時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

2009年07月

不動産は値下がりする リクルート創始者江副さんの2007年の警鐘

不動産は値下がりする!―「見極める目」が求められる時代 (中公新書ラクレ 252)


リクルート創始者江副浩正さんの本。

2007年8月の出版だが、2008年前半までは最高益更新という会社が多く、不動産も下落するとは予想されていなかったので、江副さんの先見性はさすがだ。

この本も再度注目されている。

以前紹介した「リクルートのDNA}なら江副さんにまさに書いて欲しい本だが、この本は不動産価格の見通しについての本であり、なぜ江副さんがこの本を今書いたのか、本を読むまでよくわからなかった。

リクルートは以前リクルートコスモス(現コスモスイニシア)という不動産開発会社を持っていて、首都圏のマンションや岩手県の安比高原スキー場などのリゾート開発の実績もあり、江副さんはリクルートコスモスの会長だった。

しかしリクルート事件でリクルートの社長を退任し、最近は江副育英会や東京オペラシティのサポーターなどの活動がメインで、不動産ビジネスからも引退しているのだと思っていた。

江副さんは72歳になっているはずだが、この本を読むと東京や全国の不動産開発についても最新の動きをつかんでいることがわかり、依然として現役投資家と言って良いと思う。

現在の不動産の需給状況を冷静に分析して、日本全体が少子高齢化に向かっているにもかかわらず、首都圏を中心に不動産の供給はさらに増えるので、金利が今後上昇していくと不動産の価格は下がると警鐘を鳴らしていて参考になる。

最後に「書くことは私自身の勉強になる」と記されているのは実感で、この本を書いた理由だろうが、いわば元バブル紳士の江副さんの「同じ間違いは繰り返すな」という遺言の様に思える。



不動産供給の増える理由

現在は都心の不動産価格は上昇している。

日本の国土は狭く、土地は限りある資産で、不動産を持っていた方がインフレに強いという発想(信仰)があるが、土地は埋め立て、法改正などで生産、再生産されており、規制緩和による容積率拡大により首都圏や近畿圏を中心に膨大な土地、床が供給されるのだと江副さんは語る。

だから首都圏を中心に不動産の供給が増えるので、バブルは崩壊すると江副さんは予想する。


1.規制緩和による容積率や建坪率の増加

都心部では30階を超える高層オフィスビル、50階を超えるタワーマンションが増加し、住宅地では敷地一杯に広がったマンションが増えた。南軽井沢では規制緩和で、引退した団塊世代が買えるこぶりの別荘が建てられるようになった。

規制緩和による土地供給増加はバカにならないものがある。


2.地方自治体が埋め立て地を造成

江副さんは神戸市出身だが、神戸市は六甲山を削って海を埋め立て、ポートアイランド、六甲アイランドなどを造成した。

東京臨海部でも有明、青海など臨海副都心を抱える江東区は50年間で面積が1.8倍、品川区、大田区も1.4倍に増えている。千葉県浦安市は面積で約4倍、人口は約9倍になった。

すべてが埋め立て地の幕張新都心を抱える千葉市だけで、32平方キロメートルも増えている。これは中央区の面積の3倍以上の土地の増加だ。

横浜のみなとみらい21でも、三菱重工横浜造船所の跡地と埋め立て地で土地が増えている。

品川地区のJR操車場跡は、興和不動産の佐藤悟一氏が「異常な高値」で落札したと言われたが、現在の地価は興和が落札した時の2倍以上になっているという。


3.オフィスの建て替えと新規開発

オフィスの建て替えや新規開発は丸の内、六本木、汐留、品川、大崎、霞ヶ関など目白押しで、さらに日比谷地区の古いビルが再開発予備軍として控えている。

姉歯元建築士による耐震偽装事件で建築基準法が改正され、昭和56年度までに建てられた旧耐震構造のビルは、建て替えるか耐震改修が義務づけられている。一方、国と地方自治体が13.2%を補助するので、いわばアメとムチによる立て替え促進である。

東京23区のビルの4割以上は旧耐震構造なので、銀座地区などでは立て替えブームが起こっており、立て替えられれば倍以上のオフィス床面積が供給されることになろう。

都心回帰をうまくつかんだ中央区
この都心回帰の流れをうまくつかんだのが中央区だ。中央区の面積は10平方キロメートルと東京23区のなかでは台東区に次いで狭い。

人口も昭和30年(1955年)の17万人から、平成7年(1995年)には6万4千人まで減ったが、「都心居住」のまちづくりで、銀座、日本橋〜築地、月島・勝どき・晴海と3つのゾーニングを設定し、容積率を1100%まで拡大し、平成18年には念願の10万人を超えた。

現在6期めの区長の矢田美英氏は中央区生まれの共同通信社出身で、従来の慣行に捕らわれない自由な発想の持ち主だったことが中央区の画期的な改革を可能としたのだろうと江副さんは語る。

築地市場跡地の再開発も計画されている。


4.大学の持っている土地の有効利用

中央大学は駿河台地区から東京の八王子に移転した。他にも郊外に移転した大学・学部もあるなかで、東洋大学などはむしろ都心回帰してきた。学生の都心指向は強い様だ。

東大の小宮山総長は大胆な東大改革を行おうとしている。

仮に駒場からすべて本郷の農学部や柏キャンパスなどに移転し、駒場のキャンパス10万坪を再開発すると六本木ヒルズ地区の2倍の面積の再開発が行えることになると江副さんは語る。

これによる地価は3,000億円と推定され、毎年200億円程度の収入が得られる可能性があると試算する。

さらに東大は小石川植物園周辺、千葉の検見川運動場、中野の附属中学・高校、田無の実験林なども持っており、資産の有効利用で国からの助成金の減少分を賄うこともできる可能性がある。

旧帝大系はみんな広大な土地を持っており、首都圏の千葉大学、埼玉大学、横浜国立大学なども同様だ。これらの土地を有効利用すると、将来は地価下落の要因になる。


5.生産緑地法の改正による農地の宅地化

首都圏で農地の宅地化が最も進んだ地区は、埼京線の戸田公園から大宮にかけてだ。平成3年(1991年)に改正された生産緑地法により、農家が申請すれば宅地に転用して売却も可能となったので、一挙に農地から宅地への転換が進んだ。

東京都だけでも昭和40年(1965年)には28%だった農地比率が、平成7年(1995年)には10%を切っている。それまで練馬大根や江戸川区の小松菜などを生産していた農地が宅地に転換されたのだ。

農地の固定資産税・都市計画税は(固都税)は宅地の100分の1で、相続税も営農の意思表示さえすれば納税しなくてよかった。このため千葉、東京、埼玉、神奈川の首都圏の市街化区域内農地とされる農地は平成7年の時点で205平方キロもあった。

ところがバブルによる地価高騰対策として、市街化地域内農地に対する宅地並み課税の声が高まり、「宅地化すべき農地」と「生産緑地(保全すべき農地)」とに区分されることになった。

首都圏の205平方キロの内、「宅地化すべき農地」は66%とされ、これが宅地や商業地として供給されたのだ。

バブル時代に大前研一氏が「平成維新の会」をつくり、農地の宅地並み課税により土地供給の増加を訴えていたことを思い出す。これが政策として実現していることがわかる。

また首都圏には工業専用地区が201平方キロあり、これも工場の移転や閉鎖とともに、時間を掛けて宅地や商業地に転換されてくる。

これらの土地供給圧力は膨大なものがある。

江副さんは私見として、バブルの時に導入され、バブル崩壊後凍結されたままの地価税を復活せよと語る。料率は路線価の1000分の3程度であり企業の負担は軽微だろうと。


江副さんの結論:金利の上昇は地価の下落に直結する

次が日本の人口動態調査だ。

人口動態調査







江副さんは、少子高齢化により平成17年度から日本の人口がほとんど増えていないこと、晩婚化・非婚化が進んでいることより不動産の需要は増えず、エリアによる格差が拡大すると予想している。

また住宅ローン金利も近く上昇し、不動産価格は下落すると予想し、これを結論としている。


バブル時代は一世を風靡した江副さんだが、今回はバブル崩壊再来というダメージが日本経済に起こらないために、この本を出版して警鐘を鳴らしている。

首都圏の不動産供給のマクロの動向がわかり、大変参考になる。不動産購入を考えている人に限らず、是非一度手にとって眼を通して頂きたい本である。


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蓮池流韓国語入門 蓮池先生、ちょっと難しいです

蓮池流韓国語入門 (文春新書)蓮池流韓国語入門 (文春新書)
著者:蓮池 薫
販売元:文藝春秋
発売日:2008-10-21
おすすめ度:4.0
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9月に韓国ソウルに家族旅行で行くので、ハングルの勉強を再開した。大学生の息子は第3外国語に韓国語を取っているので、結構読み書きできるようだ。

今回は拉致被害者で、現在は翻訳家、新潟産業大学講師の蓮池薫さんの韓国語入門本を読んでみた。

2008年10月20日発売の新刊書だ。

日本語と韓国語は語順が同じなので、同じ発想で話せるという。蓮池さんは時々自分が韓国語を話しているのか、日本語を話しているのかわからなくなることがあるほどだという。

その他にも共通点が多い。たとえば省略である。日本語では主語や言葉尻を省くことがよくあるが、韓国語も同じだ。日本語の「この、その、あの」も英語や中国語ではthisとthatしかないが、韓国語も3通りある。

儒教の国だけに父母や祖父母に対しては絶対尊敬語がある。他人に対しても身内をへりくだった言い方はしない。

このブログで紹介した蓮池さんの訳書「孤将」の韓国の英雄李舜臣将軍は、日本軍の戦闘の真っ最中に親が死んだという知らせを受けると、戦場を部下に任せ、故郷に帰りかなり長い間喪に服したという。

それと固有語と外来語、特に漢語の一致だ。

次が日本語の固有語と外来語の比率だが、このうち漢語の9割は韓国でも使われている。

日本で作られた「野球」、「午前、午後」、「会社」、「汽車」、「映画」などは中国では使われていないが、韓国では使われている。日中の漢語一致率は7割だが、日韓は9割となっている。

固有語  34%
漢語   49%
外来語   9%
混種語   8%

もっとも北朝鮮では、戦時中の日本のように外来語禁止なので、野球もサッカーも用語はすべて韓国語で言い換えているという。

第一部の基本編「日本語と韓国語はどれだけ似ているのだろう」は上記の様な内容でわかりやすいが、第二部の「実践編」はちょっとハードだ。

正直ハングルが読めないと難しい。

筆者は10年以上前に漫画家の高信太郎さんの「まんがハングル入門」でハングルを覚えて、韓国に出張したときは「ヤク」=薬屋などの店のハングルサインを読んだり、自分の名前をハングルで書いたりして、コミュニケーションに役立てていた。

それから韓国にはずっと行っていないので、筆者のハングルもリフレッシュが必要だが、この高信太郎さんのまんががあれば、1時間程度で思い出せると思う。

超簡単まんがハングル―明日から使える韓国語 (カッパ・ブックス)超簡単まんがハングル―明日から使える韓国語 (カッパ・ブックス)
著者:高 信太郎
販売元:光文社
発売日:2002-02
おすすめ度:4.5
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筆者が読んだ本は次の本だが、これは絶版となっており、上の本が新版だ。

まんが ハングル入門―笑っておぼえる韓国語 (カッパ・ビジネス)まんが ハングル入門―笑っておぼえる韓国語 (カッパ・ビジネス)
著者:高 信太郎
販売元:光文社
発売日:1995-07
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


1446年にハングルを公布したとき、李氏朝鮮第4代国王の世宗は、「これなら2時間で誰でも覚えられる」と喜んだという。

たしかに誰でもハングルを2時間で覚えられると思うので、まずは高信太郎さんのマンガでハングルを覚えて、蓮池さんの本を読むことをおすすめする。



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パリスの審判 ワインの国際化のきっかけとなった1976年の試飲会

パリスの審判 カリフォルニア・ワインVSフランス・ワインパリスの審判 カリフォルニア・ワインVSフランス・ワイン
著者:ジョージ・M・テイバー
販売元:日経BP社
発売日:2007-04-26
おすすめ度:3.0
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カリフォルニアワインがフランスワインに勝った伝説の1976年の試飲会のレポート。

著者のジョージ・テイバー氏はタイム誌の特派員として当時フランスに駐在しており、このブラインド試飲会に立ち会った唯一のジャーナリストとなった。

本のタイトルの「パリスの審判」は1976年のパリのワイン試飲会と、ギリシャ神話でトロイアの王子パリスが、女神コンテストの審判となり、世界一の美女を与えると約束した女神アフロディーテを選んでスパルタの王妃ヘレナを得、それがトロイ戦争につながったという「パリスの審判」にちなんでいる。

読んだ本しか買わない主義の筆者が、久しぶりに買った本だ。

単に伝説の試飲会とそれをとりまく中心人物を詳しくレポートするだけでなく、この試飲会をきっかけに、世界各地でフランスを超えるワインを生産しようという機運が高まり、結果として世界のワインビジネスの拡大につながったことがよくわかる。


French Paradox

1991年にアメリカのCBSテレビの人気番組60ミニッツは"The French Paradox"を取り上げた。

フランス人はフォアグラやチーズ、バターなど高脂肪食をたくさん食べるのに、心臓病はアメリカ人より少ない。その理由は赤ワイン=ポリフェノールの抗酸化作用だというフランスのボルドー大学の科学者の学説を紹介した。

それ以来、アメリカでも日本でも赤ワインブームが起こり、近年は中国や東南アジアなどの新興国のワイン新規需要が加わり、高級ワインの価格は毎年値上がりを続けている。

フランスのシャトーワインなどは年々高くなり、筆者の友人のソムリエの内田さん(NHKの「どんど晴れ」に出演している内田朝陽君のお父さん)はいつもこぼしている。

しかしプレミアム格付けワインの生産はボルドーでもわずか5%であり、実はそれ以外のワインの方が重要なのだ。


フランスのワインビジネス

フランスでは一人当たりのワイン消費量が、1926年の136リットルから最近は50リットル以下に下がっており、ワインを毎日飲む人の比率は1980年の47%から2000年には25%に下がった。

そのためフランスのワインビジネスにとっては、輸出ビジネスが唯一の活路なのである。

ところが世界のワイン輸出に占めるフランスのシェアは1990年の52%から、2003年には39%に落ち込み、他方新大陸のワインのシェアは1990年の4%から、2003年の21%と大幅に上昇した。

オーストラリア一国でも1990年の1.5%から2003年には9%にまで増加した。


ワインビジネスで最も重要な価格帯

ワインの価格帯は最低価格帯、10ドル前後、10〜20ドル、50ドル以上の4つに分かれており、このうち最もワインビジネスで重要なのが10〜20ドルの価格帯である。

この価格帯の顧客は、ワイン需要が急速に拡大している西ヨーロッパ以外の国であり、これらの国の裕福な消費者にブランド認知度が上がると、次は高価なワインも買ってくれるという好循環となってくる。

フランスが世界最大のワイン輸出国であることは変わらないが、チリやオーストラリアの大手生産者はフランスの強力な競合相手となってきた。


世界的なワイン生産の拡大

そこそこの品質のワイン生産は世界の至る所で拡大しており、最近ではインドや中国、モロッコ、ブラジルなどのワインが日本でも出回る様になった。

フランス、イタリア、スペインのワイン生産量は減少し、輸出量もここ10年でフランスは25%も減少する一方、新大陸のアメリカ、オーストラリア、チリなどは軒並み数倍の伸びを示した。

細かい温度管理が可能なステンレスの発酵タンク、特殊弁、フレンチオーク樽など、フランスで生まれた技術、フランスと同じ条件での生産が、世界中で可能となったのだ。

アメリカのワイナリー数は1976年には579で、そのうち330がカリフォルニアだった。これが2004年には全国で3,726にも拡大し、カリフォルニアだけでも1、689となった。

25のワイナリーがカリフォルニアのワイン生産の95%をい占め、ワインは基本的には大企業のビジネスだが、残りの1、664のブティックワイナリーが高級ワイン市場を大手から徐々に奪い取っている。


歴史的試飲会

かつてはフランスワインが世界の高級ワイン市場を牛耳っていたが、フランスの覇権に最初に風穴を開けたのが、1976年のパリのブラインドテイスティングだ。

この本では試飲会が行われた背景や、参加した6銘柄のカリフォルニアワインと4銘柄のフランスワインの歴史や特徴なども詳しく説明してある。

もともとこの試飲会は、パリでワインショップとアカデミー・デュ・ヴァンというワイン学校を始めたイギリス人スティーブン・スパリュアの思いつきで行われたものだ。

アカデミー・デュ・ヴァンは1987年に日本でも開校したワインスクールの老舗だ。筆者の知人の弁護士・桐蔭横浜法科大学院教授の蒲先生も初期の生徒で、川島なおみ、マリ・クリスティーヌと一緒にワインの勉強をしたそうだ。筆者もいつかはワインスクールに行きたいと思っている。

試飲会の審査員は全員フランス人で、ワイン専門誌の編集者、高級ワインを審査するAOC委員会の主席審査員、DRC(ロマネコンティ社)の共同オーナー、シャトー・ジスクールのオーナー、トゥール・ダルジャンのソムリエ、タイユヴァンのオーナー、3つ星レストラングラン・ヴュフールのオーナーシェフ、レストランガイドのゴー・ミヨ紙の販売部長など9名だ。

ワインはテイスティングの直前にカリフォルニアに旅行したスパリュアが持ち帰った24本だった。フランスの白ワインはすべてブルゴーニュ、赤ワインはすべてボルドーだった。

誰もがカリフォルニアワインがフランスワインに勝つことなど予想しておらず、カリフォルニアでも高品質のワインができることを、フランスのワインプロフェッショナルにも知って貰おうという軽い気持ちだった。

ところがブラインドテイスティングという審査法が、白ワインでも赤ワインでもカリフォルニアがフランスに勝つという予想外の結果につながった。

試飲会の様子については、主催者のアカデミー・デュ・ヴァン日本校のサイトにも「世界を変えたワインテイスティング ー パリ対決」として詳しく紹介されているので、このコラムも参照頂きたい。

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白ワインはシャトー・モンテレーナが一位

まず白ワインのテイスティングが行われた。フランスブルゴーニュを代表するモンラッシュ、ムルソーもあったが、1位になったのは、カリフォルニアのシャトー・モンテレーナだった。9人のうち6人が1位に選び、総合でも132点と2位のムルソー・シャルムの126.5点に大差を付けた圧勝だった。3位もカリフォルニアのシャローン・ワインヤードで121点だった。

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写真出典:Wikipedia

このときのシャトー・モンテレーナのワインメーカーがクロアチアからの移民で、現ガーギッチ・ヒルズ・セラーの共同オーナーのマイク・ガーギッチだ。

筆者はガーギッチ・ヒルズ・セラーを訪問したことがある。これが商品カタログだ。

シャトー・モンテレーナで有名になったシャルドネ以外に、フメ・ブラン、カベルネ・ソーヴィニオンをつくっており、カリフォルニアワインとしては比較的高い価格で販売している。

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赤ワインはスタッグスリープワインセラーズが一位

白ワインの審査結果が発表されて審査員全員が衝撃を受け、赤ワインではなんとしてもフランスワインを勝たそうと決心した中で、赤ワインのテイスティングが始まった。

しかし赤ワインでもカリフォルニアのスタッグスリープワインセラーズが127.5点で、ボルドーの1級ムートン・ロートシルトの126点、3位のボルドーでも最古参の15世紀から続くシャトー・オーブリオンの125.5点に僅差で勝利した。

4位は122点のシャトー・モンローズで、1位から4位まではほぼダンゴ状態だ。

それから20点近く差がついて南カリフォルニアのリッジ・ワインヤードだった。

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しかしスタッグスリープを1位に選んだ人は一人だけで、一位投票で最も多かったのはオーブリオンの3人、ついでモンローズの2人だ。

筆者の意見では、赤ワインではカリフォルニアの勝ちとは言えないと思う。

元々誰もカリフォルニアが勝つとは予想もしていなかったので、白はブルゴーニュ、赤はボルドーだけが出品されたが、ブルゴーニュの赤ワインや、シャトー・ラトゥールシャトー・マルゴーが出品されていたら、結果は違ったのではないかと思う。

この結果が出て、フランスでは審査員が叩かれた。

2位となったムートン・ロートシルトのオーナーのフィリップ・ド・ロートシルト男爵は審査員の一人に電話をかけ、「私のワインになんて事をしたんだ。一級昇格に40年もかかったんだぞ」とどなったという。


スタッグスリープワインセラーズ

筆者はスタッグスリープワインセラーズに行ったことがある。これが当時のワイナリーでの価格リストだ。

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ワイナリーに行ってもCask 23はじめ、SLVとかFayとかの違いがわからなかったが、この本を読んで初めて畑ごとのブランドの違いがわかった。Cask 23はいい年のみ1.500ケースだけつくられ、SLVとかFayは畑の名前だ。

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写真出典:Wikipedia


フランスのシャトーワインに勝ったワインということで非常に期待して訪問したのだが、正直特に優れているとは思わなかった。

テイスティングルームはアットホームな感じで、5ドルでいろいろテイスティングでき、テイスティンググラスはおみやげとして持ち帰りできる。少人数のワイナリーツアーもあり、たぶんナパバレーで最もサービスの良いワイナリーだと思う。

種々のワインのテイスティングの他、自分でもSLVを買って日本に持ち帰ってソムリエの内田さんと飲んでみたが、味と香りは今ひとつ印象が薄かった。

尚、似たような名前だが、スタッグスリープ・ワイナリーはなんの関係もないので、要注意だ。


その他のカリフォルニアワイン

余談だが、このとき(2000年)の筆者のナパ・ソノマのワイナリー訪問で、最も気に入ったのがモンダヴィ分家が経営するチャールズ・クリュッグのカベルネ・ソーヴィニオン・リザーブだった。このワインは伝説の試飲会には参加していない。

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訪問したことがあるワイナリーで、伝説の試飲会に参加したのはClos du Valだ。

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Clos du Valはスタッグスリープワインセラーズの並びで、Napa Valleyの北側のSilverado Trail沿いだ。

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ナパ・バレー産ワインビジネスをつくった4人

この本で繰り返し取り上げられているのが次の4人の人たちだ:

多くのワイナリーでワインメーカーとして活躍し、コンサルタントとして多くのワイナリーを技術面で助けたポーランド出身のアンドレ・チェスチェフ。

「ナパ・バレー産ワイン」というビジネスをつくりあげたロバート・モンダヴィ。多くのワイナリーを経済面で支援し、技術者を育成した。

しかしロバート・モンダヴィワイナリーはもはやモンダヴィ家のものではなく、アメリカのワインコングロマリット コンステレーション社が2004年に13.5億ドルで買収した。

コンステレーション社はオーストラリアのハーディズ、アメリカのSimi、フランシスカン、イングルヌック、モンダヴィを保有している。

シカゴ大学講師からワインメーカーとなり、チェスチェフとモンダヴィの協力を得て、スタッグスリープワインセラージを作り上げたワレン・ウィニアルスキー。

31歳でユーゴスラビアから移民してきて、ワインメーカーとしてシャトー・モンテレーナをはじめ、多くのワイナリーで実績を残し、ついに自分のワイナリーをつくってアメリカンドリームを実現したマイク・ガーギッチ。

この本ではワイン製造の様々な過程での工夫や新技術を、これら四人の登場人物が導入したありさまが詳しく描かれており、興味深い。

収穫時期の決定から、選別、破砕、除梗、発酵、上澄み取り、タンク熟成、樽熟成等の様々な段階で、工夫や新技術が使われていることがよくわかる。

スタッグスリープワインセラーズのワレン・ウィニアルスキーが、ぶどうの収穫日をいつにするか悩んでチェスチェフに相談したことなども紹介されている。ぶどうは農産物なんだという原点を気づかせてくれる。


筆者の好きなワインの話題ゆえ、ついあらすじが長くなりすぎてしまうので、このへんでやめておくが、ニュージーランドのマルボロ地区でのソーヴィニヨン・ブラン(辛口白ワイン)が、フランス・ロワール地方のサンセールを超えるワインをつくっているという注目すべき話や、オーストラリア、南アフリカ、ポルトガル、チリ、オレゴン州ウィラメットバレーでのワイン生産のレポートも面白い。

1855年のパリ万博の時のボルドーワインの格付けは、価格だけで決められたとか、雑学にも最適だ。

ワインに興味がある人には、大変楽しめる本だ。是非おすすめする。


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夢をかなえるゾウ 新しい形の自己啓発本

夢をかなえるゾウ夢をかなえるゾウ
著者:水野敬也
販売元:飛鳥新社
発売日:2007-08-11
おすすめ度:4.5
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以前紹介した「ウケる技術」の著者の水野敬也さんの大ベストセラー。

2007年8月の発売だが、筆者が手にした本は2008年11月5日付の39刷だ。今はもっと売れていると思う。

表紙のインドの神ガネーシャのイラストが面白く、ガネーシャがどぎつい大阪弁でしゃべりまくるという荒唐無稽な筋書きながら、自己啓発のために役に立つ内容を含んでいるので良く売れ、テレビドラマにもなった。

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ガネーシャはヒンドゥー教のゾウの姿をした手が4本ある神で、障害を取り除き、富をもたらすと言われている。

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この本では、突然現れたガネーシャが、「僕」のアパートの押入に住みついて、1日1善ならぬ、1日1回「ガネーシャの課題」として教えをたれるというストーリーだ。

教えは全部で29あり、毎日実践するものだが、主なものを紹介すると次のようなものだ。

*靴をみがく

*コンビニでお釣りを募金する

*トイレ掃除をする

*その日頑張れた自分をホメる

*1日何かをやめてみる

*毎朝、全身鏡を見て身なりを整える

*自分が一番得意なことを人に聞く

*自分の苦手なことを人に聞く

*運が良いと口に出して言う

*身近にいる一番大事な人を喜ばせる

*誰か一人のいいところを見つけてホメる

*人の長所を盗む

*人気店に入り、人気の理由を観察する

*やらずに後悔していることを今日から始める

*毎日、感謝する


このように書くとベタに見えるが、ニュートン、ロックフェラー、松下幸之助、本田宗一郎など、多くの偉人の言葉をガネーシャの教えということで、関西弁で語らせていて、わかりやすい。

前作「ウケる技術」同様、筆者には今ひとつ波長が合わない感じだが、この様なくだけたプレゼンテーションもアリかもしれない。

それがよく売れている理由なのだろう。

簡単に読め、そこそこ参考になる。

まずは立ち読みをおすすめする。




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佐藤可士和の超整理術 今治タオル復活の仕掛け人の本

佐藤可士和の超整理術佐藤可士和の超整理術
著者:佐藤 可士和
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2007-09-15
おすすめ度:3.5
クチコミを見る


カリスマアートディレクターの佐藤可士和氏の初めての著書。

先日NHKのテレビで世界最高の吸水性と手触りという品質で差別化する今治タオルのことを取り上げていたが、その今治タオルの復活をプロデュースしたのが佐藤可士和さんだった。

販売開始2周年記念特別価格!ポイント10倍!世界のタオル産地今治からお届けする四国タオル工業組合が認める伝統技術を駆使した極上タオル 四国タオル工業組合オススメ!今治タオル”名水晒し”  しまなみ美人  バスタオル【フェスティバルライフ0608×10】
販売開始2周年記念特別価格!ポイント10倍!世界のタオル産地今治からお届けする四国タオル工業組合が認める伝統技術を駆使した極上タオル 四国タオル工業組合オススメ!今治タオル”名水晒し”  しまなみ美人  バスタオル【フェスティバルライフ0608×10】



佐藤さんは1965年生まれ。博報堂を経て2000年にサムライを設立して独立した。

佐藤さんのサイトがすごい。佐藤さんの作品のほとんどを収録してフラッシュで見られるようにしている。

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整理の効用

この本では、私生活でも仕事でも「整理」することによって、環境が快適になり、効率もあがると力説する。

佐藤さんはアート・ディレクターだが、まるで医者の様にクライアントの問診が重要だと語る。クライアントと綿密にコミュニケーションすることによって答えが見つかる。それを的確に表現するのだと。

アート・ディレクションは自分の作品を作るのではなく、相手の問題を解決するソリューションビジネスなのだと。

だから相手の思いを整理することが大切だ。それにより本質がつかめる。

佐藤さんの出発点は広告は思いのほか注目されないものだと気がついたことだ。

それゆえ商品の本質を捉えて効果的に表現してこそ人の心に残るものができる。大切なのはクリエイターの自己表現ではなく、どう人々に伝えるかだと。

メッセージを人に伝えるのが難しいのは、伝えたいことを整理するのが大変だからだという。なぜアート・ディレクターが整理術を語るのか。整理は価値観を変えるほどの力を秘めているのだと。


整理手順

佐藤さんの整理手順は次の通りだ。

1.状況把握 対象(クライアント)を問診して、現状に関する情報を得る。

2.視点導入 情報に、ある視点を持ち込んで並び替え、問題の本質を突き止める。

3.課題設定 問題解決のために、クリアすべき課題を設定する。

佐藤さんのアート・ディレクション作品が紹介されている。

一つがキリン極ナマだ。

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このすっきりしたデザインには斬新感があり、生ビールの新鮮さを連想させる。


整理術には次の3つのレベルがあるという。

1.空間の整理術
プライオリティをつける。佐藤さんのオフィスはシンプルで、ほとんどモノがないので、訪問者に驚かれるという。

たしかに広告代理店の人のデスクというと、雑然といろいろなものが散らばり、そこらじゅうの壁にはポスターだらけというイメージがあるが、佐藤さんのオフィスは白木を基調にして、デスクもチェアーも非常にシンプルだ。

かばんの中身でも、デスクの机の引き出しでも、取り出して並べてみてプライオリティをつけ、いらないものは捨てるのだと。

整理の敵は「とりあえず取っておこう」だという。「とりあえず」取っておいたものは、実はほとんんど二度と見ないものばかりだ。

基本は捨てる。作品なら最終版だけ取っておき、どうしても捨てられないもの用に2−3日から1週間程度置いておく箱を用意しているのだという。

そして取っておいたものでも、見直し(アップデート)が重要だという、

  
2.情報の整理術
情報、アイデアを整理するには、まず視点を決め、次にあるべき姿=ビジョンを決める。

明治学院大学のロゴを作ったときに、「以前からこのマークだったような気がします」と言われた時はうれしかったという。

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六本木にある国立新美術館のロゴデザインも手がけた。斬新で現代的なロゴである。

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3.思考の整理術 
一番難しいのは思考の整理だという。仮説をぶつけて、フロイトの精神分析の様に、「無意識の意識化」を達成するのだと。

例としてドコモのN702が取り上げられている。「潔い」ケータイをつくりたかったのだと。

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ユニクロの柳井さんとも親しく、ユニクロの仕事も佐藤さんが多く手がけている。特に印象深いのは、ユニクロのTシャツ専門店、原宿のUTだ。


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「Tシャツをペットボトルに入れて販売する」がコンセプトの店だ。実に斬新である。


答えは必ず目の前にあるので、あるべき姿を見つけるひとつの方法が整理なのだと。

さすがベストセラーになるだけのことはある。シンプルな考えだが、実用的だ。簡単に読めるので、是非手にとって見て欲しい本だ。


参考になれば次クリックお願いします。



読んでいない本について堂々と語る方法 書評ってなんだろう?

「本を読む」ということ、「書評」ということはどういうものなのか考えさせられる本である。

シニカルなタイトルの本だが、真理は突いていると思う。この本が説くように「書評」は本を読まなくても書ける。逆説的ではあるが、以下のあらすじで紹介している通り、納得できる点が多い。

「あらすじ」は本を読まないと書けない。

もともと読んだ本の内容を整理して、自分には備忘録、読者には「時短読書」として供しているこのブログである。

「書評」はいくら読んでもその本を読んだ様な気にはならない。これからも「書評」でなく「あらすじ」ブログを続けていこうと思う。そんなことを考えさせられた本である。

読んでいない本について堂々と語る方法読んでいない本について堂々と語る方法
著者:ピエール・バイヤール
販売元:筑摩書房
発売日:2008-11-27
おすすめ度:5.0
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「無税入門」同様気になるタイトルなので読んでみた。

パリ第8大学教授で精神分析家のバイヤール氏の作品だ。フランス本国では2007年1月の発刊、日本では2008年11月25日に発売されたばかりだ。

バイヤール氏はこの本の前に「失敗作をいかに改良するか」という本を2000年に出しており、気になるタイトルの本を続けて世に出している。

本の帯に”欧米で話題沸騰”とか”創造的読書への誘い(いざない)”とか書いてある。

結論から言うと、一見けしからん内容の本にも思えるが、次の3点から案外真実を含んでいる本ではないかと感じた。

1.実際は本を読んでもいないのに読んだような顔をしてコメントしたり書評を書いたりする批評家に対する痛烈なブラックジョーク。

2.”一冊の本を読むのに適した時間は10分である”とオスカー・ワイルドが語った(?)ことを引き合いに出し、本を読んで語るのは自分自身のことだという詭弁の様にも思えるが半面真理を含んだ指摘。

3.本筋とは関係ない部分を引用することにより、その本の印象を全く変えることができることを、漱石の作品からの引用で示している。本の引用とはどういうものなのか考えさせられる。


この本の目次

目次は次の通りだ。

I 未読の諸段階 

1.全然読んだことがない本 
2.ざっと読んだ(流し読みをした)ことがある本
3.人から聞いたことがある本
4.読んだことはあるが忘れてしまった本

II どんな状況でコメントするか

1.大勢の人の前で
2.教師の面前で
3.作家を前にして
4.愛する人の前で

III 心がまえ

1.気後れしない
2.自分の考えを押しつける
3.本をでっち上げる
4.自分自身について語る

それぞれの項目に対して具体例は1件だけの場合が多く、全く説得力がないが、これも筆者が意図してこういう構成をとっているのだと思う。


「愛する人の前で」とはいかにもフランスらしい

どんな状況でコメントするかの場面の一つに「愛する人の前で」というのがあるのが、いかにもフランスらしい。

ちなみにこの「愛する人の前で」という項では、ビル・マーレー主演の映画"Ground Hog Day"(邦題「恋はデジャヴ」)を取り上げている。

恋はデジャ・ブ [DVD]恋はデジャ・ブ [DVD]
出演:アンディ・マクドウェル
販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
発売日:2008-09-24
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Ground Hog Dayとは、ペンシルベニアのパンクスタウニー(Punxsutawney)という町で毎年2月2日にGround Hogというプレーリードッグのような動物が、冬眠から覚めるかどうかで、冬がさらにどれだけ続くのか占うイベントである。

テレビ局の取材で来たビル・マーレーが、毎日2月2日を繰り返す不思議な現象に陥ってしまう物語だが、この中でビル・マーレーが愛する人の前で、読んでいないにもかかわらずその人の愛読書の19世紀のイタリア文学の話で誘惑する場面があるのだ。


「共有図書館」を用いる方法

ムージルの小説「特性のない男2」に登場する目録さえ見れば個別の本を読む必要はないと主張する図書館司書を例に出している。

流し読みは詳細に迷い込まず本質を理解するのに効果的であると主張するポール・ヴァレリーの例を挙げて、書物の位置関係=全体の見晴し=「共有図書館」を把握することが、読んでいない本について語ることの決め手となると語る。

特性のない男 2特性のない男 2
著者:R. ムージル
販売元:松籟社
発売日:1992-12
おすすめ度:4.0
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ヴァレリーはプルーストの本をかろうじて1冊読んだだけだが、そのことは作家を正確に理解したり長々と意見を述べることの妨げにならないと主張する。


スクリーンとしての本

「スクリーンとしての本」とは、わかりにくい言い方だが、本の重要性は本そのものよりも、読んだ人がどういう理解をするかであるとバイヤール氏は語る。本は他人の評価を反映するスクリーンなのであると。

だから流し読みでも、他の本の評価を参考にしても、極端な場合読まずに評価しても、評価は評価だ。

我々が相手にするのは、現実の本でなく、これらの他人の言説や意見なのである。現実の本は遠くに追いやられ、永遠に仮定的なものになるのだと。


本筋とは関係ない部分の引用

1冊の本は何百ページもある。普通は本題と関係のある部分をその本の主題として引用するが、本題とは関係ない部分も特定の意図で引用される場合がある。

例としてなんと漱石の「我輩は猫である」と「草枕」が引用されている。

漱石の「我輩は猫である」からは、美学者迷亭が、ある席で自分が読んでいない本を話題に出して名文だと評したら、同席者がやはり名文だと同調したという話が取り上げられている。

「草枕」からは、山奥の旅館にこもる画家の主人公が旅館の娘に、本を適当に開いて目に入ったところを読むのだと説明している場面が取り上げられている。

青空文庫から「草枕」のその部分を引用すると次の通りだ。

「御勉強ですか」と女が云う。部屋に帰った余は、三脚几(さんきゃくき)に縛(しば)りつけた、書物の一冊を抽(ぬ)いて読んでいた。
「御這入(おはい)りなさい。ちっとも構いません」
 女は遠慮する景色(けしき)もなく、つかつかと這入る。くすんだ半襟(はんえり)の中から、恰好(かっこう)のいい頸(くび)の色が、あざやかに、抽(ぬ)き出ている。女が余の前に坐った時、この頸とこの半襟の対照が第一番に眼についた。
「西洋の本ですか、むずかしい事が書いてあるでしょうね」
「なあに」
「じゃ何が書いてあるんです」
「そうですね。実はわたしにも、よく分らないんです」
「ホホホホ。それで御勉強なの」
「勉強じゃありません。ただ机の上へ、こう開(あ)けて、開いた所をいい加減に読んでるんです」
「それで面白いんですか」
「それが面白いんです」
「なぜ?」
「なぜって、小説なんか、そうして読む方が面白いです」
「よっぽど変っていらっしゃるのね」
「ええ、ちっと変ってます」
「初から読んじゃ、どうして悪るいでしょう」
「初から読まなけりゃならないとすると、しまいまで読まなけりゃならない訳になりましょう」
「妙な理窟(りくつ)だ事。しまいまで読んだっていいじゃありませんか」

このように本題とはあまり関係ない部分でも、引用されたらその本の主題を代表する様に受け止められるという例だ。


読んでいない本について語ることは自分自身について語ること

そして、読んでない本について1.勇気を持って気後れせず、2.自分の考えを押しつけ、3.本をでっち上げ、4.自分自身について語れば良いのだと結論付ける。

書評は誰かが公式解釈をするわけでもないので、本をきちんと読まずに、流し読みだとか、他人の書評を参考にするとかで、勝手に本の内容を創作してして語っても良いのだと。これがバイヤールの言う、自分自身について語ることだ。

この本の翻訳者は、「本が読まないでも語れる」なら、「本は読まないでも翻訳できる」のではないかと考えたとジョークを飛ばしているが、翻訳者もある程度は「自分自身について語る」のだという。

突き詰めて言えば、「読まない方が書ける」のだと。

筆者の大学のときの日本近代法史(?)の石井紫郎教授の試験を思い出す。

1−2回しか石井教授の授業に出席せず、試験だけ受けて、自分の勝手な見解を長々と書いて自分ではよくできたと思っていたが、何のことはない石井教授が半年間掛けて説明していたことに全く触れていなかったので、「可」をくらった。

石井教授も答案を採点していて頭にきていたと思う。筆者の大学時代の唯一の「可」である。全く汗顔の至りである。


冒頭で書いたとおり、書評の危うさをブラックジョークを交えて指摘した本である。フランスでベストセラーになるだけの理由はあると思う。一度手にとってみることをおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。



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