時短読書のすすめ

「あたまにスッと入るあらすじ」作者が厳選するあらすじ特選。その本を読んだことがある人は記憶のリフレッシュのため、読んだことがない人は、このあらすじを読んでからその本を読んで、「時短読書」で効率的に自己啓発してほしい。

国家の罠 外務省のラスプーチン佐藤優さんの勾留手記 文句なく面白い!

時短読書ブログの第7弾は、いまやベストセラー作家となった外務省のラスプーチン、佐藤優さんの出世作、「国家の罠」だ。

文才もあるし、内容も面白い。「インテリジェンス」という分野に一躍光が当たるようになった功労者でもある。

文庫でも発売されているので、是非一読をおすすめする。

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)
著者:佐藤 優
販売元:新潮社
発売日:2007-10
おすすめ度:5.0
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筆者は朝日新聞を購読しているが、先日おやっと思ったことがある。

外務省のラスプーチンと呼ばれ、背任罪偽計業務妨害罪で現在公判中の佐藤優(まさる)元外務省分析官が、1月14日と21日の朝日新聞読書欄の「たいせつな本」というコラムに2週続けて書いているのだ。

それも最初が、日本の代表的なマルクス経済学者宇野弘蔵の「経済原論」、次の週が弁証法で有名なヘーゲルの「歴史哲学講義」の紹介だった。


歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)
著者:ヘーゲル
販売元:岩波書店
発売日:1994-06
おすすめ度:4.5
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いずれも難解な本だが、「経済原論」には「2人のカール結んだ純粋資本主義の視座」、ヘーゲルの「歴史哲学講義」には「独房で染みた名翻訳 理性がもたらす癒し」という副題がつけられており、佐藤優氏がただものではないことを感じさせる。

ちなみに二人のカールとは、一人はカール・マルクス、もう一人はカール・バルトという「教会教義学」という神学の本の著者だ。佐藤優氏は同志社大学神学部大学院卒の異色の外交官である。

今まで頭をガーンとやられる様なカリスマ性を感じたのは、安部譲二と角川春樹だと以前書いたが、佐藤優氏には同様のカリスマ性を感じる。この本はいくつかのノンフィクション文学賞の候補になった他、毎日出版文化賞特別賞を受賞している。選者も同様の印象を持ったのだと思う。

佐藤優氏というと、鈴木宗男議員と組んで、対ロシア外交でやりたい放題の役人という悪いイメージを持っていたので、あまり著書を読む気にならなかったのだが、この朝日新聞のコラムを読んで興味を持った。

その佐藤優氏が外務省の内情、巣鴨の東京拘置所での検察とのやりとりをありのままに書いた手記が、この「国家の罠」だ。


構成や序章が読者を引きつける

この本の全体の構成は次の通りだ。はじめに田中眞紀子・鈴木宗男の政争を持ってきて、いやでも読者の興味を引く。

序章 「わが家」にて
第1章 逮捕前夜
第2章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
第3章 作られた疑惑
第4章 「国策捜査」開始
第5章 「時代のけじめ」ととしての「国策捜査」
第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ

序章「わが家にて」は「拘置所グルメ案内」という文で始まる。

東京拘置所での職員との日常会話、独房の設備(冷暖房なし)、その日の食事内容(午後5時に「配盒:はいご〜お」と叫ばれ、懲役囚が麦飯、青椒牛肉絲(ピーマンの牛肉炒め)、野菜と小エビの中華スープに高菜を配る)などが紹介されている。

「くさい飯」は実はおいしかったと。軽妙である。

拘置所の生活から、モスクワ駐在時代のクーデター未遂事件やロシア政府要人との親交、「劇場」と呼ぶ法廷の状況などを簡潔に記して、9時の消灯のチャイムで今晩もなかなか寝付けそうにないという独白で序章は終わる。

読者を引きつける絶妙の序章である。

ちなみに佐藤優氏は正月も拘置所で過ごしたが、正月は紅白まんじゅうとおせち料理の重箱が配られ、元日の夕食はビーフステーキ、たらこスパゲッティ、クリームシチュー、カフェオレだったと。


外務省の情報分析活動

いままで各官庁にはいくつもの暴露本があり、厚生労働省では、元神戸検疫所検疫課長で懲戒免職となった故・宮本政於(まさお)さんの「お役所の掟」が有名だ。

お役所の掟―ぶっとび霞が関事情 (講談社プラスアルファ文庫)お役所の掟―ぶっとび霞が関事情 (講談社プラスアルファ文庫)
著者:宮本 政於
販売元:講談社
発売日:1997-06
おすすめ度:4.0
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外務省ではイラク戦争時に小泉政権を批判して、実質免職となった外務省の天木直人元大使の「さらば外務省」が有名だが、この本は、そういった暴露本とは全く異なる内容だ。

さらば外務省!――私は小泉首相と売国官僚を許さない (+α文庫)さらば外務省!――私は小泉首相と売国官僚を許さない (+α文庫)
著者:天木 直人
販売元:講談社
発売日:2006-03-21
おすすめ度:4.0
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この本で、外務省に国際情報局分析第一課という情報分析を専門に行うチームがあることを初めて知った。

情報機関としてはアメリカのCIA、イギリスのMI6が有名だが、日本にはそれに似た機関はない。

(ちなみにCIAMI6もホームページがある)

外務省の情報分析専門チームと言っても、別にスパイを抱えている訳でもなく秘密組織ではないが、日本政府の外交政策を実現するために、情報収集と外国での人脈づくり、信頼関係をつくるといった活動をする専門の部署だ。


日ロ平和条約締結/北方領土返還の悲願

この本で参考図書として「北方領土問題」という和田春樹東大名誉教授の本が紹介されている。

こちらの本も読んだので、詳しくは別途紹介することとして、ここは戦後の動きのみを紹介する。

1945年8月にソ連は日ソ中立条約を破って、満州・南樺太・千島列島に侵攻してきた。8月15日の日本の無条件降伏後もソ連は攻撃をやめず、千島列島では日本の守備隊の猛反撃にあい、9月まで戦闘が続いた。

1956年の日ソ共同宣言で、戦争状態は正式に終結し、北方四島については、歯舞島、色丹島の二島が平和条約締結後に返還されることで合意したが、1960年にソ連は日本からの外国軍隊の全面撤退という条件を付け、宣言を一方的に反故にしてしまった。

長く日ソ関係は進展がなく、特に1973年に田中角栄・ブレジネフ会談が決裂してからは、日ソ関係は冷え込み、その後18年間首脳会談は実現しなかった。

ソ連邦崩壊、ロシア誕生とともに、関係改善が見られ、1993年に細川首相とエリツィン大統領が東京宣言に署名し、20世紀の問題は20世紀中に解決しようと、北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結することを公約した。

1997年に当時の橋本龍太郎首相が、日ロ関係を信頼、相互利益、長期的な視点の三原則によって飛躍的に改善すべきであると発表し、クラスノヤルスクでエリツィン大統領と2000年までに平和条約を締結して、北方領土問題を解決することでロシア側と合意した。

橋本首相の後の小渕首相、その後の森首相も積極的にロシアに働きかけ、エリツィン大統領、その後を次いだプーチン大統領と平和条約締結を目指して交渉したが、結局2000年末までには平和条約は締結されなかった。


外務省のスクールとマフィア

外務省には学閥は存在しない。その代わりに、研修語別の派閥が存在すると。それらは「アメリカスクール」、「チャイナスクール」、「ジャーマンスクール」、「ロシアスクール」などに大別される。

さらに外務省に入ってからの業務により、法律畑は「条約局マフィア」、経済協力は「経協マフィア」、会計は「会計マフィア」という派閥が存在する。

日本の対ロ政策は欧州局長の指揮下、ロシア課長が具体的戦略を策定するが、たまたまロシアスクールでない人が要職につくと、実質的な意志決定はロシアスクールの親分格の人々によってなされることになる。

つまり日本の対ロ政策はロシアスクールが握っているのだ。前述の橋本首相の3原則もロシアスクールが原案をつくったものである。

そのロシアスクールの内紛が、田中眞紀子外相の時の、駐英公使として転出していた元ロシア課長小寺次郎氏の、ロシア課長復帰呼び戻し事件だ。

外務省から経世会の影響力をなくすことを目的とする田中眞紀子が外相に就任したことで、外務省の派閥抗争が顕在化し、このような機能不全を起こした。

そのため外務省は原因となった田中眞紀子女史を放逐するために、鈴木宗男氏の政治力を利用し、田中眞紀子女史が放逐された後は、用済みとなった鈴木宗男氏と佐藤優氏を整理したのだと。


田中眞紀子氏の奇行

田中眞紀子氏は外相に就任早々人事凍結令を発した。

また本来外相の右腕、左腕である事務次官、官房長を大臣室出入り禁止にするという信じられない暴挙にでて、あげくのはてには「外務官僚に恫喝された」とか、「外務省は伏魔殿」と言い出す始末だった。

就任直後も表敬訪問してきた米国国務副長官で大の親日派アーミテージ氏との面談をドタキャンした。

そのとき「婆さん」(外務省ではこう呼んでいたという)は、就任祝いの礼状を書いていたという。

アーミテージ氏といえば、がっちりした体格で、ベンチプレス200KG近くを挙げるという話だが、元特殊部隊員で、ベトナム戦争集結時には民間人も含め数千人を救出したという、ランボーのモデルとも言われるベトナム戦争の英雄だ。

今もベトナム難民孤児など10名を養子として育てているという話を、最近アーミテージ氏に会った筆者の知人から聞いた。

日本の政界官界に友人が多く、筆者の友人も、某官庁の首脳だった父親の葬儀後訪ねてきて、一緒に会食したそうだ。日本の政界官界と親密な関係のある人物だ。

その親日家アーミテージ氏が米国政府での事務系キャリアのトップに上り詰めた国務副長官の時代に、会談をドタキャンするとは外務大臣としてはあるまじき行為と言わざるを得ない。

田中眞紀子外相は、9.11の時に極秘中の極秘の国務省の緊急連絡先を記者団に漏らしたりして、さらに失点を重ねた。

外務官僚が動かないので、最後には外務省人事課長室に籠城し、斉木人事課長の更迭を試みるという奇行を行った。

佐藤氏は田中眞紀子氏のことを人の心を動かす天才と呼び、トリックスター(騒動師)と呼ぶ。小泉政権誕生の母、大衆政治のポピュリストであるが、政治家として組織を動かせる人物ではない。

余談だが、佐藤氏はある外務省幹部のコメントとして、日本人の実質識字率は5%だという話を紹介している。

「新聞は婆さんの危うさについてきちんと書いているんだけれど、日本人の実質識字率は5%だから、新聞は影響力を持たない。ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で物事は動いていく」と。

5%かどうかはともかく、おおむね真実だから恐ろしい。田中眞紀子女史が都知事などになったら、都庁の混乱は田中知事の長野県政どころではないだろう。組織の長になって欲しくない人の筆頭である。


国策捜査

佐藤氏を取り調べた検事は、これは鈴木宗男をねらった「国策捜査」で、組織相手に勝てると思うなと語ったという。

東郷元欧亜局長、佐藤分析官、前島係長がターゲットにされたが、外務省は外交のサラブレッド東郷和彦元欧亜局長は必死で守り、佐藤氏、前島氏と三井物産の社員2名が起訴された。

特捜の常識では、官僚、商社員、大企業社員のようないわゆるエリートは徹底的に怒鳴りあげ、プライドを傷つけると検察の自動供述調書製造器になるという。

取り調べは土日もあり、弁護士が接見できない土日に徹底的に攻勢を掛ける場合もある。だんだん検察官が味方に見えて、弁護士が敵に見えてくるようになるのだと。

佐藤氏と同時に起訴された前島元係長は、東大卒のキャリア官僚だが、彼は検察官の自動供述調書製造器になったという。

佐藤氏は、国益に対する影響を最小限にすることと、情報源を守ることなどを検察官に要請したが、外務省自体が情報源をそのまま検察に出してしまったことで、外務省は佐藤氏も情報源も守らないことに、佐藤氏はショックを受けたという。

情報の世界では時効がなく、もし情報源が明かされることになると、佐藤氏は一生追放されるのだと。

また外交文書は2030年に公開されるので、そのときに真実が明らかになるのを佐藤氏は待つのだと言う。


時代のけじめ

今回の佐藤氏、鈴木宗男議員の起訴を、検察官は「時代のけじめ」をつけるためと語ったという。

検察は一般国民の目で判断し、行き過ぎを追求すると。

時代のけじめとは、過去には大蔵省が過剰接待で摘発され、それをきっかけに財務と金融の分離がなされ、大蔵省の財務省と金融庁への再編が起こった。

国策捜査とはそういう時代のけじめをつけるものだという。

鈴木宗男議員は経済的に弱い地域の声をくみ上げ、クマが通ると揶揄される高速道路などを北海道に建設、地元の利益誘導の象徴だった。外交についてもクナシリ島の通称ムネオハウス建設など、行き過ぎがマスコミにたたかれた。

小泉政権と森政権は同じ森派(清和会=旧福田派)だが、基本政策は大きな断絶があると。

内政では競争原理を強化して日本経済を活性化すること、外交では日本人の国家意識、民族意識の強化だと佐藤氏は分析する。

そのパラダイムシフトのための時代のけじめ=鈴木宗男逮捕だったのだ。


日本の国益を真剣に考える人たち

以下は筆者の感想です。

筆者は商社に永年勤め、合計11年におよぶ海外駐在の時など、公私のつきあいのなかで、日本文化の紹介や日本に対する理解向上とかいったレベルでは努力はしたが、思えば日本の国益というものは真剣に考えたことがなかった。

この本を読んで感じるのは、日本の国益を真剣に考える人たちがいるのだという点だ。

日本政府や外務省という職責から当たり前の話ではあるが、橋本内閣以降、小渕内閣、森内閣も日ロ関係改善を政策として打ち出し、様々な情報工作と、経済協力などのカードを使って目標である2000年までの平和条約締結に真剣に努力していたことを改めて認識した。

佐藤氏が起訴されているイスラエルとの学者交流や、クナシリ島へのディーゼル発電機供与も、この政策実現のため、国益のための活動であったことは間違いない。

一般的にはロシア政策でなぜイスラエルなのだと思われがちだろうが、イスラエルにはポーランド・ロシアなど共産圏からのユダヤ人帰国者(アシュケナージと呼ばれる)が多く、ロシア研究は世界でもトップクラスだ。

2000年が過ぎ、平和条約締結への道のりもはっきりしないまま小泉政権となり、近隣外交の話題は北方領土から人気取りスタンドプレイの北朝鮮の拉致問題、靖国問題に変わった。

森首相までの歴代内閣の、日本の国益のために日ロ平和条約を締結しようという意気込みは、大きくトーンダウンしたことは否めない。

2月7日は北方領土の日だが、なにかイベントが開催されたのかどうかも報道されない始末だ。

もともと北方領土問題は、国民の関心がどちらかというと薄く、解決の糸口もつかめていない。

その意味で、小泉ポピュリスト政権では、拉致被害者の帰国という国民の支持を高める効果が確実に見込まれる拉致問題にシフトしていき、北方領土問題は置き去りにされたまま塩漬けとなっている現状だ。

外交とは相手のあることで、佐藤氏が加わっていた外務省のロシアスクールの工作と活動は意義あることとして理解ができる。

それを一過性のものとして終わらせると、結局なにも残らないことになる。

大前研一氏などは、国境の決定に長い時間を費やすよりも、道州制の発展形としてロシアの沿海州も巻き込んだ経済圏として発展させるべきだと提案している。

もともと千島列島やサハリンは、日本政府が国境線設定の根拠としている1855年の日露通好条約以前はアイヌ、ロシア人、日本人が混住していた地域である。

サハリンには天然ガス資源もある。先の見えない昔ながらの国境線設定交渉にこれ以上時間を費やすべきでなく、大前さんの提言の様な大きな枠組みで、日ロ両国の本当の国益を追求すべきではないだろうか?

そんなことも考えさせられた。いろいろ参考になることが多く、内容の濃い本である。

約400ページの本だが、面白く読める。是非一読をおすすめする。



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カリスマはいらない ベンチャーの『アニキ』 USEN宇野社長の挑戦

USEN宇野康秀の挑戦!カリスマはいらない。USEN宇野康秀の挑戦!カリスマはいらない。
著者:和田 勉
販売元:日経BP社
発売日:2006-04-20
おすすめ度:3.5
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「時短読書」ブログ第4弾は、第3弾のサイバーエージェント藤田晋社長のメンターとも言えるUSEN宇野社長の本だ。

大阪有線の社長の息子に生まれながら、リクルートコスモスに就職して1年で退社して仲間とインテリジェンスを創業。店頭公開を遂げたが、父親の病気で大阪有線の社長となる。USENと社名を変えてメディア界の有力企業に生まれ変わらせた。

2006年4月の発売の本だが、「ベンチャーのアニキ」として活躍している宇野さんの考え方がわかるので紹介する。


フジテレビの持つライブドア株を約90億円で個人購入し、一躍ライブドア再建の救世主として世間の注目を集めたUSENの宇野康秀社長の履歴と戦略。

宇野康秀さんは、まさにベンチャーの『アニキ』と言える存在だ。

このブログではサイバーエージェントの藤田晋社長の『渋谷ではたらく社長の告白』とか、テイクアンドギブニーズの野尻佳孝社長の『史上最短で、東証2部に上場する方法』、フルキャストの平野岳史社長の『満点の星』、インデックスの落合正美会長の『当てるコンテンツ外すコンテンツ』など、ベンチャー経営者自身が語るリアルストーリーを書いた本を紹介してきた。

この本は宇野さん本人への取材を通して、和田勉さんというジャーナリストが書いた本だ。

宇野さんは昨年溜池山王ではたらく社長のblogという社長ブログを書いており、筆者は注目してよくブログチェックしていたのだが、年末頃から更新が止まってしまったのが残念だ。

この本の印象に残ったところを紹介しよう。


USENの戦略事業GyaO

USENの無料ブロードバンド放送局GyaOは2005年4月に開局し、スタートしてから1年で視聴登録者は1,000万人目前の950万人まで急成長した。

やることを決めたのが、2005年の正月、それから3ヶ月、ほとんど土日も休みなくUSENの役員・社員が働き、4月25日にサービスインさせた。

宇野さんの統率力と、後述する様に『子供のサッカー』とも呼ばれるUSENの社員一丸となった機動力を物語る、すごい話である。

いままでインターネットのビデオ配信サービスは、USENと宇野社長の盟友楽天の三木谷社長が一緒にはじめたショウタイムなどの、会員制有料サービスはあったが、完全無料ブロードバンド配信サービスはGyaOが初めてである。

ちなみに『GyaO』とはアイスランドにある大地の裂け目のことで、北米プレートとユーラシアプレートの境目が地上で見られる場所のことだと。インターネット通信とテレビ放送がぶつかったところに、GyaOは存在しているのだと。


「なんでもないけど、いいアイデア」

これが宇野さんが、舎弟ともいえるサイバーの藤田晋社長に相談した時の、GyaO事業についての藤田さんの答えだ。

「誰でも思いつくアイデアだが、宇野さんが本気でやるなら面白いと思う。タイミングもいい」と藤田社長は後に取材に応えて語っている。

USENはGyaOサービスを開始してすぐ、宇野社長自身が参加する独自コンテンツを作り上げた。

友人の村上ファンドの村上世彰社長、楽天の三木谷社長、サイバーエージェントの藤田社長、GMOインターネットの熊谷社長などと宇野社長との対談を『リアルビジネス』という番組で放送したのだ。

筆者もこの番組を見たくてGyaOの会員になったが、相当な強力コンテンツだと思う。

本書のなかで、宇野社長は「オンデマンド放送でCMをスキップができない様にすれば、広告主も興味を持ってくれるはず。テレビ局がなりたっているなら、無料ネット放送もなりたつはずです」と語っている。

ハードディスクレコーダーでCMスキップに慣れている筆者自身の経験からすると、無料で様々なコンテンツを見られるのは歓迎だが、はじめの数分間の映画の予告編やコマーシャルは苦痛だ。

映画館なら予告編は気分を盛り上げる効果があるので、むしろ歓迎だがパソコン放送となると、話は全然異なる。

どうせCMが入るなら、広告主の最新のCMを流すより、その広告主が過去流した評判の良く面白いCMとかを流し(たとえばアコムならクーちゃんとか、キンチョーなら沢口靖子シリーズとかゴン中山とか)てはどうか?

クーちゃんCMはテレビでは放送禁止になっていると思うが、GyaOなら可能なのではないか?

ちょっと脱線したが、いずれにせよ今後GyaOがどうなるのか注目して見守りたい。


宇野社長の経歴

宇野社長は大阪有線社長の故宇野元忠氏の次男として1966年に生まれる。明治学院大学を5年掛けて卒業、不動産業のリクルートコスモスに入社する。在学中はプロデュース研究会代表としてイベントやコンサートなどを請け負っていた。

会社をつくって社長になるというのが宇野さんの夢だったので、リクルートコスモスに1988年に入社したものの、翌年の1989年9月には退社し、友人でリクルートコスモス同期で現インテリジェンス社長の鎌田和彦さん、リクルートにいた前田徹也さん(現コンサルタント)、島田亨さん(現楽天球団社長)と4人でインテリジェンスを起業。

みんなに推されて宇野さんが社長となる。インテリジェンスの当初の業務は総合コンサルタント業で、そのうち人材派遣業に進出。創業メンバー4人を中心とする社員の会社に泊まることは当たり前という猛烈ながんばりで、業績は拡大し、2000年4月に店頭公開を果たす。

しかし宇野さんの父親の急病で大阪有線の社長となることを母親から頼まれ、1998年7月から宇野さんはインテリジェンスと大阪有線の社長を兼務することとなる。

1999年よりインテリジェンスでは会長となり、大阪有線社長職に比重を移し、『正常化活動計画』を打ち出し、全国の750万本にもおよぶ電柱の使用状況を調べ、過去分も含めてNTTや電力会社に電柱使用料を支払った。

その額は2000年8月期には240億円にものぼったが、これで電柱不正使用という汚名をそそぎ、晴れて普通の企業として正常化できた。

2000年4月には有線ブロードネットワークスと社名を変え、光ファイバーによるインターネット接続を月額5千円程度で提供するUCOMを設立。UCOMは50社の出資を受けてオールジャパンの事業としてスタートする。

しかし月額2,500円というソフトバンクのADSLの猛烈な売り込みに、日本全国展開を断念し、現在はマンション向けの光ファイバー一括請負を中心とした事業モデルに転換し、NTTと業務提携している。

有線ブロードワークスは資金調達力が弱く、UCOM設立時には宇野社長自身がインテリジェンスの株を担保に、りそな銀行から70億円の借金をして立ち上げた経緯がある。

そのため資金を得る目的で2001年4月にナスダックジャパンに上場を果たした。

初値が公募価格を大きく上回った前年のインテリジェンスの上場と異なり、ITバブルの崩壊で、初値は公募価格20万円を下回る13万円という展開ではあったが、なんとか切り抜け、2005年3月にはUSENに社名を変えて現在に至っている。


『オペラ座の怪人』と倖田來未

USENがGyaO事業に乗り出す前の布石が、映画配給会社のGagaコミュニケーションズと音楽事務所大手エイベックスへの出資だ。

USENは2004年10月にエイベックスに出資、筆頭株主となっている。創業者の依田名誉会長、現経営者松浦社長とのバランサーとして宇野社長が関与し、経営陣の対立でもめていたエイベックスの安定に寄与した。

Gagaは赤字が続き、2004年9月期には100億円を超す当期損失を計上した。エイベックスの依田名誉会長が宇野社長に話も持ち込み、依田氏が30億円、2005年1月にUSENが100億円出資した。Gagaは昨年『オペラ座の怪人』のヒットを飛ばし、赤字幅も縮小している。

宇野社長はGagaの社長も兼任し、GyaOを推進するうえで映画と音楽という自前のコンテンツを持つ優位性をいかんなく利用している。


仲間・同志を重視する宇野社長の経営スタイル

「カリスマ性だけが、成功するスタイルではないんじゃないか。自分に能力がないなら、能力のある人と一緒にやればいいじゃないか」と宇野社長は語っており、カリスマを否定している。

これがこの本のタイトルになったゆえんだ。

サイバーの藤田晋さんの本にも書いてあったが、藤田さんがインテリジェンス入社2年目で独立し、インテリジェンスと合弁会社をつくるときに、宇野さんは「何をやるかより、誰とやるかが大事だ」と語っていたそうだ。

マッキンゼーから宇野さんに引き抜かれた加茂副社長は、「一緒にとことん仕事をしよう」というUSENの仕事のスタイルを見て、『子供のサッカー』だと言っていたが、そのうちこれが新しい組織の形かもしれないと思い直したと。

『子供のサッカー』とは役職員全員で新規事業に取り組むやりかたのことだ。一つの夢を共有して、仲間として一体感を持ち、社員にチャンスを与え、みんなで実現に取り組むのだ。

筆者は高校時代にサッカーをやっていたのだが、当時はこの『子供のサッカー』を『百姓一揆』と呼んでいた。たぶん加茂さんは言葉を選んだのだと思うが、たぶん『百姓一揆』の方が感じが伝わると思う。

一つのボールをみんなで追いかける『子供のサッカー』精神で、情熱を持って起業する人は応援したいとして、宇野社長は資金面でも支援している。「そういう人が頑張る姿に対して素直に応援してあげたいと思って」個人で出資するのだと。

サイバーエージェントの藤田社長の独立を助けたのが良い例だ。


アンバランスをバランスさせる経営

インテリジェンスの鎌田社長は宇野社長の経営の特徴を『非連続性』と表現する。身の丈にあった経営をしていくのではなく、ときどき未知なところへジャンプするという意味だ。

社員30人の時に、日経新聞に1ページ大の求人広告を載せるといったジャンプを宇野社長は数々つくりあげてきた。

加茂副社長は「アンバランスをあえて作り出す」と表現している。

有線放送から、光ファイバー通信事業、GyaO事業とジャンプを続けているUSEN。USENのホームページに業績資料が公開されているが、業務用有線放送と通信カラオケ事業という成長性が見込めない分野から、ジャンプして新しい事業に進出し、業績を大きく伸ばしている。

ホリエモンや三木谷さんが言っていた、『インターネットと放送の融合』を単に言葉だけのイメージでなく、現実の事業として実現しているトップ企業と言っていいだろう。

阪神の金本知憲選手の活躍で『アニキ)』という言葉が、良いイメージを持って受け止められる様になってきている。社内で一番の働き者として尊敬され、寝る間も惜しんで仕事に没頭し、リスクを負ってもベンチャーを支援するUSENの宇野社長。

まさにベンチャーのアニキである。

宇野社長を応援したいという気持ちにさせる本だった。


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渋谷ではたらく社長の告白 読後感爽快な元気が出る本

渋谷ではたらく社長の告白 (幻冬舎文庫)渋谷ではたらく社長の告白 (幻冬舎文庫)
著者:藤田 晋
販売元:幻冬舎
発売日:2007-08
おすすめ度:4.5
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「時短読書のすすめ」ブログの第3弾は、サイバーエージェント社長の藤田晋さんの「渋谷ではたらく社長の告白」だ。現在は文庫でも発売されており、買い求めやすくなっている。

この本がベストセラーになった後、藤田さんは奥さんの奥菜恵さんと離婚。また独身に戻っている。

ネット長者の一人として、またホリエモンの親しい友人として、この本が出た2005年当時はマスコミにもいろいろ叩かれたことがあったが、今は若者集団をまとめて力を発揮させる着実な経営者という評価が定着していると思う。

藤田さんは直接話法の使い方がたくみで、楽天の三木谷さんの発言など、いかにも人間性が出ていて、ついひきこまれてしまう。

この人もカーネギー信者か!ということで、もう一つのインデックスはカーネギーにしている。

以下あらすじは2005年7月4日初掲のもので、その後ホリエモンは逮捕されたり、藤田さんの周辺では動きはあったが、あらすじ自体には特に付け加えることはないので、そのまま掲載する。



筆者は新刊書でもベストセラーでも、まずは図書館で予約して読む。読まずに買うことはしない。その筆者がインターネット業界本で初めて買った本がこれだ。

藤田氏の経歴・自伝の内容もさることながら、有線の宇野社長、ホリエモン、三木谷さん、GMOの熊谷社長などとの会話の引用が、それぞれの社長の性格がよくわかる発言に仕上がっていて絶妙である。

『社長失格』からホリエモンやGMOの熊谷正寿社長のベストセラーの『一冊の手帳で夢は必ずかなう』などネット関係者で数百冊の本を読んだが、この本は頭にスッと入り、思わず引きつけられる。

女優奥菜恵と結婚していることでも知られているインターネット広告事業のサイバーエージェント藤田晋(すすむ)社長の自伝的告白。すでに5年前に『ジャパニーズドリーム』という本を出版しており、これが2作目。福井県のめがねフレームで有名な鯖江市生まれで、父親はカネボウの工場に勤務するサラリーマンというごく普通の青年。

しかし筆者が一度読んでからあえて本を買ったことでもわかる通り、ただ者ではない。

藤田氏は天才的営業マンでなおかつすぐれた経営者なのだろう。高校まではバンドをやってミュージシャンを目指していたが、高校3年で歌の才能がないことに気づく。偏差値40から急遽受験勉強して、青山学院大学経営学部に入学する。将来の夢として『会社をつくる』ことをこころざし、そのために学生の時に人材紹介業のオックスプラニングセンターにアルバイトとして働き、営業員として頭角を現す。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
著者:ジェームズ・C. コリンズ
販売元:日経BP社
発売日:1995-09
おすすめ度:4.5
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このオックスプラニングセンターでのアルバイト時代に感銘を受けたのが『ビジョナリーカンパニー』で、いずれ『21世紀を代表する会社をつくる』ことを決意とする。

人を動かす 新装版人を動かす 新装版
著者:デール カーネギー
販売元:創元社
発売日:1999-10
おすすめ度:5.0
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角川春樹がカーネギーに影響されたことは前に書いたが、藤田氏もまたカーネギーの『人を動かす』から学んだことをあげていること。

なんと藤田氏もカーネギー信者か!

卒業後は当時32歳でインテリジェンスの社長だった有線の宇野社長に出会い、インテリジェンスに入社する。宇野社長が社内一番のハードワーカーだったそうだが、藤田氏も最初からほとんど休みなしに働き、土日も出社し、バリバリ実績を上げ、『すごい新人が入ってきた』と周囲から一目おかれる。

入社1年目でオックスプラニングセンターの元上司、親友に誘われ、3人で会社設立すべく決意し、インテリジェンス宇野社長に告げると、なんと逆提案でインテリジェンスが50%出資する会社をつくるのでその社長になれと言われる。これが入社1年目の新入社員がやることか!宇野氏にも藤田氏にも両方に驚かされる。

『大事なのは金じゃない。本当に大事なのは志を共有できるかどうかなんだ』

『21世紀を代表する会社をつくる』という目標をもった藤田氏はこの宇野社長の殺し文句でコロリ、インテリジェンス入社1年後の1998年4月にサイバーエージェントを創業する。

会社を創るときには事業はなにをやるのかはっきりしたプランがなかったが、宇野社長と相談し、1998年当時注目をあびてきたインターネット関係の事業で、インターネットの営業を専門にする会社をつくることにする。

インターネット業界は営業が弱いから、営業の専門会社をつくるそれだけのシンプルな事業計画で、学生アルバイトを集めスタート。

営業第一号は高津社長のウェブマネーの営業代行。持ち前の営業力で売りまくる。そうかそれでウェブマネーは強いのかと納得できる。

藤田氏は創業直後の1998年7月から『ベンチャー企業の日記』をホームページ上に書き始める。これが今は渋谷ではたらく社長ブログになっている。ブログのパイオニアである。

最初から週110時間働くと決めていた彼らは『毎日事業プランコンテスト』を行う。その中からでてきたのがサイバークリック(クリック保証型広告事業)だ。まずは学生アルバイトにつくらせるが、全然ダメ。困ってエッジの堀江貴文社長を訪問する。

当時の堀江社長は26歳、藤田氏は25歳、おたく的雰囲気の堀江氏のオフィスを訪問すると、スリッパに履き替え、バーカウンターのある会議室に通される。そこに長髪で今よりだいぶ太っていたおたく的な堀江社長が現れる。挙動不審に思えたが、話し始めるとあふれる野心、独演会、ただものではないと直感する。

そんな堀江氏にクリック保証型システムの件を相談すると『いや、できますよ。あんなの楽勝ですよ』翌週には完成。堀江氏自身がプログラムをつくった。エッジにパートナーとして収益を分け合う形としてスタートしたサイバークリックに営業を集中。トラブルは堀江氏がバイクで来て修理した。

堀江氏は『あんなの楽勝ですよ。他にもあったら言ってください』と言うので、メール版のアフィリエイトシステムも『そんなの作れますよ』のノリで、参入。結局これがサイバーエージェントとエッジの共同事業のメルマガ配信システム、クリックインカム=現メルマとなる。

創業初年度の1998年に7名の新卒内定者を取ったが、この7名は1人を除きいずれも退社。しかし2年目の内定者20名はサイバーエージェントグループの要職についている。

表参道のオフィス環境、最先端のインターネットビジネス、若く士気の高い社員たち。すべては優秀な人材を確保するためのプレゼンテーションだったのだと。藤田氏は自分は採用に関しては最初からたぐいまれな能力を発揮していたと語っている。

インテリジェンスは全く他社との差別化はなく、後発にもかかわらず他社をごぼう抜きにしている。理由はただ一つインテリジェンスは採用に非常に力をいれているので、同業他社と比べて明らかに優秀な社員が入社し、その社員が非常に高い士気で頑張っているからだ。『採用力は競争力だ』

1999年にネットバブルが起こる。業績も急成長、サイバークリック、クリックインカム(現メルマ)、大阪支店も大当たり、2000年の史上最年少社長としての上場記録をめざす。原宿から始めたオフィスも北青山、そして2000年に家賃1,500万円の渋谷マークシティに引っ越す。

東大卒、住友商事で働いていた23歳の中山豪氏を口説いて入社。現在財務担当取締役の中山氏は入社当日に寝袋持参で出社、『ベンチャーですから』と20日間泊まり続けた。博報堂から米国にMBA留学中の早川氏を引き抜く。

このころ出資したいというベンチャーキャピタルや上場企業が押し寄せる。ある上場企業の経営者よりは50億だすと言われる。ソフトバンクの孫氏は『インターネット業界は今100年に一度のチャンスです!』と言い、熱狂はさらに盛り上がる。

こんなタイミングで恩人の宇野社長に出資比率の変更を申し出る。『わかった。最初の約束だったもんな。なんとかするよ』と。宇野社長も立派だ。結局藤田氏の持ち分を34%とし、上場後に出資比率が落ちないようにワラントも発行することとなる。

GMO熊谷社長は初対面で『…というわけで、当社はインターネット広告に参入したいと思っている。そのためにもサイバーエージェントに出資させて頂いた上で提携したい』と。このときは断るが、後にGMOはサイバーの株主となり、一時は20%を保有していた。

1999年9月末サイバーエージェントの2回目の決算がでる。売上は5億円、利益は3千万円程度出ているはずだった。ところが売上計上の仕方を変えないと上場できないと監査法人から言われ、その通りにすると売上4億5千万円、利益は2千万円の赤字となる。

2000年春の上場をあきらめかけた時に神風が吹く。孫さんがナスダックジャパンの設立を発表。東証も対抗するために、マザーズ創設を発表。赤字会社でも上場が可能となる。

ジャパニーズ・ドリーム―史上最年少の上場企業社長ジャパニーズ・ドリーム―史上最年少の上場企業社長
著者:藤田 晋
販売元:アメーバブックス
発売日:2005-07
おすすめ度:4.0
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上場にあわせて『ジャパニーズ・ドリーム』を出版。時価総額10兆円企業を目指すと宣言。1999年の日経ベンチャーの未上場ベンチャーオブザイヤーの2位に選ばれる。1位は楽天でこのときに三木谷社長と知り合う。

インターネット企業の株価はさらにヒートアップ。上場前のサイレントピリオドが始まったが、大阪で顧客とのトラブル発生。重要客先の媒体取り扱い停止、サイバークリックの特許問題発生、主幹事証券会社の顧問弁護士が強硬に反対し、2000年2月の上場が延期される。マークシティへの引っ越しを控え、多くの内定者を出しているのにキャッシュが底をつきそうになる。

同年齢のクレイフィッシュの松島社長が市場最年少の上場記録を達成。さんざん宣伝した後なので、まあいいかと思っていると、今後は東証の審査官の面接で藤田氏自身が失態。

審査官『コーポレートガバナンスについて、どうお考えですか?』、藤田氏『コーポレートガバナンスって何でしたっけ?』『今日はこれまでです。結果はまたご連絡します』…これで上場が延びるが、ぎりぎりのタイミングの2000年3月24日に設立丸2年で、株価1,500万円(!)で上場。

初値1,520万円がつき、225億円の資金調達に成功。藤田氏も26歳にして300億円の資産を持った。ところがネットバブル崩壊で、株価はそれから凋落の一途となる。

『インターネット関連株を早く処分しろ。』これに巻き込まれたのがエッジ(現ライブドア)だ。2000年4月にマザーズに上場したが、結局初日は売り気配のまま終わってしまう。

筆者もこのころ米国に駐在して某インターネット企業のIPO株を取得した。1999年11月IPO価格$42、初値$210、それから2週間でピーク$320、2000年3月に$200(持ち株半分売却。この半分は元手が5倍に!)、2000年4月$80-90、2000年10月$10前後(残り半分売却。この半分は元手が1/4に!)という超速ローラーコースターを経験しているので、実感がわく。

追われ者―こうしてボクは上場企業社長の座を追い落とされた追われ者―こうしてボクは上場企業社長の座を追い落とされた
著者:松島 庸
販売元:東洋経済新報社
発売日:2002-04
おすすめ度:4.5
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クレイフィッシュの松島社長は大株主の光通信にたてつき、社長を解任されてしまう。『どんなことがあってもキレたら、ゲームオーバーなんだ…。』

株価は暴落し、ネット企業たたきが始まる。高値で買った株主はカンカン。業績も赤字。株価上昇のために株式分割したが、逆に売りやすくなってさらに株価は下がる。2000年9月期の業績は売上32億円、16億円の営業赤字。

12月の株主総会は大荒れ。2004年9月期には売上300億円、利益30億円を出すという中期経営計画を発表するが、株式市場は無関心、だれも達成を信じていなかった。投資家からは評判が悪いと言われ、社員は離脱。藤田氏は自らの保有株を当時の時価で7億円分(現在の時価で100億円!)全社員に無償で配ることを決心。ところが株をもらってからすぐやめる人が続出。最悪の時期だ。

会社は先行投資中にもかかわらず、一度いつでも黒字を出せることを見せようと2001年4〜6月期に無理矢理4半期ベースで黒字としたが、株式市場からはむしろ売上鈍化を問題視され、評価がさらに下がった。

M&Aコンサルティングの村上社長が10%を買い占め、『現金を150億円持っているのを一度株主に返したらどうか』と言ってくる。そのころ他の株主がその気になれば子会社化ができることに気がついたが、ワラントの行使時期は2001年10月となっており、それまでは拒否権がないことがわかり自分の無防備に愕然とする。

GMO熊谷社長よりは合併を持ちかけられる。『藤田君、ぼくは20億も御社に投資しているんだよ』、村上氏よりは『メディア事業なんてたいしたことないんじゃないの?強みのある広告代理店に特化してはどうなんだ?』といわれ、有線ブロードワークスの社長に就任した宇野社長からは『藤田、おまえがしっかりしなくてどうするんだ』と喝を入れられる。

このころはノイローゼになりそうだったと。株価対策が万策つき、悩みに悩み『このままではGMOに買収されてしまう、どうせなら宇野社長がいい』と思い、宇野社長に買収してくれと言うと『おまえの会社なんかいらねえよ。そんな気持ちでやってきたのか。よく考えろ。』と言われる。

その数日後楽天の三木谷氏が興味を持っていると連絡が入る。三木谷氏に会うと、『話は聞いている。俺は出資するつもりだ。ベンチャーが叩かれているから助けないとね。』GMOの持ち株の半分を三木谷社長が買い取ることで、話は進み、藤田氏も無事ワラント行使して現在に至る。

その後数ヶ月後の三木谷社長との会話。『三木谷社長、今度の4半期決算厳しそうです。』『そうなんだ?』『なんとか黒字は確保しなければと思っているのですが。』『いいよ、そんなの。もっと中長期の経営を目指しているんだろ?だったら、自分の信念を貫けよ。』

『私はなにもかも若く、そして未熟でした。21世紀を代表する会社をつくる。これからはもう何があっても信念を曲げない。堅くそう決意した。』

創業5周年を迎えた2003年9月期より収穫の時を迎える。2004年9月期に向けた中期計画が現実味を帯びてきた。実際には売上267億円、利益40億円を達成した。私生活では奥菜恵と結婚。事業もランナーズ・ハイとなり、次は1000億円、1兆円をめざすと。

最後に『みんなで一緒に会社を大きくしよう』と締めくくり、きっちり採用を呼びかけている。

読後感爽快な元気の出る本だった。文庫版になって買いもとめやすくなったので、是非一度手に取ることをおすすめする。


参考になれば次クリックお願いします。



ウェブ進化論 Googleはインターネットの第2の巨大隕石!?

「時短読書のすすめ」の特選あらすじ第2弾は、「ウェブ進化論」だ。

一時は書店にも在庫がなくなったほどの2006年の超ベストセラーなので、読んだ人も多いと思うが、読んだ人は記憶を確認するために、これから読む人は、「時短読書」のためにこのあらすじを利用してほしい。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
著者:梅田 望夫
販売元:筑摩書房
発売日:2006-02-07
おすすめ度:4.5
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著者の梅田望夫(うめだもちお)さんはブログを『究極の知的生産の道具』と呼んでいるが、筆者も同感である。

このブログは筆者の備忘録も兼ねて作成しているが、この本についてはあまりに参考になることが多すぎて、あらすじが長くなりすぎてしまった。

だから別ブログの「あたまにスッと入るあらすじ」に掲載してあるのは公開版で、元の原稿は備忘録として非公開で保存していた、

既に多くの人がこの本を読んだと思うので、読んだ人の記憶のリフレッシュという意味も含めて、今回は非公開版の備忘録をアップデートしたあらすじを紹介する。

公開版と非公開版の2種類つくったのは、この本がはじめてだ。それほど参考になるとともに、intriguing(興味をそそられる)だった。

ベストセラーになるだけのことはある中身の濃い本である。新書の定価の740円以上の価値があること、筆者が請け合う。

2007年には梅田さん自身の講演を聞く機会もあった。実に真面目で偉ぶらず、「能ある鷹は爪を隠す」のことわざ通り自分の博識と広い交友範囲をひけらかすことがなかったのが印象的だった。


この本は、昔の仕事仲間で、東証マザーズ上場の日本最大の間接資材のネットショップMonotaROモノタロウ瀬戸社長に2006年始めに読んだ本で一番良いとすすめられて読んだ。

今世界のインターネット業界でなにが起こっているのか、どんな構造変化が起こっているのかよくわかる。

著者の梅田さんのブログによると発売して4週間で15万部売れているそうだ。筆者の近くの書店でも売り切れだったので、アマゾンで買った。まさに爆発的な売れ行きである。(結局最終的にどれだけ売れたのかネットで調べたがわからなかった。)

筆者は米国駐在時代の1999年にインターネットの威力と将来性に驚き、会社・上司の了解を得て、それまでの鉄鋼原料のトレーダーのキャリアから、インターネット関連業界に移った。

モノタロウの瀬戸社長は米国駐在からダートマスのMBAを取った異色の存在で、元々は鋼材トレーダーだが、鉄鋼原料を経て、インターネット関連業界に移った仲間だ。

筆者がインターネット関連業界に移った理由は、まさにPCスクリーンのあちら側に『未来』が見える様な気がしたからだった。

当時、ソニーの出井さんは『インターネットは(恐竜を死滅させたと言われる)巨大隕石だ』と表現していた。

日本に帰国してそれから5年余りたち、出張もせず東京で過ごしていると、アメリカや世界の情勢にどうしてもうとくなるが、インターネットで、いわば第2の隕石が落ちた様な変化が起きていることを思い知らされたのがこの本だ。

著者の梅田望夫さんは、シリコンバレー在住のコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ代表。梅田さんご自身のブログMy Life Between Silicon Valley and Japanもある。

梅田さんが常時寄稿しているCNETや、asahi.comITPROなどが梅田さんとのインタビューを載せているのでこれも参考になる。


現状分析がわかりやすく、かつ鋭い

まずは現状分析だ。現在のウェブ社会を次の3大潮流で説明している。

1.インターネット 
リアル世界に対するバーチャル世界・経済の出現。文章、映像、動画等、知的財産をなんでもネットに置き、不特定多数が見られ、何百万件でも検索して網羅できる。

国境等の物理的限界はなく、コミュニケーションも瞬時に行える。全世界の『不特定多数無限大』の人がはじめて経済ベースで捉えられるようになった。

2.チープ革命 
ムーアの法則は元々の半導体の集積度が18ヶ月で倍増するというものから、現在ではIT製品のコストは年率30−40%下落すると広義に解釈されている。

3.オープンソース 
世界中の200万人の開発者がネット上でバーチャルな組織をつくり、イノベーションの連鎖で、最先端ソフトウェアをつくっていく世にも不思議な開発手法。


ネット界の3大法則

上記3大潮流が相乗効果を起こし、次の3大法則を生み出した:

1.神の視点からの世界理解 
Yahoo!などのネットサービスは何千万人もの人にサービスを提供し、しかも一人一人の行動を確実に把握できる。膨大なミクロの情報を全体として俯瞰(ふかん)でき、今なにが起こっているのかがわかるのだ。

まさにお釈迦様、神のみぞ知るということが実現している。

2.ネット上につくった人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
ネット上に自分の分身(ブログやウェブサイト)をつくると、分身がネットでチャリンチャリンと稼いでくれる世界が生まれた。

自分は寝ていても儲かるしくみができる。もし共働きで奥さんもサイトを持っていれば、ダブルインカムならぬ、クアドラプル(4倍)インカムも可能なのだ。

3.無限大 x ほぼゼロ = なにがしか(Something)
『不特定多数無限大』の人とつながりを持つためのコストはほぼゼロとなった。

不特定多数無限大の人々から1円貰って1億円稼ぐことが可能となったのだ。


これら3大潮流と3大法則が引き起こす地殻変動で、想像もできなかった応用が現実のものとなった。その典型がGoogleである。


バーチャル世界政府のシステム開発部門Google

梅田氏のGoogleに勤める友人は『世界政府というものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部Googleでつくろう。それがGoogle開発陣のミッションなんだよね。』と真顔で語っていると。

梅田氏はグーグルはシリコンバレーの頂点を極めるとてつもない会社だと確信しているそうで、Googleのすごさを次の観点から説明している:

1.世界中の情報を整理し尽くす

グーグルは自らのミッションを『世界中の情報を組織化し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること』と定義している。

全世界のウェブサイトの情報を集めるグーグル検索、全世界のニュースを優先順位を付けるグーグル・ニュース、過去出版されたすべての本をデータベース化するとブチ上げ、著作権者ともめているグーグル・ブックサーチ

個人のメール内容を判断して最適な広告を載せるGメール。グーグル・マップグーグル・アース等々。

グーグルのサービスすべてを通して言えるのが、情報を人手を使わずコンピューターによって自動的に分析して組織化するという基本思想だ。人が扱わないのだから個人のメール内容などもプライバシーの問題はないという理屈だ。


2.構想を実現するために情報発電所とも言うべき30万台から成る巨大コンピューターシステムを、ネットの『あちら』側に構築したこと

すべての言語におけるすべての言葉の組み合わせに対して、最も適した情報を対応させる。これがグーグル検索エンジンの仕事だ。

グーグルの判断基準は、ウェブサイト相互に張り巡らされるリンクで判断する『民主主義』である。

全世界を英語圏のシステム一本で運営するための自動翻訳機能も、最適の情報を対応させるための必要機能だ。

そのためにグーグルの30万台ものコンピューターが日々稼働し続けている。(2009年現在では多分100万台以上のサーバーが稼働しているものと見込まれる)


3.巨大コンピューターシステムを圧倒的な低コスト構造で自製したこと
オープンソースを最大限に利用して、30万台ものリナックスサーバーを自社でつくり、運営している

この30万台というのはCPUを備えたマザーボードの推定数で、最近はブレードサーバーというマザーボード差し込み式の、1台で昔のサーバーの何十台分もの機能があるものも出ているが、それにしても30万台というのは尋常な数ではない。

拡張性に優れるスケーラブル・ストラクチャーをつくり、処理能力を上げるためにはサーバー数を増やせば良い構造とし、一部が故障しても全体としては動くしくみを取り入れている。


4.検索連動型広告『アドワーズ』に加え、個人サイトに自動的に広告配信する『アドセンス』を実装し、個人にまで広告収入が入る『富の再配分』のメカニズムを実現したこと

筆者も一時『アドセンス』をこのブログに貼り付けていたが、たしかに個人サイトでもグーグルから自動配信される広告表示で、チャリンチャリンとお金が落ちる感覚を体験できた。

インターネット広告業界では、ネット専業代理店が力を持っており、電通・博報堂など大手広告代理店が相手にしない小さなクライアントまで広告の裾野を広げているが、それにしてもアドセンスで配信される情報起業の様な小企業などは到底カバーできない。

アドセンスは、英語圏の先進国の広告報酬設定なので、先進国では小遣い程度でも、途上国では生計が立てられる収入となりうる。


5.多くが博士号を持つベスト・アンド・ブライテスト社員5,000人が情報共有する特異な組織運営

グーグルは株式公開したとはいえ、創業者のセルゲイ・ブリンラリー・ページが一般株主とは違う種類の株式を持つ特異な所有形態である。これはマイクロソフトによる敵対的買収や経営介入を防ぐためだという。

グーグルには経営委員会などの経営組織はなく、5,000人の社員全員が情報を共有し、情報が『自然淘汰』される。

博士号を持つ社員も多いが、それぞれ仕事の20%は自分のテーマで研究することを求められる。アイデアは社内で共有され、平均3人の小組織がアイデア実現のスピードを競争するのだ。


6.既に存在するネット企業のどことも似ていないこと。

強いて言えばYahoo!はメディア、グーグルはテクノロジーであると。

Yahoo!は人間が介在してサービスの質が上がるなら、人手を使うべきだという考えである。


以上の様な論点につき興味深い分析がなされており、もっと詳しく説明したいところだが、それだと『あらすじ』でなくなってしまうので、上記切り口だけ紹介しておく。


いくつか印象に残った点を紹介しておこう。


『こちら側』と『あちら側』

パソコンは『こちら側』。機能を提供する企業のサーバーやネットワークは『あちら側』だ。どちらかというと日本のIT企業はこちら側に専念し、アメリカの企業はあちら側に注力している。

これを象徴する出来事が2005年に起こった。売上高1兆円のIBMのパソコン部門がレノボに2、000億円以下で売却されたのだ。売上高3,000億円のグーグルの公開直後の時価総額は3兆円で、いまは10兆円だ。(2009年1月23日現在の時価総額は1,022億ドル、円高なので約9兆円だ)

グーグルの動きはすべてあちら側の動きだ。


『恐竜の首』と『ロングテール』

ロングテールについてはアマゾンでは専門書と古典的名著が売れる例で紹介したが、リアル店舗では返品の憂き目にあう『負け犬』商品がアマゾンでは売上の1/3を占める。

パレートの80:20の法則で、従来は20%の売れ筋商品=『恐竜の首』に注力すれば良かったのが、インターネットにより陳列・在庫・販売コストを気にしなくて良くなった今、残り80%の『負け犬』もちりも積もれば山となることが可能となった。

グーグルのアドセンスは個人でもクレジッドカード払いで広告出稿でき、無数にある個人サイトに広告を掲載することができる。

梅田さんの言葉で言うと『ロングテール』、筆者の言葉で言うとゴルフの『バンカー・ツー・バンカー』が、巨大なビジネスとなっている。


Web 2.0

今までのインターネット企業や機能をWeb 1.0と呼び、開発者向けにプログラムしやすいデータ、機能(API=Application Program Interface)を公開するサービスをウェブサービスと呼ぶ。

グーグルの台頭にYahoo!が危機感を強め、自前の検索エンジンを導入することを決定したのが、2002年から2003年にかけてであり、ちょうどこのころインターネットの先駆者たちは、Web 2.0を研究しだした。

(筆者はこのWeb 2.0というのが、どうもよく理解できなかったが、筆者のたとえでいうと、いわば鵜をひもでつないでいた鵜飼い(個人サイト)が、不特定多数の漁船群(企業サイト)をかかえる網元となり、一挙に漁獲量を拡大し始めたという感じではないか。)

アマゾンアソシエイトで一個一個の商品にリンクをつけて販売するのが、従来からのWeb 1.0。アマゾンの商品データベースへのアクセスを認め、アマゾンが卸売りのようになり、専門サイト、小売りがアマゾンの商品を販売するのを支援するのがWeb 2.0。

もちろんアマゾンの全世界単一システムに巨大な負荷が掛かるはずだが、それをこなすシステム増強をアマゾンは『あちら側』で行って、Web 2.0を可能としたのだろう。

単にアマゾンが配信する右のサイドバーのようなダイナミックリンク広告ではなく、ECサイト全体をアマゾンのウェブサービス(商品データベース)を使って作り上げるやり方で、インターフェースを公開することにより、開発を不特定多数の外部開発者に依存する手法だ。

ウェブサービスにおけるアマゾンの利益率は15%なので、今やアマゾン本サイトよりもウェブサービスの方が利益率が良くなっており、自己増殖的に増えている。


ブログと総表現社会

米国ではブログ数が2,000万を越え、日本でも500万を越えた。(2008年の日本の総務省の発表では、日本のブログの延べ開設数は1,690万となったという)ブログの増殖の理由は

1.量が質に変化したこと
  いくら母集団が玉石混淆でも、母集団が大きくなるとキラリと光るブログが現れてくる。500万のたとえ0.1%でも5、000である。

いままでネットで情報発信していた人たちはマスコミやネット企業関係の圧倒的少数だったが、絶対多数の声なき声が表現する場を得たのだ。

2.ネット上の玉石混淆問題を解決する糸口が技術の進歩で見えつつある。それは検索エンジンの進歩であり、ブログの持つトラックバック、RSS(Really Simple Syndication)、更新情報送信等の機能だ。

まだまだコンテンツの玉石混交問題は解決されていないが、Yahoo!など検索エンジンがトップにランクするブログはやはりそれなりに支持されている。ここでも自然淘汰がおこっているのだ。


知的生産の道具としてのブログ

梅田さんはブログこそが「究極の知的生産の道具」ではないかと感じているそうだ。ブログの効用とは:

1.時系列にカジュアルに記載でき、容量に事実上限界がない
2.カテゴリー分類とキーワード検索ができる
3.てぶらで動いてもインターネットへのアクセスがあれば情報にたどり着ける
4.他者とその内容をシェアするのが容易である
5.他者との間で知的生産の創発的発展が期待できる

筆者も同感である。ただブログは出典を明らかにして、リンクを貼るという著作権上の配慮が重要であること念のため付け加えておく。


マス・コラボレーション

オープンソース、マス・コラボレーションの例としてウィキペディアを挙げている。ウィキペディア・プロジェクトは2001年1月にスタートしたので、5年強の歴史だが、既にブリタニカの65,000項目に対して、英語では870,000項目にも及ぶ百科事典が既にできあがり、200にも及ぶ言語毎に百科事典がつくられ、日本語版でも16万項目以上に揃ってきた。(2009年1月現在で264言語、11百万項目、日本語だけでも56万項目が登録されている)

誰でも書き込み、修正できるが、それでいてかなりの水準に達している。


不特定多数無限大は衆愚か?

梅田さんはWisdom of Crowds、群衆の英知、日本語訳「『みんなの意見』は案外正しい」を紹介している。仮説ではあるが、ネット上で起こっているオープンソース、コラボレーション、バーチャル開発の質の高さを考えると、不特定多数無限大の人が参加する知的プロジェクトは成功すると言えるのではないかと思う。

「みんなの意見」は案外正しい「みんなの意見」は案外正しい
著者:ジェームズ・スロウィッキー
販売元:角川書店
発売日:2006-01-31
おすすめ度:4.0
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羽生善治名人の高速道路論

梅田さんは羽生名人と親しいそうだが、羽生名人はITがもたらした将棋界への影響として、「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」と語ったそうだ。

羽生名人の言葉によると奨励会の2段くらいまでは、一気に強くなるが、それから上は人間の能力の深淵にかかわる難問であり、これを抜けることが次のブレークスルーに繋がる。

羽生善治さんの「決断力」も参考になるので、あらすじも参照して欲しい。


以上2006年に書いたあらすじを見直したが、あらためてこれを読み返しても梅田さんの書いておられることが全然新鮮味を失っていないことがよくわかる。

既に読んだ人も、まだ読んでいない人も、このあらすじを参考にして本を手にとって頂きたい。


参考になれば次クリックお願いします。





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フラット化する世界 毎年アップデートされる"ダイナミック"な本

別ブログ「あたまにスッと入るあらすじ」は5年目に入り、投稿記事は400を超えた。その400の投稿記事の中から、是非これは読んで欲しいという本のみを選んで、この「時短読書」ブログで紹介する。

まず最初は世界の首脳はじめ、ほとんどの経済人、学者が頻繁に引用するトム・フリードマンの「フラット化する世界」だ。

上下2巻で、800ページあまりの本だが、時間をかけて読む価値はある本だ。

こんな本はあまりにも膨大なボリュームなので、途中で挫折しがちだ。実は筆者も一度挫折した。

そんな時こそ、この「時短読書」のすすめが役に立つ。

是非このあらすじを参考にして本を完読して欲しい。

尚、以下あらすじは当時バージョン3.0の日本語訳がなかったため、英語のオーディオブックも読んで(聞いて)書いたものだ。

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
著者:トーマス フリードマン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-01-19
おすすめ度:4.5
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フラット化する世界 [増補改訂版] (下)フラット化する世界 [増補改訂版] (下)
著者:トーマス フリードマン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-01-19
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


前作「レクサスとオリーブの木」が世界的ベストセラーとなったピューリッツァー賞受賞3回のジャーナリスト トム・フリードマン氏の最新作。原著は2005年4月に初版が発売され、1年後の2006年4月に改訂増補版、さらに2007年7月にバージョン3.0が発売され、毎年内容がアップデートされている。

日本語版でも改訂増補版の翻訳が2006年5月に出版され、バージョン3.0の翻訳が2008年1月18日に発売された。

ひとことで言うと「ダイナミックな本」だ。

正確に言うと「ダイナミックに動く世界情勢を、(本としては)ダイナミックに追いかけている本」とでも言うべきなのだろうが、日本語版で800ページもの本が、毎年アップデートされているというのはダイナミックだと思う。

あらすじが長くなってしまったので、内容を簡潔に言いあらわした次のストーリーを紹介しておく。この本の言いたいことが大体わかると思う。

フリードマン氏は、こどもに次のように言い聞かせなければならないと語る。

「いいか、私は子供の頃、よく親に『トム、ご飯をちゃんと食べなさい ー 中国やインドの人たちは、食べるものもないのよ』といわれた。

おまえたちへのアドバイスはこうだ、『宿題をすませなさい ー 中国とインドの人たちが、おまえたちの仕事を食べようとしているぞ』。」



上下二巻の大作なので、一度図書館で借りたが結局手つかずで挫折し、今回は2度めの挑戦だ。

実は会社の上司から、筆者の昔の上司が絶賛しているという話を聞いて、興味を持って再度読んでみた。たしかに凄い本だ。筆者も今までいろいろなビジネス書を読んできているが、こんな本は見たことがない。

この本の凄いところは、著者のトム・フリードマン氏が世界各地で幅広く取材し、きら星のような企業や政府、大学のVIPにインタビューしたFirst-hand-basisの情報をふまえて、この本を書いている事だ。

巻末にインタービューした相手への謝辞を列記しているが、この本の主題のインド関係ではインフォシスのCEOやWiproの前副会長から直接話を聞いており、他にビル・ゲイツやラリー・ペイジ、エリック・シュミット(Google)、ジェリー・ヤン(Yahoo!)、IBM、マイクロソフトのエクゼクティブなど約100名がリストアップされている。

さらに凄いのは、日本語訳で800ページもの本を、毎年アップデートするという著者の熱意だ。

英語版の冒頭にバージョン3.0発刊にあたってのトム・フリードマン氏の言葉が載っている。

「一年前に本書の改訂版を発行してからも急速に時代は変化しているので、章を二つ追加し、改訂せざるをえなかった。そして評者や読者、特に子供を持つ親からの要望や質問にも答えたかった」と、インタラクティブ時代にふさわしいコメントに加えて、「出版業界もスピードアップしたので、毎年全面改訂することが可能になった」と語っている。

筆者は英語のオーディオブックも聞いた。27時間にも及ぶものだが、分かりやすい英語なので、英語に慣れている人には、日本語訳を800ページ読むよりもむしろ楽だと思う。英語版ならではの、インドのコールセンターでのアクセント矯正ドリルの早口言葉も面白い。

"A bottle of bottled water held thirty little turtles. It did not matter that each turtle had to rattle metal ladle in order to get a little bit of noodles, a total turtle delicacy....."


この本のタイトルのフラット化というのは、組織のフラット化というように使われているヒエラルキーやミドルマンがなくなったという意味と、地球の反対側でもインターネット等の新技術と新しい活用法により、まるで隣町のように一体化されたという意味の二つだ。

英語の初版本の表紙のイラストは、地球は丸くない平面だというFlat Earth Societyの地球平面説を意識させるもので面白い。

World is flat











写真出典:Wikipedia

筆者が一度挫折したように正直取っつきにくいが、まずは第一章の「わたしが眠っているあいだに」をざっと読んで貰いたい。

インドや中国のコールセンター、確定申告、レントゲン写真解析、業績速報などのデータ処理アウトソーシング、家庭の主婦へのホームソーシング、マクドナルドのドライブスルーの集中処理センターなど、刺激的な先進事例を多数紹介しているので、これに興味を持ったら、次章以降を読むと良いと思う。


グローバリゼーション3.0

フリードマン氏は、近世からのグローバリゼーションを3段階に分けている。

1.グローバリゼーション1,0 コロンブスの新大陸発見から1800年頃まで 原動力は国家のグローバリゼーション
2.グローバリゼーション2.0 1800年から2000年まで 原動力は企業のグローバリゼーション
3.グローバリゼーション3.0 2000年以降 原動力は個人のグローバリゼーション

フラット化した世界では、アメリカのミドルクラスは、中国・インドと競争するようになる。そこで冒頭のフリードマン氏の「勉強しなさい」発言が出てくるのだ。


インド・中国の参入でかすむ21世紀の日本のプレゼンス

トム・フリードマン氏がグローバリゼーション3.0と呼ぶ時代で、日本のプレゼンスが小さくなっていることを痛切に感じた。

800ページあまりの本だが、日本人がまともに登場するのは、最初に登場する大前研一氏の大連での日本語コールセンターやチャイナ・インパクトなどの話と、「インターネットは恐竜を死滅させた巨大隕石だ」と語るソニーの出井前会長、「東アジアでは一所懸命勉強するDNAがある」と語る野村総研のリチャード・クー氏の3人くらいだ。

日本の進んだインターネット環境や、JETRO、ドコモのワイヤレステクノロジーなどが紹介され、三洋電機、ソニーなども登場するが、印象が薄い。

21世紀のグローバリゼーションの主役は、アメリカと中国/インドなのだということを、思い知らされる。

1999年に出版したフリードマン氏の「レクサスとオリーブの木」のグローバリゼーション側の主役がトヨタだったことを思えば、テーマが異なるとはいえ日本の凋落を感じてしまう。

レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉
著者:トーマス フリードマン
販売元:草思社
発売日:2000-02
おすすめ度:4.0
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ただそんなことを嘆いていても仕方がないので、先に紹介した大前研一氏の大前流心理経済学 貯めるな使え!でも力説されているように、我々日本人はこの本に書かれている世界の変化に対応して、どう21世紀を生きていくのかを考えるのだ。


世界がフラット化した10の要因

フリードマン氏は世界がフラット化した要因として、次の10項目を挙げている。

1.ベルリンの壁崩壊(1989年11月9日)と、創造性の新時代
ベルリンの壁崩壊後の東欧や旧ソ連諸国のみならず、中国やインドを加え30億人規模の経済圏が西側に合流した。ベルリンの壁崩壊と同じ年に中国では天安門事件(1989年6月4日)が起きて、開放政策、共産主義市場経済に大きく転換した。

またインドでは、それまでヒンドゥー経済成長と揶揄されていた3%の成長から、1991年のマンモハン・シン現首相による政策転換により高度成長に転換し、10億ドルに枯渇していた外貨準備も、1,000億ドルを超えた。

2.インターネットの普及と、接続の新時代
インターネットの普及は説明を要しないが、マイルストーンとしてこの本で取り上げられているのは次のようなイベントだ。MS−DOS時代からのPCユーザーの筆者にとって、同時代史として懐かしく感じられるところだ。

1977年 スティーブ・ジョッブスとスティーブ・ウォズニアックがアップルIIを発売
1981年 IBMがマイクロソフトのMSーDOSを使ってIBM PCを発売
1985年 マイクロソフトが最初のMS-Windowsを発売
1989年 ベルリンの壁崩壊
1990年 マイクロソフトがMS-Windows 3.0を発売 最初のWYSIWYG対応 パソコン通信全盛
1991年 バーナーズ・リーが最初のウェブサイトをオープン WWW, HTML, URL, HTMLなどの規格が決まる
1994年 モザイクを使ったインターネットブラウザー ネットスケープ配布開始 あの流れ星がなつかしい
1995年 ネットスケープの会社公開(8月9日) インターネットバブルをつくった
1998年 サンクスギビング(11月)頃からインターネットショッピングが急成長
1999年 インターネットバブル
2000年 3月にインターネットバブル崩壊
それ以降  オープンソース、光ファイバーによるインターネット通信の高速化

参考までにバーナーズ・リーのつくった世界初のウェブサイトは今でも見られるので紹介しておく。

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3.共同作業を可能にした新しいソフトウェア
最初はコンピュータと電子メールの組み合わせ(自動確認メールなど)から始まった。XML, SOAP, AJAXを利用した共同作業用のソフトウェアの開発が進み、世界中で分業ができるグローバル・バーチャルオフィス化が進む。


4.アップローディング:コミュニティの力を利用する
もともとエンジニアには頭の良さ、自分の優れた仕事をみんなに知って欲しいという願望があり、自然発生的に世界的なコミュニティ開発ソフトウェアプロジェクトが始まった。

ウェブサーバー管理ソフトのアパッチ(名前のアパッチは、"a patchy server"(パッチだらけのサーバー)から付いたという説もある)、ジミー・ウェルズが始めたWikipedia、Linuxなどが典型だ。

変わったオープンソーシングの実例として、カナダの金鉱開発会社、Goldcorpの例が紹介されている。同社は自社の持つマイニングデータをウェブで公開し、金鉱探しコンテストを行った結果、上位入賞の5件の内4件で金鉱を掘り当てた。

ブログによる個人の情報発信、評論は社会的にも大きな影響力を持つようになり、CBSやBBCもブロガーに記事や映像を依頼するようになってきた。


5.アウトソーシング:Y2Kとインドの目覚め
インドではネール首相がつくったインド工科大学(IIT)7校が、優秀な技術開発を担う人材を大量に輩出した。IITはMITや東大よりも難しいといわれているが、それまでは人材がインドに埋もれていた。

GEのジャックウェルチ前会長は、1989年にインドを訪問したときに、インドの知的レベルの高さに「インドは知的能力が発達した発展途上国だ」と驚き、ジョン・F・ウェルチ科学技術センターをインドにオープンし、多くの仕事をインドにアウトソースした。

GEとジョイントベンチャーを組んだのがインド最大のソフトウェア会社のWiproであり、他にインフォシス、タタ・コンサルタンシーサービスなどがある。インドのソフトウェア業界が世界に躍進するきっかけとなったのは、世界を巻き込んだY2K問題対策のプログラミング、検査を下請けで引き受けたことだった。


6.オフショアリング:中国のWTO加盟
この節はライオンとシマウマの話から始まる。シマウマはライオンより早く走らないと生き残れない。ライオンは一番足の遅いシマウマに追いつけないと飢え死にする。世界で一番足の速いライオンは中国であろうと。(原著のバージョン3.0ではシマウマでなくガゼルになっているが、なぜ日本語訳がシマウマなのか不明)

2001年の中国のWTO加盟時に、中国は国際法、標準的な国際商習慣に従う旨を表明しており、その通り行動してきた。このあおりを受けたのがメキシコで、中国のWTO加盟以来メキシコでは工場閉鎖が相次いで、アメリカの第二番めの貿易相手国という地位を中国に奪われている。

大前研一氏のチャイナ・インパクトで「中国は脅威、中国は顧客、中国は競争相手」と語っていることが紹介されているが、中国は単に低賃金競争で勝っているのではない。アメリカの研究によると、中国の国営企業を除く民間企業部門では、1995−2002年で生産性が年率17%向上している。

中国がこれだけの経済発展を遂げた一つの理由は、文化大革命世代は役に立たないが、主に中国本土出身で多国籍企業の経験を積んだ「新中国マネージャー」の力が大きい。


7.サプライチェーン:ウォルマートはなぜ強いのか
史上最高のSCMオペレーターとされるウォルマートの、CPFR(共同計画・予測・補充)プログラムや、RFIDを使ったSCMが紹介されている。ウォルマートの倉庫では、伝票を廃止し、オペレーターはヘッドセットをつけて作業を行い、生産性は飛躍的に向上したという。

1988−2000年のウォルマートのCEOだったデビッド・グラスは、フォーブス誌で「最も過小評価されているCEO」とされている。

ウォルマートの中国との貿易額は国にするとロシア、オーストラリア、カナダを抜いて世界第八位だ。三洋電機はウォルマートの本拠があるアーカンサス州の工場を閉鎖せずに操業を続けたことで、今や世界最大のテレビ工場を持っている。

デルのPCをフリードマン氏自身が分解し、そのSCMを現地取材した話も面白い。様々な企業から部品を集めてマレーシアで組み立てていたが、日本企業の部品があまり使われていないのが象徴的だ。


8.インソーシング:UPSの新しいビジネス
UPSは様々な企業のサプライチェーンに食い込み、パパジョンピザの原料調達や、東芝パソコンの修理、ナイキのオンラインショップなど、「シンクロナイズド・コマーシャル・ソリューション」と呼ばれる水平分業を請負っている。


9.インフォーミング:知りたいことはGoogleに聞け
グーグルのCEOのエリック・シュミットは「検索というのはまったく個人的な作業なので、ほかの何よりも人類に力をあたえた」と語っている。

「グーグルはまるで神だ。神はワイヤレスで、どこでもいる。すべてを見通す。この世でなにか知りたいことがあれば、グーグルに聞けばよい。」というユーザーの声をフリードマン氏は紹介している。


10.ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する
ステロイドとは穏やかでないが、ワイヤレステクノロジー、インスタントメッセージ、ファイル共有、IP電話(スカイプ、VoIP)、テレビ会議、CGなどの新しいテクノロジーが紹介されている。

ロールスロイスは、世界中の飛行機のエンジンに監視ソフトを入れ、衛星通信でリアルタイムでデータを収集し、エンジンの状態を管理しているという。


三重の集束(トリプルコンバージェンス)

コンバージェンス(集束)とは、ITバブル前後で良く使われたなつかしい言葉だが、ITと従来の技術や商習慣などを統合して、さらに良いものを創り上げる事を指している。

この本で三重のコンバージェンスと言われているのは、次の通りだ:
1.10の要因でフラットになった世界(新しい競技場)
2.旧共産圏、中国、インドなどからの30億人の新しい人々(新しい人材)
3.グローバルな水平共同作業などの新しいビジネス手法(新しい手法・ルール)

様々な例が挙げられていて、それぞれ面白いが、新しいビジネス手法として最も印象に残った例を一つだけ挙げておく。それは、イラクでの米国軍のオペレーションだ。

イラクでテロ対策に活躍している無人偵察機プレデターは、ラスベガスの基地から無線操縦されており、空からテロ勢力を監視、ミサイルで先制攻撃している。

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フリードマン氏がイラクの前線司令部を訪れたとき、プレデターが写す映像を、CIA,DIA(国防情報局)、NSA(国家安全保障局)、陸軍、空軍のアナリストがリアルタイムでオンラインチャットしながら分析していたという。

陸軍と空軍や海軍は連絡も悪く、情報交換もままならなかったのは昔の話で、今や完全に協力しながら作戦を遂行しているのは驚きだ。まさに新しい時代のゲームのルールだと思う。

そしてハードだけではダメだ。無人偵察機だけでも、監視システムだけでもダメだ。それらハードを完璧に使いこなすビジネス手法がないと、このオペレーションは成り立たない。

基地では多面スクリーンにプレデターからの映像を流していたが、一つの画面ではボストンレッドソックスとヤンキースの試合を流していたというのが、いかにもアメリカらしい。


グローバリゼーション3.0を生き抜く為に

フリードマン氏は、グローバリゼーション3.0時代の人間像は次の三つだと語る。
1.かけがえのない特化した人々
2.地元に密着した人々
3.代替可能な工場労働者、ミドルクラスなど

このうち3.のミドルクラスは、これからはインドや中国との競争にさらされる。この時代を生き抜くためには、次の才能を身につけなければならない。

1.学び方を学ぶ ー まずは正しい学び方を学ぼう
2.IQよりもCQ(Curiosity Quotient)とPQ(Passion Quotient) ー 好奇心と熱意が差を生む
3.人とうまくやる能力 ー いつの時代にも人とうまくやれる人が成功する
4.右脳の資質 ー 大前さんが翻訳したダニエル・ピンクの「ハイコンセプト」を引用している。

一例として、ジョージア工科大学のクルー学長は、「才能のある学生の大部分は、教室で教わることよりも、創造的な表現手段のほうに興味を示す」と気づいて、学生受け入れ基準を変えて、楽器やコーラス、チームスポーツをやるような学生を集めた。卒業率も上がり、卒業生の質も上がり、今やマーチングバンドにチューバが24本もあるという。

クラリネット奏者の大前さんが、さぞかし喜びそうな話だ。


アメリカの強みは薄れてきている

アメリカの基礎教育はKー12といってK=Kindergartenから12年生=高校3年だ。アメリカは20世紀初頭のハイスクール運動で、高校教育までの義務化ができている。

さらに「すべてのアメリカ人を、男も女も、大学のキャンパスに立たせることが夢だ」とフリードマン氏は語る。

アメリカの強みは、高等教育であり、アメリカ全体で大学以上の高等教育機関が4,000ある。その他世界全部足しても7,768しかない。カリフォルニア州だけもで130の大学があり、130以上の大学を持つ国は世界で14ヶ国しかない。

移民や留学生を惹きつけるアメリカの魅力は、アメリカ社会が開放的で、知的財産が保護されており、柔軟な労働法があげられる。

しかし世界がフラット化したので、グローバルな水平共同作業の結果、母国で良い給料で、居心地良く快適で、多国籍企業の良い仕事が得られるようになってきた。

インド本国でITの仕事に就くことの方が、すさまじい競争になっており、今や「インドに居られるかどうか」が悩みになってきているという。

必ずしもアメリカで教育を受ける必要性がなくなってきたのだ。

ノーベル賞経済学者のポール・サミュエルソンは、アメリカは自転車レースの先頭で、後ろの人の空気抵抗を減らしてきたと言うが、これからもアメリカは先頭で行き、世界の頭脳を惹きつけなければならない。

そうしないと今まで外国人や移民の頭脳に頼っていたアメリカの高等教育と高度研究の競争力が失われてしまうのだ。


Perfect Storm

アメリカ最古の工科大学であるレンセラー工科大学長のシャーリー・アン・ジャクソンは、今の現状は"Perfect Storm"だと表現する。エアマットの空気が抜ける様に、気が付かないうちに頭が地面に着いてしまうのだと。

老壮年層の引退、若手不足、外国人不足でアメリカのエンジニアの層が薄くなるのだ。中国では大卒の60%が理工系だが、アメリカでは31%にとどまる。

プロバスケットボール選手でつくったアメリカのドリームチームは、アテネオリンピックでは銅メダルだった。もはやアメリカが突出してはいないのだと。

ベンチャーキャピタルのクライナーのジョン・ドーアは「中国の指導者層と話をすると、みんなエンジニアなんだ。だから呑み込みが早い。アメリカ人はだめだ。みんな弁護士だからね。」という。

ビル・ゲイツも「中国人は危険を冒すのが平気で、重労働が平気で、教育がある。中国の政治家に会うと、みんな科学者かエンジニアだ。数字の話ができる。」と語っている。

マイクロソフトは世界で4番目の研究所を北京に開いたが、ビル・ゲイツによると「出てくるアイデアの質がものすごく高い。これにはぶったまげた。」という。

フルタイム研究者200人を抱えるこの研究所では、次のような金言があるという「いいか、おまえが10万人に一人の人材だとしても、おまえみたいなやつは他に13,000人いるんだ」。ビル・ゲイツでなくても「ぶったまげる」話だ。

フリードマン氏は、フラット化時代に適したケネディ大統領のニューフロンティア政策のようなトップダウンの政策が必要だと語る。IBMを再生させたルー・ガースナーの様なリーダーが必要だ。ガースナーは、終身雇用をやめ、エンプロイアビリティ、雇用される能力に置き換え、IBMを再生させた。

2004年に競争力評議会によるナショナル・イノベーション・イニシアティブサミットが開催され、イノベート・アメリカと題した研究が発表された。中国はウェブに公開されていた報告書を入手し、注目していたが、ブッシュ大統領は無視して、同じ日、同じ場所での共和党支持者への演説を優先させた。

ブッシュ政権のやっているようなことをこのまま続けると、アメリカ・中国・インドは、地球環境を顧みない「悪の枢軸」と呼ばれる可能性もあるのではないかとフリードマン氏は語る。


フラット化した世界で勝ち抜く条件

フリードマン氏の「天然資源がすくないほど、その国の人はフラットな世界で成功する」という法則には、野村総研のリチャード・クー氏も賛成する。中国には「頭と胃に入れてしまえば、誰も奪うことができない」ということわざがある、「東アジアでは一所懸命勉強するDNAがある」のだと。

中東でもその例はある。バーレーンだ。バーレーンは中東で最初に石油が出なくなったが、労働者の能力開発と労働改革に力を入れ、女性の参政権も認め、アメリカと最初にFTAを結んでいる。

ちなみに前作レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉">で「オリーブの木」側として取り上げられていたイスラムなどの民族主義者の動きの研究は、いわばフリードマン氏のライフワークでもあり、この本でも頑強な抵抗勢力として、様々な場所でふれられている。バーレーン、ドバイなどのアラブの中での穏健派、経済開発推進派と正反対の急進派イスラム勢力だ。

フラット化した世界では、インフラ、教育、法のガバナンスという3要素がそろった国が繁栄する。そしてビジネスのしやすさを判定する要素として、起業、雇用・解雇、契約執行、融資、破産・廃業のしやすさが挙げられる。

たとえばペルーではエルナンド・デ・ソトの改革により、10年かけて不法居住者120万世帯に、所有権権利書を発行した。これにより親は財産を守るために家に居る必要がなくなり、外に出て仕事を見つけられるようになった。また子供も学校に行けるようになったという。

大前さんが「心理経済学」で、なぜ南米のペルーの経済が伸びているのか、石油の出ないドバイがなぜ好調なのかと質問していたが、答えがこの本でわかった。

その他参考になる話として、石油消費削減こそ国家の最優先課題だとするセット・アメリカ・フリーの運動も取り上げられている。

プラグインハイブリッド車とアルコール80%の混合ガソリンで、1ガロン当たり500マイル(リッター当たり222KM)の燃費が達成できるので、アメリカの石油消費の2/3を占めている輸送向け需要が激減し、アメリカは石油を自給できるのだという。世界の未来像を考えるときには、これらの代替エネルギーの動きも考慮に入れる必要があるだろう。


世界情勢が手に取るようにわかり、分析もたしかだ。800ページもの大作だが、このあらすじを参考にして、興味を持ったら、是非書店か図書館で本を手にとって、ページをめくってみて頂きたい。


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