サラリーマン「再起動」マニュアル
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2008-09-29
おすすめ度:
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大前研一氏の自分を差別化する「再起動」のすすめ。
週刊ポストでの連載コラムを集めたものだが、次の目次のテーマに編集されており、ばらばらのコラムを集めたという印象はない。
イントロダクション 志のあるサラリーマンは、きつい仕事を厭わない
第1章 {現状認識}なぜ今「再起動」が必要か?
第2章 {基礎編} 「再起動」のための準備運動
第3章 {実践編} 「中年総合力」をつける
第4章{事業分析編}”新大陸エクセレントカンパニー”の条件
第5章 {メディア編} 「ウェブ2.0」時代のシー・チェンジ
エピローグ 新大陸の”メシの種”はここにある
最初に2008年春の日本電産永守社長の「休みたいならやめればいい」という物議をかもした発言が紹介されている。
「日本電産では創業から35年一度も人員整理はない」と雇用の維持が優先される考えを示した上で、「うちはまだ三,四合目。ワークライフバランスでゆっくりしたい人は他の会社へ行ったらいい」という発言だ。
「連合」などがこの発言に噛み付いたというが、大前さんはなぜこの発言が非難されるのかさっぱりわからないと語る。
永守さんの「人を動かす人になれ!」は、このブログでも紹介しているが、サラリーマン経営者にはないバイタリティある経営者だ。大前さんも講演をしばしばお願いしており、アンケートを取ると常に「もう一度話を聞きたい経営者」の上位にいるという。
永守さんは多くの会社を買収して、経営再建を実現しているが、永守流経営を導入することで最初はどこの会社も仕事は厳しくなるが、結果的に利益が上がり、それを社員に還元して給料を上げることで社員みんなから感謝されているという。
しかし仕事がきついところが、連合とかマスコミの非難を浴びている。
これが現代の風潮である。
今の日本の社会の中核である日本の30代ー40代の人口は男女あわせて3,500万人くらいいる。しかし大前さんはトラクション(駆動力)を感じないと語る。現状に危機感を抱いて戦闘意欲を持っている人は、15万人程度ではないかと。
「トラクション」という言葉を使う人は初めてだが、まさに適切な言葉だと思う。
バブル崩壊後日本はぬるま湯につかっていたせいで政府・企業・個人もたるんでおり、「フリーズ」状態だ。だから志あるサラリーマンにはチャンスであり、「再起動」してグローバルに通用する人材になれば世界中の企業で活躍できるのだと。
21世紀は見えない新大陸、バーチャルな世界での新しい経済が出現した。企業も個人もこの新大陸で生き残れなければ明日はない。そのための戦闘準備として、大前さんは様々な提案をしている。
特に印象に残ったものをいくつか紹介しておく。
できる人の共通点は「ハングリーでリスクテイカー」
マッキンゼー風採用は、面接官全員「○」でも不採用で、誰か一人でも「◎」(絶対に採用すべし)をつけていれば、他が全員「×」でも採用になるという。
大前さん自身が受けた採用面接でも一人だけ「◎」で、他は「×」や判定不能だったという。
大前さん自身が「◎」をつけて採用した人はディー・エヌ・エーの南場智子社長など、マッキンゼーを卒業して成功している人が多い。
このブログでも紹介しているIBMのルイス・ガースナー元会長もそうだが、彼らはみなハングリーでリスクテイカーだという。
彼らは安住の地を見つけることよりも、死ぬまで自分の可能性をためすタイプであり、たとえ失敗しても「面白かった」といえる人生を求めている。
こういったタイプの人に安藤忠雄さん、デルのマイケル・デル会長などがいる。
これからの日本企業に必要な人は、構想力があり、将来の絵をはっきり描いて実行できる人である。事業構想が必要なのは5年後のライフスタイル像を考えて仕事をするためだ。
大前さんはブルーレイディスクには5年後の姿は見えないと語る。シネコンは生き残るが、家庭ではホームサーバーが5年後は主流となるだろうと。
構想力の話をするときに、大前さんはウォルトディズニーがフロリダのEPCOTセンター構想を説明するビデオを見せるという。そのビデオがYouTubeで見られるので、紹介しておく。
24分強と長いが、ウォルト・ディズニーが楽しそうに構想を説明している。
筆者が子どもの頃は、ウォルト・ディズニーは存命で、毎週金曜8時のディズニーアワーの初めと終わりにウォルト・ディズニー自身が登場して、ストーリーを紹介していたことを思い出す。
「再起動」のための準備運動
「再起動」のためには、新大陸で生き残る3つのスキルのFT(財務力),IT,LT(語学力)をつける必要がある。
時間のリストラをして「再起動」のための時間をつくり、30−40代が弱い英語力をTOEIC860点以上にするためのアイデアを紹介している。
海外旅行は「脳の筋トレ」なので、インターネットで事前調査を十分行ってから訪問することをすすめている。ただし先入観を持たずに現地を見ることが重要で、これにより見えなかったものも見えてくるのだ。
住居費、教育費、マイカーの三種のコストを削減する方法も提案している。
マッキンゼーの人材育成グリッド
マッキンゼーでは人材育成用に、横軸に勤続年数、縦軸に要求されるスキルを書いて年毎に育成していく人材育成グリッドを書いて管理するという。
たとえば縦軸にはコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、交渉力、チームをマネージする能力、部下を育てる能力などだ。
そして入社時に5年後にも在籍する可能性は20%であることを告げられるという。毎年20%の人員がカットされるのだ。
「中年総合力」をつける
この本の中心テーマである「再起動」のために、大前さんは「中年総合力」をつけろと提案する。
「インプット力」ではGoogleの時価総額が17兆円になったことを紹介し、インプット力の重要性を語る。
大前さんの3つのインプット術は1.ネットに掲載されている新聞記事のRSSによる収集、2.BBT大学院大学のクラスディスカッションなどを通じての様々な人からのインプット、3.自分の足で歩き回るインプット、MBWA(=Management By Walking Around)である。
できる人になるためには、アンテナを全方位に張っておいて、頭の中にワインセラーのような情報の整理だなを構築するのだ。これが出来る人は、「おぬし、やるのう」という感じだと。
頭の中のワインセラーとは面白い表現で、言いえて妙である。
「中年総合力」とはゼネラリスト能力であり、大前さんはT型人間、あるいはΠ(パイ)型人間となれと語る。つまり一本あるいは二本深い専門分野と、広いゼネラリストとしての知識の総合力だ。
世の中の森羅万象に興味を持って常に勉強する努力が重要だ。
そして自分の前後15歳の年代を研究する。プラス15歳はなりたくないモデル、マイナス15歳は新大陸時代の若者とつきあい、いかに戦力化していくかを考えるためだ。
発想力向上には右脳を刺激せよ
大前さんはいつも進行方向に向かって左側の窓際の席に座って、窓の外の光が左目に入って右脳を刺激して、良いアイデアが浮かぶのだと。
今までこんなことを意識したことがなかったが、これからは左目で見ることを意識してやってみようと思う。
新大陸エクセレントカンパニー
新大陸エクセレントカンパニーとして、多くの会社の例が紹介されている。
IBMのパソコン事業のレノボへの売却は象徴的だという。
コモディティ化したビジネスにはうまみはない。既存のものを"do more better"(改善)するのでなく、現状を否定してブレークスルーを見つける能力が求められているのだと。
1.デル
デルを訪問して大前さんは驚いたという。会社のためにシステムがあるのではなく、システムの上に会社がある。それらはCRM+SCM+ERPだ。カスタマーサービスオペレーターが苦情受付のみならず、注文受付そして発注まで行うすべての贅肉をそぎ落としたシステムである。
2.シスコ
シスコ製品の故障は7−8割がソフトウェアなので、オンラインで自動診断して、ネット経由で修理してしまうシステムをつくっている。これによりサービス要員は最小限に抑えられている。
他も贅肉をそぎ落としており、14,000人の従業員に対し、総務部は数人で、経費精算などもアメックスにアウトソーシングしているという。
3.スペインのZARAブランドのインディテックス
本社の隣の工場と倉庫で、世界2,000店向けに注文を受け付けたら48時間以内に出荷する体制をとっているので、店の在庫は持たなくて良い。
新製品は2週間で店まで届けるので、その時点で流行しそうな商品、流行している商品をつくればよいので、流行を予測する必要がないという。
アパレル界のデルと大前さんは呼ぶ。これに比べれば中国での大量生産が主体のユニクロはまだWeb 1.0企業だと。
4.中堅スーパーのヤオコー、イズミ、ヨークベニマルなど
経営者の現場感覚がすぐれており、消費者の金の使い道をするどくキャッチし、それに応じて地域別、店舗別に商品をクリエートする「生活提案力」をつけ、高収益を達成している。
世界の流通業では、ウォルマートとカルフールが電子調達に熱心で、世界各地から直接仕入れている。
電子調達を駆使すれば製品の仕入れコストは半額以下になることもあるが、見えない相手から買うことは信用情報やパフォーマンスで相当のノウハウを持っていないとできない。
5.iPodもWiiも独占製造する台湾の「鴻海=ホンハイ」
世界最大のEMS「鴻海」はiPod、Wii、iPhone、パソコンから携帯電話まで話題の商品をみんなつくっている。
鴻海は金型技術に優れ、金型製造設備と技術者を大量に社内に保有して24時間体制で運用している。自社で設計から製造まで手がけ、客先がコンセプトを持ち込めば、普通なら数ヶ月掛かる試作品を1週間で仕上げてくるという。
台湾企業は日本、台湾、韓国、中国を知り尽くし、日本語、英語、そして中国語ができるので電機業界では世界最強だ。情報家電では日本が材料の2/3、製造設備の1/2、基幹部品も1/3抑えているので、日本企業を知る必要があり、まだまだ中国企業は台湾企業には追いつけないという。
6.パナソニックは2007年4月から3万人が在宅勤務
方向性としては良いが、情報セキュリティ・個人情報保護の問題が指摘されている。この金融危機後は、在宅勤務がどうなるか注目されるところである。
7.ヨーロッパのライアンエアー
ヨーロッパのライアンエアーは予約はネットのみ、着陸料の高い空港は避ける、預ける荷物は15キロまで、超過分は1キロ当たり8ユーロといった徹底的なコスト削減により、最安値は税金・諸費用除いて片道1ポンド(地下鉄よりも安い)を実現しているという。
ウェブ2.0時代のシー・チェンジ
シー・チェンジとはホーン岬を抜けて、荒れた大西洋から静かな太平洋に出たマゼランが叫んだ言葉ではないかと大前さんは言う。同じ海だが、全く異なる。これをシー・チェンジと呼ぶ。
ウェブ2.0も使っている機器は同じだが、利用法・ボリュームが異なる。
大前さんはデジタル化でテレビ局は死を急いだと語る。民放の広告費依存ビジネスが崩壊する可能性が高いからだ。
米国ではTiVoが普及し、2割以上の家庭が使っているという。CMスキップ機能があり、HDDに録画するので、月額13ドル弱でいつでも見たいときに見られるのだ。
デジタル時代にテレビが生き残る形はGyaoのような広告モデルか、オンデマンドの有料モデルだが、無料のYouTubeに放送直後から紅白歌合戦のビデオがアップされる時代なので、デジタル時代に有料化で大きく儲けることは難しい。
NHKオンデマンドも放送翌日から最大10日間配信するというが、放送直後からYouTubeに載るので、まったく意味がない。
日本のデジタル化投資の1兆円、総工費500億円の東京スカイツリーもYouTubeの前に無用の長物、バベルの塔となるだろうと大前さんは予測している
56社が参加し、300億円を掛ける日の丸検索エンジン(情報大航海プロジェクトは笑止千万であると。56社もいると身動きがとれないし、「B29を竹やりで落とす」ようなものであると酷評している。だいたい官民相乗りプロジェクトは死屍累々なのだと。
あらゆる企業は広告宣伝戦略を変えよ
テレビ、ラジオ、新聞など既存媒体広告の費用対効果は悪い。
ネット広告も検索上位に打つ検索連動型広告や成果報酬型ならともかく、バナー広告などのクリック率は落ちてきているという。
このブログでもサイバーエージェントの藤田晋さんの本を紹介しているが、大前さんはこのままでは、伝統的な広告代理店の業務をネット化しただけのネット広告代理店の将来はないだろうと予測する。
ウェブ2.0時代では、すべての会社が自分でネットの世界からSEO等でお客さんを見つけてくる努力をしなければならない。
売上げを伸ばすには、過去に自分の会社を利用したお客さんをデータベース化して、属性を分析し、対象を絞り込んでナローキャスティング、ポイント・キャスティングすればよいのだと。
グーグルはダブルクリック買収などから見ても広告ビジネスを独占することを狙っていると思われ、ショッピングもグーグルチェックアウトを利用してAPIを公開して拡大する戦略のようだ。
検索サイトがショッピングサイトになることを目指しているのだ。これに対抗してアマゾンが総合サイト化を目指しているが、その狙いはグーグル対策だ。
米国では楽天のようなモールはなく、個別マーチャントのサイトが巨大化している。アマゾンも様々な商品のポータルを作って、巨大化することでモール化しようとしている。
新大陸のメシの種
新大陸のメシの種として、健康な高齢者向けのビジネス、一人暮らしの孤独(3割が独身)を癒すビジネス、死にまつわる産業などが伸びることを予測している。
クルマも高級ブランドにも興味のない「物欲喪失世代」にモノを売るのは至難の業なので、健康な高齢者がターゲットとなってくるのだ。
アイデアの使いまわしがなく、新鮮なアイデアがとめどなく出てくるには感心する。簡単に読めるので、まずは手にとってページをめくって欲しい。
参考になれば次クリックお願いします。
著者:大前 研一
販売元:小学館
発売日:2008-09-29
おすすめ度:
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大前研一氏の自分を差別化する「再起動」のすすめ。
週刊ポストでの連載コラムを集めたものだが、次の目次のテーマに編集されており、ばらばらのコラムを集めたという印象はない。
イントロダクション 志のあるサラリーマンは、きつい仕事を厭わない
第1章 {現状認識}なぜ今「再起動」が必要か?
第2章 {基礎編} 「再起動」のための準備運動
第3章 {実践編} 「中年総合力」をつける
第4章{事業分析編}”新大陸エクセレントカンパニー”の条件
第5章 {メディア編} 「ウェブ2.0」時代のシー・チェンジ
エピローグ 新大陸の”メシの種”はここにある
最初に2008年春の日本電産永守社長の「休みたいならやめればいい」という物議をかもした発言が紹介されている。
「日本電産では創業から35年一度も人員整理はない」と雇用の維持が優先される考えを示した上で、「うちはまだ三,四合目。ワークライフバランスでゆっくりしたい人は他の会社へ行ったらいい」という発言だ。
「連合」などがこの発言に噛み付いたというが、大前さんはなぜこの発言が非難されるのかさっぱりわからないと語る。
永守さんの「人を動かす人になれ!」は、このブログでも紹介しているが、サラリーマン経営者にはないバイタリティある経営者だ。大前さんも講演をしばしばお願いしており、アンケートを取ると常に「もう一度話を聞きたい経営者」の上位にいるという。
永守さんは多くの会社を買収して、経営再建を実現しているが、永守流経営を導入することで最初はどこの会社も仕事は厳しくなるが、結果的に利益が上がり、それを社員に還元して給料を上げることで社員みんなから感謝されているという。
しかし仕事がきついところが、連合とかマスコミの非難を浴びている。
これが現代の風潮である。
今の日本の社会の中核である日本の30代ー40代の人口は男女あわせて3,500万人くらいいる。しかし大前さんはトラクション(駆動力)を感じないと語る。現状に危機感を抱いて戦闘意欲を持っている人は、15万人程度ではないかと。
「トラクション」という言葉を使う人は初めてだが、まさに適切な言葉だと思う。
バブル崩壊後日本はぬるま湯につかっていたせいで政府・企業・個人もたるんでおり、「フリーズ」状態だ。だから志あるサラリーマンにはチャンスであり、「再起動」してグローバルに通用する人材になれば世界中の企業で活躍できるのだと。
21世紀は見えない新大陸、バーチャルな世界での新しい経済が出現した。企業も個人もこの新大陸で生き残れなければ明日はない。そのための戦闘準備として、大前さんは様々な提案をしている。
特に印象に残ったものをいくつか紹介しておく。
できる人の共通点は「ハングリーでリスクテイカー」
マッキンゼー風採用は、面接官全員「○」でも不採用で、誰か一人でも「◎」(絶対に採用すべし)をつけていれば、他が全員「×」でも採用になるという。
大前さん自身が受けた採用面接でも一人だけ「◎」で、他は「×」や判定不能だったという。
大前さん自身が「◎」をつけて採用した人はディー・エヌ・エーの南場智子社長など、マッキンゼーを卒業して成功している人が多い。
このブログでも紹介しているIBMのルイス・ガースナー元会長もそうだが、彼らはみなハングリーでリスクテイカーだという。
彼らは安住の地を見つけることよりも、死ぬまで自分の可能性をためすタイプであり、たとえ失敗しても「面白かった」といえる人生を求めている。
こういったタイプの人に安藤忠雄さん、デルのマイケル・デル会長などがいる。
これからの日本企業に必要な人は、構想力があり、将来の絵をはっきり描いて実行できる人である。事業構想が必要なのは5年後のライフスタイル像を考えて仕事をするためだ。
大前さんはブルーレイディスクには5年後の姿は見えないと語る。シネコンは生き残るが、家庭ではホームサーバーが5年後は主流となるだろうと。
構想力の話をするときに、大前さんはウォルトディズニーがフロリダのEPCOTセンター構想を説明するビデオを見せるという。そのビデオがYouTubeで見られるので、紹介しておく。
24分強と長いが、ウォルト・ディズニーが楽しそうに構想を説明している。
筆者が子どもの頃は、ウォルト・ディズニーは存命で、毎週金曜8時のディズニーアワーの初めと終わりにウォルト・ディズニー自身が登場して、ストーリーを紹介していたことを思い出す。
「再起動」のための準備運動
「再起動」のためには、新大陸で生き残る3つのスキルのFT(財務力),IT,LT(語学力)をつける必要がある。
時間のリストラをして「再起動」のための時間をつくり、30−40代が弱い英語力をTOEIC860点以上にするためのアイデアを紹介している。
海外旅行は「脳の筋トレ」なので、インターネットで事前調査を十分行ってから訪問することをすすめている。ただし先入観を持たずに現地を見ることが重要で、これにより見えなかったものも見えてくるのだ。
住居費、教育費、マイカーの三種のコストを削減する方法も提案している。
マッキンゼーの人材育成グリッド
マッキンゼーでは人材育成用に、横軸に勤続年数、縦軸に要求されるスキルを書いて年毎に育成していく人材育成グリッドを書いて管理するという。
たとえば縦軸にはコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、交渉力、チームをマネージする能力、部下を育てる能力などだ。
そして入社時に5年後にも在籍する可能性は20%であることを告げられるという。毎年20%の人員がカットされるのだ。
「中年総合力」をつける
この本の中心テーマである「再起動」のために、大前さんは「中年総合力」をつけろと提案する。
「インプット力」ではGoogleの時価総額が17兆円になったことを紹介し、インプット力の重要性を語る。
大前さんの3つのインプット術は1.ネットに掲載されている新聞記事のRSSによる収集、2.BBT大学院大学のクラスディスカッションなどを通じての様々な人からのインプット、3.自分の足で歩き回るインプット、MBWA(=Management By Walking Around)である。
できる人になるためには、アンテナを全方位に張っておいて、頭の中にワインセラーのような情報の整理だなを構築するのだ。これが出来る人は、「おぬし、やるのう」という感じだと。
頭の中のワインセラーとは面白い表現で、言いえて妙である。
「中年総合力」とはゼネラリスト能力であり、大前さんはT型人間、あるいはΠ(パイ)型人間となれと語る。つまり一本あるいは二本深い専門分野と、広いゼネラリストとしての知識の総合力だ。
世の中の森羅万象に興味を持って常に勉強する努力が重要だ。
そして自分の前後15歳の年代を研究する。プラス15歳はなりたくないモデル、マイナス15歳は新大陸時代の若者とつきあい、いかに戦力化していくかを考えるためだ。
発想力向上には右脳を刺激せよ
大前さんはいつも進行方向に向かって左側の窓際の席に座って、窓の外の光が左目に入って右脳を刺激して、良いアイデアが浮かぶのだと。
今までこんなことを意識したことがなかったが、これからは左目で見ることを意識してやってみようと思う。
新大陸エクセレントカンパニー
新大陸エクセレントカンパニーとして、多くの会社の例が紹介されている。
IBMのパソコン事業のレノボへの売却は象徴的だという。
コモディティ化したビジネスにはうまみはない。既存のものを"do more better"(改善)するのでなく、現状を否定してブレークスルーを見つける能力が求められているのだと。
1.デル
デルを訪問して大前さんは驚いたという。会社のためにシステムがあるのではなく、システムの上に会社がある。それらはCRM+SCM+ERPだ。カスタマーサービスオペレーターが苦情受付のみならず、注文受付そして発注まで行うすべての贅肉をそぎ落としたシステムである。
2.シスコ
シスコ製品の故障は7−8割がソフトウェアなので、オンラインで自動診断して、ネット経由で修理してしまうシステムをつくっている。これによりサービス要員は最小限に抑えられている。
他も贅肉をそぎ落としており、14,000人の従業員に対し、総務部は数人で、経費精算などもアメックスにアウトソーシングしているという。
3.スペインのZARAブランドのインディテックス
本社の隣の工場と倉庫で、世界2,000店向けに注文を受け付けたら48時間以内に出荷する体制をとっているので、店の在庫は持たなくて良い。
新製品は2週間で店まで届けるので、その時点で流行しそうな商品、流行している商品をつくればよいので、流行を予測する必要がないという。
アパレル界のデルと大前さんは呼ぶ。これに比べれば中国での大量生産が主体のユニクロはまだWeb 1.0企業だと。
4.中堅スーパーのヤオコー、イズミ、ヨークベニマルなど
経営者の現場感覚がすぐれており、消費者の金の使い道をするどくキャッチし、それに応じて地域別、店舗別に商品をクリエートする「生活提案力」をつけ、高収益を達成している。
世界の流通業では、ウォルマートとカルフールが電子調達に熱心で、世界各地から直接仕入れている。
電子調達を駆使すれば製品の仕入れコストは半額以下になることもあるが、見えない相手から買うことは信用情報やパフォーマンスで相当のノウハウを持っていないとできない。
5.iPodもWiiも独占製造する台湾の「鴻海=ホンハイ」
世界最大のEMS「鴻海」はiPod、Wii、iPhone、パソコンから携帯電話まで話題の商品をみんなつくっている。
鴻海は金型技術に優れ、金型製造設備と技術者を大量に社内に保有して24時間体制で運用している。自社で設計から製造まで手がけ、客先がコンセプトを持ち込めば、普通なら数ヶ月掛かる試作品を1週間で仕上げてくるという。
台湾企業は日本、台湾、韓国、中国を知り尽くし、日本語、英語、そして中国語ができるので電機業界では世界最強だ。情報家電では日本が材料の2/3、製造設備の1/2、基幹部品も1/3抑えているので、日本企業を知る必要があり、まだまだ中国企業は台湾企業には追いつけないという。
6.パナソニックは2007年4月から3万人が在宅勤務
方向性としては良いが、情報セキュリティ・個人情報保護の問題が指摘されている。この金融危機後は、在宅勤務がどうなるか注目されるところである。
7.ヨーロッパのライアンエアー
ヨーロッパのライアンエアーは予約はネットのみ、着陸料の高い空港は避ける、預ける荷物は15キロまで、超過分は1キロ当たり8ユーロといった徹底的なコスト削減により、最安値は税金・諸費用除いて片道1ポンド(地下鉄よりも安い)を実現しているという。
ウェブ2.0時代のシー・チェンジ
シー・チェンジとはホーン岬を抜けて、荒れた大西洋から静かな太平洋に出たマゼランが叫んだ言葉ではないかと大前さんは言う。同じ海だが、全く異なる。これをシー・チェンジと呼ぶ。
ウェブ2.0も使っている機器は同じだが、利用法・ボリュームが異なる。
大前さんはデジタル化でテレビ局は死を急いだと語る。民放の広告費依存ビジネスが崩壊する可能性が高いからだ。
米国ではTiVoが普及し、2割以上の家庭が使っているという。CMスキップ機能があり、HDDに録画するので、月額13ドル弱でいつでも見たいときに見られるのだ。
デジタル時代にテレビが生き残る形はGyaoのような広告モデルか、オンデマンドの有料モデルだが、無料のYouTubeに放送直後から紅白歌合戦のビデオがアップされる時代なので、デジタル時代に有料化で大きく儲けることは難しい。
NHKオンデマンドも放送翌日から最大10日間配信するというが、放送直後からYouTubeに載るので、まったく意味がない。
日本のデジタル化投資の1兆円、総工費500億円の東京スカイツリーもYouTubeの前に無用の長物、バベルの塔となるだろうと大前さんは予測している
56社が参加し、300億円を掛ける日の丸検索エンジン(情報大航海プロジェクトは笑止千万であると。56社もいると身動きがとれないし、「B29を竹やりで落とす」ようなものであると酷評している。だいたい官民相乗りプロジェクトは死屍累々なのだと。
あらゆる企業は広告宣伝戦略を変えよ
テレビ、ラジオ、新聞など既存媒体広告の費用対効果は悪い。
ネット広告も検索上位に打つ検索連動型広告や成果報酬型ならともかく、バナー広告などのクリック率は落ちてきているという。
このブログでもサイバーエージェントの藤田晋さんの本を紹介しているが、大前さんはこのままでは、伝統的な広告代理店の業務をネット化しただけのネット広告代理店の将来はないだろうと予測する。
ウェブ2.0時代では、すべての会社が自分でネットの世界からSEO等でお客さんを見つけてくる努力をしなければならない。
売上げを伸ばすには、過去に自分の会社を利用したお客さんをデータベース化して、属性を分析し、対象を絞り込んでナローキャスティング、ポイント・キャスティングすればよいのだと。
グーグルはダブルクリック買収などから見ても広告ビジネスを独占することを狙っていると思われ、ショッピングもグーグルチェックアウトを利用してAPIを公開して拡大する戦略のようだ。
検索サイトがショッピングサイトになることを目指しているのだ。これに対抗してアマゾンが総合サイト化を目指しているが、その狙いはグーグル対策だ。
米国では楽天のようなモールはなく、個別マーチャントのサイトが巨大化している。アマゾンも様々な商品のポータルを作って、巨大化することでモール化しようとしている。
新大陸のメシの種
新大陸のメシの種として、健康な高齢者向けのビジネス、一人暮らしの孤独(3割が独身)を癒すビジネス、死にまつわる産業などが伸びることを予測している。
クルマも高級ブランドにも興味のない「物欲喪失世代」にモノを売るのは至難の業なので、健康な高齢者がターゲットとなってくるのだ。
アイデアの使いまわしがなく、新鮮なアイデアがとめどなく出てくるには感心する。簡単に読めるので、まずは手にとってページをめくって欲しい。
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