巨魁巨魁
著者:清武 英利
ワック(2012-03-16)
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読売新聞主筆兼巨人軍会長として86歳になった今も君臨するナベツネに対して、現場のコーチ人事に口をだすのは「コンプライアンス違反」と突然批判を始め、当然の帰結として2011年11月に巨人軍をクビになった元巨人軍GM清武英利さんの本。ちなみにウィキペディアには清武さんのナベツネ告発というコラムがつくられている

この本を読み終えても「なんで?」という疑問は解消されていない。ナベツネを告発する内容は第8章(最後の独裁者)に集中しており、この本の大半は巨人軍の運営に関するもので、告発本というよりは、球団経営の実情紹介本のような内容だ。

第8章(最後の独裁者)でも、ナベツネの様々な言動や行動が取り上げられているが、ナベツネが悪者であるという決定的な証拠はない。すべてナベツネならありうるだろうなぁ、という想定の範囲内である。

この本を読んで読売新聞社内には歴史的に、ナベツネを筆頭とする政治部と、清武さんが所属していた”正義派”の社会部の社内対立があることを初めて知った。そのあたりが根本原因なのかもしれない。

清武さんは1950年生まれ、立命館大学を卒業後、読売新聞に入社し、社会部の記者として警視庁や国税庁を担当する。中部支社社会部長のあと、編集委員、運動部長を経て、2004年から巨人軍の編成部長に転出し、球団代表、GM・編成部長、オーナー代行などになった後、ナベツネ批判をして解任される。



YouTubeには上記ニュース以外に、清武さんの記者会見の発表全部が6編に分かれて収録されているので、興味がある人は見てほしい。



「コンプライアンス」問題ではない

筆者もそうだが、たぶん多くの人が、「なんで?」と思ったと思う。ナベツネがコーチ人事など巨人軍の運営に介入することなど、いわば日常茶飯事だと思っていたし、別にコンプライアンス違反でもなんでもないと思う。

告発した理由もすでにヘッドコーチに昇格が決まっていた岡崎コーチの代わりに、巨人軍OBの江川氏をヘッドコーチ兼助監督としてナベツネが押し込んできたというもので、たしかに現場の人事に介入するものではあるが、ナベツネは巨人軍取締役会長でもあるので、経営トップが口を出すことは、ままあることだ。

「上司は思いつきでものをいう」という本もあるくらい、上司は思いつきでものを言うものだし、現場はそのことがわかっているので、それなりに根回ししたり、事前に了解を取っておくことは当たり前のビジネス慣行だ。

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清武さんが問題としている「鶴の一声」は、強いて言えば巨人軍会長のナベツネが、巨人軍の経営陣を無視しているというガバナンスの問題ではあるが、別にコンプライアンスやモラルに反しているとかいう問題ではない。「コンプライアンス違反」というのは、新聞記者にはあってはならない言葉の誤用だと思う。

清武さんは元新聞記者なので、文章もうまく、読み物としては面白い。詳しく紹介すると読んだときに興ざめなので、印象に残った部分を箇条書きで紹介しておく。


歴史的な読売新聞社内の社会部と政治部の対立

★社会部記者は政治部記者を記者として認めていなかった。
本田靖春は、著書「我、拗ね者として生涯を閉ず」のなかで、”赤坂の高級料亭で有力政治家にタダ酒を振る舞われ、政局に際しては、その政治家の意向に沿った原稿を書く。取材先でコーヒーの一杯も頂戴しないようにおのれを律している私たちからすると、彼らは新聞記者ではない。権力者の走狗である。”と言っているという。

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著者:本田 靖春
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★清武さんが読売新聞社に入社した1975年に「読売政変」があった。
従来硬派3部(政治部、経済部、国際部)に対して、「社会部帝国」ということで、軟派社会部が圧倒的な力を持った時代があったが、1975年の人事異動で社会部出身の実力者が巨人軍代表に更迭され、務台社長の信頼を得たナベツネが編集部次長兼政治部長に昇格し、軟派と硬派の権力構造は逆転してしまったという。

ちなみにナベツネは、”俺は若いころ長谷川にいじめられた。内職して本を書いたこともある。何年も我慢したんだ。氏家も読売から追放され、ルンペンを何年もやった。それを面倒見たんだ。”と言っていたという。

やはり今回の事件の背景には読売新聞社内の社会部と政治部の対立・不仲があるように思える。


ナベツネの本領発揮

★清武さんの依頼でナベツネが橋本龍太郎に、キューバ選手獲得の骨折りを頼む電話の話が面白い。それまで渋々という感じだったのが、電話になると「渡邊ですが、先生にキューバの件でお願いしたいことがありまして」と丁寧な口調で話し始めたという。ナベツネの本領発揮という感じだ。


ナベツネあれこれ

★近鉄とオリックスの球団合併の時に、新規参入した楽天三木谷さんについてナベツネは知らなかったので、説明を受けて「孫正義の小型版か」と言ったという。当時75歳くらいだったナベツネが知らないのもやむを得ないだろう。

★巨人軍のBOS(Baseball Operating System)についてナベツネが興味を持っているという話があり、パソコンを持ち込んでナベツネに説明したら、怒り出したという。ナベツネがBOSに興味を持っているという話は、取り巻きの勝手な憶測だったという。

★ナベツネは「大震災こそ読売のチャンスだ」と言っていたという。関東大震災のときは、読売新聞は被災し、発行部数も11万部から5万部まで落ち、そのうち2万部は代金未回収で、やむなく当時の警視庁刑務部長だった正力松太郎に読売新聞社を10万円で売却したという歴史がある。

★復興支援の巨人軍激励会で、「復興祈念だから記念撮影、サインは遠慮してほしい」とのアナウンスが流れると、ナベツネが激高して、「なんでダメなんだ。こんなこと誰が決めたんだ。あとで懲罰だ!」と怒鳴ったという。

★カラーバス効果で日本酒の銘柄は気になる。ナベツネの好きな酒は「立山」だという。

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その他の情報

★古田の後の選手会会長の宮本は、酒が飲めないのに何時間でもつきあってくれ、個人的なことまで打ち明けてくれたという。割り勘負けしているのに、「いや、いいんですよ。これも仕事です」と言っていたという。

★ライブドアのホリエモンは、Tシャツ姿で現れ、オーナーたちを挑発し、時には元水着キャンペーンガールの恋人と登場する厚顔ぶりも反発を買っていたという。


巨人版マネーボール

★巨人軍は提携先のヤンキースからBOS(Baseball Operating System)の研修を受け、2010年に自分のBOSを作り上げた。日本ハムも2005年に1億円を投じてBOSを導入したという。RC27という27回アウトになるまでに得点をどれだけあげられるかを見る指標では、巨人では小笠原、谷、阿部慎之助、ラミレスという順番だった。

別ブログでも紹介した「マネーボール」に”高校生ドラフトに大金をかけるのは、確率を無視し、理性をないがしろにしている”と書いてあるが、巨人軍でも同じ結果が出たという。

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活躍する確率は、高校生<大学生<社会人とはっきり結果が出ている。

★かつてスカウト部長をつとめた人に「巨人軍は伝統的に小さい選手はとりません」と言われたことがあるという。スカウトはどうしても体格にまず目が行くが、清武さんは、体格にめぐまれていなくても、”B群”として獲得していったという。

★BOSで比較してみると2010年ドラフトの澤村と斎藤佑樹との差は歴然。斎藤より高校生の宮国のほうが数値は高かった。しかし原監督は大石がいいと、異議を訴えてきて一波乱あったという。

★選手が「何かを持っている」というのは英語では"The way carry by himself"というのだと巨人の在米スカウトのミンチーが教えてくれたという。巨人の東北地区担当のスカウトが、無名の坂本を八戸のグラウンドで見つけた時も、そんな雰囲気を感じたという。

「コンプライアンス違反」と清武さんが呼んだナベツネ語録

この内容は2012年1月号の文芸春秋にも載っているが、真偽のほどはわからない。いずれにせよ江川さんはひどいとばっちりだ。「悪名」などと言われ、イメージダウンで大迷惑だろう。

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”巨人は弱いだけでなく、スターがいない。江川なら集客できる。江川は悪名だが、無名よりはいい。悪名は無名に勝るというじゃないか。彼をヘッドコーチにすれば、次は江川が監督だと江川もファンも期待するだろう。しかし、監督にはしないんだ。

江川の庇護者は氏家だった。だが江川は監督にはしない。天と地がひっくりかえって人格者になれば別だがな。”

”原監督は采配ミスは一つもないと言い張るが、実際は交代をことごとく間違えた。采配で負けた試合はたくさんある。原をコントロールできる江川を置いておくほうがいいんだ”

”江川は99.9%受ける。日テレから1億円もらっていたのが、4900万円くらいになるから、こっちが1億円出せば、ウチに来たほうが多くもらえると考えるだろう。原を江川でコントロールするよ”

清武さんは新聞記者出身なので、文章がうまく面白い読み物である。しかし冒頭に記したように内容は球団経営の実情紹介本で、ナベツベ批判はごく一部だ。読んでも「なんで?」という疑問が依然として残る本である。


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