほとんどが無保険で、健康を害するとすぐに生活に窮することになる。治安の悪化の原因でもある。


小林さんの論点は、アメリカの格差問題は資産の問題で、日本風の金持ち=高収入というフロー重視に対して、金持ち=資産家というストック重視の考え方だ。

それぞれの階層について、具体的なファミリー例を紹介しているので、富めるものは益々富み、貧しいものは益々貧しくなるというアメリカ社会の現実がよくわかる。


その他参考になる点をいくつか紹介しておこう。

エヴァンジェリカルの伝統と教育に対する意識

アメリカの開拓時代に普及したエヴァンジェリカル(福音主義)の伝統が、教育や知識より信仰が大切であるというアメリカ人の価値観につながっていると小林さんは指摘する。

だから大統領選挙になると、候補者は大統領にふさわりいキャラクターを強調し、決して学歴を宣伝しないと。

教育に対する社会的尊敬の念が乏しく、教師の収入も低いので、アメリカの基礎教育は悲惨な状態にある。

公立学校の教師の収入は、その町の税収によるので、高級住宅地の学校ほど教育のレベルが高くなる。

筆者の記憶では、ピッツバーグ地区で筆者の住んでいた(一応)高級住宅地の教師の収入は4ー5万ドル程度で、他地区の教師の収入は2ー3万ドル程度だった。

教職を天職と考え、あえて貧民街の教師になる人もいるので、収入だけが要素ではないが、一般的に、これだけの差があれば、教師間の競争も起こり、誰でも高級住宅地の教師になりたがる。

結果として所得水準によって住むところが決まり、良い住宅地は教育の質も高いので、親の収入格差で子供の階級が固定されるということになる。

だから教育に熱心なプロフェッショナル層は高級住宅地に住み、その中の優秀な公立学校に子供を通わせるのだ。


アメリカの政策をつくるシンクタンクとプライベートクラブ

アメリカの政策の元になっている論文や、閣僚のバックグラウンドをみると、大学と並んでシンクタンクやプライベートクラブ、そしてそれらの資金源の財団が浮上してくる。

シンクタンクはブルッキングス研究所、スタンフォード大学のフーバー研究所(ライス国務長官やシュルツ元国務長官もフェローになっていた)などがあり、フーバー研究所は共和党系のシンクタンクとしてホワイトハウスに多くのスタッフを供給し、政策提言で大きな影響力を及ぼしてきた。

ミラーマン」として有名になった(?)植草一秀氏はフーバー研究所のフェローになった唯一の日本人であると。

外交に最大の影響力を持つプライベートクラブとしては、閣僚や政府高官になるためのエスカレーターとしてCFR(Council on Foreign Relations)がある。この機関誌が"Foreign Affairs"だ。

大統領、閣僚経験者が引退後行くのが、巨額の資金を運用するプライベートエクイティファンドだ。

特にカーライルはブッシュ・シニア元大統領、カールッチ元国防長官、ベイカー元国務長官、ダーマン元補佐官、ラモス元フィリピン大統領、メージャー元英国首相などが経営陣、アドバイザーを占め、軍事産業に集中的に投資し、高いリターンを生み出している。

カーライルの本は別ブログであらすじを紹介している

戦争で儲ける人たち―ブッシュを支えるカーライル・グループ戦争で儲ける人たち―ブッシュを支えるカーライル・グループ
著者:ダン ブリオディ
販売元:幻冬舎
発売日:2004-01
おすすめ度:4.5
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随所にあるグラフやデータも興味深い。いろいろな情報とストーリーがてんこ盛りの感があるが、筆者をはじめ在米経験者が感じていたことを、代わって論理的に説明してくれている。是非一読をおすすめする。


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団塊の世代「黄金の十年」が始まる 団塊の応援団 堺屋太一

団塊の世代「黄金の十年」が始まる (文春文庫)団塊の世代「黄金の十年」が始まる (文春文庫)
著者:堺屋 太一
販売元:文藝春秋
発売日:2008-08-05
おすすめ度:5.0
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2005年の冬は記録的な寒さだった。亡くなる人も100人を越えたという。当時ガソリンスタンドに行ったら、東京でも『灯油売り切れ』の看板が出ていた。

学生時代に読んだ本を思い出した。

政府のオペレーションセンター(?)の日本全国の現状を示す巨大パネルに、死者を示す赤い点がどんどんともっていく。堺屋太一氏の1975年のデビュー作『油断!』の一節だ。

石油ショック直後の日本にとって衝撃的な本だった。

堺屋太一氏は通産省の現役課長だった。たしか当初は覆面作家ということでデビューしたはずだ。

油断! (日経ビジネス人文庫)油断! (日経ビジネス人文庫)
著者:堺屋 太一
販売元:日本経済新聞社
発売日:2005-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

翌1976年、堺屋太一氏は『団塊の世代』を出版。『団塊』という言葉をつくり、ベビーブーマー世代が日本経済の成長の原動力となることを予言した。


団塊の世代

その堺屋太一氏が今度は、自らが名付けた団塊世代がリタイアするこれからの10年が、日本の黄金の10年となることを予言する。

図やグラフが多く、まるで教科書の様だ。わかりやすく、いろいろな情報が頭にスッと入る。

堺屋太一氏の戦後日本分析の主な論点である『55年体制』とか、『日本式経営』とか、『知価革命』とかもおさらいしている。

堺屋氏は早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授にもなっているので、教科書としても使っているのかもしれない。

タイトルの通り、団塊世代の強烈な時代変革力を信じる本だ。

いくつか印象に残ったポイントを紹介しよう。


2007年問題

団塊の世代が大量に60歳定年を迎える来年以降は、『2007年問題』が起こると言われている。2007年問題とは:

「団塊の世代が定年を迎えて、年金生活に入るので、年金負担は急増する。

多くの熟練者が引退するので生産現場は人手不足で技能の継承は困難になり、都心のオフィスは空きが増える。

日本の生産力は低下し税収は減るのに、高齢者に対する年金・医療の負担は重くなり、国家財政が悪化し、将来の不安だけ残る」

という現象が起こることだ。

またその結果、「社会保険料はもちろん、消費税や所得税も大幅に引き上げ、なおかつ高齢者年金は引き下げざるを得ない」こととなる。

堺屋太一氏は、この2007年問題というのは官僚予測であり、団塊の世代についての官僚予測はことごとく間違っていた。今回の『団塊お荷物論』も間違いであると言う。


団塊世代は金持ち、知恵持ち、時間持ち

別ブログで『57歳のセカンドハローワーク』を紹介した時に、日米のベビーブーマーの違いや、2007年問題についても紹介した。

団塊世代は昔の60代=老人というイメージはあてはまらず、エネルギッシュで、パソコンも使え、現役のビジネスマンとしてもやっていけるということを、堺屋さんもこの本で力説している。

一千百万人の1947年から1951年生まれの団塊世代は、かつてないほど活気にあふれる60歳代となり、金持ち、知恵持ち、時間持ちとして、新しい高齢者市場を創りだし、日本経済の発展に貢献するのだ。

日本の世帯あたりの平均資産(住宅資産・金融資産合計)は次のように年代が上がる毎に上がる。(本書から引用。もとは総務省の平成11年の全国消費実態調査より)

30歳未満    1,036万円
30ー40歳   2,044万円
40−50歳   3,422万円
50−60歳   4,995万円
60−70歳   6,358万円
70歳以上    6,947万円

平成16年度にも同様の調査が実施されている。結果は一部発表されている。

団塊の世代の世帯当たりの平均資産は5千万円、60歳代以上の6−7,000万円には及ばないが、それでも30歳代の2千万円(金融資産は1千万円弱のマイナス)、40歳代の3,500万円に比べて大変な高額だ。

団塊が行くところ、常に巨大市場が出現する。

『下流社会』で一躍有名になった三浦展氏の『団塊世代を総括する』でも、団塊世代は起業して若者を雇えと提言している。

資産持ち、そして知恵と時間持ちの団塊の世代がまた時代を変えるのだ。

職縁から人縁・地縁へ。各地で商店街の復活の動きがある。

時間持ちの団塊世代は地域復活の原動力にもなりうる。このストーリーを書いたのが、別ブログでも紹介した堺屋さんの『エキスペリエンツ7』だ。

エキスペリエンツ7 団塊の7人〈上〉 (日経ビジネス人文庫)エキスペリエンツ7 団塊の7人〈上〉 (日経ビジネス人文庫)
著者:堺屋 太一
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


団塊世代は年金兼業型低コスト労働力

2007年からは団塊の世代が定年を迎え、コストの安い『年金兼業型』の自由な労働力が出現し、日本経済の体質を根本的に変えることなる。

堺屋さんは経済企画庁長官の時に、『70歳まで働くことを選べる社会を!』ということを提唱した。

生産年齢とは昔も今も15歳から65歳となっているが、中学卒業で15歳で働く人はまれで、実体にあわない。

高学歴が定着し、知価社会化が進んだ今は現役世代の概念を引き上げ、22歳から70歳までに改めるべきであると。

60歳以上の世代が年金兼業型低コスト労働力となっている例として、堺屋さんはタクシー業界をあげる。

東京都のタクシー運転手の平均年齢はここ30年間で、32.4歳から55歳まで22歳も上がった。労働力の価格競争で高齢者が若者に競り勝ったのだ。

このタクシー業界の例を見るとちょっと複雑な心境となるが、少子高齢化の一つの打開策ではある。


江戸時代の知恵

堺屋さんは江戸の知恵を採用せよと。

権(権限)、位(階位)、禄(収入)をわけるのだ。

たとえば忠臣蔵では、朝廷から来る勅使の柳原前大納言をもてなす接待役に任命されたのが浅野内匠頭、接待指南役が吉良上野介だった。地位が一番高いのが柳原前大納言の従二位、次に吉良の従四位上、浅野は従五位。

ところが禄は柳原が220石、吉良が4,200石、浅野は53,000石で偉さと、収入が逆転していることがわかる。

同じく将棋の段位制も江戸の発明であると。年功で段位は上がるが、下がることはない。柔道も同じだ。

江戸時代は経済と人口が増えなかった中で、260年も泰平を保っただけに、すぐれた知恵があったのだ。

肩書きと収入をうまく使うことが、団塊世代の戦力化に重要である。


日本のアルゼンチン化

堺屋氏は、団塊世代の戦力化がうまくいかないと、日本の『アルゼンチン化』が始まるだろうと語る。

筆者は20代なかばにアルゼンチンで、会社の研修生として語学勉強と仕事をしていたので、ちょっと複雑な気持ちではあるが、堺屋さんの言うとおりだ。

アルゼンチンは20世紀初頭には世界でも有数の豊かな国だった。主にヨーロッパに穀物と牛肉を輸出して、特に第一次、第二次世界大戦中は終戦直前まで中立国として両陣営に食料を輸出して、大変裕福だった。

母を訪ねて三千里のマルコもイタリアのジェノバからアルゼンチンに出稼ぎに来ていた母を訪ねてくるのだが、今なら逆にアルゼンチンからヨーロッパに出稼ぎに行くことになるだろう。

日露戦争の日本海海戦で活躍した『日進』『春日』の両戦艦は、アルゼンチンがイタリアに発注していた戦艦を、当時の日英同盟の関係から、英国の口利きで日本に譲ったものだ。

またロンドン、パリに続き、世界で三番目に地下鉄ができたのがブエノスアイレスである。

筆者は賄い付きの下宿にいたが、下宿のおばさんは50年間、同じ電話番号を使っていると言っていた。

アルゼンチンの問題は、20世紀の前半がピークだったことだ。

地下鉄も100年近く新しい路線・駅が建設されず、日本の銀座線(日本で最初の地下鉄)で使われなくなった古い車両がアルゼンチンに輸出され使われていた。

また電話も20世紀初頭に各家庭までゆきわたっていたのだが、NECが1980年代初めに電話網を受注するまでは、電話がなかなか通じないので、秘書の仕事の一つは、つながるまで根気よくダイヤルを回すことだった。

ブエノスアイレスには電柱はなく、すべて電線は地下に埋没されていたが、雨が降ると電話線が濡れて、まず電話は通じなかった。

海底ケーブルや衛星通信で国際電話する方が、市内や長距離電話よりもよっぽどクリアーでよくつながった。

アルゼンチンの没落の原因は、古い産業(農業)での国際優位に安住し、生産性を高める努力を怠ったこと、首都ブエノスアイレスの一極集中を改めなかったこと、貧民を中心とした人気取りのため政策をころころ変える一方、特権階級は汚職・税金逃れで、ぬくぬくと優雅な生活を送っていたことなどだ。

日本も真剣に改革に取り組まないと、22世紀は「貧しい大阪から豊かな上海に出稼ぎに行く」ということになりかねないと。


最後に団塊世代への堺屋太一氏のアドバイス

本書の最後に『団塊』の名付け親の堺屋氏からのアドバイスが記されている。

1.好きなことをみつけて10年打ち込む
2.再就職に成功する方法
3.満足の尺度を変えよう
4.すべては「自分のため」に

300ページの本であるが、スラスラっと読める。読んで納得!の書であった。


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