日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)
著者:岩田 規久男
日本経済新聞出版社(2012-06-09)
販売元:Amazon.co.jp

2013年3月末に日銀副総裁に就任した岩田規久男・学習院大学教授の脱デフレ策。

先日紹介した浜田宏一・イェール大学名誉教授の「アメリカは日本経済の復活を知っている」でも、岩田規久男教授は、日銀総裁候補の一人に挙げられていた。

この本では白川・日銀を「デフレの番人」や「物価安定化不合格率67%」などと批判し、リフレ具体策を提案している。


黒田・岩田チームが早速始動

2013年4月4日、黒田東彦日銀総裁と岩田規久男副総裁が就任して初めての金融政策決定会合で、「ツー・バイ・フォー」と言われる、2年間でインフレ率2%をめざし、マネタリーベースは2倍、国債買い入れも2倍にするという「異次元の金融緩和」を発表した。

4月4日と5日で、日経平均は1,000円近く上昇。円相場は4円ほど円安になった。これで2012年11月の「アベノミクス」発表後、日経平均はほぼ5,000円上昇し、ドル・円相場はほぼ20円下落した。(リンクをクリックすると、株価と円相場の相関グラフが表示される)

大胆な金融緩和策が、「インフレ予想」を抱かせ、デフレ脱却に効果があることがはっきり示された。

筆者は大学を卒業して40年近く経済界にいるが、今回ほど経済理論が機能した実例は記憶にない。

大胆な金融緩和→「インフレ予想」形成→円安→企業の収益回復を期待した株価上昇→景気回復の「良いサイクル」が始まったのだ。


2012年バレンタインデーのインフレターゲット実験

この本で岩田教授は、2012年2月14日バレンタインデーの日銀による「インフレ1%目途」発表後、円安が進み、株価も上昇した事実から、対ドル円相場が1円下落すると、株価を225円押し上げる影響があると分析している。

浜田宏一教授が、「アメリカは日本経済の復活を知っている」で、「義理チョコ緩和」と呼んでいる日銀のインフレターゲット実験だ。

アメリカは日本経済の復活を知っているアメリカは日本経済の復活を知っている
著者:浜田 宏一
講談社(2012-12-19)
販売元:Amazon.co.jp

岩田教授は、この「インフレ目途1%」実験が、日銀理論の誤りを実証したと語っている。

ちなみに、「アベノミクス」による昨年11月頃からの円安、株高も、ほぼこれと同じような1円の円安=200〜250円の株価上昇という関係になる。(リンクをクリックすると、株価と円相場の相関グラフが表示される)


「デフレの番人」・日銀のみじめな成績

岩田教授は、総合消費者物価の前年同月比の上昇率が0〜2%の月を「合格」、0%以下の月を「不合格」、2%を超えた月を「引き分け」とする評価基準を持ち込んでいる。

これによると、新日銀法施行以後の14年間の成績は41勝、124敗、3引き分けで、勝率は2割4分だと評価している。

白川総裁の在任中では、13勝、32敗、3引き分けで、勝率は2割7分1厘だ。

筆者自身は、物価の安定という意味では、0%以下を「不合格」とする評価方法には疑問を感じる。

しかし、物価上昇率0%以下が、あまりに長期間続いたからこそ、日本経済が低成長を続けていると考えれば、岩田教授の通信簿は一つの評価かもしれない。その意味では、日銀はインフレ率を0%以下に守ってきた「デフレの番人」であると言えるだろう。


日銀理論ーデフレの責任は日銀にはない?

藻谷浩介氏のベストセラー、「デフレの正体」では、デフレの正体は生産年齢人口の減少、つまり「人口オーナス」だと主張していることは、以前別ブログで紹介した通りだ。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
著者:藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp

日銀の白川総裁も同じ見方を採っており、「日本の経験している緩やかなデフレという現象は、趨勢的な成長力低下という根源的な問題の表れ」と講演で語っている。

これに対して岩田教授は、藻谷氏を門外漢と切り捨て、白川総裁を次のように批判している。

「経済学の本は読んだことがないと宣言している藻谷氏が、実質値(相対価格)と名目値(物価)の区別がつかないのは、いたし方ない」。

「しかし、貨幣を扱い、「物価の安定」を仕事とする日銀の総裁ともあろう人が、実質値と名目値の区別がつかないことは、看過できない問題である」。

日本以外で人口が減少している国は中欧諸国(ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、クロアチアなど)や、旧ソ連諸国(ウクライナ、グルジア、ラトビア、リトアニア、エストニアなど)がある。

岩田教授はこれらをリストアップして、日本以外ではすべてインフレになっていることを表で示している。

さらに、生産年齢人口が減少している先進4カ国との比較表を示し、国際比較のない「デフレ原因説」を信じてはいけない、と岩田教授は警告する。

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出典:本書86ページ

日銀は金融政策は「インフレ予想」の形成に働きかけることができることを理解していないのだと。


岩田教授の提案

岩田教授は、この本で日銀にインフレ目標の達成を義務付けるために、日銀法を改正して、政府が物価安定目標を決定し、日銀にその目標を中期的に(1.5〜2年程度)達成することを義務づけることを提案している(達成手段の選択は日銀に任せる)。

日銀法改正までは、まだ道筋がついていないが、このまま「アベノミクス」で景気が順調に回復し、2013年夏の参議院選挙で自民党が過半数を抑えることになれば、日銀法改正も視野に入ってくるだろう。


リフレ政策はなぜ景気回復に寄与するのか?

岩田教授は、リフレ政策は次のような展開で日本の景気回復に貢献すると説明している。

日本の予想インフレ率が上昇する

円安・ドル高になる

輸出が増え・輸入が減る

輸出企業中心に株価が上がる

株式含み益が増大し、バランスシートが改善する

企業の設備投資が拡大する

株高で個人の資産価値が増え、積極的に消費を拡大させる

景気が拡大する

2013年4月5日に、財務省関連の(一財)金融財政事情研究会が主催した「月間『消費者信用』創刊30周年記念シンポジウム」で、パネリストの一人が言っていたことを思い出す。

最近、若い年代を対象に行ったアンケートでは、「給料が上がる」と答えた人の数が、「給料が下がる」と答えた人の倍だったという。これは、長い期間なかったことだ。

「アベノミクス」、そして2014年度から実施される消費税アップが、人びとの心理に影響しているのだ。

筆者の友人から聞いた話では、株価が上がったので、個人の保有資産の評価額が上がり、ゴルフ会員権の買い希望が増え、売り物が払底しているという。また、REIT=不動産証券相場は急上昇している(リンクをクリックすると、REIT相場グラフが表示される)。

リフレ政策で、日本経済がデフレから脱却し、再びそこそこの経済成長を続けることができれば、自民党の支持基盤は盤石のものとなるだろう。

民主党に政権運営を任せて、大変な失望を味わった4年間は、自民党の臥薪嘗胆につながった。その結果、日銀の刷新と日本経済の活性化が生まれつつある。

4年間はいかにも長すぎたかもしれないが、民主党への政権交代は、日本国民にとっても、自民党にとっても無駄ではなかった(?)と言える日が来るかもしれない。

最後に、なぜリフレ政策が、インフレとなるのかを明確に示しているデータを紹介しておく。

次が浜田宏一教授や岩田教授などが、よく使っている、米国や英国の中央銀行がリーマンショックから立ち直るために、マネタリー・ベースを大幅に拡大したのに対し、日銀が「金融政策の問題ではない」、と何もしなかったことを示しているグラフだ。

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期間は異なるが、次の表は歴代の大統領の在任期間中の米国の財政赤字額と、財政赤字がGDPに占める割合の推移表だ。

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出典:住商総研「Business EYE」2013年春号 7ページ

FRBの大胆な金融緩和とは、大規模かつ急激な米国政府の歳入赤字の増大に他ならない。

今度の黒田日銀の大胆な金融緩和で、マネタリー・ベースを倍増させるということは、単純に言うと日銀が追加で140兆円のお金を発行するということだ。この140兆円のほとんどは、政府の「通貨発行益」=シニョレッジ(Seigniorage)となる。

政府がどんどんお金を発行すれば、通貨の価値が下がり、当然インフレとなる。インフレと消費税アップ、そして給料アップで、モノみな上がるとなれば、国民は当然早めにマンションなどの不動産を購入したり、高額商品の購入に走るだろう。

それが結果として日本の景気回復と、成長率アップをもたらす。日本経済の規模が大きくなれば、膨れ上がった国債発行残高も返済可能なレンジになっていく。

このブログで紹介した2008年の榊原英資さんの本の様に、「強い円は日本の国益」とか言っている場合ではないのだ。

強い円は日本の国益強い円は日本の国益
著者:榊原 英資
東洋経済新報社(2008-09-04)
販売元:Amazon.co.jp


米国のようになりふり構わず、強い経済を取り戻す。それが日本が再び活性化する唯一の道だと思う。その意味で、筆者は今回のリフレ政策に賛成だ。

アメリカのニューヨーク・ダウ平均株価は、過去最高を更新している。日本の株価も、何年かかってもよいので、1989年大納会(12月29日)の日経平均38、915円を更新して欲しいものである。


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